第百六二話「覚えていないのは……楽勝ですか? 」
《――ライドウに依る危機的状況での裏切り行為の後
その失敗を嘲笑ったアルバート大公。
だが、ライドウは……アルバート大公に跳ね除けられ
自らの大腿に突き刺さったナイフを嬉嬉とした表情で眺めつつ――
“アルバート大公と私を……“交換”
――そう言った。
この直後……両者の“駆け引き”は
“唐突な幕引き”を迎え――》
………
……
…
「んんっ……みん……な……皆……っ……がはッ?!
ゲホッゲホッ!! ……こ、此処は……俺の部屋?
い、一体何があったッ!? 皆はッ!? ……」
<――皆を護る為、全ての魔導力を懸け
防衛魔導の壁を維持し続けていた筈の俺は……
……何故か、自室のベッドで目覚めた。
直後、慌ててカーテンを開き外の様子を確認した俺は……
……普段と変わらぬ活気に溢れた街の姿を目の当たりにした。
其の事にほんの少しだけ安心感を覚えつつも
着替えた覚えの無い部屋着を脱ぎ捨て
いつもの服へ着替えようとクローゼットの扉に手を掛けた
瞬間――>
「確かに声が……主人公、入るぞ! 」
<――言うや否や勢いよく部屋の扉を開けたガルド。
そして、俺の“半裸”に気付くと――>
「な、何故……其の様な姿で部屋を彷徨いているのだ? 」
<――と、呆れた様な表情を浮かべそう言った。
そして――>
「い、いや着替えようとしてたんだけど……って、そんな事よりも!!
メリカーノアとの戦いはどうなったッ!?
窓の外を見る限り本国は無事みたいだけど! ……」
<――と訊ねた俺に対し
ガルドは真剣な表情を浮かべ――>
………
……
…
「其の件を含め、御主には
伝えるべき事……そして、訊ねたい事が山の様に有る。
……兎に角、今皆を連れてくる故
着替えを済ませて置くのだぞ……ではな」
<――そう言い残し足早に部屋を去ったガルド。
理解不能な状況と、ガルドの表情に不安を覚えた俺は
急いで着替えを済ませ、ガルドの帰りを今か今かと待っていた。
だが、暫くの後……そんな俺の元へと現れたのは
“仲間”だけでは無くて――>
………
……
…
「なっ!? ……何でお前達がッ!? 皆ッ! ……退けッ!! 」
「ま、待って下さい主人公さんっ!!
お二人の事を攻撃しては駄目ですっ!! ……」
「メル?! ……何で其奴らを庇うんだッ!
まさか、脅されてるんじゃ?! ……」
「……落ち着きなさいよ色男。
見た所怪我は無いみたいだけど
何れにせよ……普通、病み上がりは静かにシてるモノなのよん?
ま、あたぃみたいな美人を目の前にすれば
コ・ウ・フ・ン……しちゃうのは分かるけどねぇんっ♪ 」
<――そう言ってメルの前に立った男。
それは、メリカーノア大公国お抱えトライスターの一人であり
俺が意識を失うその直前まで、俺の大切な仲間達を傷つける為
“肉弾戦”を披露し続けていた……“ペニー”だった。
……直後、此奴に掴み掛かった俺。
だが――>
………
……
…
「いゃんっ♪ ……あたぃを押し倒すつもりなのねぇんっ♪
“勝てば官軍だ! お前を手籠めにした所で誰にも咎められねぇぜ! ”
って事なのねぇ~ん♪ ……いやぁぁぁん♪
ま……少なくともそんな事考えてるタイプには見えないけど
何れにせよ……少し落ち着きなさいな、色男さん」
「何が落ち着けだ! お前は俺の大切な存在をッ! ……って。
今お前“勝てば官軍”って……」
<――此奴の発した言葉が引っ掛かり
思わず掴んだ手を離してしまった俺。
すると――>
………
……
…
「……恐らくは気が動転していたのでしょうし?
貴方からすればペニ-さんには少なからず
“直接的な恨み”も有ったでしょうから
その反応も仕方が無いとは思いますが、少なくとも……
……私には掴み掛からないで下さるかしら“色男”さん? 」
<――そう言いつつ
俺の部屋に現れるなりペニーの横へと立ったのは……
……同じく、メリカーノアお抱えのトライスターである
“ローズマリー”で――>
「……どう言う事だッ!?
何で此奴ら二人共、手錠の一つもして無いんだよ!?
もし政令国家が“官軍”んなら、何をどう良くしても
お前達は二人共捕虜扱いの筈……」
<――擦り傷一つ無く“ピンピン”した二人の姿に
思わず気が動転し、そう言い放った俺……だが。
そんな俺に対し、ローズマリーは静かに――>
「……私達は“捕虜”じゃありませんから手錠なんて必要ありませんわ?
私達はただ、エリシアさんの案に乗っただけですもの。
大体……本来ならば
アルバート様を苦しめた貴方達に僅かでも手を貸すなど有り得ぬ事。
ですが……」
<――直後
何故か言葉を詰らせ、悔しさの様な物を滲ませながら
自らの膝を力強く叩いたローズマリー……
……そして、そんな彼女の気持ちを代弁する為か
大勢の人達を掻き分けこの場に現れたエリシアさんは――>
………
……
…
「おぉ~っ! ……元気そうで良かったぞ~主人公っち~!
とは言え……正直、あの姿にはとっても驚いたぞ~っ?
まぁ~……兎に角っ!
主人公っちも二人も……お互いに“思う所”は有るだろうけど
少なくとも“目的達成”までの間は仲間なんだから
互いに敬意を持って接してくれるかな?
……てか、もしもまた変な喧嘩を始めたら
私の怖い怖ぁ~い顔を見る羽目になるからねぇ~?
そう言う事だから、三人共……分かったかなっ? 」
<――現れるなり
ペニーとローズマリー……そして、俺に対し釘を指したエリシアさん。
そして、俺を含めた三人が頷いたのを確認すると――>
………
……
…
「よぉ~しっ! ……さてと。
主人公っちには聞いておきたい事が山程あるし
嫌でも絶対に話して貰うつもりですら居る訳だけど……兎に角。
先ずは、主人公っちの“疑問”に
“政令国家一の美人攻撃術師”である
私、エリシアさんがどんな質問にも全て答えてあげようっ!
ただし……スリーサイズと年齢の話だけはノーコメントだし
もし“盗み見たり”したら……分かるよね? 」
「い゛ッ!? いや、そんな事はしませんから……」
「なら宜しいっ! ……さてと、質問は何かな~っ? 」
<――そう言って何時もの様に微笑み掛けてくれたエリシアさん。
そんなエリシアさんの言葉に甘える様に
“とても多くの”質問をした俺。
そして……そんな俺に対し
全ての疑問に答える為“とても多くの”時間を掛け
俺が眠って居た間に起きた“全て”を話してくれた――>
………
……
…
「……先ず、主人公っちが倒れた直後
主人公っちの身体は黒い靄に包まれて
鴉みたいな見た目に成ったんだけど……覚えてるかな? 」
「カ、鴉ですか? ……」
「……んまぁ、その様子だと覚えて無いみたいだね。
なら、その件に関して私が言える事が有るとすれば
その姿が間違い無く“異質な力を持ってた”って事だけかな~?
……兎に角、その力のお陰で
向こうの防衛力が一瞬にして消え去った後――」
《――遡る事暫く
グランガルドの提案を元に、アイヴィーが昇華させた作戦は
政令国家陣営に取って最良の結果を齎した。
だが……多数の敵兵を蹴散らし、救出対象を救い出し
総大将と、その護衛二名の動きを完全に封じたこの作戦は
“内部からの崩壊”に依る”
余りにも唐突な幕引きを迎えようとしていた――》
―――
――
―
「何故だ……君程度の力で、僕に攻撃が届く訳がっ?! ……ぐッッ!! 」
《――ライドウの持つ
二つ目の固有魔導“交換”……その効果に依って
彼の大腿に突き刺さっていた筈のナイフは
アルバート大公に移動し……大公に耐え難い苦痛を与えていた。
……一方、そんな大公の様子を
嬉嬉とした表情で見つめていたライドウは――》
「さてさて……一応お伝えしておきましょう。
其のナイフは……痛いだけでは無く
貴方の持つ、鬱陶しい力すら封じてしまうのです。
要は――
“時之狭間”
――少し前、貴方に通用しなかったこの“技”も
今は容易に通用すると言う事です……まぁ?
既に聞こえては居ないでしょうがねぇ? ……」
《――嬉嬉とした表情のまま
固有魔導“時之狭間”を発動させたライドウ。
……アルバート大公は勿論の事
彼の部下二人をも完全に停止させた彼は――》
「……さて。
私はこの“本”と……貴方の命さえ頂ければ
他に何の用事も未練も御座いません……ではこれにて、失礼致しますよ。
アルバート大公殿下……いえ“故”アルバート大公殿下? 」
《――直後
アルバートの懐に手を滑り込ませ、裏技之書を盗み取り
嬉嬉とした表情のまま無詠唱転移を発動し何処かへと消え去った。
そして――》
………
……
…
「……ッ?!
奴は……ライドウは何処へ消えたッ?! 」
《――直後
ライドウが消え去り“時之狭間”が効力を失った瞬間
懐に手を入れ、そう声を荒らげたアルバート大公。
……そして、その凄まじい怒り声に振り返ったローズマリーは
直ぐに彼の異常事態に気付き――》
「ア、アルバート様っ!? ……ご安心を、直ぐに治療を致しますわ!!
完全回復ッ! ……良かった。
傷は深く無かった様ですわね……」
「ああ……すまないねローズ。
それにしても……何時かは裏切るだろうとは思っていたけれど
僕にすら予想外の“方法”を用意してた様だ。
言い訳の様で恥ずかしいが……これでも一応
彼の事は視界内に捉え続けていたつもりだったのだが……まさか
こんな攻撃を隠し持って居たとはね。
……とは言え、優秀な部下が二人も居てくれたお陰で
命までは失わずに済んだよ。
まぁ……その代わりに不味い物を盗られてしまったが
今はそんな事を言っている暇が無い様だ。
……見た所、魔導障壁も危うい様子だし
そろそろ本気でどうにかしなければ……
ウグッ?! ――」
《――瞬間
治療された筈の彼の大腿には、先程と寸分違わぬ傷口が“発生”し――》
………
……
…
「ア、アルバート様ッ!? ……も、申し訳ございませんッ!
恐らくは魔導障壁の展開に集中するあまり
治癒魔導が不完全な物に成って居たのですわ!
兎に角、もう一度行いますわッ! ……完全回復ッ! 」
「重ね重ねありがとうローズ……だが、君の治癒は完璧だった筈だ。
恐らくはナイフの破片でも入って居……ッ!!! 」
《――直後
たった今完全に治癒された筈の傷口は再び開かれ……
……更に、ナイフ傷を受けて居ない側の大腿にも
同様の傷が“発生”し――》
「ちょっとッ?! ……何やってるのよローズマリーッ!
あたぃに任せなさい!! ……完全回復ッッ!!!
アルバート様、これで傷は完全に……」
「ぐっ……違う……ローズ、ペニー……
何かが……変だッ!! ……体の中を……何かが……
蠢いて居るかの……グアアアァァァァッッ!!! 」
《――瞬間
両足は疎か、身体の至る所から吹き出し始めた大量の鮮血
“安手なナイフ”に依って付けられたこの傷が癒える事は……
……“最期”まで無かった。
ライドウが用いたこの呪具に隠されていた能力、それは――
“傷口より侵入し、体内に留まり
体内を傷つけながら移動を続ける命令を受けた金属の破片が
その対象が絶命する迄、対象の魔導を動力として活動を続ける”
――と言う物だった。
勿論……取り除く方法が皆無と言う訳では無い。
だが、正確な対処法を知らぬ彼らに
アルバート大公を救う事は難しく――》
………
……
…
「……くッ!
アルバート様、もう一度行きますわよッ! 完全……」
《――再び治癒魔導を発動させようとしたローズマリー
だが、そんな彼女に対し――》
「頼む……もう止めてくれローズ
これじゃまるで“拷問”だ……ッ!! ……」
「何と言われようとも絶対に嫌ですわッ! 私はッ! ……」
「良いから……聞いてくれ。
ずっと気付いて居たんだよローズ
君が僕の事を愛していた事に……そして僕はその心を利用した。
だから頼む……もう……僕を治さないでくれ。
誰に聞かなくても理解るんだ……僕はもう……長く無い……」
「嫌ッ!! ……嫌ですわッ!! ……そんな……そんなッ!! ……」
「泣かないでくれローズ……って、可怪しいな
何故か攻撃が……止んで……居る様だ……が……」
《――そう言って彼が見上げた空には
この“異常事態”に動揺し、僅かに攻撃の手を緩めてしまった
ライラの姿があった――》
………
……
…
「……き、きっと巨龍の力が尽きたのですわっ!
そ、その……アルバート様、今が勝機ですわ?
ですから! 弱気はお捨てに成って! ……」
《――目に涙を溜め、力無い彼の手を握りしめたまま
震える声でそう伝えたローズマリー
……そんな彼女の様子に
アルバート大公は微かに微笑み――》
………
……
…
「……困ったな。
君程の美女を……最期に泣かせてしまうなんて……僕は……ぐっ!!!
こんな……人生を送……る為……この世界に転生した訳では……
無……かっ……」
《――直後、静かに息を引き取ったアルバート大公。
彼の心臓が活動を止めた瞬間……彼の身体に刻まれた無数の傷跡からは
赤く錆びた金属片が零れ落ちた――》
………
……
…
「アルバート様ぁぁぁぁぁっ!!! ……」
《――縋り付き泣き喚く彼女
その隣で……
……茫然自失としたまま
ただ立ち尽くす事しか出来ずに居たペニー
この……突如として訪れた異常事態に
政令国家側の兵ですら、その殆どが戦意を喪失していた一方で――》
………
……
…
「正直、全く以て気乗り致しませんが……モナーク様。
……あの者達の処理は如何致しましょう? 」
《――玉座に座るモナークに対し、静かにそう訊ねたアイヴィー
そんな彼女に対し、ただ一言――
“不要だ”
――そう、告げたモナーク
直後――》
………
……
…
「もう嫌、全て要らない……殺して……私を殺してッ!!!
ペニーさん……貴方の力なら、私の事など簡単に……」
「あら、ローズマリー……珍しく意見が合ったわね
あたぃもアンタに“それ”を頼もうって思ってた所よ? ……」
《――彼の死後
何かが崩れ去った二人のトライスターは
全ての戦闘が完全に停止した“戦場”の真ん中で
欲も目標も活力さえも……それら全てを完全に失い佇んで居た。
そして――》
「……もう良いですわ。
せめて貴方だけでも愛する人の所に行きなさいな……」
《――直後
力無くそう発したローズマリーは
サラの拘束を全て破壊し彼女を開放した……そして。
彼女に対し、ある“伝言”を託した――》
………
……
…
「ほ……本当に“それ”をお伝えして宜しいのですか? 」
《――ローズマリーに対しそう訊ねたサラ。
……だが、怯えとは違う何かを胸にそう訊ねた彼女に対し
ローズマリーは――》
「……ええ。
あまり気分は良くないかも知れませんけれど……頼みましたわよ」
《――彼女の顔すら見ずにそう答えた。
直後……静かに二人の元を去ったサラは
上空で漂っていたライラに合図を送り……
……その様子を確認したライラは直ちにサラの元へと舞い降りた。
そして……直後、凝光の背に彼女を乗せ
再び空高くへと急上昇した後――》
………
……
…
「何か……された? ……何処も……痛く無い?
何故かあの二人から……攻撃は疎か、一切の“意思”を感じない。
サラさん……何で開放されたの? 」
《――政令国家第二城を目指し凄まじい勢いで飛翔する凝光
その背では……サラに対し
矢継ぎ早に質問を繰り出すライラの姿があった。
そんな彼女の質問に対し、サラは――》
「その……伝言を頼まれました」
「……何て頼まれたの? 」
「それが、その――
“私達は抵抗しない、だから……私達二人を消し去って欲しい”
――そう、お伝えして欲しいと」
「そう……なんだ。
兎に角、サラさんが無事で良かった……皆の所に戻るね」
「は、はい……」
《――暫くの後
第二城前で待つ者達に対し先程の伝言を伝えたサラ。
すると、エリシアは――》
………
……
…
「……そっか。
兎に角……報告ご苦労様っ!
旦那は既に政令国家本国に移送済みだから
サラちゃんも側に居てあげな~っ!
ってぇ事で……其処の兵士達ッ!
サラちゃんを確実に安全に送り届けろ~ぃ! 」
「ハッ! ではサラ様、此方へ! ……」
《――直後
サラが政令国家本国へ移送された事を確認したエリシアは
ローズマリーとペニーの待つ敵陣のど真ん中へと“単独で”転移した。
そして――》
………
……
…
「言った通り……裏切ったでしょ?
ま、そんな事よりも……伝言の件だけど、本気?
それとも……罠か何かのつもり? 」
《――ローズマリーに対しそう訊ねたエリシア。
そんな彼女に対し、ローズマリーは声すら発さず
ただ、静かに頷くと自らの装備をゆっくりと外し始めた。
そして
そんな彼女と同じく――》
………
……
…
「……あたぃ達、潮時なの。
まぁ……見た所、貴女はまだ“おチビちゃん”だから
解らないかも知れないけれど……イイ女は、去り際もキレイな物なのよ? 」
《――エリシアに対しそう言うと、自らも装備を外し始めたペニー
一方……エリシアは
とても大きな“溜息”を付き――》
………
……
…
「アンタ達の大将もだったけど……“若く見てくれて”ありがと。
けど多分……アンタ達より私の方が人生の先輩だし
一応はまだ“敵”だって事も忘れないでね? ……まぁでも。
此処でアンタ達にブチギレたら“人生の先輩”らしく無いだろうし
今此処でアンタ達にキレちゃう代わりに一つだけ質問するから
覚悟して……答えてくれるかな? 」
《――そう言い放った。
直後、静かに頷いた二人を確認すると――》
………
……
…
「……私は今から
アンタ達が“長を失って自暴自棄に成ってる”と考えて質問するけど――
――アンタ達の其奴に対する愛はその程度の物なの?
横で死ねたらそれで満足な訳?
“せめて一矢報いたい! ” ……そんな気持ちすら一切持たずに
簡単に全部を“放棄”する事が、アンタたちの考える“愛”な訳? 」
《――ただ、耐え難き苦痛に崩れ去った二人の事を
自らに重ねていただけかも知れない。
……過去の自らに非力さを感じ
今も尚、ライドウに対し一矢すら報いる事が出来ず居る
自らへの苛立ちがそうさせただけなのかも知れない。
だが、そんな彼女の言葉は
二人の心を静かに揺り動かし――》
………
……
…
「……分かった様な口を。
ですがッ!! ……私も……ペニーさんもッ!!
あの男には到底及ばない……にも関わらず、何をどうやれば
私達の及ばぬ力で仇を討てると仰る御積りですのッ?!
貴女が“人生の先輩”だと言うのなら……答えなさいッ!!
早くッ!! ……答えてよッ!! 」
「うん……普通に考えたら無理かも知れない。
でも……絶対に“無駄”じゃない。
“仇を討ちたい”って感じるその気持ちは
絶対に、誰が何と言おうと“無駄”じゃないの。
……良い? 今重要なのは
“私に掴み掛かって”不平不満を言う事じゃ無い。
あの男に一矢でも報いる気持ちが有るかどうか……それだけ」
《――自らに掴み掛かって居たローズマリーに対し
静かに……だが、力強く問うたエリシア。
永遠とも思える程の時間が流れ――
――そして。
“二人のトライスター”は
エリシアの掲げた“共闘作戦”への参加を受け入れた――》
===第百六二話・終===