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第百六一話「導きは……楽勝ですか? 」

《――主人公の身体を包み込んだ漆黒のもや

そのまま三ツ脚のカラスへと姿を変え、天高くへと飛翔し

ただ一度ひとたび、力強く――


羽撃はばたいた”


――直後


三ツ脚のカラス(よ)り放たれた大量の羽根は

空を漆黒に染め――》


………


……



「な……何が起きたッ?!

主人公やつは……奴は一体、何をしたッ!?


一体、何をどうすれば――


“全ての盾共オウルを消滅させる事が”


――出来ると言うのかッ?!! 」


《――目を血走らせ

ひどく慌てた様子でそう言ったアルバート大公。


彼は……決しておかす事の出来ない“筈”の障壁しょうへき

容易よういつらぬいた漆黒の羽根にって窮地きゅうちに追い込まれて居た。


そして……思い出したかの様に

慌てて防衛魔導を展開した後、ペニーを呼び戻した。


その一方で――》


………


……



「しゅ……主人公さ~んっ!

そ、その……少しばかり中二病が過ぎますし……


……そろそろ降りてこないと皆が引いちゃいますよ~っ!


だ、だからっ! ……早く降りて来て下さ~いっ! 」


《――不安な心境しんきょうを隠す為か

わずかにおどけた様子でそう言ったマリア。


この時……彼女は元より、この場にいる誰もが主人公かれの身を案じ

視認すら叶わない遙か上空へと消えた彼の姿を必死に探していた。


だが、そんな中……ただ一人

足元に投げ捨てたみずからの装具を拾い上げ


堂々たる態度を見せた者が居た――》


………


……



「フッ……やはりな。


だが、よもや斯様かように異質な力とは……」


「へっ? モナークさん……何か知ってるんですかっ?!

何か知ってるのなら、主人公さんが無事かどうかだけでも教えてくださいっ!


もし、満身創痍まんしんそういの主人公さんが今の技を放ったのだとしたら

主人公さんの身体に相当な負担が掛かっている可能性が高いんですっ!

今、主人公さんは生きている事自体が奇跡なんですっ!!


だから……お願いしますっ! 」


《――主人公の身を案じる余り

モナークに対し今にも掴み掛からん程の気迫きはくを発しながら迫ったメル。


そんな彼女に対し、モナークは――》


「真相は過去にる……御主おぬしも知っての通り、我は

主人公やつを鍛え直す為、奴を……奴に取っての“死地”へと送り届けた。


……そして、当時の奴では到底かなわぬ程の魔物を“てがった”


だが……我が再び奴の元へと向かった時

奴はその魔物を一刀の下に斬り伏せていた」


「そ、それは“魔導之大剣”を使ったって事じゃ……」


いな……奴を連れ帰る為、奴の手に触れた時感じた“もの”は

斯様かよう些末さまつな物では無かったのだ、メルよ」


「その“力”って、安全……なんですか? 」


「知らぬ……だが、いずれにせよ

主人公やつは……御主らでは目視もくし出来ぬ程の高高度にただよ

今もなお“高みの見物”を決め込んでいる……あの“面妖めんような姿”でな。


無論、奴自身の意思では無かろう……だが、斯様かような力を持つ者に対し

愚かにも挑もうなどとと考えるれ者は塵芥ちりあくたと成り果てよう。


いずれにせよ……地上ここれ程に奴を案じた所で

状況が好転する事など有りはせぬ……だが。


反撃のときが今をいて無い事もまた、変わらぬ事実よ……


……理解したのならば

貴様の“矜持きょうじ”を拾い上げるが良い――」


《――この瞬間

モナークが冷酷なまでに冷静にいた言葉は


いまだ不安から抜け出せず居た彼女メルを確かに励ました――》


「私の矜持きょうじ……主人公さんとの指輪ッ!!

有難うございますっ! モナークさんっ! ……」


《――直後


空を見上げ、大きく息を吸った後

みずからの装備と“揃いの指輪”を拾い上げたメル。


その様を確認したモナークは――》


「フッ……」


《――ほんの一瞬みをこぼし、彼女に背を向けた。


そして――》


………


……



「……空に漂う“馬鹿者”に(よ)り全ての“木偶デク”を失った貴様は

狼狽ろうばいし、雑兵ぞうひょう共に“盾”をにわか仕込みさせた様だが――


――その程度の“まがいもの”に

我が一撃を耐えうる力が有ると考えて居るのならば……面白い。


“紛い物”共の全力をもって、我が一撃“耐えて”みせよ――」


《――そう言うと

アルバート大公の眼前を指し示したモナーク


だが――》


………


……



「……おっと、待った。


此方こちらを攻撃すれば、私の命令など無くとも

政令国家そちらの民達が消え去る事に成るのだが……良いのかね?


主人公かれと貴様が交わした“契約”の内容は良く知っている

“是非とも”……止めておく事をお勧めするがね? 」


《――醜悪しゅうあくな笑みを浮かべそう言ったアルバート大公。


だが――》


「フッ……なおも全てを掌握しょうあくしたかのごとのたまうか。


良かろう……貴様がろうしたと“のたまう”策が

愚かしくも通用すると思うのならば、その――


愚策ぐさく


――我にしめすが良い」


「……何?


いや……流石は元魔王だ

仮にも我が国が誇る魔導師達が展開する防衛魔導を“紛い物”とは。


そもそも……この状況自体、所詮しょせん

“予定外の力に(よ)って一時的にもたらされた”物に過ぎない。


大体……此方こちらが第二第三の矢を用意していないとでも?

我が国に一体どれだけの兵力が有ると思っているのかね?


まぁ……恐らくは主人公かれの甘さが原因とも言えるのだろうが

慢性まんせい的な政令国家そちらの兵力不足こそ

ひどく重大な防衛力の穴だとは微塵みじんも思わないのかね?


元魔王と言う地位がゆえなのだろうが……


……たった今貴様がいた“虚勢きょせい”が

重篤じゅうとくな被害をあたえる引き金を引いたとは……微塵みじんも思わないのかね? 」


《――直後

醜悪しゅうあくな笑みを浮かべ、高らかにかかげた右の手を握り込み……


……一度ひとたび、指を鳴らしたアルバート大公。


だが――》


………


……



「どうした? ……漫談まんだんしまいか? 」


《――突如として訪れた静寂せいじゃくの中、そう発したモナーク。


一方、アルバート大公は――》


「何? ……おい、どうしたッ!?

“合図”を聞き逃した訳では無いだろうな? ……おいッ!!! 」


《――モナークの質問に答える事はおろ

ひどく慌てた様子で何処どこかへと魔導通信を試みていたアルバート大公。


だが……そんな彼を嘲笑あざわらうかの様に


えて”


指を鳴らし――》


………


……



「……我が右腕、アイヴィーに命ず。


我が配下と共に、我が元へと“集結”せよ――」


《――静かにそう発した

その、瞬間――》


………


……



「……大変お待たせを。


ご指示通り、敵本国の完全掌握……並びに

“例の件”も全てとどこおり無く完了致しました、ただ……」


《――多数の兵を引き連れ現れるや否や

モナークに対し耳打ちをしたアイヴィー……だが

わずかながら“バツの悪い表情を”して居た彼女の様子に――》


「手間を掛けたなアイヴィー……だが

我が“含む物言い”を好まぬ事、知らぬ御主では有るまい。


……包み隠さず申せ」


《――そう告げたモナーク。


そんな彼の問いに対し、アイヴィーは

終始“バツが悪そうな表情”のまま――》


「で……では申し上げます。


私の独断に(よ)り現在、その……被害状況を鑑みた結果

第二城第五居住区に対し、全体の一割程度……その、援軍を……


……も、申し訳御座いませんッ!!


もう暫くお待ち頂ければ、直ぐにでも再集結をッ! ……」


「フッ……何を謝る事が有るとうのか。


良い判断だ、我と……なおも遙か上空でただよっている

“馬鹿者”との間に交わされた契約を“たがえぬ”為の判断をしたか。


……頭を上げよアイヴィー。


我が右腕に相応ふさわしき働きをとがめる事など、万に一つも有りはしない」


《――と、彼女アイヴィーを褒め称えたモナーク。


だが……その瞬間


彼女の頬は見る見る内に赤く染まり――》


………


……



「……そ、そのッ!

モナーク様のお役に立てる事こそ、私の無上の喜びで御座いますッ!

で、ですから……モナーク様の御身を守護する身として

モナーク様の顔に泥を塗る様な行いは勿論の事……って、モナーク様!?

装具に汚れがッ!? ……い、一体誰がッ!? 」


《――瞬間

ひどく興奮した様子でそうたずねたアイヴィー


だが、直ぐに呼吸を整え――》


………


……



「モナーク様……ご命令頂ければ、直ぐにでも敵総大将の首を

いえ、全てのゴミ共をモナーク様の眼前から完全に消し去り……」


「待てアイヴィー……我につばいた者には

我がみずから手を下さねば成らぬ。


何をたがおうとも、邪魔立て無用だ……良いな? 」


「モナーク様……ハッ!!


全兵員ッ! 道を開けよッ!! ――」


《――直後

アイヴィーの号令に(よ)りモナークの遥か後方へと下がった魔族軍

……その“圧”は、政令国家軍全体をも後方へと下がらせた。


そんな中、モナークは――》


………


……



「フッ……どうした?


……我の覚悟をわら

なおも我が上空でただよい続けている“大馬鹿者”の願いすら

容易たやす)く踏みにじって見せたのは貴様であろう?


よもや……“愚策ぐさく”と呼ぶ事すら生温なまぬるい“失策”に

戦意を失ったとでもうつもりでは無かろうな? ……」


《――なお何処どこかへの通信を試みようとしていたアルバート大公に対し

吐き捨てる様にそう言い放ったモナーク。


その上で――》


「アイヴィーよ……あの“阿呆あほう”に対し、御主の“手柄”をしめすが良い」


「ハッ! ……直ちにッ! 」


《――直後


アルバート大公に対し、鋭く尖った爪を指し示したかと思うと

そのままゆっくりと振り下ろしたアイヴィー……瞬間


彼女の爪に(よ)り切り裂かれた空間には

“異空間への亀裂”が発生し――》


………


……



「おい……其処そこの“阿呆あほう

お前が連絡を試みようとしていた相手は……この者であろう? 」


《――そう言って

アイヴィーが異空間より“引きり出した”者は――》


………


……



「アルバート……様……ッ!

第一、第十二迄の……魔導砲撃……隊は……


全……滅……致しました……ッ……申し訳……御座いませ……ん……」


《――瀕死ひんしの傷を負いながらもアルバートに対し状況を伝えた者


それは……メリカーノアの兵士であった。


そして、この直後――》


「ぐギっ?! ……」


………


……



「……ご苦労様。


余興よきょうにも成らないけがらわしい断末魔だったけれど

貴方のお陰で苦痛にゆがむ“阿呆あほう”の顔が見えたから少しは満足よ。


さて……モナーク様が“敵大将”と呼ぶ事すらしいと判断された“阿呆あほう”よ。


……その愚かしさゆえおそれ多くも

モナーク様の装具をけがした大罪……猛省もうせいなさい」


《――彼女アイヴィー


えて”残していた、メリカーノア最後の伏兵ふくへい


……この兵にってもたらされた“報告”と

そんな兵の命を刈り取った彼女アイヴィーが伝えた――


“死刑宣告”


――この時、ほんの一瞬

苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべたアルバート大公は

必死に体裁ていさいを整え――》


………


……



「さ……流石は元魔王と言った所か。


伏兵ふくへいに気付いた上“不愉快な態度”を取る余裕まで有り

この上更に部下まで恐ろしく優秀とはね……


……全くもって恐ろしい限りだよ。


さて、ライドウ君……そろそろ、君の手を借りるとしようか」


《――背後に立つライドウに対しそう言ったアルバート大公。


だが、当のライドウは――》


「ええ、勿論……ですが。


……申し訳ありません。


少なくとも魔王に対し私の“技”は無力でしてね……現状では精々

雑多な敵兵の動きを止めるのが関の山ですし

あの女魔族アイヴィーに対しても同様に無力ですので

大した意味は無いかと……とても残念ですがね? 」


「いやはや……とは言え

確かに僕にも通じなかった“あの技”ならそうなのだろう。


だが、戦況がこのままでは正直とても心許無こころもとないだろう?

其処で……君の“止める”力もだが

僕にはもう一つ、君に使って欲しい“力”があるのだよ。


此処ここまで言えば分かると思うが……どうだろう? 」


「……何をご希望なので? 」


「おやおや……“分かっててとぼける”のは感心しないね?

僕達が初めて出会った時、君が引き連れて居たあの“力”の事だよ。


狡猾こうかつな君の事だ……今直ぐにでも用意出来るのだろう? 」


《――お世辞にも協力的とは言えない態度を見せたライドウに対し

少し語気ごきを強めたアルバート大公。


彼は続けて――》


「……ライドウ君、これはあくまで僕の予想だが

君が僕からこの本を借りて居る間、君は全ての時間を

“あれ”を増やす事に費やして居たんじゃ無いのかな? 」


《――そうたずねた。


一方、この質問に対しライドウはわずかな嫌悪感を見せつつも――》


「何の事やら……とは言いません。

確かに、おっしゃる通りの“使用法”でしたから。


が……あれは現状には向かぬ兵器ですから、無い物と考えるのが適切かと」


「ほう? ……出ししぶるのかい? 」


《――この後

互いに腹の探り合いを続けていた両者……その一方で


敵軍の中程……意識を失ったまま

なおも拘束具にとらわれ続けていたオウルの現状に――》


………


……



「オウル……早く助けないと……でも、どっちも失えない……」


《――歯痒はがゆさを押し殺し、彼を救う為

策を必死に練っていたライラ……そして


そんな彼女の様子を見ていたグランガルドもまた――》


「ライラ殿……確かに敵陣営の統率とうそつは乱れている。


だが、この混乱下にっても

敵大将は部下二人の展開する分厚い防衛魔導で守られ続けている上

内部にはあのライドウ……そして、サラ殿までもが人質としてとらわれている。


言うまでも無く……救出は決して容易よういでは無い。


無論、多方面からの同時攻撃が叶えば

わずかなすきが生まれるやも知れぬが……」


「同時に? ……どうすれば良いの? 」


「この策を実行に移す為に必要な物は“三つの部隊”だ。


一つ、オウル殿を救う為の部隊

二つ、敵大将を守護する防衛魔導を破壊する為の部隊

三つ、いまだ多数存在する敵の統率とうそつを更にみだす為の遊撃ゆうげき部隊


以上、三部隊を用意し適切に機能させる事叶えばあるいは……


……だが、如何いかんせん急ごしらえの策だ

全てを完璧に機能させる事は容易よういでは無い。


その上、これまでの戦いで疲弊ひへいして居る者も多く

時間的余裕も無い現状では

このさくすら机上きじょう空論くうろんなのかも知れぬ……ライラ殿。


……気を持たせてすまなかった」


《――そう言って頭を下げたグランガルド。


だが、そんな彼に対し首を横に振り――》


「ううん……とても良い作戦だと思う。


でも……確かに、圧倒的な力が用意出来ないと……残酷だけど

オウルとサラさんの為だけに

主人公が大切にして居るこの国の人達を……これ以上


“失えない”……から」


《――そう言ったライラ。


そして――


“せめてディーン隊がこの場に揃っていたならば

結果が違っていたかも知れない”


――そんな心境しんきょうを感じさせる表情のまま、静かにうつむいた。


だが……そんな彼女を気に掛けて居たのは

グランガルドだけでは“無く”――》


………


……



「……モナーク様、誠におそれ多く

もうす事すらはばかられるのですが……」


「アイヴィー……含む物言いは好かぬと申した筈。


御主の“考え”が有用なときは短い……手早く申せ」


「ハッ! ……では、要点だけを申し上げます。


ず、敵防衛魔導の破壊を……恐れながらモナーク様にご担当頂き

その後、統率の乱れた敵軍の掃討そうとうを私率いる“影之者カゲノモノ”が担当致します。


そして“敵大将”……もとい“阿呆あほう”を包む魔導障壁しょうへきの破壊に

彼女ライラの使役する“巨龍”をもち

敵が巨龍への対処に苦慮くりょしている間に私共で敵の包囲を行います。


そして、万が一にも巨龍に(よ)る障壁しょうへき破壊が叶わなかった場合を考え

あらかじめ足の早い魔族もの数名で“対象一オウル”を拘束具毎、奪還


……その後、私を含めた“力の有り余った者達”で障壁しょうへきの完全破壊

および“対象二サラ”の奪還を改めて試みる算段を立てて居りました。


その、如何いかが……でしょうか? 」


《――ライラに対しグランガルドが“提案”をしたその瞬間ときには既に

彼の作戦に必要な役割の分担を弾き出して居たアイヴィー


そんな彼女の提案に対し


モナークは――》


………


……



「フッ……順当であれば、御主が次期魔王で在ったやも知れぬな。


良かろう……我が力の片鱗

存分に“利用”するが良い――」


《――瞬間


モナークの指先から発せられた禍々しくも凄まじい小さな“たま”は

溶けた氷から落ちる一滴のしずくの様に、ゆるやかに彼の指から離れた。


そして――》


………


……



「魔王様……いえ、モナーク様。


モナーク様に(よ)って切り開かれたこの道は

私が責任を持って“整地”致します。


では、暫しお待ちを――」


《――直後

モナークに一礼し、その場から“消えた”アイヴィー……彼女は


敵兵に悲鳴一つ上げさせぬ程の圧倒的な力を見せ

そして、文字通り“整地”を完了させると

ライラに対し合図を送った――》


………


……



「凝光ッ!! ――」


《――そう叫ぶや否や


一直線に凝光を飛翔させたライラ……彼女は、魔導障壁しょうへきおろ

敵大将をも焼失させんばかりの凄まじい火炎を差し向けた――》


………


……



「いやぁぁぁんっ!!! ……な、何て暑さなのよぉんッ!!

あたぃのお肌が……ひ、日焼けしちゃうじゃないのよぉぉっ!!


ちょっとローズっ!! ……もっとちゃんと“展開”しなさいよっ!! 」


「や……やってますわッ?!

ペニーさんこそ“肉弾戦”ばかりで

防衛系の修練が不足して居るのではありませんのッ!? 」


「……待った。


二人共、喧嘩するのは自由だが……君達

“トライスターの丸焼き”に成るつもりは無いよね?

少なくとも僕は成りたく無いし、恐らくは……ライドウ君。


君も……そうは成りたくない筈だ。


分かったなら、少しは状況を改善する努力をして貰いたい物だね? 」


《――いささか呆れた様子でそう言ったアルバート大公。


一方……瞬時に作戦の全てを理解し

的確てきかくな攻撃を続けていたライラ。


彼女は――》


「……凝光ッ!


! ……テンッ! ……ショウッッ! ……」


《――互いにのみ通じる命令語をあやつ

じんりゅう一体いったいと呼ぶべきたくみな体捌たいさばきを見せていた。


その一方で――》


………


……



「ぐッ、此奴コイツぁ余りにも重いぜ……

アイヴィー様がき乱してる間に連れ出せれば良いが

それに必要な人数が足りて……なっ!?


皆、避けろッ!!! ……」


《――“オウル奪還部隊”に選ばれた五人の魔族


だが……意識の無いオウルを縛り付ける拘束具は

魔族の持つ凄まじい腕力をもってしても容易よういに動かせる程軽くは無く……


……手こずる彼らの動きに気付いた弓兵達の放った大量の攻撃は

まるで、オウルをもつらぬかんとする程の凄まじい密度を持ち

彼らに降り注がんとしていた。


だが――》


………


……



「間に合ったか……しかし、吾輩の足も遅くなった物だ」


《――首を横に振りつつそう言ったグランガルド。


そんな彼に遅れる事わずか――》


「な、何とか間に合いましたね……流石は私の斧りんマークⅡです! 」


《――と、自画自賛じがじさんをしてみせたマリア。


そして――》


「……私達の中で一番早く到着してて“遅くなった”とか

逆に嫌味ね……後、流石にこの状況で

其処そこまで“自画自賛よゆうみせる”のは後にした方が良いんじゃない? マリアさん。


まぁ兎に角……危ない所だったけど、皆に怪我が無くて良かったわ」


《――やれやれと言った表情を浮かべつつそう言ったマリーン。


一方、彼女達に(よ)って間一髪救われた魔族は――》


「ア、アンタ達……助かったぜ!

しかし、元はと言えば敵同士だった俺達が……って。


……こんな所で話してる暇は無ぇ!

アンタ達も手伝ってくれッ! ……行くぜッ! 」


《――この後、オウル奪還作戦へと加わった三人は

降り注ぐ敵の猛攻もうこうを防ぎつつも

オウルを縛る拘束具の重さに苦戦していた。


その一方で――》


………


……



「しかし……何でしょうね、この苦戦っぷりは」


《――周囲を火炎に包まれながらも魔導障壁しょうへきの展開を続けていた

ローズマリー・ペニー・アルバート大公の三名。


だが……そんな中、一切の協力をせず

そう不遜ふそんな態度を取ったライドウに対し、アルバート大公は――》


………


……



「ライドウ君……“丸焼き”が趣味ならめはしないし

今君が何を考えて居ても構わないが……この状況下にいて

その立ち振る舞いは自殺行為にひとしくは無いかい?


此処ここから先は考えて話して貰おう……君は一体、今何を考えている? 」


《――語気ごきを強めそうたずねたアルバート大公。


一方……そんな彼の問いを受けたライドウは

ほんの一瞬ニヤケ顔を浮かべると

ふところから“小さなナイフ”を取り出し――》


「……私の考え?

勿論……“絶好の機会”だと考えていただけですよ?


……フンッ!!! 」


《――瞬間


アルバート大公目掛けナイフを振り下ろしたライドウ。


だが――》


………


……



「……全く。


幼子エリシア”の忠告通りに裏切った上……まして“この状況下で”とは。


しかし……君も愚かな男だね? ライドウ君。


僕と君には、君の“切り札”である固有魔導も通用しない程

歴然れきぜんとした力の差があるんだよ?


……その上、そんな安手チープなナイフ一本で

僕を殺められると考えて居たとは、正直……とても驚いているよ。


それどころか……僕が軽く弾いた程度で

持ち主である君の足をつらぬいたのだから最早もはや愉快ゆかいですらあるが。


兎に角……裏切るのは構わない、だがそうするにしても

ずはこの状況から逃れる為の協力をしてはどうだい? 」


《――ライドウの事を嘲笑あざわらうかの様にそう言ったアルバート大公。


彼に振り払われたナイフは勢い余り、ライドウの大腿だいたいに突き刺さっていた。


……みずからのあしからしたたる大量の血液……だが

そんな状況下にいて、何故なぜか満面の笑みを浮かべたライドウ。


当然、これを不審に思ったアルバート大公は――


“一体……何が可笑おかしい? ”


――そうたずねた。


すると、ライドウは小さく息を吸い込み――》


………


……



「アルバート大公と私を……“交換エクスチェンジ”」


《――そう


言った――》


===第百六一話・終===

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