第十六話「多種族交流って楽勝だと思ってました。」
<――ラウドさんへの報告後、交渉の準備に追われて居た俺は
先ず、オーク族に対する“貢物”を用意する為
一度ヴェルツへと戻って居た――>
………
……
…
「ミリアさん、早速お願いが! ……」
「何だい? あたしに手伝える事なら良いんだけどねぇ」
「えっと……オーク族に対する“貢物”が必要でして
葡萄酒とラム肉をある程度の量欲しいんですが……」
「オークに貢物だって? ……話でもしに行くのかい? 」
「ええ、交渉の為に……」
「そうかい……その程度なら直ぐに用意出来るが
相手がオークならそれだけじゃ無く……これが役立つ筈さね。
もしも状況が行き詰まった時は、これを一番偉いオークに渡すんだよ?
全てを解決する“秘密兵器”さね! 」
<――そう言って
俺に“棒状の謎の食材”を手渡してくれたミリアさん――>
「あの~……何ですかこれ? 」
「何って、馬の“イチモツ”さね」
「イチ……モツ……って。
……うわぁぁぁっ?! 素手で触ったぁぁぁ!?!? 」
<――聞かされるや否や
思わず叩きつける様に“それ”を投げてしまった俺――>
「……投げるんじゃないよっ!!
オークにとっては最高の珍味なんだよ?! 」
<――と、ミリアさんに怒られてしまったのだった。
ともあれ――>
………
……
…
「す、すみませんつい……でも、せめて袋に入れてくださいよ……」
「あたしだって、まさかこの程度で驚くなんて思わないじゃないかい」
「そ、その……ミリアさんって凄いですよね」
「……どう言う意味だい? 」
「い、いえ! ……良い意味で! 」
「……まぁ良いさ。
取り敢えず、葡萄酒はこれが喜ばれるだろうが
ラム肉は……この位あれば宴会を開くんじゃないかね?
さっきの“秘密兵器”はこの袋に入ってるから
ちゃんと腰に提げて置くんだよ?
まぁ……主人公ちゃんには既に“ぶら下がってる”だろうけどねっ! 」
「いえ、こんな“馬並み”じゃないです」
「ハッハッハ! ……冗談が分かる様になったねぇ主人公ちゃん!
だけど……気をつけて行ってくるんだよ? 」
「いや、冗談じゃ無くてそんなに大きくは……兎も角っ!
これで交渉が進められそうです、有難う御座いました……って、あっ!
……請求はラウドさん宛でお願いします」
「分かってるよ、ちゃんと請求しておくから大丈夫さね。
それよりも……頑張ってくるんだよ? 」
「はいッ! では行ってきます! ……」
<――直後、馬車へと乗り込んだ俺。
メルちゃんを筆頭に同行者は皆、貢物の大量さに驚いて居たが
興味はそれだけでは“留まらず”――>
………
……
…
「あの、主人公さん……その“腰の袋”は何ですか?? 」
「えっ?! こ、これはその……
……メルちゃんは知らない方が良いと思う!! 」
<――と、説明するのが恥ずかし過ぎて
慌てて隠した俺の様子に――>
「何か分からないですけど……詮索しない事にしますっ! 」
「それが良い、メルちゃんは……純粋で居てね」
<――何だか“マズい物を手に入れた”
みたいに思われたっぽい雰囲気だったが……少なくとも
“これ”を素手で触ってしまったと知られなかっただけでも良いよな。
……などと考えつつ
俺は、馬車の窓から遠くの空を見つめて居た。
ともあれ……馬車は東門を抜け
オークの居住地へ向け約一時間程の道のりを走った。
そして、到着後――>
………
……
…
<――居住地前へと到着した俺達を待ち構えていたのは
此方への警戒心を顕にした門番らしきオーク二名
そして……その何れもが
俺達の乗る馬車を訝しんだ様な表情で見つめている。
そんな中、意を決し……恐る恐る馬車から降りた俺は
門番の一人に対し、政令国家からの使者である事を伝えた――>
………
……
…
「……突然の訪問、失礼致しました。
王国改め“政令国家”からの使者として派遣されました主人公と申します。
本日はオーク族の皆様に……」
「待てっ! “王国改め”とは一体どう言う事だ? 」
「そ、その……国王が魔族の手に掛かり、後継者も居らず
国のあり方が大きく変わりましたので、本日はそのご報告をと。
……無論、それだけでは無く
本日はとても重要なお願いがございまして……」
<――其処まで言い掛けた俺の言葉を遮り
突き放す様な態度を取った門番のオークは――>
「それは災難であったな……だが、人族の状況がどうであろうと
我らオーク族には何の関係も無い事だ。
理解したのなら、今直ぐに立ち去るが良い……」
<――と、俺達の訪問自体を受け入れぬ様な口振りでそう言った。
だが、此処で引く訳には行かない
せめて俺達が過去の王国とは違うと知って貰わなければ――>
………
……
…
「……そう仰られるのも重々承知の上で
ご迷惑とは思いましたが、国家としてオーク族の重要性を考えた際
一番に訪れるのが礼儀と思い馳せ参じた次第なのです。
せめて、私共が訪れたと事実だけでも構いませんので
どうかお伝え願えませんでしょうか?
……愚かな人間族の頭がどれ程下がろうが
皆様に取っては不快なだけかも知れませんが……どうかお願いします。
この通りです……」
「ふむ……仕方無い、少し待っていろ」
<――僅かにでも俺の誠意が伝わったのか
門番のオークはそう言うと門の奥へと消えて行った。
そして、暫くの後――>
………
……
…
「……族長が話を聞いて下さるとの事だ。
良かったな人間……入れ」
「あ……有難うございますっ! 」
<――直後彼は、背後の門を開くと
俺達を居住地最奥に聳え立つ、一際大きな建物へと案内してくれた――>
………
……
…
「族長様! ……連れて参りましたッ! 」
<――門番のオークが族長と呼んだオークは
他の者とは一線を画する程の体躯を有し
途轍も無く威厳の有る顔立ちをしていた。
要するに“超絶強面”って事だ――>
「……ゾロゾロと大勢で
それもエルフ共まで連れ……ご苦労な事だ。
一体、何の用で此処まで来た? 」
<――警戒心を顕にそう訊ねて来た族長。
その凄まじい覇気に押されつつも、俺は――>
「ま……先ずは
お招き頂けた事への感謝を申し上げさせて頂きます
お話をさせて頂ける機会を賜り、有難うございました。
そして……前国王の統治していた時代
オーク族の皆様に対し、大変許しがたい扱いを行ったとの事……
……今は亡き国王に代わり、謝罪させて頂きたく存じます。
大変、申し訳ありませんでした……」
「……ほう? これは丁寧にすまんな。
だが、その様な話をする為に態々(わざわざ)訪れた訳では有るまい?
話せ……本題は何だ? 」
「そ、その……お話をさせて頂く前に
まずは……此方をお収め下さい」
<――俺の合図を確認し
貢物を運び込んでくれた“御者さん”……だが
大量の貢物には目もくれず――>
「ほう……王国も少しは礼儀に長けた者を連れてきた様だ。
少なくとも“貴様らを生きて帰らせる”と約束してやろう。
早う本題を申せ……あまり時間を取られる事を吾輩は好まぬ」
「で、では……恐れながら申し上げさせて頂きます。
我が国では……国王が魔族の成り代わりで有った事を知り
紆余曲折の末にそれを討伐致しました。
同時に……国王不在の王国と成った我が国は、民草を守る為
新しい国家の形である“政令国家”を発足し
国の形を大きく変える転換期を迎えたのです。
そして……変えなければ成らない事が山積していると
遅ればせながら気付く事が出来たのです」
「ふむ、続けよ……」
「はい、では……まず第一に
我が国では他種族……特に
オーク族に対し、差別意識が未だ根強く残っている事
それを改善し、現在の歪な関係性を一刻も早く
正常な関係性へと昇華させる為、是非とも話し合いの席に……
……出来る事ならば、族長様にご協力頂きたく
本日はお願いに上がった次第で御座います」
「話し合いとはな……だが、今更何を話すと言うのか。
吾輩達の話には一切耳を傾けず
一方的に追い出したのは王国の方であった筈。
国の呼び名を変えた所で、国の“本質”が変わった訳ではあるまい? 」
「……そうお考えに成られるであろう事も重々承知しております。
ですが、私達はそもそもオーク族に対し
ただの協力を求めている訳では無いのです。
有り体に言えば、今の“つまらない”関係を止めたいだけなのです」
「つまらぬだと? ……一方的に封じ込めただけであろう」
「学の無さ故の無礼をお許し頂きたく思います……ですが
互いにこのまま認めず受け入れもしなければ、魔族も間近に迫る最中
我が国は勿論……恐らくこの場所ですら飲み込まれてしまいかねないでしょう。
そしてその結果……民が苦しむ事に成るのです。
……魔導師に近距離での戦いが不得手なのと同じく
どれ程オーク族が強者揃いで有ろうとも
物理的攻撃しか持ち合わせないオーク族では
魔族からすれば赤子の手をひねるかの如く……」
「貴様……オークを愚弄するかッ!!! 」
<――族長が声を荒げた瞬間
俺達の周りをオークの戦士達が囲んだ。
だが、そんな一触即発の雰囲気の中でも俺は話を続けた――>
「……愚弄ではありません、族長様
唯事実をお伝えしたいだけなのです。
その為に今日は……本当は同行させたくなかった
彼女の事をこの場に連れて来たのです。
族長様、一度お怒りを忘れて頂き
彼女を見た率直な感想をお伺いしても宜しいでしょうか? 」
「ふっ! ……ハーフとは穢らわしい」
「では、そのままにお返し致します。
オークとは……“悪食”め」
「何だとッ?! ……」
「……族長様がお怒りに成るのは当然です。
とても“良く無い発言”をしたのですから――
“お互いに”
――言われれば相応に腹が立つ“暴言”
誰も得をしない“差別”や“迫害”と言う毒の様な禍々しい存在。
族長様……改めてお伺いします。
そう言った“毒”をお互いにぶつけ合う事に一体何の収穫があるのでしょうか?
迫害され、追いやられ……多かれ少なかれ
苦境に立たされた経験を持つ筈のオーク族が……その族長様自らが。
たった今……何故“同じ事を”してしまったのですか? 」
「気に入らぬ……だが、続けろ」
「……今日、俺達は
一から国を作り直すつもりで此処に立って居るのです。
その為の法整備、教育……その他
必要と思われる事の全てを作り変えて行くつもりではありますが
その中でも最も早く無くしたい事……それが“差別”や“迫害”です。
ですが、人間族ばかりの国家に於いて――
“他種族に対しての差別など勝手に無くなって行く筈だ! ”
“人間は皆美しい心を持ってるから大丈夫だ! ”
――なんて性善説は通りません。
そもそも、知らない存在を批判するのは生物の中にある
一種の“防衛本能”ですから。
では……正しい知識を教える事が出来ればどうです?
姿形が違うだけ、食する物が違うだけ、得意な事が違うだけ。
全てを双方が理解し認め合えばどうでしょう?
少なくとも、先程族長様が仰られた過去の“王国”などよりは
幾らかはマシに成るとは思いませんか? 」
「成程……単に愚弄して居た訳では無い様だな」
「ええ、それを実現する為……今日は命懸けで此処へ来ましたから。
と言うか……今さらですけど足が震えてる事に気付きました。
正直に言いますが、戦士の皆さんが物凄い怖いんですが……」
「ふっ……ふははははははっ!!!
全く以て不愉快だ! ……だが、貴様は見処が有る!!
多少気に入らん所もあるが……良いだろう。
吾輩も協力してやろう。
それと……メルと言ったか?
済まなかったな、大変に無礼であった事を謝罪する……この通りだ」
<――そう言った次の瞬間
族長はメルちゃんに対し深々と頭を下げたのだった――>
「い、いえ! 私は別に! …… 」
「では俺も……理解して頂く為とは言え、余りにも無礼な発言でした。
正式に謝罪させて頂きます……申し訳ありませんでした」
「構わん、お互い様だ……お前達、武器を収めよ」
<――直後
漸く解かれた俺達への警戒。
そして――>
「族長様……ご協力頂ける事に感謝致します。
始まりは小さな事かも知れませんが
互いの種族にとっては大きな一歩だと思います。
……それとメルちゃん。
君はオーク族の素敵なお父さんと
ダークエルフ族の素敵なお母さんの間に生まれた奇跡の存在だ
何一つ恥じる事は無い……寧ろ誇りに思って欲しい。
そして……そう思える手助けを続けていくと約束する」
《――直後
主人公の言葉に涙を滲ませたメル。
そして――》
………
……
…
「所でだが……お前達は何れも族長ではなかったか? 」
「如何にも、エルフ村の族長……オルガだ」
「同じく、ダークエルフ村の族長……クレインだ」
「やはりか……自己紹介が遅れていたな。
吾輩はオーク族族長のグランガルドだ……以後よろしく頼む」
「……此方こそよろしく頼む
共に我々の生きやすい国家を作ろうではないか! 」
「ああ、私からもよろしく頼む……主人公君は信頼に値する人間だ
彼に任せておけば悪い様に成る事は無いと
我等の始祖に誓い約束しよう」
「ふむ……主人公とやら、貴様は見掛けに依らず
中々に剛毅な漢の様だな? ……」
「い、いえ……グランガルド様を含め
皆様の懐が大きいだけですから……あっ!
戦士の皆さんが怖過ぎてすっかり忘れてました。
その、お礼と言いますか何と言いますか……“これ”をお収めください」
<――族長に対し、例の“秘密兵器”を手渡した俺。
すると――>
………
……
…
「ん? ……こ、これはっ?!! 」
<――袋を開け、中を確認した瞬間
とても興奮した様子で――>
「良くぞこの様な珍味を!! ……気に入ったぞ主人公とやら! 」
<――そう言うや否や、俺の肩を嬉しそうにバンバンと叩いた族長。
正直、骨折するかと思った――>
「よ……喜んで頂けて良かったです」
(痛ぇぇぇぇぇっ!! 殺されるのかと思った……)
「あの……主人公さん。
“あれ”って結局……何だったんですか? 」
「へっ!? そっそれは……馬の“肉”みたいな物かなっ?! 」
「主人公とやら! ……今食べても構わんか!? 」
「いっ?! いえ! その……お待ちを!!
……メルちゃんには些か刺激が強いので
出来れば見せぬ様にお願いしたいのですが……」
「ふむ……そうか。
所で御主は先程“オーク族に一番に会いに来た”と言ったが
他に話し合いの席に着かせたい種族が居るとでも言うのか? 」
「はい……出来ればドワーフ族にもお声掛けをと思っています」
「……成程、ドワーフならば納得だ。
ならば、吾輩も交渉に付き合おうではないか……」
「よ……宜しいのですか!? 」
「御主と吾輩の仲だ……もう敬語など使わんで良い。
そもそも吾輩は回りくどい事が苦手でな……ともあれ、そうと決まれば
早急にドワーフも仲間に引き入れる算段を取るぞ」
「か、感謝致します!! ……あっ……いやその……助かる」
「何だ? ……敬語が癖ならば無理をせずとも良いぞ? 」
「お、お気遣い痛み入ります……で、では
我が国の馬車で共に参りましょう! 」
「ふむ……あの馬車か?
“使者”が乗るにしては妙に豪勢な作りだが……何故だ? 」
「いえ……万が一にも族長様にお乗り頂く事を考え
国でも一番良い物を用意させて頂きました。
大統領……つまり王専用の馬車でございます」
「ほう、気が利いて居るな……では、暫く待っていてくれるか? 」
「ええ、お待ちしております」
<――そう言われ待っていると
配下のオーク達に対し先程渡したばかりの貢物を分け与えた族長。
そして……彼らが喜ぶ者達を満足げに見つめると
満足気に馬車へと乗り込んで来て――>
………
……
…
「……待たせてすまなかった、これで少しは皆も幸せであろう」
「そ、その……言葉遣いが荒く成ってはしまいますが
グランガルド様の行動が格好良過ぎて見惚れてしまいました。
っと……では御者さん、ドワーフ族の居住区へお願いします! 」
「かしこまりました、では……」
《――唐突に主人公に褒められた事で
少し上機嫌と成ったオーク族の族長グランガルド。
そんな彼を乗せ、次なる目的地である
ドワーフ族の居住区へと向かった馬車……暫くの後
居住区へと到着した瞬間、主人公は皆に対し
“決して馬車から降りぬ様”指示を出した。
……その事を不思議に思いつつも、彼の希望を聞き入れた一行。
そんな中、下車するや否や
彼はドワーフの門番に対し――》
………
……
…
「……王国改め、政令国家からの使者で御座います。
本日はドワーフ族の長に折り入ってお話が御座います
お取次ぎ頂けますか? 」
「王国改めだと? ……王はどうした? 」
「それが、魔族に襲われ……」
《――そう言い掛けた瞬間
例に依って門番からの質問攻めを受ける事と成った主人公。
直後、オークの門番に伝えた物と変わらぬ説明を今一度繰り返した後
彼の話に納得し、族長へ話を通しに行こうとする門番へ
精一杯の愛想を振りまいた……だが。
後ろに停められていた馬車の“ある部分”に気がついた門番は
その足を止め――》
「ん? ……後ろの馬車は国王専用の馬車ではなかったか? 」
「はい……現在は大統領専用という形になっていますが」
「と、言う事は……その“大統領”とやらが乗っているのか? 」
「……い、いえ。
本日はその……
……他の種族の長の皆様がお乗りに成っています」
「何……まさかエルフ族など乗っておらんだろうな? 」
「もし乗っていたら……門前払いでしょうか? 」
「当たり前だ! ……奴らとは反りが合わないからな!
その様な者をドワーフの居住区に連れてくるなど……
……人間族は我々に関する知識が浅いと見える!
そうなれば、族長様への話も通す訳にはいかんな! 」
「た、大変申し訳有りませんでした。
ですが、そこを何とか……お話だけでもお通して頂く訳には参りませんか? 」
「成らん成らん!!! ……帰れぇっ!!! 」
《――言うや否や、主人公の身体を門から遠ざける為か
彼を力任せに押し返そうとし始めた門番。
だが、そんな中でも主人公は慌てる事無く――》
「残念です……そうする事で
他の種族に対し、ドワーフの器の“デカさ”を見せつける
良い機会に成るのかと考えて居たのですが……」
《――そう言った。
瞬間、門番はガラリと態度を変え――》
「なっ……其処で待って居ろ!!!
い、一度なら長に確認を取って来るのも良いだろう! ……」
「ほ、本当ですか?! ……お待ちしておりますッ! 」
《――と言う少々過剰なほどに謙った主人公の返事を
“聞く間も惜しい”と言わんばかりの速度で居住区内へと消えていった門番。
そして……暫くの後
とても誇らしげな表情で主人公の元へと戻り――》
………
……
…
「特別に“全員通せ”との事だ……付いて来るが良いっ! 」
《――と、一行を居住区の中へと招き入れた門番は
最奥に設けられて居る、族長の部屋へと案内した――》
………
……
…
「ほぉ、よく来たな……まぁ全員座るが良い。
わしの名はガンダルフ……ドワーフ族の族長をやっておる
して……話とは何じゃ? 」
<――門番さんに対し少しだけ“ズルい”謳い文句をぶつけたお陰か
族長の態度はとても余裕に満ちて居た。
そのお陰もあり、俺を含めた各自の自己紹介も
“政令国家”と言う新しい国家の形に関する説明も……全て
滞り無く伝える事が出来た。
まぁ、だからと言うだけでは無いのだが
本題と成る協力についての話を予定よりも早めに持ち出した俺――>
「……以上を踏まえた時
ドワーフ族の長であるガンダルフ様には是非とも参加して頂きたく思い
本日お願いに上がった次第なのです」
<――だが、俺の甘い考えが透けて見えていたのだろうか?
それとも、この願いだけは受け入れがたい物だったのだろうか?
何れにせよ、ガンダルフ族長はとても“簡潔に”
返答を返して来た――>
………
……
…
「なるほど……断る」
<――直ぐに“理由をお訊ねしても? ”
と聞いたら――
“こやつらとは馬が合わぬと言う単純な理由じゃ”
――と返して来た。
だが、この瞬間に彼から感じた感情は
“受け入れ難い”と言うよりも……長年積み重なり
凝り固まった、他の族長達に対する“嫌悪”の様な物だった。
だが、その感情を“逆手に取ろう”と考えた俺は――>
………
……
…
「成程……ではいくつか質問を致しますが宜しいでしょうか? 」
「良かろう、申してみよ……」
「感謝致します、ではまず一つ目……エルフ族のイメージは? 」
「“気取り屋”……遠くからしか撃てぬ“臆病者”」
「では二つ目……ダークエルフ族のイメージは? 」
「……隠れてしか撃てぬ“卑怯者”」
「では三つ目、オーク族のイメージは? 」
「“野蛮”で“分別が無い”とは思うが先の二種族よりは遥かにマシじゃ」
<――大方の予想通り、各種族のイメージを語る際
それぞれの長の顔を見ながら
まるで挑発をするかの様に答え続けたガンダルフ族長
だが、何れの長達もこの挑発を全て受け流してくれた。
……この事を不思議に思いつつも
俺の話に耳を傾けていたガンダルフ族長に対し、俺は更に続けた――>
「……今、族長様は皆様の“悪い印象”をお答えになりましたので
俺はその代わりに“良い印象”をお伝え致します。
……もしも間違って居ると思しき箇所が有れば
その都度訂正して頂ければと思います」
「良いじゃろう、申してみよ」
「では……エルフ族は“遠距離攻撃の天才”で
自軍に有れば、遥か遠方から敵を討ち取り
それに依って敵の進行速度を遅らせ
味方の援護までを受け持つなど、エルフ特有の技術が光る様に思います」
「ふんっ! ……物は言い様じゃな」
「では次ですが……ダークエルフは“闇の天才”
……敵を幻惑させ、味方を助く薬剤制作に長けており
敵の基地などへの侵入、情報収集や暗殺なども得意で
一度闇の中に隠れた彼らを見つけ出すのは生半可では無いでしょう」
「そ、そうとも言えるが……ええいっ!
認めよう……」
「有難う御座います……では、続いてオーク族ですが
防御に優れ、前衛を任せれば一騎当千の強者揃い
武器は棍棒などの単純な物を使いますが
決して他の武器が使えぬ訳ではありません。
仮にドワーフ族が制作した武器や防具を装備させてしまえば
難攻不落の前衛が出来上がります。
この軍勢を打ち倒すのは……並の軍では不可能でしょう」
「……間違い無い、認めよう」
「有難うございます、では最後にドワーフ族ですが……
……族長様と同じく最初に“悪い印象”からお伝え致しますので
どうか、お気を悪く為さらない様にお願い致します。
先ず……他の種族と比べれば突出した攻撃力は無く
オークほど強くもなければエルフほど遠距離攻撃が出来る訳でも無く
ダークエルフの様に薬術に長けている訳でも無ければ
暗殺に向いている訳でもありません。
さて……此処までが“悪い印象”
この先からが“良い印象”なのですが……そもそも
俺が説明するまでも無く、ガンダルフ様自身が
一番良く分かっていらっしゃる筈です」
「成程……武器や防具の製作か」
「それは勿論の事……アクセサリなどもそうですね。
……はっきりと言います。
ドワーフ族以上に完璧な装備を作れる者など
他の種族には絶対に存在しません」
「……そんな事は理解しておる。
それぞれの種族に利点がある事も……まぁ認めよう。
それで……結局何が言いたいのじゃ? 」
<――この瞬間、ガンダルフ族長から帰って来た質問は
俺が最も“欲しい”と思っていた質問だった。
これまでの会話の中で構築した“時限爆弾”の様な理論を
今、発動させる――>
………
……
…
「では……それぞれの種族がバラバラだった場合どうでしょう? 」
「ん? ……どう言う事じゃ? 」
「では申し上げます……
……エルフ族は近接物理攻撃が大の苦手です
その様な状況では長くは持ちません。
ダークエルフ族はそもそも数が少ないので
多数で攻め込まれてしまえば危ういですし
状態異常に耐性が有る敵ならば主力と成る手段を失ったも同然です。
次に……オーク族は物理的には最強ですが
遠距離に対する攻撃手段が皆無で、魔導適性も有りませんので
相手が強力な魔導力を有していた場合は苦戦を強いられるでしょう。
最後にドワーフ族……道具を作る技術は一流ですが
オーク同様魔導適性を持つ者は居らず、オークほど強靭でもありません。
武器や防具が優秀ですのでその点で少しは持ち堪えるかも知れませんが
苦しい戦いに成る事は明白です。
さて……各種族長の居る中で大変失礼な暴論を並べ立てた理由ですが
もし全ての種族を人間族が壊滅させたければ
やり方次第でいつでも可能だと分かって頂きたかったのです。
学の無い俺でも思いつく程ですから
攻め入る側を魔族に置き換えれば更に危険だとは思いませんか?
それを知った今……こんな危険な状況の最中
これ以上まだ種族間の無駄な争いを続けようとお思いに成られますか?
……今日お話させて頂いたこの短い時間の中でも
俺はガンダルフ様が聡明な方だと知っています」
<――俺は今
俺に思い付く限りの全てをぶつけ、頭を下げた。
この後、ガンダルフ族長がどう答えるか……それだけが不安だった。
だが、俺の本気は“最高の結果”を生み出した――>
………
……
…
「……ええいっ!
徹頭徹尾気に入らん論法じゃが……要するに!
協力すればそれぞれの持ち合わせぬ部分を
互いに補う事が可能と言いたいのじゃな?! 」
「はい、全種族が協力する国を作ればこれより強い国家は存在しませんし
我が国は全種族の子供達が肩を組んで笑って暮らせる国を目指しています。
どうでしょうか? ……素敵だと思いませんか? 」
「ふむ……御主は“話し合いの場”と言ったが
具体的に何を話し合うつもりじゃ? 」
「はい……第一に、全種族の子供達に対し
平等に正しい教育を無償で受けさせる事について。
間違った知識に依る差別迫害の意識を持たせぬ様
お互いの違いを認め合い尊重する大切さを教えて行く。
……そんな学校を立ち上げる予定です。
つい先程までの様に“いがみ合う”姿では無く
認め会える姿を伝えて行ける様な場所を作りたいんです。
勿論、その為には全種族に平等に適応される法の制定も必要ですが
正直やるべき事が山の様に有りますから
話し合いだけでも大変かと思います……ですが。
少なくとも、俺は今凄く楽しいです! 」
「御主……本当にその様な国を作るつもりか? 」
「はい、皆様のご助力さえ頂ければ直ぐに達成可能かと思います」
「うむ……分かった。
完全に信用出来るとは言えぬが……わしも参加してやろう。
じゃが! ……気に入らねば何時でも抜けるぞ? 」
「それで充分です! では……“善は急げ”と言う事で
主要な族長様が勢揃いの今、政令国家へお越し頂けますか?
一刻も早くラウド大統領に皆様をご紹介させて頂きたいので! 」
「ふむ、それもそうじゃな……あの馬車か。
乗らせて頂こう……」
<――直後
族長全員を乗せた馬車は政令国家への帰路に就いた。
だが……道中、何故かガンダルフ族長は
眉間にシワを寄せ、不満そうにして居たので
どうしたのかと訊ねた所――>
………
……
…
「……豪華な馬車とは思うが、わしから言わせると
ここの彫刻がまだまだじゃと思うただけじゃ。
貶す様ですまんがな……」
「成程、そう言う事だったんですね……しかし
やはりドワーフ族から見ると“甘い”ですか? 」
「うむ……しかし御主の言う様に“協力すれば”何とでも成るのじゃろう? 」
「……はいっ! 間違い無く! 」
<――そんな会話を楽しみつつ
約一時間後、政令国家に到着した俺達は
ラウド大統領の待つ大統領執務室へと向かった――>
………
……
…
「ラウド大統領……獣人族を除き各種族の長を全員お連れ致しました! 」
「何ぃ?! 一日で全種族じゃとぉ?! ……流石は主人公殿じゃな」
「お~っ?! ……主人公っちおかえり~ぃ!
私も獣人族の長を連れて来たから一応揃ってるよぉ~! 」
「え?! ……全種族の長が集まってるの?!
あっ、えっと! 僕は獣人族の長、リオスだよ! ……皆よろしくね! 」
<――と、皆に挨拶をしてみせた獣人族の長らしき存在。
何処と無くライオンに似た姿をして居るものの
見る者を癒やす幼子の様な屈託の無さを持ち合わせて居た――>
「流石ですエリシアさん! ……リオス様、お越し頂き感謝致します」
「構わないよ?
エリシアが“楽しい事する”って言うから来て見ただけ!
で……何をするの? 」
「た、楽しいと言いますか……端的に言えば
全種族が幸せに暮らせる国を作る協力です……かね? 」
「ふ~ん……ま、いっか!
面白そうだし、僕も参加するよ! 」
「あ、ありがとうございますッ!
ではまず、自己紹介から始めさせて……」
<――こうして
“差別と迫害の無い様々な種族が暮らす国家”への大きな第一歩を踏み出した俺達。
……だが、問題は山積みだ。
“国政”が楽勝な訳も無く――>
===第十六話・終===