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第百五九話「戦争は楽勝ですか? ……前編」

<――去り際、醜悪しゅうあくな笑みを浮かべたアルバート大公。


それが何らかの秘策を思い浮かべた所為なのか

ただの演技であったのかは分からない……だが、いずれにせよ

奴の通信から漏れ聞こえて来たモナークの“有言実行っぷり”を確かめる為

一度第二城へと向かった俺。


だが――>


………


……



「えっ? いや、彼奴モナーク……マジか? 」


<――転移早々、思わずそう発する事と成った俺。


そんな俺の眼前に有った光景、それは――>


「地面はえぐれてるし、其処そこ彼処そこかしこに人が倒れてるし……って。


うげッ?! ……ゆ、指ぃぃぃぃッ?!


踏んじゃったぁぁぁぁぁッ?!! ……」


<――見るのは勿論

語る事すらおぞましい程の凄惨な現場に遭遇そうぐうする事と成った俺。


だが、そんな時――>


………


……



「騒がしい……我は“防衛”をした迄。


よもや、気に食わぬとうつもりでは無かろうな? 」


「ぬわぁぁぁッッ?! ……って、何処どこから現れたんだよお前はッ!! 」


<――突如として背後に現れたモナーク。


そして、心臓が止まりそうな程驚いていた俺を一切気遣う事無く――>


何処どこだと? ……貴様の影からであろう」


「成る程な~……って、どう言う事だよ!? 」


「フッ……“気付いてすら居なかった”とは

やはり貴様は甘い男の様だが……まあ良い、執務室へ戻る。


我に触れるが良い……」


「いや待てよ! 気付いて無いって一体……って。


ぬわぁッ?! ……」


<――瞬間


不機嫌そうに俺の襟首えりくびを掴んだモナークは

そのままの体勢で転移魔導を発動した――>


………


……



「うげぇッ!! ……ゲホッゲホッゲホッ!!


モナークお前ッ……もうちょっと優しく運べよ!

首が千切れるかと思っただろ!! ……」


「黙れ……これ以上貴様の愚問に答える暇など有りはしない。


それとも……あのままわめき続け、いたずらに時間を消費し

敵に反撃のすきを与えるつもりであったのか、この愚か者が……」


「そ、そんな訳無いだろ!! ……って、ごめん。


先ず俺が言うべき事は

“この国をまもってくれてありがとう”だったよな。


……けど、今度こんな事が有った時は

せめてもう少し優しく転移してくれないか? ……頼むからさ」


「フッ……転移の件だけは考えておくとしよう」


<――などと話して居た

その時――>


「アルバート大公からの通信じゃ……皆静かに」


<――と、戦争状態を宣言した張本人からの連絡を伝えたラウドさん。


正直、はかった様なタイミングでの連絡に


“やっぱり人質をダシにして譲歩を引き出すつもりか”


などと考えていた俺。


だが――>


………


……



「……お久しぶりですラウド大統領。


既に“彼”から伝え聞いていらっしゃるとは思いますが念の為。


……我が国は貴国との戦争状態におちい

つい先程、友好国としての関係も消滅致しました。


つきましては、今から約二時間後……貴国の第二城地域へ派兵を行い

そちらへの攻撃を行う予定です。


お伝えしたい事は以上です……ご理解頂けましたか? 」


「うむ……無論、理解は出来て居る。


じゃが、わざわざ丁寧に連絡を寄越よこした理由は何じゃね?

既に敵と成る決意をべた御主に問う事でも無いのじゃろうが……


……攻撃の日時と場所を敵方に伝えるのは“愚策ぐさく”じゃろう? 」


「ええ、本来ならばおっしゃられる通りでしょう。


ですが……貴国に対し“奇襲きしゅう”などと言う

面倒な手を使う必要など微塵みじんも有りはしません。


では、二時間後……」


<――直後

一方的に通信を終了したアルバート大公。


だが……この妙に余裕溢れる雰囲気が全くもって腑に落ちず

頭を悩ませて居た俺、一方……そんな俺とは対照的に

何一つとして動じて居なかったモナークは

頭を悩ませるどころか、わずかに笑みを浮かべ――>


………


……



「……全くもって不愉快な限りだが

奴の発する声色は、徹頭徹尾てっとうてつびまごう事無き真実”を語っていた。


つい先程……我が力の一端いったん見誤みあやまり、今日まで“化けの皮を被り”

第二城の警備を続けていた物共を全て失ったにも関わらず

奴は……我が配下はおろか、我すらも

些末さまつな存在”と捨て置けるだけの力を有していると

此方こちらに考えさせるだけの態度を取った。


だが、我が力……“影隠カゲカクシ”にすら気付けず

我が配下の力をも見誤まあやまる無能では……我はおろ

我が配下の者共にも遠く及ばぬ……」


<――と言った。


だが……見方にっては“比喩ひゆ表現”に思える程

ぼんやりとしたモナークの発言に――>


「なぁモナーク……俺にも分かる様に話してくれないか?

せめてその“影隠カゲカクシ”って言う技? ……か何かの話だけでも良いから」


<――そう問い掛けた俺に対し

モナークは――>


「フッ……我が力と、我が配下の全てを信頼するが良い」


<――そう言うに留まり

この後も作戦の全容と“影隠カゲカクシ”についての一切を明かしはしなかった。


何と言うか……一見すれば

モナークの態度は余りにも非協力的に思えたが

圧倒的に準備も時間も不足している状況下にいて

此奴モナークだけが理解している作戦と

つい先程、此奴コイツが見せた“大暴れ”の結果を信じるしか無く……


……この後、考えうる限りの戦略を練り続け

アルバートの宣言通りならば、約一時間後に現れるであろう“軍勢”を迎え撃つ為

俺達は第二城へ兵を集結させていた――>


………


……



「フッ……“予想通り”現れた様だ」


<――そう言いつつ

かろうじて視認出来る距離よりも遥か遠くを指し示したモナーク。


だが――>


「ん? ……いや“予告通り”じゃ無いのか?

もしかして言い間違え……」


<――と

至極真っ当な質問をした俺に対し――>


「主人公……やはり貴様は愚か者よ」


<――そう言って

さげすんだ様な目を向けて来たモナークの態度に――>


「はぁッ?! ってかお前なぁッ!! ……」


<――凄まじくイラついたのは兎も角として。


暫く後、俺達の居る第二城正門前へ向け

多数の兵と共に現れたアルバート大公は――>


………


……



「おぉ、勢揃せいぞろ……いや、少しばかり戦力が足りない様に見えるが。


……何かの作戦かい? 」


<――そう言って周囲を見回したアルバート。


此奴アルバートが言う様に……魔族軍の多くがこの場に居らず

何時いつもならモナークの直ぐ側に居る筈のアイヴィーさんすら

何処どこにも居なかった……その一方で

此奴アルバートほとんど変わらない情報の少なさに

なお苛立いらだっていた俺は、なかば八つ当たりの様に――>


「ええ……何時いつから裏切って居たかすらさだかじゃない相手と戦うんです。


作戦の一つも用意してなきゃ怖いですし、そちらにも

“分からない”恐怖を味わって貰えたらと思ってます」


<――と返した。


すると――>


「ふむ……“皮肉屋ひにくや”に転職でもしたのかい? 主人公君。


だが、そんな事はどうでも良い……君に最後通牒さいごつうちょうだ。


君と君の隣りにいる元魔王のモナーク二人の血液を僕に寄越よこせば

此方こちらの大切な兵達の命を奪った事も水に流してあげよう。


その上で、君が望むなら……今後一切

政令国家とその友好国に対し――


“我が国の民一人に至るまで二度と近寄らない”


――そう宣言もしてあげよう。


どうだい? ……“皮肉屋ひにくや”を必死に演じている君じゃ無く

“本来の優しい君”ならば

喉から手が出る程欲してしまう様な好条件だろう? 」


<――そう言って醜悪しゅうあくな笑みを浮かべたアルバート大公。


だが――>


「“本来の優しい俺”……ですか。


アルバートさん……貴方はとても大きな勘違いをしています。


俺の“本来”は、卑屈ひくつ鬱屈うっくつとした無礼者で

自分本意な人間なんですよ?


……巨乳好きで、ハーレム願望が有って

自分さえ楽しければそれで良い……


……そんな事ばかり考えていた愚か者なんです。


そんな“愚か者”に対して、優位に立つ存在として

一段高い所から物を言う貴方に対して、本当に

そんな愚か者が――


“はい、おっしゃせのままに”


――なんて言うとでも思いましたか?

もし本当にそう思っていたのなら、貴方はとんでも無い勘違いをしてる。


アルバートさん、俺はね……クソみたいな性根しょうねをしていた俺の事を

余程よほど“マシな”人間に育ててくれた大切な人達の暮らすこの国を

ただ、まもりたいだけなんですよ。


だから、もしそれを邪魔する様な存在が現れたなら

それが如何いかなる存在であろうとも絶対に許しはしないんです。


だから俺は……この生命に変えても、貴方を決して許しはしない」


<――この時


俺は、アルバートの申し出を受け入れるべきか否かを

仲間の誰にも一切たずねず決断した。


……だが勿論、大切な人達の事を考えて居なかった訳じゃない

俺の側に居る仲間達が皆、俺と同じ“目”をして居たのだ。


何と言うか……少なくとも俺にはそう見えたし

実際、誰一人として――


“取引を受け入れるべきだ! ”


――などと言い出す様な人も居なかった。


むしろ、エリシアさんに至っては――>


………


……



「……主人公っち。


超絶カッコいい所に水を差す様で悪いけど

我慢できないし……私にも言わせてね。


さてと……アルバート大公。


……アンタはとんでも無い大馬鹿だよ」


「おやおや? ……幼子の様な見た目と“たがわず”

子供の様な悪口を言うのだね? 」


「“若見え”を褒めてくれてありがと……けど

アンタが“大馬鹿”なのは変わらないから。


……其奴ライドウを仲間に引き入れたつもりみたいだけど

アンタが仲間だと思ってるその男は

何時も最低の瞬間に最低の決断をする男だ。


其奴ソイツと組んだアンタが今一体何を叶えたいのか

何をやろうとしてるのかなんて“幼子”な私じゃ判らない。


……けど、アンタが“最悪の選択をした”って事だけは

誰よりも理解してるつもり。


……良い? アルバート大公

冗談のたぐいなんかじゃ無く真剣に、ちゃんと忠告してあげる……


……其奴ライドウを信じたらいつか必ず痛い目を見るよ」


<――ライドウの危険性を、既に敵と成る決断をした相手アルバートに対し

とても真剣な眼差しで訴えたエリシアさん。


だが……そんな忠告を受けたアルバートが口を開くよりも早く

彼の背後より現れた“ニヤケ顔”の男は――>


………


……



「おやおやぁ? ……酷く嫌われた物ですねぇ姉弟子様?

いくら何でも其処そこまで悪口を言われてしまうと

流石の私も少しばかり悲しくなってしまいますが? ……」


<――ニヤケ顔で現るなりエリシアさんを激昂げきこうさせた男。


“ライドウ”


……この直後

激昂げきこうしたエリシアさんはライドウに対し――>


「……ライドウッ!!

降りて来いッ!! ……降りて来て私と戦えッ! 」


<――そう言った。


だが、ゆっくりと首を横に振ったかと思うと――>


「折角のお誘いですが……ご遠慮して置きます。


無駄な労力を使うのがあまり好きではありませんのでね……」


<――そう言って再びニヤけ顔を浮かべたライドウ。


一方、ラウドさんはアルバート大公に対し――>


………


……



「無駄じゃとは思う……じゃが、それでもえて問う。


アルバート大公……幼き頃より御主を知っておるわしの顔にめんじて

今回の戦い、引いては貰えぬじゃろうか?


わしや御主は勿論……互いの国に属する兵や民達が苦しむ様を

先代の王である御父上が喜ぶとは思えぬのじゃよ。


どうか……ほこを収めては貰えぬじゃろうか? 」


<――そう言って頭を下げた。


だが、真摯しんしに向き合い頭を下げたラウドさんに対し

アルバート大公の返した“返事”は――>


………


……



「ラウド大統領……貴方のお考えはよく理解致しました。


では……全軍、攻撃開始だ」


<――直後

防衛魔導を突き破らんばかりに降り注いだ激しい攻撃。


無論、この不遜ふそんな態度に腹を立てなかった者など政令国家には居らず――>


………


……



「反撃だッ!!! ……全軍ッ! 攻撃開始ッ!!! 」


<――と、真っ先に口火を切ったクレイン。


だが……その瞬間、アルバート大公は

“再び”醜悪しゅうあくな笑みを浮かべた――>


………


……



「駄目っ……攻撃しちゃ……駄目ぇぇぇぇぇっ!!! 」


<――遅れる事わずか、叫ぶ様にそう言ったライラさん。


直後、俺達はその“意味”を知る事と成る――>


………


……



「何ッ?! ……防衛術師ガーディアン隊ッ! 緊急防御ッ!!! 」


<――周囲に響き渡ったオルガの叫声きょうせい


メリカーノア軍に向け凄まじい密度で迫った此方こちらの攻撃……だが

そのどれ一つとして敵兵に当たる事は無く……全て

敵の眼前で“反転”した。


クレインの放った攻撃も、エリシアさんの放った攻撃も……そして。


俺の放った攻撃すらも……術者である俺達に


“全て”跳ね返り――>


………


……



「ま、間に合った……」


<――かろうじて“自爆”を防ぎ切った俺達。


だが、そんな俺達を嘲笑あざわらう“声”は――>


………


……



「ほう……素晴らしい反応だ主人公君。


まさか自分以外に返った攻撃すら君一人で防ぎきってしまうとは。


やはり、素晴らしい力の持ち主だよ君は……」


「ええ……一度“経験があった”から

ギリギリで気付いただけですよアルバート大公……」


<――タイトルを付けるならば


“斧りん粉砕ふんさい事件”とでも呼ぶべきだろうあの事件。


あの日、マリアが大失敗してくれたお陰で

この技の事は“痛い程”知っている――


“固有魔導:一方通行”


――見間違みまちがう筈も無い。


この力は、オウルさんの持つ固有魔導だ――>


………


……



「ほう……経験済みだと言うのかね?


それは面白そうな話だ……ならば“経験者”がどれ程耐えられるのか

此処ここで、是非とも見せて頂くとしよう。


全軍……もう一度攻撃だ」


<――直後、再び降り注いだ敵軍からの攻撃。


だが、俺やオルガさん……いては魔族軍にも防衛に長けた者は多く

攻撃に耐えるだけならさしたる苦労は無かったが――>


………


……



「くっ! ……此方こちらも攻撃をッ!!! 」


「……駄目っ!

攻撃したら……全部返って来る、見た……でしょ……」


<――凄まじい轟音ごうおん衝撃しょうげきに気が動転し、浮足立うきあしだち始めた兵達。


……そんな彼らを落ち着かせる為か

一人一人の目を真っ直ぐに見つめながらそう伝えたライラさん。


そして……“一方通行”の効果である

発動から最大一時間の間、あらゆる物を“跳ね返す”力


その効果をしっかりと説明した上で――>


………


……



「今攻撃しても意味が無い……むしろ余計に苦しくなる。


でも……希望は有るから……諦めちゃ……駄目」


「で、ですがッ!! 希望とは一体……」


<――なおも降り注ぐ敵の猛攻もうこうに怯えつつも

ライラさんの言葉が唯一ゆいいつの“”に思えたのか

勇気を振り絞った様子でそうたずねた一人の兵士。


一方、そんな兵士に対するライラさんの答えは少し残酷ざんこく

それでいて、とても“冷静”だった――>


………


……



「あの技の事は……良く知ってる。


本来オウルは……オベリスクの範囲しかまもれない筈。


だから、見て分かるの……“無理をしている”って。


それに……魔導は術者の精神状態に影響される……でしょ?


オウルは元々、私達の仲間であり……“家族”


家族を苦しめる……そんな事、冷静に出来る人は居ない。


少なくとも……オウルは……“いられている”筈


……なら、持って半分……でも恐らくは、二割と持たない筈……」


<――怯える兵に対しそう伝えたライラさん。


だが、彼女が兵を落ち着かせる為に伝えた言葉は

第二城をまもる者達全員の力にも成り――>


………


……



「よし……私達の防衛も無駄には成らないと言うのだな?


ならば良い! ……防衛術師ガーディアン隊、聞いての通りだ!


一分でも良いッ! ……時間を稼げッ!! 」


<――降り注ぐ猛攻の中

隊の者達に向け、そう言い放ったオルガ。


防衛術師ガーディアン隊の者達は勿論だが……正直、俺も鼓舞こぶされた。


そもそも……ライラさんの理論は疑い様の無い事実だ。


……俺が例の“狂華乱舞ワザ”で悩んでいた時

エリシアさんが掛けてくれた言葉……そして

彼女の師匠であるヴィンセントさんから受けた言葉を信じ

純粋なる気持ちで放った、いちじるしく“攻撃性の高い”あの技は

大切な存在を誰一人として傷つける事無く、森を癒やしてくれた。


それならば……無理強いされているオウルさんの固有魔導が

一時間も持つ確率は途轍とてつも無く低いだろう。


……激しく降り注ぐ猛攻もうこうの中、一縷いちるの望みを得た俺達は

“その時”を待つ事に一切の苦しさを感じなく成っていた。


だが――>


………


……



「……ふむ、少しばかりなまけて居る様だね。


ローズ……オウル君を本気にさせる“手立て”を頼むよ」


「ハッ! ……来なさいッ! さぁ、早くッ! 」


「い、いやっ!! 離してッ! ……」


<――直後

ローズマリーに連れられこの場に現れたサラさん。


……そして、彼女の姿を確認すると

アルバートは――>


「さて……オウル君。


もう少し頑張って貰わなければ、彼女の白い肌が

“赤黒く”染まってしまうかもしれないのだがね? 」


<――と、言った。


すると――>


………


……



「……ま、待ってくれッ!!

こ、これでも私は……精一杯防いでいる……つもりだッ!

だが……範囲が……余りにも広過ぎる所為で……ぐっ!! 」


<――数多くの敵兵に隠され

その姿を確認こそ出来なかったものの、かすかに聞こえたその声が

間違い無くオウルさんの物だと分かったこの瞬間。


……俺は、ライラさんの発した言葉が正しかった事を知った。


激しく動く敵兵の隙間からかろうじて見えたオウルさんは

くさりに繋がれ、ほとんど身動きの取れない状態で

いられて”居たのだ。


……この、残虐ざんぎゃく極まりない扱いに

幾度と無く冷静さを失いそうに成りつつも、必死にこらえていた俺。


だが、アルバート大公は……そんな俺達の事も

オウルさんの事すらも嘲笑あざわらうかの様に――>


………


……



「黙れ……言い訳を聞きたい訳じゃない。


君がもし少しでもミスをすれば

君の大切な彼女の身体が少しづつ傷ついていく、ただそれだけの話だ。


理解が出来たのなら、もっと真剣に防衛を続ける事だ……良いね? 」


<――そう言い放った。


直後……メリカーノア軍を包む防衛魔導は

確かに、より強固な物と成った……だが

不安定さはより深刻な物と成り、所々乱れ始めてすら居た。


この……いつ崩壊しても不思議は無い程に乱れる防衛魔導に

活路を見出しつつあった反面、オウルさんの容態ようだいがとても心配だった俺。


だがそんな中、ライラさんが“動いた”――>


………


……



「オウルッ!! ……聞こえてる? ……オウル……お願い。


無理しちゃ駄目……お願い……無理……しないで……」


<――本来


今直ぐにでも“凝光ドラゴン”にまたが

全てを焼き尽くす程の猛攻もうこうを仕掛けたかったであろうライラさんは

不安定な防衛魔導の壁越しにそう言った。


そんな彼女の声に――>


………


……



「妻を……妻を救いたい……ライラ。


私は……っ……主人公様や皆さんと……敵対したい訳では……無い……

のです……ですが……ですがッッッ!! ……」


「うん、分かってる……大丈夫だよ。


お互い苦しいね……けど、少しでも早く……助けるから。


……絶対に……助けるから。


オウル……諦めないで」


<――ライラさんの言葉の所為か

ほんの一瞬、防衛魔導の一部に空白地帯が生まれた。


だが……悲鳴混ひめいまじりに彼の名を叫んだ

サラさんの声だけがむなしく戦場に響き渡り――


――直後、彼女の細腕に滴った赤黒い色。


その瞬間、激しく乱れた防衛魔導……“最悪の事態”を考えた俺は

直ぐにオウルさんの姿を必死に探した。


だが、敵兵に阻まれその姿を視認する事は出来ず


その“代わり”に――>


………


……



「お……おいッ!


魔導障壁が消えて……」


<――直後


視認出来る程にはっきりと……急激に崩壊を始めた防衛魔導。


その様を確認した一人の兵は、命令も待たず――>


「い、今だ!! ……攻撃ッ!! 」


<――言うや否や

敵軍目掛け凄まじい密度の攻撃を放った。


だが、その瞬間――>


………


……



「残念、だだ――


“牢獄解放”


――さて。


頼んだよオウル君、いや……オウル“達”と呼ぶべきかな? 」


<――直後


再びメリカーノア軍を分厚く包んだ――


“一方通行”


――そして。


突如として現れた“術者達”は

アルバートの眼前でうつろな眼差しを浮かべたたずんでいた――>


===第百五九話・終===

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