第百五七話「予想外は楽勝ですか? ……中編」
《――深夜の政令国家執務室で行われた極秘の話し合いは
一本の通信に依って不本意に終わった。
……通信終了後、解決の困難な問題に直面し
この場にいる皆が頭を抱えていたその一方で
この時より遡る事暫く……メリカーノア大公国の長、アルバート大公は
“右腕”であるローズマリーと共に、ある空間に居た――》
………
……
…
「……まさかあの“対政令国家連合国”共が此程弱いとは。
政令国家を弱体化させるどころか更に友好国を増やし
より強固にしてしまうとは思いもしなかったよ……
……まぁ、全く以て不幸中の幸いだが
我々の企みが露見しなかっただけでも
先ずは良しとしなければ成らないかな?
とは言え……“無能な働き者共”に力を貸してしまった僕は
一体どれ程“無能”……なのだろうか? 」
「い、いえ……アルバート様は有能でございますわ!!
見方を変えれば……さしたる労無く
“対政令国家連合国共”の地域を手に入れる事が出来ますし?
……寧ろアルバート様は其処までを見据え、敢えて
その様に布石をお打ちに成ったのではありませんか? 」
「ありがとうローズ……だが、少しばかり
僕の事を買い被り過ぎじゃ無いかな? 」
「い、いえッ! ……仮にそのお積りが無くとも
自然にその様に振る舞いに成ったのですわ?
そう考えれば……やはりアルバート様は有能なのですッ!
……い、異論は認めません事よ?! 」
「まさか其処まで“ムキ”になってくれるとはね
お世辞でも嬉しいよローズ……だが僕は
何も“利点の無い”地域まで手に入れようとは思っていない。
それよりも今は政令国……いや。
……“彼ら”を手に入れたいんだ。
主人公や魔王の力を複製する事が出来れば
我が国は最強の矛を手に入れたも同然……そうなれば
我が国に対抗出来る者など最早何処にも存在し得なく成る。
そして、その為に必要なもう一つの手立て――
“最強の盾”
――あれはもう、完成しているのだろう? 」
「ええ……その件は順調に進んでおりますわ」
「ほう、それは嬉しい知らせだ……祝杯でもあげようか」
「ええ! ……是非ご一緒させて頂きますわッ♪ 」
《――深夜
秘密裏に交わされた二人の会話は、メリカーノア大公国でも指折りの絵師
クロエが邸宅を構える山の中腹へと秘密裏に建造され
出入口の偽装処理を始めとする“異質(異質)な”警備体制が敷かれた
“研究所”で繰り広げられていた。
アルバート・ローズマリー・ペニー……そして
“外部協力者”であるライドウの他には
僅かな研究員と近衛兵のみが知るこの場所では
“旧ロミエル法王国”依りアルバートの持ち帰った
“裏技之書”を基とした研究が昼夜を問わず行われていた。
……だがその一方で、これ程の警備体制を敷く研究所に於いて
何故ライドウが“外部協力者”と成り得たのだろうか?
その真相は、この日より更に遡る事暫く――》
………
……
…
「遅い……余りにも遅過ぎる。
……悪鬼共を邪鬼一体に進化させるのに三日
邪鬼共を狂鬼一体に進化させる為に三ヶ月ッ!!!
此処から更に狂鬼共を集め、最終段階である
“鬼之王”へと仕上げる為にはどれ程の時間を要すると言うのかッ!!!
“冥府之扉”を開く事の出来る只一つの手立てだと言うのに
斯様な鈍さでは先に私の寿命が尽きかねん……
……もし仮にそうなれば
あの日交わした“取引”の意味すら消え失せてしまう。
私は……何としても絶対的な力を手に入れなければ成らない。
その上で……私を封じ込め
目を失う原因を作った“奴”と
奴の大切な存在を……そして私の邪魔をした全てのゴミムシ共をッ!!
……ああ、特に“政令国家”は必ず滅ぼそう。
あの国、いや……“あの男”に与したムスタファとやらも
奴の母国に関連する全ても滅ぼそうッ!!
……この世界全てを滅ぼし、私が望む物を手に入れる為にッ!!!
だが……先ずはその為に必要な時間を稼がねばならん。
一刻も早く“冥府之扉”を開く為……ん?
“一刻も早く? ”
そうだッ! ……そうだったッッ!!!
私は既に知っているじゃないか!!!
……あの国にあった物を!! 手に入れ損ねた“あの本”をッ!!
おい、狂鬼共……今からお前達の仕事は私の護衛だ。
間違っても手を抜いてくれるなよ? ……良いなッ?! 」
《――直後
二体の“狂鬼”を引き連れたライドウは
“ロミエル法王国の研究所”を目指し転移魔導を発動した。
だが――》
………
……
…
「何? 研究所は一体……ん?
此れは……全く」
《――転移直後
周囲を見回し大きな溜息をついたライドウ。
彼の周囲には“完全空間閉鎖”が展開されていた。
……だが。
破壊を試みようと動き掛けた狂鬼達を制止した彼は――》
………
……
…
「さて……警告しておきましょうか?
貴女の様な美人を傷つけたくは無いのでねぇ? 」
《――“完全空間閉鎖”を展開した張本人である
ローズマリーに対しそう告げたライドウ。
一方……そんな彼の尊大な態度に
僅かながら苛立ちを見せたローズマリーは――》
「あら……盗人が“紳士の振りをする”とは驚きですわね。
ですが、まさか……私達の視察中に現れるなんて
とても運の悪い“紳士”ですわね? ……兎も角。
……尊大な態度を改め、頭を下げると言うのなら
捕縛“程度”で勘弁して差し上げますけれど
もしこのまま“抵抗する”と言うのなら……
……腕や足の一本は覚悟して頂きますわよ? 」
《――そう言ってライドウの目を真っ直ぐに見つめたローズマリー
一方のライドウはそんな彼女の“提案”に少し微笑み――》
「ふむ……美しい女性だとは思ったが
まさか“女王様気質”であったとは……ああ怖い怖い。
怖過ぎて……少し“意地の悪い”事をしてしまいそうだよッ! 」
《――そう発した直後
ライドウとローズマリーの“立場”は入れ替わり――》
………
……
…
「なっ!? ……一体何を?!
チッ……魔導よ消え去れッ!
なっ?! ……消えないですって!? 」
「ああ……申し訳無いが、君にはもうその魔導を消せない。
さて……あまりに美しい女性だからとても残念なのだけれど
目撃者は生かしておけないのでね、残念だが此処で……
……ん? 」
《――瞬間
無詠唱転移に依り緊急回避行動を取ったライドウ。
直後、つい今しがたまで彼の立って居た場所には
大量の雷撃が降り注いだ――》
………
……
…
「ほう……世界は広い様で狭い物だと感心するよ。
だが、それにしても面白い技を使う物だね?
……まさかローズがこうも容易く窮地に追い込まれるとは
流石は“指名手配犯”と言った所かな? ……ライドウ君。
いやはや……恐れ入ったよ」
《――そう言って微笑みながらこの場へと現れたのは
メリカーノア大公国の長、アルバートであった。
そして……その直後
そんな彼に連れ立って現れたペニーは――》
「あらぁぁぁんっ♪ ……手配書通りのイケメンじゃなぁい♪
でも“オイタ”しちゃった悪いコは、あたぃの気持ち良いぃ~ん♪
“オ仕置キ”……受けないとダメかも知れないわねぇ~ん? 」
《――興奮した様子で彼に対し、そう告げた。
その一方で――》
「さて……ペニーの言う様に、政令国家と同盟関係にある我が国としては
直ちに君を捕縛し、あの国へと引き渡す義務がある。
だが……その前に一つ聞きたい。
君は、一体何の為に此処に来たんだい? 」
《――終始笑みを浮かべながらそう訊ねたアルバート。
一方のライドウは――》
「目的? ……それを聞きたいと言うのか?
……まぁ良い、教えてやろう。
私の目的、それは――“時之狭間”――」
《――直後
固有魔導を発動したライドウ。
……彼の固有魔導の効果に依り
ローズマリーとペニーの両名と……同じく
ライドウの方を向いたまま静止してしまったアルバート。
一方、この状況に気を良くしたのか――》
………
……
…
「全く……“政令国家”の友好国だと?
チッ……あの国は“油断大敵”と言う言葉を知らぬ馬鹿が集まる
“匂い”でも撒き散らして居るのか? ……馬鹿共がッ!!
貴様らの様な無能共に私の目的を話す価値など……」
《――静止した三人を目の前にして悪態をついていたライドウ。
だが――》
「あ~……その“悦入ってる”所悪いのだが
“時之狭間”とは一体
どう言う意味なのかを是非とも教えて貰いたいのだがね? 」
《――そう言って再び微笑んでみせたアルバートの姿に
思わず慌てて距離を取ったライドウ――》
「なっ!? き、貴様……何故動けるッ!? 」
「……何故も何も、君が脈絡も無く
意味不明な発言を繰り出したから固まっていただけだが?
そうだろう? ペニー、ローズ……ん?
全く……困った物だ
今理解したよ……君が僕達に何らかの魔導を放った事を。
どうやら二人には確りと効いている様だが……
……兎に角、改めて聞こう。
君の目的は一体何だい?
これ以上の非協力的な態度は……流石の僕も許せないよ? 」
《――そう言って再び微笑んだアルバートに対し
ライドウはこれ以上の抵抗をせず――》
………
……
…
「分かった、だが答える前に幾つか聞きたい……良いか? 」
「ああ勿論……“騙し討ち”じゃ無いなら素直に答えてあげよう」
「チッ! ……“無意味”な事はしないタチだ。
……手配書と言ったが、どう言う事だ? 」
「ん? ……“これ”の事さ。
君が政令国家に対し“不利益”を被らせた為
“お尋ね者”として、政令国家と関係のある国や地域には
必ずこの手配書が配布されて居るんだよ? まさか張本人が知らないとはね。
さて……他の質問は? 」
「成程……では、研究所は何処へ消えた? 」
「政令国家出身の……一応、名前は伏せた方が良いのだろうか?
“正義のトライスター君”とでも呼ぼう……ともあれ、少し前の事だ
彼がこの場所にあった研究所の悪行を暴き
その余りある力に依って崩壊させた。
そして……その“後始末”を頼まれた我が国が此処を統治している。
と言うのが真相だよ? ……質問は以上かい? 」
「成程……ではもう一つ、最後の質問だ。
“私を捕らえる義務がある”と宣った貴様から
政令国家への義理立てらしき物が一切感じられないのは……
……一体どう言う訳だ? 」
「ほう? ……何故そう思ったのかな? 」
「ん? 貴様は先程……
“騙し討ちで無ければ答える”
……と言った様に記憶しているが、あれは嘘か? 」
「ふっ……少し腹立たしい態度だが、此方にも落ち度がある様だ。
……だが、今僕がその質問に答えてしまえば
君を生きたままあの国に引き渡さず
この場で殺してしまわなければ成らない。
まぁ、それでも“聞きたい”と言うのなら……止めはしないよ? 」
《――ライドウに対し終始微笑み続けていたアルバート。
だが……これ以降、彼の顔からは一切の表情が消え失せた。
……そして
そんな彼の様子に、何故か微笑んだライドウは――》
………
……
…
「成程……これは面白い
ならば、今の質問を取り下げた上で改めて訊ねるとしよう。
“貴様の様な男が”
見るからに旨味の無いこの国の統治を一体何故引き受けたのか?
無論、あの国に恩を売る為とも考えられるが……先程、貴様は
“研究所”と聞いた時、ほんの一瞬だが妙な反応を見せた。
その事から考えれば……恐らく“研究所”を
貴様の国に“移転”したと見て間違い無い。
どうだ? ……私の推測は正しいか? 」
「今僕が此処で“そうだ”と答えたら
君は一体……どうするつもりだい? 」
「何もしない……ただ。
昔此処にあった研究所で私の持つ力を役立てていた時
“置き忘れて”しまった道具があった事を思い出してな。
もし持っていると言うのなら……“是非とも返して貰いたい”
そう……思っただけだ」
「道具? ……あぁ。
“本”の事なら今も懐にあるけど……その“様子”だと
この質問をもう一度するべきだろうね。
君は一体……どうするつもりだい? 」
「……素直に渡すつもりが無い事だけは理解出来たが
此方も諦める訳には行かんのだ。
貴様が何を企み“それ”を用いているかなど心底どうでも良い
だが、今此処で貴様と渡り合う事が賢い判断とも思えん。
故に、心底不愉快だが……貴様の企みに手を貸してやる。
その代わり……その本を私に貸せ。
……無論、タダではとは言わん。
此方も“これ”を貸してやろう
これならばある種の“担保”と成る筈……どうだ?
そちらに取っても悪い話では無い筈だが? 」
《――そう言いつつ
懐から“裏技之書”を取り出したライドウ。
一方、その“表紙”を見るなり――》
………
……
…
「ほう……そちらは“獅子宮之書”か。
僕の持っている“双児宮之書”と良く似ているね? ……」
《――そう言いつつ懐の本を服越しに二度叩いたアルバート。
彼は続けて――》
「……たった一冊のこの本が、我が国の力をいとも容易く成長させた。
もし今、君の申し出を受ければ
我が国は更に高みへと向かうかも知れないだろう。
だがそれ故に、その本の能力を聞かずして
“二つ返事”とは行かない事も……君なら理解出来るだろう? 」
「ああ、当然だ……教えてやる。
獅子宮之書の能力は――
“攻撃及び防御に必要な装備制作に於ける制限の撤廃、若しくは緩和”
――獅子宮之書は
人智を超えた装備製作の力を与えるだけで無く
使用出来る材料の“制限”さえも撤廃してしまう。
魔物の体組織や自然界に存在する木や水や土……
……それらに囚われぬ“更成る力”を得る事が出来るのだよ。
分かるか? ……貴様が言う“力”だ。
……更成る高みを目指すつもりは無いか? 」
「ふっ……まるで御伽噺に出てくる“悪い魔女”の様な誘い文句だね?
だが……敢えてその誘いに乗ってみるとしよう。
我が国は君を歓迎するよライドウ君……但し。
お互いの利益が“相反しない限り”ね? 」
「それは……お互い様だ」
「それもそうだね……さて、そろそろ
二人の事を“動かして貰えると”助かるのだけれどね? ……」
《――この瞬間
政令国家を裏切る決断をしたアルバート。
この後、ライドウを外部協力者として迎え入れた彼は
急激に研究所の規模を拡大した。
全ては自身の野望を叶える為……一方、そんな彼の野心を見抜き
行く行くは彼と言う存在すらも自らの糧にする為か
外部協力者となった後も彼の頼みを聞き入れ続けたライドウ。
そして……その対価に受け取った“双児宮之書”を
“自身の野望を叶える為”に用い続けた――》
………
……
…
「……これは良い。
まさに“狂気的”な勢いで狂鬼共が生産され続けるでは無いか!
これは良いぞ……良いッ! 」
《――ゆっくりと
だが……着実にその数を増やし続ける狂鬼を眺めつつ
仄暗いその場所で歓喜の声を上げていたライドウ。
だが、そんな最中
突如として、急激な不安に襲われた様子の彼は――》
「お……おい、其処の狂鬼。
増えた其奴らとの融合は……つまり、進化は可能なのだろうな? 」
《――“複製元”である狂鬼の一人に対しそう訊ねた。
すると――》
「……無論、可能で御座います。
ライドウ様が渇望される我らの真なる姿――
“鬼之王”
――何れ我らが一丸と成りました暁には
我らの生みの親であるライドウ様にお喜び頂ける事を期待しております」
「そうか……ならば良い、引き続き貴様らを増やし続けるとしよう。
しかし本当に愉快だ、実に……愉快だッ!! 」
「ライドウ様のお喜びが我らの幸せで御座います……」
《――この後
着実にその数を増やし続けた狂鬼達……とは言え
彼の渇望する最終目標
“鬼之王”完成までの道のりは未だ遠い様子であった。
だが……同時に
“辿り着けぬ程”では無く成った事に歓喜して居た彼は
新たな協力者への協力の為、持てる知識の多くを惜しみ無く披露し続けた。
だが……その行動の全ては
彼が、魔王モナークにすら隠し通した
“本当の望み”を叶える為の布石でしか無かった――》
―――
――
―
「貴様が作り上げる武器は我に歯向かう為の物か? ……」
「……私が作り……武器……失敗作ばかり……
……使用に耐えぬ……更成る……強力……
扱いも……容易く……武器を作り出す事が……目的……
世界……敵……見返す為ッ!! 」
《――過去
魔王モナークが用いた自白を強制する特殊な魔族の力。
無論、魔族の王たる彼の力に抗う事は並大抵では無く……
……ましてライドウの有する力程度では
抗う事など不可能と言うべき所業であった。
だが……全てを隠し通すのでは無く
最も“重要な部分”を隠すだけならば
当時の彼であっても不可能では無かった様で――》
………
……
…
「……しかし。
我ながら良くぞ隠し通した物だな――
“遥か昔より”私が作り“続けていた”武器は
“制御の出来ない”失敗作ばかり
“操る者を食い殺し、製作者である私にすら歯向かう”
使用に耐えぬ“物ばかりだった”
更成る“安定性と”強力“且つ絶大な破壊力を有し”
扱いも“容易で世界を”容易く“手に入れる為の”
武器を作り出す事が“本当の”目的
“全ては私を押さえつけた”世界
“そして、師と姉弟子……それだけでは無いな”
敵“と成り得る全ての存在を滅殺した上で、全ての無能共を”見返す為ッ!
“私は……貴様の様な暴君に力を貸しているのだ”
――フッ、元より全てを隠せるなどとは夢にも思っていなかった。
だが……“意味を違える様”仕向けるだけならば
思いの外容易かったよ……まぁ、今と成っては
貴様が政令国家と手を組んだ事が
私の野望への道程を早めてくれたとすら思える程だ。
しかし……よもやこの私が
貴様の様な阿呆に感謝するとは思いもしなかったよ
“半魔族の魔王”……モナーク」
《――魔王モナークの力に抗い、真意を隠し通したライドウ。
彼は、仄暗いその場所で
増え続ける狂鬼を眺めつつ自らの“勝利”を称えていた。
だが――》
―
――
―――
「……い、いきなり何だよモナーク。
“メリカーノアに与する全ての者を敵だと宣言”って。
……まさか!?
丁度人間の“味”が恋しくなってた所にあの国の裏切りがあったから
それを言い訳に使って、悪い奴だけじゃ無くメリカーノアに住む人も全員
“喰らい尽くしてしまおう”って魂胆じゃ!? ……」
《――深夜
尚も政令国家の執務室で交わされて居た“議論の道筋”は
モナークの堂々たる態度と、その“要求内容”を聞いた主人公の
“完全なる誤解”に依って大きく変貌を遂げる事と成った――》
「愚か者が……斯様に無礼な考えを口にした理由など
貴様の愚かしさが故の些末な物であろうが
この上、貴様の様な愚か者に理解出来る様“噛み砕く”事こそ
不愉快極まり無い……」
「……わ、悪かったって!!
違うとは思ってたけど一応って言うか、何て言うか……と、兎に角!!
その……俺がとんでも無い“愚か者”なのは置いといてさ!
お前がそんな“宣言”を求めて来た本当の理由……教えてくれないか? 」
「フッ……良かろう。
仮にも友好国の長である筈のその者に対し
斯様に尊大な態度で在り続けたあの者の中に
我は……初めから、とある男と似た物を感じていた。
そして、あの者に酷似した者とは――
“ライドウ”
――しかし“類は友を呼ぶ”とは良く謂った物でな……我は過去
彼奴を尋問した。
だがその際、彼奴は我に対し隠し立てをし……そしてそれに成功した。
……つもりで居たのだ」
「“つもりで居た”って……勿体振らずに教えてくれよ」
「彼奴は……その身体から漏れ聞こえて居た渇望に
我が気付かぬとでも考えていたのであろう。
だが……我の目に映る彼奴の姿は
悍ましい程に渦巻き滾る怨念と憎悪、その……
……腐り果てた腐肉の様な“渇望”を愉しませる為
形振り構わぬ畜生の如き禍々しき存在で在った事。
つまりは……あの者も同様の畜生で在ると謂う事よ」
<――そう言い切ったモナーク。
そして、そんな“断言”を耳にした瞬間
再び怒りを顕にしたエリシアさんは、吐いて捨てる様に――>
「やっぱり……あいつは最初から
師匠の愛なんて微塵も理解出来てなかったんだ。
……あの日、あの道を通らなければ
師匠も私も……あんな奴になんか会わなかったのにッ!! 」
<――そう言うと
拳を握り締め、悔しさと涙を滲ませた。
一方……そんなエリシアさんの事を
只々見守る事しか出来なかった不甲斐無い俺に対し
モナークは――>
………
……
…
「主人公……貴様が常日頃から望み
渇望すらしている“平和的な話し合いでの解決”だが。
今度ばかりは望めぬ願いと知れ……」
<――そう言うと
妙に威圧感満載で俺の事を見据えたのだった――>
===第百五七話・終===