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第百五六話「予想外は楽勝ですか? ……前編」

《――獣人王国で数時間以上、一歩も動けずに居た主人公。


その一方で、そんな彼の身を案じて居たミヌエット王女は

夕暮れ時と成った頃、兵や民らに命じ彼の居る“玄関先”へと――


――さなが

“王の間”とでも呼ぶべき程に豪勢ごうせいな“寝床”を用意させたのだった。


無論、この“特別扱い”に始めこそ恐縮きょうしゅくしていた主人公では有ったのだが

日も落ち、辺りが暗く成り出した頃には日頃の疲れからか

あるいは獣人王国での気疲れがたたったのか……いずれにせよ

深夜と呼べる時間を迎える頃には

用意された寝床でスヤスヤと熟睡していた主人公……だが。


突如として、彼の安眠は“妨害ぼうがい”される事と成るのだった――》


………


……



「おい……おい主人公ッ! 」


「ん~っ……もう食べられませんから……

うぅ……これ以上、キャットフードを持って来ないで下さ……」


「なっ?! ……寝ぼけてねぇでさっさと起きろってんだッ!! 」


「ふんがぁッ?! ……って、ダグラスさん?!

お、お帰りなさい……その、ご無事で何よりで……」


「……馬鹿野郎ッ!! 無事じゃねぇ!!

体は確かに何ともねぇが……だが!!

断じて“のんびり寝ぼけてて良い”状況じゃねぇッ!!


兎に角……寝ぼけあたまを起こしやがれッ!!! 」


<――瞬間

俺の左頬に痛みが走った……ダグラスさんにビンタされたのだ。


当然、目は覚めた……だが、信じられない程痛かったし

何もぼうプロレスラーの“闘魂注入とうこんちゅうにゅう”みたいな起こし方しなくても

もう少し優しさを持って起こす事など幾らでも出来ただろうに。


……などと

呑気のんきな考え”を持っていた俺に対し――>


………


……



「良いか? ……今から俺が言う話を聞き逃すなよ?


ず……少し前、政令国家と友好関係がある全ての国に知らされた

“お尋ね者の情報”だが……その張本人があの国に居やがった。


それから……」


<――と、耳を疑う様な話を始めたダグラスさん。


だが……呆気あっけに取られて居た俺の様子を

“寝ぼけている”と勘違いしたダグラスさんは、再び――>


「だから……起きろってんだッ! 」


<――ビンタをしようとした。


だが、そんな彼を既の所で止めた後――>


「危なッ!? ……って、兎に角

詳しい話は政令国家でおうかがいしますから……ってあれ?


……動けるぞ? 」


「当ったりめぇだ!!! ……おめぇが掛けてくれた技のお陰で

こうして生きて帰って来られたんだからな!

兎に角……そう言う意味じゃ感謝してるが

さっさと寝ぼけ頭を起こしやがれ!! 」


「なっ!? と、兎に角……俺の腕を掴んで下さい。


行きますッ! ――」


<――この緊急事態に

政令国家へダグラスさんを連れ帰る判断をした俺は

念の為……極一部の大臣達にのみ招集を掛けた“緊急会議”を開いた――>


………


……



「では……ダグラスさん。


“先程の話”も含めて、皆さんに説明をお願いします」


「おう、ずは……」


<――ラウドさんを筆頭に、この場に集った極一部の大臣達。


エリシアさん、クレイン、オルガ、ゴードンさん

カイエルさん、ガンダルフ、モナーク……


……そして、関係者であるライラさんに向け

メリカーノアで得た情報を話し始めたダグラスさん。


彼はず、絵師のクロエさんから得たと言う情報を話し

その上で……彼が考えるオウルさんの性格を加味した

彼なりの推理すいりをこの場にいる全員に話した――>


………


……



「良いか? ……それ程感傷かんしょう的に成る様な男が

大切なモノをほったらかして旅に出るとは思えねぇし

そもそも、夫婦共々連絡がつかねぇ様な状況自体がありえねぇんだよ。


詰まる所……もし“まだ生きてるなら”

二人共あの国の何処どこかに居る筈って事だ。


それでだが……」


<――ダグラスさんの飾らない推理と発言。


彼の話っぷりに不安を感じたのか

ライラさんは彼の説明をさえぎると、声を震わせながら――>


「オウルが……死んでるかも知れないって……事? 」


<――そうたずねた直後


勘の鈍い俺ですら気付ける程の凄まじい殺気を発したライラさん

それと同時に“単騎特攻”と言う無謀むぼうすら行いかねない

“危うさ”も強く感じられた……勿論

間違ってもそんな事態におちいらせない為に、俺は彼女に対し――>


「そ、その……落ち着いて下さいライラさん!

そもそもオウルさんは“全ての攻撃を防げる”んです!

そう簡単に彼をどうにか出来る奴なんて居ませんって! ……」


<――と、少し押しの弱いなぐさめの言葉を掛けた。


現状ではこれが精一杯の慰めであったのだが――>


「うん……そう、だよね……オウルは生きてる……」


<――これがどうにかこうそう

落ち着きを取り戻してくれたライラさん。


だが……この後

ダグラスさんが“お尋ね者”の話をした事に依って

今度はエリシアさんが“単騎特攻”しそうな勢いで怒り狂う事と成った。


ともあれ……この後“少し抑えめに話す様”頼んだ俺達に対し

ダグラスさんは――>


「お、おう……済まなかったな

俺も少し慌ててたもんでな……兎に角、続きを聞いてくれ。


……俺がクロエって絵師の家から出てそのまま下山してた時

脇道から現れた二人組の内、どっかに消え去った奴……つまりは

“そっちの姉さん”がブチ切れた原因のライドウに関する愚痴を

見送ったローズマリーれてやがったんだよ。


そんで、暫く経ってその女もどっかに消え去った後――」


―――


――



「ふぅ……危ねぇ所だったぜ。


しかし、ライドウって野郎は

少なくとも政令国家と友好関係に有る国に取っては“お尋ね者”の筈。


……その状況を知っていて存在を隠し

あまつさえ協力を得ている時点でまごう事の無ぇ裏切り行為だ。


……正直、この事実だけで十分

この国は“ロクでも無ぇ国”な訳だが

そもそも……アイツら何処どこから出てきやがった?


足音が聞こえたお陰で隠れられたのは良いが

俺が来た時、この辺りには脇道なんざ無かった筈だぞ? ……」


《――そう言いつつ二人の現れた場所の周辺を調べ始めたダグラス。


暫くの後……彼は周囲の風景と良く似た“妙にゆがんだ木々”を発見した。


其処そこは……まるで

水面に落ちた一滴のしずくが巻き起こした水の波紋はもんの様に

木々がゆらゆらと波打って見えていた。


暫くは注視ちゅうししていた彼だったが……少し考えた後

恐る恐る、揺れる木々に指先を指し当て――》


………


……



「ん? ……何だ、触れた感触が無いな。


仕方無ぇ、もう少し差し込んで見れば……んッ?!


ぬおぉっっ!? ……」


《――瞬間


バランスを崩したダグラスは揺らめく木々の中へと吸い込まれてしまった。


直後……慌てて周囲の状況を確認したダグラスだったが

其処そこに見えた景色は“森林”などでは無く――》


………


……



「な、何だ?! 此処ここは洞窟……じゃ無ぇな。


此処ここは……建物の中か? 」


《――彼の周囲に有った


“森林では無い風景”


本来ならば木々が立ち並んでいるであろう場所に有ったのは

細く、薄暗い一本道で――》


「チッ……仕方無ぇ。


嫌な予感がプンプンしやがるが、調べるしか無ぇか……」


《――直後

この異質な空間を調べる為薄暗い一本道を警戒しつつ進み続けたダグラス。


……そうして暫く進み、階段を下ったその先で

少し開けた空間にたどり着いた彼は

その場所に整然せいぜんと並べられた“円柱状の何か”を眺めつつ――》


………


……



「……見渡す限り見た事も無ぇ物ばかりが並んでやがるが

これが何であれ、何だか気味が悪ぃぜ……」


《――鉄製と思しき謎の円柱を眺めながらそう言ったダグラス。


暫くの後、引き続き探索を続ける為

更に奥深くへと足を進めた彼だったが――》


「ん? 何やら声がするな……」


《――暫く進んだ先

枝分かれした通路で人の気配を感じ取った彼は

壁のくぼみに身を隠しつつ、声のする場所を注視ちゅうししていた。


すると――》


………


……



「ったく……もう少し早く歩け。


“愛しの旦那様”に会わせてやるって言ってんだぞ? ……」


「離してッ!! ……私達夫婦が何をしたと言うのッ!!

せめて彼だけでも……この場所から解放してッ!! 」


「は~っ……良くもまぁ毎度飽きずに同じ事ばかり言いやがる女だ。


前にも言った筈だが、其奴そいつは出来ない相談だ……良いからさっさと歩け。


と言うか……これ以上非協力的な態度を取るなら

アルバート大公殿下に告げ口しても良いんだぜ?

もしそうなっちまったら“愛しの旦那様”の命がどうなるかは……


……分かるよな? 」


「くっ! 分かり……ましたッ……!! 」


「最初からそうやって素直にしてりゃあ良いんだよ……さぁ、歩け! 」


《――暫しの言い争いの後

兵士らしき男に連れられ何処どこかへと立ち去っていった女性。


彼女の正体は、オウルの妻“サラ”であった――》


………


……



「……間違い無ぇ、屋敷で見た肖像画にそっくりだ。


しかし、あの話っぷりを聞く限りは旦那の方も生きてる様子だが……」


「誰だ貴様っ!? ……其処そこで何をしているッ!! 」


「チッ!! ……しくじったッ!! 」


《――直後

警備兵らしき者に発見され慌ててその場を離れたダグラス。


……警報鳴り響く中、脱出を試みた彼は

その俊足しゅんそくを活かし追手おってくぐ

出口へ向け一目散いちもくさん疾走はし


そして――》


………


……



「はぁ……はぁ……ッ……危ねぇ所だったぜ。


と、兎に角……情報は得られた事だし、早ぇ所この国を出ねえと……」


「……させません。


完全空間閉鎖サンドボックス……これでもう逃げられませんわ? 」


「なっ!? ……だ、誰だっ!? 」


「……それは此方こちらのセリフですわ?

コソコソと、我が国の研究所で一体何をしていたのか

しっかりと答えて貰いますわよ? 」


《――彼が脱出を成功させた直後

彼に向け何処どこからとも無く放たれたトライスター専用技の一つ。


完全空間閉鎖サンドボックス


……メリカーノア専属トライスターの地位を有する

“ローズマリー”の放ったこの技は彼を完全に封じ込めてしまった。


そしてこの瞬間……“逃走経路の消失”と言う

絶望的な状況に置かれてしまったダグラス。


だが、更に状況は悪化し――》


………


……



「全く……遅いですわよ? ペニーさん」


「仕方ないじゃなぁ~い♪ ……乙女には準備が必要な・の・よ・んっ♪


……で、その獣臭いのは何かしら~んっ? 」


《――彼女ローズマリーに遅れる事数分、増援として現れたのは

メリカーノア専属トライスターの“ペニー”であった。


強力な増援の到着……最悪の状況下に置かれてしまったダグラス。


だが、彼は――》


………


……



「全く……これまた筋骨隆隆きんこつりゅうりゅうなのが来ちまったな。


筋力じゃ絶対に勝てそうにねぇが……ともあれ、そちらの嬢ちゃん。


悪ぃんだが……この空間から出してくれねぇかな? 」


「お黙りなさい……もう一度だけ聞きますわよ?


“我が国の研究所で一体何をしていたのか”


……質問に答えて頂けますかしら? 」


「ほう……“聞く耳持たず”って事かい

此奴コイツこえぇ嬢ちゃんにとっ捕まったモンだぜ……」


「全く……流石は獣人族ですわね?

質問の意味を全く理解出来ていないとは……」


「なぁ……嬢ちゃん。


“俺は迷い込んだだけだ! 無実だッ! ”


と今この場で弁明した所で、おめぇさん――


“そうだったのね、驚かせてごめんなさい

夜も遅いから気をつけてお帰りになってね”


――ってすんなり解放してくれる訳じゃ無ぇ様に見えるぜ?

そもそも、一切の聞く耳を持たねぇ相手に何を言っても無駄なのは

幼子ですら分かりそうなもんだが……一応聞くぜ? 嬢ちゃん。


御大層で知能の高ぇ人間族のおめぇさんは今の話が理解出来たのか……


……答えてくれるか? 」


「チッ……何処どこまでも無礼な獣ですわね。


まぁ良いですわ? ……貴方が素直に成れる様

私とペニーさんの二人で、二度と“大層な人間族”に逆らわない様

しっかりと“しつけて”差し上げますから……」


「ほう……予想に“たがわず”恐ろしい嬢ちゃんだな?

さぞ恐ろしい拷問でもしようって目だが……舐めるなよ?


嬢ちゃん……お前に出来るのはな……獣人に対する接し方をッ!


俺から


しつけられる”


事だけだッ!! ――」



――


―――


「そ……それでどうなったんです!? 」


「なぁに……小っ恥ずかしい限りだが

主人公おめぇさんの掛けてくれた技のお陰で命からがら逃げ延びたのさ。


まぁ……認めたくは無ぇが、奴らは化け物みてぇに強くてな。


死を覚悟した瞬間……気がついたら

“爆睡中の”おめぇさんの真横に居たって訳よ……」


<――ダグラスさんからの報告を全て聞き終えた直後


俺は……今直ぐにでもあの国に飛び

オウルさんとサラさんの二人を救出し、ライドウを捕まえ

裁きを下したい気持ちで一杯だった。


とは言え……それ程簡単に事が解決する訳も無い。


俺の胸に浮かんだ苛立いらだちや問題点を全て解決する為には

当然だが、越えなければ成らない問題点が数多く有った。


ず一つ目……“馬鹿にならない数の”メリカーノア兵が

政令国家第二城の警備を担当している現状。


次に……ダグラスさんの報告内容を考えれば

ライドウがメリカーノアに隠れている可能性は良くて半々

悪ければ、俺達の知らない何処どこかへと帰還した可能性があると言う事。


だがこの後……これら二つの問題がかすむ程の

大きな問題に気付かされる事と成る――>


………


……



「ダグラス……貴方が見た場所……“沢山つつが有った”って言ったよね?


筒は……人が入れそうな大きさだった? 」


<――唐突に質問を投げかけたライラさん。


そんな彼女に対し――>


「おう、仮に中が空洞だったなら

其処そこに居るオーク族の旦那でも入れるだろうが……」


<――ダグラスさんはそう答えた。


そして……その答えが返って来た瞬間、とても残念そうな表情を浮かべながら

静かに俺の目を見つめたライラさんは――>


………


……



「主人公……残念だけど……


“ロミエル”の管理をあの国に任せたのは……間違いだったみたい。


あの国は……研究所の技術を手に入れた……筈」


<――俺にそう告げた直後

何かを思い出した様な表情を浮かべ下を向いたライラさん。


彼女の言う“研究所の技術”とは……つまり

彼女を含めたディーン隊の皆や、敵意の無い魔族達の集落に残った

エデン隊の皆さんの様な“改造人間”を生み出す技術の事だ。


俺は……あの研究所の所為で苦しむ人をこれ以上増やさない為

必死であの研究所を破壊した、文字通り

瓦礫がれきの山をきずく”程に破壊し尽くした……だが。


……それでも足りなかった。


当時、まだ“裏技之書”と言う異質な存在を知らなかったとは言え

あの研究所を破壊さえすれば……そして、所長や教皇を倒しさえすれば

二度と恐ろしい研究は行われない筈と信じ

とても不完全な事をしてしまったのだ。


だが、何よりも最悪な失策は……俺に対し

“気の引き締まる助言”をくれた人がおさめる俺の憧れの国だからと

あの国の全てを信用し、ロミエルの統治を全て任せてしまった事だ。


俺は……現在に至るまで

外交と言う物を“足りない警戒心で”行い続けていたのだ。


俺は何故……あの研究所に関わっていた際

“裏技之書を見掛けた”と言う話をマリーナさんがしてくれた時

もっと詳しく確認をしておかなかったのだろう?


俺は何故……この世界の設計からいちじるしく外れた技術を持つ

あの研究所をもっとしっかりと調べて置かなかったのだろう?


何をどうすれば……この問題を解決出来るのだろう?


そして、一体何をどうすれば――


“話し合いで解決し、オウルさんとサラさんを開放し

裏技之書の処分と研究の即時停止の後、研究成果の完全破棄をさせ

ライドウの身柄を受け渡させた後

両国が戦争状態におちいらせない様にする”


――これら全てを、どうすれば

角の立たない方法で解決する事が出来ると言うのだろうか?


いずれにせよ……どう少なく見積もっても

“不可能”に近いこれらの要求を飲ませる為には

ず間違い無く、政令国家こっちが何らかの形で優位に立たなければ成らない。


だが、その為の方法を必死に考えていたその時――>


………


……



「ん? ……メリカーノアから通信じゃ。


皆、静かにする様に! ……」


<――この“測った様なタイミングで”届いたラウドさんへの魔導通信に


俺を含め、執務室に居る者達は皆凍り付いた……そして、この直後。


皆が声を潜め、通信の内容に聞き耳を立てて居ると――>


………


……



「こんな深夜にどうしたのじゃね? ……アルバート大公」


「夜分遅くに申し訳ありませんラウド大統領……ですが

可及的速かきゅうてきすみやかにおたずねするべき問題が発生しまして……」


「問題じゃと? ……何があったのじゃね? 」


「ええ……つい先程の事なのですが

我が国に“密偵みってい”が入り込んだ様なのです。


無論、我が国でも腕利きのトライスター二名を捕縛に当たらせたのですが

残念な事に取り逃がしてしまいまして……」


「ふむ、それはまた災難さいなんじゃが……して、アルバート殿

その様な事件があった今……わしにたずねたい事とは何じゃね? 」


「ええ……その件についてなのですが。


逃してしまった密偵みっていが落とした物と思われる“地図”を入手したのですが

その地図に“見覚えのある筆跡ひっせき”が残っておりまして。


……まさかとは思ったのですが、この筆跡ひっせき

“主人公君”の物と一致しているのですよ。


更に、逃してしまった密偵みっていの種族は“獣人族”で有った上――


主人公君かれの物と思しき魔導力かおりただよわせて居た”


――との報告がローズマリーから上がっております。


ラウド大統領、これがどう言う意味を持つか……お分かりですね? 」


「ふむ……何かの間違いと言う可能性は無いんじゃろうか? 」


「“間違い”ですか……それでしたら

例えば――


“彼に恨みを持つ者がわざと疑われる様仕向けた”


――とも考えられますね。


ですが、いずれにせよ本人にたずねるのが一番かと思いますので

どうでしょう? ……明日辺り

主人公君に我が国へお越し頂くと言うのは」


「ふむ……しかし、この様な夜分遅くに

主人公殿の安眠を妨害ぼうがいするのは避けたいからのぉ。


そう言う訳で、申し訳無いのじゃが……明日

主人公殿が目覚めた頃、アルバート殿の希望を本人に伝えて置く故……


……それまで待って貰えるじゃろうか? 」


「ええ勿論です、そちらにも……いえ。


彼にも“時間”は必要でしょうから……では、お待ちしております」


<――直後

不気味な言葉を残し通信を閉じたメリカーノア大公国の長


“アルバート大公”


この瞬間……俺の信じていたアルバートの姿は瓦解がかいした。


優しさなど微塵みじんも無く……ともすれば明日以降

俺の命を何らかの方法で奪うつもりとすら思えたその声は

明日までと言う、あまりにも短い“準備期間タイムリミット”を叩き付けて来た。


あるいは……俺を呼び出し、政令国家ここを手薄にした上で

政令国家ここもろともその全てを奪うつもりなのかも知れない。


そもそも……此処ここを手薄にする事だけは何としても避けたかったのに

今の通信の所為でメリカーノア兵達を

怪しまれず撤退させる事が絶望的に成ってしまった。


余りにも解決の困難なこの状況……だが、この状況に対し

一石を投じ……いや。


隕石の様な“巨石”を投じた男が、たった一人だけこの部屋に居た。


その“男”とは――>


………


……



「主人公、貴様は何やら“自惚うぬぼれて居る”様だが……


……よもや、我の存在を忘れては居らぬだろうな? 」


<――地響きの様な声で静かにそう言ったのはモナークだった。


彼は続けて――>


………


……



「貴様の甘い思考とその結果が生み出した記憶の断片が

契約にって我にも流れ込んだ事……貴様も理解はしているだろう。


そして……貴様が経験した旅の最中

彼奴アルバートの発した言葉を貴様は信じ……


……そして彼奴きゃつの全てを信じ切った。


何処どこまでも……愚かな事よ」


<――と、これでもかと言う程俺の事をけなしまくったモナーク。


そして、一切の反論が出来ずうつむいて居た俺に対し

モナークは更に続けた――>


「……彼奴きゃつの様な者が望む事など貴様と我の持つ“力”程度の事であろう。


そして……斯様かような者に憧れをいだ

失策しっさく続きと成った貴様をこの場でわらい続ける事は容易たやす

また、愉快でも有るだろう……だが。


貴様のみらず、我の顔にまで泥を塗らんとする者を我は決して許さぬ。


ゆえに……主人公。


我は貴様に要求する――」


<――そう発し、眼光鋭く俺の目を見据みすえたモナーク。


直後……余りにも凄まじい迫力に思わずおののいてしまった俺に対し


モナークは――>



………


……



「……メリカーノアにくみする全ての者共を


此処ここで――


“敵で有る”


――そう、宣言せよ」


===第百五六話・終===



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