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第百五五話「調べるのは楽勝ですか? ……後編」

<――獣人王国でブランガさんに対し

“メリカーノアに対する密偵スパイ”と成る事を頼んだ俺。


だが紆余曲折うよきょくせつあり、結果として……彼の代わりに

彼の兄である“ダグラス”さんがこの任務を引き受けてくれる事と成った。


……そして、この決定から暫くの後

ダグラスさんを連れ、一度政令国家へと戻る事と成った俺は

ラウドさんらを交えつつ、あの国で調べるべき事を精査せいさして居た――>


………


……



「……二人の邸宅はこの地区に有りますので

メリカーノア到着後は其処そこへ向かって頂く事に成るかと思います。


その上で、応答が無い様でしたら何らかの方法で邸宅に侵入し

客間に飾られている“サラさんの肖像画”を確認して頂き

それを“情報”としてご活用頂くのが……」


<――地図を指し示しながらそう伝えて居た俺。


だが、ダグラスさんはこの説明をさえぎり――>


「……待ちな。


作戦はそれで構わねぇが……男の方の肖像画はねぇのか?

顔立ちが理解わからねぇとすれ違ったって判らねぇだろ? 」


「え、ええ……それについてですが

俺達が旅立った時にはまだ、婚姻こんいんとまでは至らぬ状況でしたので

その後にオウルさんの肖像画も作られた可能性は高いのですが

“万が一にも”と言う事がありますので

一応、見た目の特徴は口頭でご説明させて下さい。


それでその……何と言うか、オウルさんは

鳥類の“フクロウ”にとてもよく似た風貌ふうぼうをしていますので

一目見れば直ぐに彼だと判る筈と言いますか、何と言いますか……」


「ほう? ……そんで名前が“オウル”だと?

本人に取っては災難さいなんだろうが……面白ぇ話だ。


まぁ良いさ、さて……他に俺が知っておくべき事はねぇのかい? 」


「そうですね、後は……あッ!

……少しでも危ないと思ったら深追いせず、直ぐに逃げて下さい」


「ふっ……おめぇさんは心配性だな。


だが、ありがとよ! ……さて、それじゃあ早速

メリカーノアって国に行ってみるとするか! ……」


「ええ……って少々お待ちを!


……政令国家ここから向かってしまうと

万が一にも怪しまれてしまう可能性がありますので

一度獣人王国へお送り致しますね」


「おぉ! 其奴ソイツぁ助かるぜ!


まぁ……仮にも危険のともなう任務だ

俺も一度ブランガに“別れ”を告げておきてぇと思ってたんでな……」


「別れ……あっ、いえその……」


「ん? ……おいおい主人公とやら、今おめぇは一体“何を想像”したんだ? 」


「い、いえ……その……」


「ふっ……安心しな! そう簡単に死にゃあしねぇからよ! 」


「え、ええ……」


<――この後

ダグラスさんを獣人王国へ送り届けた俺。


だが……いよいよ出発と成った時、念の為

彼に何らかの防衛魔導を掛けておこうと考えた俺は

様々な防衛魔導の中で、この所“乱発している”上位技の中に

この状況に一番てきしていると思われる技を見つけ

それを使用する事を決めたのだった。


その技の名前は――


避役之捕食カメレオンプリディション


――まぁ、字面だけを見れば恐ろしく思えたが

この技の効果が――


“技を掛けられた者が危機的状況におちいった時

掛けられた際に立っていた場所へと強制転移される”


――と言う、抜群に使い勝手の良い効果を持って居た事もあり

当然、万が一にもダグラスさんが危ない目にわない為

深く考えず直ぐにこの技を使用した俺。


だが……それと同時に

少々“面倒過ぎる”デメリットを持つ技だと

“発動後”に知る事と成ってしまったのだった。


この技のデメリット、それが――


“術者は技の発動以降にいて

効果の発動、しくは術の解除を行わぬ限り

半径一メートルを超える移動の一切が制限される”


と言う、少々……いや、とんでも無く面倒な物だった事。


いずれにしろ、この瞬間から俺は……約半畳程のスペース

ブランガさんとダグラスさんが暮らす家の玄関横で

ただ座って待っている事しか出来なくなってしまい……そして

その事をこっそりとダグラスさんに伝えた所

彼は、動けなく成った俺の事を暫くの間笑い続けた。


……その事に若干“イラッ”としつつも

彼の笑いが収まるのを待っていると

笑い過ぎて乱れ切った呼吸を整えた後――>


………


……



「いやぁ~すまねぇすまねぇ! ……しかし面白ぇ御仁ごじんだぜ。


だが、俺の為に其処そこまで面倒な技を使ってくれたって事だ……


……おいブランガ! 食事や何やの世話は任せたぜ?

まぁ、おめぇは“ペットの世話”すら苦手なズボラだから少々不安だがよ?


さて、おふざけはこの辺だ……じゃあ、二人共。


行ってくるぜ――」


<――とブランガさんに俺の世話をする様伝えた直後

俺達の“行ってらっしゃい”も聞かぬ間に

凄まじい勢いで走り去ったダグラスさん。


その後姿に――>


………


……



「凄いな……リオスと肩を並べそうな位に早い」


<――余りの俊足しゅんそくに思わずそう言ってしまった俺

一方、ブランガさんは得意げな顔で――>


「当たり前だぜ! ……兄貴はこの王国内でも一二を争う足の速さだぜ?

リオスの野郎も中々に早いが……俺には兄貴の方が早く見えるんだがな!


っと、悪い悪い! ……主人公の旦那、腹は減ってねぇか?

それよりずは椅子か何かが必要か?


……欲しい物が有るなら何でも言ってくれ!」


「いえ、其処そこまでお気遣い頂かなくても……」


<――などと話していた俺達。


だがそんな中、騒ぎを聞きつけたのか

直ぐに俺達の元へと現れたミヌエット王女は――>


「これは主人公様! ……って。


何故ゆえ、玄関先でお座りに成られて居るのです? ……ハッ?!


……ブランガっ!

我が獣人王国の大恩人に対し、玄関先での応対で済ませるとは……」


「い、いやいや!! ……これには理由が有りまして!

ブランガさんは何一つ悪く有りませんので! ……」


<――この後

慌ててミヌエット王女に事の顛末てんまつを説明する羽目に成った俺。


そして、暫くの後……全てを聞き終えたミヌエット王女は

近衛兵達に対し――>


………


……



「……主人公様は王国のまもり神とも言うべき大恩人の内の御一人です。


至急、主人公様を雨風から守る為の屋根や食事……それと

快適に眠る事の出来る寝具を用意するのですっ!

急ぎなさい! ……我が国の復興作業など後回しで構いませんッ! 」


<――と。


これでは恩人どころか


“逆に獣人王国の民達に恨まれるのでは無いか? ”


と思える程の特別扱いを命じたミヌエット王女。


無論、これを全力で断った俺は――>


………


……



「そ、そのっ!! ……もし雨が降り出したら

傘か何かを用意して頂ければそれで構いませんし

食事も御迷惑に成らない程度の量で構いませんし

就寝時には掛毛布か何かが一枚……


……それも、捨てる予定だった様なので構いません。


何と言うか……俺の事を気遣って頂けるのはとても光栄なのですが

お願いです、獣人王国ここの復旧を優先して下さい。


……俺にはその方が何千倍も嬉しいので! 」


「そうですか……ですが、流石に捨てる様な毛布を

大恩人たる主人公様にお渡しするのは了承出来ません。


……兵達よ!

至急私の寝室から毛布を数枚……」


「い゛ッ?! ……お待ちを!!!

仮にも女性の……それも獣人王国の長である

ミヌエット王女様の寝具を泥だらけにするのは恐れ多いので

本当に普通の毛布で……」


<――この後“気遣きづかい”がゆえに長引いた押し問答の末

何とか普通の毛布を用意して貰えた俺……だが

押し問答に興奮し過ぎて暑く成った所為で

毛布の暖かさが拷問に思えていたのは絶対に内緒だ。


……と言うか、万が一にも“暑い”なんて言おうものなら

それこそ今度は、うちわを持った数人の兵達が

俺を“冷凍する位”冷やそうとするに違いないと思えたから――>


(あ、暑過ぎる……だが、此処ここは我慢だ……)


<――この後、暑さに耐えきれず

それと悟られぬ様に飲み水を要求した俺だったのだが

汗まみれな俺の顔を見た兵に体調を気遣われてしまった挙げ句――>


「ん? ……妙だ、人族とは思えない程に身体が熱い。


これはまさか……皆の者ッ!!

主人公様は体調をお崩しに成られているのかもしれない!!

至急、解熱の為“あおぎ隊”を準備するのだ!! ……」


「い゛ッ?! てかそもそもあおぎ隊って何ぞッ?!


って……そんな事より!

その、毛布が暑過ぎただけですし

そんな“仰仰ぎょうぎょうしい隊”をお呼びに成らなくても! ……」


「何をおっしゃいますか!! ……主人公様の身に何かあれば

私共獣人族は最低の種族として末代まで……」


「いや……語られませんからッ! そんな気遣いは必要ありませんし

そもそも俺はお水だけ頂ければそれで! ……」


<――この後

台風と見紛うばかりの程の風を巻き起こした“あおぎ隊”と共に

恐ろしい程に大量の飲み物を用意されてしまった俺は

とても“居心地の良い”空間を作ってくれた獣人王国で

途轍とてつも無い“居心地の悪さ”を感じつつ

過ごす事と成ったのだった――>


………


……



《――主人公が一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくの度に苦労していた頃

獣人王国をったダグラスは

メリカーノアを目指し、その俊足しゅんそく遺憾いかん無く発揮していた。


そして、ふと思い出した様に――》


「しかし……面白い人間だ、主人公ってのは。


……だが、あんな純粋そうなのが

あんなにも切羽詰せっぱつまった表情カオする程だ。


俺にはどうも、調べる迄も無く怪しい国の様に感じるが……兎に角。


……少し、急ぐか」


《――そう言って更に速度を上げたダグラス。


彼がメリカーノアに到着したのは、この時よりわずか数時間後の事であった。


とは言え……辺りは日も落ち始めており

この様な時刻に入国を希望したダグラスをわずかに怪しんだ

メリカーノアの入国管理官……だが。


ダグラス瞬時しゅんじ機転きてんかせ――》


………


……



「お、お願いだ! ……この国を越えた所に

おらの妹が居るだで、早く帰ってやらなきゃ成らねぇ!


だが、こんな暗い中走ったら怖ぇ~魔物に襲われちまうかも知れねぇし

その為に用心棒雇う様な大金なんておら持ってねぇだよ……だから

今日は安宿やすやどさ泊まって、明るく成るまで待つしかねぇだ。


頼む……おらをこの国さ入れてけれ! 」


《――そう咄嗟とっさに“無害むがいな田舎者”を演じたダグラス。


そんな彼の態度に、入国管理官は少し悩みつつも――》


………


……



「ううむ……仕方無い、今回に限り入国を許可しよう。


それと……本来、現在の時刻ならば

入国税を割増で徴収する事と成っているのだが……


事情が事情だ……それも特別に免除めんじょとして置こう。


だが、今後は余裕を見ての入国を心掛けるのだぞ?

それと……妹を悲しませぬ様

明日は出来る限り早くこの国を発つ事だ……良いな? 」


「あ……ああ!! 有難うごぜぇますだ! 」


「うむ……大門、開放ッ!! 」


《――この後、無事にメリカーノアへの潜入に成功したダグラス。


一方の入国管理官は、去りゆくダグラスの背中を見つめながら――》


………


……



「……田舎者は物を知らないが

それゆえに純粋な願いを包み隠さずに話す。


しかし良い事をした……今日の仕事終わりにむ酒は

格別に美味い物と成るだろう……」


《――と、閉じられて行く大門の隙間すきまに見える

ダグラスの背中を満足気に眺めていた入国管理官。


その一方……大門が閉じた事を音で確認したダグラスは

田舎者の演技を止め……徐々に大通りから

人通りの少ない場所へと移動し――》


………


……



「ふぅ……“泣き落とし”の効く優しい相手で助かったぜ。


……さて、この辺りなら良いだろう。


邸宅は何処どこだったか……」


《――直後、懐から取り出した地図を広げ邸宅の位置を確認した後

サラ邸の有る南区画へと向かったダグラス。


そして暫くの後、サラ邸へとたどり着いた彼は

正面玄関……では無く。


……“裏口”へと向かい、扉の前にしゃがむと

ふところから数本の針金を取り出し――》


………


……



「こそ泥みてぇで余り気分は良くねぇが……っと、開いたか」


《――いとも簡単に解錠し

辺りを警戒しつつ邸宅内へと侵入したダグラス。


慎重しんちょうに邸内を物色しつつサラの肖像画を探し始めた彼は

暫くの捜索の後、比較的新しいと思われる

サラとオウルの仲睦(仲睦)まじい姿がえがかれた

“夫婦の肖像画”を発見する事に成功した――》


………


……



「ふむ……女の方は可愛げの有る人族で

男の方はっと……成程、確かに“フクロウ”だな。


まぁ、幾分いくぶんいさましい顔立ち”に描かれているのは

少し差し引く必要があるかも知れねぇが……兎に角。


顔は覚えたし、そもそも家主はおろ

使用人すらこの家には居ねぇって事と……長く空けてやがるのか

邸内がほこりだらけな事もしっかりと理解出来た。


……主人公アイツが恐れてた

“余りよろしくねぇ状況”って奴じゃ無ぇと良いが……さて。


他には……絵師の名は“クロエ”か。


何処どこかで聞いた名前だが……いずれにしろ

この絵師に二人の事をたずねてみる必要があるかも知れねぇな……」


《――暫くの後、邸宅を後にしたダグラスは

道行く者にクロエの事をたずね、邸宅の位置を聞き出すと

可能な限り目立たぬ道を選びつつ

彼女クロエの邸宅を目指したのだった。


そして……目立たぬ様、慎重に歩を進める事数時間。


彼が邸宅の有る山頂へと到着したのは、深夜と呼べる時間帯であった。


……だが、窓からは灯りが漏れており

微かに人影が動いている様子もうかがえた。


この事にほんの少し警戒感を強めつつも

思い切った様子で正面玄関へと足を進めたダグラスは

玄関の扉を少し強めにノックした――》


………


……



「はい……って、こんな深夜に何かしら?

余り常識的な訪問時間とは思えないのだけれど? 」


《――わずかに開かれた玄関扉。


その隙間から警戒した様子でダグラスの姿を確認しつつ

少しばかり不機嫌な様子でそうたずねたのは、絵師クロエであった。


一方、そんな彼女の質問に対し

ダグラスは――》


其奴そいつぁすまなかったな……だが“起きてる”様子だったんでな」


《――と、少しばかり無礼な返事を返した。


……だが、そんな彼の態度に怒るでも無く

クロエは少し微笑ほほえみ――》


「あら……芸術家に時間なんて関係無いもの。


むしろ、昼に訪ねてこられる方が余程不愉快な日だってあるし……


……と言うか、貴方の“飾らない態度”も何故か腹立たしく成らないし

そもそも丁度休憩しようと思ってた所だし

何か話があるのならお茶の席でも構わないかしら?


それとも……私の命でも奪いに来たのかしら? 」


「いやいや……おめぇさんが何かして来ねぇ限り

此方こっちからは何もしねぇよ」


「そう……なら、話の続きはお茶の席でしましょう? 」


《――そう言うと玄関の扉を大きく開いたクロエ。


直後……ダグラスを招き入れると、彼を工房に通し

彼の分もお茶と茶菓子を用意した上で――》


………


……



「さてと……こんな非常識な時間に訪ねてくる位だから

理由なんて数える程しか無いんでしょうけれど、一応聞かせて貰うわね?


一体……何が理由なのかしら? 」


《――ティーカップを口に運びつつ

そうたずねたクロエ――》


「ほう……なら単刀直入に聞くが

オウル、サラ夫妻の肖像画を書いたのはおめぇさんで間違い無いか? 」


「ええ、二人の結婚祝いにプレゼントとして進呈しんていしたわ。


私の大切な恩人であるライラさんの所属している隊の元同僚だし

二人の事……私が大切にしない理由は無いでしょ?

それと……此方こちらからも質問するけど、二人の事をたずねたって事は

貴方も二人と何らかの関係性が有るって事よね? 」


「ああ、直接の関係性は無ぇが……主人公って男から頼まれたんだよ。


何でも……“二人の安否あんぴわからねぇ”との事でな。


……おめぇさん、何か知ってるか? 」


《――この質問に対し、驚いた様子のクロエ。


暫くの沈黙の後……彼女は静かに首を横に振った。


その上で、彼女は――》


………


……



「それが……結婚祝いとしてあの絵を送った後

オウルさんから個人的に――


“除隊後……わずかながら寂しさを覚える事があり

つらい日々を過ごしておりましたが……


……頂いた肖像画でとても心が晴れやかに成りました。


ですが同時に、これ程の写実的しゃじつてきな絵を生み出せる

貴女にしか頼めない事を思いついてしまったのです。


クロエさん……出来ればで構いません

隊の絵を書いては頂けませんでしょうか? ”


――との依頼を受けたの。


そして話を聞いた瞬間……私は心の底から

“彼の願いを叶えてあげたい”と思っちゃったの。


だから、その日の内に彼の記憶を元にした全員分の人相書きを作り

彼の所属していた隊の皆さんの服装と

それぞれのイメージに合わせた立ち姿に至る迄を詳細に……って。


……見て貰った方が早いわね」


《――そう言うと、工房の棚に仕舞しまわれて居た

“未完成の絵画”を取り出したクロエは――》


「……“これ”を仕上げる為に

聞きそびれて居た細かい特徴を聞いて置きたくて

オウル宛に手紙を出したのだけれど

中々返事が帰ってこなくて、私も困っていた所なのよ……」


「成程……連絡が付かなくなったのは何時からだ? 」


「依頼を受けた時、直接話したのが一ヶ月程前で

手紙を出したのが半月程前だから……」


「成程……するってぇと、少なくとも二週間

長けりゃ一ヶ月も行方不明って事か……なら、更にたずねるが

おめぇさんが思うこの国の“マズい部分”は……何かあるか? 」


「そうね……少し前よりはマシになったけれど

まだまだ政治が腐敗ふはいしている事かしら。


……ライラさんを始めとする

私の依頼を解決してくれた有能な女性達のお陰で

この国に蔓延まんえん)していた“女性に対する軽視問題”は

少しずつ解決に向かっては居るけれど、その一方で

国防の名の下に手段を選ばない所は悪化したわ。


特に“トライスターに対する権限の与え方”がね……」


「ほう……じゃあもう一つ聞くが

オウルってのが何かしらの戦闘技術を持ってるのは

“隊”と名の付く所に所属してた事でも判るが……


……サラってのも、おめぇさんの言うトライスターか何かなのか? 」


「いいえ? ……オウルさんは兎も角

サラさんは薬師だし、魔導適正だってほとんど無かった筈よ? 」


「ほう……なら

オウルってのがとんでも無い力を持ってるって事は? 」


「どうかしら……“隊では防衛魔導を担当していた”とは聞いたけれど

それ以上は流石に絵にも必要な情報じゃ無いし……」


「そうか……知ってる事はそれで全部だな? 」


「ええ……余りお役に立てなくてごめんなさいね」


「いや、凄まじく助かったぜ? ……少なくとも


“おめぇさんに絵を頼んでおきながら

そのむねを連絡せず旅行に行ってるって訳じゃ無い”事は確定した。


それと……二人共


“まだ生きているなら”


この国の何処どこかに居る筈だって事もな。


まぁ、そう言う事だ……引き続き調べる必要も有る。


俺は御暇おいとまするが……夜分遅くにすまなかったな」


《――そう言いつつ差し出された茶と茶菓子を一気に頬張ほおばると

屋敷を去ろうとしたダグラス、だがそんな彼に対し――》


「待って……夜も遅いし、貴方が危ない人じゃ無いのも分かったし

それに、少し疲れている様にも見えるわ?


……泊まって行っても良いのよ? 」


「重ね重ねありがとよ……だが、急ぎなんでな。


……っと、そうだ。


この家を見る限りは相当に高価なんだろうとは思うが……


……もし暇があったら“俺の肖像画”も書いて貰いてぇもんだ。


ま、その時までには少しばかりたくわえて置かなきゃ成らねぇだろうがな!

ハッハッハ! ……じゃあな、クロエさん」


《――そう言って

少し照れた様な表情を浮かべつつ屋敷を去ったダグラス。


一方、彼の去った後クロエは――》


………


……



「……もしオウルさんとサラさんに何らかの問題が起きていて

それを貴方が解決したのなら……むし

私の方から頼んででもえがきたい位よ。


気をつけてね……“名無しの獣人さん”」


《――そう言って玄関の鍵を掛けたクロエ。


一方――》


………


……



「さて、聞いた限りじゃ二人はまだこの国に居る可能性が高ぇが……」


《――クロエ邸を去り、今来た道を引き返して居たダグラス。


だが……下山途中、彼は咄嗟とっさに物陰へと隠れた。


その直後……森林の影より

目深まぶか頭巾フードを被った二人の男女が現れ――》


………


……



「本日もご苦労様でした……では、此方こちらへ」


「ああ……しかし転移魔導すら使えぬ建材とは

アルバートも随分ずいぶんと面倒な作りにした物ですねぇ? ……」


「申し訳御座いません……ですが、機密を守る為で御座いますし

アルバート大公殿下のご指示も当然かと……」


「あぁ、分かっていますローズマリー君

君を責めた訳じゃないし、些細ささい愚痴ぐちを言っただけですから。


さて……次は何時いつ来れば良いので? 」


「今後の日程はアルバート大公殿下から直々にご連絡が有る物かと」


「それもそうですね……なら

それまでは此方こちらも骨休めして置くとしましょう。


では、また後日……」


《――そう言うと

“無詠唱転移”をもち何処どこかへと消え去った一人の男。


一方……その男が去った後、男が立っていた場所に視線を移し

小さく、だがとても“大きく”――》


………


……



「……チッ!

アルバート様も何故あの様な男の力を借りるなどと……全くッ!


ライドウ、本当に不愉快な男ですわ……」


《――そう不快感をあらわにしたローズマリー


暫くの後……彼女も“無詠唱転移”に

何処どこかへと消え去ったのだった――》


===第百五五話・終===

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