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第百五二話「激務と約束の両立は楽勝ですか? ……前編」

<――急遽きゅうきょ決定と成った

メアリさんをトップとした“研究機関”の立ち上げ……だが

その決定が下った瞬間、俺の激務も“決定”と成ってしまって――>


………


……



「さて……研究機関の人員についてじゃが

主人公殿の肝煎きもいりで設立された“義務教育学校”から

魔導生物学及び、薬草学を専攻しておる学生を“学生研究員”として受け入れ

勉強の一環いっかんとして……また、人員の確保とする案を考えておる所じゃ。


……その上で、エリシア殿には薬草学の知識を活かし

この魔物に効果のある“武器としての”薬草を発見して貰いたいのじゃが

エリシア殿には“一角獣ユニコーン育成”と言う重要な仕事が既にある。


ゆえにその補佐として、少なからず主人公殿にも

研究機関の運営に関わって貰う事に成るぞい? 」


<――ラウドさんのこの発言の直後、俺の激務は確定した。


ず――>


「……現在十数人体勢で冷凍し続けて居るこの魔物じゃが

兵達の休息も考えれば数日に一度、主人公殿にも

“冷凍任務”をけ負って貰う事と成るじゃろう。


……大変な職務じゃが、主人公殿の力も必要なのじゃよ」


<――と

“冷凍任務”を任された事を皮切りに――>


「あっ!! ……そういえば!

この“変なの”がチビコーンのところに出ないとも限らないよね?!

チビコーンはまだまだ子供だから自衛手段も無いし……


……ねぇ主人公っち、もし良かったら

植樹しょくじゅ活動の為に力を貸してくれないかな?

それこそ、この間の“狂華乱舞ワザ”とかで……」


<――と、エリシアさんから

チビコーンの森の手伝いを任され――>


「森で思い出したが……主人公。


御主が昨晩さくばん何らかの治癒魔導を使った事を引き合いに出し

精霊女王デイジーが――


“森の保全活動を急いで欲しい”


――と、私達エルフ族とダークエルフ族らに対し連絡を寄越よこした。


ゆえに……エリシアの言う“技”

政令国家周辺の森の為にも使ってはくれないだろうか?

当然私達も協力は惜しまないが、御主の力があれば百人力で……」


<――と、オルガからも森の保全を頼まれてしまった俺。


だが、この尋常ならざる過密かみつスケジュールに

思わず――>


………


……



「い、いやいやいやいやッ!!

……皆して俺一人にどんだけ任せるつもりだよッ!? 」


<――と、至極真しごくまとうな反応をした俺の様子に

流石のラウドさんも――>


「ううむ……確かにこれでは主人公殿の負担が多過ぎる。


モナーク殿、魔族種にも氷系の技が得意な者が

相応そうおうに居った様に記憶しておるのじゃが……」


如何いかにも……だがそちらに融通ゆうずうすれば

“例の物”の製造に影響が出るが……構わぬのか? 」


「ううむ、そうじゃった……じゃが

主人公殿の負担を減らす為ならば仕方あるまい……主人公殿

暫くの間“ビン牛乳”の生産量が減ってしまうが、構わんかね? 」


「えっ? ……全然構いませんけど? 」


「ふむ……“ビン牛乳マニア”の主人公殿が

それ程あっさりと承諾しょうだくするとは思わなかったぞぃ。


しかし……これで少しは、主人公殿も楽になるじゃろうて! 」


「それは助かりますけど……ってか、俺

流石に其処そこまで“ビン牛乳命”って訳じゃ無いんですけど……」


<――と、俺のビン牛乳愛に関して

“若干の誤解”があった事は兎も角として

これでわずかにでも俺の負担が減った事は喜ばしい限りだ。


ともあれ……次の議題となったのは、エリシアさんが担当している

通称“チビコーンの森”に関する物で――>


………


……



「えっと~……頼んでおいて何だけど

主人公っちに頼り過ぎるのも申し訳無いし、植樹しゅくじゅ自体を早めたいとは言え

そもそも、植樹しょくじゅの為のなえ自体が圧倒的に足りて無くて困ってる所なんだよね~


……それに、植えれば何でも良いって訳じゃ無いし

仮に“喧嘩し合う”植物同士を植えちゃったら

逆に森の健康とチビコーンの体調を崩す原因に成っちゃうから……」


<――と“チビコーンの森”だけで無く

現在、ほぼ全ての森がかかえている治療速度の鈍化……


……その“主原因”について頭を抱えていたエリシアさん。


確かに、木や花の苗を育てる為に本来必要なのは

魔導でも何でも無く……“時間”だ。


植物が育つのにはそれなりの時間が必要な事位は俺でも知っている。


だからこそエリシアさんも……そしてオルガも

狂華乱舞きょうからんぶ”の“光の側面”を頼ろうとしていたのだろう。


当然、俺だって出来る限りの協力はしたいが、正直

“チビコーンの森”だけじゃ無く、オルガの言った様に

“政令国家周辺の森と草原”をも

早急に治療しなければ成らない事を考えた時

あの技の“結構な”魔導消費はかなり大きな不安材料だし

その上、あの技は発動時の精神状態が“安全性”に密接みっせつに関係している。


……もしあの技の“闇の側面”が防げなかったら

待っているのは目を背けたく成る程の悲惨ひさんな結果だ。


そもそも……トライスター専用技も

新しく覚えた“上位技”と呼ぶべき技も

そのどれもが“ハイリスクハイリターン”な性質を持ち

乱用は出来ない諸刃もろはつるぎだ。


無論、俺自身もその事に相当悩んでいたのだが

そんな事はお構いなしとばかりに議論は白熱していて――>


………


……



「どうするべきかのぉ……っと、そうじゃ!!


……第二城に居る人馬族ケンタウロス牛人族ミノタウロス

エリシア殿が管理している森の護衛兼

植樹しょくじゅ隊”としての役目をになって貰うのはどうじゃろうか? 」


<――と、良案を出してくれたラウドさん。


直後……両種族に確認を取り、協力を得られる事と成った。


これで残る仕事は政令国家周辺の森に対する

狂華乱舞きょうからんぶ”だけかと思って居た俺だったのだが――>


………


……



「あの……何故に俺まで駆り出されてるんでしょうか? 」


<――数時間後

何故かエリシアさんの管理している

“チビコーンの森”へと駆り出されていた俺。


人馬族ケンタウロス牛人族ミノタウロスの両種族を転移させる為、一時的に駆り出されただけ”


と言う訳では無かった様で――>


「えっとねぇ~……持って来たなえの量がやっぱり心許無こころもとないから

一応“例の技”をもう一回やっといて欲しいのと~

あの“恒例こうれい行事”が白熱し過ぎた時に

止める為の“監視役”みたいな感じかな~? 」


<――そう言いながらエリシアさんが指し示した場所では

例にって、人馬族ケンタウロスVS牛人族ミノタウロスの“オセロ大会”が開催されていた。


確か約一年程前だったか……


彼らの争いを止める為、俺が渡した――


“オリジナル・オブ・オセロ”


――どうやら、いまだに“一ヶ月間の所有権”を賭け

定期的に勝負をしているらしいのだが――>


「ああ成程……しかし

良くもまぁ飽きもせずにオセロばかり……って。


……あ゛ッ!!! 」


<――直後


俺の隣に居たエリシアさんも彼女に寄り添っていた

“チビコーン”も俺から漏れ出る殺気にとても驚いていた。


……それもその筈。


俺の眼前で繰り広げられて居たオセロ大会に使用されている

“オリジナル・オブ・オセロ”の台に、明らかな……


……“破損箇所”が見つかったのだ。


と言うか、あの日俺は両種族に向け確かに言った筈――


“少しでも壊れてたら……そこそこキレます”


――と。


そして、彼らは確かにあの時“同意した”筈――>


………


……



「……お~い人馬族ケンタウロス牛人族ミノタウロス達~

何だか知らないけど主人公っちがブチギレてるぞ~?

取り敢えずオセロ止めて主人公っちの様子を……」


<――と、両種族に警告するエリシアさんの声を背中に受けつつ

両種族の元へと転移した俺、そして――>


………


……



「あの……言いましたよね?


壊したら“キレる”って……」


<――俺がそう言った瞬間

両種族の石を置く手が止まったし

明らかに焦った顔をしている事も良く分かった。


だが、俺の怒りはその程度の反応では全くもって収まらず――>


「これが他のどのゲームよりも大切な、この世界に始めて生まれた

“オリジナル・オブ・オセロ”だと知ってたかどうかは別として……


……ずは質問です。


何故、こんな壊れ方をしているんです? 」


<――そうたずねた俺に対し、滝の様に冷や汗を流しつつ

恐る恐る口を開いたのは人馬族ケンタウロスの長で――>


………


……



「……そ、それがだな!

幾度目かの勝負の際“待った待たぬ”の争いに成り

言い争って居た時、その……机から……落下してだな……」


「へぇ~そうだったんですね。


……あぁそうそう。


“馬肉”って美味しいらしいんですけど

俺一度も食べた事が無くてですね……今日辺り

“食べてみよう”かなと思ってるんですが……」


「ま、待て主人公殿っ!!

……つ、机から落としたのは牛人族ミノタウロスの方だ!

そ、それに……牛肉の方が美味うまいし、君も恐らくは食べ慣れているだろう!? 」


「き、貴様ッ!!


……わ、我々牛人族ミノタウロスは身体が人間なのだぞ?!

そ、そもそも……人肉を喰らうのと変わらぬ愚行を

まさか主人公殿程の御仁が行うとは到底思えぬ!


な、なぁ主人公殿?! ……そ、そうであろう?! 」


「確かにそうですね、でも……牛の“頬肉”って美味おいしいらしいですよ? 」


「な゛っ?! ……早まってくれるなッ!!


……そ、それよりもだ!

元を正せば、人馬族ケンタウロス共がかたくなであったのが原因なのだ!

らうならば人馬族ケンタウロスをだな! ……」


<――と、俺の異常な“ぶちギレ具合”を目の当たりにした両種族は

お互いに罪を擦り付け合ったのだった。


だがそんな中、エリシアさんは――>


「成程ぉ~……主人公っちがブチギレな理由が良く分かった~っ!


けど、それなら修理すれば限り無く元通りに成るだろうし

ガンダルフに頼めば作った本人だから

完璧に直してくれると思うんだよねぇ~……で!

此処ここ植樹しょくじゅも早く進めたいって事で~

今日、より多く植樹しょくじゅ出来た種族には

エリシアさん特製“青薔薇で作ったトロフィー”を授与して~

少なかった方にはそのオセロの――


“修理代を払わせる”


――って言うのはどうかな主人公っち?


主人公っちがイライラしている原因も少しは解決するし

そもそも……この森の為にも成るし~? 」


「ふむ……確かに良い案ですね

ガンダルフなら新品の様に直せるでしょうし……」


<――と、答えた瞬間

エリシアさんは両種族達の方へ向き直り――>


「よぉし! 主人公っちの許可もおりた~っ!

って事で両種族共~っ! 今から左右に分かれて植樹勝負だ~っ!


けど、速度ばかり優先して雑に植えたら……今度は私が“キレる”からね?


と言う事でぇ~っ……スタートぉ~っ!! 」


<――と、戦いの火蓋ひぶたを切って落とした。


ともあれ……直後、目の色が変わった両種族は

用意されていたなえを凄まじい速度でえ始め……暫くの後

ギリギリの所で牛人族ミノタウロス達が勝利を収め

エリシアさんから“青薔薇のトロフィー”を授与されていた頃――>


………


……



「……くっ!

修理費など痛くもかゆくも無い……だがッ!!

何故壊した張本人である其奴そやつらが表彰され

我々、人馬族ケンタウロスがこれ程の屈辱くつじょくを味わわなければ成らないッ!


……気に入らぬッ!! 」


<――と、人馬族ケンタウロス達が苛立いらだちをあらわにし始めていた一方で

牛人族ミノタウロス達は、これに気を良くしたのか――>


「フッハハハハッ!! ……我々の方が優秀だと言うだけの事よ! 」


<――と、あおったのだった。


すると、そんな様子を見ていたエリシアさんは――>


「えっと……植え方の綺麗さは人馬族ケンタウロスの方が勝ってるし

ヒイラギのトロフィーで良かったら人馬族ケンタウロスにもあげるよ~? 」


<――と“こう成る”事を予想していたのか

勝負の最中に作ったと思われる

ヒイラギのトロフィー”を取り出しながら

人馬族ケンタウロスに対しそう言った。


直後、かなり食い気味でこのトロフィーを欲した人馬族ケンタウロスの長。


何と言うか“必死感”に若干引いたが

ともあれ、このいきはからいのお陰もあってか騒動は直ぐに幕を閉じた。


……かに見えたが、なおも騒動は続いた。


だが、そう成ってしまった理由は両種族では無く

まさかの“チビコーン”が原因であった。


……“チビコーン”は双方のトロフィーを交互に見つめ

とても物欲しそうにエリシアさんの事をツンツンと突付いた。


そして……そんな“チビコーン”の行動に対し


“萌えた”のか――>


………


……



「おぉぉぉぉっ!! ……チビコーンの為なら

ヒイラギと青薔薇……どっちも使った首飾りを作ってあげる~っ♪


そうと決まれば……待ってるのだ~っ! 」


<――言うや否や、凄まじい勢いで可愛い首飾りを作り上げ

“チビコーン”の首に優しく掛けてあげたエリシアさん。


そして、この首飾りに喜び

満足げに前足を跳ねさせ喜びを表現した“チビコーン”……だが。


それと同時に、両種族への“トロフィー”よりも

明らかに質の高い作りに、両種族共

今度は“これ”を欲し始めてしまったのだが

流石に辟易へきえきとして居たエリシアさんは


両種族に聞こえる様に――>


………


……



「ねぇ主人公っち……そろそろ“例の技”放って貰っても良いかな?


……ああ、そうそう。


あまりうるさく“駄々をこねる種族達”が居たら

敵とみなして“巻き込んでも”良いんじゃ無いかな~? 」


<――と、恐ろしい注文をつけて来た。


と同時に“駄々をこねる種族達”はギョッとした表情を浮かべ

直後、大人しさを取り戻したのだった。


ともあれ……暫くの後


精一杯心を落ち着かせた俺は――>


………


……



「……土の魔導。


花よ、咲き狂え――狂華乱舞きょうからんぶ


<――誰一人傷つけない為、限り無く穏やかな心で技を放った。


……結果はこの前と同じく

高く舞い上がった純白の花弁達が四方八方に散らばり

周囲を華やかな純白の花弁はなびらを持つ木々で覆った後

この前よりも広範囲を彩ったが……その一方で

俺の魔導力は結構な勢いで減って居た。


あくまで体感だが、二割程度……いや、三割は軽く減った様に感じたし

今日はこれを最後の仕事にしたい程の疲労感も同時に押し寄せて居た。


だが――>


………


……



「ふぅ、無事に終わってよかった……って、クレインから通信?


……どうした? クレイン」


<――そうたずねた俺に対し

通信先のクレインは――


“デイジーの容態がかんばしく無いのだ!

森の力も急激に弱まっている……急いで此方こっちに来てくれっ! ”


――と、慌てた様子で緊急事態を告げた。


何故突如としてこれ程の緊急事態におちいったのかは謎だったが

直後、エリシアさんと両種族に別れを告げた俺は

急ぎクレインの元へと飛んだ――>


………


……



「クレイン、デイジーさんの容態がかんばしく無いって一体……」


<――転移後そうたずねた俺の質問に答えず

とても慌てた様子で俺を引っ張っていったクレイン。


直後、到着した先に居たデイジーさんは――>


………


……



「デイジー……さん? 」


<――精霊女王デイジー

彼女は、ダークエルフ族に囲まれ必死の祈りを捧げられていた。


だが……始めて会った時ですら

お婆ちゃんと呼ぶべき姿をしていた彼女は、まるで

今にも崩れ去りそうな老木ろうぼくの様な姿へと変貌へんぼうげていた。


何故いきなりこんなにも凄まじい勢いで衰弱すいじゃくしてしまったのか

その理由は……直後、弱々しく発せられた

彼女の言葉にって、痛い程理解出来た――>


………


……



「済まないねぇ好青年……わたしゃあ、少し無理をし過ぎたのさ……」


「む、無理をし過ぎたって……


……それは俺の行動が引き金に成ったって事ですよね?

勿論、直ぐに俺が助けますから! ……」


「いいや……違う。


好青年……わたしゃあ、おぬしのかかげた

“全ての森に対する考え”に諸手もろてげて賛同したじゃろう?

それは勿論、御主の考えが嬉しかったからじゃ。


……じゃが

少々他の森に対して“協力し過ぎて”居た様でのぉ……」


<――この発言を聞いた瞬間、痛い程理解した。


彼女は……姉妹達を助けたい一心で

みずからの体調をかえりみず、出来得る限りの“協力”をした。


……いや、してしまったのだ。


そして……それでも何とか生きて居た所に

俺の“最上位治癒魔導”の発動にって“とどめを刺された”のだろう。


……にも関わらず

今にも消え去りそうな程衰弱すいじゃくしている現状げんじょうですら

俺の所為では無いと言い切り

俺の“心”を優先してくれた精霊女王デイジー


……この瞬間、俺は疲れとか魔導の消費量とか

そんな考えを全て捨て去り……彼女の為


ありったけの力を込めた“狂華乱舞きょうからんぶ”を発動した――>


………


……



「おぉ……綺麗な……技じゃ……

美しい花弁はなびらが舞い降りて……まるで、あたしの身体を……

天へと運ぶ為に生み出された“羽衣はごろも”の様じゃ……」


<――直後


純白の花弁はなびらに向けおがみ手をした精霊女王デイジー


だが、そんな彼女を優しく包んだ純白の花弁はなびら

勿論、彼女を“天に運んだり”などはせず――>


………


……



「何と言う……夢心地じゃ……」


<――そう声を上げたデイジーさん

彼女の周りで優しくただよった純白の花弁はなびら

周囲の木々へと吸い込まれる様に四方八方へと散らばり

木々達の“養分”として周囲の木々を青々としげらせた。


そして、そんな様子を嬉しそうに見つめながら――>


随分ずいぶんと楽になった……有難う好青年。


……手間を掛けてしまったねぇ」


<――そう言ったデイジーさん。


だが、その姿は決して本調子には見えず――>


………


……



「その……デイジーさん。


少なくとも、スライムの草原を元通りか

元よりも直さないとデイジーさんの調子は戻らない様に思うんです。


なので俺、もう少し頑張りたくて……」


<――そう伝えた。


だがその瞬間、デイジーさんは俺の身体を案じてくれて――>


「いいや……また、今度……気が向いた時で構わないよ……」


<――と言ってくれた。


……だが、この程度の“回復度合い”ではまた直ぐに

彼女の容態ようだいが急変してしまうかも知れないと考えた俺は

彼女の心配を余所よそに、なかば強引にスライムの草原へと転移し――>


………


……



「久しぶりに来たけど……本当、ひどいな。


いや……全部、俺の所為だ。


ちゃんと責任を持って直さなきゃ……」


<――転移早々

そう言わざるを得ない程にひどえぐれた草原を目の当たりにした俺。


……大きく二箇所えぐれて居るそのどちらもが“俺の所為”だし

俺が現れた瞬間、それまで平和そうにしていたスライム達の群れが

これ以上無い程に俺を警戒し、おびえ始めた状況にも

自業自得とは言え、とても心が痛くなった。


スライムからしてみれば、俺と言う存在は

さながら“仲良くなる前の魔王軍”と同じなのだろう。


何と言うか……とても居心地が悪い。


俺は……仮にも魔物であるスライム達を一切傷つける事無く

この場所を治療する為、精一杯心を落ち着かせ


……ひどえぐれたその場所へ向け

残り少ない魔導力を使い切る位の気持ちで

力の限り叫ぶ様に詠唱した――>


………


……



「土の魔導……花よ、咲き狂えッ!!


狂華乱舞きょうからんぶッッッ!!! ――」


………


……



<――直後


俺の目に映ったのは……現れた大量の花弁はなびらおび

ただ震える事しか出来ずに居たスライム達と――


――急激に進行方向を変え

その生命いのちかりり取らんばかりの鋭さをあらわ

彼らの下へと一直線に飛翔する花弁はなびらの姿だけだった――>


===第百五二話・終===

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