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第百五〇話「過去の苦しみを取り除くのは楽勝ですか? ……後編その二」

<――うつむいたまま一言も発する事無く

否定するでも肯定するでも無く、ただ沈黙し続けていたメル。


普段、とても優しい彼女が

ただの一度として見せた事の無いその姿に

息苦しさを感じる程の静寂せいじゃくが流れた……そして


そんな空気に耐えきれなくなったマグニさんは――>


………


……



「いや、済まなかった……大それた事を頼んだ俺が悪かった。


メル……いや、メルさん。


馴れ馴れしい態度を取ってしまい申し訳無い……」


<――見ている此方こっちが心苦しく成る様な取りつくろい方をし始めた。


だが、そんな時……ここまで沈黙を貫いていたメルは

ゆっくりと顔を上げ――>


………


……



「む、昔っ! ……そのっ……マグニさんが

どうやって生き延びたのか……ちゃんと話して下さい。


そっ……その上でっ!! ……お母さんの事ッ!

どうして助けに来なかったのかを、ちゃんと……


……ちゃんと話して下さいっ! 」


<――目に涙を溜めながらも

真っ直ぐにマグニさんを見つめてそう言ったメル。


叫ぶ様にそう問うた彼女に対し、マグニさんは――>


………


……



「……勿論だ。


何故俺が直ぐにメアリを救い出さなかったのか。


……いや。


救い“出せなかった”のかを……話そう。


俺は……メアリの言う様に右目に矢を受けその場に倒れた

そして、薄れ行く意識の中で

彼女メアリの叫び声だけが遠くに聞こえていたのだ。


……その一方で

“俺の生涯はこんな所で終わるのか”と言う、強い後悔も感じていた。


だが……どれ程に力を込めようとも身体は動かず

更に意識は薄れ、そして……」


―――


――



「……おぉ! 此奴コイツぁ中々良い鉄だッ!!


ソレっ!! ……おぉ、上物上物ッ!! ……」


《――王国の東門から少し離れた場所


放置されていたオーク族の亡骸なきがら……そんな死体の山をあさ

金目の物をみずからの荷馬車に積み込んでいた一人の男。


小汚い身なりで、汗だくに成りながら亡骸なきがらあさる彼は

一際大量の矢が刺さった“亡骸なきがら”へと駆け寄り――》


………


……



「ん? ……おぉ!! 矢羽根まで綺麗な矢がこれ程大量に!

この本数ならまとめて高く売れるぜッ!


そりゃぁっ!!! って……


……ぬわぁぁぁぁぁっっ?!! 」


《――彼が“亡骸なきがら”の右目に刺さった矢を引き抜いた瞬間

死亡していたと思われていたそのオークは


飛び起きる様に目覚め――》


………


……



「貴様ァァァァァッ!!! ……貴様ッ! メアリを何処どこへやったッ?! 」


《――と、クズ拾いの男の胸ぐらを掴み

勢い良く持ち上げた“元”亡骸なきがら……もとい、マグニは

生きている事自体が奇跡と言うべき状況にありながらも

みずからをかえりみず妻の身を案じて居た。


一方、そんな状況に慌てたクズ拾いの男は――》


………


……



「ま、待て待てッ!! ……おらはおめえの敵じゃねえ!!

メアリなんて“オーク”は知らねぇ! ……は、話せば分かるから!

お、下ろしてくれぇぇぇっ! ……」


「何? メアリはオークなどでは……ええぃ!!

ならば貴様は何をしていたッ!? ……言えッ!! 」


「お、おらはクズ拾いを生業にしているジョーってモンだ!

断じておめえさんの敵じゃねぇ! だから離してくれっ!! 」


「ふむ……ならば俺に協力しろ!


……長年協力関係にあった我らオーク族に対して“これ”だ

あの国は遅かれ早かれ人間以外の全ての種族に対し凶行きょうこうおよぶ可能性が高い

仮にそうなればメアリも……っ!!


何としても彼女を救わねばならんのだッ!!

貴様の荷馬車を使って俺を潜り込ませるのだッ! 」


「む、無茶言うなぃ!!


……此処ここいら一帯に転がってんのは全て王国の装備だぜ?!

誰が好き好んでクズ拾いから自分の所の装備を買うんでぃっ!!

直ぐに門で止められて……悪くすりゃおらの首が飛んじまう!!


だ、断じて……そんな協力は出来ねぇッ!! 」


「何だと……俺の仲間から装備を奪い私腹しふくやす貴様が

俺に協力をしないと言うのなら、今此処ここで貴様を……


……ぐっ?! 」


「お、おい! ……大丈夫でぇじょうぶかよ!?


な、なぁ……右目それだけじゃ無く何処どこ彼処かしこもひでえ状態だぜ?

もし今直ぐに潜り込めた所で、そのメアリって女を救う迄に

向こうさんの兵隊に捕まって殺されるのがオチだって!


……悪い事は言わねぇから、今は休みな。


それに……片目でも用心棒位は出来るだろ?

傷が治る迄で構わねぇから、暫くの間おらの用心棒でもしてるのはどうでぃ?


……そうすりゃあメシも食わせるし、いざ“姫様”救いに行くって時には

拾った装備の中でも一等上物なモンを“進呈しんていする”からよ!

なっ? ……どうでぃ? 」


「ふむ……確かに一理有るか。


だが、傷が癒える迄だ……良いな? 」


「お、おう! ……そうとなりゃ、早速荷馬車に乗りな!

戦利品を売りに行くついでに、治療薬を手に入れてやるからよ! 」


《――こうして

“クズ拾いの男ジョー”に同行する事と成ったマグニ。


……深刻であった怪我も徐々に癒え

クズ拾いの手伝いと、日々の鍛錬をこなす内に

戦いの勘すらも取り戻しつつあった頃――》


………


……



「……しかしマグニの旦那もクズ拾いに成れたモンだぜ。


最近はおらよりも数倍早く積み終わるってんだから

流石オーク族ってモンだよな!! ……アッハッッハ!!! 」


「ああ……曲がりなりにも世話に成って居るからな。


だが、そろそろ傷も癒えた。


……ジョー、俺は明日メアリを救いにあの国へと戻るつもりだ

長らく世話に成った事は本当に感謝している

この借りはいつか必ず返すと誓おう……」


「お、おう……そうかい。


んじゃ、今日はゆっくりと寝るんだぜ? ……っと!


最後ってんなら酒でもパーッと飲み交わして

お別れ会って事にでもしようぜ? 」


「ふむ……頂こう」


《――そう言って差し出された酒を口にしたマグニ。


この瞬間、彼は……酔いの所為では無い“深い眠り”に誘われた。


彼が眠りに落ちる瞬間……彼の眼には

ジョーの不敵ふてきな笑みだけが映った――》


―――


――



「……再び目が覚めた時には、両手両足にかせを着けられ

頑丈なオリの中に入れられ奴隷商どれいしょうに売り渡されて居たのだ。


俺は、初めからジョーに騙されていたのだよ。


……その後は、奴隷商どれいしょうから奴隷商どれいしょう

わるわる売られ続け、今自分が何処どこに居るのかさえ分からぬ程

何年も何年も方々を転々とする事と成り、次第に心が腐って行った。


……そして、何時の間にか俺は

大人しく“飼い主”の言う事を聞く奴隷どれいと成っていたのだよ。


だが……とある飼い主の家で雑用をしていた時だった。


遠くの道を歩いていた夫婦の話す内容が俺の耳にも届いたのだよ。


無論、何の事は無いごく普通の夫婦の会話だった……だが

それこそが、長らく腐って居た俺の心を再びよみがえらせたのだ。


……まして、俺を繋いでいたかせ堅牢けんろうさとは程遠い貧弱さで

少し力を入れれば容易よういに千切れる程の代物しろものだった上

幸運にも“飼い主”は家に居らず

遠くに見える夫婦も此方こちらには気づいて居ない様子だった。


一か八か……直ぐにかせを引き千切った俺は

そのまま近くに有った食料を持てるだけ持ち

何処どこに居るのかさえも分からぬまま、走りに走った。


何日も何日も……だが、何処どこまで走った所で

見覚えのある景色に辿たどり着く事は出来ず

ついに食料も底をつき……俺は

何処どこかも分からぬ場所で行き倒れた。


そんな時だ……“伯爵”に救われたのは。


サーブロウ伯爵……本当に感謝しています」


<――そう言ってサーブロウ伯爵の方を向き深々と頭を下げたマグニさん。


……そんな彼に対し、頭を上げる様うながした後

サーブロウ伯爵は――>


………


……



「懐かしいな……今から五年程前だったかな?

マグニは私の家の前で倒れていたのだ……だが、それはつまり

他の大陸から日之本皇国に奴隷どれいとして売られたと言う事なのだろうが

一体何処どこの愚か者が奴隷どれいにされた者を

“奴隷として使う為に”買ったのかは謎だが……私は

肉体だけで無く、精神すらもひど衰弱すいじゃくしていたマグニを

直ぐに屋敷へと招き入れた……とは言っても

使用人達が総出で台車に乗せ、やっとの事で

搬入はんにゅう”したと言うべき様な状況だったのだがね?


兎に角……直ぐに治療をほどこす為、回復術師ヒーラーを雇い治療させ

食事を取らせ、服を用意し……その後、興奮状態のマグニを落ち着かせる為

時間を掛けた事も昨日の事の様に覚えているよ……」


「その節はご迷惑をお掛けし……」


「いやいや……今と成ってはなつかしい笑い話だよ。


兎も角……その後、暫く経って聞かされた奥様の事と故郷の事。


無論、私も協力したくて方々から様々な地図を用意させたが

不幸な事に、十枚あれば十通りの地図が届いた事が

状況をより一層ややこしくさせたのだよ。


……マグニの言う“王国”が記載されている物を並べても

どれが正確なのかすら判別出来ず、

今だからこそ言えるが、マグニから聞き出した情報から察するに

彼が私の所に来る迄には、実に十数年方々を転々として居る計算に成った。


……そうなれば、彼の言う王国自体が無くなって居ても不思議は無かったし

もしその事実を伝えてしまえば

彼がひどく傷つくだろう事も容易よういに想像がついた。


そして……その時既に、私が絵本の所為で

“人に恐怖を感じる病”を発症していた事や

当時から既に“移動船は危ない”と言う噂を耳にしていた事も重なり

余計に“王国”を探す事が難しい物に成ってしまったのだよ。


……とは言え、私にあと少しでも勇気が有ったならば

もっと早くこの国に連れて来る事が出来たかも知れないと思っている。


マグニ……知らなかったとは言え、私の所為で

無駄な時間を浪費させてしまったと心から反省している。


本当に、申し訳無い……」


<――そう言って頭を下げた伯爵に対し

頭を上げる様、慌てて頼んだマグニさん。


だが、その一方で……何かを思い出した様子のガルドは

凄まじい勢いでメルに対し頭を下げた――>


………


……



「メル……吾輩は過去、主人公と共に

旧居住区に訪れた御主に対し下劣な発言をした。


“ハーフかけがらわしい”……と。


だが……あの時少しでも考えを巡らせていれば分かった筈だ

旧王国出身者で、ダークエルフとオークのハーフと成れば

マグニの妻、メアリ殿の間に出来た娘である確率が高いと言う事に。


にも関わらず……あの時の吾輩はにごりきった眼で御主の事を見て居た

“王国への憎悪ぞうお”と言う禍々しい物に毒されてな。


……だが、そうであっても決して許される発言では無い

生涯の友の一人娘に対する非礼……


改めて……この場で詫びさせて貰いたい」


<――この瞬間

俺は、始めてガルドの土下座と……涙を目にした。


その表情から俺が何と無く読み取れた感情は


“やっと言えた” って事だ。


そもそも……メアリさんが母であると知った時点で

メルがマグニさんの忘れ形見である事には薄々気付いて居た筈。


なら、今日まで言い出せなかったのは何故か?

ガルドの性格を考えれば、決して卑怯ひきょうに逃げ回っていた訳では無いと思う。


恐らくは、メアリさん自身が

ガルドに対しても……無論、メルに対しても

今日に至るまでの間、昔の事を何も話さなかったから。


だからこそ……ずっと苦しかったのだろう。


一方……そんなガルドの様子を黙って見ていたメルは

この直後、項垂うなだれたガルドの背中をさすり――>


………


……



「その……怒ってませんし、悲しくもありませんし

思い出して腹が立つとかも有りません。


……でも、一つだけ文句を言わせて下さい。


血筋がどうとかじゃ無くて、全ての種族に対し……少なくとも

同じ種族であるオーク族の血が少しでも入っている人に対し

これから先は、絶対に別けへだて無く優しくするって約束して下さい。


私がガルドさんに何か言うべき事が有るとしたら

その位ですからっ! ……って、生意気ですかねっ? 」


「いや、正しい考えである……吾輩の心にきざみ込み

決してたがえる事無く生きると誓おう。


だが……改めて、済まなかった」


「はいっ! ……では“仲直りのジュースタイム”ですねっ♪ 」


<――と、明るく返事を返すと厨房の方へと走り去っていったメル。


その一方で……メアリさんは

マグニさんに対し――>


………


……



「……貴方が死んだと聞かされた日から数えて約一九年。


その期間の全てと言う訳ではありませんが

娘と私への迫害はくがいはとても長く続きました。


少なくとも……主人公さんが私と娘をお救いに成るまでの間。


ですが、貴方が居たら守れたのでしょうか? ……恐らく違う筈。


程度の大小はあれど、貴方も共に

“嫌がらせ”を受ける事に成っただけでしょう。


……国王が魔族に成り変わられて居たのです

私達だけの力ではどうする事も出来なかった。


勿論、貴方が“私達を守れなかった”と

後悔している事は理解しています、でも……自惚うぬぼれないで下さい。


魔族に支配されていた王国で、その支配に気付き

その魔族達を一掃する事など、主人公さんの様に規格外の力を持つ御方でも

生死のさかい彷徨さまよい、やっと達成出来た程の偉業なのです。


……それだけではありません。


当時の王国には他種族への差別と迫害はくがい

どうしようも無い程に蔓延はびこっていたのですよ?


……そんな民達の意識すらも決して強制せず

今の姿へと立て直し……更に、元魔王であるモナークを筆頭に

魔族達にまで平和に暮らせる場所と環境かんきょうを用意してしまうなど

仮に、私達両種族が手を取り合えていたとしても

到底出来る筈の無い偉業ですし、もし再び同じ状況に陥った場合

主人公さん程の御方でも、同じ状況を作り出す事は難しい筈。


……さて、貴方?

私が何を言いたいか、もうお分かりですね? 」


「いやすまない、俺には……」


「全く……昔から鈍感どんかんですわね貴方は。


まぁ、そう言う所も好きなのですけれど……兎に角

私は……“一切怒っていない”と言っているのです。


むしろ、貴方が無事で良かったと心の底から喜んでいるのですよ?

それに……これからは一緒に暮らせるのでしょう?

そうなれば、お互いに色んな話も出来ますし

当然、失われた時間を取り戻す事だって簡単な筈です」


「メアリ……こんな俺を許し、また愛してくれると言うのか? 」


「貴方? ……当たり前の質問をしないでください!

たとえどれ程の距離と時間離れていたとしても貴方は私の大切な夫です!


でも……今日からは

婚姻こんいんの事……“生涯の友”よりも重くとらえると

今この場でしっかりと約束して下さいね? 」


「なっ?! ……そ、それはだな!?

いや……あの時、素直に気持ちを伝えていなかった俺が悪い。


メアリ……俺はッ! 」


「ふふっ♪ ……分かっています、あの時から。


私の事を大切に想ったからこそ、国を出る事を選んだのでしょう?

だからこそ私も貴方が後悔をしない様にえてひどののしったのです。


でも……貴方が改めて今此処ここで私に“愛の告白”をして下さるとおっしゃるのなら

私はいくらでもお聞きしますから……


……是非とも“一九年分の愛”を伝えてくださいね、貴方っ♪ 」


「なっ!? そ、それは! ……」


<――直後


尋常成らざる挙動不審きょどうふしんさを見せたマグニさんと

そんな様子を見つめ、幸せそうに微笑ほほえんで居るメアリさんを見ていて

此方こっちまで微笑ほほえましい気分に成って居た時――>


………


……



「えっと……ガルドさんの分と……私の分と……」


<――と、厨房から大量のジュースを持ち現れたメル。


直後、この場にいる皆の前にジュースを置いて行き


そして――>


「仲直りのジュースです……どうぞ」


<――と、少し緊張した様子で

マグニさんにも“仲直りのジュース”を渡したメル。


すると――>


………


……



「仲直りのジュース? ……まさか。


メ、メルさん……君も俺の事を許してくれると言うのか? 」


「えっと、その……私が怒っていたのは……マグニさんがお母さんの事

“見捨てた”のかもって誤解してたからで……ごめんなさい。


私……ちょっと冷静じゃ無かったみたいです。


本当に……ごめんなさいっ! 」


「……な、何を言うか! 君が謝る事など何も無い!

……むしろ、俺の方こそ君の存在すら知らず

十数年も家族の元から離れ! ……」


「いえ! 私こそ! ……って、何だか変な言い合いですね。


えっと、その……兎に角っ! わ、私は……もう何も怒ってませんっ!

それと……メル“さん”って呼ぶの、もう止めて下さいっ!

私も“マグニさん”じゃなくて……そ、その……


……お父さんって呼べる様に、少しづつ頑張りますからっ! 」


「あ、ああ……以後気をつける。


しかし、いざ呼ぶとなると緊張するが……そうだ、ジュースだ!

……な、仲直りはこれなのだろうッ?! 」


「へっ? ……ひゃいっ!


それじゃあ……皆さんも! か、乾杯っ! ……」


<――この日


始めて会ったマグニさんメルは、この瞬間をさかい

ぎこちなくも愛の有る素敵な親子関係を構築こうちくしていく事と成るのだった。


ともあれ……ライラさんの“ミニミニ暁光ちゃん”から

驚きの連続と成った今日と言う日の疲れを癒やす為


……そして、約二〇年振りの夫婦の再会を“祝して”

と言えば仰仰ぎょうぎょうしいが、当初の予定を少し繰り上げ

全員で旅館へと向かう事と成った俺達。


そして、宴会場で食事を始めていた頃――>


………


……



「いや~……しかし、主人公君は凄まじい強運の持ち主だね! 」


<――伯爵にそう言われ、何故かとたずねた俺。


すると――>


「……わずかな情報から私の所にたどり着いた強運が一つ目だ。


だが、そんな事よりも……護衛としてなら候補など沢山居る中

何故私がマグニを同行者として選んだか分かるかい?

その原因が……“君の失敗”にあるからなのだよ? 」


「俺の失敗? ……一体どう言う事です? 」


「それはね……君が“木彫りの人形を忘れた”からなのだよ。


……あの時、メル君が取りに帰って来た際

マグニとぶつかってしまったらしく

私が今回の護衛を決める際、彼が――


“もしも同行させて頂けるのなら、彼女に改めて謝罪を”


――と言い出してね。


だからこそ……君のその行動の全てに

強運を呼ぶ力が有るのだろうと私は思ったのだよ!

そもそも……君のお陰で私のトラウマは消え去ったのだからね! 」


「そ、そんな! 俺は別に大した事もしてませんし……」


<――と


“過去の失敗”を伯爵に褒め称えられて居たその時


少し慌てた様子のラウドさんから一本の通信が入った――>


………


……



「……例の死骸の消えた魔物と同様の存在が“第二城付近”


つまり……“現在、主人公殿が居る付近”に出現したとの情報が

二城付近の警備隊から届いたんじゃ!

至急、現場に向かっては貰えぬじゃろうか?


……対処法を知らぬ現場の隊員達への指示出しと

出来れば“死骸の回収”も頼みたいんじゃよ!

今回こそ、モナーク殿にあらためさせねばならん! ……」


「ええ、勿論です! ……すぐに向かいますッ!


では! 通信終了ッ!


っと……その、皆さんは此処ここくつろいでて下さい!


では、転移の魔導……」


<――と、現場付近へ転移しようとしていた俺に同行する為

慌てて俺を掴んだマリア、ガルド、マリーン、メルの四人。


だが、その瞬間――>


………


……



「……主人公様、お待ち頂きたいッ!!


生涯の友だけで無く、娘までもが戦地におもむくと言うのなら

父である俺の同行も許可して頂きたい、どうか……この通りです」


<――と、マグニさんまでもが同行を願い出た。


だが、正直まだ不明な事の方が多い魔物を相手に

再会したばかりの“お父さん”を連れて行く事に難色を示していた俺。


何と言うか……“死亡フラグ”にしか感じられなかったのだ。


だが、そんな俺の心情を知ってか知らずか――>


………


……



「貴方、行ってらっしゃい……お守りにこれを渡して置きますから」


<――と、ヒビの入った何かの種を

マグニさんに手渡したメアリさんは――


“主人公さん……夫をお願いします”


――と、俺に対し深々と頭を下げた。


正直……“死亡フラグの狂喜乱舞きょうきらんぶ”な感じがして途轍とてつも無く嫌だったが

断るに断れない状況に、仕方無く返事を返した俺は――>


「で、では……転移の魔導ッ!!


第二城、正門前へ!! ――」


………


……



「うん……今の所此処ここには居ないみたいだ。


っと、マグニさん……勿論皆もだけど、異質な魔物なので

防衛魔導の外には絶対に出ない様にお願いします」


「心得えました……主人公様、宜しく頼みます」


「はいッ! ……って。


一応メルのお父様ですし、俺の事は呼び捨てで構いませんので……」


<――などと話していると、何処どこからか悲鳴が上がり

それと同時に、例の魔物が現れた……だが。


前回とは微妙に“形が違う”


とは言え……間違い無く同種の魔物であると判断した俺は

念の為、防衛魔導を何重にも重ね掛けし

更に、個々の体に強化魔導も重ね掛けすると言う

万全の態勢たいせいした。


……直後、俺達の存在に気付いた魔物は一直線に突進し

魔導障壁しょうへきに激突すると、みずからの突進力にってその左腕を粉砕した。


だが、一切痛がりもせず……それどころか

ゆっくりと立ち上がると魔導障壁しょうへきに“へばり付き”

今度は、俺の展開した多重防衛魔導を文字通り……“い”始めた。


この、あまりの出来事に慌てた俺は急いで攻撃魔導を放とうとしたが……


……その瞬間


魔導障壁しょうへきは一気に崩壊し――>


「なっ!? ……」


………


……



「ふんぬりゃああああああっっっっ!! ――」


<――障壁しょうへきが破れるや否や


俺……では無く、マグニさんに突進した魔物。


だが、マグニさんは魔物におののく事など一切無く

むしろ……魔物の顔面と胸部に対し

的確てきかくつ、凄まじい打撃を放った上で――>


………


……



「主人公様……いや、主人公君ッ!! ……急ぎ捕縛を! 」


「は、はいッ!! ……


……捕縛の魔導、蜘蛛之糸ッ! 」


<――俺に指示を出す程の余裕を見せたのだった。


そして……そんなマグニさんの大活躍も有り

前回とは違い“辛うじて生きた状態”での捕縛に成功した俺達は

直ぐにラウドさんへと連絡を入れた。


そうして魔物の回収を待っていた所

魔物はまたしても暴れ始め……その後、絶命してしまった。


……だが、前回の様に

何時の間にか“消え去られ”ては困ると考えた俺は

この魔物を少しでも長く保管する為の策を考え、そして――


“保存=冷凍庫”


――と言う、単純な思考にって

この魔物を氷系魔導で“冷凍保存”しつつ、ラウドさんに対し

氷系魔導の得意な防衛隊の隊員を出来るだけ多く集め

この魔物の保存に関わらせる様指示を出した。


そして……直後、現場へと現れた隊員達にこの場を引き継ぎ

旅館へと帰還した俺達は……


……祈る様にマグニさんの帰りを待っていたメアリさんに対し

マグニさんの大活躍っぷりを伝え、中断された宴会を再開し

“魔物討伐”の大成功も含めた、飲めや歌えの大宴会を楽しんでいた。


そんな中、マグニさんは俺に対し――>


………


……



「しかし、あの様な多重防衛魔導など始めて見たが……主人公君。


君は相当に剛毅ごうきな男なのだね……いや

ゆえに、妻と娘までもを救い出せたのだろう。


……本当に感謝している。


再び再会する事……そして、生きて娘と会えたのは君のお陰だ。


……有難う」


<――深々と頭を下げながら

そう言ってくれたマグニさん――>


「い、いえいえ! ……本当にたまたまですし!

むし何時いつも至らない所が多過ぎて困ってる位ですから! ……」


<――と、謙遜けんそんして居た俺を余所よそ

メルを含めたパーティメンバーに目をやり始めたマグニさん。


そして、暫くあごに手を置き何かを考えた後――>


………


……



「しかし……妙に“女性が多い”パーティなのだね? 」


<――と


何だか“嫌な予感がする”質問を投げかけて来たマグニさん。


そして、そんな質問に若干困惑し――>


「え、ええまぁ……たまたま偶然ぐうぜんと言いますか……」


<――と、答えた俺の横で

いつもの悪ふざけが発動したマリアは――>


………


……



「あっ、それはですね~♪

主人公さんは単体でも規格外に強いので

本来ならパーティを組む必要は無いんですけど~!

綺麗な女性ばかりを狙って意図いと的にパーティに誘って!

実は実は! ……ハーレムを築こうとしているんですってッ! 」


「ちょ!? お前ッ! 誤解を招く様な大嘘は止め……」


<――慌ててマリアを制止した俺。


だが……“かなり”手遅れだったのか


大きく勘違いしたマグニさんは、俺に対し――>


………


……



「君の様な軟派な男に……大切な娘はやらんッッッ!!! 」


<――と

絵に書いた様な“父親っぷり”を発揮したのだった――>


………


……



《――旅館での平和な一幕。


そして……はからずも

謎の魔物の保存法……その“最適解さいてきかい”を見出した主人公。


だが、その一方で……魔王城では

主人公の“過去の行動”に強い恨みを持つ、とある“者”が――》


………


……



「魔王モナーク……いや、魔族の“出来損ない”モナーク。


奴のにごり切ったまなこの所為で

馬鹿な人間アマンダかいしやっとの思いで手中に収めたあの国に残した

我が“兄弟二人”はいまむくわれぬ。


……モナークは、立身出世りっしんしゅっせを考えあの国に残した我が兄弟二人を

まるでゴミの様にほうむった“あの者”を生かすだけに飽き足らず

あの者の口車に乗せられた挙げ句

我が種族の矜持きょうじすら容易よういに投げ捨てた程の“出来損ない”だ。


とは言え、今は動けぬ……力をたくわえねば決して奴には勝てぬ。


魔族種の真の再興さいこうを果たし

受け継がれし魔王の力を我が手に入れるその日まで――


――今はやつらの繁栄はんえいうらめしく見守る事としておこう。


そして……我の力がたくわえられしその時

我が貴様らと共にこの世の支配者として君臨くんりんするその時まで

貴様らの持つ力の全てを我にたくすのだ……


……良いなッ!? 」


《――この“者”がそうたずねた瞬間


配下達は――》


………


……



「……ガルベーム様の為にッ!

我ら“真の魔族種”復興の為にッ!! ……」


《――そう宣言し

魔王城に響き渡る程の雄叫びを上げ続けたのだった――》


===第百五〇話・終===

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