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第百四九話「過去の苦しみを取り除くのは楽勝ですか? ……後編その一」

《――時代の被害者か

それとも、遅かれ早かれその道を選んでいたのか。


“アマンダ”……彼女は、闇にほうむられしみずからの成果を認めさせる為

決して越えてはいけない一線を越えようとしていた――》


………


……



「もう一度、私にチャンスを……貴方のお力が必要なのです」


《――ある日の深夜

何処どこかへと連絡を取っていたアマンダ。


そして、通信終了後――》


「……やったわ。


これで……ようやく私の成果が認められる時代が来るのよッ!! 」


《――そう言うと、研究かばんわずかな明かりを手に

闇夜の中、王国を抜け出した彼女は……暫く歩いた道の先

怪しい人影の待つ木の前で立ち止まった。


そして――》


………


……



「お待たせして申し訳御座いません、門番にさとられぬ様明かりを消……」


「お前の言い訳を聞く為に此処ここまで来た訳では無い、要点ようてんべよ。


……私は忙しいのだ」


「で、では……王を意のままにあやつる為のお力添えを頂きたいのです。


王の警備は厚く、現状では薬を盛る事など不可能……でも貴方なら。


……洗脳薬これの製法をご教示きょうじ下さった貴方ならッ!

きっと、何らかのお知恵をお持ちなのではと思い! ……」


如何いかにも……手段ならば有る。


だが、その為には準備が必要だ……貴様に出来るかが問題だがな」


「どの様な事でも致します……私の願いを叶えて下さると言うのなら。


……私の成果こそが真の“賜物たまもの”であると王国全土に認めさせた上で

あのメアリが私からかすめ取った地位を再びこの手に戻す為ならッ!! 」


「であれば……王に近づく事の出来る兵や大臣、何者でも構わん。


二名を此処ここへ連れて来い……出来るだけ早くだ」


「二名、王に近づける者……ええ、心当たりが丁度二名程。


では何時いつ迄にお連れすればよろし……」


「早い程に……貴様の願いは叶えやすいのだがな」


「っ?! ……でしたら明日あす、今日と同じ刻限こくげん此方こちらへ。


必ずご期待通りの結果をお約束致しますッ! ……」


「ふむ……怪しまれぬ様にな」


《――暫くの後

自宅へと帰ったアマンダは……薬棚の前に立つと

“媚薬”を手に取った――》


………


……



《――翌日。


彼女は自宅に王立研究所の主任研究員を呼び出し

極微量の媚薬を混入させた飲み物を接種させ――》


「ああ……アマンダ君ッ!! もう我慢出来ないッ!! 」


《――みずからに対し襲い掛かる様仕向けた上で

直ぐに薬の効果が切れ“手遅れになる”既の所で我に返った主任を――》


「い、いきなり襲い掛かろうとするなんてッ!!

……主任の事、信じていたのにッ! 」


《――そう問い詰めた。


そして、猛省もうせいする彼に対し――》


「でも、主任が私の事本当に好きだっておっしゃるのなら……そうで無くても

今回の出来事の責任を取りたいとおっしゃるのなら……今日の深夜

西門を出た先の木の下へ来てください。


そうすればお許しします……」


「だ、だが僕には妻が! ……」


「あら主任? ……それなら奥様にバレても宜しいとおっしゃるのですか? 」


「なっ!? ……わ、分かった

今日の深夜、西門だな? ……必ず行く、だから妻には……」


「ええ、分かっています……では、後ほど」


《――この後、慌てた様子で彼女の自宅を後にした主任研究員。


そんな彼の後ろ姿を見送った後……次に

彼女は、この日非番であった近衛兵“バリー”の自宅へと向かい――》


………


……



「見た目は同じですが、栄養価の高い食材を開発しましたので

王にお渡しする前に是非お試し頂きたくて……」


《――直後

近衛兵に洗脳薬入りの食材を接種させたアマンダ。


彼女の狙い通り、近衛兵はうつろな眼差しと成り――》


「深夜……西門……木の下……王様の忘れ物……」


《――直後

彼女アマンダって吹き込まれた

偽りの情報を信じた近衛兵バリー


……こうして、王に近付く事の出来る人間二人を用意したアマンダは

直ぐに協力者へと連絡を入れた――》


………


……



「……本日の深夜

主任研究員と近衛兵の計二名をそちらに向かう様仕向けました。


私も直ぐに……はい? ……待機ですか?

勿論構いませんが……いえ、分かりました。


……それでは、明日の昼に」


《――通信を終えた直後

不敵ふてきな笑みを浮かべたアマンダ……そして、翌日。


昼時、彼女の邸宅をたずねて来た二人の男は――》


………


……



「主任? バリーさんまで……どうされたのです? 」


「私と近衛兵のバリー君が同行し

君が安全に薬を盛れる様協力をする……それで良いんだね? 」


「はい? いえ、その……それは……」


《――この整い過ぎた状況に一瞬は戸惑ったアマンダであったが

彼女の眼前に立ついずれもが

“虚ろな眼差し”である事に気付いた瞬間――》


………


……



「そう? ……なら、今直ぐに決行するべきね。


……さぁ、早く行くわよ」


「ああ、アマンダ君の為なら何でもするよ……」


「ええ、新しい世界を作る為ですから! ……」


《――直後

虚ろな眼の二人を連れ、国王城へと向かったアマンダ

二人の存在にって、難無く王への謁見えっけんが叶った彼女は――》


………


……



「王様……折り入ってお話が御座います、ずは……」


《――みずからの作戦を実行する為、王に近づこうとしていたアマンダ。


だが、そんな中……突如として王の真後ろへと転移した主任研究員は

王の口元へと何かをねじ込み、無理矢理にそれを飲ませた。


……直後、虚ろな眼差しへと変わった国王。


この一連の流れを見ていたアマンダは――》


「し、主任? ……貴方に魔導師としての力が有ったとは知らなかったわ?


ってちょっと待って? ……もしかして

二人共、最初から私に内緒で一芝居打つつもりだったの? 」


《――そう言ってバリーの方へと振り返ったアマンダ。


だが、振り返った彼女の目に映ったのは

近衛兵の装備を身につけた“国王”の姿で――》


「こ、国王が二人!? ……これはどう言う事ッ!? 」


《――そう慌てる彼女アマンダに対し

“二人目の国王”は静かに口を開き――》


「後ろも見ると良い……」


「う、後ろ? ……」


《――慌てて振り向いた彼女アマンダ


其処そこには……研究員服に身を包んだ国王と

玉座に座ったまま虚ろな眼差しの国王の姿が有った。


……状況が飲み込めず

再び“二人目の国王”の方へと向き直ろうとした、瞬間――》


「良くぞ役に立ってくれたな“人間”……だが。


此処ここでお前は用済みだ……フンッ!! ――」


「なっ!? ――」


《――悲鳴を上げるすきすらも無く


近衛兵の装備を身に着けた“魔族”の手にって

その生涯を閉じる事と成ったアマンダ


そして――》


………


……



「……その女研究員アマンダは余に毒を盛ろうとした大罪人で有るッ!!

だが、主任研究員と其処の近衛兵バリーがそれを阻止してくれた。


二人を称える為の準備をせよ……」


《――暫くの後

王の間へと集まった多数の兵達に対しそうげたのは

“虚ろな眼差しの王”であった。


直後……王の命令に慌ただしく立ち去っていった兵達。


彼らが王の間を去った事を確認すると

主任と近衛兵に化けて居た魔族二人は“擬態ぎたい”を解除し――》


………


……



「……ガルベスよ、よもやこれ程簡単に事が進むとは思わなかったな」


「ああ……だが兄上

これで魔王様に捧げる食料庫の確保が叶ったのだ。


全く……アマンダとか言う女の愚かさに助けられた様な物だぞ? これは」


「ああ……だが、一番感謝しているのは

この策を仕組んだ長兄だろうがな……さて。


ダラダラと話していても仕方が無い……ガルベス

さっさと国王それに化けておけ、私は裏方に回る……」


《――直後、国王に成り代わったガルベスに依って

王国は、その国防力と“常識”を少しずつ削られて行く事と成るのだった。


ずその“手始め”として――》


………


……



「……何故だ、王よ。


吾輩は既に当該とうがいのオークを罰した筈であろう。


……にも関わらず、吾輩達までもを追い出すとは

余りにも荒唐無稽こうとうむけいでは無いかッ! 」


《――ある日の事


衆人環視しゅうじんかんしの中で開かれた“話し合い”

国王に対しそう異議を唱えて居たのはグランガルドであった。


だが“国王”はそんな彼に対し――》


「黙れ……貴様らは余のおさめる王国の寛容かんようさに胡坐あぐらをかき

みずからの武力に物を言わせる野蛮やばんな振る舞いを続けた。


族長……貴様がほど詭弁きべんのたまおうとも

貴様らの様に危険な穀潰ごくつぶしを王国領土内に置き続ける事など出来ぬ。


即刻そっこく立ち去るが良い……これは命令だ」


《――そう冷たく言い放った。


一方……この決定にこれ以上の異議を唱えず

既にこの国を去った二人のオーク同様

一人当たり半月分の食料を要求したグランガルド。


すると――》


………


……



「成らぬ……と言えば、貴様らは我が王国に仇為あだなすつもりなのだろう?

だが、武力で無くとも食料を奪えば……くっ!


脅しに屈するのは気に食わぬが……良かろう」


《――と、民の方を見回しながら

まるで、彼等達オークの所為で

飢饉ききんが加速するかの様に誤誘導ミスリードを誘った国王。


当然、このあからさまな態度に苛立いらだちを隠せず居た

オーク族の者達……だが、既にその姿すら

民達には恐ろしい物として映っていた様で――》


………


……



「……お、お前達の所為でこの飢饉ききんが起きた様なもんだ!!!

さ、さっさと出ていけぇぇぇっ!! 」


《――と、一人の民が騒ぎ始めた事を皮切りに

彼らに向けられる眼差しは、負の感情へと急激に変化し――》


………


……



「……分かった。


其処そこまで言うのならば

吾輩達は着の身着のままでこの国を去ろう……」


《――そう言って直ぐに立ち去る事を決めたグランガルド。


だが、その一方で――》


………


……



「ね、ねぇ……流石に貴方は出ていかなくても良いじゃない。


そもそも、貴方は私の大切な人で……そ、それに!

明日には例の作物も作り出せるんだから

貴方も私と同じくその立役者って事で国王に話を……」


「済まないメアリ……族長みずかいばらの道をくとおっしゃったのだ。


仮にも戦士長である俺が、族長の側に居ないなどと言う事は……」


《――既に同棲どうせいを始めて居たメアリとマグニ

そんな二人の中を引き裂く様な決定に、言い争いは暫くの間続いていた。


そして――》


………


……



「済まないメアリ……お前を心から愛している。


だが、族長は“生涯の友”だ……たとえ命を捨てる事になろうとも

その誓いはたがえられぬ。


勿論“お前を連れて共に行く”と決めるのは容易たやすいだろう。


……だが、もしもそうしてしまえば

お前までもがいばらの道をく事と成ってしまう。


それは……それだけは……俺の世界に咲いた

たった一輪の美しい花を枯れさせる様な事など……俺には出来ない」


「……そう。


それなら……私

もっと早く貴方に会って“生涯の友”に成るべきだったわね

だって、婚姻こんいんよりも重い物が有るなんて知らなかったもの。


と言うか……所詮しょせん

種族違いの恋なんて成就じょうじゅ出来る訳が無かったのよ。


分かった、良いわ……好きな所に行けば?


それで……その先で同じ種族のメスと一緒に成ったら良いじゃないッ!!


もう……出て行ってッッ!! 」


「なっ?! ……待ってくれメアリ!


俺はッ! ……いや。


本当に……済まない……」


《――この時


彼が言わぬと決めた“何か”を発していたなら

少しは結果が変わっていたのかもしれない。


……だが、去る彼の背中には

そうは成らなかったメアリの泣き崩れる姿だけが有った――》


………


……



「……戦士長、御主は残っても構わなかったのだぞ? 」


「族長……いや、ガルド。


何も言わないでくれ……これ以上

彼女との別れを思い出したくは無いのだ……」


「マグニ……本当に良いのだな? 」


「ああ……もしも俺がこの国に残ったならば

彼女は俺の分まで民達の悪感情を受け続ける事と成る。


俺はきっと……彼女を苦しめる存在と成ってしまうだろう。


……友よ、お前を“言い訳”に使った事……済まないと思っている。


だが、これ以上は聞かないでくれ……」


愛故あいゆえに……か。


分かった……これ以上、何も聞かずこう」


《――こうして


この日、グランガルド率いるオーク族は王国を立ち去る事と成った。


だが――》


………


……



《――開かれた東門


大量に並んだ重装備の王国兵……そして、去り行くオーク族。


万が一の警戒の為か、それとも民達に王国の力を示す為だったのか

彼等達オークの背に向け、差し向けられていた数多あまた弓兵きゅうへい


……そして、そんな彼等オークに向け発せられた

民達からの心無い罵声雑言ばせいざつげん


一方……それすらも意にかいさず、決して振り向く事も無く

新たな居住地を求め、王国を去りつつ有った彼等オーク達。


だが、悲劇は突如として起こった――》


………


……



「……放て」


「で、ですが国王様……彼等は素直に立ち去って……」


「何だと? ……貴様を反逆罪で極刑にしょしても構わんのだぞ? 」


「い、いえ!! ……承知致しましたッ!


ぜ……全軍!


……放てぇぇぇっっっ!!! 」


《――直後


去り行く彼等の背に向け放たれた大量の矢――》


………


……



「なっ!? ……全員、防御陣形だッ!!! 」


《――突然の攻撃にもほとんど動じず

的確てきかくな指示を出した戦士長マグニ。


そして……戦いに不慣れな子オークとメスオークを先に避難させる為

陣形の構築を急いでいた。


だが――》


………


……



「や、止めなさい貴方達ッッ!! ……彼等は素直に去っている筈ッ!!

止めて! 離してッ!! ……イヤッ!!

マグニッ! 皆ッ! ……逃げてぇぇぇっ!! 」


《――東門から聞こえた女性の声。


兵達の前に立ちはだかり、そう訴えていたのはメアリであった。


だが……そんな彼女を捕らえ、前線から引き離そうとする兵の姿に

マグニは、一瞬のすきを作ってしまい――》


「メ、メアリ……」


「……マグニッ!!


避けろッ!!! ――」


………


……



《――瞬間


彼の右目をつらぬいた一本の矢。


直後、彼はその場に倒れ――》


「マグニッ!? ……おいッ!!!


くっ……全員退避だッ!! 急げッ!!! 」


《――なおも大量の矢が降り注ぐ中

懸命けんめいに逃げ切ったグランガルド率いるオーク族。


そして……その姿を確認した後


東門は迅速じんそくに閉じられて行った――》


………


……



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!! ……」


《――完全に閉じられた東門の中

メアリの悲痛な叫びだけが王国領土内にむなしく響き渡った――》


―――


――



「……あの数日後。


研究所から呼び出され……民達の為

改めて“賜物たまもの”を作れと言われましたが

当然……そんな気には成れませんでした。


勿論、作れるだけの魔導力は既に有った……でも。


……マグニが死んだと聞かされた後、一体どうすれば

その原因を引き起こした国の為、民の為に頑張れるでしょうか?


私は――


“金輪際、この国の為に研究は行わない”


――と、研究員の職を投げ出しました。


ですが……それからと言う物、国側は私に対し

今後一切の薬草及び、魔導学への関与かんよをも禁じたのです。


当然、生活は困窮こんきゅうを極めました

そして……それと重なる様に、妊娠が発覚したのです。


……ですが、それは決して苦痛では無く

むしろ……亡き夫の忘れ形見とも言える存在の誕生に

私は心から喜びました。


とは言え……働き場所を見つければ邪魔をされ

日に日に大きくなるお腹を見ては陰口を叩かれながらも

何とか日々を生きて居た私に取って

当時の王国は地獄以外の何者でもありませんでした。


……出国も許されず

種族ダークエルフの集落に帰る事すら出来ず……いえ。


集落になら、帰るつもりならば帰れたでしょう。


……でも、あの状況下で私が帰って居たなら

集落の皆に多大なる迷惑を掛けていたでしょう。


その事を知ってか、王国上層部の者達が

“根も葉も無い”噂を流し始めていたのですから……」


「成程……それが

“ダークエルフ族とオーク族に関する嘘の記述きじゅつ”が発生した理由……」


「……ええ、主人公さんが発起人と成って

正しい情報に書き直された今なら考えられない事ですが

当時は、あの様な根も葉も無い物が真実としてまかり通っていました。


その為……本当なら、私はおろ

娘も日々の食事すら満足に得る事は出来なかったでしょう。


……現在はとてもお立場の有る、ある御方の“援助”が無ければ」


「その御方の事……お聞きしても? 」


「ええ、勿論です。


その方とは……若かりし頃のラウド大統領なのです。


毎日誰にもバレない様にこっそりと食料と水を届けて下さり

当時、生活に必要だった物のほとんどを私達親子にお恵み下さいました。


私は心から彼に感謝をしています……勿論。


私を死の淵から……そして

娘をいわれ無き差別迫害さべつはくがいから救って下さった主人公さんにも

一体、れ程の感謝を伝えれば良いのかと……」


「い、いやそんな……俺に対する感謝なんて別に良いですよ!

メルにはそんな事が全部吹っ飛ぶ位に助けられてますし!

って言うか、ラウドさん……昔から優しかったんですね」


「ええ……ですが、私達へのほどこしが露見ろけんし掛けた事で

他人行儀に成らざるを無く成った事もあり

私も当時の癖が抜け切らず、いまだに少し他人行儀な節がありますから……


……正直、いまだにご恩返しすら出来て居ない事が悔やまれます」


<――そう申し訳無さそうに語ったメアリさん。


だがこの時、俺はとある昔を思い出して居た。


……転生間も無く、右も左も分かって無かった頃

俺の力を見抜き、直ぐに魔導病院に連れて行ったのも

実はメアリさんの為であったのだろう事。


そして……だからこそ、安全に成ったこの国で

メアリさんを俺の代わりに、臨時とは言え大臣に……


……現在も非常勤の大臣として起用した。


そんな……ラウドさんの格好良さが意外な所で判明したと共に

ラウドさんがこの国の大統領に選ばれて本当に良かったと

心の底から感じ、感謝すらしていたそんな時。


メアリさんは夫であるマグニさんに対し、ある質問をした――>


………


……



「ねぇ貴方……貴方は何故生きているの?

何処どこでどうやって過ごしていたの?

……生活は苦しく無かった? 辛くは無かった? 」


<――はたから見ていても分かる程

愛情が根底こんていにある質問だったのだが……


……一方のマグニさんはこの質問に関し


少々勘違いした様子で――>


………


……



「……俺の苦しみなど、お前と娘の苦しみに比べれば些末さまつな事だ。


それよりも……お前の事をまもる為と考え動いた事が原因で

まさか十数年も離れ離れに成ろうとは思っていなかった。


こんな事に成るとわずかにでも気づけて居たならば

決してお前の元から離れはしなかっただろう。


……勿論、どう詫びれば許されるとは思っていない。


だが……本当に、済まなかった。


そして、主人公様……貴方が妻と

まさか娘までも救って下さった張本人とはつゆ知らず

何とお礼とお詫びをして良いものかと……」


「へっ? ……い、いやいや!!


その……さっきメアリさんにも言いましたけど、本当にたまたまって言うか

メルにも信じられない位お世話になっているので

そんなお詫びとかお礼とか大丈夫ですから!


その……お気にさらず! 」


「いえ……だとしても、心からのお礼を。


妻と娘をお守り頂き、誠に有難う御座います……」


<――そう言って俺に対し深々と頭を下げたマグニさん。


だがそんな時……丁度今起きたのか

寝ぼけ眼をこすりつつ、ニ階から降りて来たガルドは――>


「……済まない主人公、妙に寝過ごしてしまった。


今日の仕事に吾輩の必要……なッ!? 」


<――マグニさんを見つけた瞬間


まるで幽霊でも見たかの様に驚愕きょうがく

慌てて彼の元へと駆け寄ると――>


………


……



「間違い無い……だが、一体どうやって生き延びた?!

あの混乱の中、確かにお前の心臓は止まって居た筈だ! ……」


<――そう、興奮した様子で

恐らく“初代生涯の友”であろうマグニさんにたずねたガルド。


すると、マグニさんは――>


ひさしいが……まるで変わらぬ剛毅ごうきさだな友よ。


だが、その質問に答える前に……俺は娘に謝らなければならないのだ。


メル……と呼んでも良いだろうか?

お前を十数年も苦しい立場に置いた原因たる情けないこの俺を

父親と呼んでくれとは言わない。


ただ、謝らせて欲しい……本当に、済まなかった。


そして、もし出来る事ならば

失われた時間を取り戻させて欲しい……」


<――そう言って深々と頭を下げたマグニさん。


だが、その一方で……メルは否定も肯定もせず


ただうつむき、無言を貫いていた――>


===第百四九話・終===

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