第百四八話「過去の苦しみを取り除くのは楽勝ですか? ……中編」
《――アマンダとの軋轢
それに依り引き起こされた突発的な言い争いは
メアリの平手打ちで幕を閉じた……かに見えた。
だが……この出来事より数週の事、アマンダは王国上層部に掛け合い
“オーク族を追い出す為の”策を弄していた――》
………
……
…
「……以上の様な理由で、オーク族は現在の王国に取って
完全に不必要な存在だと断言致します」
《――机に並べられた大量の書類。
彼女は、自身に取って都合の良いデータのみが羅列された
書類の山を指し示しながら、王国上層部の者達に向け直訴していた。
……だが、上層部の反応は
彼女に取って喜ばしい物とは成らず――》
………
……
…
「アマンダ研究員、君の言っている事は充分理解している。
……だが、我が国が置かれている状況と
彼らの存在をどれ程“贔屓目の天秤”に掛けた所で
国家防衛を考えれば、彼らを捨てる事が得策と成り得ない事など
火を見るよりも明らかなのだよ……無論、国防だけでは無い。
……例の“賜物”が再び収穫を迎えられた際には
彼らの類稀なる腕力に依って
収穫をも容易に済ませる事が出来るのだ。
そして何よりも……アマンダ研究員、君の用意した書類が
全て君の持論を通す為の恣意的な情報ばかりと言う状況も
君の希望を受け入れられない理由の“大きな”要因だ。
……良いかね? アマンダ研究員。
君がもう少し、メアリ研究員の様に
多方面に目を向けられる人間に成れる様、私は祈っている。
話は以上だ、下がりたまえ……ああ、それと
その書類は全て持ち帰って貰えるかね? ……
……それを処分する衛兵が不憫で成らないのでね」
「なっ?! ……いえ、承知致しました。
失礼致します……ッ! 」
《――苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべながら
整然と並べられた書類を乱雑にかき集めると
それらを全て小脇に抱え足早に立ち去ったアマンダ。
そして――》
………
……
…
「……肥え太った豚共めッ!!
そんなにあの女の方が優れてるとでも言うの?!
大体……何が“賜物”よ!!
あんな作物よりも美しくて美味しくて栄養価が高くて……
……育つのだって早くてッ!!!
その代わりに……只、水を大量に消費するだけじゃないッッ!!!
……そもそも、水なんて
水の都とか言う“奴隷国家”に融通させれば幾らでも用意出来るし
オークの代わりに成る人手だって
あの国からなら幾らでも手に入れられる筈ッ!!
……なのに何故ッ!!
あの女の研究結果だけが優遇されて
私の研究結果は認められなかったのよッ!!! ……何故ッ!!!
闇に葬られなきゃ成らなかったのよッ!! ……」
《――帰宅後、収まらぬ苛立ちと不満を爆発させていたアマンダ。
無論、彼女の研究結果がメアリに比べ著しく劣っていた訳では無い。
……寧ろ、彼女の言う様に“用いる方法さえ工夫すれば”
大飢饉の渦中にある王国の救世主と成り得ただろう。
だが……少なくとも、この作物は王国上層部に取って
“不利益”と成る技術であった。
……仮に、大量の水だけで育つ作物の種が
当時、王国で“奴隷国家”と呼ばれていた“水の都”へと渡ってしまった場合
彼らはそれを糧に、王国を頼る事無く
何れ“自活”出来る様に成って居ただろう。
その上、収穫を終え尚育て続ければ
並の木々よりも余程丈夫な幹を有する事と成るこの作物は
全ての面に於いて、水の都をいとも簡単に
再建させてしまう程の優秀な道具と成り得てしまうのだ。
当然と言うべきか……この事を
当時の王国上層部が受け入れる筈も無く……
……彼らが肥え太り続ける為には
“闇へと葬られる事”だけが唯一の選択肢であったのだ――》
………
……
…
「……良いわ? 手は幾らでも有るもの。
待ってなさいメアリ、平手打ちの代償……
……決して安くは無い事を必ず思い知らせてあげるから」
《――静かな決意を胸に椅子から立ち上がったアマンダは
大量の硝子瓶が並ぶ棚の前で足を止め
その中から数本の瓶を取り出すと、それらを調合し始めた――》
………
……
…
《――その一方
大飢饉の中、僅かな食料で辛うじて食い繋いで居た
オーク族の居住区域では――》
「だがこれはメアリさんの分じゃ無ぇだか?!
おら受け取れねぇだよ! ……」
「……良いの良いの! 私は少食だから!
それに……奥さん、妊娠中なんでしょ?
少しでも栄養摂って、赤ちゃんの為に成る行動を取らなきゃ!
だから……ね? 」
《――僅かな食料の中
研究者達に優先し配給されていた備蓄食料。
彼女はその僅かな食料の殆どをオーク族の男に手渡すと
彼の肩を優しく叩いた。
直後……幾度と無く彼女に頭を下げ
身重の妻の元へと戻って行くオーク族の男に対し
彼の顔が見えなくなるまで笑顔で見送り続けたメアリ。
だが……その暫く後
彼女は大きな溜息をつき――》
………
……
…
「……駄目ね、私。
あの程度の量では持って数日分にしか成らない。
是が非でも解決を急ぐべきなのに
その糸口すら見つけられていない事が不甲斐無いわ……」
「何を言うかと思えば……メアリ、お前は
この国の誰よりも立派な存在だよ。
……そもそも、お前の“賜物”が枯れて居たのだって
土壌の状態が“妙”だったからなのだろう? 」
<――肩を落とす彼女に対し、そう訊ねたマグニ。
すると――>
「……ええ、私の作物は普通の物とは大きく違って
“枯れた土地で無ければ”すぐに枯れてしまうの。
だから、僅かな水以外には何も与えないし
“土壌改良”なんて絶対にしない。
……まして、その事は畑の管理人達にも幾度と無く説明したわ?
その上で、万が一にも間違えて肥料を与えた者が居ないか
全員に確認を取ったけれど、結果はみんなシロだった。
……でも、あの畑の土には確かに大量の肥料が混ぜ込まれていた。
それも……現在の王国では絶対に用意出来ない程の高純度で」
「……犯人に目星はついていないのか? 」
「残念だけれど見当もつかないわ……ただ
つい最近言い争った“同僚”だけは少し怪しいけれど
彼女一人の力であんなに大量の肥料を撒ける訳が無いし
仮に大勢の協力者が居たとしても、常に大勢の管理人が居る畑に
誰にも気づかれず混ぜ込む事なんて不可能なの。
それに……そもそも、犯人を見つける事なんかよりも
今私がやるべき事はもう一度作物を復活させる事。
……その為に、私の作り出した作物の種を
再び作り上げる事を最優先に考えたいのよ。
ただ、その為には一つだけ解決が難しい問題があって……」
「……何だ?
俺で手伝える事ならば、幾らでも手伝うが……」
「ありがとうマグニ……でも、解決が難しい理由って言うのは
何も人員が必要って訳じゃないの。
その……私の魔導力だけでは、絶対に解決が出来ないって事なのよ」
「どう言う事だ? ……数人の魔導力で足りるのならば
国家の一大事とでも伝え、魔導適性の高い者に協力を……」
「……違うのよマグニ。
私の……私だけの純粋な魔導力で無ければあの種子は完成しないの。
つまり……“今”の私では足りないって事なのよ」
「……さっぱり解らん。
今のお前で足りぬと言うのならば
一体どうやってあの賜物を作り上げたと言うのだ? 」
「それは……」
《――この瞬間少し口籠ったメアリ。
だが、彼女は思い切った様子でその“方法”を話し始めた――》
………
……
…
「賜物と呼ばれているあの作物は……この国の為
延いてはこの国の民達の為、私達の種族に伝わる秘術を使い
私自身の生命力を燃やし、無理やり用意した力で作り上げた物なの」
「何ッ?! ……何故其処までした? 」
「言ったでしょ? ……国の為、そして民達の為に成ると思ったからよ。
だから……もし、もう一度あの方法が使えるのなら
私は明日……いいえ、今死んでも構わないと思ってる位なの。
けれど……残念ながらもう、今の私にそれ程の力は残っていないのよ」
「……残りの寿命は? 」
「そうね、貴方と暮らして行くだけなら充分……って?!
貴方ならきっと既に……す、素敵な奥さんが居る筈よねっ!?
……とっ、兎に角!
私は今出来る事を探さなきゃだから! ……」
《――と慌てた様子でこの場を立ち去ろうとしたメアリ。
だが、マグニは彼女を呼び止め――》
………
……
…
「おい待てッ! ……待てと言ってるだろう!!
全く……お前が何処に採集なり研究に行くのかは知らん
だが、あの日の様にまた魔物に襲われんとも限らんだろう。
人間族に対しては少し不遜な発言にはなってしまうが……
……“生半可な護衛では”お前は疎か
自分自身すら護る事叶わん筈だ。
それと……俺に妻と呼べる者は居ない
故に“種族違い”とは言え、異性と行動を共にした事を責める者も無い。
理解したのなら安心して俺を使え……もしそれでも不足だと言うならば
“同族の危機を救った恩返し”として
俺と言う労働力を使えば良いだけの事だ……」
「“同族の危機”って……何の事よ? 」
「何を言う……つい先程、食料を分け与えたばかりだろう? 」
「そ、そんな事は別に大した事じゃ! ……って、違うわね。
……ありがとうマグニ、なら……遠慮無くこき使うわね! 」
「ふっ、望む所だ! 」
《――この後、二人は様々な狩り場や森に赴き
その度に多種多様な草花を採集し続けた。
そして……迫りくる魔物をいとも容易く薙ぎ倒すマグニの姿に
いつの間にか、強い恋心を抱き始めていたメアリは――》
………
……
…
「そ、その……お疲れ様っ!
これ作ってみたんだけれど……お、お口に合うかしら? 」
《――そう緊張しつつメアリが差し出したカゴの中には
彼女の手作り料理が並んでいた。
……だが、どれも不格好で
お世辞にも“美味しそう”とは思えぬ見た目をしており――》
「ふ、ふむ……“仕方無い”一つだけ貰おうか」
《――そう言いつつ恐る恐る手を伸ばしたマグニ。
そして、意を決した様にその料理を頬張った
瞬間――》
………
……
…
「全く以て意外だが……とても美味い」
「ほ……本当?!
やったわっ! ……昨日の夜から徹夜して作った甲斐が有ったわ!
でも、意外って所がちょっと気になるんだけど……あっ!
……綺麗な見た目に反して
“意外にも”料理出来る女だって言いたかったとかかしら? 」
「そ、そう言う受け取り方でも俺は構わないが……」
「またまたぁ~……照れちゃって~!
マグニったら“意外と”可愛い所も有るのねっ! ……」
《――平和に続いていた二人の時間。
そして……そんな幸せな時間を過ごす内に
彼女の心には“この時間を失いたく無い”と言う強い気持ちが芽生え
そのお陰か……ある日の事
彼女は、ある一つの“解決策”を見つける事と成った。
その、解決策とは――》
―
――
―――
「主人公さん……私が貴方に渡したあの“球”は
本来ならば、あの作物を甦らせる為に使う予定だったのです」
「えっ? それってまさか、俺達が旅立つ日に頂いた
あの“煙玉”みたいな使い方の球の事ですか? 」
「ええ……あれは、当時の私が毎日
来る日も来る日も必死に溜め続けた私自身の魔導力なのです。
ただ、不幸にも使う事はありませんでしたが――」
―――
――
―
《――ある日の事、メアリは
マグニと共に王国の書庫で古い文献を読み漁って居た。
そして……その末に
一つの本を手に取り――》
「――これよッ!
これなら、貴方と一緒に過ごす時間は減らないし
今の備蓄でもどうにかギリギリ持ってくれる筈……そうと決まったら
早速、魔導師の“ラウドさん”に協力して貰わないとね! 」
「ふむ……いや、待てメアリ
本当にお前の身体に負担が無い方法だと、俺の目を見て誓え……」
「えっ? 何言ってるのよマグニ、私は嘘なんて……」
「良いから……俺の目を見て誓うのだ」
「もう! 分かったから怖い顔しないでっ! ……って。
“目を見て誓う”なんて
何だか結婚でもするみたいで恥ずかしいし……」
《――そう言うや否や
頬を赤らめ、モジモジとしていたメアリ。
だが……そんなメアリに対し
彼女が思いも依らぬ様な発言を繰り出したマグニ……彼は
メアリの瞳を真っ直ぐに見つめ――》
………
……
…
「……前にも言ったが、俺に妻は居ない。
それに、お前を嫌いでは無い……いや
寧ろ……少しでも長く、共に過ごしたいとすら思っている。
お前がもし俺の事を好いてくれるのならば
種族の垣根など超え
お前を嫁に貰いたいとすら……その、思っている。
だからこそ……そんなお前が再び自らの命を燃やし
擲ってしまわぬかどうかを確りと見定めたい……
……そう、言っているのだ」
「マ……マグニ?
じ、冗談……よね? ……私をからかってるだけよね?
ねぇ……ねえってばッ!!
……ほ、本当にっ!! 本気にしても……良いの? 」
《――そう問い掛けた後、恐る恐るマグニの瞳を見つめたメアリ。
静寂が二人を包み
そして――》
………
……
…
「ああ……本気だ」
《――ゆっくりと頷き、そう返事を返したマグニ。
直後……熱い抱擁を交わし
純なる心で口づけを交わし、夫婦と成る道を選んだ二人は――》
………
……
…
「さ、さてと……早速だけど夫婦の“共同作業”しなきゃよね! 」
「……ん?
俺は構わないが……その“子作り”ならば
もう暫し日が落ちてからが良いのではと……」
「へっ?! ……ち、違うわよッ?!
……二人で一緒に“魔導道具オタク”のラウドさんの所に行って
この魔道具を作って貰える様に頼みに行くって事っ!
そ、それに……まだ、そう言う事には心の準備が……」
「……そうだったか、すまなかった。
些か気が急いて……い、いや
兎に角、そのラウドとやらの所に向かうとしよう……」
《――暫くの後
二人は……副ギルド長は疎か
当時はまだ、ギルドの一職員でしか無かったラウドの元へと赴いた。
そして――》
………
……
…
「……と言う事なんです。
だから、どうしてもラウドさん……貴方の協力が必要なの。
……お願いしますっ! 」
「俺からも頼む……この通りだ」
《――そう深々と頭を下げる二人に対し
ラウドはゆっくりと歩み寄り――》
………
……
…
「お……面白そうですな!
しかしまさか街の装備屋では無く、私の所に頼みに来られるとは!
……勿論、協力しましょうとも!
しかし、それにしても……私がこんな道具を完成させた暁には
街の道具屋連中が全員腰を抜かし! 教えを乞い! ……」
《――現在のラウドを知っている者からすれば
当時の彼の事を“痛い人”に感じてしまうかも知れない。
だが、それでも……当時の彼には
他の追随を許さない程の知識と、腕が有った。
……この日から僅か数日程度で
二人の希望する魔導道具を完璧に作り上げてしまったのだから――》
―
――
―――
「……完成品を受け取った私は
来る日も来る日も魔導力を溜め続けました。
勿論その間も彼は常に側に居てくれて
不安な私を支え続けてくれました……貴方も覚えてる? 」
「……ああ、鮮明に覚えているさ」
「私もよ、貴方……って。
失礼致しました……話を戻しますね。
……それから数週の後、私たちはいよいよ
種子を甦らせるだけの力を蓄える事に成功したのです。
ですが……」
―――
――
―
「……何故だッ!!!
何故……人族を傷つけてまで食料を奪いに行ったのだッ!? 」
《――凄まじい剣幕で
辺り一体に響き渡る程の怒号を発した眼光鋭い一人のオーク。
彼の名は……グランガルド。
……若き日の彼は
彼の眼前に伏した一人のオークを強い口調で責めて居た。
だが――》
………
……
…
「ち、違う! ……族長!!
おらは断じて人族を傷つけるつもりなんか無かった!
寧ろ、人族側がいきなり悲鳴を上げたかと思ったら
此方に襲いかかって来たんだよ!!
おらはそれを振り払っただけで! ……
おらは……おらは……
……くれるって言うから、素直に受け取りに行っただけだッ!!! 」
「何だと? ……貴様ッ!!
命惜しさに吾輩に嘘をついて居るのならばッ!! ……」
「違う! ……信じてくれ族長!
……確かに食うに困っては居るが、まかり間違っても
俺達に優しくしてくれるメアリさんの顔に泥を塗りかねない様な事なんて
絶対にしたりはしねぇだ!!
……あの日、メアリさんに貰った食料のお陰で
おらの妻も腹ん中の子供も死なずに済んでるだよ!
だから! ……」
「もう良い、黙れ……
……吾輩の目に狂いが無ければ、お前は嘘をついては居ないだろう。
だが……事実、こうして怪我をした人族が居る以上
貴様を罰さぬ訳には行かぬ。
故に……今日、吾輩は貴様を……我が種族から追放する」
「そ、そんなっ?! ……」
「……とは言え、身重の妻と離れ離れにする訳にも行かぬ。
其処でだが……
……国王よ、余りにも勝手な申し出だとは理解している。
だが……せめてもの慈悲として
去りゆくこの者達に対し、人間族の二月……いや。
……一月分で構わない。
過ごせるだけの食料と、荷馬車を分け与えては貰えないだろうか? 」
《――同席していた当時の国王に対しそう言うと
深々と頭を下げた若き日のグランガルド。
暫しの沈黙の後、国王は静かに頷き――》
………
……
…
「良かろう……だが、一人半月分。
合わせて一月分までとする……これで構わぬな? 」
「ああ……感謝する。
さて、沙汰は下った……今日を以て
お前達二人を、我が種族より追放とするッ!! ……」
《――この瞬間より数時間の後
彼らは王国を去る事と成った……そして去り際
メアリは、彼らの乗った荷馬車へと駆け寄ると――》
………
……
…
「私、今から凄く無責任な事を言うわ……お願い、強く生きて。
何の支えも出来ないけれど
貴方達家族が平穏無事に暮らせる事を心の底から祈ってるわ。
それじゃ……元気で」
《――目に涙を溜めながら
去りゆく彼らに対しそう告げたメアリ。
……彼女の優しい言葉に、ただ静かに頭を垂れた後
馬車馬へ鞭を入れたオーク族の夫婦……この後、彼らが
何処かに安住の地を見つけ、その地で家族仲良く
平穏無事に暮らせているかどうかなど誰にも分からないが
祈る様に去りゆく彼らの荷馬車に向け、彼らの無事を
彼らが見えなくなるまで願い続けたメアリ。
だが……この日より暫くの後
人族とオーク族に於ける最大の軋轢を生む事と成った
さらなる事件が起こる事に成ろうとは……彼女は元より
王国の誰一人として予想だにしていなかっただろう――》
………
……
…
「……ですから私はご進言差し上げたのですッ!
“あの者達の様に”何時襲って来るやも理解らぬ
理性などまるで無い獣など飼っていては
遅かれ早かれこの国を崩壊させるとッ!
……改めてご進言差し上げます。
あの者達を直ちにこの国から追放する事をッ!! 」
《――国王を含め
王国上層部の集まる中、再び“オーク族追放”を進言していたアマンダ。
……僅か数日前の出来事と言う事もあり
上層部の者達の中にも彼女の意見に賛同する者は多く
最終的な決断は国王に委ねられるまでに成っていた。
だが――》
………
……
…
「余は、オーク族の追放を……認めぬ」
「な、何故です!? ……あれ程危険な獣共ですよ!?
それに……此程の賛同者が居る中でその様な決断をすれば
国王様に対する“不信”にも繋がり兼ね……」
「アマンダ研究員……これ以上、余の判断に異を唱える事は許さぬ。
良いな……二度は言わぬぞ? 」
「し……失礼致しました」
「……判れば良い。
一先ず、御主は我が国の研究員として
当面の間、飢饉の解決のみを考え……」
《――この日
国王に依って封殺された彼女の策。
……だが、反対を押し切ってまで国王が望んだ
“現状の維持”は、ある意外な形で終わりを迎える事と成る――》
………
……
…
「……チッ!!
あの国王にも“これ”を盛れさえすれば
簡単に意のままに操れるのに……ッ!!! 」
《――帰宅後
眼前に置いた小瓶を睨みつけながらアマンダはそう言った。
彼女は……身重の妻の為、食料を欲していたオークに対し
小瓶の“中身”を使用していた――》
………
……
…
「良い? ……よく聞いて?
あの家の人達は皆少食でね――
“食料が沢山余ってるから
腐らせる位なら困ってる人に引き取って貰いたい”
――って言ってたのよ。
だから私――
“今晩、貴方達の所に現れるオークさんに
全て引き取って貰える様に伝えておくわね”
――って言っておいたから
安心して今晩辺り訪ねると良いわ? 」
《――と、虚ろな瞳を浮かべた彼の耳元でそう囁いたアマンダ。
一方、彼は寝言の様に――》
「食料が……貰える……取りに行く……今晩取りに行く……」
《――そう
幾度と無く繰り返し続けていた――》
「ふふっ♪ じゃあね、お馬鹿な豚さん……」
………
……
…
「長年を掛けた私の計画……
……あの馬鹿な豚は簡単に引っかかってくれたけれど
国王の頑なさだけがどうやっても切り崩せない。
もう一度“あの人”の力を借りないと……そして
闇に葬られた私の作物を……真の“賜物”を復活させた上で
なんとしても、あの女を蹴落とさないと……」
===第百四八話・終===
次回は11月13日に掲載予定です。