第百四六話「病み上がりは楽勝ですか? 」
<――メディニラさんから一ヶ月間の休息を“命じられ”
信じられない程に過保護な“軟禁生活”を過ごした俺。
……だが、皆の優しさに改めて気付く良い機会と成った事や
この所、軽い自信喪失状態に在ったガンダルフが
日本刀と甲冑の再現成功を期に
職人としての誇りを再び取り戻してくれた事などは
何物にも代えがたい程のとても喜ばしい出来事だったと思う。
ともあれ……そんな日々を過ごす中、俺は
転生後初めて得られた“物理的な装備”を傍らに置き
ヴェルツ一階で仲間達と朝食を摂って居たのだった――>
………
……
…
「あ、あの……主人公さん」
「ん? ……マリア、妙に緊張してどうした? 」
「その、何て言うか……主人公さんにしか頼めない事が有りまして」
「へっ? ……な、何だい? 」
<――とても真剣な表情で
何か言いたげな様子を醸し出したマリアに対し、俺は……
……俺自身にも相当な覚悟が必要な程の
凄まじい頼み事をされるのではと内心穏やかでは無かった。
一方、そんな俺の心情を知ってか知らずか
マリアは意を決した様に、机の下から勢い良く“何か”を取り出した。
かと思うと――>
………
……
…
「こ、この“リンゴ”……剥いてくださいっ!
主人公さんの“果物ナイフ”じゃないと綺麗に剥けないと思うので! 」
「そうか、リンゴか……うんうん、分かるぞマリア。
そんな事を頼むには相当な勇気が……ってリンゴ?!
……なぁ、マリア。
お前、完全にこの“刀”の事……イジってるよな? 」
「えっと……はいッ! 」
「なッ!? お前、堂々と……
……てか、お前からしたら“果物ナイフ”なんだろうけど
物理適正“終わってる”俺からしたら
こんなサイズでも地味に嬉しいんだからなッ?!
兎に角……今の俺にとっては
これが唯一の物理装備だから、もうイジってくるなよ?!
お前が何と言おうが……これは俺の自慢の刀なんだからなッ?! 」
<――そうは言ったものの
確かに……マリアの言う“果物ナイフ”位にしか使えないだろう事は
言われなくても分かっていたのだが
此処まで正面切って指摘されると
流石にほんの少しだけイラッとしたのだ。
とは言え、其処まで怒っている訳では無かったのだが
突如として大人しくなったかと思うと、暫くの間俺の事を見つめ
とても申し訳無さそうにし始めたマリアは――>
………
……
…
「そう……ですよね。
えっと、その……少し悪ノリが過ぎました。
そもそも私が転生前にあんな“ミス”しなかったら
主人公さんも物理装備で戦えて……」
「ち、ちょっと待ったッ!
それって一体……どんなミスだ? 」
「それが、その――
“主人公さんが魔導適正の鬼なら私は物理適正の鬼に成りたいな~っ!
でも、魔導も捨てきれないから主人公さんの半分位は使えたら楽しいかも? ”
――とか考えながら制御盤操作してたら
時間が足りなく成っちゃってて、焦った結果
私も主人公さんも両極端なステータスに成っちゃったんです……」
「……それってもしかして、時間的に間に合ってたら
俺にもある程度は物理適正があったって事? 」
「えっと……はいッ!
……普通の刀位なら振り回せる位には設定するつもりでした! 」
「おいぃぃぃぃ!!! ……お前それ、本気でやばいミスだからな?!
てか、マジか……」
「はい……なので、全部私の所為って言うか……」
「そうだったのか……いや。
マリアは……断じてミスなんかしてない! 」
「へっ? でも、物理適正が……」
「い……良いから良いからッ!
てか、一応“格”が上がった時に少しは物理適正も伸びたし
だからこそ今“この刀”を持つ事が出来てるんだしさ!
……そもそも、もし俺が完全無欠な存在にでも成ってたら
知り得なかった知識や出会えなかった相手だって沢山居たかもしれないじゃん?
そう考えたらさ! 今、皆とこうやって一緒に過ごせてるのも
マリアのお陰って考えられなくも無いだろ?
だから……気にしなくて良いんだって! 」
「し、主人公さん……もしかして、口説こうとしてます? 」
「は? ……な、何でそうなるんだよ?!
全く……取り敢えずこの話は終わりって事で良いな? 」
「あっ、図星を突かれた事への照れ隠しですか~? 」
「だ・か・ら……違ぁーうッ!! 」
<――ともあれ。
暫くの後、朝食を終えた俺達は
万全を期す為、大精霊メディニラさんの所へと向かい
俺の“回復具合”を訊ねる事と成ったのだが――>
………
……
…
「ほう、一月でこの程度の回復とは……
……やはり、負担は大きかった様であるな」
「えっ? まさか、追加で軟禁……じゃなかった。
“休息”を取れって言うんじゃ……」
「否……それまでの必要は無い。
じゃが、未だ完全とは言えぬ状態じゃ……余り無理をしては成らぬぇ? 」
「はい……心得ておきます」
「……とは言え、軽い運動程度であれば狩りも構わぬ
じゃが、くれぐれも亡霊が潜む場所へなどは行かぬ事じゃ。
“取って食われぬ”とも限らぬ故な……」
「い゛っ?! ……絶対行きません! 」
「ふむ……ならば良い。
何れにせよ、余り無理はせぬ事じゃ……ではな」
「はい、ありがとうございました……っと。
皆、掴まって……ヴェルツ前へ! ――」
………
……
…
「主人公……主は
童が自らの身体に突き刺した“呪具”を
無意識とは言え、浄化し……そして、消滅させた。
……此程迄に人の器を安々と超える所業を成し遂げた主が
崩壊する事無く、今も尚この世に在り続けて居る事自体が
妾にすら図り知れぬ程の奇跡であり
“神の所業”とも言える程の偉業で有る事を……
……主は何処まで理解しているのであろうな」
《――彼らの去りし後
彼らの去った方角を見つめつつそう呟いた大精霊メディニラ。
……一方、自らの“偉業”に気づく事無く
ヴェルツへと帰還した主人公は――》
………
……
…
「てか……“完全回復して無い”って言われちゃった訳だけど
俺自身は休息を取る前から
全くと言って良い程疲労感が無かったんだけどさ……
……今となってはそれが逆に怖く成ってたりするんだよね。
正直、快気祝いと肩慣らしを兼ねて
久し振りに狩りにでも行こうかと思ってたんだけど
狩り自体が怖く成る様な事言われちゃったし
もう少し休暇を延長してみるのも手なのかも……」
<――と、メディニラさんの発した“警告”と
その“雰囲気”に怯えてしまっていた俺に対し――>
「ふむ……ならば、敵は吾輩達に任せ
御主は防衛に徹すると言うのはどうだろうか? 」
<――そう提案してくれたガルド。
だが、それでも今一つ乗り気に成れないで居た俺に対し
ガルドは――>
「……確かに大精霊の警告を恐れる事も必要ではあるだろう。
だが、吾輩からすれば
“勘が鈍る”方が余程恐ろしいと思えてしまうのだ、友よ。
それに、この方法で狩りをすると言う事は
即ち、御主の未だ不得意な……
……“仲間を頼る”事への、良い“訓練”と成るとは思えぬか? 」
<――そう言って、俺の中にある
“汎ゆる意味での”怯えを取り払う様な提案をしてくれた。
そして……そんなガルドの提案を受け、奮い立った俺と同じく
仲間達は皆久しぶりの狩り……且つ
何時もとは違う“戦法”と成る事に目を輝かせ
これでもかと言う程に、やる気を漲らせ始めて居て――>
………
……
…
「そうと決まれば“斧りんマークⅡ”の力……
……久し振りに発揮しちゃいますよぉ~っ! 」
<――言うや否や
凄まじい勢いで肩を回し始めたマリアを筆頭に――>
「“何時もと違う戦い方”って言う位だし……私は早速
甲冑と小太刀を装備して戦ってみようかしら? 」
「ふむ、それは良い案だ……吾輩も付き合おう」
<――直後
マリーンとガルドは甲冑と刀を取りに行き、メルは――>
「でしたら私も! ……けど
甲冑は流石に重過ぎなので無理ですし、短刀だけ……
……腰に差しておきますねっ! 」
<――そう言いつつ
鞄の中から“短刀”を取り出すと、そのままベルトに差したメル。
……ってか、ずっと持ってたのね。
ともあれ……暫くの後
皆の準備が整った訳なのだが――>
………
……
…
「えっと、その……凄く“違和感”を感じるんだけど」
<――思わず口をついて出てしまった一言。
だが、当然だと思う。
ガルド……甲冑姿。
マリーン……甲冑姿。
マリア……バーバリアン装備。
……つまりは甲冑姿。
メル……は魔導師らしい恰好だが、腰には短刀。
そんな中、俺だけいつも通りの格好である……まぁ
一応懐には忍ばせているのだが……兎に角。
そんな“違和感満載”でギルドに向かった俺達は
ギルドに居るハンター達から好奇の目で見られる事になるのだった。
ともあれ……若干引いた様子の受付嬢さんに
肩慣らし程度の仕事を見繕って貰った俺達は
“王国時代”にオルガと行って以来、久しく訪れていなかった
タウロス系の魔物が生息する地域へと向かう事になり――>
………
……
…
「っと、今日のノルマは……
……“タウロス二〇頭分の角”と“メガタウロスの尻尾を二本”か。
言ってみれば“簡単な仕事”だけど
俺を含めて全員久し振りの狩りだし、余り無茶な行動はしない様に
ちゃんと心がけて、怪我の無い様に……」
「うおりゃあああぁぁぁぁっ!!! 」
「って!? 言ってる側から……マリアのアホぉぉぉッッ!!! 」
<――ちょっとした“トラブル”と言うべきか
もしくは“通常運転”と呼ぶべきか……マリアの
“暴走突撃”を合図に、戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
だが……まぁ、当然と言えば当然なのだが
数々の危機を潜り抜けて来た俺達に取って
今回の仕事はまさに“赤子の手をひねるかの如く”に容易い物だった。
……実際、ガルドもマリーンも
手に入れたばかりで詳しい扱い方など知りもしない筈の刀を
自らの戦闘スタイルに沿った形で巧みに操って居たし
メルはメルで、それぞれの戦いを補佐する為
状況に応じた適切な強化魔導を同時展開する程の余裕を持っていた。
だが、その反面……
……皆に防衛魔導を付与した後は俺だけ後方で待機と言う
所謂……“俺だけ空気”のまま、唯唯皆の戦闘を眺め続けた結果
疎外感を感じて居た俺……とは言え
此処で安易に狩りに参加し、ガルドの提案した
“皆に頼る訓練”を放棄する事に成るのは気が引けたし
それを考えればこそ、安易に動く事は出来ず……
……少しずつ強くなる疎外感に耐えつつ
唯ぼんやりと防衛魔導の展開を続けていた俺。
ともあれ……暫くの後。
誰一人として掠り傷すら負わず、余裕で依頼目標を達成し
笑顔で戦利品を掲げ、此方に帰って来る皆の姿が見えた瞬間
そんな頼もしい皆の姿に――
“少し寂しかったけど、ガルドの提案に乗って良かったのかも知れない”
――と感じ始めていた俺、そして
“たまにはこんな戦いが有っても良いのかも知れないな”
と、俺の中の疎外感も薄れ
ガルドの思惑通り、皆に対する信頼感が増し始めていたその時――>
………
……
…
「な……何だっ?! 」
<――皆の背後
何処からとも無く、謎の魔物が現れた。
……無論、直ぐに皆の近くに転移した俺は
全員を防衛魔導で包んだ後、謎の魔物に対し――>
「氷刃ッ!! ……」
<――攻撃を放った。
だが……この攻撃をいとも簡単に回避したかと思うと
間髪を入れず、防衛魔導へ突進を繰り出した謎の魔物。
ただ、幸運にもこの魔物の持つ力では
俺の防衛魔導を崩壊させる迄は行かず
防衛魔導の壁に弾き返された魔物。
……だが、その反面
何処からともなく現れた挙げ句
“格”が倍増した俺の攻撃を容易く見切り
余裕で回避出来る程の敵を、どう甘く見積もっても
“弱い”と切り捨てる事だけは出来ず慌てて魔物のステータスを確認した俺。
だが――>
………
……
…
「おかしい……“黒塗り”じゃないのに
何も分からないなんて……」
<――ステータス欄は全て確認出来る状態だった。
だが、その全てが“文字化け”して居た――>
「何? ……御主程の力を以てしても、解析出来ぬ敵だと言うのか? 」
「残念だけど……全く読めない。
その……一応聞いておくけどガルドはあの魔物に見覚えあるかい? 」
「いや、吾輩もあの様な魔物は初めてだ……しかし
御主の氷刃を容易く避けるなど……信じられん」
「俺も正直驚いてるよ……ただ、何れにせよ放置してたら危ないし
少し“抑えずに”攻撃してみたいんだけど……
……構わないかな? 」
「うむ……だが、決して無理はするな」
「ああ、分かってる……」
<――この後
呼吸を整えつつ、出来るだけ回避の難しい技を思い浮かべ
“謎の魔物”に狙いを定めて居た俺。
無論、その間も魔物は防衛魔導の壁に対し
幾度と無く体当たりを繰り返し……その行動に依って
防衛魔導内部には凄まじい衝撃音が鳴り響いていた。
全く同じ場所に全く同じ速度……
……全く同じリズムで、ひたすらに体当たりを繰り返す謎の魔物。
動きを監視し続けた結果……俺は
敢えて攻撃系の魔導では無く、防衛魔導で包み込んだ後
そのまま押し潰すと言う策を思いつきそれを実行に移す為
手を振り上げた。
だが、その瞬間――>
………
……
…
「……何だ? 」
<――そう呟いたガルド。
直後、突如として苦しみ始めたかと思うと
謎の魔物はその場へと倒れ込み――>
「まだ俺は何もしてないのに……って。
まさか“死んだフリ”でもしてるんじゃ……」
<――当然直ぐにステータスを確認した俺。
だが、ステータス上に現れた表示は間違い無く
“死亡状態”で――>
「意味が分からないけど、本当に死んでるらしい。
兎に角、一応ギルドに報告を入れておこう……」
<――直後
念の為、防衛魔導を展開したままギルドへの通信を開いた俺は
受付嬢さんにこの魔物についての報告をした。
だが、当然と言うべきか……予想通りだが
受付嬢さんもこの魔物に関する情報を持っては居らず――>
………
……
…
「……こちらでもお調べしておきますが、念の為
ラウド大統領とエリシア様にもお伝え下さい。
尚……ギルドと致しましては、安全の為
そちらの狩り場を一時的に
“立入禁止区域指定”にさせて頂きます事と
今回の報酬には成功報酬の他に危険手当を割増させて頂く形で……」
<――この後
ラウドさんとエリシアさんにも魔導通信を繋ぎ
受付嬢さんにしたのと同じ説明をした俺。
だが、博識な二人ですらこの魔物に関する情報は有しておらず
唯不安だけが残る結果と成った。
……ともあれ、一度政令国家へと戻った俺達は
ギルドに立ち寄り“増額された報酬”を受け取り
釈然としない中ヴェルツに戻り
反省会を行う事と成ったのだが――>
………
……
…
「……んまぁ、魔物の件は魔導隊に任せるって事で! 」
<――俺を含め
皆、説明の出来ない不安を感じていた事もあり
“謎の魔物”に関する話題は敢えて早々に切り上げ
今回の戦い方に関する反省会をしていた俺達。
だが、その所為で話は“あらぬ方向”に逸れる事と成ってしまい――>
………
……
…
「しかし……“防御に徹する”って言っても
今回の俺は流石に“空気”過ぎた様な気がするんだけど……」
「……いや、御主は見事に作戦通りの動きをしていた
寧ろ、吾輩達が少しばかり“はしゃぎ過ぎて”しまっただけの事。
だが……それもこれも、ガンダルフの造りしこの“刀”が
余りにも凄まじい力を与えてくれたお陰であろう……」
<――俺の快気祝いを兼ねた事も有ってか
酒を片手に些かご機嫌な様子のガルドは――
“惚れ惚れ”
――と言った様子で、柄頭を撫でながら“太刀”を褒め称えていた。
そして……それに同意する様に同じく、ほろ酔い気分なマリーンも
自らの刀に“惚れ惚れ”と言った様子で――>
「正直……こんなに扱いやすくて美しい武器なんて初めて持ったけど
まるで“ずっと前から使っていた”様な手に馴染む感じが凄くて
それに、切れ味も意味分んない位良いし……」
<――と“小太刀”を褒め称えていたマリーン。
だが……二人が自らの刀に対する“愛”を
これでもかと言う程、自慢気に語っていたその時
同じくヴェルツに訪れて居た物理職……
……特に“剣士”を名乗る職業の者達が
次第に聞き耳を立て始めていて――>
………
……
…
「……な、なぁ二人共?
気づいてるかどうかは知らないけど、かなり……
……“注目浴びてる”ぞ? 」
「当然よ! ……私達の持ってる刀が世界で一番切れるんだもの!
余りに違い過ぎて、自分の刀が“鉄の棒”にでも見えたんじゃない? 」
「ちょ、マリーンッ?! 余りそう言う事を言うと……」
<――と。
酒の所為か、些か“過ぎた発言”をしてしまったマリーンを
必死に落ち着かせようとしていた俺だったが……
……聞き耳を立てていた“剣士”達は
不快感を絵に書いた様な表情を浮かべつつ勢い良く立ち上がると
勇み足で二人の元へと詰め寄り――>
………
……
…
「お二人さん……その剣は一体何処の物で?
何だか見た事無ぇ形に反ってるが
お二人さんが其処まで言う程の切れ味なんですかい?
……いや、答えなくたって分かる。
そもそも、良く考えたらお二人さんは
共に、昨日まで剣なんざ握った事のねぇ“ズブの素人さん”だった筈。
そんなお二人さんがそれ程感動するってのは
余程切れ味が凄まじいか、只……
“初めて持った剣に、ガキみてぇに興奮してる”だけか。
お二人さん……あんたらは一体“どっち”だ? 」
<――二人に詰め寄った剣士の一人が
二人に対し、そう……少し無礼な態度で質問をした。
……だが、この発言に怒るどころか
二人は大笑いし始め――>
………
……
…
「チッ……何がおかしい? 」
<――尚も腹を抱えて笑う二人に対し
眉間にしわを寄せそう訊ねた“剣士”
そんな彼に対し、ガルドはゆっくり立ち上がると――>
………
……
…
「一目見れば貴様の疑念も晴れるであろう……付いて来るが良い」
<――そう言って店を出たガルド。
だが、そんな様子を間近で見ていたら――
“まさか、この剣士達と決闘でもするつもりか!? ”
――と、慌てるのが普通だろう。
斯く言う俺も慌てに慌てつつ
状況に依っては問答無用で間に入る事も覚悟し
慌ててガルド達を追い掛けた。
だが、到着した場所で見る事と成った光景は――>
………
……
…
「良いか貴様ら……今から
段階的に対象物の“格”を上げ、切れ味勝負を行う。
貴様と我輩の刀、何れかが対象を切り切れなかったその時……
……勝敗は自ずと出る訳だ」
<――ヴェルツから離れ、暫く歩いた後
草木の他、自然物が数多く立ち並ぶ場所へと到着した俺達。
この場所でガルドが言い放った勝負の方法。
“この場所にある様々な対象を切れなかった方の負け”
この、単純明快な勝負の方法に――
“面白い……受けて立つ! ”
――と、二つ返事で乗った剣士達。
唐突に始まった勝負……だが第一の勝負は
ガルド曰く
“背の高い野草”
何と言うか……素人目に見ても分かるが、結果として
これを切れない者など一人も居らず
全員が成功し、早々に次の勝負へと移った。
そして、第二の勝負は
“ガルドの腕程の太さを持つ樹木”
……だが、この勝負に関しては
ある程度の太さを一刀両断しなければ成らない以上
剣士側には脱落者も数名見られ……それでも
腕に覚えの有る剣士達の数多くが成功し
ガルドとマリーンもこれを成功させたのだった。
だが、最後の勝負にガルドが提案した“対象物”は
余りにも“常軌を逸して”居て――>
………
……
…
「ふざけるな! ……そんな物を切ってる奴なんざ見た事が無い!
まずは、言い出しっぺのアンタが先にやってみな。
アンタがもし切れたら、此方も挑戦してやるよ……」
<――ガルドに対しそう言い放った剣士。
彼がそうまで言う程に“常軌を逸して居た”対象物
それは……身の丈はあろうかと言う程の巨大な“岩石”だった。
正直、漫画やアニメでしか見た事の無い事を言いだしたガルドに
俺ですらも半信半疑どころか、無理だと感じて居た位だ。
幾ら魔導や神話の生き物が暮らしているこの世界でも
そんな無謀は――>
「良かろう……見ているが良い。
……フンッッッ!!! 」
<――俺の心配を知ってか知らずか
勢い良く振り抜くと、そのまま何の迷いも無く
全力で岩石に向け“太刀”を振り切ったガルド。
その結果――>
………
……
…
「そ、そんな……馬鹿な。
……あり得ない!
そ、そうだ! きっと予め、何らかの仕掛けを……」
「……何を馬鹿な。
すると貴様は――
“貴様に刀を貶され、この場所で試斬勝負を行う事に成る”
――吾輩がそう予見していたとでも言うつもりか? 」
「そ、それは……お、恐らくそうなのだろう!! 」
「ふむ……ならば更に問う。
貴様も剣士の端くれである以上理解しているとは思うが
他の剣士が振るった太刀筋を、よもや……
……“見えなかった”などと言うつもりでは無かろうな? 」
………
……
…
<――質問の直後、剣士達は素直に負けを認めた。
そして……ガルドの凄まじい“岩石切り”に触発された
“ほろ酔い状態”のマリーンは、自らもこれに挑戦し……
……見事、これを成功させた。
この出来事は国内外で急激に広まり、後々この国に
新たな剣士職……“侍”が誕生する事に成るのだが
この所為で、俺の仕事量が
“尋常では無い程”に増える事に成るのは、また別のお話――>
===第百四六話・終===