第百四五話「“関門”突破後も楽勝ですか? 」
<――皆が安らかに眠れる事を祈りつつ、ネイト君一家と
今は亡き国の民達の為に墓を建てた俺……とは言え。
今回の騒動に於ける最大の功労者は俺などでは決して無く
純粋に、大精霊メディニラさんやモナークの二人だと思って居た。
大体、解決までの道筋を考えれば
到底俺だけでは解決出来なかっただろうし
二人には感謝しか無いと、本当に心の底から思って居た。
だが、その半面……今回の問題を解決するにあたり
メディニラさんと交わした“誓い”
……勿論、無事に解決出来た以上問題は無いのだが
改めてその“内容”を思い浮かべると
今更ながらゾッとしている自分がいるのも確かだった。
何れにせよ一度、メディニラさんに報告をしなければ……そして
一刻も早く、この腕に巻き付いた“まま”の
蔓を取って貰いたい――>
………
……
…
「……何やら妙に急いておる様に感じるが
そもそも、何故その蔓を外さねばならぬのじゃ?
その蔓は主を護ったであろう? 」
「い、いや……それについては感謝していますが
何と言うかその……今更ながら
メディニラさんと交わした“誓い”に関して
“ゾッとしている”と言いますか何と言いますか……」
「……ほほう?
その口振りから察するに……差し詰め
主の策が成功であれ失敗であれ妾はその蔓を操り
主との“誓い”を強行するとでも思うておったのであろう? 」
「い、いえ……決してそう言う訳では……」
「全く……妾も不敬な者に力を貸したものじゃ。
良いか? 主人公よ……妾が何故
主に対し“森と一体と成る”事を誓わせたと思うて居るのじゃ?
そもそも、妾が本当に
その様な事を行うとでも思うておったのかぇ? 」
「えっ? ……違うんですか?! 」
「当たり前じゃろう? ……全く」
「そ、そうだったんですね……そうとは知らず
本当に申し訳有りませんでした。
と言うかその様子だと、あの“誓い”はもしかして……
……俺の覚悟を見抜く為の“方便”だったって事ですか? 」
「“ある意味では”な……じゃが、主は成功したであろう?
成らば、妾の“本当の”真意など些末な問題では無いかぇ? 」
「えっ? ……いやいやいやいや!!!
そう言う言い方されると疑ってしまうんですけどぉ?! 」
「ふむ、人族とはそう考える物なのかぇ? ……何れにせよ
妾は主の事を悪い様にするつもりなど微塵も無かったぇ?
唯……」
<――そう言って俺に近づいたメディニラさんは
俺の腕に触れ、巻き付いたままだった蔓を外しながら――>
………
……
…
「……妾が少しばかり主の持つ“余りある力”
そしてその存在の危うさについて考えておったのもまた事実じゃ。
……故に、主を
妾と同じ種族へ“作り変えて”しまえば
主に取っても、主の大切な者達に取っても
無論……マグノリアに取っても良い話だと思って居った。
一切考えもしなかったと言えば、嘘に成る程にはな……」
「そ、それは……困りますッ!!
勿論、精霊族には尊敬の念がありますし
そう思って頂ける事に感謝すらしています……ですが!
……メディニラさんから見れば
人族と言う存在がどれ程つまらない物であっても
俺は俺のままで生きて居たいと言うか……」
「フッ……フハハハハハッ!!
まさかこれ程真剣に受け取るものとは。
安心するが良い……少なくとも
主には“まだ”遠い未来の話である故……兎も角。
童の問題が無事に解決した事はとても良い知らせじゃが
それと同時に……主は暫く休息を取るべきであるな」
「へっ? でも個人的には疲れてる感じが無いんですけど……」
「何を馬鹿な……霊との会話だけで無く
その捜索、ましてや“具現化”までもと成れば
主の体には相当な負荷が掛かっておる筈じゃ。
最低でも本日より数え、一月程の休息を取るのが良かろう」
「い、一ヶ月ですか?! 一週間位なら分かりますけど……」
「……主よりも遥かに永き刻を過ごす
妾の忠告を無下にする事、余り利口とは言えぬぇ? ……」
「わ……分かりました。
ご忠告通り一ヶ月程のんびりします……」
「うむ、良い心掛けじゃ……無論、軽い座り仕事や
“ゲーム”程度ならば根を詰め過ぎ無ければ構わぬ……じゃが
間違っても狩りになど赴く事の無い様心得ておく事じゃ。
……良いな? 」
「はい、出来る限り気をつけて……」
「馬鹿者……“出来る限り”では無い。
もし聞けぬと言うのならば、妾の力で
主を此の場に括り付けてでも……」
「わ、分かりました分かりましたッ!! ちゃんと休息を取りますから!
でも……メディニラさんが其処まで心配して下さるって事は
それ位、俺は力を使ってしまったって事です……よね? 」
「うむ……並の人間であればこの世には居らぬやも知れぬ程じゃ。
良いか? ……主は、怨霊と成り果てた為に
近々主の世界で言う“閻魔”の沙汰が下る境遇にあった者に対し
半ば強引に“天国”への道筋を立てた……立ててしまったのじゃ。
どう甘く見積もっても……
……“閻魔”の怒りを買う所業だとは思わぬかぇ? 」
「それって俺、凄く不味い立場って事じゃ……」
「……本来ならばそうであろうが、そう成らぬ為
主の腕に守護をしておったのじゃ。
まぁ、そのお陰で……妾が彼奴に対し
遠き昔に奴に貸した“借り”を無にする羽目に成ったがのう? 」
「借りって事は……メディニラさんは“閻魔様”と面識が?!
って……問題は其処じゃないですよね。
本当にありがとうございます、俺のエゴの所為で其処までの……」
「馬鹿者め……構わぬと言っておるであろう?
その様な些末な事など気にせずとも良い……じゃが。
それでも尚、妾に感謝を伝えたいと言うのならば
妾の忠告通り、休息を取る事で示せば良い……分かったかぇ? 」
「はいッ!! ……メディニラさんに引かれる位ダラダラしますッ! 」
「げ……限度は弁える必要があるぞぇ? 」
<――何はともあれ。
この後、ヴェルツに帰り仲間達に事情を話した俺
だが……人伝いに伝わった俺の休息に関する話は
最終的に“俺の一大事”として、ラウドさんの耳に伝わってしまい――>
………
……
…
「ならんっ!! ……絶対安静じゃと言うて居るじゃろう!! 」
「い゛ッ!? いえその、多少の事務仕事なら良いってメディ……」
「じゃから……ならんと言うておるじゃろうッ!!
もしも休息を破ったならば、主人公殿を……
……国外追放とするかもしれんぞぃ!? 」
「い゛ッ?! な、何も其処までしなくても……」
「今回ばかりは主人公殿に拒否権など無いぞぃ?!
良いな? これは“大統領命令”じゃ!! ……分かったのう!? 」
<――この瞬間
今日から約一ヶ月の間、ヴェルツ若しくは
旅館の何れかに於いてのみ……且つ
全ての行動に他者の介助が必須と言うかなり厳しい条件下での
所謂“軟禁生活”が確定したのだった。
何と言うか……まさか
こんなセリフを口にする事に成るとは夢にも思っていなかったが――>
………
……
…
「愛が……重い」
<――“軟禁”初日
至れり尽くせりな旅館の一室でそう呟く事と成った俺は
総重量“一トン”はあるんじゃ無いかと感じる程の重めな愛に困り果てていた。
……まぁ、こんな贅沢な考えに成る事自体が
恵まれているって事は分かって居たのだが――>
………
……
…
「はい、主人公さんっ♪ ……あ~んですよ~っ♪
偉いですねぇ~♪ ……ちゃんと噛めましたねぇ~♪ 」
「あ、ありがとうメル……」
<――ご覧の有様である。
何と言うか、メルを含め……まるで
“幼い子供の世話をする母親”の様に、箸の上げ下ろしも
団扇で扇ぐ事すらも……要するに
全ての行動を肩代わりしてくれて居たのだ。
とは言え――>
「……そ、そろそろお風呂に入ろうかと思うんだけど
さ、流石に男風呂に全員が付いて来るのはマズいでしょ?!
だ、だから流石にそのっ! 俺一人でって言うか……」
<――と、恐る恐る
“お伺い”を立てた瞬間――>
「……吾輩に任せるが良い。
主人公、弱った時こそ生涯の友を頼るのだ。
それに吾輩は男である……何ら問題は無いであろう? 」
「い゛ッ?! いや、確かに助かるけど……」
<――直後
真っ直ぐな目で見つめてくるガルドの態度に断る事も出来ず
服の脱ぎ着から何から、まさに“全て”を任せる羽目になった俺。
だが……幾ら親友とは言え、正直物凄く恥ずかしかった。
……兎に角。
折角の薬浴なのに、気疲れと言う名の“疲れ”が溜まりつつも
風呂上がりのビン牛乳だけを心の支えに
必死に恥ずかしさを誤魔化し続けて居た俺。
そしていよいよ風呂上がり……何時もの様にビン牛乳を飲……めず。
寧ろ、何時もとはかなり違い
“ガルドのペースで飲ませて貰う”事に成ってしまった所為で――>
………
……
…
「ちょ、ガルドッ!? 傾けるのが早ッ……ゴボゴボッ!!! 」
<――阿鼻叫喚(あびきょうかんとはこの事である。
“風呂上がり 牛乳まみれの 大惨事”
何とも最悪な川柳が完成した瞬間だった――>
………
……
…
「ぐぇッ?! 鼻に入ッ……ゲホッゲホッ!! 」
<――ともあれ。
“過保護な軟禁生活”初日を終え
別の意味で疲労困憊と成りつつも、何とか眠りについた俺。
だが勿論、翌日以降も過保護過ぎる軟禁生活は続き――>
………
……
…
「……ねぇメル?
流石にオセロの石位は自分で裏返しても大丈夫だから……」
「駄目ですっ! ……あっ!
此処よりも此方に置いた方が戦略的に優位に立てますっ!
……えいっ! 」
「いや、それは最早メル対マリアに成ってる様な……」
<――俺が初日に思った事。
“愛が重い”……これは間違っていた。
この状況に於いて、正しくは……“愛の方向音痴”だ。
……とは言え、皆の気遣いはとても嬉しく
また、久し振りに皆と一緒に笑って居られる事も嬉しかった。
だが、その反面……俺の身の回りの世話をする為に
メルは楽しいと言っていたヴェルツの仕事を休む羽目に成り
マリアはガンダルフの所に遊びに行けなく成り
マリーンはマリーナさんの所に帰れなく成り
ガルドも毎日の日課と言っていた鍛錬を休止しただけで無く
まるでボディーガードの様な状態で辺りを警戒し続けているこの状況は
正直言って……申し訳無い事この上無い。
……皆と一緒に居られる事が嬉しい反面
そんな申し訳無さを感じていた俺。
だが、万が一にも顔に出してしまえば
具合が悪くなったとでも勘違いさせた挙げ句
更に皆に迷惑を掛けてしまうかも知れない……と、例に依って
“酷いマイナス思考”に悩まされていた俺だったのだが
そんな中、突如としてお見舞いに現れたガンダルフは――>
………
……
…
「ん? 意外と元気そうじゃな! ……安心したぞぃ!
その様子なら、話位ならば出来るじゃろう? 」
「話どころかゲーム位なら出来るけど……どしたの? 」
「うむ、実は……御主が持ち帰った“例の本”を
書庫で借りて来たんじゃがな?
どうにも御主に訊ねねば解決出来そうに無い事があってのぉ……」
<――そう言うと懐から一冊の絵本を取り出したガンダルフ。
そして、目的と思われるページを開いたかと思うと
其処に描かれている物を指差しながら――>
………
……
…
「……これと同じ形の型を作り
様々な鉄を溶かして同じ物を作り上げたんじゃが
どれ程形を真似た所でこれに描かれている切れ味と強度は生み出せんかった。
……もし万が一、違うと言われてしまえば職人の名折れなのじゃが
流石にこれは空想が含まれておるのじゃろうか? 」
<――そう訊ねてきたガンダルフ。
彼が何度と無く挑戦し、幾度と無く制作に失敗した物……それは。
“日本刀”だった――>
………
……
…
「えっと……落ち込まないで聞いて欲しいんだけど
作り方が根本的に違うんだ。
鋳物として作ったら同じ物には絶対に成らないし
そもそも出来る訳が無いんだ……でも
その刀は断じて実現不可能な“空想”なんかじゃない。
何故なら、この世界でも既にそれを成し遂げた人がいるから」
「な……何じゃと?
まさか……武器の制作技術で他の種族に劣る日が来ようとは……
……このガンダルフ
いよいよ職人としての人生を終える時が……」
「えっ? ……違う違うッ!
落ち着いて! ……って言うか安心してくれッ!
……彼もドワーフ族だし、俺がその絵本を貰った相手の仲間だから
出来て当然って言うか、何と言うか……」
「何? ……そうなのか?
ならば一安心では有るが……そうなれば
本来の作り方を知る為にはどうすれば良いんじゃ? 」
「えっと……“鍛造”って知ってるよね? 」
「勿論じゃ! ……マリアに渡したその斧など
まさに、コークスを大量に消費して作った最上級の鍛造品じゃぞ?
……じゃが。
この本に記されておる刀は同じ方法で鍛造したとて
“折れず曲がらず良く切れる”とは行かなかったんじゃが……」
「う~ん……ガンダルフに鍛造の技術が有る時点で
出来ない事は無いと思うんだけどな……とは言え、俺の元いた所でも
刀の作り方ってかなりの専門知識だったし俺だって大して詳しくは無いから
精々聞きかじった程度で“折り返し鍛錬”位しか知らないし……」
「折り返しじゃと? ……鉄を畳むとでも言うのか?
しかし、折り畳んだ所で……ええぃ!!
些か不本意じゃが……
……主人公っ! 」
<――瞬間
声を荒らげたかと思うと、ガンダルフは俺の懐を指差し――>
………
……
…
「……その“公然の秘密”を使い
詳しい作り方の記された書物を……生み出して貰いたいんじゃっ!! 」
<――そう言い放ち、頭を下げた。
だが、そんな専門知識の“塊”を生み出す為には
例に依って、信じられない大きさの黄金の“塊”が必要だ。
勿論、すぐにその事を伝えた俺。
すると――>
「それも見越して……一応用意しておったんじゃよ。
……これで、足りるじゃろうか? 」
<――そう言ってガンダルフが俺の目の前に置いた黄金の塊は
今までにモナークが取り出したどの黄金よりも大きくて――>
………
……
…
「うわぁ……正直、余る位大きい様な気がしないでも無いけど
今まで何を生み出した時でも“お釣り”って貰えなかったし
せめて半分位に切ってからでも……」
「そうなのか? ……いや、それで構わんっ!
……量が多ければそれだけ
秘伝と呼べる書物の“出現確率”が上がるやもしれんじゃろう? 」
「何でそんな“一〇連ガチャ”みたいな考え方……」
「……何じゃそれは?
ええぃ! ……兎に角、早く生み出すんじゃよ!! 」
「そんな、人を“金の卵を産む鶏”みたいに……
……ってこれも伝わらないよな。
まぁ、やってはみるけど……」
<――直後
俺……の代わりにガルドが懐の本を取り出し
俺……の代わりにガルドが黄金を置き“流石に”俺が呪文を唱えた。
瞬間――>
………
……
…
「……何じゃこれは? 」
「えっと……“巻物”だね、それも相当古い感じがするけど」
「ふむ……もしや、失われし古の品か?!
直ぐに確認じゃ! ……」
<――と、興奮した様子で巻物を広げたガンダルフ。
だったのだが――>
………
……
…
「……読めん。
全く以て……読めんぞぉぉぉぉっ!!! 」
<――ガンダルフが勢い良く広げた巻物に記されて居た言葉
それは、間違い無く日本語だった。
では、有ったのだが……些か“古”が過ぎた。
……当然と言えば当然だが、達筆過ぎて俺にも読めないし
これを解読する為に専門書まで生み出すと成れば
“秘蔵品クラス”の黄金の塊をたった今失ったガンダルフには
とてもじゃないが用意する事が不可能だろう。
一応、その事を伝えはしたが……諦め切れない様子で
目を血走らせながら、巻物を凝視し続けていたガンダルフ。
そして――>
………
……
…
「ううむ……全てを解読は出来んが
先程御主が口にした“折り返し鍛錬”と……
……“土置き”……“木炭”……“水にて急冷”
ううむ……未だ謎が多いが……ある程度は解読出来た。
後は工房で試すのみじゃが……主人公ッ!
……これを全て解読し、正当な形で生み出すには暫く掛かるじゃろう
故に……もし御主が新しいゲームを考えついたとしても
直ぐには作ってやれん事、先に謝っておくぞぃ! 」
「それは大丈夫だけど……余り無理しないでね? 」
「心配は無用じゃ! ……では、失礼するぞぃっ!! 」
<――そう言い残し、凄まじい速度で走り去ったガンダルフ。
去りゆくその時、彼の瞳からは確かに職人としての意気込みを感じた。
……まぁ、それだけでは無く
この所、殆どの物の制作を“公然の秘密”に横取りされて居た
“恨み”みたいな物も若干感じはしたが……兎に角。
……この日から暫く、ガンダルフは
大臣の集まる会議も欠席し
殆ど飲まず食わずで工房に籠もり続けたのだと人づてに聞いた。
まるで……昔、ガンダルフが話してくれた
彼の師匠専用の武具を作った時の様に。
そして……そんな情報を数多く耳にするにつれ
ガンダルフが巻物の完全解読に成功する事と
それに依って彼が日本刀の完全再現に成功する事を
気付けば本気で祈り始めて居た俺は――>
………
……
…
「ガンダルフなら、完璧な日本刀を作り上げるに……いや。
完璧って言葉じゃ足りない位の“業物”を
あの“屈託の無い自慢げな笑顔”で見せびらかしに来るに……
……違いないっ! 」
<――そんな願いとも似た感情を言葉に出し
“言霊の力”をも借りようとしていた俺。
そして……そんな願いの籠もった“言霊”を発した日から約一ヶ月後の事。
不思議な程、ガンダルフの続報を聞く事無く
俺の“軟禁生活”も終わりを迎えた日――>
………
……
…
「……久し振りに自分の足で立ち上がったぁぁぁっ!
こんなに自分で動けるって気持ちいいのか?
まぁ……余りに動かなさ過ぎて、若干足がプルプルするけどね」
「流石の主人公さん“でも”そんな事に成る位には過保護でしたもんね! 」
「おいマリア、何か嫌味に聞こえるんだが……気の所為か? 」
「えっと……はい! 」
「“どっちを”肯定したのかは気になるけど……まあ良いや。
久し振りに動けるんだし、運動……とまでは行かなくても
魔導も使って良くなった事だし、それこそ
一番禁止されてた“狩り”にでも行ってみようかな?
あっ……でもその前に一度
ガンダルフの所に様子を見に行きたいんだよな……」
<――などと
旅館の一室で話していると――>
………
……
…
「失礼致します……主人公様。
ガンダルフ様がお会いしたいとの事で、お見えに成られております」
<――そう旅館の女将から告げられ
直ぐに通す様お願いした所――>
「それが、少々“お荷物が多い”ご様子でして……」
<――と少々口籠もった後、女将さんは
“人数分を部屋まで持って行くのは大変じゃ
大体、休み明けなのじゃから下まで降りて来られるじゃろう? ”
と言うガンダルフからの伝言を伝えてくれた。
だが……その直後、下へと降りた俺達を待っていた光景は
“異質な物”で――>
………
……
…
「えっと、その……ガンダルフ?
その、凄まじい“箱の山”は何ぞ? ……」
「何を言う、あの本に記されていたのは刀だけでは無かったじゃろう?
じゃから、あの“防具”も人数分作ってみたんじゃよ!
まぁ、既に立派な武器と防具を有するマリア以外じゃが……兎に角。
此処まで持ってくるのは大変でのぉ! ……」
<――この後、一頻り苦労話を語り続けたガンダルフ。
そして、語り終えるとそれぞれの箱を開き
中から人数分の“甲冑”を取り出したかと思うと
ガルド、マリーン、メル、そして……あろう事か
俺にまで着せようとし始めたガンダルフ。
だが“例に依って”――>
………
……
…
「う、動けない……無理……」
「ううむ……やはり物理適正の問題があったか。
予想はしておったが……仕方無い
まぁ、旅館に飾って置けば良いじゃろう!
この場所に箔が付くと思えば、少しは報われると言う物じゃ! ……」
「ああ! 凄い完成度だもんね! ……」
<――と、少しだけ残念そうなガンダルフを
必死にフォローしようとしていた俺。
だが、そんな中ガンダルフは思い出した様に
“本命”の箱を取り出し始め――>
「甲冑などは前菜……此方が本命じゃ!
まずはガルド……御主に合わせ少し太く……巻物には
“太刀”と書かれていた型を模して作ったぞぃ! 」
<――そう言って、ガルドに手渡した“太刀”は
断じて“少し”どころでは無く
まさしく剛の物と呼ぶに相応しい程の造りをしていた。
そして――>
「次に……マリーン。
御主は華奢じゃからな、扱いに困らぬ様
巻物には“小太刀”と記されていた型を模して作ったぞぃ! 」
<――そう言って、同じく手渡した“小太刀”は
美しい装飾が施され、文字通り“細身”で
ガルドの“太刀”とは対象的に、柔の物と呼ぶべき造りをしていた。
更に――>
「メルには……“短刀”と呼ばれる物を用意したぞぃ!
巻物に依ると、枕元に置く事で邪気を祓う効果も有るとの事じゃ! 」
<――そう言ってメルに手渡した“短刀”は
一体どうやって再現したのか、とても美しい漆塗りで仕上げられており
まるで宝石かの様に光り輝いていた。
……ともあれ、これで全員分かと思っていた俺に対し
ガンダルフはニヤリと微笑むと――>
………
……
…
「……いよいよ最後じゃ主人公!
安心せぃ! ……御主にもちゃんと用意しておるでな!
勿論、御主の物理適正も考え
皆に渡した物よりも少しばかり軽く作っておいたからのぉ。
それが……これじゃ! 」
<――そう言って自信満々に“懐から”取り出したそれは
刀と呼ぶには余りにも“小さく”て――>
………
……
…
「えっと……ナニコレ? 」
「何と言われても……巻物には
“小刀”と記されていた物じゃぞぃ?
刀の鞘の脇に彫られた場所に収めておく物なんじゃが
それ故に、他の物と違って専用の鞘が無くてのぉ?
仕方が無いから、ワシが少しアレンジを加えてみたんじゃが……
……どうじゃ? 上手く出来ておるじゃろう? 」
<――と“屈託の無い自慢げな笑顔”を浮かべながら
“小刀”を俺に手渡したガンダルフ。
……だが、何処をどう見ても“日本刀型ペーパーナイフ”にしか見えず
正直言って、もし仮に俺にも甲冑が装備出来ていた場合
とんでも無い“アンバランス”を醸し出して居ただろうと思う位には
名前通りの“小さな刀”だった。
……とは言え、この大きさですら
物理適正の無い俺にとってはギリギリだったのか
まるで、数キロ程のダンベルを持っているかの様な
物理適正的にギリギリ持てる大きさの
この世界に来て初の“物理的な刀”を得た俺は――>
………
……
…
「本気で嬉しいよ……ありがとうなガンダルフ! 」
<――自分自身でも意外だったが
心の底から喜んで居たのだった――>
===第百四五話・終===