第百四三話「断られても楽勝ですか? 」
<――夢枕に立ち
魔族と共存する道を選んだ俺を凄まじい剣幕で批判したネイト君。
だが……紆余曲折の末、彼の両親を霊界から探し出し
再会させる事を約束した俺は、その為に必要な策を知る
大精霊メディニラさんに対し協力を依頼したのだが――>
………
……
…
「何故駄目なんです? 」
「聞かずとも主も分かっておるじゃろう。
……本来、主の持つ“死者との会話術”だけでも
人間の身に於いては過ぎたる力じゃ。
にも関わらず霊界人の捜索まで行おうなど……
……人の範疇を著しく超えておる所業じゃ。
無論……妾は“それ”を容易にする方法も知っておるし
主に“それ”を叶える力が備わっておる事も知っておる。
じゃが……それでも、断ると言っておるのじゃ」
「だから……何故なんです?! 」
「“危険”……理由などそれで充分じゃろう」
「そ、そんな事を言い出したら……俺とメディニラさんの出会い自体が
“危険極まりない”始まりだったでしょう!! 」
「そう喚くで無い……妾も鬼では無い。
何も“全てを許可出来ぬ”とは言うて居らぬ。
幾ら人の範疇を超えた所業とは言え
本来ならばあの者の父親と引き合わせる事には反対などしておらぬ。
妾は……あの“母親”を許可出来ぬと言うておるのじゃ。
とは言え……妾が幾ら警告をした所で
妾が策を教えてしまえば最後
主は妾の反対を押し切ってでも事を起こす腹積もりであろう? 」
「そ、それは……」
「言い訳など不要じゃ……妾は全て見通しておる。
そもそも……あの様な考えの女子であれば
妾が危惧する迄も無く、あわよくば主の体を乗っ取り
“魔王への復讐を! ”……と動く事は明白じゃ。
そして、その行動が引き金となり
主が望んだ“魔族共との共存共栄”は無惨に散り逝く事と成る。
大体……主にもこの程度、理解出来ておるのじゃろう? 」
<――そう言われ、何も言い返す事が出来なかった俺。
……当然だ。
モナークの記憶の中で見た“あの母親”の事を
他の誰でも無い“俺自身が”全く信頼出来て居ないのだから。
だが、傍から見れば間違いであっても
彼に取っては……それがたとえどれ程繋がりの希薄な関係だったとしても
たった一人の母親で有る事に違いは無いのもまた事実だ。
もしもこれが何億分の一の絶望的な確立だったとしても
唯の歪んだ考えでしか無かったとしても、俺は――
“彼が望む事を叶えてあげたい”
――そんな考えに至っていた。
気づくと俺は、ネイト君の大切な“信頼出来ない母親”の為
メディニラさんに対し頭を下げて居て――>
………
……
…
「俺は……約束をしたんです
彼の望む事を、どれだけ時間が掛かろうとも叶えるって。
……もう二度と、彼を裏切らないとも
だからせめて、そうする為の方法だけでも教えてください。
……お願いしますッ!! 」
「……どうなっても知らぬぞ?
妾とて、怨霊と化した者には無力じゃ。
もしも主が妾の危惧する状況に陥った時……
……危機的状況の中で主を助く事が出来る者など
この世界には存在しえぬのじゃぞ? ……それでも良いのか? 」
「……はい。
“それでも”……お願いします」
「……全く、主は仕方の無い童じゃ。
その上自らの“価値”を軽んじて居る“きらい”がある……
……ええぃッ!
童よ……一つじゃ。
一つ、妾に“誓う”事を良しとするのならば
全く以て気乗りはせぬが……そうする為の方法を教えてやるぇ? 」
「はいッ!! ……どんな事でも誓いますッ! 」
「フッ……全く以て主は奇妙な童じゃ。
どの様な要求かも聞かぬ内から“どんな事でも”とは
全く……主は妙に“精霊族たらし”な所があるが――
――本当に、どんな事でも良いのじゃな? 」
<――妙な雰囲気を纏わせながら
そっと距離を縮めながらそう言ったメディニラさん……そして。
この妙な雰囲気に、思わず俺は
“そう言うフラグ”かと考えてしまって――>
………
……
…
「い゛ッ?! ……いやそのッ?!
こっ、言葉の綾と言いますか、何と言いますか……そ、それに!
ま……まだ“そう言う行為”の経験が無くてですね!?
そっ、そう言った要求は流石にと言いますか……もっ、勿論ッ!
メディニラ様は大変魅力的な御方ですし
俺なんて相手にされる事自体が光栄って言うか何て言うか……」
<――と、阿鼻叫喚状態な俺を一頻り眺めた後
辺り一帯に響き渡る程の高笑いをしたかと思うと――>
………
……
…
「……全く。
永き世を過ごして来た妾をこれ程笑わせる者が
よもや人の身から現れようとは……愉快な事もあるものじゃのう?
じゃが安心するが良い……主の“貞操”を奪いなどせぬ。
……マグノリアに恨まれても困るからのぉ?
主の“期待”に添えず申し訳ないが……ともあれじゃ。
妾が主に要求する誓いは……」
<――直後
メディニラさんは俺に対し、ある“誓い”を要求した。
当然、俺はその要求を……飲んだ。
……そして、要求を飲んだ俺の腕に蔓を巻き付けると
メディニラさんはそれを“誓い”の証拠と呼び――>
………
……
…
「良いな? ……決して違える事の無い様、肝に銘じるのじゃ」
<――そう警告した。
そして、静かに頷いた俺の様子を確認すると
ネイト君の願いを叶える為の“策”を教えてくれた――>
………
……
…
「童の名はネイトと申したか……何れにせよ
其の者や其の者の両親に限らず
この世に心残りのある者は、大抵の場合
その原因たる場所や物に宿るなどして
所謂“地縛霊”と呼ばれる様な状態に陥っておるのじゃが――
――幸か不幸か、その全てが悪霊とは限らぬ故
恐らくは比較的穏やかであろう童の父を探し出す事を先決とすべきであろう。
そして、童と父……二人を連れ
“あの母親”を説得する事と成るのじゃろうが……」
「ええ……不安材料の方が多いのも重々承知です。
ですが、それでも俺は家族の愛を信じたい……と言うか
そう有って欲しいんです……まぁ
俺の勝手なエゴだと言われればそれ迄ですけどね! 」
「ふむ……“エゴ”だけで無く、考えも甘い様に思えるが
それに付き合う妾も大概であろう……さて。
……最後に、一つ“面倒事”を伝えておくぞぇ? 」
「面倒事? ……何です? 」
「うむ……妾が側に居ては
まかり間違って地縛霊を“浄化”してしまわぬとも限らぬ。
……故に、主は一人で征く事と成るであろう」
「い゛ッ!? ………で、でも俺一人じゃ流石に怖いですって!
俺、そもそも本当はお化けとか大の苦手で……って、もう居ないし?! 」
<――この瞬間
転生前、ホラー映画すらロクに見る事が出来なかった俺が
“地縛霊”を……それも一人で探しに行く羽目に成ってしまったのだった。
まぁ、とは言え……ネイト君の記憶に残ってるお父さんの雰囲気なら
きっと優しい地縛霊って感じだろうし、事情を話せばきっと直ぐに――>
………
……
…
「……ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
ゴメンナサイ! ゴメンナサイ! ゴメンナサイィィィッ!!!
取り憑かないで! 呪わないで! 取って喰わないで!
今直ぐに帰りますからあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!! ……」
<――はい、端的に言えば“恐怖”です。
ネイト君から送られて来た記憶を頼りに
かつて、彼らの家が在った……現在は
森林へと姿を変えた場所へと転移し
彼の記憶の中で知った彼の父親の名前を叫び続けて居た俺。
……だが、彼らの家は疎か
かつては栄えて居たであろう国家の形すら留めていない周囲の状況に
半ば諦めていたその時――>
―――
――
―
「私の名前を呼ぶのは……君かな? 」
<――そう声を掛けられた俺。
だが、振り返った先に居たのは
体の彼方此方に傷が目立ち……と言うか“腐り果て”
宛ら“ゾンビ”とでも言うべき見た目をした
恐らく……“お父さん”であろう地縛霊だった。
……だが、温厚そうな声色とは裏腹に
“ホラー映画顔負け”の見た目を持つお父さんらしき地縛霊に
思わず悲鳴を上げてしまった俺に対し、お父さんらしきゾン……
……いや、地縛霊は
とても薄気味悪い笑顔を浮かべ――>
………
……
…
「何故君が私の名前を知っているかは知らないが……少なくとも
君は私について何かを知っていると言う事だろう。
……それに、久しぶりの生きた人間だ。
これは……とても良い“食事”と成るだろう……」
<――と、俺を“食事にする宣言”を繰り出したのだから
“取って喰わないで! ”と、騒いだ俺が至って正常なのだと思う。
だが、そんな宣言後このゾン……“お父さん”は
走り去ろうとした俺を呼び止めたのだった――>
―
――
―――
「ま……待ってくれっ!!
私は君と……一緒に食事をしたいと言っているだけだっ!
み、見た目で驚かせてしまった事は謝る!
せめて……話すだけでも良い! ほんの少しで構わない!!
食事に付き合ってくれないか!! 」
<――そう言われた俺。
俺は“お父さん”とかなりの距離を保ったまま――>
………
……
…
「あ、あのっ! ……一応、もう一度ご確認を。
……貴方はローガンさんで間違いありませんか? 」
<――そう訊ねた。
すると“お父さん”と思しきゾ……“地縛霊”は――>
「ああ……君が何故私の名前を知っているのかは謎だが
間違い無く、私の名前はローガンだよ。
しかし、君の様な若い知り合いは居なかった筈だが……」
「あ、いえその……今日俺が此処に来た理由は
ローガンさんのお子様である、ネイト君とご両親を再会させる為で……」
<――と答えた瞬間
“ローガンさん”は瞬時に俺との距離を詰め
肩を“ガッシり”と掴むと――>
………
……
…
「君ッ!! ……今何と言ったッ?! 」
「……ヒィッ?! 取って喰わないでぇぇッ!!! 」
「あ、あぁ……驚かせて済まない。
この見た目がどうにか出来れば驚かせてしまう事も無いのだろうが……
……兎も角。
君は今、確かにネイトと言った……息子は一体何処に居る?
あの子は無事なのか? ……幸せに暮らして居るのか?! 」
「そ、それは……」
<――何故霊体であるローガンさんがこの見た目なのか
その理由は定かでは無い。
だが……少なくとも
彼の話題に成った途端に冷静さを失ったこの人は
間違い無く“親の目”をしていて――>
………
……
…
「いや……すまない、その様子ではネイトも既にこの世には居ないのだろう。
……取り乱し、驚かせてしまって本当にすまなかった」
「い、いえ……」
<――“気まずい”とはこの事だろう。
だが、少なくともネイト君のお父さんを見つける事は出来た。
次にやるべきは二人を再会させる事なのだが――>
「とっ……兎に角!
今直ぐネイト君を呼びますので! ……」
<――と、ネイト君を呼び寄せようとした
その、瞬間――>
………
……
…
「……待ってくれッ!!!
それは……止めて貰えないだろうか? 」
「えっ? ……何故ですか? 」
「何故も何も……君が驚いたこの”見た目”が理由だよ。
君だけならばいざ知らず
息子にまで“化け物扱い”されれば……恐らく私は立ち直れないだろう」
<――こんな時、掛けるべき言葉を俺は知らなかった。
そして……どうすれば
ローガンさんの見た目を元の優しい姿に戻せるのかも――>
………
……
…
「気を遣わせてすまないね……妻はどうして居る?
元気にやっているかい? それとも、彼女も……」
「そ、その……事情が複雑でして……」
<――余計に真実を伝えづらく成った。
真実を伝えれば、より深く傷つけてしまう事と成るだろう。
そもそも、此処に来る前――
“一人で来るのが怖い”
――と考えていた俺だが、今は
“真実を伝える事”の方がとても怖く思えていた。
大体……ローガンさんは一体何年
こんな辺境の地で過ごして居たのだろう?
……それに霊体は本来、生前の姿に戻ると聞いた事が有るが
何故ローガンさんはこんなにも朽ち果てた姿をしているのだろう?
無論、それ以外にも疑問は尽きなかったが
俺は先ず、先程ローガンさんが言っていた
“食事”について訊ねる事を選んだ――>
………
……
…
「失礼ですが……先程ローガンさんは
お食事を摂ると仰られて居ましたが、その……」
「ああ、私が霊体だから
一体どんな食事を摂るのかが気になって居るんだね? 」
「え、ええ……ですが、無理にお答え頂かなくても……」
「いや、君に変な誤解を与えてしまったお詫びに話そう
私が食べる食事とは……と言っていたら、そろそろの様だね」
<――そう言って振り返ったローガンさん。
すると……何処からか現れた大量の地縛霊達が
ローガンさんの元へと続々集まり始め――>
………
……
…
「……正直、君には居心地の悪い空間かも知れないが
こんなのでも今の私には大切な寄り合いでね。
勿論安心して欲しい……私も彼らにも
君に悪さをしようなんて不届き者は居ないと約束するから」
「え、ええ……」
<――暫くの後、ローガンさんに連れられ
大量の地縛霊達が集まる場所へと向かった俺。
そして……この場所で唯一の人間として“ゲスト扱い”され
“俺達が見えるのか?! ”……とか
“会話が出来るとは嬉しいねぇ! ”……などと
一頻り持て囃され続けた後――>
………
……
…
「所で、主人公とやら……おめぇさん
何だってこんな辺鄙な所へお越しなすったんで? 」
<――と、一人の地縛霊に訊ねられ
素直にローガンさんを探しに来たと伝えると――>
「するってぇと……ローガンの旦那を“祓い”にでも来たんで? 」
「いやいやいや!! ……違いますよ!! 」
「ハッハッハ! 地縛霊ジョークでぃ!
しかしおめぇさん……慌てっぷりまで面白いお兄さんだねぇ!
そもそも全部聞こえてたからよぉ! ……安心しなせぇ! 」
「ちょ!? ……全部見てたんですか?! 」
<――と、和やかな時間を過ごして居た俺。
だが、それと同時に解決するべき問題……
……つまり、ローガンさんの見た目に関する問題が
未解決で有る事に内心かなり焦って居た。
どうにかして、彼を元の姿に戻したい。
……だが、その為の治癒魔導を試そうにも
基本的に邪を祓う効果が高い物が多く
最悪の場合“お祓い”と変わらぬ結果を招きかねない事もあり
試す事は疎か、提案する事すら出来ずに居た俺。
だが、そんな時――>
………
……
…
「あれ? ……何だかクラクラするな
ま、まさか?! ……ローガンさん……俺に何か変な事を……」
「何? 私は何もしていないが……って主人公君!?
まさか、我々と長く居た所為では?! ……」
<――直後、慌てた様子で食事会を中断したローガンさんは
集まった他の地縛霊達を出来る限り俺から遠ざけた。
そして――>
………
……
…
「……どうかね?! 何か変化は?! 」
「い、いえ……ウグッ?!
……ぐあぁぁぁッッ!! 」
「なっ?! こ……これは一体……」
<――直後、急激な吐き気に襲われた俺は
その場にうずくまり“何か”を吐いた――>
………
……
…
「久しぶり……パパ、僕の事……覚えてるかな? 」
<――直後
俺の口から出て来た物、それは……ネイト君だった。
何時から、そして……どうやって入ったのかも分からないが
何れにせよ、彼はずっと俺の中に居たらしく――>
………
……
…
「ネイト? ……ネイトなのかっ?! 勿論覚え……ッ!! 」
<――と、息子との再会に喜び
ネイト君に近付こうとしたローガンさんだったが
直ぐに踵を返し、彼から“逃げよう”とした。
だが、ネイト君に服の裾を掴まれ――>
………
……
…
「パパっ?! ……ど、何処に行くの!? 」
「は、離すんだネイト! ……父さんは今
ネイトの知っている優しい父さんの姿をしていないんだ!
少なくとも、この見た目が治るまでは……」
「へっ? ……何言ってるの?
パパ? ……パパはどんな姿でも、僕の大切なパパなんだよ? 」
「ネイト……だ、だがッ! お前はお化けが苦手だっただろう?
まして死霊の話などしよう物なら一人でトイレに……」
「ちょっとパパっ!! ……恥ずかしい話しないでよ!
お兄さんとか、み……皆に聞かれて恥ずかしいでしょ?! 」
<――遠くで様子を伺っていた地縛霊達や
俺の顔を窺いながらそう言ったネイト君。
……何と言うか、子供らしい一面が垣間見えたと共に
俺の急激な体調不良の原因がネイト君に依る物だったと分かり
少しホッとした……だが、同時に釈然としない気持ちが芽生えても居た。
“居るのなら、もっと早く出て来てくれても良かったのに”
……とは言え、ローガンさんの見た目に関する部分が
全く以て解決していない中での再会は
果たして本当に正しい事だったのだろうか?
今も尚顔を隠し、自らの見た目でネイト君を怖がらせまいと
必死に努力をしているローガンさんを見ていると
このタイミングでの再会がとても間違っている様に思えた。
だが、そんな心配は杞憂に終わる事と成った――>
………
……
…
「……パパ、お手々繋ご? 」
「あ、ああ……」
「駄目っ! ……もう片方のお手々も! 」
「だ、だが……それでは私の悍ましい姿が……」
「……そんな事無いもん。
だって……パパはずっと僕の大切な格好良いパパだもん!
でも……パパ? お顔とか……色んな所が痛いなら
ちゃんと直せる様に“お兄さん”に協力して貰って
“こっちの世界の”お医者さんを探して貰お? だから……ねっ? 」
「ネイト……本当に、こんなに醜いパパでも嫌じゃ無いのかい? 」
「うんッ! パパはずっとずっと僕の大切な格好良いパパだからっ!
でも、その前にパパ……ちょっとだけ、僕にお顔を近づけてみて? 」
「こ……これで良いかい? 」
「……うんっ!
えっとぉ……何だったっけ? ……あっ! 思い出したっ!
痛いの~痛いの~……飛んでいけぇぇぇっ! 」
<――と
“怪我をした時に唱えるおまじない”を唱えたネイト君。
彼は、ローガンさんの顔や腕……
……傷口の有る場所の全てを優しく撫で
何度も何度も“おまじない”を唱え続けた――>
………
……
…
「ネイト、一体何を……」
「えっとね……昔、ママがね
僕が怪我した時にこうやってくれて本当に痛いの無くなったんだ~っ!
だから、パパの痛いのも飛んで行けぇぇぇぇっ! ……ってしたら
痛いのが飛んでいくかなって思って……」
<――そう言って再び“おまじない”を唱え始めたネイト君。
そんなネイト君に対し、ローガンさんは――>
………
……
…
「……有難うなネイト。
父さんの“痛いの”飛んで行ったよ……本当に全部。
心の“痛いの”も……本当に、有難うなネイト」
「ほんと?! ……やった~っ!!
そしたら、絶対に直ぐに治るよ!
ママがそうしてくれた時も直ぐに治ったから! ……」
「……ああ、きっと治るさ。
だが、父さんの怪我は少し時間が掛かるだろうから……」
<――と、自らの傷口に触れながらそう言ったローガンさん。
そして、そんなローガンさんの雰囲気に
キョトンとした様な表情を浮かべて居たネイト君だったのだが……
……この後。
そんなネイト君よりも、俺の方が
余程に“キョトン”とする様な出来事が起きた――>
………
……
…
「えっ? ……ローガンさん?!
き、傷口ッ!! ……治って行ってますよ?! 」
「何? ……いや、本当に有難う。
ネイトは勿論の事、君のお陰で私の心の傷も……」
「い、いやいや! そんな内面の事じゃなくて!!
だーもうッ!! 鏡が有ったら伝わるのに!! ……」
「ん? 鏡なら何時も懐に……なっ!?
……馬鹿な。
本当に綺麗さっぱりと……怪我が無くなって居るじゃないか?! 」
「だからそう言ってるじゃないですか! ……って。
ネイト君……君は一体どうやってそんな力を得たんだい? 」
「へっ? 僕はママがやってた通りにやっただけだから……」
===第百四三話・終===