第百四二話「不安と不満を解決するのは楽勝ですか? 」
<――ラウドさんの粋な計らいで
久し振りに仲間達と楽しく過ごして居た俺……だが。
入浴後にモナークと出くわし――
“湯浴みに付き合え”
――と、半ば強制的に薬浴へ“連行”されてしまった俺は
せめて今日だけでも忘れておきたかった話を
“山ほど”する羽目に成ってしまったのだった――>
………
……
…
「貴様は昨日、他の大臣共に対し――
“この世の全てを自らが作り上げた”
――そう、宣ったと聞いている。
無論、既に貴様から流れ込んだ記憶の断片に依って
ある程度ならば我も把握している……だが同時に
貴様はこの世界が“消え去る可能性”に言及したとも聞いた。
まして……“防ぐ為の策さえ有しておらぬ”ともな」
「ああ、残念だけど……全て事実だ。
何て言うべきか……この世界を管理してる
上級管理者って奴と“反りが合わなくて”ね。
現在進行系で“無視”されてる所為も有って
余計にこの世界の状況が分からなくて……と言うかそもそも
この世界が“作り物”って事自体、本来なら
お前にも皆にだって伝える事すら出来ない筈なのに
お前が現在進行系で俺の話を聞いてる様子を見れば
もしかしなくても“見捨てられてる”んじゃ無いかって思うし
その事に悩んでたら俺にも理解不能な力が発動してたらしくて
ラウドさんからの魔導通信を“拒絶”した上に
部屋へ直接転移する事すら“拒絶”したらしくてさ……まぁ
それはそれでまた別の悩み言うか何と言うか……」
「成程……貴様の持病とも言える“悲観的思考”と言うだけでは無い様だな」
「……ああ。
寧ろ、お前の言う“持病”なら
どれだけ楽なんだろうって思ってる位だよ……」
<――精神と肉体、そのどちらも癒やしてくれる筈の薬浴で
信じられない程鬱屈とした気分に陥っていた俺。
だが、この期に及んで
そんな俺の気分を更に“下げる”様な話を持ち出したモナーク――>
………
……
…
「主人公……我は一度しか謂わぬぞ。
……我と貴様は、契約の力に依り
互いが有する力と精神の一部を“割譲”して居る。
故に、貴様は我の持つ魔の力……その片鱗を持ち
我は貴様の持つ“妙な記憶”と力
そして……甘さを“押し付けられた”様でな。
有ろう事か……我は今、貴様に助言を与える気で居る。
全く以て……不愉快な事だがな」
「ちょ?! ……悪口だらけとかまじかよ?!
けど、助言は聞きたいし……教えてくれ」
「フッ……良かろう。
貴様は“格”の違いを鑑みず、無謀にも我に挑み……そして
既の所で彼奴に救われ
仮にも魔族の王であった我と契約を結び
我を含めた約半数の魔族を……その根源から変えさせた。
……だが、貴様程度の“格”で我と契約を結び
剰え、我に配下を二分させるなど……本来ならば有り得ぬ話。
にも関わらず、貴様には何故か其れを実現させる程の“力”があった。
無論、彼奴の魔導に依る物であると考えを捨て置く事も出来よう
反面、我らに関する事だけが故では無い。
我がこの思考に到達した理由、それは……
……貴様から流れ込んだ記憶の欠片である」
「それって……どう言う事だ? 」
「……貴様が此れまで強く念じた事柄に於いて
叶わなかった願いなど無かったであろう? 」
「ま、まぁ……そう……なのかな?
で、でも……父さんも母さんも俺の大切な人達は……いや、すまん。
……話を続けてくれ」
「我は熟考の末に一つの仮説を立てた……あくまで仮説では有るが
この世界に於ける貴様の思考や発言……其の物自体が
絶大なる力を有して居るやも知れぬと謂う事。
其れ即ち、本来ならば改変する事など
不可能な事象にすら容易く踏み込む力ともなり得るやも知れぬと謂う事。
……とは言え、此れはあくまで仮説だ
だが同時に、貴様の持つ力に未だ謎が多いのもまた事実
何れにせよ“持病”も程々にせねば……
……“現実”と成り得るやも知れぬと謂う事よ」
<――転生前、占いの番組や
スピリチュアル系の情報で良く耳にした
“言霊の力”
当時の俺なら――
“んな物当てになるか! たまたまだろ? ”
――とでも言って、気にすらしなかっただろう。
だが……魔導やら神獣やら
空想上の物や種族が闊歩するこの世界に於いては
あながち“たまたま”と捨て置く事も出来ない様な気がしていた。
そもそも、固有魔導発現時の状況などが
まさにモナークの言う“それ”だ。
何れにせよ……この後
モナークからそんな“助言”を突きつけられた俺は
急激に恐怖を感じ始めてしまい――>
………
……
…
「な、なぁ……考えるだけでも危ないって可能性も有るのか? 」
「フッ……否定は出来ぬな」
「そ、そんな……」
<――返す言葉が何一つとして思いつかず
嫌な静寂が続いた結果、ある種の現実逃避のつもりで
“地雷”と言うべき“問題発言”をしてしまった俺――>
………
……
…
「じ、じゃあさ! 仮に俺が――
“モナークの元を離れた魔族達が
再びモナークの配下に戻って、この国で平和に暮らす様に成るッ! ”
――とでも言ったとしてさ!
これも叶うなら平和で……良いよな?! 」
「貴様と謂う男は……腸の煮えくり返る様な記憶を思い出させてくれる」
<――地雷発言をしてしまった俺を軽く睨みながらそう言ったモナーク。
だが、その直後
自らの元を離れた者達に対する考えを話してくれた――>
………
……
…
「だがな……彼奴らは何一つとして間違ってなど居らぬ」
「だ、だよなッ! って……えッ?! 」
「フッ……驚愕には値せぬ話であろう?
元を正せば我が道を違えたと謂うだけの話。
“魔族種に於ける真の繁栄”
其れを考えれば、到底看過出来ぬ判断を下した我は
魔王としても魔族としても、謂わば……
……“失敗作”であったと謂えよう」
「そ、そんな事無いって! ……寧ろ、あのまま戦い続けて
もし魔族種が壊滅状態にでも成ってたら、そっちの方が余程……」
「慰めなど要らぬわ……だがな主人公。
我の中に唯一つ、今と成っては
為す術の無い悔いがあるのもまた事実である……」
「……どんな悔いだ? 」
「我を含め……魔王は世襲制では無い。
本来、我ら魔族が新たな魔王を得る為には
魔王崩御の後……代々受け継がれた力が消え去らぬ
僅か一週の内に新たな魔王を選出する必要があるのだ。
……だが、我は未だ生きている
故に……彼奴らには受け継がれるべき力は決して得られぬ。
我は……其れを悔いて居るのだ」
「な、成程……って言っても俺にはどうしようも無い事だけど
一応、お前が楽になるならって事で! ……変な話だけど、祈っておくよ! 」
「……何を祈るつもりだ? 」
「そ、それはだな! ――
“魔王の力を受け継がなくても
何らかの理由で強い魔王が選出されるッ! ”
――って感じで考えてたんだけど、どうかな? 」
「フッ……やはり貴様は甘い男の様だ。
代々受け継がれし魔王の力……そう安々と超えられなどせぬ。
仮にも我が力に挑む愚か者など現れた暁には
我が直々に叩き潰してくれるわ……」
「なッ?! ……おっ、お前は一体どうしたいんだよ!?
てか、そもそも今は魔王じゃ無いんだろ?! 」
「フッ……元魔王としての矜持とでも思うが良い」
「ったく、お前なぁ~……」
<――何はともあれ。
俺とモナークの“暗い”話は、ほんの少しだけ“明るく”幕を閉じた。
……そして、長湯が原因で完全にのぼせきってしまった俺は
若干フラつきながらも皆の待つ“最上級客室”へと帰り
皆から超絶心配される羽目になったのだった――>
………
……
…
「もう! ……心配ばかり掛けないでよねッ! 」
「ご、ごめんマリーン……皆もごめん」
<――布団に横たわり
看病されながらも……俺は、呑気な事を考えていた。
“俺の事を大切にしてくれる仲間と
こんなにも素敵な時間が過ごせるなんて俺は、とんでも無く幸せ者だ! ”
……と。
ともあれ……そんな事を考えながら目を閉じた瞬間
心地良い睡魔に襲われた俺。
はぁ~っ、これでやっと休息が――>
………
……
…
「……何で? 何で魔族と協力しているの?
何で……“魔族に力を与えよう”なんて祈ったの? 」
<――暗闇の中
何処からか声がした――>
「此処は……何処だ?
俺は確か……モナークと話した後、皆の所に戻って……それで、眠った筈。
つまり此処は夢の中か? ……でも悪夢っぽいな
何でも良いけど、熟睡出来ないのは辛いんだよなぁ……」
「ッ! ……そんな事はどうでも良いでしょ!? 」
<――そう言い放った声のヌシ。
だが、この声には妙な聞き覚えが有った――>
「誰だ? ……聞き覚えが有る声だけど
姿も見せずに一方的に文句を言われると流石にムカつくし
何と言うか……無視したく成るんだが? 」
<――そう訊ねた俺に対し声のヌシは
“魔王を倒すって言ったじゃないか!!! ”
そう、凄まじい“苛立ち”を顕にしたかと思うと
その“姿”をも顕にした――>
………
……
…
「君は確か……ネイト君か」
「……やっと気がついたんだね。
取り敢えず……質問に答えて。
何で魔王を倒してくれないの? 何で――
――新たな魔王に“力が宿る”様に祈ったの? 」
「見てたのか? ……って、今言うべき事はこれじゃないな。
……すまない、ネイト君。
俺の勝手かも知れないが、政令国家と大切な人達を護る為には
君との約束を反故にするしか無かった。
……君には本当に申し訳ないけれど
もうモナークと敵対するつもりは無いんだ。
それに、アイツは既に人間と同じ生活が出来る様に成ってて
人間を襲ったりはしないし……」
<――そう必死に釈明する俺の言葉を
遮り――>
「そう……じゃあ、お兄さんの代わりに魔王を倒せそうな人を探すよ」
「なッ?! ……ちょっと待ってくれ!
そんな事をしても何の得にもならないだろ?! 」
「へぇ? ……お兄さんが僕に“損得”を語るの?
あの時……危機的状況だった時には僕を頼って
必死に魔王を倒そうとしてた癖に、急に掌を返したお兄さんの
“損得勘定”……僕は忘れてないよ? 」
「そ、それはッ! ……本当に悪かったと思ってる。
だけどさっきも言った様に、魔王……つまりモナークや
アイツの配下を“どうにかする”事は出来ない。
ただ、その代わりに君が納得出来る事を探すと約束する。
だから……頼むよ」
「ねぇ……本当なら、僅かとは言えお兄さんに流れ込んでる
魔王の力すら許せないって事分かってる?
……その僕が、自分勝手なお兄さんを許す事が出来る理由なんて
何処を探しても……」
<――俺には、酷く憤慨して居るにも関わらず
必死にそれを抑えながら冷静に話し続ける
ネイト君を見つめながら考えていた事が有った。
先ず……彼に関する物と思しき断片的な記憶が
モナークから流れ込んで居た事。
……その断片を探った結果、俺は恐らく
今、彼が本当に望んで居るであろう“ある提案”を
差し出す事が出来るかも知れない事。
そして、その提案とは――>
………
……
…
「ネイト君、君のお母さんの事だけど……」
「何? ……ママの事を利用して僕を懐柔するつもり? 」
「……違う。
君はお母さんの事をとても大切に思っているけれど
俺に流入して来たアイツの記憶を見る限りでは
君のお母さんは君の事を大切にはしていない様に見えたんだ。
それで、本当なら……」
「黙れ……黙れぇぇッッ!!! それ以上ママの事を悪く言ったら
僕はお兄さんの大切な人達を……全て奪うよッ!? 」
「悪かった……本当なら最後まで聞いて判断して欲しかった所だけど
これ以上君を不愉快にさせたく無いから質問の方法を変えるよ。
君は……最終的に彼奴に復讐出来たらそれで満足なのかい? 」
「満足な訳ないでしょ? ……本当は
ママと一緒に仲良く過ごしたいし、戦いなんて大嫌いだ。
でもママは、僕とお父さんの死が原因で心に深い傷を負っちゃったんだ。
だから! だから! ……だからッ!!!
僕は……ママの傷を癒やす為に必死に頑張ってたんだッ!!!
もう、ママも僕も死んじゃったけど……せめてママの為に
僕が仇を討ってあげたいだけなんだッ!!
大体……大切な人達に囲まれて、全部望み通りに進んでるお兄さんに
そんな気持ち……絶対に分かんないだろッ?!!! 」
「いや……残念ながら分かるんだ。
ネイト君、俺はね……幼い頃に両親を強盗に奪われて
それからずっと、事ある毎に苦しい記憶が蘇ったり
記憶の所為で、過呼吸に成ったり
逆に息が出来なく成る事なんて何度もあったんだよ。
だから、もし犯人に会えたなら
必ず俺がこの手でって……確かにそう思ってた。
……けど、そんな気持ちが分かるからこそ
凄く勝手な事を言わせてくれ。
君がもし、復讐を果たす為に彼奴を倒せる誰かを呼んで……
……それが叶ったとする。
けど、それを達成する為に俺が大切にしている政令国家や
この国に住む人達に何らかの被害が出た場合。
君は俺に対して……君が恨み続けている魔王と
変わらない行いをしたって事になる。
そしてもしそう成ってしまった場合でも、君に対して“恨むぞ”とか
絶対に“許さない”なんて脅しが通じない事も分かってる。
でも、そうじゃない……違うんだよネイト君」
「……何が違うの? 」
「俺はね……“二度も辛い姿に”君を陥らせたく無い。
ただ……それだけなんだ」
「あの戦いの“終わり”……見たの? 」
「ああ……確りとね。
兎に角、ネイト君……俺から君に一つだけお願いがあるんだ。
俺は……君が“本当に望んでいる”事を叶える為に
俺の持つ力……“死者との会話術”を使い
君の両親を霊界から探すと約束する。
……唯、能力がどれ程成長しているかは自分でも分からないから
そんなに早くは叶えられないかも知れない。
だけど、出来る限り努力はする。
そして、君と両親を再会させられたその時は
もう二度と離れ離れにさせない為に、もし必要なら毎日でも祈り続けるし
その為の協力も絶対に惜しまないって約束する。
だから、それまでで良いから……少しで良い。
……待っててくれないか? 」
<――ただ必死に、思いの丈を伝えた俺。
だが、それは決して――
“政令国家に住む全ての人々や、モナークを始めとした
無害な魔族達の生き死にが掛かっている! ”
――なんて理由では無く
唯、俺が――
“彼の望みを叶えたい”
――そう思ったってだけの、完全なるエゴに依る決断だった。
ただ……夢の中とは言え、誰にも相談せず
またしても一人で決断をしてしまった事だけが
少しだけ心残りでは有ったが――>
………
……
…
「……確かに、お兄さんは僕と話せてる。
なら……ママとも話せる?
けどそもそも、それ……本当に出来るの? 」
「正直に言う……確証は無いし、分からない
だけど……せめてそう出来る様に努力をさせてくれないか? 」
「……分かった
じゃあ、お兄さんに少しだけ力を貸してあげる……」
「“力”って一体……何を……」
<――瞬間
俺の体を光が包み――>
………
……
…
「うわぁぁっッ?! ……って、あれ? 」
<――俺は、ベッドの上で目覚めた。
やはり彼は夢の中に現れたらしい。
だが、そんな事よりも……彼が力を貸すと言って俺を光で包んだ時
一瞬だが、彼の物と思われる記憶の一部が流れ込んだ。
両親の顔や声……探す為に役立ちそうな記憶の数々
彼のお父さんと、彼自身を殺めた魔族の顔や周囲の風景……そして
……出先から帰宅し、その惨状を目の当たりにした瞬間
亡骸に縋り付き、泣き叫び続けていた彼のお母さんの姿。
この瞬間……俺は
“この件”に関わった魔族が政令国家に居ない事を祈った。
ともあれ……朝から気分は最低だったが、夢の中とは言え約束をした以上
彼と両親を引き合わせてあげなければ成らないし
何よりも、俺がそうしたいと思っていたのだ。
……その為に行うべき事は二つ。
一つは……モナークに詳しい状況を訊ねる事。
そして二つ目は……“死者との会話術”に詳しいであろう精霊族の中でも
大精霊メディニラさんに対し、今現在の俺の力で
今回の問題に何処まで対応出来るかを訊ねる事だ。
ともあれ……先ずは
“突然大声を出して飛び起きた”事で
驚かせてしまった仲間達に謝る事が先決だろう――>
「皆、本気で……ごめん」
<――そんなこんなで昼食後。
旅館を後にした俺は
先ずモナークとの通信を繋いでみたのだが――>
………
……
…
「……何の用だ? 」
「そ、その……実は……」
<――今日に限って妙に機嫌が悪そうな様子のモナーク
だが、思い切ってネイト君の話を切り出した瞬間――>
「……やはりか」
「えっ? ……“やはり”ってどう言う事だ? 」
「何の脈絡も無く、貴様が彼奴の話題を持ち出すとは思えぬ。
差し詰め……貴様の夢にも彼奴が出たと言うのであろう? 」
「そうだけど……ってか、俺の夢に“も”ってなんだよ?
まさか、お前の夢枕にもネイト君が出たのか?! ……」
<――この質問に返事こそ返して来なかったが
恐らく、モナークの所にもネイト君が現れたのだろう。
と言うか……その証拠とばかりに
先程よりも更に不機嫌極まり無いと言った様子に成ったモナークは――>
「それで……貴様は一体、我に何を話すつもりか? 」
「その……ネイト君を両親と再会させたくて
って言うか……もう“約束”しちゃったって言うか……」
<――そう答えた瞬間、思いっきり舌打ちをしたモナーク
この、余りにも不愉快を絵に書いた様な態度に
今回ばかりは流石に協力を得られぬかと思っていた。
だが――>
………
……
…
「全く以て不愉快では有るが、貴様の願い……聞き届けてやろう」
「え゛ッ?! ……い、いやその!!
ほ……本当にいいのか?! 」
「何だと? 」
「い゛ッ?! いやその……有難う御座いますモナーク殿下」
「フッ……何も其処まで謙らずとも良い。
して……貴様は我に何を訊ねる腹積もりか」
「そ、それなんだけどさ……」
<――この後、モナークに対し
記憶の断片を埋める為……彼との記憶を全て話す様に要求し
暫くの後、モナークから全てを聞き出した俺。
……だが、その内容は嫌悪感と言う言葉すら生温い程だった。
彼の母親は、彼の複製体を……
……彼の目の前で次々と捨て駒の様に操り
そしてその全てを無駄死にさせてしまった事……そして、彼に対し
彼自体が複製体である事を伝えただけで無く
彼の事を“愛してなど居ない”と……そう、言い切ってしまった事。
それでも彼は、最期の刻まで
誰が聞いても“腸の煮えくり返る様な”母親の為
全てを掛けてその身の全てを捧げたのだと……知ってしまった。
だが、此処まで聞いて思った。
本当に俺は……彼とこの母親を再会させて良いのだろうか?
それが本当に……彼の為に成るのだろうか?
何れにせよこの後……全く以て釈然とせず
如何ともし難い気持ちのまま、全てを話してくれたモナークに対し
感謝と謝罪を伝える事と成った俺――>
………
……
…
「……その、取り敢えず
メディニラさんとも話してみるよ……嫌な事話させてすまなかった」
「フッ……我ですら解せぬ獣が一人居たと謂うだけの話。
礼には及ばぬ事よ……ではな」
<――そう言って通信を閉じたモナーク。
通信後、整理出来ない感情を胸に秘め
大精霊メディニラさんに通信を繋いだ俺。
まず、森の事やリーアの事……
……その他様々な事への協力に関する感謝の気持ちを伝えた後
本題である“死者との会話術”に関する話を始めた。
そして、メディニラさんから――
“何故その様な質問をするのか”
――と訊ねられた俺は、素直にネイト君の事を伝えた。
すると、俺の真横へと転移して来るや否や――>
………
……
…
「まずは主の記憶を見せよ――」
<――そう言って俺の記憶を読み取ったメディニラさん。
だが……てっきり“あの時”の様に
“こめかみに激痛が走る”のかと思い身構えて居た俺だったのだが
どうやら今回は軽く触れた程度で全てを読み取れた様で――>
………
……
…
「ふむ……要するに、霊体の童を
同じく霊体と成った父母と引き合わせたいのじゃな?
そして……その為に必要な力が今の主にどれ程宿っておるか
一度妾に見定めよ……と、申して居るのじゃな? 」
「は、はい……」
「成程のぉ……流石は主じゃ。
何処までも優しい心根を持ち
自らの境遇とも重なる者をも掬い上げんとするとは……
……じゃが、断じて協力は出来ぬ」
===第百四二話・終===