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第百四〇話「“落”ち合った後も楽勝ですか? 」

<――目の前に“落ちて来た”他世界からの転生者ソフィアさん。


……彼女や他の転生者達も含め

この世界に現れる転生者達のほぼ全員が――


容量超過世界オーバーキャパシティワールド


――と呼ばれる状態に(おちい)った世界からの転生者と思われる事や

彼らの存在が原因と思われるこの世界の急激な“変化”に悩み

そして苦しんでいた俺……だが、そんな中でも喜ぶべき出来事が起きた。


とは言え……その喜ぶべき出来事の“原因足る人”から

思いっきり“掴み掛かられてしまった”訳なのだが――>


………


……



「いやその……取り敢えず、皆さん頭を上げてください。


今後は俺の話……だけじゃ無く

人の話にちゃんと耳を傾けて下さると(おっしゃ)るなら

今回の事は問題にしませんから……」


<――“気崩れた(えり)”を直しつつ

ソフィアさんの家族に対しそう伝えた俺は

(なお)も土下座姿で平謝りし続けていた“お父様”を立ち上がらせ――>


………


……



「兎に角……皆様には一刻も早く

ソフィアさんと再会して頂きたいので、お父様も含めて……


……皆様、俺の腕を掴んで頂けますか? 」


「は、はぁ……腕を掴むんですか?

しかし、たった今“胸ぐら”を掴んでしまったばかりだというのに……


……ま、まさか“当たり屋”の様な事を言うつもりでは!? 」


「な゛ッ?! ……違いますって!!!

兎に角……その事はお互いに蒸し返さない方向でお願いしますッ!!


取り敢えず……良いと言うまでは決して

お手をお離しに成らない様にお願いします。


……っとメル、行ってくるね! 」


「はいっ! 行ってらっしゃいませっ♪ 」


<――メルに別れを告げた後

ソフィアさんの家族を連れ旅館へと転移した俺。


だったのだが――>


………


……



「な……なんだぁぁっ!? 」


「きゃあああっ!!! ……アナタァァァッ!! 」


「お父さんもお母さんも(うるさ)い……てか、何が起きたの? 」


<――どうやら一家全員

“転移魔導的な物”の経験が無かったらしく

到着早々、お姉さん以外は(ひど)く混乱した様子で周囲を見回していた。


……ともあれ。


一行をソフィアさんの待つ部屋へと案内する事と成った俺は――>


「夜も遅いので眠っているかも知れませんが……」


<――そう話しつつ部屋の扉をノックした。


が……やはり深夜と言う事もあり、反応は返ってこなかった。


とは言え、一刻も早く彼女に会いたいと切望(せつぼう)する

ご両親とお姉さんを落ち着かせる事は難しく……俺は

(あらかじ)めフロントで借りておいた合鍵を使い部屋の鍵を開けたのだが

何だか人気アイドルのお部屋に突撃するタイプの

“早朝寝起きドッキリ”みたいな感じにも思えてしまい

妙な背徳(はいとく)感とドキドキ感を味わいつつ扉を開いたのだった。


だが――>


………


……



「あれ? ……居ないぞ?


おかしいですね、ついさっきまで居た筈なのに……もしかして、薬浴か

遊戯部屋(ゲームルーム)にでも行ってるのかもしれませんね」


<――と、首を(かし)げて居た俺。


だが――>


「ねぇ、この書き置き……」


<――転移魔導にも(ほとん)ど動じなかったお姉さん

だが、そんな彼女が青褪(あおざ)めた表情でわなわなと震えながら

俺にある書き置きを手渡した。


……この、余りにも気持ちの悪い状況に

“最悪の事態”がよぎりつつも恐る恐る書き置きに目を通した俺。


其処(そこ)に書かれて居た内容は――


“主人公さんを始めとする政令国家の皆様へ。


突然現れた私に対し、とても親身に成って下さり

本当にありがとうございます……心から感謝しています。


ですが……龍乳(りゅうにゅう)を知らないと言われた時点で

どれ程待ち続けても私の大切な家族が見つかる事は無いのだと知りました。


とても優しい方々の多いこの国……いえ。


……この“世界”で、このまま

優しい人々に囲まれて暮らして行く事も考えはしましたが

家族の誰か一人でも見つけられるかも知れないと考えた時

このままこの場所に留まる事が

とても間違った事の様に感じてしまいました。


もし、私一人だけが優雅(ゆうが)な生活を送って居る間

家族の誰かが、何処(どこ)かで危険な目に()っていたら……


……そう、考えずには居られなかったのです。


直接のお別れもせず旅立ってしまう私をお許しください。


本当に……申し訳ありません。


ソフィアより” ――>


………


……



「くッ……早まった行動をッ!!

魔導通信……ソフィアさんッ!! 」


<――俺は


“家族全員の無事を伝えれば直ぐに帰って来るだろう”


……そう思い、魔導通信を繋げようと試みた。


だが、何故か彼女には繋がらず……その所為も()って

更に“最悪の状況”がよぎった。


“旅立ち”……この一文が“マズい”意味じゃ無い事を必死に祈りつつ

ラウドさんに緊急連絡を入れた俺は

政令国家の全兵力を(もっ)て出来る限りの広範囲を捜索する様頼んだ。


……無論、直ぐにこの要求は了承(りょうしょう)され

深夜の政令国家は慌ただしく成り始めたのだった――>


………


……



「……兎に角。


行き違いに成ってしまうと余計にこじれますから

皆様はこの部屋から“決して”……何処(どこ)へも移動されない様お願い致します。


必ずソフィアさんを見つけ出し、必ず無事に再会させますから……では」


<――ソフィアさんの家族に“(ねん)を押した”後

(ねん)には(ねん)を入れ”……数名の兵を

護衛と言う名の“監視”として待機させた俺は

魔導など使えないソフィアさんが、この深夜に

たとえ全力で走った所で移動出来る距離など知れている事を(かんが)みた上で

まずは旅館の従業員達に聞き込みを開始した。


……だが、従業員の誰一人として

彼女が旅館を去った事にすら気がついていなかった様で――>


………


……



「……クソッ!


何で……せめて明日まで部屋に居てくれたなら

家族との再会だって叶ってたってのにッ!!


とは言え……俺が“あの時”あんな反応をしなかったら

ソフィアさんは出て行かなかったかも知れない訳で……


……くそッ!!

大体“龍乳(りゅうにゅう)”って何だよッ!! ……そんなの知る訳無いだろ?!! 」


<――必死に捜索を続けて居た最中

自分自身の発言に責任を感じて居た俺。


だが、どれ程旅館内を探しても有力な情報は得られず

唯一(ゆいいつ)得られた情報と言えば――


“ソフィア様はビン牛乳をいたく気に入られておりましたので

本日も先程お部屋に数種類お運び致しましたが

とてもお喜び頂けましたので此方(こちら)まで微笑(ほほえ)ましい気分に成りました”


――と言う、とある従業員からの報告だけだった。


確かに、部屋には数本の空き瓶が置かれていたが――>


………


……



「……これと言った情報は得られなかった。


けど、旅立ちの直前に手紙を書いたのは分かるが

何であんなに大量のビン牛乳を飲んだんだろう?


一本二本ならまだしも……結構な本数有ったよな?


まさか……“龍乳(りゅうにゅう)”って奴に似た味が無いか

確かめる為に、(なか)ばヤケに成って飲んだとか?


もしそうだとしたら余計に責任を感じるんだが……」


<――と、再び(みずか)らの発言に責任を感じつつも

引き続きソフィアさんの捜索を続けて居た俺。


……だが、そんな中

一家の待つ部屋の警備を任せた兵から“緊急通信”が入り――>


………


……



「……至急此方(こちら)までお越しくださいッ!! 」


「何が()ったんです?! ……兎に角、直ぐに行きますから! 」


<――と、慌てて転移した先で俺が目にした光景。


それは――>


………


……



「全く!!! ……何を考えているんだソフィアッ!!

こんな置き手紙まで書いて、沢山の方々に迷惑をッ! ……」


<――俺が目にした光景、それは。


正座姿のソフィアさんを凄まじい剣幕で(しか)るお父様の姿だった。


と、言うか……ソフィアさんが居る。


それも……旅立つ為の格好とは程遠い、この旅館の“浴衣姿”で。


一体、何時帰って来た? ……と言うか

この凄まじい捜索網の中どうやって平然とこの部屋に帰って来られたんだ?


いや、そもそも魔導通信すら繋がらない場所に居たとするならば

一体何処(どこ)まで移動していた?


……そんな数多くの疑問を(かか)えて居た俺の元へ

先程緊急連絡を寄越(よこ)した兵士が走り寄って来て――>


「主人公様ッ! ……我々ではどうする事も出来ませんッ!

“護衛対象”の怒りを(しず)められるのは主人公様だけかと(ぞん)じますッ! 」


<――と、俺にこの件の“丸投げ”をして来た。


だが、そう言われた所で“お父様”の立場から考えれば

自分の娘が訪れたばかりの国で大騒動を引き起こしてしまった以上

はたから見れば少々過剰(かじょう)と思える程(しか)って居たとしても

それは愛情に()る物とも思えてしまい、止めるに止められず居たのだが――>


………


……



「だって……だってぇぇぇっ!!


お父さんもお母さんもお姉ちゃんも皆居なく成っちゃったって思ったら……


……私が皆を探さなきゃって思ったけど、見た事も無い地図だったから

何処(どこ)から探して良いかも分からなくて……明日以降

少しずつ捜索しようって思ったけど不安で……でも

お酒は苦手だから、何時(いつ)もみたいに龍乳(りゅうにゅう)を飲みたかったけど

この国には無いって主人公さんに言われて……ならせめて

似た物でも良いから飲みたいって成って

沢山飲んでたら凄くお腹が痛くなって……それで……」


<――泣きながら話す彼女ソフィアさんの言葉を要約するとこうだ。


龍乳(りゅうにゅう)と呼ばれる物が手に入らないこの世界で

その代替品としてビン牛乳を“やけ酒”の(ごと)く大量に飲んだ挙げ句

腹を壊しトイレに駆け込み苦しんで居た時に“間が悪く”俺達が部屋に現れ……


……置き手紙を読み、旅立った“後”だと勘違いした上

何故(なぜ)か俺の魔導通信が繋がらなかった事も重なりこれ程の大騒ぎに成った。


と、言う事だ――>


………


……



「……成程。


でも、何で通信が繋がらなかったんだろう?

魔導を阻害(そがい)する様な装備とか持ってる訳もないですよね? 」


<――と、疑問を口にした俺に対し

先程の兵は――>


「そ、その主人公様……それについてなのですが……


主人公様の“ラッキースケベ防止”の為“女性用”と名の付く場所が全て

“魔導を阻害(そがい)する建材”で(おお)われて居る様で御座いまして……」


「はぁッ?! ……どう言う事ですか?! 」


<――聞けば

大精霊女王メディニラさんのアイデアでそう成ったらしい。


……だが、俺に対し

この件に関する説明が一切されて居なかった事が

今回、騒ぎが大きくなった原因と思えた俺は……夜遅くではあったが

メディニラさんに魔導通信を繋げ、今感じている不満を全てぶつけた。


のだが――>


………


……



「いや……せめて教えて下さいよ! 」


「……わらわはあくまでヌシ助平スケベ心を(ふう)じたまでじゃ」


「ス、助平スケベ心って何ですか!! ……失礼なっ!

大体……もし今回みたいな事がまた起きたら困るじゃないですか!!

国防の為って理由ならまだ理解出来ますけど……」


「何を言う……ならばかわや湯屋ゆやなどは

女子おなご”の兵に探らせれば良いだけの事であろう? 」


<――この後、謝られるどころか

後ろで聞いて居たソフィアさんを含めた数名から

あらぬ疑いの掛かった眼差しを向けられる事と成ってしまった俺。


……正直、自分自身の扱いが余りにも不憫(ふびん)で成らない様な気がする。


ともあれ……ソフィアさんが無事で本当に良かったし

彼女を家族と引き合わせる事が出来て本当に良かったと思う。


何と言うべきか……“一応は”円満解決と成った今回の問題。


これで残す問題は、彼女達の今後を考える事だけと成ったのだが――>


………


……



「……まぁ、その。


今日は“夜も遅い”を通り越して(ほとん)ど朝に近い位ですから

皆様も一度御休みに成られてから、明日以降改めて

細かい話をさせて頂ければと思っています。


……取り敢えず、今日の所は失礼しますので

後は家族水入らずでお過ごしください! 」


<――と、気遣ってはみたものの


正直、ソフィアさん一家の心配よりも事態の解決に()る安心感の所為で

俺自身の睡魔がやばかったってのが本音だったのだが……


……ともあれ。


ソフィアさん一家に別れを告げヴェルツへと直行した俺。


だったのだが――>


………


……



「ふぅ~やっと帰って……って、メル? 」


「あっ主人公さん! ……お帰りなさいっ♪

でも、大変な騒ぎでしたね……お疲れ様ですっ! 」


<――眠い目を(こす)りながら

勢い良く立ち上がり笑顔で俺を迎えてくれたメル。


だが――>


………


……



「ね……ねぇメル。


もし俺が直通で自室に帰ってたら……どうするつもりだったの? 」


<――彼女は

ヴェルツ前の階段に座った状態で俺の事を待ち続けていたのだ。


どれ程短く見積もっても一時間は此処(ここ)に居た計算に成る。


(いず)れにせよ……余りにも優し過ぎるメルの行動に戸惑(とまど)

そう(たず)ねた俺に対し、メルは――>


………


……



「そ、それは確かに……で、でもっ!


主人公さんがお疲れでお帰りに成った時に

“何か食べたい”とか“何か飲みたい”とか何らかの希望が有った時

その……“ヴェルツの臨時女将”としては

叶えてあげたいなって思ったんですっ! 」


<――そう言うと再び俺に微笑(ほほえ)んでくれたメル。


何と言うか……疲れ果て謂わば“弱っている”状態で

こんなにも優しい行動を取られると、俺の中の“理性”と言う存在が

“吹っ飛んで”しまいそうだったので――>


「あの……その、何と言うか……ほ、ほらッ!

き、今日中に帰ってこないって事もあり得た訳でさ!

俺の所為でメルが疲れてしまったら

“臨時女将”のお仕事にまで影響でちゃうでしょ!? 」


<――咄嗟(とっさ)に繰り出した質問で(にご)した俺。


勿論、ずっと待っててくれた彼女の気持ちを(ざつ)に扱いたかった訳では無い。


……ただ“へなちょこ状態”に(おちい)った俺の理性をどうにか(たも)つには

全力で誤魔化す他に方法は無かったのだ。


だが――>


………


……



「……そ、そうですよねっ!


でも……私“行ってくる”って言われた以上

絶対に“お帰りなさい”って言いたかったんです。


単純に私のエゴかもしれないですけど……その

主人公さんの帰る場所を大切にしたかったので……って、主人公さんッ!? 」


<――瞬間


俺の理性は、いとも簡単に


“吹っ飛んだ”……気がつくと俺の両腕はメルを抱き締めていたのだ。


そして、何度も何度もメルに謝りながら――>


………


……



「本当に……ごめん。


今だけで良い……だから、このままで居させてくれ

後でどれだけ怒ってくれても良い……ビンタしてくれても良い。


だから……後少しだけ、このままで……」


<――そう頼んだ俺に対し

小さく(うなず)き、俺に身を(ゆだ)ねてくれたメル。


……更に(いと)おしさを感じ、より一層強く抱き締めようとした


瞬間――>


………


……



「あらあらぁ~? ……朝っぱらから仲の良い事だねぇ~♪ 」


「い゛ッ!? 」


<――声のする方へ慌てて振り返った俺。


其処(そこ)に居たのは、エリシアさんで――>


「なななななッ!? ……何でエリシアさんが此処(ここ)にッ!? 」


「いや、何でも何も……


……ずっと付きっ切りでチビコーンの所に居る訳じゃ無いよぉ~?

備蓄(びちく)食料を補充(ほじゅう)しに帰って来たり~

向こうでも仕事しなきゃって事でギルドから書類を受け取ったり~

二人が“熱愛中”な時でも、私は忙しく働いているのだよ~っ!


……えっへんっ! 」


「ね、熱愛ッ!? ……違ッ!?

こ、これには深い訳が……なッ?! メル!? 」


「ひゃ、ひゃいっ!! ……」


<――こんな時にピッタリの言葉があった。


阿鼻叫喚(あびきょうかん)”だ。


まぁ……なにはともあれ、朝から騒ぎまくった俺の所為で


“無事に”


マリア、ガルド、マリーン……あろう事か

ミリアさんにまでこの状況がバレてしまい――>


………


……



「取り敢えず一発行っときますか! ……よいしょぉっ! 」


「ちょ、おま!? ……痛ってえぇぇぇぇぇッッ!! 」


<――俺は


“何と無く”……と言うざっくりとした理由で

後で(いく)らでも“そう”して良いと伝えたメルからでは無く

マリアから“ビンタ”を食らう事と成ったのだった。


何と言うか、本当に――>


………


……



「マジで……自分自身の扱いが余りにも不憫(ふびん)で成らない様な気がする」


<――ズキズキと痛む(ほほ)(さす)りながらそう言った。


直後――>


「色々と言いたい事はあるけど、取り敢えず……もう寝る」


<――これが本当の“不貞寝ふてね”だ。


……などとつまらない事を考えつつ部屋に戻った俺は

掛け布団を深々と被り、眠る準備をしていた。


だが、そんな俺の頭の中を埋め尽くしていたのは

“つい数分前”の出来事で――>


………


……



(……俺、メルの事を抱き締めたんだよな?


メルも嫌がっては無かった……いや、(むし)

身を(ゆだ)ねて……って、だぁぁぁもうッ!!


……何を悶悶(もんもん)としてるんだ俺はッ!?


あっ、あれはきっと……メルが優しいから

弱った俺の事を気遣って、俺の勝手に付き合ってくれただけで! ……)


<――悶悶(もんもん)とした考えに必死で整理をつけようとしていた俺。


だが、(かす)かに部屋の扉をノックする音が聞こえ――>


「あっ、あのっ……主人公さん、まだ起きてますか? 」


<――そう(たず)ねられた。


間違い無く……メルの声だ。


俺は……寝た振りをするべきか、素直に応対するべきかを悩み


そして――>


………


……



「いっ、今開けるから……」


<――と、部屋の鍵を開けメルを部屋へと招き入れた。


だが、心臓が口からでそうな位緊張している俺に対し

メルは真剣な面持ちで――>


「あの……私、今日中に

主人公さんに聞いておかないと駄目だって思って……」


<――この瞬間

明らかに、先程の“一件”を題材とした質問をするつもりです。


……と言った様子で、俺の目を真っ直ぐ見つめ話し始めたメル。


一方、そんなメルの態度に内心パニックに(おちい)って居た俺は

誰が見ても明らかな程の挙動不審(きょどうふしん)に成って居て――>


「い、いやそのッ!! ……さっきの行動に他意は無くてッ!! 」


<――と、メルの話を(さえぎ)ってしまった。


だが、メルから返ってきた答えは

俺の想像していたどの答えとも“違う物”で――>


………


……



「……ええ、分かってます。


主人公さんがとてもお疲れに成って居たって事も

“お疲れだったからこそ”……抱き締めて貰えたんだって事も。


でも……そんな事じゃないんです。


私が、今一番聞きたい事は……」


<――そう言うと、呼吸を整え始めたメル。


俺は……メルから返って来た予想外の答えに驚きながらも

メルが今一番聞きたいと言った質問の内容が気になり

彼女の呼吸が整うのを今か今かと待ち構えていた。


……そして、息を整え終えたメルから発せられた質問。


それは――>


………


……



「主人公さんは何故、私が声を掛けた時……いいえ

私が声を掛ける前から……あんなにも怯えた顔をしていたんですか?

あんな表情……今の今まで、(ただ)の一度も見た事が無いです。


主人公さんは一体……何を恐れていたんですか? 」


「そ、それはその……そ、そう!

夜遅かったからオバケが出たかと思って! ……」


「嘘はッ!! ……止めてください。


私、主人公さんの事が大好きですし……ずっとお(そば)に居たいです。


でも……だからこそ、私の大切な人が一人で何かを(かか)えて苦しんで居るのなら

私はその重荷(おもに)を一緒に背負(せお)いたいんです。


主人公さん……私では、不足ですか? 」


<――真剣な眼差しで俺を問い(ただ)したメル。


だが……俺はこの質問に答えられなかった。


……無論、答えたく無い訳でも無ければ

メルでは不足と言う訳でも無い……ただ、怯えていたのだ。


“真実”を()げてしまえば

この世界が本当に“終焉(しゅうえん)”を迎えてしまうかも知れない。


勿論、そんな事は起きないかもしれない……だが

“無い”とも言い切れない事が何よりも怖かったのだ。


そう考えてしまうだけの原因も山程ある……それは

昔から俺が“妙な経験”をし続けていた事に由来する。


転生前……強盗の入った日

何故か無性(むしょう)に友達の家でお泊り会をしたく成った事

その結果……命拾いした事。


転生後……何故か嫌な予感を感じ

ミリアさんを連れてオルガの所へ向かった後

クレインからヴェルツの“惨状(さんじょう)”を聞かされた事。


この国がまだ王国と呼ばれていた頃、国王に化けていた魔族に(とら)われ

生死の(さかい)彷徨(さまよ)う程の猛攻(もうこう)にさらされて居た俺に力を与え

既の所で救ってくれた元管理者のヴィシュヌさん……後に

その力のお陰で、彼の妻であるマリアンヌさんと

俺の大切な仲間であるマリーンの命を救えた事。


旅の途中……手に入れてからずっと格好良い以外には

全く(もっ)て役に立たないと思っていた魔導之大剣が

結果的に、この世界に戻ってくる為の……言わば、鍵と成った事。


何と言うべきか……何時もギリギリの所で

見えない力に依って助けられている様な経験をしている反面

その“反作用”とばかりに恐ろしい経験もしているのだ。


命拾いした代わりに……大切な存在を失った事。


ミリアさんを助ける事が出来た“代わり”……では無いが

ミネルバさんを助ける事は出来なかった事。


絶大な力を持つ固有魔導のお陰で国民から恐れられ

一連の出来事の所為もあり上級管理者アイツから

この力を剥奪(はくだつ)された挙げ句、信じられない程嫌われてしまった事。


魔導之大剣のお陰でこの世界に帰って来る事が出来た代わりに

より一層、上級管理者アイツに嫌われた挙げ句

今までとは違い、この世界の仕組みを

この世界の住人に話しても“時間が止まらない”上

忠告すらもされない程に“見捨てられて”しまった事。


そして……もし本当に“見捨てられている”とするならば

この世界が何時消去されてしまっても不思議は無いと言う事。


俺は……そんな全ての恐怖心を、答えられなかったのだ――>


===第百四〇話・終===

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