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第百三九話「他世界人と“落”ち合うのは楽勝ですか? ……後編」

《――深夜の政令国家に突如として“落下”した美女


“ソフィア”……そんな彼女から


“両親と姉を探し出して欲しい”


と言う、余りにも唐突過ぎる“注文を”付けられてしまった女将は――》


………


……



「そ、その……(いず)れに致しましても

少々お時間を頂きたいご要望で御座いますので、()ずは

当旅館の朝食や薬浴などをお楽しみ頂きながらお待ち頂ければと……


……とっ、兎に角失礼致しますッ! 」


《――そう言い残し、逃げる様に部屋を立ち去った女将。


一方、一人残されたソフィアは――》


………


……



「あ、あのっ! ……って行っちゃった。


まぁ……(いく)ら“何なりと”って言っても限度があるよね

勿論、私だって自分で探すべきなのも分かってるけど……でも

昨日見た地図に全く(もっ)て見覚えが無い以上

下手に動き回る方が危ない気もするんだよね……

やっぱり自分で探すべきかもしれないけど……うーん。


……取り敢えず、女将さんの言っていた

薬浴ってのに入ってから改めて考えようかな? ……」


《――直後

女将から勧められた薬浴へと向かったソフィア。


その一方で……


……万人が苦慮(くりょ)する事と成るであろう難問を突きつけられた女将は

(みずか)らの力だけでは到底解決の出来ないこの“難問”を

ラウド大統領へと伝え――》


………


……



「……と、希望されてしまったのです」


「うむ……その件は此方(こちら)で考える故、御主は引き続き

女将としての職務に専念して貰いたい。


……もし進捗(しんちょく)状況について(たず)ねられたら

“お調べしている最中”と伝えるのじゃよ? 」


「かしこまりました、では……」


《――ラウド大統領に一礼し、旅館へと帰って行った女将。


直後、ラウド大統領はこの話を伝える為

爆睡(ばくすい)中の主人公”に魔導通信を繋げ――》


………


……



「……公殿……主人公殿っ!! 」


「ふんがぁっっ?! ……な、何か有ったんですかッ?! 」


「す、すまぬ……睡眠中じゃったか。


とは言え、自体は急を要するんじゃ! ……」


《――主人公を魔導通信で“叩き起こした”ラウド大統領は

彼に対し、女将から伝え聞いたソフィアの希望を伝えた。


すると――》


………


……



「成程……本人もある程度は

この世界が元の世界とは違う場所だと気がついているのかもしれません。


けど……ご家族の捜索ですか。


確かに当然の願いだとは思いますし気持ちも痛い程わかりますが

彼女のご家族は恐らく、もう……」


<――昨夜の“仮説”通りならば

彼女が居た世界のありと(あら)ゆる物は既に全て“消去”されていて

彼女だけが、俺達の暮らすこの世界へと取り込まれてしまった。


……と考えるのが正常だろう。


だがそんな考えの一方で

俺が今までに出会った転生者“達”の事を考えれば――>


………


……



(いや……待てよ?


“ヲタ神”達の村も“シゲシゲ”さんの旅館も

大人数が一気に転生している様な感じだったよな?


……なら、ソフィアさんのご家族が

この世界に来ていても何ら不思議は無い筈。


けど、それなら一度に同じ場所へ転生させない理由も無……いや。


上級管理者アイツならやりかねないし

奴の意地悪な性格がそうさせたのかも知れない……まぁ可能性は低いが。


とは言え、何が理由であろうとも……たとえ人の家族であっても

“家族”を簡単に諦めてしまうのだけは嫌だ。


俺みたいな(つら)い記憶を持つ人がこれ以上増えるのだけは……)


………


……



「その……はっきりとは約束出来ないですけど

俺、ソフィアさんの家族を探してみます。


勿論、見つけられる可能性は限り無く低いかも知れませんが

それでも……簡単に諦めたくは無いんです。


……勿論、大臣としての職務が(おろそ)かに成らない様に

職務外の時間で動きますし、絶対にご迷惑はお掛けしませんから……」


「いやいや……心配せずとも止めはせんから安心して貰いたい。


……それよりもじゃ。


この件を主人公殿に任せるその代わりに……


……主人公殿には二つ程約束して貰いたいんじゃよ」


「約束……ですか? 」


「うむ、約束じゃ。


まず、第一に……必要な事や物があれば、それらは全てわしに任せる事。


そして……“決して一人で(かか)え込まぬ事”を約束して貰いたいのじゃよ」


「ラウドさん……分かりました、俺ちゃんと頼りますッ! 」


「うむ! ……任せたぞぃ! 」


《――この後

ソフィアの過ごす旅館へと転移し

自身がこの件の担当者と成った(むね)を彼女に伝えた主人公。


すると――》


………


……



「あの……昨日もですけど、まさか

家族の事まで助けて貰う事に成るなんて思っても無くて

その、何と言うか……


……“変態”とか呼んですみませんでしたぁぁぁっっ!!! 」


《――言うや否や、凄まじい勢いで頭を下げたソフィア。


だが不味(マズ)い事に……彼女が頭を上げた瞬間


……薬浴後、着替えていた“旅館の浴衣”の胸元が

着付けのつたな(ゆえ)か、盛大に“はだけて”しまい――》


………


……



「誤解が解けたなら別に……って、うわぁぁぁッ!? 」


「えっ? 何だか目線が“妙な位置”に有る様な……って。


……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!! 」


《――直後

理不尽(りふじん)にも“フルスイングビンタ”を食らう事と成ってしまった主人公。


……ともあれ。


彼女の家族を捜索する為……この後

家族についての情報を出来る限り聞き出した主人公は――》


………


……



「有難う御座いました……以上で大方の情報は把握出来ました。


後は、捜索の為に似顔絵を用意する事に成りますが

絵師なら“腕の良い女性”に覚えがあります。


その方に頼めば、まるで実物と見紛(みまが)うばかりにえがいてくれますので

少しでも見つけられる確率が上がるかと! 」


<――ソフィアさんにそう説明した俺。


だがこの時、俺は――


“もし、仮に彼女の家族を見つけられなかった場合でも

ライラさんと暁光ドラゴンえがいた

あのクロエさんがえがく似顔絵ならば

今後、彼女の心の支えに成ってくれるかも知れない”


――そうも、考えていた。


この広い世界で……居るかどうかすら(さだ)かでは無い

彼女の家族を見つけ出す事は、どう甘く見積もっても

“干し草の中に落とした針を探し当てる”程に難しい事だと思えたから。


……勿論、諦めたくは無いし全力で探す事が前提ではあるのだが

万が一にも見つけられなかった時の為

彼女の心の()り所を……たとえそれが(わず)かな物でも作って置きたかったのだ。


だが、そんなマイナス思考な俺の心境(しんきょう)とは裏腹に――>


………


……



「……ほ、本当ですかっ?!

なら直ぐにでもその絵師さんに会わせてくださいっ! 」


<――と、純粋な眼差しでそう懇願(こんがん)してきたソフィアさん。


正直――


“マイナス思考過ぎる! ”


――と注意された様にすら感じるの純粋さに狼狽(うろた)えた俺は

直ぐにクロエさんへ魔導通信を繋ぎ

状況の説明と共に似顔絵の依頼を出す事と成った。


すると――>


………


……



「……取り敢えず絵の代金だけど、タダで構わないわ。


それよりも、必ず見つけられる様に

寸分違(すんぶんたが)わない位の絵に仕上げるって約束するから

少し大変だろうけど……ソフィアちゃんにお願いしておくわね」


「な、何でしょうか? ……」


「どんなに些細(ささい)特徴(とくちょう)でも、分かる事は全て教えて。


……全て、えがきたいから」


<――直後

ソフィアさんから事細かな特徴を聞きつつ

魔導通信越しに似顔絵を作成し始めたクロエさん。


……全く(もっ)て絵の才能が無い俺とは違い、驚く程の速度で

凄まじく写実的リアルな似顔絵を完成させて行くクロエさんに感動を覚えつつ

通信の維持に力を注いでいた俺――>


………


……



「……少し鼻が高いのね?

そうなると……ソフィアちゃんを少し大人にした感じかしら? 」


<――その後も細部の修正を幾度(いくど)と無く繰り返し

色が入り……ついに、全ての似顔絵が完成した時。


窓からは夕日が差し込んでいた――>


………


……



「さてと……間違い無く全員正しくえがけているかしら? 」


<――クロエさんにそう(たず)ねられ

興奮した様子で何度も何度も(うなず)いたソフィアさん。


一方、その様子を見たクロエさんはとても安心した様な表情を浮かべ――>


「良かった……少しは役に立てた様ね。


絵師として、とても気持ちの良いお仕事が出来た事……お礼を言っておくわね」


<――そう言って微笑んだクロエさんの姿はとても輝いていた。


“職人”とは、こう言う人の事を言うのだろう。


だが、その時――>


………


……



「あら……何の音かしら? 」


<――真剣な表情のクロエさんにそう(たず)ねられた。


別に、何の事は無い。


俺の胃から発せられた“空腹の合図”だったのだが……


……状況が状況過ぎて恥ずかしくなり

顔を真赤にして謝って居た俺に対し、クロエさんは――>


「バカね……そんな事で怒ったりしないわ?

そもそも飲まず食わずで何時間も掛かり切りだったんだし

空腹じゃ無い方が怖いわよ……兎に角

この絵は後で複製(ふくせい)して政令国家そっちにも送るし

他国の知り合いに掛け合って捜索のお願いもしておくから安心して?


それと……必ず見つかる様に毎日祈るから

ソフィアちゃんも絶対に諦めないでね?


……それじゃ、早速動きたいし失礼するわね。


最後に……安定した通信を開き続けてくれてありがとう主人公さん。


……じゃ、またね」


<――と、クロエさんから俺とは比べ物に成らない程の

“完璧過ぎる大人の対応力”を見せつけられてしまった後

俺とソフィアさんは旅館での夕食を取る事と成った。


の、だが――>


………


……



「……いや~こんなに贅沢な料理、初めて食べましたよ~♪


って、そうだっ! ……昨日、私

エリシアさんとお話させて頂いたんですけど!


“この宿屋の支払いは全て

主人公さんのポケットマネーで払う事に成ってる”


って聞いたんですけど……本当に良いんですか? 」


「へっ? ……いやいやいや!!!

俺のポケットマネーじゃなくて国の支払いの筈ですけどぉ?! 」


「ふふっ♪ ……ちょっとした冗談ですっ♪ 」


「何だ、冗談でしたか……って、まぁ(いず)れにしても

ソフィアさんに請求するつもりはないのでご安心ください。


少なくとも……ご家族の件が解決するまでの間は

好きなだけこの旅館に居て大丈夫ですからご安心を! 」


「ほ、本当ですか?! ……正直とても助かります。


御飯も美味しいですし、薬浴も疲れが取れますし

おまけに遊戯部屋(ゲームルーム)まであったりして……こんな贅沢は初めてですし

早く家族とも再会して、皆にも

この場所の素晴らしさを経験させてあげたいんです!


……あっ、その時の費用は流石に私が払いますね! 」


<――そう目を輝かせ語ったソフィアさん。


この時……この顔を絶対に悲しみで(ゆが)めたく無いと思った。


そして、もしもこの世界の何処(どこ)かに彼女の家族が居るのなら

全力で探し出し、必ず再会させたいと……改めてそう強く思った。


絶対に、彼女を悲しませたりはしない――>


………


……



「……ええ。


あっ、その時は……一〇倍の金額を請求しますね! 」


「ちょっとぉ!? 何を堂々とぼったくり宣言してるんですか?! 」


「冗談ですよ? ……先程のお返しです」


「も~っ! ……あっ。


冗談で思い出したんですけど、この宿屋さん

冗談みたいな種類の乳飲料がありますよね? 」


「えっ? ……ああ、ビン牛乳の事ですね!


……風呂上がり、腰に手を当ててあれを一気にグイッと飲むのが

お酒が苦手な人の楽しみかな~……って個人的には思ってまして!

ヴェルツ本店の女将であるミリアさんに無理を言って作って貰った

この旅館の名物みたいな物なのですが、ソフィアさんはもう飲まれました? 」


「はい! とっても美味しくて何本もおかわりしちゃいました!

……けど、あれだけの種類があるのに“龍乳(りゅうにゅう)”だけは無いんですね? 」


「へっ? 龍乳(りゅうにゅう)……ですか?

でも、ドラゴンってそもそも哺乳類では無かった様な……」


「えっ? ……そ、そうですよね!

そんなバカな話無い……ですよね! アハハ……」


<――直後、彼女の居た世界には

哺乳類としてのドラゴンが生息していた事を察した。


そして……その世界との違いが明瞭(めいりょう)に成れば成る程

ソフィアさんが苦しむ事に成るだろう事も。


(げん)に“急激に意見を変えた”ソフィアさんの表情が

痛い程にそれを物語(ものがた)っていた……まぁ、だからって訳では無いのだが


更にソフィアさんを傷つけてしまう可能性を感じつつも

“竜族の集落”に連絡を入れる事を決めた俺。


……とは言え、あの場所を離れる時

ドラガさんとした約束を忘れた訳じゃ無い――


“どんなに完璧な国に対しても

どんなに良い人だと思う相手に対してでも

この集落の事だけは決して話しちゃ駄目だ”


――この約束を決して破る事無く、あの集落へと連絡を入れる場合

リーアの力に()って変化した俺の魔導通信の仕様上

ソフィアさんは勿論、誰にも見られない場所での

秘密裏な連絡が必要で――>


「ま、まぁその……俺はあまり物知りじゃないですし!

俺が知らないってだけですから、変に落ち込んだりしないでくださいね?


で、では……その、夜も遅いですし……今日の所は帰りますッ! 」


<――取り(つくろ)う様な態度でこの場を去った直後

ヴェルツの自室へと戻った俺は……早々にカーテンを閉め

部屋の鍵を掛け、ドラガさんに連絡を入れた――>


………


……



「おぉ~久し振りだね! ……ライラちゃんと暁光ちゃんは元気かい? 」


「ええ! ……とは言っても

今彼女達は日之本皇国でディーン達と過ごしてますから

暫くの間は離れ離れなんですが……」


「そうなんだ……まぁ、元気ならそれで良いよ!


所で……“締め切った部屋から連絡を入れてくる徹底振りに”感謝しつつ聞くけど

何か“大変な用事”かな? 」


「い、いえその……一つお(たず)ねしたい事がありまして。


ドラゴンの中に“龍乳(りゅうにゅう)”なる物を出す種族が居たりって話……


……ご存知だったりしませんか? 」


龍乳(りゅうにゅう)? ……聞いた事も無いし

そもそもドラゴンは哺乳類じゃないからね……」


「ですよね、変な質問しちゃって申し訳……」


<――そう言って通信を閉じようとした俺に対し

ドラガさんは――>


「……けど、関係有りそうな話は知ってるかな? 」


「えっ?! ……どんな話ですか?! 」


「最近、西の方で“突然変異体”と思われる(ドラゴン)を目撃した。


……って話が此方(こちら)にも入って来ててね。


ただ、僕達に取って重要なのは新種や変異体かどうかよりも

そのドラゴンが敵か味方かって事。


……まぁ、(いず)れにしてもまだ不確定な情報だし

そもそも噂話に過ぎ無い可能性も有ったんだけど……君からの連絡で

(ただ)の噂”では無さそうだと確信が持てたよ。


まぁ、此方(こちら)でも詳しく調べておくから

そっちでも何か分かったら連絡貰えると助かるかな? 」


「了解です……突然の連絡、失礼致しました。


では、また(いず)れ……」


<――通信を終えた後、俺は

この世界に再び変化が起きている事を知った。


ソフィアさんを含め、今まで幾度(いくど)と無く出会った――


“他世界からの転生者”


――そして、この世界には元々存在しない

他世界からの物と思われる妙な“変化”……そして

上級管理者アイツの言っていた――


容量超過世界オーバーキャパシティーワールド


――もし仮に、この世界も“そう”成ってしまったら

俺は兎も角として……皆は一体どうなるのだろう?

見知らぬ何処(どこ)か別の異世界へ飛ばされて行く事と成るのだろうか?


そもそも、この世界の仕組み自体が謎だらけで

上級管理者アイツを含め“管理者”と呼ばれる存在の

(ただ)の遊び道具だとしたら

彼らの気分次第で、いきなり全て消去されてしまうのかも知れない。


仮にそうさせない為、この世界の中でどれだけ異議(いぎ)を唱えた所で

所詮(しょせん)は“(かご)の中の(とり)”状態である以上

(あらが)う事など出来ないのかも知れない。


俺は……この世界に暮らす人々が平和で幸せな状態に成る様

今も必死に努力をしているつもりだ……だが

仮にそれが叶ったとして、その平和は果たして……(たも)てるのだろうか?


管理者達が“この世界を消さない”確証(かくしょう)など

微塵(みじん)も無いのに――>


………


……



「……クソッ! こんな遅い時間に

こんな暗い気持ちに成ってたらまた睡眠不足に成って……いや

どうせ消されるかも知れない世界で睡眠不足を気にしても……って。


……また俺はマイナス思考な事をッ!! 」


<――如何(いかん)ともし(がた)い悩みを(かか)え、(おさ)えられない不安と戦っていた俺。


今回、ソフィアさんの事に関してラウドさんと約束した――


“頼る事”


――だが、それはあくまでソフィアさんの事に関する話だろう。


この世界の仕組みや、その存亡(そんぼう)に関する漠然(ばくぜん)とした不安なんて

ラウドさんに話すべき事では絶対に無い。


だけど……とても苦しい。


何事も一人で(かか)える事に慣れていた筈の俺だが

何故かこの世界の事だけは(かか)えれば(かか)える程苦しさが増して行く。


……もし今、窓の外を見た瞬間この世界が消え始めていたら?


俺は……どうすればいい?


何をどうすれば……大切な人達を全員救う事が出来る?


俺は……漠然(ばくぜん)とした恐怖に(おび)えながら窓に近づき

カーテンをゆっくりと……開いた。


その、瞬間――>


………


……



「あっ! ……主人公さ~んっ♪ 」


「ぬわぁぁぁッ!? ……って、メル? 」


<――窓の下から声を掛けられ、思わず大声を出してしまった俺。


どうやら、メルは店前の掃除をしていた様で――>


「だ、大丈夫ですかっ?! ……顔、青褪(あおざ)めてますよ? 」


「だッ、大丈夫ッ! ……ぼーっとしてただけだから!

そ、それより……大声出してごめんね」


「いえ……あっ! 主人公さん、お腹空いてませんか? 」


「空腹って言うよりは飲み物が欲しいかも……」


「そうですか……なら、何かジュースをお持ちしますねっ♪ 」


「えっ? 流石に悪いよ! ……って、もう居ないし」


<――暫くの後

部屋の扉をノックする音が聞こえたので、鍵を開け扉を開いた俺。


だが、その瞬間――>


………


……



<――カップの割れた音が部屋に響き渡った。


メルが手を滑らせ

ジュースの入ったカップを勢い良く床に落としてしまったのだ。


……だが、そうなってしまった理由は

決して穏やかな物では無く――>


「し、主人公さん……あ、あれっ!!! 」


<――そう言って窓の外を指差したメル。


俺は……先程の“想像”が“現実”に成ってしまったのではと思い

振り返る勇気が持てずに居た。


だが、メルは続けて――>


………


……



「光の玉が……降って来てますっ! 」


<――そう

言い放った――>


「何っ!? ……まさか、ソフィアさんの家族じゃ?! 」


<――思い悩んで居た中で

低確率とは言え予想建てて居た――


上級管理者(アイツ)意地悪(いじわる)


――それが現実の物と成ったのではと思い

“光”を確認するなり直ぐにヴェルツ前へと転移した俺。


例に()って、光の玉を防衛魔導で包み込み

落下速度を(おさ)えつつ地上へと下ろした俺だったのだが……妙だ。


妙に玉が……デカい。


もしかするとこれはソフィアさんの言っていた

龍乳(りゅうにゅう)を出すドラゴン”かも知れない。


俺は……最大限に警戒しつつ防衛魔導の中を注視(ちゅうし)していた。


すると――>


………


……



「……開けてぇぇぇっ!! 出してぇぇっっ!! 」


「夫と娘だけでも助けてくださいっ!! ……」


「何を言うっ! ……妻と娘だけでもお助けを!! 」


<――光が消えたその場所から現れたのは

クロエさんの描いた似顔絵とそっくりな三人で――>


「……い、今解除します!

此方(こちら)は危害を加えるつもりはありません!

それから……ソフィアさんも保護していますからご安心くださいッ! 」


「なっ?! ……今、ソフィアを保護していると(おっしゃ)いましたか?! 」


「え、ええ……そう言う貴方は、もしかしなくても

ソフィアさんの“お父様”……ですよね? 」


「そ、そうですが……ん?

今貴方は私の事をお父様と……ハッ?!

何処(どこ)の馬の骨とも分からん男に……娘はやらんぞぉぉっっ!!! 」


<――と、盛大な誤解を受け掴み掛かられてしまった俺。


直後……メルのお陰で誤解は解け、何とか事なきを得た後

一家全員から平謝りされた訳なのだが……その際、一つ思った事が有る。


それは――>


………


……



「ソフィアさんもでしたけど……


……ご家族全員、少しは人の話を聞いてくれませんかねぇぇぇッッ!? 」


<――俺の“心からの叫び”は

夜更(よふ)けの政令国家に響き渡ったのであった――>


===第百三九話・終===

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