第百三六話「生み出すのは楽勝ですか? 」
<――嫌な記憶も不愉快な気持ちも
そして……敵すらも
全て“花弁で流した”厄日とも呼べる一日を過ごした俺。
そして……あの日から数日間、現場にも出られず
激しい自己嫌悪に襲われて居た――>
………
……
…
「俺は……怒りに任せてあんなに大量の人間を……
花弁が全部……血に染まって……ッ!! ……」
<――消せない記憶に苦しみ悶えていた俺。
だが、そんな俺の状況を知ってか知らずか
微かに部屋の扉をノックする音が聞こえた。
……直後、嫌々ながらも立ち上がり呼吸を整え扉の鍵を開くと
扉の向こうに立っていたのはリーアで――>
「アナタ~♪ ……って、元気無いですワネ?
もしかして、やっぱりワタシの老いた姿が嫌って事じゃ……」
「い゛ッ?! ……ち、違う違うッ!
どれだけ“熟女”に成ってもリーアは綺麗だってば!
その……数日前の事を思い出して自己嫌悪に陥ってただけって言うか……
何れにしてもリーアは何も悪くないし……」
「そうだったのネ……でも、アナタはとても優しいから
全ての人に愛を持って接するじゃない?
たまにはその優しさが上手く伝わらない時もあるけれド
それでも……アナタは絶対に優しくあろうとするでしョ? 」
「う、うん……少なくともそう居られる様に努力はしてるけど……」
「なら、何も後悔しないで良いのですワ?
と言うかそもそも、アナタが後悔している“あの技”だけれど……
……知っているかしら? 」
<――そう聞かれ
“何を? ”と訊ねた俺に対し、リーアは――>
………
……
…
「……アナタがあの技を使ったお陰で
“ツツジ”の森には純白の花弁を持った大量の樹木が植樹された。
そして……その全てが、あの場所を癒やし
他の草木を豊かにする力を持っていた様なのですワ?
ただ勿論……アナタが
“其処まで考えて”使ったかどうかはワタシにも分からない。
……でも、あれ程弱っていた“ツツジ”が元の美しい姿に戻ったのは
間違い無く、アナタのお陰なのですワ♪ 」
「……そんな事があったのか。
でも俺はそんなつもりであの技を使った訳じゃ……」
「いいえ? どんな理由であれツツジは喜んでいましたワ?
それに……アナタがそれ程激昂する程の相手なら、何れにせよ
“碌でも無い輩”ですワ?
……少し酷い事を言う様だけれど
そんな輩よりも腐肉の方が余程、森の“肥やし”に成るのですワ?
まして、森の為に成らない存在を洗い流してくれた
アナタの行動を非難をする必要なんて、一つとして無いのですワ? 」
「……有難うなリーア。
慰めて貰った事もそうだけど……
……リーアの顔を見られただけでもかなり楽になったよ」
「照れる様なコト言わないで……ですワ」
「ごめんごめん! ……とは言え
落ち着く迄にはもう少しだけ時間が掛かりそうだけど
精神も肉体も、ちゃんと休めてから最後の“場所”に取り掛かりたいんだ。
俺の所為でリーアをもう少し待たせちゃう形に成るけど……ゴメンな」
「構いませんワ? ……お陰で毎日でも逢いに来られますもの♪ 」
「ああ、本来なら照れるべきなんだろうけど……素直に嬉しいよ」
「素直に喜んで貰えてワタシも嬉しいですワ♪
さてと……そろそろお昼時ですワネ」
「もうそんな時間か……一緒に行くかい? 」
「ええ! 喜んでですワ♪ 」
<――この数日後
いよいよ最後の壁となる
“無の森問題”に着手する事と成ったのだが――>
………
……
…
「いよいよ最後か……って何だか俺が緊張しちゃってるけど
リーア、頼むから無理だけはしないって約束してくれ」
「フフッ♪ ……大丈夫、必ず成功しますワ♪
でも、これで本当に暫くの間逢えなくなりますワネ……」
<――大精霊メディニラさんを筆頭に無の森へと集まった精霊女王達。
俺は、暫しの別れと成るリーアに対し――>
「そうだな……けど、必ずリーアの事迎えに行くから
その……く、首を長くして待っててくれ!
じ、じゃあ……またなッ! 」
<――神獣を生み出す為に行われる儀式の直前
凄まじく“ぎこちない”別れの言葉をリーアに告げた俺。
だが、俺が此程までに不安に成っていたのは
既に数多の森を治癒した彼女達に取って
完全体の神獣を生み出す為に必要な力が圧倒的に不足していたからだ。
メディニラさん曰く――
“幼い神獣としてならば、辛うじて
各精霊女王に害の起きない程度の負担で済むであろう”
――との事だった。
勿論メディニラさんの言う事も分かるし
俺も俺で――
“何か問題が起きそうならそうなる前に中止する事もやむ無し”
――と強く伝えた。
だが、それでも……大切な仲間が命を掛けて行う儀式を目の前に
冷静で居られる程、心が強くは無くて――>
………
……
…
「見なきゃ駄目だって分かってるけど……見るのが怖いよ」
<――と弱気な言葉を発した後
儀式を直視出来ず俯き続けていた俺。
だったのだが――>
………
……
…
「やれやれ……何とか成った様じゃ」
<――メディニラさんの一声に慌ててリーアの姿を探した。
……だが。
リーアは疎か、他の精霊女王達も力の限界を迎えた者から順番に
自らの森へ戻されてしまう仕組みの様で――>
「あ、あのっ!!! ……リーアの容態は?!
リーアは……生きているんですか?! 」
「騒ぐで無い……マグノリアは自らの森で静養中じゃ。
……じゃが、連絡など入れてやろうとは思わぬ事じゃぞ? 」
「な、何故です? 」
「全く……主は少し、女心を覚えるべきであるな。
まぁ何れにせよ、主がマグノリアに固く誓った通り
主自らがマグノリアの森を治癒してやる事こそが再会への近道であろう?
……それを忘れてはおらぬな? 」
「は、はい……」
「ならば良いが、それよりも今は……此方の“童”が問題じゃ」
<――そう言ってメディニラさんが抱き抱えたのは
とても小さな一角獣だった……だが、毛並みには艶も無く
呼吸も弱々しく……正直、こんなにも弱々しい存在が
“神獣”とは……とてもじゃないが思えない程だった。
……だがその一方で
同行していたエリシアさんは、この一角獣に掛け寄り――>
………
……
…
「か……可愛いぃぃぃっ!!
ねぇ! この子……私が責任を持って育てるよ!
……名前もつけるし、ご飯も沢山あげる!
でも、この子が何を食べるのかが分かんないな……」
<――と、まるで
“捨て猫や捨て犬を見つけた子供”の様な反応を見せたエリシアさん。
一方、そんなエリシアさんに対しメディニラさんは――>
「ふむ、主であればこの童……任せられるであろう
名は好きにつけるが良い……じゃが、飯粒など与えるで無いぞ? 」
「えっ?! でも、ご飯を食べないと死んじゃうでしょ?! 」
「否……この童が育つ為に必要な物は飯粒では無く、森の繁栄。
故に、主が行うべきはこの森を……」
「……成程。
フッ……フフフフッ……アーッハッハッハッハ! 」
<――ほんの一瞬、エリシアさんが壊れた様に見えた。
だが、そうでは無くて――>
………
……
…
「ねぇ……つまり。
私が“一番得意な事を”この場所にしてたら、この子が育つって事だね? 」
「う、うむ……そうじゃが、流石にこの広大な場所を
全て主一人で繁栄させるなど……」
「……あるぇ~?
もしかしてメディニラさん、私じゃ出来ないと思ってるぅ~?
其処は大船に乗ったつもりで任せてよ!
てか……私の“愛”を舐めちゃ駄目だぞぉ~? 」
「う、うむ……それならば良いが……」
<――何だろう。
メディニラさんが完全に引いていた気がするが……ともあれ。
この弱々しい神獣の管理は全てエリシアさんが行う事に決まり
神獣の名前も直ぐに決まった。
の、だが――>
………
……
…
「よぉ~しっ! ……今日から君の名前は“チビコーン” だよ~っ♪
君が早く大きくなれる様にぃ~
私、全力で頑張っちゃうから~っ!
物凄ぉ~~く! ……期待しててね~っ♪ 」
<――と“チビコーン”の頬を両手で“スリスリ”しつつ
そう言ったエリシアさんだったのだが……よく考えて欲しい。
今はまだ良いが、大きくなった時にも呼ばれる名前が
“チビコーン”
たとえどれだけ強くなり
世界中に名声が轟いたとしても、呼ばれる名前が
“チビコーン”
正直、余りにも不憫過ぎると思ったが……
……本人はもう決定したみたいだったし
名付けられた“チビコーン”も何だか嬉しそうにしていた事もあり
“うん、愛情っていろんな形があるよね! ”
……とか考えていた俺。
だがその瞬間、チビコーンから睨まれた……うん。
……コイツ間違い無く、神獣だ。
どう考えても俺の“邪念”みたいな物を完全に見抜いた。
そんな恐怖を感じつつ……俺は
残る仕事である“獣人王国への報告”へと向かった――>
………
……
…
「……彼らを称え、此処に騎士の称号を与えます。
主人公、メル、マリア、マリーン、グランガルド、リオス、エリシア……」
<――暫くの後
報告の為に獣人王国へ来てみたら、報告を聞いた途端
ミヌエット王女が俺達に対し“騎士の称号を授与する”と言い始め
こんな騒ぎに成ってしまった。
勿論、とても光栄な話では有るのだが……その一方で
俺達の首に掛けられた勲章のデザインを見て思った事がある。
……勲章にはミヌエット王女の横顔がデザインされており
ぱっと見だと完全に可愛い“猫ちゃん”なミヌエット王女の見た目も相まって
俺は正直、心の中で――>
………
……
…
(……これ、どう考えても“サーの称号”じゃ無くて
宛ら“ニャーの称号”だよな? )
<――などと思っていた。
だが、そう思っていたのは俺だけでは無かった様で――>
「……ねぇねぇ主人公さん!
これって完全にニャーの称号ですよね!? 」
<――と、大声で俺と全く同じ考えを口にしたマリア。
正直、力一杯握手したい位ではあったのだが……
……この発言に際し、ミヌエット王女の眉間に
とんでも無いシワが寄ったのを見逃さなかった俺は――>
………
……
…
「な、何て失礼な奴だマリアは! ……だっ、駄目だぞ~! 」
<――と、マリアを“見捨てた”のだった。
ともあれ……無事に授与式も終わり
俺達を称える為の宴が獣人王国で開かれ――>
………
……
…
「……貴方達のお陰で、我が王国は滅亡の危機を脱しました。
本当に有難う……心の底から感謝しています」
<――宴の最中、ミヌエット王女は
改まった様子でそう言うと、俺達に対し深々と頭を下げた。
当然、慌てて頭を上げる様頼んだ俺達に対し王女様は――>
「ですが、これ程の恩……一体どうすれば
貴方達にお返しする事が出来るのでしょう? 」
<――と、言ってくれたので>
「そうですね――
“政令国家は仲良く出来る国だ! ”
――って思って貰えたなら、それ以上のお礼は必要無いと思います」
<――そう返した。
その反面……此処を助けなければ
リーアと離れる事には成らなかっただろうし
嫌な経験をする事も無かっただろうし
全精霊女王達が少しずつ弱る事も無かっただろうとも思っていた。
とは言え、同時に……もしも此処を助けなければ
リオスは深い悲しみに暮れただろうし
ヘルガさん達は緩やかな死を迎えていただろうし
遅かれ早かれ、リーアは俺の知らぬ間に
メディニラさんから何らかの裁きを受けていただろう。
ともあれ……そんな良し悪しを考えればこそ
改めて“この場所を救えて良かった”と心の底から思えたのだ――>
………
……
…
「此方こそ……懇意にさせて頂きたいと思っています。
有難う、我が王国の守護者達よ……」
「そ、そんな大げさに称えないで下さい……照れますから!
っと言うか……是非とも政令国家に遊びに来て下さい!
娯楽施設もありますし、薬浴なんて物もありますから
いろんな疲れを湯に流して貰ったりも……」
<――と、説明した瞬間
ミヌエット王女がギョッとした表情を浮かべた。
俺はてっきり、何か失礼な事でも言ってしまったかと思い
慌てていたのだが――>
………
……
…
「み……水に浸かる事は少々苦手なのです。
お、お気持ちだけは受け取りますから……」
<――すぐに理解した。
其処は思いっきり“猫ちゃん”なのだと。
ともあれ……この後も目一杯宴を楽しんだ後、政令国家へと帰還した俺達。
……一方の俺は、皆をヴェルツへと連れ帰った後
今日の出来事を報告する為、執務室へと向かったのだが――>
………
……
…
「ふむ、ご苦労じゃった……しかし、主人公殿。
……ひと目見て分かる程に疲れておるのぉ?
“今度こそ”長期の休暇を取って貰うぞぃ! 」
「それは有り難いですけど……本当に休暇なんて取れるんですか? 」
「なっ!? ……いや。
そう言われてしまう程、主人公殿には頼りきっておったしのぉ……」
「いやいや……冗談ですよ! お言葉に甘えて暫くはのんびりします。
……でも、休み過ぎたら今度は復帰が大変になりそうなので
ある程度は執務室の手伝いもしますから安心して下さい」
「ふむ……では本日より暫くの間、主人公殿に休暇を与えるぞぃ! 」
「はい! ではまた後日! ……」
<――この後
ヴェルツへと帰還した俺は皆と一緒に夕食の席へと着いた。
だが――>
………
……
…
「……あれ? エリシアさんが居ないけど
“二号店”にでも行ってるのかな? 」
<――何時も夕食時には必ず居る筈のエリシアさん。
だが、今日に限って何処にも見当たらず――>
「あっ、えっとですね……」
<――“無料騒ぎ”から
見慣れる事に成った割烹着姿のメルが俺の疑問に答えてくれた。
何でも、エリシアさんは例の“チビコーン”を溺愛し過ぎて
食事を取る時もチビコーンの所で食べているらしい。
更に……片時も離れたくないのか
ミリアさん特製の保存食を大量に持ち
今日から暫くの間、例の森で寝泊まりする予定らしい。
うん、エリシアさんは……母性の塊だ。
……けど、下手に放置してエリシアさんに万が一の事があっても困る。
俺はエリシアさんの様子を定期的に見に行く事と
エリシアさんが寝泊まりする場所に
“簡易住居”を用意する事を決め、食事を終えた後
早速実行に移す為、エリシアさんの居る例の場所へと転移したのだが――>
………
……
…
「……ほらほらチビコーン♪
此処に沢山植えたから、のんびりしてね~♪
お~よしよし~っ♪ ……かぁぁぁぁわぃぃぃぃっ♪ 」
<――転移早々
チビコーンとじゃれ合うエリシアさんを目撃した俺。
この、あまりにも癒される状況に
声を掛けるタイミングを失っていたのだが――>
「って……ぬわぁっ!?
こ、こんな夜にどしたの主人公っち!? まさか……見てた!? 」
「い、いえその……少しだけ。
ってそんな事は置いといてですね……その、俺
エリシアさんが一人で此方に居るとお聞きしたので
せめて簡易住居でも用意しようかと……」
「おぉ?! ……それは割と助かるかも!
って……そんな事より主人公っち!
チビコーンの……“此処”を見てよ! 」
<――そう興奮した様子で“チビコーン”を指差したエリシアさん。
その場所には、僅かに“たてがみ”が生えていた――>
「おぉ……早速成長したんですね!
流石はエリシアさんです、採集だけじゃなくて森の管理まで上手いとは。
……ある意味、精霊女王よりも森の護り神ですね! 」
「そ、それは褒め過ぎだよぉ~♪
何て言うか~……一日でも早く
この子が元気な姿で走り回ってる所見たいじゃん?
けどまだ“よちよち歩き”だから、片時も目を離せなくてさ……」
「成程……あ、あのッ!!
……もし良ければ俺の土の魔導でこの場所に
“白い花が咲く木”を沢山増やしたら
少しでも早くチビコーンが成長したりしませんかね? 」
「ん? ……そんな技有ったっけ? 」
「えっ? いやいやいや! “狂華乱舞”って言う技名の……」
「何それ、何か“とんでも無く危なそう”な響きだけど……って、主人公っち? 」
<――エリシアさんにそう言われた瞬間
俺の脳裏にあの嫌な光景が浮かんだ。
そして……そんな内心を顔に出してしまった事を
妙に誤解したエリシアさんは
とても申し訳無さそうにしつつ何度も俺に頭を下げた。
だが、謝るべきは俺の方だ……俺は、リーアから聞かされた
この技の“良い結果”な部分を記憶の中で少しでも増やしたくて
悪く言えば“実験”しようとしたのだ。
……もし、万が一攻撃として機能してしまい
エリシアさんやチビコーンを傷つけてしまうかも知れない
博識なエリシアさんですら知らないと言った
“謎の技”をだ――>
………
……
…
「……頭を上げて下さいエリシアさん、悪いのは俺です。
トライスターにしか発現しない類いの上位技みたいで
と言うか……モナークに特訓して貰った後
俺が初めて使った氷刃の最上位技……エリシアさんもご覧になった
あの“極氷”も、そう言う技の一つですし
あれも“危ない部分”がありましたから……恐らくは“狂華乱舞”も
おいそれと使うべきじゃ無いって今更ながら思ってて……」
「……成程ね。
確かに“あれ”は見覚えの無い技だったし
トライスター専用の何かが有るのかなとは薄々思ってたけど……
……主人公っちも大変だね。
まぁ、今回主人公っちが使おうとしてくれた
その“技”にどんな能力が有るのかは知らないけど
少しでも不安に感じるなら止めておく事をお勧めするよ。
勿論、私とかチビコーンの為じゃ無く……主人公っちの心が傷つかない為に」
「エリシアさん……何もお手伝い出来なくて本当に申し訳ありません。
そ、そうだ! ……一応、簡易住居だけ出しておきますね! 」
<――この後
エリシアさんの為に簡易住居を出した後
逃げる様にこの森から立ち去った俺。
自らが使う技に確証も持てず……剰え
都合の良い実験の様に軽々しく技を使おうとしてしまった事……
……恥と呼ぶにしても勝手が過ぎる愚行だ。
だが、エリシアさんは優しいから
俺が嫌な気分に成らない様に気遣ってくれただけで
本当ならばもっと怒られておくべきだった――>
………
……
…
「クソッ……俺は……本当に最低だッ! 」
《――直後
ヴェルツの自室へと帰還していた主人公。
彼が激しい自己嫌悪に陥っていた一方で……
……幼き神獣と共に、彼の出現させた小屋の中へと入り
冷え込みの酷い夜の森を快適に過ごしていたエリシア。
彼女は、チビコーンを優しく撫でながら――》
………
……
…
「トライスター専用の上位魔導技か……師匠も使えたのかな?
もし使えたとしたなら、主人公っちみたいに
やっぱり……悩んだりしてたのかな?
私がもっと強かったら……その苦しみを理解、出来たのかな……」
《――そう言って黙り込んだエリシアに対し
幼き神獣は静かに寄り添い……まるで彼女を慰めるかの様に
前足で何度も彼女の肩を擦った――》
「……ありがとね、チビコーン。
って……私が慰められてる場合じゃないね!
私が今出来る事と言えば……」
《――そう言いつつ両手を合わせると
天に祈りを捧げ始めたエリシア――》
………
……
…
「……神様、お願いします。
どうか、主人公っちの苦しみを……師匠の分まで取り去って下さい。
世の為、人の為に動き続けてる主人公っちに
少しでも平穏な時間を、お与え下さい……」
《――そう言うと静かに瞳を閉じ、天に祈りを捧げたエリシア。
そして、そんな彼女の様子をじっと見つめた後
自らも……まるで祈りを捧げるかの様に天を仰ぎ瞳を閉じた幼き神獣。
……暫くの後、共に目を開けると
再び寄り添い合い、夜を越したのだった――》
===第百三六話・終===