第百三五話「国家も考え方も……変化は楽勝ですか? 」
<――正直、何の勝機を見つけた訳でも無いのだが
それでも何故か賭ける価値を感じた俺は……
見た目も、話し方も――
“一八〇度変化した”
――ヘルガさんの案に“全乗っかり”する事を選んだのだった。
そして、採択中も頭を下げ続けていたヘルガさんに対し
ラウドさんと各大臣達の下した決断は――>
………
……
…
「……申し訳無いが頭を上げて貰えるかのぉ?
まず……ヘルガ殿。
現在まで続いておる貴国との敵対関係を考えれば
おいそれと御主の発言を信頼出来ぬ事も理解して貰えると思う。
……故にわしは今回の申し出に対し
ある種の判断期間を設けようと思っておる次第じゃ……そして
それがどの程度の期間に成るかをお伝えする事は出来ん。
……理解して貰えるのう? 」
「……ええ、そちらの事情も理解しています」
「うむ……じゃが、この少しばかり手前勝手とも思える
“可決”で構わないと仰るのならば
わしにも異存は無い……どうじゃろうか? 」
「ええ、それで構いません……私は国などでは無く
部下や民達を守りたいだけなのです。
そして……その為ならば、どの様な辛酸でも嘗める所存です」
<――そう言い切ったヘルガさん。
それと同時に、俺は……ヘルガさんに感じていた
“ザ・姉御! ”
な感覚が間違いだったのではと思い始めていた――>
………
……
…
「ガッハッハ! ……アタシもやる時はやるだろぉ?
しかし……アタシにも立場ってモンが有る以上
柄に無い事もやらなきゃならない訳だけど……それにしても
ドレスってのは肩が凝っちまって仕様が無い代物だねぇ!
……っと。
それはそうと主人公、アンタ……」
「は、はい……何でしょうか? 」
「完全に……ドレス姿のアタシに見惚れてただろぅ~? 」
「い゛ッ?! いや、確かにお似合いでしたが……」
「なぁに! 隠さなくたって構いやしないよ! ……ガッハッハ!! 」
<――ええ、どうやら俺の記憶は間違っていなかった様です。
会議終了後、エルフ族の村へと戻ったヘルガさんは
俺のよく知る“ザ・姉御”な態度に戻ると一頻り“ウザ絡み”をし続けた。
暫くの後……“ウザ絡み”にも飽きたのか
今度は政令国家の娯楽に興味を移し――>
「和装やゲームの他、複合娯楽施設内には薬浴もございまして……」
<――と、観光案内の様に説明する俺に対し
神妙な面持ちで――>
「それは大層な事だねぇ……だが、そんな事は聞いちゃいない。
アタシの言ってる娯楽ってのは……」
<――直後、俺の体をグイッと引き寄せたヘルガさんは
俺の耳元に口を近づけ――
“奴隷の売り買いは無いのかって聞いてるんだ”
――と、言った。
その瞬間、これ以上無い程の嫌悪感に襲われた俺は
思わずヘルガさんに対し、軽蔑の眼差しをぶつけてしまった。
だが――>
………
……
…
「フッ……その反応で安心したよ。
“前”とは考え方も形も……本当に綺麗サッパリ変わってるって事だね? 」
「前? ……王国時代の事でしょうか? 」
「ああ、その通りさ……街を見た限り
“奴隷商”が大手を振って歩いてる様子も無いし
平民達が誰かに怯えてる様な事も無かった。
一応とは言え、何かしらの“暗部”を疑いたくも成るだろう? 」
「成程……そんな物なのでしょうか?
……でも、安心して下さい!
この国にそんな酷い事をする人はもう居ませんから! 」
「ああ……この国がこのままの姿で居てくれりゃ、アイツも成仏するだろうさ」
「アイツ? まさか、王国時代に何か……」
「……聞いたって楽しくないし、言いたくも無い話さ。
だから聞かなかった事にしておくれ……さて
アタシは一度国に帰りたいんだが、構わないんだろう? 」
「え、ええ! それは勿論ですが……」
「……何だい? アタシと離れたくないとでも言うのかい?
それとも……“監視”でも付けたいかい? 」
「い、いえッ! そう言う訳では無くて!
その……俺達、一刻も早くあの森を治療したくて……」
「あぁ何だい、あの森の事かい! ……その事なら安心しな!
……万が一にも変な衝突が起きない様
民にも兵にもアタシが確りと説明しておくから
何時でも自由に出入りしてくれて構わないさ。
それよりも……帰国前に話したい事が有ってねぇ。
だから……弟と二人きりにして貰えないかい? 」
「ええ、勿論ですよ! ……あっ!
その……もう、姉弟の“じゃれ合い”は勘弁してくださいね? 」
「分かってる……アンタに逆らったりはしないさ」
「い゛ッ?! いや……そんな恐ろしい存在みたいに言われると……
……とっ、兎に角kつ!
し、失礼しますッ!! ……」
<――何だか妙に“危ない存在”扱いされ
若干傷つきつつもヴェルツへと帰還する事と成った俺――>
………
……
…
《――“傷心の主人公”去りし後
エルフ族の村では――》
「……さてと。
オルガ……色々と悪かったね」
「何、構わないさ……“姉弟のじゃれ合い”のつもりだったのだろう? 」
「フッ……そうだね。
しかしオルガ……アンタがあんな“規格外の化け物”と仲良くなるなんざ
昔のアンタなら絶対に無かった事だろうに……」
「そうかもしれないな……だが、主人公は“化け物”などでは無い。
彼は唯この国を……延いては
世界を平和に導く為に奮闘している
心優しい年相応の青年だよ……そして、彼の進む道は
この世界に生きる者全てが共に歩むべき道だとも私は思っている」
「フッ……アンタがそんなに信頼する相手とはねぇ。
……だが、気をつけな?
人間にしては異常な力を持ってる子だし……少なくとも
その力の根源が魔王との“契約”じゃ無い事だけは確かだからさ。
大体……“トライスター”って生き物は
何時“星屑”に成りやがるか分かったもんじゃ無い。
……アンタも重々知っている筈だろ?
とは言え、あの子がそうならない様にアタシも祈る位はしてやるが……」
「ああ、理解している……だが彼ならば
この闇夜を照らす“星之光”に成れると私は信じている」
「フッ……そうかい。
ま……そろそろアタシは国に帰るとするよ
今後はアンタの顔も頻繁に見られそうだしねぇ……全く。
……強く成ったもんだよ」
《――最後に一言、そうオルガを褒めたヘルガ。
直後、彼女は転移魔導で帰還し……残されたオルガは
唯一言――》
………
……
…
「ああ……姉を守れる程度にはな」
《――そう言うと、自らの家へと帰っていったのだった。
一方……昼時のヴェルツへと帰還した主人公。
ヘルガから恐れられている事に傷つき
仲間から慰められていた事を“除けば”……
……何時もと変わらず
仲間と共に昼食を取りつつ平和な午後を過ごしていたのだった。
ともあれ……昼食後、仲間と共に執務室へ向かい
今後のチナル共和国との関係構築について再度確認を取っていた頃
チナル共和国では――》
………
……
…
「……そう言う事だから、今後は政令国家とは仲良くして欲しい。
まぁ……アタシの弟が不自由無く暮らしてる位には安定した国だから
少なくとも信頼は出来る国さ……それと
現在この国に蔓延している疫病も
政令国家からの派遣隊が
付近の森を治療し終えるまでの辛抱って事らしい。
……とは言え、魔導で直せない物であっても
治療の為に必要な大体の薬草は融通して貰える様掛け合って置いたから
そっちも後暫くの辛抱って所さ……さて。
以上がアタシの持ち帰った収穫だが……
……何か異存の有る奴は居るかい? 」
《――集まった民達に向け、そう訊ねたヘルガ。
この後、彼女に反対する者など一人として出る事は無く……
……この数時間後
主人公を筆頭に政令国家から派遣された“植樹活動部隊”……だが
始めこそ大量の魔族が森を闊歩している様子に怯え――
“新しい長のヘルガは何を引き入れたのだ!? ”
――と、彼女の決定に疑問を呈する者も僅かに見られた。
だが……その声も彼らの眼前で行われていた
“奇跡的な光景”に依り消え去った――
“魔族と精霊族の協力”
――精霊女王らと共に動く魔族の姿、そして
チナル共和国に蔓延していた疫病をも
速やかに解決へと導いた彼らの行動は
壊滅的被害を被っていたこの森を
僅か数週の後に復興させた。
……終わる頃には、植樹活動部隊に対し祈りを捧げる者達まで現れ
ヘルガに対する批判は完全に立ち消え……この日を境に
政令国家とチナル共和国は、着実に友好国への道を歩み始める事と成った。
だが……これを快く思わない者達も
少なからず存在し――》
………
……
…
「つい数日前、チナルより届いたこの“書状”……一体どう言う事だッ!! 」
《――円卓を囲む者達
その中に在りながらにして一際声を荒らげ他の者達を一喝した者。
それは……ホロンデル首長国代表であった。
直後、憤慨する彼が円卓に叩きつけた“書状”には――
“我がチナル共和国はこの書状を以て
対政令国家連合国の枠組みより脱退する事を……ええい面倒なッ!
要するに……アンタ達とは一緒に居られねぇって事さ!
精々、陰謀屋と泥棒の集まるお遊戯会で仲良くしてるが良いさ。
チナル共和国 新首相ヘルガより……恨みを込めて”
――と“殴り書かれて”いた。
だが、尚も憤慨する彼に対し――
“煩い……黙ってくれ”
――そう言ったメッサーレル君主国の代表。
だが、頭巾を目深に被った彼の声は
消え入る様なか細さで……尚も憤慨し
声を荒らげていたホロンデル代表の耳には届いて居なかった。
だが、この瞬間
メッサーレル君主国の代表者は小さく溜息をつき
少し声を張り――》
「黙らないなら……命が消えるよ? 」
《――そう言った。
だが……この声すらも聞き取れず
尚も声を荒らげていたホロンデル代表に対し――》
………
……
…
「耳が痛い……煩いって……言ってるだろッ!!
お前みたいなのは、もう……消えろッッ!! 」
《――頭巾がずり落ちる程の勢いでホロンデル代表の眼前に転移し
そのまま掌底を叩き込んだメッサーレル代表
顕になった彼の顔を視認する事叶ったのは――
――既に息絶えたホロンデル代表以外の者達だけであった。
だが、仮にも各国代表の集まるこの場で起きてしまった――
“殺傷事件”
――にも関わらず、問題視するどころか……彼の顔を確認した瞬間
各国の代表者達は皆怯え始めて居た――》
………
……
…
「お、お前……い、いえッ!
あ、貴方様は……メッサーレル君主国君主、アースィー様ッ?! 」
《――ボッスール王国代表がそう訊ねると
メッサーレル代表は再び頭巾を目深に被り――》
「そうだけど……バレたくなかったな
何でも良いけど、皆静かに話して欲しいんだ……頼めるかな? 」
《――と言った。
直後、この場に集った各国代表者達は彼の“頼み”を聞き入れ
過剰な程に声を落とし
書状の送り主であるチナル共和国の処遇について話し始めた。
だが――》
………
……
…
「あのさ……その紙に何が書かれてるかなんて僕にはどうでも良いし
そもそも僕は、今現在も続いてる兄との“兄弟喧嘩”が忙しいんだ。
だから……もし其処に何らかの制裁を課したいなら
お願いだから君達だけでやってくれないかな?
僕はもう帰る、耳痛いし話の内容も有用じゃないし……じゃあね」
《――そう言い残しこの場から消え去った“メッサーレル代表”
そして……彼の去った後、取り決められた
チナル共和国に対する“制裁決議案”……だが。
この“制裁”も上手くは行かず――》
………
……
…
「さて……此処もあと二~三日で治療完了っぽいな! 」
《――“制裁決議案”から数日後
額の汗を拭いつつ、清々しい笑顔でそう言った主人公。
彼は、万が一に備えた防衛部隊として……また
チナル共和国との調整役として、尚も現場に立って居たのだが――》
………
……
…
「残すは無の森だけど……メディニラさん。
彼処の治療って、やっぱり“神獣”を生み出す事になるんですか? 」
「うむ、じゃが……あれに手を付けた瞬間から
妾を含めた精霊女王は皆これまでの比では無い程の力を失う。
つまりは……神獣を生み出すにはそれ程の力が必要と言う事じゃ。
故に、どれ程望もうとも……
……仮に妾が望もうとも以降の手助けは出来かねる。
あの場所が本来の姿を取り戻すまでは、主達の手で
生まれたばかりの弱々しき神獣を育てて行く事と成るであろう。
そして、失敗は絶対に許されぬ……出来るな? 」
「はい……全力で挑みますッ! 」
《――そう固く誓った主人公。
だが、この日の夕暮れ時――》
………
……
…
「皆さ~んッ! 今日の所は作業を中断して政令国家に帰……」
<――と帰還を促した瞬間
俺の真横に――>
「大した相手では無いが、多数の兵が此方に向かって居る様だ」
<――そう言いつつ転移して来たモナーク
“何!? まさか……チナルの兵か? ”
と慌てた俺に対し
“否、装備も現れた方角もそれを否定している
寧ろ……此処を目指している様だ”
そう言うとモナークは何かを思い浮かべた様子でニヤリと笑った――>
「そっか、良……くは無いけど、良かった。
なら、急いでヘルガさんに連絡を入れないと……」
<――直後、ヘルガさんに敵の襲来を伝えた後
俺達も友好国と成ったチナルを護る為、防衛戦に参加する事と成った。
の、だが――>
………
……
…
「フッ……彼奴ら如き雑兵では
貴様一人にすら遠く及ばぬであろうな……」
「えっ? ……ひょっとしてだけど今、俺の事を褒めた? 」
「何? ……我の言葉を信用出来ぬと謂うの成らば
今の貴様が有する“格”……彼奴らで試すが良い」
「い゛ッ?! ……お、俺一人で“あの軍勢”を相手にしろって言うのかよ?! 」
<――この時モナークは
ざっと見ただけでも軽く五千を越す軍勢を
俺の強さを試す“試金石”代わりに使おうと考えたらしい。
とは言え、どう考えても無謀が過ぎると感じた俺は
直ぐに断るつもりで居たのだが――>
「任せたぞ……良いな? 我を愉しませるが良い」
<――そう言い切った直後
自分専用の玉座を出現させると……深く腰を掛け
俺の真後ろで“観戦”と洒落込んでしまったモナーク。
うん……コイツ、間違い無くドSだ。
絶対、戸惑う俺の様子を見て楽しむつもりだ……くそッ!!
けど……かと言って此処で逃げたら
“友好国を見捨てた”って事にも成りかねない上に
モナークからも――
“フッ……下等生物め”とか散々言われる感じに成りそうだし
だぁぁぁッもうッ!! やってやるよッ!! やれば良いんだろッ?!
――と、完全なヤケを起こしつつ敵軍と対峙する事を選んだ俺は
遥か後方に“観戦バカ”を残し、敵の進軍ルートに転移
その後、道のど真ん中で奴らを待ち構えて居た。
そして……徐々に近づく足音に肝を冷やしつつ
減衰装備を外して居ると――>
………
……
…
「……ん? 全軍止まれッ!!
おい……貴様、道の真ん中で何をしている? 」
「あっ……えっと、そのですね……
出来ればその……穏便にお帰り頂けると幸いなんですが……」
<――俺は、出来る限り
言葉通り穏便に済ませたかった。
だが、一人の兵が俺に対し――>
「何? ……フッハハハッ! ……何を言い出すかと思えば!
突けば折れる様な貧弱な体で我ら“対政令国家連合国軍”に楯突くなど!!
……悪い事は言わねぇ、今の内に家へ帰って
ママの胸に顔を埋めて、精々情けなく泣きわめくんだなッ!! 」
<――そう言い放った。
確かに、俺の頼み方は少しばかりおどおどし過ぎて居たし
そもそもの人見知り気質も手伝って
こう言った場面での適切な対応が途轍も無く苦手だ……だが
それにしても、こんなにも“テンプレな悪役”って居るものなのだろうか?
ただ、何れにせよこの瞬間俺は……モナークが此奴らの事を
雑兵と呼んだ意味を確りと理解した。
元の世界でもそうだったが……弱い奴程よく吠えるし
強い奴ほど、物静かで“芯の強さ”みたいな物を持っていた様に思う。
此奴らがそのどちらかと言えば、まず間違い無く……前者だ。
ともあれ……不愉快な態度を取られてイラッとはしたが
だからと言って軽々しく命までは奪いたく無かったから――>
「土の魔導……花よ――」
<――と、命までは奪わぬ様
細心の注意を以て放とうとした技の詠唱を聞くなり――>
………
……
…
「ぶっ!! ……アッッハッッハ!!
……何だっ? コイツ我らの進軍を祝福でもするつもりか?! 」
「分かんねぇが……おい! おもしれぇ事を思いついたぜ!
……コイツの“両親”をコイツの眼の前で“殺って”やろうぜ?
俺、その時のコイツが見てみてぇんだよ!
多分……花でも手向けるんじゃね?
……なんてな!
流石に其処まで“空っぽ”野郎じゃねえか!
……アーッハッハッハッハ!! 」
<――そう聞こえた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
気遣いって……どうすれば正解なのだろう。
話し合いって……どうすれば正解なのだろう。
分かって貰う為の努力って……どうすれば正解なのだろう。
そして……何よりも、この腹立たしい気持ちを
一体……どうすれば
“消し去れる”のだろう――>
………
……
…
「おい……父さんと母さんの事を、何て言った? 」
「あぁ? 楯突くつも……」
「黙れ、許せる事と許せない事がある……謝ってくれ」
「あぁん?! ……おいガキッ!! 余り大人舐めてっと……」
「謝れって言ったのが聞こえなかったのか? “雑兵”――」
「んだとぉ!? ……隊長、コイツ殺っちまいましょう
ガキにも大人のルールって奴を……」
<――テンプレ通りの悪役と言う奴は何処にでも居る。
そして……そう言う奴に限って群れないと物の言えない奴らだ。
最低でも上に立つ者がちゃんとして居たのなら
一種の“自浄作用”みたいな物が働く筈だが
俺の眼前に居る奴らは、揃いも揃って“雑兵”だった様で――>
………
……
…
「……っしゃぁ! 許可も降りた事だ……おいクソガキ、謝るなら今の内だ
今なら“数十発殴る程度で”許してやらん事も無いが
そのままの態度を続けるつもりなら……」
「――お優しい事で。
だが“雑兵”に下げる頭は持って無……」
<――そう答えた瞬間“雑兵”は顔面目掛け拳を放って来た。
だが――>
「こ、拳がっ!? ……腕がぁぁぁっ!!! 」
<――俺が無詠唱で展開していた防衛魔導
それも“攻撃を反射する”タイプの防衛魔導を殴った“雑兵”は
自らの力に依って拳を粉砕した。
……そして、そんな部下を見ていた“雑兵の長”は
怒りに任せて手当たり次第に防衛魔導を攻撃し始めた。
だが当然“攻撃を反射する”のだから――>
………
……
…
「ぐっ!? ……き、貴様ッ!
歯向かうだけに飽き足らず、我らを攻撃するとはッ!! ……」
<――断じて攻撃“は”していないが
“雑兵”にはそんな事すら理解出来ないのだろう。
だが、此奴らが理解するまで優しく説明出来る程
この時の俺には余裕が無くて――>
………
……
…
「……なぁ、謝れば済む話だ。
俺の大切な父さんと母さんとの思い出を汚す様な発言を取り消した上で
もう二度と此処に来ないって誓えば許す。
だから……頼むから、帰ってくれないか? 」
<――これが
今の俺が出来る精一杯の“最後通牒”だった。
だが――>
………
……
…
「舐めんなクソガキが!!!
てめぇの親も……てめぇの飼い犬でも何でも良い!!
……必ず探して必ずぶっ殺してやる!!
その上で、母親は俺が美味しく頂いてからゆっくりと殺……」
<――瞬間
此奴の声が聞こえなくなった。
だが、それは別に俺が現実逃避をした訳じゃ無い。
俺が――>
………
……
…
「――土の魔導、花よ咲き狂え……“狂華乱舞 ”――」
………
……
…
<――気遣いも手加減も無く、全力で放った技の所為だった。
直後……奴らを覆い尽くした純白の花弁達は
まるで、激流の様に……跡形も無く、奴らと言う雑音を洗い流してくれた。
俺の心に渦巻いた狂おしい程の怒りと共に
その花弁を赤黒く染めながら――>
………
……
…
「……我は認識を誤っていた様だ。
雑兵も“兵”ではあるのだと……よもや
斯様に興の削がれる馬糞共とはな」
<――全てが終わった直後、俺の横に転移しそう言ったモナーク。
この時……ほんの少しだけだが
此奴が俺を気遣っている様子が理解出来た――>
………
……
…
「……今度からはお前も居てくれモナーク。
もう二度と、こんな腹立たしさも……こんな残酷な技も、ゴメンだ」
「……承知した。
掴まるが良い、今宵は我が送り届けよう……」
「ああ、今日だけは甘えるよ……」
《――直後
モナークに連れられ政令国家へと帰還した主人公。
……彼らの去った後
主人公の放った“狂華乱舞”の通った後には
純白の花弁を持つ樹木が、遥か遠く地平線の彼方まで延々と咲き誇り続けた。
チナル共和国に取っては“祝福の象徴”として。
一方……この失策が引き金と成り
急激に瓦解しその権威すらも失って行く事と成った
“対政令国家連合国”及び“対政令国家連合国軍”
不参加であった“メッサーレル”を除いた三カ国には
“呪いの象徴”として――》
===第百三五話・終===