第百三四話「癒やすのは楽勝ですか? 」
<――間違っているかどうかと考える余裕など微塵も無く
仮にも敵国の兵であるヘルガさんに治療を施そうとした俺……だが
まだ潤沢にある筈の魔導力とは裏腹に
俺の治癒魔導は全く発動しなかった。
……原因が分からず、慌てる俺だったが
倒れた精霊女王への応急処置を済ませた大精霊メディニラが
その“原因”を教えてくれた――>
………
……
…
「安心するが良い、主の力に問題は無い故……」
「じ……じゃあ何故治癒魔導が発動しないんです!? 」
「……何れにせよ、この場所では不可能じゃ。
しかし……この者が此程衰弱しておるとは
妾にも察せなんだ……許せ」
<――横たわった精霊女王に対し、そう許しを請うたメディニラ。
直後、意識を取り戻した精霊女王は静かに目を開けると――>
「お救い下さり……有り難うございます……」
<――と、弱々しい声でメディニラにお礼を言った。
その瞬間……当初、あれ程強権的だったメディニラは
我が子に接する母の様な表情を見せ……そして、弱った精霊女王の為か
彼女の周りに“ツツジの花畑”を生み出し――>
………
……
…
「……主の名に由来する花じゃ、少しは力に成ってくれるやも知れぬ。
もう暫しの辛抱じゃ……消え去るで無いぞ」
<――そう伝えたメディニラ。
この、愛ある行動に精霊女王“ツツジ”は涙を流していた――>
………
……
…
「……さて、今度は其の者の件じゃ。
治療を施すのならば、一度政令国家まで連れ帰る必要があるが
仮にも敵国の兵である其の者を連れ帰ると成れば
そちらで様子を伺っている者共が……
……首を“縦には振らぬ”のでは無いかぇ? 」
<――チナル共和国の軍人達に目をやりつつそう言ったメディニラ。
だが――>
「それもそうですね……分かりました。
では――
今からヘルガさんの事を俺達の母国へと連れて帰ります
当然、命を助ける為に……だから、邪魔だけはしないで下さい。
――色々思う事や疑いたい気持ちは有るでしょうが
今だけは、どうか……敵対関係を忘れて欲しいのです」
<――逸る気持ちを抑えつつ、誠心誠意頭を下げた俺。
この後、少しざわつきこそしたものの
邪魔立てする事も無く素直に矛を収めてくれたチナルの軍人達――>
「……協力に感謝します。
貴方達の隊長さんは必ず元気な姿にして返します
だから、期待して待っていて下さい。
さてと……皆、掴まって――」
<――直後
一度政令国家へと帰還した俺達は魔導病院へと向かい
先ず、ヘルガさんの病状を確認する事と成った――>
………
……
…
「ううむ……これは、重症ですな」
<――魔導医は頭を掻きながらそう言った。
すかさず俺は――>
「俺の完全回復で直せますよね? 」
<――そう訊ね、魔導医もそれに頷きはした。
だが――>
「……無論、それでも治るには治るでしょうが
そもそもこの症状は……疫病ではありませんぞ? 」
「えっ? じゃあ一体何故……」
「これは……典型的な“森欠乏症”ですな。
しかしまさか、エルフ族が森欠乏症とは……笑えぬ冗談ですな」
「……は?
えっと……どうすれば治療出来るんです? 」
「治療も何も……エルフ族が住む事の出来る森につれていけば
寝ているだけでも治るでしょう。
此処からならば……オルガさんの所などが妥当かと思いますがね」
「そ、そうですか……」
<――直後
エルフ族の所へとヘルガさんを移動させた俺達……だが
こんな状態の姉を見た瞬間、オルガは慌てに慌て――>
………
……
…
「す……直ぐに薬草と粥を持って来いッ!!! 」
<――と、若いエルフ達に慌てた様子で指示すると
村の真ん中に用意された祭壇の様な場所にヘルガさんを寝かせた。
そして……村が慌ただしくなる中
オルガはとても心配そうにヘルガさんの手を握り――>
「こんな形で私を泣かせるなど……許しはしないぞヘルガ」
<――と言った。
普段、弱々しさなど微塵も見せる事の無いオルガがこの時見せた姿に
気の利いた言葉の一つも掛けられず
唯ヘルガさんが早く回復する事だけを祈っていた俺。
だが、その時は突如として訪れた――>
………
……
…
「んっ……って……オ……オルガッ?! 」
<――瞬間
飛び起きるなり、警戒心を顕に拳を構えたヘルガさん。
だが……病み上がりな事もあってか
立ち眩みを起こし――>
「ヘルガッ!! ……」
<――倒れかけたヘルガさんを咄嗟に抱き抱えたオルガ
だが、尚もヘルガさんは暴れ続け――>
「離せくそッ!! ……捕虜には成らねぇぞッ!! 」
<――と、誤解をしていた。
だが、そんな中オルガは誤解を解く訳でも無く――>
「どう思おうが勝手にしろ……だが
先ずは粥でも食って落ち着いてくれ」
「フッ……“自白剤”でも入ってるんじゃないだろうね!?
食べて欲しいなら……オルガ、アンタが毒見しなッ! 」
「ああ……これで良いか? 」
<――そう言って粥を一匙口に運んだオルガ。
だが……屈強な見た目とは裏腹に“猫舌”だった様で
熱さを堪えつつ頬張った様子を見ていたヘルガさんは――>
「フッ……ハハハッ!
アンタ、泣き虫だった昔と何も変わってないんだねぇ!!
……分かったよ。
粥……寄越しな」
<――そう言ってオルガから匙を受け取ると
ゆっくりと粥を口に運んだヘルガさん。
……だが、直前まであれ程拒絶していたにも関わらず
あっと言う間に粥を食べ終えた。
ひょっとして、我慢してただけで実は“空腹”だったのだろうか?
まぁ……何れにせよ
少しは落ち着いたのか――>
………
……
…
「……良いかい? アタシは誰が何と言おうが捕虜には成らない。
だが、助けてくれた事だけは感謝する……とは言え
仮にもアタシとアンタは敵国人の関係だ。
悪い事は言わない……アタシを国に返すんだオルガ」
「言い分は理解するが……そうは行かない。
だがそういえば気に入らないのだろう?
……故に、捕虜としてでは無く
“賓客”として暫く此方に滞在して貰いたい。
……どうだろうか? 」
<――このオルガの提案に
暫く考え込んだ後――>
………
……
…
「……“賓客”にしては、些か監視が多い気がするがねぇ?
ま、逆らっても今のアタシじゃ到底勝てそうに無い奴ばかり
“周りにいる”みたいだし? 少し不愉快だが……従うとするよ」
<――と、少しばかり不貞腐れた様な態度で
オルガの提案した“賓客”としての滞在を受け入れたヘルガさん。
と言うか……確かに敵国の兵ではあるのだが
オルガの大切なお姉さんである事だけで無く、外交的な観点から見ても
出来る限り“拘束具”などは使いたく無かったし……
……先程ヘルガさんが言った“疫病”の事だって
話す前に帰国されては漠然とした疑問だけが残ってしまう。
そもそも、森の治療を迅速に済ませる為にも
出来る事ならその件だけでも彼女から了承を得ておきたい。
まぁ……何れにせよ
彼女には聞かなければ成らない事が山の様にあるのだが
賓客扱いを約束した以上
万が一にも“尋問”と誤解されかねない様
細心の注意を払いつつ話を聞く必要がある。
だが……考えただけで胃が痛くなったし
当然、難航する事に成るのだろう――>
………
……
…
「ガッハッハ!! ……この国は楽しいねぇッ! 」
<――と、思っていた時期が俺にもありました。
ヘルガさんは賓客として
至れり尽くせりな饗しに気分を良くしたのか
片手にお酒、片手に食事を持ち
あっと言う間に飲めや歌えの大騒ぎ状態に成って居た。
……勿論、オルガのお姉さんだし一度見逃して貰った恩もある以上
楽しんでくれているのは嬉しいのだが
時刻は既に“深夜”と呼ぶべき時間帯を迎えていて――>
………
……
…
「あ……あの、先程仰っていた疫病の事とか
森の治療に関する話し合いの件なのですが……」
「ん? ……国のトップがぶっ倒れてる以上
大体の事はアタシに任されてるから、安心しな?
悪い様にはしないから……アンタも安心して飲め飲めぇぇぇ! 」
「それは助かりますが……ってぬわぁッ?! 」
<――“ある意味”難航する事と成った情報の聞き出し。
この後……ベロベロに酔ったヘルガさんを
数人掛かりでベッドに寝かせる事と成った俺達……と言うか正直
情報の聞き出しに難航する方が何千倍も楽だった気がする――>
………
……
…
「はぁ~っ……マジで疲れた。
皆も疲れただろうし、今日はゆっくり休んでくれ……」
<――と皆を労いつつ、自分自身の疲れも癒やす為
ヴェルツの自室へと帰還した俺だったのだが
ベッドに寝転び、今日の出来事を頭の中で整理していたその時――>
………
……
…
「……二人が何時ぶりの再会だったのかは分からないけど
二人が楽しそうにしてただけでも
苦労した甲斐が有ったって事にしておくべきか。
後は……疫病の話とか“森の治療”に関する話とかが
苦労せずに出来たらそれが一番良いんだけどな……」
<――疲れていたからか、例に依って全てを口に出していた俺。
一方、そんな俺に対しガルドは――>
「そうだな……しかし、病気の部下を大量に残した状態で
あれ程に酔い潰れられる神経だけは全く以て理解出来ぬ」
<――と、厳しくも真っ当な意見を言った。
そして、そんなガルドの意見に同意するかの様に――>
「確かにそうですよね~……普通、敵国の領土内に入れたなら
最低でも“情報収集”……良くすれば
トップの暗殺でも考えそうな物ですけどね~? ……」
<――と言ったマリア。
二人の意見は尤もだったが
個人的にはこの後メルの言った――
“久しぶりに姉弟と再会出来たのが嬉しくてついはしゃぎ過ぎたのでは? ”
――と言う、平和な発言を推したかった。
だが――>
「確かに、あれ程酔い潰れてたら何も出来な……ん?
まさか……酔ったフリじゃ!? 」
<――瞬間
酷い胸騒ぎを覚えた俺は慌てて飛び起き
直ぐにラウドさんに連絡を入れた……が、何も問題は無かった。
だが……妙な胸騒ぎは消えず、続いてオルガへと連絡を入れると――>
………
……
…
「後で話す……今は……グッ!! ……」
「おい!! オルガ?! ……クソッ! 」
<――通信越しとは言え、明らかにオルガとヘルガさんが
“取っ組み合って居る”状況が確認出来た事で
慌ててエルフの村へと転移する事と成った俺。
だが――>
………
……
…
「なぁ……何やってるんだ? 」
「グッ!! ……あ、後にしろと言っただろう主人公ッ! 」
<――額に冷や汗を流し
膠着状態のまま、姉であるヘルガさんと互いに掴み合い
必死に……“相撲の様な事”をしている現場を目撃した
俺の気持ちを分かって貰えるだろうか?
……少なくとも、胸騒ぎが急激に消え去ったのは確かだが
俺は一体、何を見せられているのだろう?
と、そんな事を考えて居たら突然に勝負は動き――>
………
……
…
「もう……負けはしないっっっ!!! 」
「何ッ!? ……うわぁぁぁっ!? 」
<――勝負の結果、勝ったのはオルガだった。
だが、俺にはそんな事どうでも良くて――>
………
……
…
「……なぁ、オルガ
この夜中に姉弟で何やってるんだ? ……遊んでたのか? 」
<――当然、そう訊ねるしか無かった。
だがそう訊ねた瞬間、オルガもヘルガさんも目の色が変わり――>
「これは姉との遺恨も含んだ勝負だ!!!
幾ら主人公と言えど、愚弄する事は許さんぞ?! 」
<――と
オルガにキレられた直後――>
「主人公……アンタ、意外に見る目が無い男だねぇ?
まさか“姉弟遊び”に見えてたなんて思いも依らなかったよ。
アタシはてっきり、アンタが血相変えて此処に来た時点で
“こう成った理由”を理解してたから来たんだと……
……思ってたんだがねぇ? 」
<――と、ヘルガさんに若干“バカ扱い”されてしまった俺。
だが……疲れと睡眠妨害とヘルガさんの敢えて煽ったかの様な発言は
俺の気遣いと言う感情を無にした――>
………
……
…
「……確かに、つい先程まで酔い潰れて居たヘルガさんが
何処からどう見ても“シラフ”な状態で
オルガと対等に遣り合っている時点でそれなりの違和感は感じています。
でも、それでも……俺には少し前、貴女に“見逃して貰った”恩が有る。
だから、出来る限り……オルガの望む通りの“賓客”として
最後まで……政令国家の饗しを受け続けて欲しいんです。
だから俺が今、ヘルガさんから欲しい答えは――
“ただ、久しぶりに再会した弟とじゃれ合って居ただけ”
――この一つだけです」
<――本心を言えば
俺は別に“酔った振り”をしてた事に腹が立っていたワケじゃ無く
勿論、脅したくてそう言った訳でも無く……
……ただ純粋に、オルガと楽しく過ごしていたあの時間までもを
“偽りだった”と言って欲しく無かっただけだった。
そして……その為だけに
俺が望んだ答えをヘルガさんの口から聞きたかっただけだ。
たとえそれが“真っ赤な嘘”でも構わないと思ったから。
だが、ヘルガさんは――>
「ほう? ……だが“じゃれ合ってた”にしては
辺り一体が“とんでもない事に”なり過ぎじゃないかい? 」
<――そう言って、木に刺さった一本の矢を引き抜き
それを投げ捨てると、自らの腕に入った掠り傷を舐めたヘルガさん。
確かに……状況だけを見ればオルガもヘルガさんも服はボロボロだし
木々にも大量の矢が刺さり、魔導で“そうなった”であろう
割れた岩石などが散乱している状況を見れば――
“己の全てを出し切る程の激しい攻防の後、最後の手段として
肉弾戦と成っていた所に俺が訪れ、戦闘としての戦いが止まっただけ”
――にしか見えなかったのも事実だ。
だが、それでも俺はヘルガさんに対し――>
「ま、まぁ……状況は確かに!
で、でもッ! ……オルガとの再会にテンションが上がり過ぎて
つい、はしゃぎ過ぎただけですよね? 」
「分からない子だねぇ? だから……」
「煩いッ!! ……“そうだ”と言うだけで良いんです。
間違っても――
“俺の大切なこの国を火の海にでもしてやろうとしてたが
弟に邪魔されただけさ”
――とは、口が裂けても言わないで下さい。
お願い……します」
<――無理を言って頭を下げた俺。
当然……二人の顔も見えない程深々と……だが
そうまでして頭を下げた理由は、二人が何を理由に戦って……いや
“じゃれ合って居た”のかを……知りたく無かったからだ。
その、理由の如何に依っては
俺は彼女を決して許す事が出来ないだろうと思えたから――>
………
……
…
「……主人公さん、頭を上げておくれ。
分かった……アンタが言う通り
“久しぶりの再会でつい騒ぎ過ぎただけ”だ。
変に困らせて……悪かった。
二度目は無いって誓うよ……本当に悪かった」
<――ヘルガさんがそう答えた瞬間
オルガはとても複雑な表情を浮かべていた。
だが……俺はこの“嘘”を信じたい。
大切な友の、大切な姉の命を護る為……
……たとえそれが、唯の自己欺瞞だったとしても。
俺は、そう信じると決めたのだ――>
………
……
…
「……ええ、分かってましたから大丈夫です!
あっ、賓客にお怪我は不味いので!
……完全回復!
これで大丈夫ですね……っと
夜も遅いですから、出来ればご就寝頂ければと思います。
……あっ!
今日は姉弟仲良く布団を並べて寝るのも良いかも知れませんね! 」
「ああ……そうするべきかもしれないね。
ど……どうだい? オルガ」
「う、うむ……」
《――彼が自己欺瞞と知りつつヘルガに頼んだ“真実”の証言。
それに依って“ぎこちなく”取り繕われた姉弟の仲。
……母国、チナル共和国の為
たとえ僅かでもこの国を陥れようと画策した彼女の真実は闇へと葬られ
再びそうする気など微塵も起こさせない程に、彼女を抑え込んだ主人公。
だが、仮にもチナル共和国上層部の信頼厚く
国内最強の魔導師との呼び声高いヘルガに対し
彼がいとも簡単にそう出来たのには“ある”理由があった。
彼自身が気付かぬ内に、彼の精神と肉体に起きたある変化……
……魔王との契約に依って彼に流れ込んだ記憶や力の片鱗は
彼が気付かぬ内に彼を変えて居たのだ。
無論これは、彼だけに起きて居た変化などでは無く――》
………
……
…
「フッ……大事には至らなかった様だな」
《――遥か遠くで“姉弟のじゃれ合い”を監視していた魔王。
彼にもまた、主人公の“片鱗”が宿り……そして
彼自身の気付かぬ内に、彼の思考を大きく変化させていた――》
………
……
…
《――騒動から一夜明け、何事も無く平穏な一日が始まった政令国家。
……主人公の願い通り
以降は目立った工作も行わずエルフ族の村で静かに過ごしていたヘルガ。
だが、彼女の元へと齎された一本の通信に依って
事態は大きく動き出す事と成った――》
………
……
…
「うむ、執務室へ頼むぞぃ……」
<――昼食時、ラウドさんから連絡が入った。
聞けば“ヘルガさんに関する話が有る”との事だった。
まさか、また“じゃれ合い”でもしたのだろうか?
何れにせよ詳しい話を知る為
俺は急いで執務室へと向かった――>
………
……
…
「お……お待たせしました」
<――入室早々ヘルガさんの様子を確認した俺。
良かった……拘束具などは付けられていない
少なくとも、悪い話で無ければそれで良い……と言うか
お願いだから良い話であってくれ!!
心の底からそう願いつつ会議に参加した俺――>
………
……
…
「さて……詳しい話じゃが
ヘルガ殿に説明して貰うのが手っ取り早いじゃろうし……頼めるかのぉ? 」
「ええ、勿論です陛下……」
<――良い話かどうか以前に
“呆気に取られてしまった”
……ラウドさんの事を“陛下”と呼んだ事もそうだが
ヘルガさんが妙に“御粧し”している事に
遅ればせながら気付いたのだ。
……何と言うか“ちゃんと”賓客として振る舞っていると言うか
位の高い立場としてこの場にいる様な様子で――>
………
……
…
「本日……私、ヘルガはチナル共和国の長として
政令国家との友好関係構築の為……」
「え゛っ!? い、今……“私”って……」
「……あら、驚きましたわ? 主人公様。
聞き逃してしまったのでしたらもう一度ご説明致しますから
ご安心為さって……」
「い……いやいやいやッ!!
昨日の今日でどんだけキャラが変わってるんですか?!
昨日までの“ザ・姉御! ”みたいな喋り方は一体何処に! ……」
「……あら嫌ですわ? 主人公様
私その様な話し方など行った覚えがございませんわ?
と言うか……少々失礼な邪推には成ってしまいますが
昨晩、主人公様はお酒を大量にお飲みに成られていましたから……
……夢でもご覧に成られたのではありませんか? 」
「そっ、それはヘルガさん自身じゃ!? ……って。
いや……自重します
お話の腰を折ってしまって申し訳ありませんでした……」
「いえいえ、お気に為さらず……では、引き続きお話を。
私ヘルガは……」
<――正直、完全に“違和感の塊”ではあったのだが
ヘルガさんが何を考えているかを知る為、敢えて引く事を選んだ俺。
だがこの後、ヘルガさんの話に耳を傾けていると――>
………
……
…
「……私ヘルガは、昨晩急逝された長に変わり
チナル共和国の新たな長として
政令国家との友好関係を結びたいと考えています。
ですが……その為には先ず、我が国が
“対政令国家連合国”からの脱退をする必要があり……」
<――と、信じられない事を語り始めたヘルガさん。
呆気に取られ、一言も発する事が出来なく成った俺を他所に
彼女は引き続き話を続けた。
要約するとこうだ――
その一:対政令国家連合国の枠組みからの正式な脱退。
その二:友好国として、政令国家との安定的な国交の樹立。
――引く程の“満額回答”過ぎて驚いていた俺を他所に
ヘルガさんは続けた――>
………
……
…
「……そして、誠に勝手なお願いではありますが
我が国に現在蔓延している疫病の原因とされている
“森林への治療”を、正式に……お願いしたいと思っているのです」
<――そう言って深々と頭を下げたヘルガさん。
あまりの満額回答に次ぐ満額回答に
驚きを通り越して、疑いすらしていた俺……では有ったのだが
……疑い続け、これを拒絶してしまえば森の治療はもっと難しくなる。
この一点だけが、俺を突き動かし――>
………
……
…
「そ、それならば……俺からもお願いします。
ヘルガさんを長に迎えた新体制のチナル共和国と友好関係を結ぶ事に……
……賛成の方は挙手を」
<――ある意味リスクの大きい賭けだと思う。
だが……それでも俺は
賭けてみる価値を見出したのだ――>
===第百三四話・終===