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第百三三話「隠密は楽勝ですか? 」

<――ラウドさんから現場に出る指示が出た事に喜び

本来陰キャなのにも関わらず

“妙に体育会系な返事を返してしまった日”から数日後……決行日に(そな)

万が一にも死傷者の出ない様魔導力を溜めに溜め続けていた俺。


……まぁ、見方によれば自室に(こも)

(ただ)ダラけている様にしか見えないのだが

一歩間違えれば(そく)大規模な戦争に成りかねない今回の“隠密任務”には

正直穏やかでは居られなくて――>


………


……



「いよいよ明日か……胃が痛い」


<――今回の“隠密任務”には、万が一の戦闘に(そな)

俺、ガルド……そして。


まさかの“モナーク”までもが防衛部隊に編成されていた。


……正直、全く(もっ)

“穏やかな作戦に成りそうも無い編成”って事もそうだったのだが――


“邪魔立てする者共など全て(めっ)すれば良い”


――少し前、そう言い切ったモナーク。


俺自身、奴の言葉に“二言(にごん)”が存在しない事を

痛い程知って居たからこそ――>


「あぁ……凄まじく胃が痛い」


<――この世界には存在しない“胃薬”を

これ以上無い程に(ほっ)しつつ何とか眠りについた俺。


だが……熟睡など出来る筈も無く


早々に目覚めた俺は――>


………


……



「……外、まだ真っ暗だな。


けど眠れる気がしないな……じっとしてても仕方無いし、一度風呂にでも入るか」


<――この時、俺は


“薬浴にでも()かれば少しは気分もスッキリするだろう”


程度に考え、旅館へと向かった……だが外は暗く

(いま)だ深夜と呼ぶべき時間帯だったからか

少し“ギョッ”とした様子の受付担当さん。


この後……お詫び代わりに軽く会釈(えしゃく)しつつ

恐らくは貸切状態であろう薬浴に一直線に向かった俺は……


……案の定“貸切状態”な薬浴を前に

思わずガッツポーズをとって居た。


だが、そんな時――>


………


……



「あの者に会わずとも良いのかぇ? 」


「ええ、今はまだ……」


<――女風呂から聞こえた会話、明らかに聞き覚えのある声だった。


間違い無い、大精霊メディニラと……リーアだ。


だが、そんな事よりも……俺は、二人の話す内容から感じられる

“不穏な空気”の方が気になって居た――>


………


……



「ふむ……通信もヌシが嫌がる故

あの者にはそれと無く我慢をする様言い聞かせておるが

そろそろ限界の様子であったぇ? ……


……ヌシからであっても嫌なのかぇ? 」


「ええ……万が一にも今のワタシを見られてしまったら

主人公アノヒトに嫌われてしまうかも知れない。


そう思えば思う程、恐ろしいのですワ……」


<――此処(ここ)まで聞いていて何と無くの予想がついた。


まず間違い無く――


“リーアに何かしらの異変(いへん)が起きている”


――俺は、一か八か

女風呂に向かって声を掛けた――>


………


……



「リーア! ……居るんだろ?!

お前がどんな見た目に成っても嫌いになんて成らない!

一目(ひとめ)で良い……会って話そう!! 」


<――そう声を掛けた瞬間、静寂(せいじゃく)が訪れた。


恐ろしい程の静けさに不安を感じつつも

再び声を掛けようとしていた俺、だが――>


………


……



「……本当に……嫌いにならないのネ? 」


「ああ! ……だから頼むよッ! ……」


<――暫しの静寂(せいじゃく)の後

リーアは静かに――>


「……分かったワ」


<――と言った。


とは言え、流石にお互い“素っ裸で会う”訳にも行かないので

一度“精霊女王デイジー”の居る政令国家周辺の森へと移動し

其処(そこ)で会う約束を取り付けた。


……そして約束の後、露天風呂を上がり大慌てで森に転移し

今か今かとリーアが現れるのを待っていた俺だったのだが――>


………


……



「遅いな……って、もしかして俺に会いたく無くて

此処(ここ)に来るって嘘付かれたんじゃ?! 」


<――などと不安な心情を(もら)らしつつリーアを待っていると

突如として俺の肩をがっしりと(つか)んだ木のツル――>


「良い? ……絶対に振り向かないで

()ずはこの状態で話したいの……良いワネ? 」


<――そう(たず)ねた声の主は、間違い無くリーアだった。


だが……良いも何も“完全に固定されている”以上

此処(ここ)から動ける訳も無く――>


「そもそも振り向けないけど……分かったよ」


「……ごめんなさいネ。


さぁ、アナタ……ワタシと話したい事って何?

出来るだけ早くしてネ、メディニラ様に怒られちゃうから……」


<――()()無い態度でそう言ったリーア。


だが、俺を嫌っての態度とは思えないこの雰囲気に――>


「……リーア、久し振りだけど元気にしていたか?

無理して無いか? ……俺や皆の事、嫌いになって無いか?

話したい事、伝えたいけど隠してる事……


……リーアが一人で苦しむ何かがあるのなら、俺にちゃんと話してくれ」


<――と、リーアを質問攻めにした俺。


だが、リーアはこれらの質問のどれにも答えようとせず――>


「ありがとう主人公アナタ……でも、やっぱり帰るワ

もっと“綺麗なワタシ”を見て欲しいから……」


<――そう言ってこの場を立ち去ろうとしたリーア。


当然、居ても立っても居られず……即座に魔導を放ち

体を固定する(ツル)を吹き飛ばした後

リーアの声がする方向へと振り返った俺。


だったのだが――>


………


……



「いやっ!! ……見ては……だめですワ!! 」


<――言うや否や咄嗟(とっさ)に顔を隠したリーア。


だが……この直後

俺はリーアの行動の“意味”を(さと)った――>


………


……



「リーアお前……“熟女”になったのか? 」


<――“そうなった”理由を何と無く理解していたからこそ

()えて少しズレた質問をした俺に対し――>


「“年増”なワタシなんて嫌でしょ? ……」


<――そう返したリーア。


そんなリーアに対し、ゆっくりと近付いた俺は

(なお)も顔を隠し続けるリーアの手を、優しく下ろし――>


………


……



「なんだ……年取っても綺麗なんだな、リーアは」


<――そう伝えた。


勿論、お世辞でも何でも無く本心だ。


そもそも……今、リーアの顔に入っているシワの一つ一つが

他の森に力を分け与えている弊害(へいがい)だと何と無く分かったし

こうなってしまったのも全て、俺の案に協力させている所為だと……


……痛い程理解出来た。


だが、そんな俺に対しリーアは――>


………


……



「その……お世辞でも嬉しいけれど

そうなると余計に……綺麗な姿で再会したかったですワ」


<――そう言って一筋の涙を流したリーア。


そんな彼女に対し、俺は――>


「……リーア。


俺達がこうしている今も、全世界の女性達が必死に努力している

抗加齢アンチエイジング”だけどさ……リーアの場合は

森の健康がそのまま反映されるんだよね? 」


「そ、そうですワネ……」


「……なら絶対に大丈夫だ

俺が責任を持ってリーアが満足出来る姿に戻れる様全力で頑張るから。


だから……安心してくれ! 」


主人公アナタ……ええ、分かったワ

なら、これからは通信も……たまにならしてイイワ。


……でも、余りまじまじと顔を見つめないでネ? 」


「嫌なら控えるけど……でも、心配しなくても大丈夫だ。


リーアは何時だって綺麗だよ? 」


「ア……主人公アナタ)……」


<――と、話していたら

俺の真後ろから声がした――>


………


……



「マグノリア……ヌシに“恋の花”が咲いておるぇ? 」


<――その声のヌシは

“おっさん”の様な事を言いながら

何処(どこ)からとも無く現れた大精霊メディニラの物だった。


直後、珍しく顔を真っ赤にしながら照れたリーアを他所(よそ)

メディニラは――>


「……さて、主人公よ。


ヌシの“精霊女王たらし”っぷりは見逃す事として

斯様かよう刻限(こくげん)にもう起きておるのかぇ?


それとも、よもや……


……わらわ達の話を盗み聞く為、(ひそ)んでおった訳では無かろうな? 」


「そ、そんな悪趣味な事しませんよ!


ただ……イマイチ眠れなくて

風呂に入ってスッキリすれば眠れるかな~って思ってたら

リーアの声がしたから慌てて声を掛けただけで……」


「ふむ……“たらし”は否定せぬか。


まぁ良いが……ヌシが良く眠れる様

わらわが特別に子守唄を歌ってやろう……ヌシの部屋へ戻るぇ」


「い゛ッ?! いや、流石に子守唄はちょっと……って言うか

俺“精霊女王たらし”じゃないですから!!! 」


「どちらでも良いが……わらわ(わずら)わせるでない

さて……マグノリアも着いてくるのじゃ」


<――この後、(なか)ば強制的にヴェルツの自室へと連れて行かれた俺は

メディニラに子守唄を聞かされる事と成った。


……当然、暫くはこっ恥ずかしさを感じて居た俺だったが

メディニラの子守唄は凄まじい威力を発揮し

俺はいつの間にか深い眠りについて居た――>


………


……



主人公アナタ……愛していますワ」


《――深い眠りについた主人公(かれ)に対し

そう言うと……彼の頬にキスをしたマグノリア。


メディニラはこの行動に()えて何も言わず――》


「さて……帰るぇ」


《――そう言うと

マグノリアの手を(つか)み、主人公の元を去ったのだった――》


………


……



「……ふんがぁッ!!

今何時だ!? ……って、すげぇ時間じゃないか!?

ひ、昼頃から作戦開始だったよな? ……ならまだ間に合うか。


けど、少し急ぐか……」


<――翌日

目覚めた時には“ギリギリ朝と呼べる時間”まで寝過ごしていた俺。


……起きて早々、冷や汗を(ぬぐ)いつつ

急いで準備を済ませた後、遅めの朝食を取る事に成った俺は……朝食後

今作戦の実行部隊と合流した。


の、だが――>


………


……



「……主人公、飯粒(めしつぶ)が頬についているぞ? 」


<――合流早々ガルドにそう言われ、慌てて頬を(ぬぐ)った俺。


……若干の笑いが起きた後

今回の作戦についての最終確認をする事となり――>


………


……



「……植樹(しょくじゅ)部隊はエリシアさんの指示に従い

出来るだけ静かに()つ、急いで植樹(しょくじゅ)を。


それと……今日一日で無理なら

数回に分ける事も作戦としてはあり得る……兎に角

隠密性を第一に考えてくれ……それから。


俺、ガルド、モナークの防衛部隊だけど……


……万が一敵に遭遇(そうぐう)したとしても

出来る限り戦闘は避け、全員の脱出を最優先に考えて欲しい」


<――そう説明した瞬間

モナークは異議を唱えた――>


「何? ……何故なにゆえ下等な者共から逃げる必要がある? 」


<――ある程度予測はしていたが

モナークはやはり“殺る”つもりの様だった。


だが、こんな状況に成る事を(あらかじ)め予測していた俺は

そうさせない為の“言い訳的な反論”を用意していた――>


「い、いやそのほら……


……森で戦闘を行った場合、森にもそれ相応(そうおう)の被害が出る筈だろ?

そうなったら“治療”しているんだか“破壊”してるんだか分からなく無いか?


だから、気分は悪いかもしれないが……頼むよ」


<――モナークが首を縦に振ってくれるかどうかは()けだった。


この後、祈る様な気持ちでモナークの様子を(うかが)っていると――>


………


……



「良かろう……だが、状況に()っては

貴様の“詭弁(きべん)”に乗れぬ事も有ると心得(こころえ)よ……良いな? 」


「おう……か、覚悟はしておくよ」


<――何はともあれ。


モナークは一定の譲歩(じょうほ)をしてくれた。


……この後、更に細かい作戦を立てる為

(あらかじ)めメディニラに詳しい状況を(しる)して貰っていた地図を開き

比較的、被害状況も軽微(けいび)で小さい森の治癒を行う事を決定した俺は――>


「フッ……“小手調べ”から()くと()うか。


まぁ良い――」


………


……



<――直後

モナークの転移により敵国の森に到着した俺達は

周囲を警戒しつつ、作戦を開始した。


作戦は、()ず始めに此方(こちら)植樹(しょくじゅ)部隊が苗木(なえぎ)()

一定範囲の植樹(しょくじゅ)が完了次第

メディニラを始めとした各地の精霊女王達に()って

それを成長させると言う形を取った。


メディニラ(いわ)

この方法ならば“一から芽生えさせる”よりは遥かに負荷が少ないらしい。


とは言え……それでも

本来ならば(みずか)らの森に使われる筈の力を流用(りゅうよう)している分

当然各精霊女王達にはそれなりの負荷が掛かっている。


だが……その負荷を最大限に減らす為の第二作戦は

エリシアさんに掛かっていた。


彼女だけが、現場の状況を見た上で植物同士の適切な位置関係を割り出せる。


そうする事で、最大限に成長し(やす)い環境を

そして……後の森の維持にも安定感を与えられるのだ。


まぁ、全部メディニラの“受け売り”なのだが――>


「よ~しっ! ……後は其処(そこ)()えたら終わりだねぇ~」


<――この後

エリシアさんの的確(てきかく)陣頭指揮(じんとうしき)()

一箇所目の森は俺達の想定(そうてい)よりも短時間で完了した


また、嬉しい誤算(ごさん)として……理由こそ(さだ)かでは無いが

“薬浴”に(おとず)れた精霊女王達が皆

何かしらの回復効果を()ていた事もあり

試算よりも各精霊女王達の森が衰退(すいたい)せずに済んだ。


との連絡がメディニラ()(もたら)され――>


………


……



「……もしかしてですけど薬浴に来る“信者達”の

“祈り”か何かが原因で何かしらの回復効果を得たのでは? 」


<――そう質問をした俺。


すると――>


「……祈りを捧げられれば気分は良い、確かにそのお陰やも知れぬが

正直、わらわにも分からぬ(ゆえ)答えようは無い。


……じゃが。


“思い(ねん)ずる力”とは、()くも力強い物かと

つい最近(わらわ)は知ったぞぇ? ……」


<――と、意味深な返事を返して来たメディニラ。


この時、彼女が何を言わんとして居たかなど理解は出来なかったが……


……彼女やリーアを含め

全ての精霊女王、()いては全ての森が健全な姿を取り戻せばそれで良い――>


「……んじゃあ多分、神様が味方してくれたって事で! 」


「フッ……魔族の前で神を(たた)えるか」


「な゛ッ?! ……い、良いだろ?!

モナークが強いのもそのお陰かも知れないんだし! 」


「フッ……頼んだ覚えは無い」


「お前なぁ……」


<――ともあれ。


嬉しい誤算の知らせを聞かされ

とんでも無く士気の上がった“植樹(しょくじゅ)部隊”の様子に

本来であれば一度帰還する筈だった予定を急遽(きゅうきょ)変更し

今回の作戦中訪れたどの森よりも最大の規模

()つ、最大の被害を(こうむ)っていると言う

“チナル共和国”領土内の森へと向かう事を決定した俺達。


だが……確かあの国も“対政令国家連合国”の一つとの事らしいが

彼処(あそこ)にはオルガのお姉さんである“ヘルガさん”が居る。


俺は、心の底から戦闘に成らない事を祈りつつ

チナル共和国領土内の森へと向う事と成った。


だが――>


………


……



「これは……酷いな」


<――思わずそう口にしてしまう程

(ひど)く崩壊した森の姿を目の当たりにしてしまった俺。


直後、俺達に同行したメディニラは怒りを(あらわ)に――>


「魔王モナークよ、元を正せばヌシが原因じゃ……猛省(もうせい)するが良い」


<――と、モナークを責めた。


確かに、恨み節の一つも言いたくなるのは理解出来たし

そう思える程の惨状(さんじょう)では有ったのだが

とは言え、今それを口にする必要は無く……(むし))ろ

モナークの機嫌をいたずらに(そこ)ねるだけだと考えた俺は

恐々しつつモナークの様子を(うかが)っていた。


だが――>


「今と成っては……失策であったと認める他あるまい」


<――耳を疑った。


あのモナークが(みずか)らの非を認めたのだから。


だが、驚き過ぎてポカーンとしている俺の顔を見るなり――>


「……貴様の“腑抜(ふぬ)け面”は今に始まった事では無いが

借りにも此処(ここ)は敵国領土内であると忘れるな……愚か者が」


<――と、至極(しごく)真っ当な理由で俺を叱ったモナーク。


ともあれ……この後、いよいよ作戦の開始と成ったその時

メディニラはこの森の惨状(さんじょう)

“数ヶ月前よりも悪化している”とした上で――>


………


……



「……この状況に苗木(なえぎ)程度では役立たぬ

植樹部隊そやつら”が植えるべきはある程度育った樹木じゃ。


……そうでなければ精霊女王こちらが持たぬ」


<――そう言い切った。


この後、この発言通り……


……植樹(しょくじゅ)部隊に()って開始された植樹(しょくじゅ)

先程の森の様な勢いでは進まず――>


………


……



「……体力が持たない方は一度帰還させますから

早めに俺の所に集まって下さい。


ある程度の人数が集まったら戻りますので……」


<――数時間後

そう呼び掛けた瞬間、俺の元に集まった“植樹部隊”の数は凄まじく――>


「き、今日の所は作戦を中断して一旦帰還……」


<――その(あま)りの数に

植樹作業自体を中断しようと考えていた俺に対し――>


「フッ……そうも出来ぬ様だ、不愉快な」


<――そう言って不満げな表情を浮かべたモナーク


直後――>


………


……



「な、何だ?! ……転移魔導が発動しない?! 」


<――原因は直ぐに分かった。


俺達が気付かぬ内に、周囲を(かこ)む様に妙な(くい)が打ち込まれていたのだ。


恐らくはこれが転移魔導が阻害(そがい)された理由だろう……そして

これを引き抜く(ひま)も無く……現れた多数の軍勢


俺は――>


………


……



「……くそッ!!

少なくとも防衛魔導は展開出来た……全員俺の近くに来るんだッ!! 」


<――そう指示を出した


直後――>


………


……



「全隊ッ! ……停止ッ!! 」


<――俺達を取り囲む様に現れた敵の軍勢は

全員、盗賊の様に口元を布で(おお)い隠して居た。


……だが、そんな状況に()っても

明らかに見覚えの有る女性が一人……確かに其処(そこ)に居た。


そう……それはオルガのお姉さん“ヘルガさん”だ――>


………


……



「は~っ……敵として会わない事、祈ってたんだけどねぇ」


<――開口一番(かいこういちばん)、俺を見つめながらそう言ったヘルガさん。


と同時に……俺達が転移出来なくなった理由は確定した


“周囲の(くい)は、間違い無く彼女が打ち込んだ物だ”と――>


………


……



「ヘルガさん……俺達は、敵として現れてなど居ません

この、瀕死(ひんし)の森を治療する為に此処(ここ)に居るんです」


「ハッ! ……そうかいそうかい!

だが……何だって敵国領土の森を治療しようと思った?

それも……魔族共を大量に連れて。


大体、横にいるのは……魔王じゃないのかい? 」


「そっ、それは……紆余曲折(うよきょくせつ)ありまして。


兎に角……彼らは全員人間を襲わずに生活出来る俺達の大切な仲間ですし

戦う為に同行して貰った訳では無く、植樹(しょくじゅ)の為に……」


「ああそれも知ってるさ……だが、冗談は休み休み言うもんだよ?

何だってこの国に“進軍して来たのか”をアタシは聞いてるんだ。


流石にこれ以上はぐらかすってんなら……


……アンタ達を生かしては置けないよ? 」


「……だから、さっきから説明してるじゃないですか!

俺達は! ……」


<――と、(なお)も必死に説明を続けて居た俺を横目に

モナークは――>


………


……



「フッ……斯様かように“弱った”姿で我らに“(つば)()く”とはな。


その愚かしさ、一度(めっ)さねば(なお)りはせぬであろう……」


「ま、待てッ! モナークッ!! ――」


<――瞬間

咄嗟(とっさ)にモナークを止めた俺……だが

攻撃の意思を()()ったヘルガさん率いる軍勢は直ぐに戦闘態勢を取り


直後、俺の防衛魔導目掛け凄まじい密度の攻撃を降り注がせた


だが――>


………


……



「……ッ!! って……あれ? 思ったよりも弱い? ……」


<――思わずそう口をついて出てしまうほど

防ぐ事の容易(たやす)い攻撃が降り注いでいた。


この事に首を(かし)げつつも防衛魔導を張り続けていた俺

だが、そんな俺とは対照(たいしょう)的に

ヘルガさん率いる軍勢は皆早々に疲労の色を見せ始め

更には()き込む者までちらほらと見え始めて居た。


言うまでも無いが……明らかに変だ。


そもそも、(いく)ら“魔導欠乏症”に成ったとしても

()き込む事など無い筈……だが

そんな疑問に答える“存在”がこの場に現れた事で


事態は急変する事となる――>


………


……



「……もう、お止めなさい。


貴方達の体を(むしば)む“疫病(えきびょう)”は……


私の森が原因なのです……此方(こちら)の者達は……


大精霊……メディニラ様のご意思で……

この森を……治癒しようと現れた有志達……


貴方達の体を(むしば)む……疫病(えきびょう)を晴らす……


唯一(ゆいいつ)の……ッ!! ……」


<――と、全てを話す前にその場に倒れた女性

彼女は……この場所を(まも)る精霊女王だった。


だが、眼前に倒れたこの精霊女王を救おうにも

“当たれば怪我は(まぬが)れない程度”の攻撃が止む事は無く……


……この“どうにも出来ない”状況に

苛立(いらだ)ちが頂点に達した俺は、大きく息を吸い込み――>


………


……



「全員止まれやボケがァァァッッッ!!

女性が……倒れてんだろうがァァァァァァァァ!!!! 」


<――と、後から考えたら

結構な“イケメン台詞”を恥ずかしげも無く叫んだのだった。


当然、この直後

“とんでも無く赤面する事に成った”代わりに


戦闘は“止まり”――>


………


……



「大丈夫ですか?! ……ってメディニラさん!

応急処置でも何でも構いませんからこの方に何らかの治療を!! 」


<――と、倒れた精霊女王の治療を頼んだ。


一方……先程まで“聞く耳持たず”だったヘルガさんも

少しは冷静に成ったのか――>


「この森を守護してる精霊女王が……アタシにも見えてるだって?


……そんなバカな。


だが、確かに目の前に居るのは精霊女王だ……って言うか

アンタが山程引き連れているのも全員精霊女王か?!


……おいアンタ!

その精霊女王が言った事は本当かい!?


……アンタの国ではどうなのか知らないが

少なくとも、チナル共和国では疫病(えきびょう)流行(はや)ってるんだ。


しかも……不味(マズ)い事に、国のトップまで(かか)っちまって

治療しようにも、回復術師(ヒーラー)共も使い物に成らないし

薬草は勿論、草木も(ほとん)ど生えないこの森じゃ治療薬も取れやしない。


まぁ……見ての通りさ」


<――と、辺りを見回しそう言ったヘルガさん。


と同時に、俺の脳裏(のうり)には――


“仮にも対政令国家連合国の一国ならば

他の加盟国から救援物資の一つ位は届く筈では? ”


――との考えが(めぐ)っていた。


だが、俺がそう考えている事を察したのか

ヘルガさんは続けて――>


「……“連合”も全く当てに成らなくてね。


結局の所……意地汚(いじきたな))く他国を侵略(しんりゃく)する様な奴らは

(とく)が無いと見た瞬間、簡単に“尻尾切(しっぽき)り”しやがるのさ!


アタシ達はこれでも仁義(じんぎ)を通し……てた……


……がはッ?! 」


<――興奮した様子でそう言い放った瞬間

ヘルガさんは……その場に倒れ込んだ。


直後……当然の様に、仮にも“敵国の兵”であるヘルガさんに対し

治癒魔導を(ほどこ)そうと近づいた俺。


だが――>


………


……



「なっ!? ……何でだ?!

何で……治癒魔導が発動しないッ?! 」


===第百三三話・終===

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