第百三二話「寂しさは……楽勝ですか? 」
<――大精霊メディニラに対し行った協力要請は
文字通り、命懸けと成った。
勿論、その甲斐有って俺達の希望する手段に
協力して貰える運びと成った事を喜ぶべきだとは分かっている。
……だが、大精霊メディニラの発した“事実”に
俺達の誰一人として喜べる様な状況では無くなり――>
………
……
…
「ちょ……ちょっと待って下さいよ!!
何でリーアと離れなきゃ駄目なんですか?!
リーアが犯したって言う罪について咎めるつもりなら
全ての罪を俺が代わりに……」
<――そう必死にリーアを庇った俺。
だが、大精霊メディニラは首を横に振り――>
………
……
…
「……主の案に協力をすると言った時点で
マグノリアの罪は全て、不問にしておる。
原因は寧ろ……主の“案”にこそあるのじゃ」
「どう言う事です? 分かる様に説明を……」
「……マグノリアは現在
特異な力を有する主と契約をする事で自由に行動をしておる。
……じゃが、その間も自身の守護する森の管理を
一時たりとも欠かしてはおらぬ事、主も知っているであろう? 」
「え、ええ……何とは無くですが」
「……じゃが、その遠隔からの管理に
莫大な力が必要な事は主も知らぬであろう? 」
「そんな事、リーアは一言も……」
<――そう言ってリーアの顔を見た瞬間、悟った。
俺は彼女と離れなければ成らないのだと――>
………
……
…
「……なぁ、リーア。
メディニラさんを呼ぶ前、俺にした
“別れの挨拶”は……こう成るって分かってたからか? 」
<――そう訊ねた瞬間
声すら発さず、ただ静かに頷いたリーア
直後……居ても立っても居られなく成った俺は
リーアの事を力強く抱き締めた――>
………
……
…
「……ゴメンな。
俺が力不足な所為で無理ばかりさせて……
悲しい思いばかりさせて……
……何時も明るく振る舞ってくれるから
鈍感な俺じゃ、無理してる事にすら気付けなくて……本当にゴメン。
俺みたいな勝手者に付き合わせて、本当に……ゴメンな」
<――寂しさの余り、彼女を抱き締めたままそう伝えた。
だが、そんな俺に対し――>
………
……
…
「……馬鹿ネ
寂しく成ったら何時でもこの森に来れば良いのですワ?
それとも……片時も離れたく無い程ワタシを愛してしまったのかしら♪ 」
<――と、何時もと変わらぬ様子で明るく振る舞ってくれたリーア。
俺は、言葉を返せる程の余裕を失い
更に強くリーアを抱き締めた――>
………
……
…
「それ以上は駄目……ワタシも寂しく成ってしまうワ?
それに……“今生の別れ”と言う訳では有りませんワ?
また一緒に過ごせる様、アナタは政令国家の皆様と一緒に沢山植樹して
一日も早くワタシをこの森から連れ出せば良いのですワ?
だから……もう悲しまないで主人公」
<――そう言うと、俺の唇にキスをしたリーア。
突然の事に慌てた俺……だが
そんな俺を他所に一筋の涙を流したリーア。
……彼女の行動に狼狽える事しか出来なかった俺は
この直後、その涙の意味を知る事と成る――>
………
……
…
「……これで、主人公との“繋がり”は解かれましたワ。
もうこの場所から出られなく成ってしまいましたけれど
それでも、出来る限りの協力はしますワ。
だから……何時でも頼って欲しいのですワ♪ 」
<――そう言って俺に笑顔を見せてくれたリーア
当然、俺の顔は涙でぐちゃぐちゃに成っていたし
何時もなら俺の事を責め立てる筈の女性陣が誰一人として俺を責めず
皆……只々、寂しそうな表情を浮かべていた事も寂しさに拍車を掛けた。
だが、そんな雰囲気を壊す為だろうか?
リーアはメルに対し――>
「でも……ベンの事は今まで通りメルちゃんに任せるわね♪ 」
<――と伝え
“へっ?! ……い、一緒に居ても良いんですか?! ”
と、喜ぶメルに対し――>
「ええ、連絡係は必要だから……メディニラ様、構いませんワネ? 」
「主の子であろう? ……妾に許可など取らずとも良い」
<――大精霊メディニラがそう答えた瞬間
メルに対し“改めてよろしくね! ” ……と明るく言ったベン。
……その後、ベンはリーアに対し暫しの別れを惜しみ
リーアも精霊女王らしく気品溢れる表情でこれに答えた。
だが、それと同時に……リーアの森を凄まじい雨粒が襲った。
その瞬間……酷く鈍感な俺にも分かった。
これは、リーアの涙だ――>
………
……
…
「リーア……俺、全力で急ぐし沢山会いに来るから。
だから、寂しくなったら何時でも呼んで欲しい……辛い時は何時でも頼ってくれ」
「ええ……大好きよ、アナタ」
………
……
…
<――暫くの後
リーアの森を後にした俺達は、一度政令国家へと戻り
ラウドさんを含めた大臣達に対し
これから進めて行く“森の再建計画”……その全貌を説明する事と成った。
有り難い事に反対者など一人も出ず
寧ろ、各種族の長でもある大臣達は、自らの抱える民達に対し
計画への協力者を募ってくれた。
のは良いのだが――
“大恩人たる主人公たっての希望である”
――と、喧伝してくれた事に
俺は少しばかりの恥ずかしさを覚えていた。
……だが、この一文が
信じられない程の効果を発揮してくれた事が何よりも嬉しかった。
どの種族の民達も口を揃え――
“自らの仕事を後回しにしてでも貴方に協力する”
――と言い切ってくれたし、獣人族に至っては
獣人王国の一件も手伝ったのか
覚悟の度合いが他の種族より更に激しく――
“命に変えても! ”
――と、少々心配に成る程の意気込みを聞かせてくれたのだった。
ともあれ……皆の優しさの所為で、リーアの前だけで無く
執務室でも号泣する羽目になった俺は
皆の協力に心から感謝し、何度も何度も頭を下げ続けた。
だが……この上更に驚きは続いた。
政令国家に住まう全種族の中で
最も新参者であり、未だ畏怖されている種族でもある――
“魔族種”
――正直、まさかの事態では有ったのだが
政令国家の防衛に必要な人員を除いた、実に三分の一もの人員を
今回の植樹活動に用立ててくれる事と成ったのだ。
勿論、その立役者はモナークで――>
………
……
…
「モナークッ……うぅっ……お前まで!!
良い奴だなお前ッ!! ……本当に有難うなッ!! 」
「フッ……何を勘違いしているのかは知らぬが
我ら魔族……延いては
この国の軍事力を他国に見せつける絶好の機会と謂うだけの話だ」
「そ、そう言う事だったか~……グスンッ……」
「フッ……また甘い考えを巡らせていたか、愚か者が」
「う゛っ……その通りです」
<――正論っちゃ正論だけど、現実主義過ぎるのも夢が無い。
その所為か……俺を含め、この場にいる全員が
若干引いていたのは言うまでも無いが……今必要なのは綺麗事じゃ無く
兎にも角にも人員の多さだ。
……ともあれ、この後俺達は細かな情報のすり合わせを行い
傷ついた森々の位置関係を把握する為地図を広げ
予め大精霊メディニラから聞いて居た森々へとチェックを入れ
最終目標として“無の森”の場所を書き込んだ。
だが……改めて全てを書き終えた地図に目を通した俺は
一日や二日で解決する様な規模では無い範囲の広さに辟易としていた。
先ず、傷ついた森が大小合わせて“八件”
内、瀕死の森が“二件”……勿論この中に“無の森”は含まず。
ともあれ……その内“六件”の森が友好国の領土内であった事と
その中に瀕死の森が“一件”含まれていた事はある意味で不幸中の幸いだった。
だが、残り二件の場所が相当に問題で――>
………
……
…
「あ~……完全に“敵国”ですよね? 」
「うむ、しかもこの間兵を送って来た“連合国”の加盟国じゃな」
<――簡単に言えば“対政令国家連合国”の奴らが
“うじゃうじゃ”居る国々の領土内に二件存在していたのだ。
内訳は、比較的治療の容易そうな小さな森が一件と
可及的速やかに治療を施す必要のある巨大な森が一件。
……言うまでも無く、後者が圧倒的に問題だった。
だが、頭を抱えていた俺達とは対照的にモナークは――>
「邪魔立てする者共など……全て滅すれば良いだけの話よ……」
<――と言い切った。
確かにその通りかも知れないが、些か暴論が過ぎる。
……そう思った反面、確かに
“対政令国家連合国”に協力を要請したとしても
間違い無く拒否されるだろうとも思っていた。
……いっその事、思い切って後回しにしてみるのも手だとは思った反面
その分、リーアとの再会が遠のく事に成ると思えば
安易に後回しにする決断は出来なかったし……そもそも
比較的友好関係の有る国であっても、間に敵国が有ったりと
大量の人員を安定して移動させるには少しばかり厳しい物があった。
とまぁ……そんな事情もあり、悩みに悩んでいた俺は
不安やらイライラが限界を超え――
“つい悪い癖が出てしまった”
――つまり
不安要素を全て口に出していたのだ――>
「転移出来なきゃ植樹以前の問題だし……」
<――この場にいる大臣の殆どからすれば
唯の愚痴に聞こえる俺の独り言。
だが、唯一人……モナークだけが
絶対的な解決方法とも思える“答え”を持っていた――>
………
……
…
「何れの森も……我が命じ焼き払ったのだ
故に……我が貴様らを転移させれば、何ら問題は無い筈」
「!? ……そ、それだッ!! 」
<――この執務室の中で唯一
モナークだけが傷ついた森の全てに転移出来る。
……俺はモナークの手を握り、何度と無くお礼を言い続けた。
まぁ、本人は若干嫌そうな感じだったが――>
………
……
…
「……そんなに嫌がるなって!
今回の事だけじゃ無くて、俺の“特訓”もそうだし
世話になりっぱなしだから、一度位ちゃんと礼は言わせてくれ! 」
「フッ……魔王に借りを作り、剰え感謝するとは
やはり貴様は甘い男の様だな……」
「そうかもな……でも
助けてくれた相手に感謝しないのって居心地が悪いし
モナークがこの借りの代わりに何かを企んでいるにしても
俺にはその企みが何なのかすら分からないって言うか……取り敢えずッ!
素直に有難うって言う位言わせてくれよッ! 」
「フッ……良かろう」
<――この後
会議での決定事項を大精霊メディニラに伝える為、魔導通信を開いた俺。
……だが、通じなかった。
てっきり、海を隔てた場所に彼女の森が有るのだろうと思い
別の手段として……別れの寂しさを考えれば少し気が引けたが
思い切って、リーアに連絡を入れる事を選んだのだった。
……が、リーアにも通信が繋がらなかった。
当然だが、この事に妙な違和感を感じた俺は
ベンに対しリーアに連絡を入れる様頼んだ。
すると――>
………
……
…
「えっと……今、メディニラ様と
“旅館の薬浴にご入浴されている”らしくて……」
「えっ?! でも、リーアはもうあの森から出られないって……」
「いえ、それがメディニラ様曰く――
“協力する以上、妾の掛けた封印は邪魔に成るであろう?
故に、全精霊女王の封印を解いた”
――って事らしいんだ。
勿論、森が近くに有る事が前提ではあるけれど
マグノリア様もメディニラ様と同じく
森のある場所だったら自由に行き来が出来る様に成ったから
今後、マグノリア様は定期的に……それだけじゃ無く
マグノリア様以外の精霊女王達も薬浴を楽しむ為
ちょくちょく政令国家に来るらしいよ?
あっ! それについて許可を取る様にメディニラ様から言われてるんだけど……
……良いかな? 」
「……は? じゃあ、さっき俺がリーアとした
“永き惜別への悲しみ”は?
てか、そもそも薬浴に入ってるって事は
政令国家領土内に居るって事なのに何で俺の通信が繋がらないんだよ!? 」
「あ~……それはね。
“あの者”……つまり、主人公の通信に
“主の掛けた永続的な効力が有る故
例え主が良しとしても妾の裸体を見せる事は赦さぬ”
……と、メディニラ様が
主人公からの通信のみ繋がらない様にしているみたいで……」
「あぁ……“ラッキースケベ封じ”って事なのね。
な、なら……“薬浴後”で構わないから
後で連絡を貰える様に頼んでくれるかい? 」
「うん、分かった! 」
「ありがとね、ベン……しかし、なんか疲れた」
<――と、信じられない程の勢いで情緒が乱高下し
精神的な疲れが限界を迎えていた俺。
ともあれ……暫くの後
メディニラから直々に連絡が入って来て――>
………
……
…
「小童よ……妾の裸を覗こうとは不届き者め……」
「い゛ッ!? ……開口一番酷い濡れ衣をどうもッ!
……ってか、リーアも自由に行き来出来る様にするなら
何であんな意地の悪い事を言ったんです? 」
「……主の覚悟を見定める為、そして
主の策が動き始めれば、封印など無くとも
暫く会えぬ様になるのは事実じゃ……それ程の負担を
妾も、マグノリアも聞き入れたのじゃ……故に
主も決して気を抜くで無い……良いな? 」
「そうだったんですね……けど
言われるまでも無く……覚悟してます」
「そうそう! ……気を“抜く”んじゃなくて
木を“植える”んですよ主人公さん! 」
「うん……マリアは少し黙っておこうか」
<――ともあれ
メディニラへの報告を終えた後
この精神的な疲れを癒やす為……昼時では有ったものの
自室へと戻りベッドに寝転んだ俺。
……ただ、精神的にとは言え疲れている事に変わりは無く
あっと言う間に睡魔に襲われた俺は、すぐに夢の中へと落ち――>
………
……
…
「ふんがぁ!? ……あれっ? 」
<――目覚めたのは翌朝だった。
昼過ぎから翌朝までの長期睡眠……時間にして約一六時間。
多分だが、マリアが横に居たら絶対に――
“三日分寝るとか狂ってますね! ”
――位の事は言うだろう。
しかし……起きて早々、空腹が凄い。
この後、寝ぼけ眼を擦りつつ一階へと降り
朝食を取り始めた俺、だが――>
………
……
…
「寝過ぎて逆に疲れたし、腰が痛いし
この上考えなきゃいけない事だらけで頭も痛い……だ~ッ! 」
<――と、起きて早々
不平不満のフルコースで愚痴った俺に対し――>
「なら……薬浴に入ってから動き始めたら良いのですワ? 」
<――と、声を掛けて来たのは
とんでも無く聞き覚えのある声――>
「えっ?! ……リーア?! 」
「その驚きっぷり……ワタシに会えなかった事が
そんなにも辛かったのですワネ♪ 」
「ああ、寂しいし辛いけど言わせないでくれ……
……って言うかどうやって此処まで来たんだ?
流石に森からは少し離れ過ぎて無いか? ……」
「ええ、本来ならそうですワネ……でも、あれを見て♪ 」
<――と、リーアが指差したのは
大量の木々が積み込まれた荷馬車の車列だった。
……聞けば、観葉植物やら植え込みやらを
民達から手当たりしだいに買い集め、少しでも植樹の足しにする為
協力してくれる人員と共に運び込んでいるそうだ。
……そしてその馬鹿げた量のお陰で
政令国家本国まで来る事が出来たらしく――>
「ダ・カ・ラ……一番にアナタの所に来たのですワ♪ 」
<――と、言われ流石に照れてしまった俺の顔を見て
何やら満足げな表情を浮かべたリーア。
だが……一頻り喜んだ後
急に真面目な表情へと変わると――>
………
……
…
「……今日から、各地の森に対する治療と“無の森再建”の為
ワタシ達精霊女王が力を蓄える間は
治癒魔導の効力が著しく下がる事を伝えておきますワ。
それから……ワタシが連絡を入れるまで
決して会いに来ては駄目……約束してくれますワネ? 」
<――俺の目を真っ直ぐ見つめ、そう言ったリーア。
暫く会えないと言いつつも、頻繁に会えていた所為もあり
イマイチ実感が湧いていなかったが
今度ばかりは本当に、会えないのだと分かった。
この後……素直に返事をした俺に対し
安心した様な表情を浮かべたリーアは――>
「寂しいけれど、暫くのお別れ……お互いに我慢ですワネ♪ 」
<――少し寂しげな笑顔を見せた後
運ばれて行く植物達と共に、俺の目の前から消えた――>
………
……
…
「……何だろう、胸の奥が
ギュッと握り潰された様な感じがする……」
<――この後俺は
朝食もそこそこにヴェルツを後にした――>
………
……
…
「はい……と、言う事でして……」
<――リーアとの別れから数時間後の事
外交の為、友好国へと訪れていた俺……だが
本来ならば“植樹活動”を手伝っているべき時間に
何故俺だけがこの様な場所にいるのか? ……答えは簡単だった。
モナークの協力に依って格の上がった俺は
そうなる前よりも格段に体力が持つ様に成っていた……だがそれでも
植樹活動と言う肉体労働には全く以て不向きな程度の上昇幅でしか無く
そんな俺の出来る専らの仕事と言えば、治療が必要な森を領土に持つ
各国家に対する説明役として一種の“外交官”的な役割を果たす事だけだった。
……当然、重要な任務では有るのだが
現場で直接助けに成れない事は正直言って切なかった――>
………
……
…
「ふむ……貴国とは深い友好関係にありますし
そもそもが魔族の被害を受けた森を治療する為との事ですし
邪魔立ては勿論、拒否などする理由は御座いませんので……」
<――そんな中、本来ならば喜ぶべき答えが
“友好国のお偉いさん”から齎された。
だが……根本を言えば、どの国も友好国だからなのか
基本的に拒絶する事など有りはせず
唯互いに礼儀として形式的に執り行われて居るに過ぎない事
……そして、過ごしやすい室内で俺一人の為に
凄まじく豪勢な饗しをしてくれる相手国の方々。
本来ならばこの状況にも喜ぶべきなのだろうが……
……肉体労働に強い拒絶感を示していた転生前が嘘の様に
些か自分勝手な考えかもしれないが
今は……汗だくになってでも現場の皆を手伝いたい。
そう、思って居た――>
………
……
…
「ええ……ご協力頂き、誠に有難うございます」
<――そんな心中を必死に抑えつつ
まるで“判で押したかの様な”相手国からの言葉に
此方も“判で押したかの様に”返すだけの仕事を無難にこなしつつ
現場の仕事が終わるのを
居心地の良い室内で“居心地悪く”待つ日々が暫く続いた。
……だが、そんな中で唯一救われたのは
森の治療が一箇所終わる毎、現場で指揮を執っているエリシアさんが――>
………
……
…
「精霊女王が涙ながらに喜んでくれたよ~! 」
<――と、嬉しい報告をくれる事だった。
とは言え……
……魔導通信越しに“汗だくで泥まみれ”のエリシアさんを見ていると
余計に心苦しくも成って居たのだが。
ともあれ……様々な国でそうした日々を過ごし続け
友好国領土の森を全て治療し終わった頃には
既に、二ヶ月もの月日が経って居た――>
………
……
…
「リーア……元気にしているんだろうか?
……連絡も俺からはしちゃ駄目って言われてるし
メディニラに聞いても――
“マグノリアは主との再会を心の底から待ちわび
奮闘努力しておるのじゃ。
主に出来る事は信じて待つ事だけじゃぞぇ? ”
――としか言わないし」
<――友好国での植樹活動を終え、政令国家へと帰還して暫くの事。
……ベンの予告通り、治療を終えた各森々の精霊女王達や
俺達に協力して居る精霊女王達が定期的に
政令国家の薬浴へと“湯治”に訪れて居た頃……
……精霊族を“神”と崇める宗教の信者達までもが各国から訪れ
第二城地域に建てられた旅館は宛ら
“聖地”とでも呼べそうな程に崇められ……
……そして繁盛していた。
だが……代わる代わる訪れる精霊女王達の中で
どれ程探してもリーアの姿だけが無く……俺は
“リーアに会いたい”と言う気持ちが限界を迎えていた――>
………
……
…
「連絡したい……けど、あれ程真剣な眼差しで釘を刺されたのに
簡単に約束を破ったらリーアに嫌われるかも知れないし……」
<――煮え切らない心との対話が
全て口から漏れる程に苛立っていた俺。
そしてこの上尚悪い事に、敢えて後回しにしていた二箇所……
……つまりは、敵国領土内の森に対する“治療”を
数日後に決行する事が決まり――>
………
……
…
「成程……やはり交渉は不可能ですか。
となれば、当初の予定通り……秘密裏に森へと転移し
少数で事を進める必要が有るって事ですね? 」
「うむ……故に
今回ばかりは主人公殿も現場に立って貰う事に成る」
「ほ……本当ですかッ?! 」
<――ラウドさんからのこの返答に
敵国領土内とは言え――
“やっと現場に立てる! ”
――と
思わず興奮してしまった俺に対し――>
「……うむ。
じゃが“植樹”では無く“護衛”としてじゃよ? ……」
「で、ですよね……いや、それでも立派な現場仕事です。
俺、粉骨砕身の覚悟で挑みますッ! 」
<――妙に体育会系な雰囲気を醸し出しそう返事を返した俺。
この妙なテンションに、ラウドさんは――>
「ううむ……無理をしてはいかんぞぃ? 」
<――心配そうな表情を浮かべつつ
そう言った――>
===第百三二話・終===