第百三〇話「協力要請は楽勝ですか? ……前編」
<――各地の森に存在する精霊女王に対し協力要請を続けていた俺達。
そんな中訪れた“敵意の無い魔族達の暮らす集落”で
俺達は予想だにしない“現象”に遭遇する事と成った。
……だが、そのお陰でエリシアさんの辛い過去に
一つの区切りが付いた事はとても喜ばしい事だったし
あの出来事から後心做しか憑き物が取れた様に明るく……いや。
“更に”明るく成ったエリシアさんを見ていると
超絶マイナス思考な俺ですら
全ての出来事をプラスに捉える事が出来そうな程だった。
……まぁ、この調子で“大精霊メディニラ”について考える時も
プラス思考で居られたら尚良かったのだが――>
………
……
…
「……数日前、あの集落でフリージアさんが教えてくれた
“大精霊女王メディニラ”についてだけど……
……リーア、彼女の説得は難しそうか? 」
「説得も何も……そもそも
人間族の話に耳を傾けてくれれば良いのだけれど……」
「そこからか……じゃあさ
メディニラさんが好きそうな物とか事とか……
……何かご機嫌を窺えそうな事を知らないか? 」
「彼女の好きな物? ……そうですワネ
強いて言うのならば――
“絶対服従” “掟厳守” “不変”
――位ですワネ」
「う゛ッ……それってつまりは“難攻不落”って事じゃないのか?
正直……既に胃が痛いんだが」
「そんなに悩まなくても大丈夫よ♪ ……と言いたい所だけれど
正直、ワタシも不安なのですワ……」
<――予め対策を練っておく為ヴェルツで話し込んでいた俺達。
だが、この日俺達が得られた知識は
大精霊メディニラと言う存在がいつも明るく振る舞うリーアですら
萎縮させてしまう程の存在だって事だけだった。
と言うか……この話の所為で
場の空気がずっしりと重く成った事を感じた俺は
流れを変える為……そして、実は気になっていた
例の“憑依”についてメルに訊ねる事にした――>
「……で、どんな感じだったの? 」
「えっとですね……」
<――メルが言うには
“突如として何処からか切羽詰まった声が聞こえて来て
驚きつつも話を聞いて居るとエリシアさんの友達である事が分かった”らしい。
だが……残念ながらエリシアさんに対し
死者である自らの声を直接は届けられないので
そう出来る力を持った人を必死に探している。
……と言う趣旨の説明を受けたとの事だった。
一方のメルはそう言われた瞬間
エリシアさんの師匠であるヴィンセントさんの一件を思い出し
彼と話した経験が有る俺の事を勧めたらしいのだが
ヴィオレッタさん曰く
どれ程の力があろうとも、同性で無ければ憑依も会話も出来ず
精々――
“夢枕で極僅かな言葉を伝える”
――位しか出来ない。
と言われた事が分かり――>
………
……
…
「……えっ!?
じゃあやっぱりミネルバさんは! ……てかそうなると
届いてるか分からないけど、ミネルバさんにお礼を言って置かないと。
ミネルバさん、本当に有難う御座いました……」
<――直後、俺は祈りを捧げた。
自然と頭が下がる思いだったし、鈍感な俺に対し
諦めず、必死に警告し続けてくれたミネルバさんの偉大さを改めて知った。
……また改めて
彼女のお墓にお礼を言いに行かなければと強く思った日でも有った。
だが、それと同時に――>
………
……
…
「って言うか、そうなってくると明らかに俺と“同性”な筈の
エリシアさんの師匠さんが俺の身体に憑依する事も……」
「はいっ! それも充分ありえるだろうって言ってましたっ♪ 」
<――と、元気良く答えてくれたメル。
正直、エリシアさんにも言ったが俺は本気で幽霊が苦手だ。
……だが、ヴィオレッタさんと話した後
あれ程明るく成ったエリシアさんを見てしまうと
“極稀になら”俺の身体を貸しても良いのかもと思っても居た……まぁ。
出来る限り少ない方が良いのは変わらないのだが――>
………
……
…
「そ、そっか~っ!! ……とは言え、何れにしても
エリシアさんにその事実を伝えるのはかなり後にした方が良いかもね」
「へっ? ……何でですか? 」
「いやその……師匠さんに対して俺から連絡を入れる事はまだ出来ないし
と言う事は“さあどうぞ! ”って訳には行かないって事でしょ?
……それに、前にリーアが言ってたみたいに
急激に力を使った所為で何か不都合があったりしたら大変だしさ。
だから、あまり期待させる事を伝えると
逆に申し訳ないかなって思って……」
「それもそうですね……」
<――と、再び場の空気が重くなり掛けたその時
ラウドさんから魔導通信が入った。
……聞けば“渡す物がある”との事だったので
“ボーナス”か何かかと期待しつつ
皆をヴェルツに残し直ぐに執務室へと飛んだ俺。
すると――>
………
……
…
「……まず最初に謝らねばならん。
休暇を取って貰いたいと言っておきながら
主人公殿に激務を押し付け続けてしまった事を……本当に申し訳ない限りじゃ」
<――そう言うと
何時に無く深々と頭を下げたラウドさん。
俺が頭を上げる様に促すと――>
「ううむ……主人公殿の優しさにはつい甘えてしまうのぉ。
さて……激務続きで疲れておる主人公殿に
お詫びと言っては変かも知れんが、渡す物が有ってのぉ……」
<――そう言われ
ボーナスか何かを貰えるのだと思った俺がニコニコ顔で待っていると
机の中から何かを取り出し、それを俺に差し出したラウドさん。
……だったのだが。
その手にはボーナスの入った封筒では無い
別の“封筒の束”があり――>
………
……
…
「へっ? これは一体……
……って?!
これ“ディーン達からの手紙”じゃないですか!?
まさか……何か遭ったんじゃ!? 」
「落ち着くんじゃ主人公殿! ……それは近況報告の手紙じゃよ! 」
「そ、そうでしたか……ってあれ? よく考えたら
日之本皇国みたいに遠い所から何でこんなに早く手紙が届いたんですか? 」
<――不思議に思いそう訊ねたその瞬間
突如として執務室の扉が開かれ――>
………
……
…
「お久し……ぶり」
<――現れたのは
ライラさんだった――>
「ラ、ライラさん!? でも、どうして此処に……って、そう言う事か! 」
「うん……“暁光”のお陰で直ぐに行き来出来るから」
「やっぱり! ……嬉しい再会です!
っと……ディーン達は変わらず元気ですか? 」
「うん……でも、凄く厳しく訓練してるから……兵士達大変そう」
<――そう言ったライラさんの雰囲気で
“地獄の特訓”であろう事は容易に想像出来たが
同時に、その“地獄”をくぐり抜けた兵達は
何れ劣らぬ屈強な兵士へと成長し
日之本皇国を襲う汎ゆる厄災を払いのける事の出来る
“守護者”へと成長して行くのだろう……などと
何れ訪れるであろう未来に思いを馳せて居た俺。
だが――>
「じゃ……手紙渡したし……帰るね」
<――そう一言発した後
その足で蜻蛉帰りしようとしたライラさんに慌てた俺は――>
「えっ!? ……いやあのッ!
せ、折角ですし“薬浴”に入っていきませんか?
勿論、ライラさんだけじゃ無く
暁光ちゃんも入れる様に大きく頑丈に作って貰いましたし
旅の疲れを癒やして帰ったってバチは当たらないと思いますし!
……そ、それに、皆もライラさんに会いたい筈ですし
急いで帰らなければいけない訳じゃないのなら
のんびりしてからでも良いのではって思ってまして……」
「そうなの? ……じゃあ、お言葉に……甘えるね」
<――そう言うとライラさんは俺に微笑んでくれた。
俺には……暁光ちゃんの成長後
心做しかライラさん自身も大人に成った様に思えた。
……不遇な過去を持ち
感情を表現する事が未だに少し苦手な彼女が
こんなにも素敵な笑顔で微笑んでくれた事だけで
たとえ皆からの手紙を読まずとも、日之本皇国での暮らしは
充実しているのだろう事が理解出来た瞬間だった。
……と言うか、期待していた“ボーナス”などよりも
余程嬉しい“再会”を貰った俺は――>
「……あっ! 皆はヴェルツに居ると思いますから
宜しければ顔を見せてやって下さい! 」
「うん……ヴェルツのご飯も食べたいし……
皆にも会いたいから……主人公も一緒に行く? 」
「ええ、喜んでご一緒します! なら、転移で行きますか! 」
「うん……久し振りに転移……楽しみ」
<――と、俺に取っては何気無い魔導の一つである転移に
ワクワクしてくれるライラさんと共に
俺までワクワクしながらヴェルツへと転移した――>
………
……
…
「おかえりなさい主人公さ……って! ライラさん?!
お、お久しぶりですっ! ……」
<――突然の再会に興奮し
目を丸くしつつそう言ったメルを皮切りに
一斉にライラさんの元へと駆け寄ると久々の再会を喜んだ皆。
……そして、そんな状況を笑顔で見つめていた俺は
少し照れ、顔を赤らめていたライラさんに“萌えて”居た。
まぁ……そんな“ムッツリ”とした俺の感情は兎も角として
ミリアさんも久々の再会を喜びつつ現れ――>
「……久し振りだねぇ~!
ドラゴンちゃんとは相変わらず仲良くやってるかい? 」
「うん……“暁光”って異名がついて
とっても強くなって……とってもご飯を食べる様になったよ」
「ハッハッハ! そりゃ頼もしい事だねぇ~!
ライラちゃんもた~んと食べるんだよ?
……今作ってくるから待ってなよ~! 」
<――と、上機嫌で厨房へと消えていったミリアさんの後ろ姿を
微笑ましく見つめていたライラさん。
……暫くの後、運ばれて来たミリアさん特製の料理に目を輝かせ
ゆっくりと食べ始めたライラさんだったが……突如として
その手を止め――>
「……ディーン様と……隊の皆とも食べたいな」
<――と、少し切なそうに発した。
だが、その一言をミリアさんは聞き逃して居なかった様で――>
「ライラちゃん……戻る前にあたしの所に寄ってくれるかい? 」
「うん、構わないけど……何故? 」
「何故って……ライラちゃんだけじゃ無く
あたしだって、皆にご飯を食べて貰いたいからさね。
皆にも“お弁当”……沢山用意して待ってるから
戻る前にちゃんと寄っておくれよ? 」
「は……はいっ! 」
<――そう元気良く返事をしたライラさんの瞳は
これ以上無い程の喜びに輝いていた……そして
そんな彼女の様子を満足気に見つめ、再び厨房へと消えていったミリアさん。
……そんな優しいミリアさんの行動力もあり
俺もディーン達に思いを馳せて居たのだが――>
「手紙……読まないの? 」
<――と、ライラさんに言われて気がついた。
そうだッ! ……手紙が有ったんだ!
……俺は、慌てて懐に入っている封筒の束を取り出し
一番上の封を切った――>
「え~っと……これはディーンからの手紙だな。
何々? ……」
<――取り出した生成り色の手紙には
こう、書かれていた――>
………
……
…
「……拝啓、主人公殿へ。
“堅苦しい挨拶”を敢えて返してみたのだが
どうだろうか? ……笑っているだろうか?
冗談はさておき……手紙を有難う、とても嬉しかった。
さて、近況報告だが……私を含め皆元気にしているし
兵達の訓練も順調に進んでいるから安心して欲しい。
……まぁ、ギュンターの“鬼教官”振りと
それに影響されたタニアの教育方針は私から見ても恐ろしくは有るのだが
少なくとも、良い環境である事は間違い様の無い事実だ。
さて……次の話題は君の手紙に有った“破れぬ契約”についてだ。
……正直、私はこの一文を見た瞬間
直ぐにでも政令国家に帰還し命掛けで戦うつもりだった。
だが、手紙を読み進める内に君が望んでその手段を選んだのだと理解した。
だからこそ私は、是非とも君の“案内”で
かつて私達の怨敵だった魔族達が君が大切にする政令国家で
平和に暮らしている様をこの目で確りと見たいと……そう思った。
そして……そう出来る日を一日でも早く訪れさせる事が出来る様
兵への教育を更に急ぐ事を再会への思いに誓いつつ
この手紙を書き終えようと思う。
……ディーンより」
<――俺は、この手紙を読み終えた瞬間
恥も外聞も無く、周りの目を気にする余裕など微塵も無く
号泣してしまっていた――>
………
……
…
「くっ……ディーンは手紙でもイケメンかよッ!
てか、おっ……俺だって、一日も早くお前達に会いたいって
おっ……おっ……
……思ってるよぉぉぉぉぉッッ!!! 」
<――何処からどう見ても
信じられない程に恥ずかしい号泣っぷりだった。
……だが、そんな様子を馬鹿にするでも無く
寧ろ俺の背中を擦りつつ俺の気持ちに同意してくれた皆のお陰で
俺は更に――>
「……み゛皆も優し過ぎだからぁぁぁぁぁッッ!! 」
<――と
更に大号泣する羽目になったのだった――>
………
……
…
<――何はともあれ、暫くの後。
少し落ち着いた俺は……念の為
深呼吸をしてから次の封を切った。
すると、其処には“二枚の手紙”が入っており――>
「あぁ! これは……テル君とサナちゃんからの手紙だな!
先ずはテル君の手紙をっと……」
………
……
…
「……主人公兄ぃ! 元気にしてるかい? おいらはとても元気だよ!
……主人公兄ぃが帰っちゃった後
寂しくて何度も泣きそうになっちゃったけど
その度に主人公兄ぃに貰った“片割れの金貨”を握りしめて
必死に魔導師になる為の特訓をしてるんだ!
だからおいら、大きくなったら絶対に魔導師になって
主人公兄ぃの一番弟子として世界中の悪い奴らを懲らしめる旅に出るんだ!
だから、主人公兄ぃも楽しみに待っててくれよな!
……主人公兄ぃの一番弟子、テルより」
………
……
…
「……うぐッ! ……おッ、俺は泣かないぞッ!
つ、次は……サナちゃんの手紙だ……」
<――これ以上泣いてしまわない様、必死に拳を握り締めて耐えた俺は
可愛い花がらの描かれたサナちゃんの手紙に目を通した。
其処には――>
………
……
…
「おはようございます……こんにちは? それともこんばんはかな?
主人公さんはお元気ですか? ……私はとても元気です。
お守りの効果は出ていますか? ……私はとても心配です。
お兄ちゃんは主人公さんの一番弟子に成る為
今日も必死に魔導師の特訓をしています。
私は、そんなお兄ちゃんの特訓に付き合って居ますが
お兄ちゃんに話せていない秘密があります――」
………
……
…
「……ん? 秘密だって?
何だろう? ……」
<――続きが気になり直ぐに読み進めた俺は
驚きの事実を知った――>
………
……
…
「――どうやら私には
“トライスターの力が宿っている様だ”と天照様から直々に伝えられました。
勿論、お兄ちゃんにも魔導師としての力はありますが
天照様からは“決してお兄ちゃんには話してはいけない”
と、固く口止めされてしまいました。
……当然、その意味も理由も何と無く理解していますし
私はお兄ちゃんの事が大好きだから
お兄ちゃんを傷つける様な事を言ったりしません。
でも、もし……主人公さんが
“もう一人弟子を取っても良いよ”……と言って下さるのなら
こんな私で良ければ……私を
二番目の弟子として受け入れて頂きたいのです。
……サナより」
………
……
…
「ちょ……マ、マジか……」
<――俺は“弟子が二人に増えた”って事もそうだが
その弟子二人が兄妹って事に考えられない位驚いていた。
そして……この“涙とは別のベクトルに気持ちが揺らいだ”二人の手紙を
大切に仕舞った俺は
次にアリーヤさんからの手紙を開いた――>
「何々? ……」
<――開いた手紙の文章は、なぐり書きで
拝啓……とか、枕詞になりそうな言葉は何一つ無かった。
だが、その代わりに――>
………
……
…
「主人公がどんな選択をしたとしても
その選択に間違いは無いし、何も気に病む事なんざありゃしない。
アンタのお陰で子供達は皆幸せそうに暮らしているし
アンタが約束してくれた平和な場所への移住はきっちりと叶ってる。
だから、アンタも安心してアンタの人生を送るんだよ?
……それで気が向いた時、時々元気な顔を見せてくれたら
アタシも子供達も喜ぶってこった!
分かったら、ちゃんとご飯を食べて歯磨きして寝るんだよ?
……そうすりゃ
“化け物程長生きした”
アタシにも会えるってもんだ。
……アリーヤより」
<――この、丁寧さなど微塵も無い手紙に
俺は、心を打たれた――>
………
……
…
「アリーヤさん……本当に、化け物って呼ばれる位長生きして欲しいな」
<――どう頑張っても抑えきれなかった涙を一筋だけ流した後
残る二枚の内“一際目立つ紙質の手紙”を開いた俺――>
………
……
…
「サーブロウ伯爵からだ! ……てか、流石伯爵だな。
封蝋が凄く仰々しい……」
<――俺は
封蝋に印璽された伯爵家の紋章に感心しつつ手紙を開いた――>
………
……
…
「拝啓、主人公君へ
……突然の手紙に驚き、魔族を受け入れたと言う君の判断に更に驚き
魔族達に経営を任せた旅館まで建てたと知った瞬間
椅子から転げ落ちた私を……どうか笑わないで欲しい。
ともあれ……君が私と交わした約束が
まさか此程早く叶おうとは、思っても見なかった。
こうなってしまうと、私は……今まで以上に
一刻も早く“外出への恐怖”を消し去り……そして一刻も早く
政令国家の旅館を訪ねなければと思っている次第だ。
そして……迷惑でなければ
そちらの旅館を題材に、新たな絵本を書いてみようと思っている。
……主人公君。
私の心に此程の余裕を持たせてくれた事、心から感謝している。
また会える日を心待ちにしつつ……サーブロウ伯爵」
………
……
…
「えっと……伯爵に再会したらまず最初に謝らなきゃな。
俺もだけど、皆も……“転げ落ちた”所で笑い過ぎだぞ? 」
「だって!! って、思い出したら……アッハッハッハッ!!! 」
<――と“転げ回って笑う”マリアに若干引きつつも
最後の手紙の封を切った俺。
最後の手紙はシゲシゲさんからで――>
………
……
…
「拝啓、主人公殿……手紙が届くよりも前から既に
“そちらの国で旅館が出来たならばなるべく早く遊びに行きたい物じゃよ”
と、皆に話してはおったのじゃが……思ったよりも早く出来た様で
主人公殿の有能さにはワシを含め、皆相当に驚いておる。
そして……敵の総大将までも味方に引き入れた一件を聞き
ワシの選択は間違って居なかったのじゃと、改めて確信した次第じゃ。
……さて、そちらの旅館では目一杯豪遊するつもりじゃが
勿論、ワシらも無料で構わんじゃろう?
……と、冗談を交えつつ手紙を終えるぞぃ。
シゲシゲこと、茂谷茂雄より」
………
……
…
「本当に豪遊……して貰わなきゃだな。
旅館だけじゃなくて、様々な問題が
シゲシゲさんから受け取った本のお陰で解決したんだし
その事は手紙に書ききれなかったんだから
今度会った時は改めてお礼を言わなきゃ……」
<――全ての手紙に目を通し、それぞれの手紙の特徴ある文章に
笑ったり泣いたりと感情が乱高下したこの日。
この後、久々の再会と成ったライラさんを連れ旅館へと向かった俺は
一時間程、薬浴を貸し切りにして貰い
ライラさんと暁光ちゃんに羽休め……いや。
“翼”休めをして貰う事にした――>
………
……
…
「暁光……気持ち良いね」
「グルッ……」
「うん……疲れが取れるね……」
………
……
…
<――暫くの後
さっぱりとした顔で薬浴から帰って来たライラさんは
ミリアさんとの約束通り、ヴェルツへと向かい“お弁当”を受け取ると――>
「じゃあ……私、戻るね……また今度……ね。
暁光……飛翔」
<――別れを告げた後
夕日に向かい天高く飛び上がったライラさんと暁光ちゃん。
俺達は、その姿が見えなくなるまで手を振り
また会える日を心待ちにしつつ、彼女の旅の無事を祈った――>
「ライラさんと暁光ちゃんの旅が、安全な物に成ります様に……」
………
……
…
<――最良の一日と呼ぶべき日を過ごした俺。
夜遅く、ヴェルツの自室に戻った後
楽しかった今日と言う日を思い出し、時折ニヤけつつも
俺は、やらなければ成らない大きな問題について考えていた――
“大精霊メディニラに対する協力要請”
――リーアから伝え聞いた“鉄の意志”を
どうにかして和らげ、何とかして協力をして貰いたい。
その為の策を必死に練り続けて居たのだ。
平和で、皆が幸せになる為の解決を目指して――>
………
……
…
「……妾を愚弄した罪、万死に値する事
死して理解せよ……」
<――それが
こんな状況に陥るとは夢にも思わず――>
===第百三〇話・終===