第百二八話「“強大な国家”は楽勝ですか? ……後編」
<――少しばかり
いや……“かなり”乱暴なハッタリを効かせ
キキョウと名乗った精霊女王を半ば強引に交渉のテーブルへと着かせた俺。
……正直、俺らしく無いやり方だったし
あと少しでも穏便に事が進んでいたならば
こんなにも手荒な手段を使わずとも良かったのだろうか?
だが、俺の中にあるどんな後悔をも簡単に消し去ってしまう程の
深い悲しみを彼女から感じてしまった瞬間
俺の“理性のタガ”みたいな物は簡単に外れてしまった。
……その所為もあり、気がついた時には
自分でも信じられない程の“乱暴なハッタリ”を並べ立てていたのだ。
とは言え、少々ハッタリが“効き過ぎて”しまった様で――>
………
……
…
「主人公さん……貴方の御力はそれを可能とする程だとお見受けします
ですが、この森までも焼き払うなど……」
<――と、まるで“イッちゃってる”人を宥めるかの様に
ミヌエット王女からそう言われた上に――
“主人公よ……吾輩に免じ、怒りを鎮めるのだ……”
ガルドにもそう諭(さとされ
“主人公……ワタシの為にそんな酷いコトしては駄目。
……お願い、もし仮にキキョウとの話し合いが上手く行かなくても
この森を焼き払うのだけは……やめてネ? ”
――と、リーアにまでそう諭されてしまった俺は
流石に耐えられず――>
………
……
…
「い……いやいやいやッ!!! 全部ハッタリに決まってるでしょ!?
俺がそんな“魔王も真っ青”みたいな酷い事する訳無いだろ?!
……あっ。
い、今は彼奴も仲間だからあまり悪く言い過ぎるのも気がひけるな……
……って兎に角ッ!!
キキョウさん……俺は、平和的で建設的な話をしたいだけなんです。
とは言え、恐ろしい発言しちゃった後ですし
信じて貰えないかも知れませんけど……でもッ!
それはキキョウさんがリーアを悪く言うからですよッ!?
と言うか、もう少しお互いを尊重した話し合いが出来てれば
俺だって! ……」
<――と、不本意にも
早々に“ネタバラシ”する羽目になってしまった訳だが
キキョウさんはハッタリだった事実に怒るどころか
今度は、俺の発言の“とある部分”に強烈な反応を示してしまい――>
………
……
…
「……今、何と言いました? 」
「えっ? “もう少しお互いを尊重した話し合いを”と……」
「……其処では有りませんッ!!
今貴方は確かに……“魔王が仲間”だと言いましたね? 」
「ええ、紆余曲折有りまして……」
「そうですか……我々精霊族は魔族に与するつもりなど有りません。
……従わねば森を焼き払うと言いましたね?
良いでしょう……やるが良い! 魔族に与する下劣な人間よッ!!! 」
<――と、凄まじい誤解を受けた挙げ句
強烈な拒否を突きつけられてしまった俺……だが
この誤解は直ぐに解ける事となった。
俺などよりも余程“話し合い”と言う物を理解している
エリシアさんの発言に依って――>
………
……
…
「……はいは~いっ! 双方共落ち着いて~っ!
さて、精霊女王キキョウ……私は貴方に一つ訊ねたい事があるの。
その質問とは……正式な名前すらついていない“とある集落”の事。
……本人達が敢えてその所在を知られぬ為に
未だに正式な名前を付けていない
私の親友と師匠のお墓が有る……平和に暮らす魔族達の集落の事を」
<――この一件唐突とも思えた質問に対し
精霊女王は――>
「ええ……“フリージア”の守護している森の事ならば知っているけれど
……彼処に魔王は居なかった筈よ?
まさか……私を謀ろうとしているのならばッ! 」
<――言うや否や再び警戒心を顕にした精霊女王だったが
エリシアさんは続けて――>
「違うってば! ……あの場所に住んでる魔族達が
人間を含めた魔導適正の有る者達を襲わず
平和に暮らしているのと全く同じ方法で
元魔王のモナークとその配下の魔族約半数を
其処にいる主人公っち主導の元
責任を持って政令国家で受け入れただけだよ……ね~っ!
……主人公っち~っ♪ 」
<――と、唐突に俺に振った。
無論、唐突に振られた事に慌てはしたが
エリシアさんの“援護射撃”のお陰で誤解はあっという間に解けた。
だが――>
………
……
…
「成程……それが事実ならば、神獣を殺め
一つの森をあの様に無残な空間へと変貌させた挙げ句
今も尚瀕死の状態に置かれている各地の森を生み出した魔王が
貴方達の故郷で……のうのうと生き永らえて居ると? 」
<――この瞬間
また別の問題が浮上した様に思えた彼女のこの発言。
だが、俺には好機と思える発言で――>
………
……
…
「……悪く言えばその通りでしょう。
ただ、キキョウさんがそう感じられているならばこそ
一度、俺の話を確りと聞いて貰いたいんです。
まず……キキョウさんを含めた森の守護者達に取って
それ程に不愉快な結果を生んだ魔王モナークと
その配下達が俺達の故郷で“のうのうと”暮らしていると言うのは
半分、事実かも知れません……ですが。
……それ程に“不愉快”と思うのならば、何故妙な掟に縛られ続け
同胞を助ける事も……癒やす事すら、全てを放棄し続けているんです?
大体、外野から“あーだこーだ”と正論を何万回と言った所で
一度の“行動”には決して勝てない筈です。
他の森も同胞の事も、最初から助ける気が無いのなら
何も言わず、ただ黙って見捨てれば良いだけの筈。
なのに、キキョウさん……貴女は何故、其処まで苛立っているんです?
……心の何処かでは助けたいのでは?
実際の所、精霊族の中でまかり通っている現在の掟が
貴方には酷い“枷”に見えているのでは?
もし、少しでもそう感じているのなら……お願いします。
……俺達の案に協力して下さい」
<――何処でも良い、彼女の中に有る
理論の綻びを突けば
味方に成ってくれるかも知れない……協力してくれるかも知れないと思い
必死に理論武装し、半ば問い質すかの様に協力要請をした俺。
すると――>
………
……
…
「ええ……仮にも親や姉妹と呼ぶべき間柄である以上
何とも思わない方がどうかしているでしょう。
……当然、心苦しいに決まっています。
けれど……仮に私が貴方の言う論に全て同意したとしても
無の森を復活させる事など、私一人では到底不可能。
……勿論、あの森を元の姿に戻す事が出来れば
此処に居る獣人達が苦しまずに済む事も
元々の平和な森の姿に戻る事も容易に想像が付いています。
でも……貴方は知っているのかしら? 」
「……何をです? 」
「精霊族が何故、各自の森を守る事だけに執心し
大切な家族である筈の他の精霊女王達の手助けを全く以てしないのか。
いいえ……出来ないのかを」
<――キキョウさんはそう言うと
各精霊女王達に“割り振られた”森の現状を話し始めた。
まず……草花を絶やさず、生やし続ける為には
水と日光、そして良質な土壌が必要な事。
……その内、水と土壌が彼女達の力に依って維持管理されているのだが
それらは全て精霊女王の身体と“同一”であると言う事。
即ち……自らの健康、延いては森の健康を護る為
人間で言う所の“バランスの取れた食事”よろしく
均衡の取れた動植物の比率を心掛ける必要があると言う事。
……にも関わらず、人間を始めとする外部の存在が
それを日々荒らし続けて居ると言う事。
そして……崩れた均衡を整えるだけでも相当な力を必要とするが故に
例え助けたくとも助けられる余力が微塵も無いのだ……と説明された。
だが、この内容よりも更に俺を驚かせたのは――>
………
……
…
「……殆どの人間族は何も理解していないのです。
其処に居るエリシアさんの様に……乱獲はせず
弱った草花には治療を施し……水をやり
増え過ぎた草花は適度に刈り取り……森の均衡を整え
森の恵みを無駄にせず決して感謝を忘れない……
……もしもそんな者達ばかりならば
森の再建など容易に叶うと言う事を……」
<――と言い切った事だった。
そもそも、エリシアさんが“極度の薬草採集マニア”だとは知っていたが
まさか精霊族から認められる程の逸材だったとは……
……と言うかこの瞬間、俺のすぐ近くで
顔を真赤にして照れてるエリシアさんの姿は
本来ならば面白い姿なのだが、今日だけは神々しく見えた。
そして……エリシアさんの存在こそが
これら全ての問題の活路と成る事に、この時の俺は気付いていなかった――>
………
……
…
「い、何れにしろ……もし力が足りるのならば
キキョウさんにもご協力頂けると考えても良いのでしょうか? 」
「ええ、私達の森を慈しむ心……そして
姉妹達の事を考えれば、当然協力を惜しみなどしません。
本来は人間族の事も……嫌いではないのですよ? 」
「良かった……その答えが貰えただけでも力に成ります!
あっ、でもそうなると改めて謝っておきたい事が……」
「いえいえ……森を燃やす発言の事でしたら
“タチの悪い脅し”として後世に語り継ぎますからご安心を……」
「い゛ッ?! ……いやいやいや!!!
完全に根に持ってるじゃないですか?! 」
「ふふふっ♪ ……冗談です。
でも……“根”に持つのは森を守護する存在の癖ですよ?
さて、主人公さん……もし本当に全精霊族が手を取り合い
傷ついた森や、失われた森を治癒する事が出来たならば
貴方達や……マグノリアが行い続けている
“精霊族の掟を逸脱した行動”の全てはきっと赦される筈。
いえ……少なくとも、私はそう願っています。
さて、マグノリア……掟の所為とはいえ
酷い事を言ってごめんなさい……でもきっと私は
貴女の行動力が羨ましかっただけかも知れない。
……陰ながらで申し訳ないけれど、私は応援しているから。
じゃあ……またね」
<――そう言い残すと
リーアの返事も聞かず煙の様に消え去ったキキョウさん。
だが……この瞬間、彼女の残した発言のお陰で
心做しかリーアの表情から悲しみが消えた様な気がした――>
………
……
…
「……さ~てとぉ! 主人公っちも皆もだけど~
夜も遅いし~今日の所は帰ろうぜぃ!
……あっ、主人公っちは“あれ”片付けてからだぞ~? 」
<――そう言ってエリシアさんが指差した先には
尚も三日月みたいな形で夜空に浮かび続けて居る
“終之陣太刀”があって――>
………
……
…
「ですよね~って……これ本当にどうやって消すんだッッ?! 」
「おいおい……主人公っち~?
普通の魔導技みたいに“魔導よ消え去れ”で消せるんじゃないのぉ~? 」
「あっ……そう言えばその方法が!
魔導よ、消え去れッ!! ――」
………
……
…
「あれぇ? ……消えないねぇ~」
「き、消えないですね……って。
あっ……」
<――突如として思い出した。
尚も夜空に浮かび続けて居る“極氷”には
あともう一段階“攻撃”が残っている事を。
そして、それを発動させない限り“消えない”って事を――>
「あ、あの……多分ですけど、あれを消す為に最終段階を発動させちゃうと
周囲に甚大な被害が及びかねなくてですね……」
<――そう。
もしも今、俺が“爆氷”……と、叫んだ場合
あれは空中で爆散し、周囲の森を凍らせてしまう。
……攻撃対象と成る魔物などが居れば別だが
対象物の居ない状態では、まず間違い無く最悪の結果を齎してしまうだろう。
だが……頭を抱え、悩みに悩んだ結果
“ある事”を思い出した俺は、急ぎモナークに連絡を入れた――>
………
……
…
「――な、なぁモナーク。
少し前、俺のレベル上げに使った
“割って魔物を呼び寄せる”奴の事なんだけどさ……
……あ、あれって何処の森でも使えるのか? 」
「使えるが……何故必要と成った? 」
「う゛ッ……そ、それはだな……」
<――この後
状況の説明をした俺に対し――
“貴様は先ず、後先すら考えられぬその甘さを一刻も早く治すべきであろうな”
――と、蔑む様に言い放ったモナーク
言い返したい気持ちをグッと堪えつつ
“お……俺もそう思うよ”
と答えた俺……ともあれ。
この後、獣人王国を訪れたモナークは――>
………
……
…
「フッ……月が二つとは面白い」
<――と開口一番、完全な皮肉をぶつけて来た。
そしてこの瞬間、俺は――
“二度と失敗しないぞ! ……若しくは
此奴が失敗した時に散々バカにしてやるッ!! ”
――と、強く心に誓ったのだった。
まぁ、何はともあれ――>
………
……
…
「と……兎に角、例の奴を頼むよ」
「フッ……準備は良いな?
征くぞ――」
<――言うや否や、例の“撒き餌”を割……らず
何故か魔導の詠唱を始めたモナーク
直後……次元の裂け目を発生させたかと思うと
其処から骸骨龍を召喚し――>
………
……
…
「その技で……此奴を倒してみせよ」
<――そう言った後
自らの背後に出現させた椅子に深く腰掛けると
一度指を鳴らしたモナーク
瞬間――>
「……うわぁぁッ!?
ばッ、爆氷ッッ!!! ――」
………
……
…
<――直後
凄まじい殺意で迫る骸骨龍に慌て
思わず“最終段階”を発動させた俺……だが
余りにも怖過ぎて思わず目を閉じてしまって居た。
……氷の降り注ぐ音だけが聞こえるが、状況は全く分からない。
この後……恐々としつつも薄目を開け
周囲を確認してみると――>
………
……
…
「い……い……生きてる?!
待て……森はッ!? ……無事みたいだ。
……良かったぁぁぁッ!! 」
「フッ……やはりな、貴様も少しは力を得た様だ。
少しは愉快であったぞ……ではな」
<――満足げにそう語ると
それ以上何も言わずに帰還したモナーク
……去り際、俺の実力をほんの少しとは言え
認めてくれる様な発言をしてくれた事は嬉しかった。
後で改めてお礼を言っておこう! ……それと。
……俺の周りで、違う意味で“硬直してる”獣人王国の皆さんに
全力で謝っておこう――>
………
……
…
「も……申し訳ありませんでしたぁぁぁぁっ!!! 」
………
……
…
<――主に
“俺の所為で”大騒動が起きはしたものの何とか獣人王国を救う事が出来た。
……勿論、根本的な解決はまだなのだが
少なくとも、救う為の手立ての様な物は見つけられたと思う。
今後、キキョウさんを含めた各地の精霊女王とも話し合い
“無の森”だけじゃ無く、彼奴が傷付けてしまった森々に至るまで
救う手立てを共に見つけていかなければ成らない。
この後、獣人王国の皆さんに一応の別れを告げ政令国家へと帰還した俺達
一方の俺は、明日以降の“激務”に備え
早々に自室へと戻りベッドへと横たわって居たのだが
同時に、ある事を“思い出して”居た――>
………
……
…
「あっ、マリアに指輪……渡し損ねちゃった。
……まぁ、また後日改めて渡せば良いか」
<――などとブツブツ独り言を言っていると
部屋の扉をノックする音が聞こえ――>
「主人公……少しだけいいかしら? 」
「ああ、構わないよ」
<――そう言ってリーアを部屋へと招き入れた。
瞬間――>
「今日の事、本当に有難う……大好きよ、アナタ」
<――言うや否や
俺に抱きついて来たリーア――>
「なっ!? い、いやその……リーアは大切な仲間だし
その仲間を悪く言われてムカついただけだからさ!
後ほら! ……まだ全部解決は出来てないんだし、全て解決して
リーアが嫌な立場を脱したらまた改めてお礼を言ってくれたら良いから!
そっそれまでは! 俺がもし悪く言われたら
リーアも俺みたいに反論してくれたら
それで良いんじゃないかなって思ってるし……ねっ?!
だからその……一回“離れ”よっか?! 」
<――鏡を見なくても分かる程真っ赤であろう俺の顔
その原因たるリーアを引き離す為、俺は必死にそう説得していた。
何とか離れてはくれたものの――>
………
……
…
「ええ、良いワ♪ ……って、その指輪は何かしら? 」
「い゛ッ!? いやこれはだな! ……」
<――と、更に慌てた俺を他所に
リーアは指輪をひょいと取り上げると――>
「……成程、抗精神支配系の魔導が掛けられた指輪ネ?
でも、アナタならこんな指輪……必要ないんじゃない? 」
「ああ、それはそうなんだけど……」
<――この流れならば真実を話しやすいと思った俺は
正直に“マリアに渡す予定の指輪だ”と打ち明けた。
すると――>
「あら……ならワタシが渡してあげるワ♪
それならアナタが気に病む必要も無くなるじゃない? 」
「おぉ!? ……凄く助かるよ!
いやぁ~正直に話してよかったぁ~ッ!!
……マジで有難うなリーア! 」
「……ええ、だからアナタも安心してゆっくりと休んでネ♪
後、本当に“有難う”を言うべきはワタシの方よ?
アナタ……有難う、心の底から大好きよ」
<――そう言った直後
俺の頬に口づけをしたリーア……この、余りにも突然の事に
完全に硬直してしまった俺の様子を見て少しだけ微笑むと
そのまま部屋を後にしたのだった――>
「とっ……取り敢えず寝なきゃだよな。
てか、柔らかかったな……って、いかんいかんッ!! 」
………
……
…
<――ともあれ、翌朝。
起床後、そっと頬に手を当てた俺。
顔が熱く成った――>
「……だぁぁぁッ! もう!!!
今日から忙しくなるし、そもそも
“複合娯楽施設”だって今日からが本番開店だし……
……何れにしろ仕事は山積みだ!
先ずは……朝食を確り食べて
今日やらなきゃいけない事をリストアップしなければ……」
<――獣人王国の問題や“無の森”問題もそうだが
そもそも俺には任されている仕事が山の様にあるのだ。
……皆と共にヴェルツの一階で朝食を摂りつつも
俺の頭の中は“やることリスト”で一杯で――>
………
……
…
「さん! ……主人公さんってば!!! 」
「ひゃぃ!? ……な、何だいマリア?! 」
「も~っ! “指輪のお礼”を言う為に声掛けたのに……」
「へっ?! ……リーア、何て言ってマリアに渡した? 」
「そのまま、事実をお伝えしてお渡ししたのですワ? 」
「いや……それじゃ意味なくねぇぇッ!? 」
<――どうやら、マリアを含め
俺が気にしていた程、気にしては居なかった様だったが……
……正直
朝から変に気疲れした――>
「ま、まぁいいや……兎に角
今日は大忙しだから、皆も気を引き締めて……」
<――などと話していると、早速ラウドさんから連絡が入った。
“開店式典で挨拶をして欲しい”
……との事だったので、通信終了後
直ぐに複合娯楽施設へと向かう事と成った俺達――>
………
……
…
「え~本日、晴れて本番開店と成りました
複合娯楽施設でございますが、完成に至るまでには
多大なるご助力を各種族の皆様、並びに……」
<――この所の忙しさ故に、絶対に頼まれる事が分かっていた筈の
“挨拶原稿”を全く以て作れていなかった俺。
だが、天才的な頭脳を持つ俺に取って
アドリブで挨拶をこなす事位……いや、嘘だ。
完全に、何処かで見た開会の挨拶を
頭の中で“切り貼り”して、それっぽく挨拶しているだけだ。
……とは言え、そんな“切り貼り挨拶”でも
各種族、魔族……そして、当初は反対派だった人達に至るまで
確りと聞き入ってくれて、中には感涙する人まで現れてくれた。
……有り難いと思う反面
今度からはちゃんと自分の言葉で言える様、確りと作っておこうと思った。
ともあれ……無事に本番開店を迎えた複合娯楽施設。
当初の予想よりも来場者は多く、皆
物珍しさも相まってとても楽しんでいる様子で――>
………
……
…
「良かった……これで少しは平和に成るかな? 」
<――と、数多くの来場者を眺めつつ
何気無く発した俺の一言に、モナークは――>
「フッ……貴様の甘さも少しは認めるべき物が有る様だ」
「へっ? ……あっ、ありがとな!
って、そうだ! 昨日、獣人王国でさ……」
「礼など要らぬ……あの程度の余興などにはな」
「お、おう……でもありがとな」
「フッ……構わぬ」
<――何と無くではあるが
この日、俺はモナークと少しだけ仲良く成れた気がした。
少しずつ、もっともっとお互いを理解し
平和な国……いや、世界全体を平和な形へと作り変えなければ!
そう、希望を持てた瞬間だった――>
………
……
…
「ま、まぁ兎に角……今日はお祭り騒ぎな感じだろうし
モナークも……勿論、皆も楽しんでてくれ! 」
「良かろう……ゲーム大会の様な物は有るのだろうな? 」
「へっ?! 勿論有る……筈……だと思う。
あれ? ……無かったっけ? 」
「全く……やはり貴様は“甘い”様だな」
「いや酷ぉッ?! ……」
《――政令国家が“お祭り騒ぎ”と成り
主人公の望む平和な国の姿へと少し近づいた頃。
“無の森問題”を引き起こした元凶たる存在
ライドウは――》
………
……
…
「さて……“進化個体”も増えた事だ。
そろそろ次の段階へ“進化”させるべき時か……おい“邪鬼”共。
“融合”だ……」
《――そう命じたライドウの眼前には
“悪鬼”とは違い、体色が少しばかり青味掛かった個体。
通称“邪鬼”と呼ばれる新種が集められており――》
「ハッ! 更成る融合を……ライドウ様の為に!!! 」
《――約十体程の邪鬼共はそう発すると
文字通り、代表する一体の身体へと融合して行き――》
………
……
…
「……漸く“狂鬼”が完成したか。
これで残す進化は“鬼之王”のみ。
後少しだ、後ほんの少し……待っていろよ世界中のゴミムシ共め。
フッフッフッ……ヒャァァァァッッッハッハハハハハハ!!!!! 」
===第百二八話・終===