第百二七話「“強大な国家”は楽勝ですか? ……前編」
<――俺が喜んでいたその横で
エリシアさんだけは複雑な表情を浮かべていて――>
………
……
…
「う~ん……まぁ?
“獣人族に対する扱いが寛容で、且つ強大な国家”
……って貰えてるってのは喜ぶべきだろうし、実際
獣人族の全体人口を考えても政令国家で簡単に保護出来るだろうけどぉ~?
でもね……」
<――そう言った瞬間、俺を見つめたエリシアさん。
喜ぶ俺に釘を差す様な……何と言うか
悲しみとも憂いとも違う……何とも説明のし難い眼差しだった。
そして……そんなエリシアさんの態度に
少し狼狽えてしまった俺を横目に――>
………
……
…
「まぁ……主人公っちみたいに心の底から優しい人が発起人と成って
全ての獣人族を引き入れた場合のある“危険”を考えたんだよね。
……確か獣人族の中には
人族を“食べる”奴も居る様に記憶してるんだけど
この王国内にその“手合”が居るかどうかは兎も角として
その件に関して、此方が安心出来る様な
ちゃんとした説明をして貰えると助かるんだけど~……
……勿論、出来るよね? 」
<――明らかに威圧的な態度でそう訊ねたエリシアさん。
無論、この質問に依って場の空気は悪くなった……だが
ざわつく獣人達を余所に
無礼とも取れるこの質問に真っ向から答える決断をした者が居た。
それは――>
………
……
…
「……仰る通り
獣人族の中には人族を喰らうとされている者も居ります。
そして……“私こそが”その種に分類されている事をご承知であったからこそ
貴女はそうお訊ねに成ったのでしょう? 」
<――そう言って、眉一つ動かさず
自らが“そう”である事を包み隠さず白状した存在
それは……ミヌエット王女であった。
だが、この驚きの自白を前に
同じく眉一つ動かさず――>
「……まぁ、飾らず言えばそうなるかな?
通称“化猫”って呼ばれてる古い種族が獣人族の長だった。
……って言う伝説が載った古い書籍を
昔、師匠から昔見せて貰った事が有るから
もしかしたらそうかなって思って聞いてみた~っ!
……で、率直に聞くけど。
王女様は“人間食べたいな~”って……思ったりするの? 」
<――そう訊ねたエリシアさん。
とは言え、余りにも“率直過ぎる”エリシアさんの質問に対し
獣人族の民達は皆“無礼だ”“不敬だ”と不快感を顕にしていた。
だが――>
………
……
…
「皆……静まりなさいッ!!!
我が王国と、この場所に住む民をお救い頂いた相手に対し
“答えられぬ”では余りにも不義理なのですッ!!
ですから……私は正確に、一切の飾り立て無く
質問に対し誠実に向き合う所存です……エリシアさん
民の無礼をお許し下さい……」
「別に気にしてないから大丈夫、それより……」
「ええ、勿論お話し致しますから……」
………
……
…
「……遠い昔、私の先祖に人族を食べた者が存在する事は
我々の歴史書にも記されていますから、当然私も知っています。
ですが……その行動には確固たる正当性が有ったのです。
そして、もしも私が同じ立場に置かれたのならば……
……きっと同じ行動を取るでしょう」
「“正当性? ” ……詳しく話して貰えるかな? 」
「ええ……人間族が“化猫”と呼び未だ恐れている者の正体は
私の御先祖様で、名を珠と呼ばれておりました。
……彼女は元々人族の女性、スミレと共に暮らしており
人族に対する拒絶意識は勿論の事“捕食欲求”など微塵も有りませんでした。
ですが……ある夜、余りにも帰りが遅いスミレを心配し
汎ゆる場所を探し回った彼女は、道の端で……
……見るも無残な姿で息絶えた
大切な友の亡骸を見つけてしまったのです。
“一体何故この様な目に! 誰がこんな事を! ”
……と、激しい悲しみと怒りに打ちひしがれた彼女は
スミレの亡骸を事細かに調べた後、あらゆる獣人族に情報を聞いて回ったのです。
結果として、彼女は犯人を見つけ……」
「成程……それでその犯人に復讐したら、人間族から
“化猫”呼ばわりされる羽目に成ったって事かな? 」
「ええ、端的に言えば……ですが
彼女の最後は悲惨な物だったと伝えられています」
「成程ね~……まぁ政令国家も元々王国って呼ばれてた時代は
人間贔屓で嘘八百な歴史本ばっかりだったし
きっとその珠ってご先祖さんは大切な人の仇討ちをしただけなんだろうし
そうやって“壊されなければ”
スミレって女性とずっと仲良く暮らしてたんだろうし?
まぁ、私が言うべき言葉は――
“確かめる為とは言え嫌な話させてごめん”
――って事かな? 」
「いえ、お気に為さらず……ですが、お気遣い痛み入ります」
「本当にごめんね……っと、主人公っち! メルちゃん!
見た所怪我人も結構多いし、治癒魔導任せた!
私は一応リオスに連絡入れとくから~」
<――先程までとは打って変わって
いつもの優しい姿に戻ったかと思うと
俺達に対し、そう指示を出したエリシアさん。
……この時、俺は敢えて“汚れ役”を買って出てくれたエリシアさんに
心の中で深く感謝しつつ、指示通りメルと共に治癒を担当し
マリア、ガルド、マリーンの三人は引き続き
獣人族達と瓦礫の撤去を手伝う事に。
だが、そんな中――>
………
……
…
「あ、あの……もしかして貴方様は、精霊族の……女王様ではねぇですか? 」
「ええ、そうですワ? ……この森のじゃないですけれド」
「す……すげぇ!
精霊族を……それも女王様を生で見られるなんて夢みてぇだ~!!
……おい、お前達! 祈りを捧げるぞ! 」
<――と、獣人族から崇められそうに成っていたリーア
だが――>
「ワタシに祈るのは……止めて貰えると助かるワ? 」
<――少し冷たくそう言うと、獣人族からの祈りを拒絶し
その場から逃げる様に俺の後ろに移動したリーア。
当然、この行動に依って
獣人王国の民達が悲しそうな表情を浮かべたのもそうだが
……何よりも、この妙に頑なな態度に違和感を感じた俺は
それと無く、リーアにその理由を訊ねる事にした。
すると――>
………
……
…
「なぁリーア……獣人族が嫌いとかってワケじゃないよな? 」
「断じてそんな訳有りませんワ?
ただ……精霊族にもルールが有るだけですワ? 」
「ルール? ……それって一体どう言う物なんだ? 」
「……単純ですワ?
精霊族に各自の守護する森が有る事は知っているでしョ? 」
「ああ、リーアの森は鬼人族の……」
「ええ、その通りですワ……そして
それ以外の森で精霊族としての能力を使ったり
本来、その場所を守護する精霊族に許可無く祈りを“横取り”する事は
精霊族のルールに著しく反する事なのですワ? 」
「そ、そうなのか……でもそれなら
例えばだけど、何処かの森が此処みたいに被害を受けてた場合でも
それを癒やしたりするのも駄目って事かい? 」
「勿論ですワ? ……そんな無礼な事をしたら
精霊族同士の争いが起きてしまいますワ? 」
「そうなのか……なら仮にだけど
自分だけでは絶対に癒せない程の被害を受けた場合に
手助けを頼むとかって事は出来ないの? 」
「ええ……森と共に消え去る事を選ぶ他ないですワネ」
<――最後の質問は不味かったと後から気がついた。
リーアがとても悲しそうな表情を浮かべていたのだから……この後
俺とリーアの間に何とも言えない重い空気が流れた。
だが……そんな時
リオスに連絡を入れ終えたエリシアさんが
上機嫌で俺の元へと走り寄って来てくれた。
嗚呼、ある意味助かった――>
………
……
…
「主人公っち~♪ リオスがめっちゃ感謝してたぞ~っ!
“全獣人族の祖である獣人王国を守ってくれて有難う”
って伝えてくれって言われたよ~ん♪ 」
「それは良かったです! ……って、全獣人族の祖って事は
獣人族の歴史って獣人王国から始まったって事ですか?! 」
「そうだよ? ……って、主人公っち知らなかったっけ~? 」
「はい、全然……俺はてっきり
獣人族は全員流浪の民なのだろうとばかり思ってました」
「あ~……えっとねぇ
流浪の民だけど~固定の家も有る感じだよ~? 」
「うん……良く分からないです」
「んまぁ細かい事は良いんじゃな~い? ……っと、それよりも!
一個だけ“面倒”な話をしなきゃ駄目なんだよね~……」
「面倒な話ですか? ……一体どんな? 」
「それがね……例の“無の森”が有るでしょ?
彼処の扱いについてなんだけど~……
……獣人王国を元の平和な姿に戻す為には
まず無の森を元の姿に戻す必要があるの。
けど、あの森を守護してた“神獣”……死んだって話でしょ? 」
「え、ええ……」
<――少し前
モナークから事細かに聞かされた一角獣の話。
……その話の中で、彼奴は確かに
一角獣の心臓を喰ったと言った。
そして、その行動により平和な森が
魔族に取っては楽園の様な場所、通称“魔の森”と成ったと言う話だったが
その後はライドウの持つ本の力に依って
“魔の森”は丸々何処かへと“移動”し……その代わりに
あの何も無い“無の森”が出来上がってしまった訳なのだが――>
………
……
…
「……まぁ当然、魔の森と化したその場所が有るよりは
現状の方が何倍も安全では有るんだけど~
とは言え……善であれ悪であれ“魔導そのもの”が消え去ったあの空間を
再び元の平和な森として復活させる為に必要な存在が
既に居ない事が何よりの問題なんだよね~」
「そうなんですか……解決方法は全く無いんですか? 」
「無い事は無いんだけど……まぁ、限りなく無いに近いかな? 」
「一応念の為お聞きしますけど、その方法って一体……」
「えっとねぇ~――
“全精霊族が協力して
少しずつ力を分け与えてあの場所に新たな森を生み出す! ”
――とか、万が一にも出来たなら超~簡単に解決するかもね~っ♪ 」
<――と、妙に可愛く明るく答えたエリシアさんだったが
その元気さの裏には“絶対に不可能”と言う心が透けていた。
……まぁ斯く言う俺も、つい先程リーアから聞かされた
“精霊族同士の横の繋がりの希薄さ”を鑑みた上で
“無理なのだろう”と感じては居た。
だが――>
………
……
…
「申し訳ありません……聞くとも無くお話を聞いてしまいました。
ですが、それが事実なのであれば
我が獣人王国は滅びの一途を辿るしか無いのですね……」
<――流石は猫系の種族と言うべきだろうか?
ミヌエット王女は遥か遠くから俺達の会話を全て聞いていたらしい。
ともあれ、彼女はこの直後――>
「……もしも許されるのならば
貴国で我が王国の民達を受け入れて頂ければと願っています。
ですが……王女である私だけは
絶対にこの場所を捨てる訳には参りません」
「……それは何故です? 」
「皆様が救援に来られる前……私達が隠れていた地下壕には
先祖代々の獣人族が眠る墓標が有るのですが
其処には勿論……先程話に出た珠の物も有るのです。
それを放棄する事など王女である私には絶対に出来ない。
……ですが、民達にまで
墓守の役目を押し付けるつもりなどありません。
ですから……せめて民達だけでも貴国に受け入れて頂きたいのです。
どうか、この通りです……」
<――と懇願するミヌエット王女を前に俺は苦悩していた。
全獣人族を受け入れる事など今の政令国家には容易い事だ……だが
本当の意味で“全員”で無いのならば……それは果たして
本当の意味で助けたと言えるのだろうか?
そして……本当の意味で全員を救う為
今、俺の頭に“浮かんで居る考え”を実現する事の出来る唯一の存在
精霊女王達に対し“精霊族のルール”って奴を著しく破ってしまう
この頼みを伝えた場合、それがもし精霊族の逆鱗に触れた場合。
……果たして、俺や仲間は元より
獣人王国の民達は無事で居られるのだろうか?
何よりも……仮にミヌエット王女の言う通りに彼女だけを“放棄”し
大勢の獣人族を助けたとして
獣人族の“祖”であるこの場所と共に王女が消え去った場合
獣人族にはどれ程深い心の傷が残ってしまうのだろうか?
……長い苦悩の末、気がつくと俺は
リーアに対し、頭を下げていた――>
………
……
…
「……勝手な事を言ってるとは重々承知してる。
だけど……話したくも無い筈の話を誠実に話してくれて
王女としての役目を全うすると言い切ったミヌエット王女を
俺はどうしても“放棄”出来ない……だから頼む。
リーア……精霊族全体と話し合える場を作る協力をして欲しい。
勿論これがルール違反なお願いだとは分かってる、だけど……」
<――其処まで言い掛けた俺の唇に指を当て
それ以上先を言わせない様にしたリーア
直後、彼女は――>
………
……
…
「……幾ら主人公やメルちゃんが選ばれし人間だとしても
ワタシやベンが他の精霊女王達に許可を取らず
これ程長くアナタ達と行動を共にしている時点で
本当は精霊族全体から見れば相当なルール違反なのですワ?
……にも関わらず、今に至るまで
他の精霊族から一切のお咎めは無いのですワ?
ならもしかしたら……他のルールも破ったって
何らお咎めが無いかも知れないってコト♪
喜んで協力してあげるワ♪
だから……もうそんなに暗いカオしないでネ? 」
「ほ、本当か?! ……有難うリーア!! 」
<――この直後、リーアと固い握手をした俺。
だが……この時の俺は
まだ、リーアの本当の優しさに気がついていなかった。
……彼女が俺と共に過ごす中で、今まで幾度と無く
ありと汎ゆる方法で俺や仲間を救ってくれた事。
……その所為で犯す事と成ったルール違反は
精霊族から見れば“死罪”と成ってもおかしく無い程の重罪ばかりで有った事。
そして……本当は“警告”など既に数え切れぬ程リーアの元に届いて居た事。
……そんな全てを悟られぬ様
俺や仲間の傍では笑顔で過ごし続けていたリーア。
彼女がずっと影で苦しんで居た事を、この時の俺は知らなかった――>
………
……
…
「……さぁてとぉ~!
主人公っちのとんでも無い解決方法についてだけどぉ~
勿論私も協力するけど、精霊族との話し合いの席では
元凶っちゃ元凶な魔王にも協力させないとだぞ~? 」
「そ、そうですね……ただ
モナークにその話をするのも良く考えたら胃が痛いですね……」
「まっ、其処は頑張れ主人公っち~♪
っとぉ! 胃が痛いで思い出したんだけど~
さっき“白猫ちゃん”が食料全滅したみたいな事を言ってたし~?
……と、言う事で!
私もお腹すいたし~……
“例のアレ”でチョチョイと食事を出しちゃえ~♪ 」
「ちょ?! ……エリシアさん!?
王女様の呼び方“それ”で固定はマズいですって!!
とは言え……確かに
皆さんに温かい食事も提供しないとですし……分かりました! 」
<――この後
例に依って俺は“公然の秘密”を使い
この場所にカレーを生み出す“前に”――>
「あ、あの……皆さんの中で
これを食べると身体に異常が起きるって食材はありますか?
……例えば“玉ねぎ”とか」
<――ミヌエット王女が“完全に猫科”で有る事を考えた時
この質問をしない訳にはいかなかった。
だが――>
「……原種と成る動物とは違い
人間に近い体組成をしていますから、問題は有りませんよ? 」
<――との事だったので、俺は準備の容易さと栄養価の高さを考え
一度生み出した経験のある“カレー”を生み出したのだった。
だが――>
………
……
…
「さぁ皆さん! 温かい食事を用意しましたので……」
<――と説明していると
ブランガさんが慌てた様子で――>
「だ、旦那! そいつを俺達に食わせる気か?!
其奴ぁどっからどう見ても排……」
<――魔族の時もそうだったが
再び“この説明を”させられる事に成るとは思っても見なかった。
直後、俺は例に依って
ブランガさんの口を塞ぎつつ――>
………
……
…
「え~……獣人王国の皆様。
本日の料理はカレーと呼ばれており
数多くの香辛料と具材を贅沢に使用した俺の故郷の国民食です……が。
見た目に起因する“格言”が一つございます。
“カレー食ってる時に、うんこの話すんじゃねぇ! ”
……獣人王国の皆様に置かれましては
間違っても“逆に言わない様”確りと心に刻み
芳醇な香辛料の香りとコク、そして豊かな風味をお楽しみ下さい」
<――もう一度言う。
まさか、再びこの説明をさせられる事に成るとは思っても見なかった。
……だが、二回目とも成ると若干殺気めいた語気の強さが漂ったのか
皆、申し訳無さそうにしながらカレーを受け取りつつ
精一杯のフォローを入れながら食べ――>
「……み、見た目で誤解しちまうが
味は天下一品の出来だな……美味いぜ! 」
「そうだな兄貴! 見た目は最悪だけど味は良いな! 」
<――まぁ、何れにしろ
若干不愉快なフォローだった事は言うまでもない。
……ともあれ。
暫くの後……食事を終えた俺達は、リーア協力の元
獣人王国を管理している
精霊女王との話し合いの席を設けて貰う事と成ったのだが――>
………
……
…
「あら……やっと連絡を寄越したのねマグノリア
隣りに居る“子”が貴方の肩入れしてる人間? ……ふ~ん?
……どうやら、それなりに“力”は有るみたいだけど
精霊女王の立場を考えれば……えらく割りに合わない道を選んだものね? 」
<――そう言いつつ、酷く蔑んだ様な表情を浮かべながら
何処からとも無く現れたこの森の精霊女王らしき存在。
……だが、何時もなら此程失礼な態度を取られれば
それなりに反論をする筈のリーアが、一切の反論をせず
俯き……ただひたすらに耐えていた。
正直、俺が代わりに何かを言い返したかったが
本人が我慢している横で詳しい事情を知らない俺が
万が一間違った発言でもしてしまえば、結果として
リーアの顔に泥を塗る事と成りかねないと思い、俺も必死に我慢をしていた。
……だがそんな中
彼女は“子”と呼んだ俺の方を向くと――>
………
……
…
「……私はキキョウ。
本来ならば人間族の前に姿を表す事なんてありえないのだけれど
貴方と……そちらの“ハーフ族のお嬢さん”には
それなりに“力”が有るみたいだから
今回に限った特例的な事だと覚えておきなさい?
まぁ? そもそも其処に居る
精霊女王の“面汚しさん”にも用事がある事だし……」
<――と、更にリーアを貶し続ける
キキョウと名乗った精霊女王に対し、俺は――>
「……特例でも異例でも何でも良いけどさ。
偉そうに講釈垂れるのは後にしてくれるか? 」
<――全く以て
“我慢”が出来なくなって居た――>
………
……
…
「なっ?! 人間族の分際で無礼なッ!! ……」
「黙れよ……今直ぐにこの森を
“特例的な”有り余る俺の魔導力で焼き払っても良いんだぞ?
てか、そもそもお前達のクソ掟じゃ
仮にそうなった場合でも仲間からの救援が一切貰えないって事は
ついさっきリーアから聞いたばかりだからな?
それを知ってる相手に対し……それでもまだ、その態度を続けるつもりか? 」
<――そう言った瞬間、ミヌエット王女は勿論の事
この場に居る全員が大慌てしていた。
だが、これは完全なハッタリだし
本当にそんな事をするつもりなど全く無かったのだが――>
「なっ?! ……マグノリア、何と言う事をッ!!
こ、こんな獣以下の野蛮人と手を組むだなんてッ!! ……」
<――幸運にも此奴は大慌てしてくれた。
そして俺は、これを好機と更にハッタリを効かせる為――>
「ほぉ? ……“子”から“獣”に格上げとは嬉しいねぇ?
まぁ、何でも良いが……質問に答えてくれればそれで良い。
答えないってんなら本当にこの森を焼き払うが……どうする? 」
<――と、強めにハッタリを“カマした”のだった。
一方……短い沈黙の後
精霊女王は――>
………
……
…
「良いでしょう……ですが。
マグノリア……此れで貴女の犯した罪は
言い逃れの出来ない事実へと確定してしまった様よ? 」
<――と、更にリーアを脅したキキョウ。
流石にイラッとしたので――>
「おい……だれが俺の大切な仲間を脅せって言った?
……よし、焼き払うか。
爆炎の魔導――」
「ま、待ちなさいっ!!! ……分かりました!!
発言を一時撤回しますッ!! ……これで良いでしょう?! 」
「“一時”ねぇ? ……じゃあ俺も、焼き払うのを“一時的”に止めるか」
「なっ!? ……わ、分かりました。
……発言は撤回します」
「よし……じゃあ俺も焼き払うのは止めるよ。
ただその代わり、これから先はちゃんと俺達の話を聞いて
質問にも答えて欲しい……本来はこの森の為にも成る話だからさ。
な? ……頼むよ」
「……それは“お願い”とは言いません、脅迫と言……いえ。
仕方有りません……聞きましょう。
聞けば……よいのでしょうッ?! 」
<――こうして俺は、少し“不本意な形で”
キキョウと呼ばれる精霊女王との話し合いを始める事と成った――>
===第百二七話・終===