第百二六話「……結局の所、仲間が居たら楽勝です」
<――現れるなり、酷く慌てた様子で
リオスの帰還を伝えてくれたアイヴィーさん。
……だが、そんな彼女の割烹着には“血の様な物”が付着していた。
まさか、危惧していた事が現実に成った訳じゃ――>
………
……
…
「リオスッ!!! ……」
<――直後
到着した先は魔族居住区内に建てられた“病院”だった。
正直、到着した場所が病院だった時点で冷静では居られなかったし
この上更に、ベッドに横たわって居るリオスの衣服が
大量の血液で赤黒く染まっていた事も俺の焦りに拍車を掛けてしまって――>
………
……
…
「クソッ……絶対に死なせないからな!!
完全回……」
<――慌てて治癒魔導を掛けようとした俺。
だが、慌てる俺の手を掴み静かに首を横に振った男が居た。
その男とは“リオス自身”だった――>
「リオス!? 何で止めるんだよ!? ……」
「心配してくれるのは嬉しいけど……落ち着いて、主人公
見た目で誤解させちゃったみたいだけど、僕は疲れて横になってるだけ
僕は何処も怪我してないから……兎に角。
……詳しい話は後でするから、僕よりもまず
“彼”に治療をして欲しいんだ……」
<――そう言うと
もう一つのベッドを指差したリオス。
其処に居たのは……リオスが“彼”と呼ばなければ
男女の区別すら付かない程に皮膚の殆どが焼け爛れ
“尻尾”で辛うじて獣人族と判別が出来る程の重度の火傷を負った男性だった。
この上、喉まで負傷して居るのか発する声は弱々しく
突如として激しく咳き込んだ瞬間、血反吐を吐き――>
「ッ!? ……い、今助けますからッ!!
完全回復ッ!! ――」
<――慌てた俺は直ぐ様治癒魔導を施した。
すると――>
………
……
…
「……ゲホッ! ゴホッ! な、何だっ?!
一瞬で全部治っちまったぞッ?! まるで奇跡みてぇな……っといけねぇ!
礼を忘れる所だったぜ! ……人間族の旦那、お陰で死なずに済んだよ。
……心から礼を言うぜッ! 」
<――真っ直ぐに俺の目を見つめながら、御礼の言葉を発した獣人族の男性。
……だが、そんな彼を見た瞬間
俺は“気を失いそうに成ってしまった”
何故ならば――>
………
……
…
「……なんでぃ? “アンデッド”でも見た様な面して?
全く可笑しな旦那だぜ……まぁ
一応俺が獣人族だって事位は理解してるだろうが
何れにしろ自己紹介は必要だろうしな! ……ってぇ事で!
俺の名前は……」
「知ってます“ブランガさん”……ですよね? 」
「なっ!? 何で俺の名前を言い当てやがった!?
……って、良く良く周りをみりゃあ魔族だらけじゃねぇかっ!?
お、おい! 兄弟ッ! ……こいつぁ一体どう言う訳だっ!? 」
<――言うや否や勢い良くベッドから飛び出したブランガさん。
尋常じゃなく警戒した様子だが、間違いなく俺の所為だ……と言うか
時間を戻す前の“出会い”などまるで知る筈も無い彼に
今此処で何を説明しても
余計に警戒されるだけだと考えた俺は――>
「お、落ち着いて下さいッ! おっ、俺がその……そう!
ど、読心術が使えるだけですから!!
そっ、そんなに慌てなくて大丈夫ですから! 」
<――と
完全なる大嘘をついたのだった――>
「そうだったのか……驚いたぜ。
だが、それにしても魔族だらけで旦那は人間族……だよな?
出来ればで構わねぇんだが、これについての説明もして貰いてえんだが……」
「ええ、それはですね……」
<――この後
“魔族受け入れ”に関する詳細な説明を聞いた事で
どうにか納得してくれた様子のブランガさん。
だが、その横では妙に慌てた様子のリオスが
ブランガさんに対し――>
「ねぇ、ブランガ……ねぇってばっ!!!
“獣人王国”の件は話さなくて良いの?! 」
「い、いけねぇ! ……そうだったぜ!
……旦那、アンタを見込んである大事な話があるんだ!!!
俺の故郷……獣人王国を救ってくれッ!!! 」
<――言うや否や、俺の足元へと崩れ落ちる様に土下座し
縋る様に幾度と無く――>
「頼むッ……救ってくれッ……!! 」
<――と、懇願し続けたブランガさん。
事情など一切分からないが、唯一つだけ確かな事があった。
それは――>
「ねぇ、主人公……僕からもお願いするよ“獣人族の絆は絶対”なんだ。
だから、彼のお願いは僕のお願いでも有る……お願いッ! 」
<――言うや否やリオスまでもが俺に対し頭を下げた事だ。
……無論、俺は獣人族では無いし
“獣人族の絆”がどんな物かなんて一ミリも知らない。
だが……俺が時間を戻す前、ブランガさんはリオスの遺志を継ぎ
命掛けで情報を伝えに来てくれた大恩人だ。
そうで無くとも、大切な仲間であるリオスが
これ程までに必死に頭を下げる姿を目の当たりにして尚
頼みを断る様な不義理をする気など、微塵も無くて――>
………
……
…
「二人共……まずは頭を上げてくれ。
勿論、引き受けるし……寧ろ、此方が頼みたい位だよ。
……てか、こんなに早く恩返しさせて貰えるなんて
ある意味では俺って幸運かも知れないって思ってる位だからさ」
<――そう言った俺に対し
ブランガさんは――>
「ん? ……恩返しだと?
よく分からねぇが……獣人族全体にって事かい? 」
「えっ? あっ、いやその! ……ま、まぁそんな所ですね!
……って、獣人王国の被害状況は? 」
「あ、ああ! ……今頃、王女様は
近衛兵と共に地下壕へお隠れに成ってる頃じゃねえかと思うんだが
それよりも……この国に対“狂乱鳥獣”の戦術に心得の有る奴は居るかい? 」
「ク……狂乱鳥獣?
名前すら初めて聞きましたが……兎に角
一度執務室へご案内しますから、戦略を立てましょう! 」
「ああ、頼むぜ人間族の旦……いや、主人公さんとやら! 」
「呼び捨てで構いません! 任せて下さい……必ず救いますから! 」
<――直後
ブランガさんを連れて執務室へと転移した俺は
ラウドさんに頼み、全大臣に緊急招集を掛けて貰った後
“狂乱鳥獣”について何らかの情報を持つ人物を探す事とした。
……結果、政令国家でたった一人
この魔物に関する知識を持った女性を見つけられた。
その、女性とは――>
………
……
…
「あ~……あれって普通に戦うと結構面倒な奴だった様な気がする。
……てか、人づてに聞いた話だからあまり詳しくは知らないんだけど
獣人王国のある場所ってそもそも、狂乱鳥獣と同時期に
奴らを主食にしてる魔物が押し寄せるから
大した問題には成らないんじゃなかったっけ? 」
<――と、博識な知識を披露しつつ
ブランガさんにそう訊ねたのは“エリシアさん”だった――>
「……良く知ってるなエリシアとやら。
だが、今年はそうも言えねぇ“天変地異”が起きちまったんだ……」
<――この後、ブランガさんの話す内容に
俺を含めた全大臣の表情が曇りに曇る事と成ったのだった。
それもその筈、彼は――
“ある日、ある森が一夜にして何も無い砂地に成った為に
其処に住んでいた筈の魔物が全て消え去ってしまい
結果として天敵の居なく成った狂乱鳥獣が
獣人王国を自由に襲える状態に成ってしまった”
――と、言う内容の話をしたのだ。
言うまでもないが……俺達には、その“ある森”に関し
“思い当たる節”があり過ぎて――>
………
……
…
「……話は分かりました。
少なくとも、俺は絶対に助けに行きます……が、出来れば
エリシアさんにもご協力頂ければと思っています」
「いやいや、私が行くのは当然でしょ~?!
って言うか“あれ”倒すって成ったら専用の薬品とか薬草持って行かないと
主人公っち程強くてもあっと言う間に殺られちゃう可能性だってあるんだから
本気で注意してね~? 」
「そうなんですか?! ……いや
なら余計に一刻も早く助けに行かないと! ……早く準備を! 」
「ほほ~ぅ? ……流石主人公っちだねぇ~♪
その調子で今日も“規格外な破壊力”を存分に見せつけてくれぃ~!
……絶対に必要になるから! 」
「なっ!? ……」
<――この後、獣人王国へと向かう人選が決定した。
エリシアさんと俺は勿論の事――
“もう二度と一人で動かない”
――と言う約束を早速破ってしまわぬ様、マリア達にも同行して貰う事に
俺達は先ず、今回の問題の発端である“無の森”へと転移し
其処からブランガさんの案内で獣人王国を目指す事と成った。
だが……暫く歩いた道の先
突如としてエリシアさんは立ち止まり――>
………
……
…
「皆、先ずは“これ”を予め飲んでおいて。
後、此方は奴らに睨まれた時に全力で噛んで。
……凄く苦いけど、ずっと口の中に入れておいて
そうしないと……多分間に合わないから」
<――そう言うと俺達に
小瓶に入った液体と謎の小さな葉っぱを渡したエリシアさん。
だが、何時に無く真面目な表情で指示を出したエリシアさんの様子に
俺を含め、皆慌てて薬液を服用し謎の小さな葉っぱを口に含む事と成ったのだが……
……成程、確かに凄まじく苦い。
俺もだが皆、戦う前から苦悶の表情を浮かべていた――>
「うげっ、苦過ぎですよこれ……」
「……でも、これが無いと奴らの特殊な能力に当てられて
強い錯乱状態に陥ったが最後
敵味方の区別さえ出来なく成る事も有るから本当に注意して。
……奴らと目があったら絶対に噛んで。
後……奴らは火の玉を吐き出すんだけど、水系の魔導で消すか
同じ火系の強力な魔導で打ち消すかしないと、例え避けても
地面に落ちた瞬間、広範囲に被害を齎すから本当に注意して。
……此処までで質問は? 」
「いえ、確りと理解しました」
<――直後
いよいよ獣人王国へと向かう事と成った俺達。
だが……“灼熱地獄”と呼ぶべき程に燃え盛る
獣人王国の姿を目の当たりにした俺達は
その“手遅れ”とも思える惨状に言葉を失っていた――>
………
……
…
「と……兎に角、火を消すッ!!!
水壁ッッ!! ――」
<――凄まじい勢いで燃え盛る獣人王国に向け
咄嗟に水魔導を放った俺……直ぐに火は消え去った。
だが……焼失した建物の周囲には
思わず目を背けたくなる様な焼死体……
……その惨状に耐えられずブランガさんは声を上げて哭いた。
そして……不味い事態は続いた。
この声に吸い寄せられる様に……一体何処に隠れていたのか
突如として大量に現れた狂乱鳥獣の群れは
ブランガさん目掛け、一斉に火の玉を吐き出し――>
「……なっ!?
間に合えッ!!!
氷刃ッ! 終之陣太刀ッッ!!! ――」
………
……
…
「――あ、危なかった。
てか、レベル上げてて良かった……」
<――心の底からそう思い発した言葉だったのだが……
……そんな俺の横で少しだけエリシアさんがクスッと笑った。
だが、これを皮切りに――>
………
……
…
「……よし、距離的にもバッチリ“斧りんマークⅡ”の間合いですッ!
オリャァァァァァッ!!! ……」
「私もよッ! ……悪魔之囁ッッ!! 」
<――マリアとマリーンの連携攻撃に始まり
ガルドはガルドで、その怪力っぷりを遺憾無く発揮し――>
「フンッッッッ!!! ……」
<――突撃してくる狂乱鳥獣を真っ二つに引き裂いた。
あ~……頼もしいけど若干“グロい”
とは言え……俺にこんな事を考える余裕があったのは
皆との連携が確り取れていたからだろう。
だが、そんな他所事を考えていた俺の目の前に
突如として一際大きな狂乱鳥獣が現れ――>
「ギギィィィィィッ!!! 」
<――と凄まじい鳴き声を上げた瞬間
俺の目を睨み据え――>
「――主人公っちッ!!
噛んでッ!!! ――」
………
……
…
<――意識の飛びかけた俺を
既の所でエリシアさんが呼び起こしてくれたお陰で
何とか薬草を噛み潰す事が出来た。
だが……その代わりに、苦過ぎて
“意識”では無く味覚が“吹っ飛んだ”
……ともあれ、この“センブリ茶”も裸足で逃げ出す程の
強烈な苦味の恨みとばかりに、俺の喉は迅速に……そして明瞭に
此奴を倒す為の魔導技を叫んだ――>
………
……
…
「氷刃・終之陣太刀――“極氷”――」
<――モナークの言う“格”
所謂“レベル”が上がって暫くの後
俺の覚えた技の多くには妙な変化が起きていた。
それは、トライスター専用の魔導書は疎か
普通の魔導書にも何処にも記載されていない“奥義”……と言う妙な項目が増えた事。
……勿論、魔導書に新たに記載された訳では無く
俺の脳内に、言わば直接“書き込まれた”様な形で。
兎に角……どうもこれらの技は一日の使用回数に制限がある代わりに
元となる技の“強化版”として絶大な威力を発揮し
何れの技に於いても、その凄まじく強化された威力が故に
これらの攻撃をまともに受けた対象は――>
………
……
…
「うひゃ~……主人公っち“規格外”に磨きが掛かってな~い? 」
「そ、そうですかね? アハハ……」
<――その姿形を留める事無く消え去る。
と言う……事らしい。
まぁ何れにしろ、この一際大きな狂乱鳥獣を最後に
周囲からは魔物の気配が消え去った。
……のは良いのだが、俺の使った奥義
氷刃・終之陣太刀:極氷は……どうやら
ただ単純に威力がアップしただけでは無かった様で――>
………
……
…
「あの~主人公さん? ……超巨大な“終之陣太刀”が
まるで“三日月”みたいにずーっと残ってますけど
あれは何時消えるんですかね~? 」
<――マリアにそう訊ねられた事を
皮切りに――>
「全く……主人公よ。
御主はたった今、吾輩の常識までも切り裂いたぞ? 」
<――ガルドからも
そう言われてしまった俺は――>
「えっ?! いっ、いやその……連発出来る技じゃないし
今回だけ多めに見て欲しいって言うか……兎に角ッ!!
どうやって消すのかも分からないのに
安易に使っちゃって申し訳有りませんでしたッッ!! 」
「い、いや別に責めている訳では無いのだが……」
<――若干だが平謝り状態に陥っていた。
ともあれ……先程まで半狂乱だったブランガさんも
何とか正気を取り戻してくれて居た。
だが――>
………
……
…
「……王女様ァァッ!!!
ミヌエット王女様ァァァッッ!!! ……」
<――と、今度は王女の名前を叫びながら
其処彼処の瓦礫を掘り返し始め……直後
そんな彼の横に行きそのまま黙々と手伝い始めたガルド。
その行動につられる様に俺達も手伝い始めた……だが
……正直、この凄惨な状況を見れば
誰もが“王女様”の生存は絶望的だと考えていたと思う。
……俺すらもそう思っていたのだから。
だが――>
………
……
…
<――バキッッ!!!
と大きな音が聞こえた直後、瓦礫の山から飛び出した一本の槍――>
「なっ?! ……間違い無い!!
この槍は近衛兵の槍だ!! ……おい皆ッ! 此処を手伝ってくれ!! 」
<――ブランガさんの一言に慌ててその場所を掘り返した俺達。
直後――>
………
……
…
「おめえ達は……近衛兵ッ!
王女様は!? ……ミヌエット王女様は無事なのかッ!? 」
<――瓦礫の下
地下壕らしき場所から現れた近衛兵らしき者達数名に対し
慌てた様子でそう訊ねたブランガさん。
すると――>
………
……
…
「ええ、王女様だけでは無く……貴方の兄上もご無事ですよ」
「良かった……ッ! ……良かったッ!! ……」
<――そう何度も何度も繰り返しながら
近衛兵達と固い握手を交わしたブランガさん。
……暫くの後、俺達は
たった今脱出したばかりの近衛兵達と共に周囲の瓦礫を撤去し
地下に避難していたと見られる多数の獣人達を地上へと脱出させる事に成功した。
一方で……脱出後、周囲を見渡しその惨状に嘆く者や
今生きている事に感謝をする者など、様々な声が出始めて居た頃――>
………
……
…
「……皆、静まりなさい。
今、皆が生きている事こそが何よりの奇跡なのです。
そして……ブランガ、貴方が危険を顧みず
自らの命すら投げ捨てる覚悟を持ち我が王国に救援を齎したその功績。
例えどの様な言葉で飾ろうとも、そのどれもが称賛には足りぬ事
これは私を始めとした獣人族の総意で有ると言えるでしょう。
有難う……ブランガ」
<――そう優しい声でブランガさんに語り掛け
ドレスの裾を掴んでお辞儀をした王女らしき女性。
……てかこのお辞儀、何て言ったっけ?
確か、カーテン……じゃなくて……そうだッ!
“カーテシー”だ!
……と、昔何処かで学んだ雑学がとっても変なタイミングで役立った事はさておき
皆から“ミヌエット王女”と呼ばれている、この女性の見た目が
完全に――>
………
……
…
「うわぁ……白猫ちゃんだ。
可愛いいなぁ~……愛くるしいなぁ~……“モフり”たいなぁ~……」
<――実は猫好きな俺としては
完全に“白い猫”な見た目の王女様に
思わず口をついて出てしまった本音ってだけなのだが
この場に居る獣人族の全員から睨まれた上――>
「王女様ッ! ……是非ともこの人間族の男を不敬罪にッ!!! 」
<――と、近衛兵数名からブチ切れられてしまったのだった。
だが――>
………
……
…
「……お止めなさいッ!!!
た、確かに私達獣人族からすれば少々……その、きっ際どい発言ですが!
にっ、人間族には人間族の……褒め方と言う物が
多少なりとも……存在するのかも……し、知れないのですからっ!!
……わ、分かりましたねっ!? 」
<――と、頬を赤らめながらも
必死に俺の“失言”をフォローしてくれた白猫ちゃん。
もとい……ミヌエット王女に対し
流石に少し申し訳無い気持ちが芽生え始めて居た時――>
「いえいえ、主人公さんは万年ド変態ですから極刑でも構いませんよ~? 」
「ちょッ?! マリアッ?! 」
<――と、マリアの一言に大慌てする羽目に成ったのだった。
ともあれ……暫くの後
話は現在の被害状況へと移り変わり――>
………
……
…
「死者は一八名……これでも奇跡的と言える人数でしょう。
ですが……食料庫も畑も家畜も全て焼失し
食料と呼べる物は地下壕にある僅かな備蓄食料のみ。
怪我人は多いのに、その治療に必要な物資もその殆どが焼失……
……口に出す迄も無く、被害は甚大です」
<――ミヌエット王女は目を潤ませながら
現在の被害状況をそう表現した……だが当然、俺達も黙ってはいなかった。
エリシアさんの権限も……勿論、俺の権限もだが
全員の持てる権限をフルに活用する事を前提に
ラウドさんへ連絡を入れた。
の、だが――>
………
……
…
「なっ!? ……顔が見える魔導通信を行う人間?!
それに……其処に座っているのは魔王ッ?!
まさか貴方達は……魔族の手の物であったのかッ?! 」
<――と、再び大きな誤解を生んだものの
ブランガさんが間に入り、何とか事なきを得た俺達。
と言うか……この短時間で気疲れが酷い。
ともあれ、救援物資や建築資材……それに関連した人員なども
政令国家から融通する事で話を纏めた後
通信を終えほっと一息ついて居た俺達を他所に
ミヌエット王女は、少し疲れた様な表情を浮かべつつ――>
………
……
…
「ブランガ……どうやら私達は“凄まじい国”に救援を頼んだ様ですね」
<――と、少しだけ愚痴めいた事を言った。
だが、その一方で……この様子を見ていたエリシアさんは
ミヌエット王女に対し――>
「えっと~……王女様に二~三質問があるんだけど良いかな? 」
<――と、少し真剣な面持ちでそう言った。
そして
“何でしょう? ”
と、直ぐに返事を返したミヌエット王女に対し
エリシアさんは――>
………
……
…
「……先ず、狂乱鳥獣の脅威が去ったのは
一時的な物って事は理解してくれてるよね? 」
「……ええ、恐らくはそうなのでしょう」
「良かった……じゃあ次。
……そっちに居るブランガって獣人さんが
リオスに偶然出会ったっぽいのは分かったんだけど
もしリオスに会わなかった場合
どうやって獣人王国を救う為の救援を呼ぶつもりだったの? 」
「それは……」
<――この質問を受けた瞬間、ミヌエット王女の表情は少し曇った。
だが、彼女は意を決した様に真実を語った――>
………
……
…
「……何れにしろ、政令国家を頼るつもりでしたし
貴国以外に私達獣人族を助けて下さる様な国家など……
……恐らく有りはしないでしょう」
「ふ~ん? ……でもさ。
政令国家とまだ国交も何も無い段階で良く、その結論に達したね?
それは一体……どうしてかな? 」
「ええ、何故ならば――
“獣人族に対する扱いが寛容で、且つ強大な国家”
――として、貴国の名が我ら獣人族に轟いているからです」
<――この考えを聞かされた瞬間、俺は心の底から喜んだ。
だが、その一方で
何故かエリシアさんだけが複雑な表情を浮かべていて――>
===第百二六話・終===