第百二五話「享楽に“溺れる”? ……いいえ、時には“怯える”のです」
<――マリアに覆い被さられ身動きが取れなく成っていた俺は
必死にマリアを説得していた。
だが――>
………
……
…
「……ほらほらぁ~っ♪
チューってしましょうよぉ~チュ~ってぇ~♪ 」
<――そう言いながらガッチリと俺の顔を押さえつけ
その柔らかそうな唇を、ゆっくりと俺の唇へと近づけ始めたマリア――>
「い、嫌だ……頼む、止めてくれッ!!
お……俺はッ!! そんな“物”の力に操られてるマリアと
“そう言う事”に成るのだけは……嫌なんだッ!! 」
<――精一杯の説得を試みた俺。
だが……説得も虚しく、必死で抵抗する俺の手を軽々と押さえつけ
艶めかしく笑みを浮かべると……そのまま
俺の唇を奪わんと少しずつ顔を近づけて来たマリア
……後数センチで、俺よりもマリア自身が
とても不本意な結果と成る事は火を見るより明らかだ。
だが……情けない程にこの状況を打破する為の“腕力”が足りない。
と言うかそもそも、ロベルタさんの“純粋な愛”だと思ったからこそ――
“大切にするべきだ”
――そう思った俺が
たとえ一瞬でもそう思ってしまった俺が……馬鹿だったのだろうか?
それとも……淫魔は好みの相手にこんな手段を使う物なのだろうか?
何れにしろ、その所為でマリアがこんな風に
“キャラじゃない”事をしている現状は断じて許せる様な状況じゃない。
とは言え……俺の腕力はもう既に限界を迎えていた。
このまま、マリアと俺は……
……こんなにも不本意な形で
不本意な享楽に溺れる事になるのだろうか? ――>
………
……
…
「そんなのは……絶対に嫌だッ!
もっと俺はマリアの心を大切にしたいんだッ!!
少なくとも、こんな形でだけは……
嫌だァァァァッッ!! ――」
<――最後の力を振り絞り、必死に抵抗した俺は
何とか片腕を振り解く事に成功した。
そして――>
………
……
…
「……マリア、お前は操られてるだけなんだ。
頼む、もっと順序立ててからでも遅くないだろ? 」
「フフフッ♪ ……そう言えばですけど
“嫌よ嫌よも好きの内”って言いますよね~っ♪ 」
<――俺の必死の説得が届く事も無く
更に“おっさん臭さ”に拍車の掛かった発言を繰り出したマリアは
その直後、俺の服を脱がそうと弄り始めた……ってマズいッ!!
これ以上は……今度は俺の理性が保てなく成ってしまうッ!!
尚も必死に打開策を考え……そして
とても単純な事に気がついた俺。
要するに、マリアは“操られている”訳で――>
………
……
…
「マリア……転生前、あの場所で告白した位だし
俺も確かにお前の事は大好きだよ……でもな。
せめて……操られてない状態でコイヤァァァァッッ!!! 」
<――まぁ、後で考えれば“どうかと思う発言”なのだが
兎に角、俺は……マリアの胸元から
“優待券”を引き抜くと、出来るだけ遠くへ放り投げた――>
………
……
…
「……あの、主人公さん?
顔、近くないですか? ……って言うか、半裸で私に密着とか何事ですか? 」
「へっ?! ……いやいやいやッ!!
ゆ“優待券”の力とは言え今の今まで俺を襲おうとしてたのはマリアだろ?!
良いから離れてくれよ! てか……俺だって恥ずかしいし
“色々と”必死に押さえてたんだぞッ!? 」
「何を言ってるのか全く以て理解出来ませんけど
要は――
“私の事を襲おうとしてた事への言い訳を言ってる”
――って事だけは理解しました」
「はぁッ?! ……何一つ分かってねぇじゃん!?
寧ろ俺が襲われてたのッ!!! 」
「はぁ~っ……呆れた言い訳ですね主人公さん。
まぁ、夜も遅いみたいですし、これ以上騒いだら
他の人達に迷惑になりかねません……一応、今日の所は許しておきます。
じゃ……私は帰りますね~」
「えっ? ちょ?! ……って、行っちゃった」
<――考えられない程の責任転嫁をした後
そそくさと部屋を去ったマリア。
……そして、睡眠を妨害された挙げ句
半裸に“剥かれた”状態で部屋に一人残された俺は――>
………
……
…
「うん……てか酷くねッ?! 」
<――当然、色々と整理が付かない所も有るには有るが
今日みたいな日こそ絶対に体と精神を確りと休ませなければ。
……そう強く意識し目を閉じた瞬間
強烈な睡魔に襲われ、瞬時に眠りへと落ちた俺。
ああ、これでやっと寝られる――>
………
……
…
<――翌朝
起きて早々、部屋の隅に転がっていた“優待券”を拾った俺は
朝食も食べずロベルタさんの所へと転移し――>
………
……
…
「あら? もう来てくれたのねッ♪
……って雰囲気には全く見えないのだけれど
一体……何を怒っているのかしら? 」
「理由……分かりませんか? 」
「ええ、説明して貰えないと分からないわ? 」
「では、ハッキリ言います。
……この優待券には“媚薬”の様な効果が含まれてませんか?
勿論、言い訳が聞きたくて来た訳ではありませんが
ロベルタさんに一つだけ分かって欲しい事があります。
俺に“好き”だと言ってくれた事は嬉しかったですし
光栄だとすら思っています、だけど……」
<――と、苦情を言う俺を遮ったかと思うと
ロベルタさんは――>
「媚薬? ……そんな事はしてないわ? 」
<――そう言って
キョトンとした表情を浮かべた、だが当然――>
「……嘘はやめて下さいッ!
紆余曲折あってマリアに預かって貰ってたら
夜中にマリアが俺に襲い掛かって来たんです!!
振り解くだけでも大変だったんですよ?!
しかも優待券は赤く光ってて! ……」
「待って……その券には確かに貴方専用って書いた筈
なのに、今貴方はそれを他人に渡したって言ったわよね?
……なんて酷い男なの? 」
「そ、その件は申し訳無いと思っています……ってその話は後ですよ!
良いですか? ……嘘ついたり、誤魔化したりせず!
本当の事を話して下さいッ!! 」
<――そう言った瞬間
先程までの妖艶な雰囲気とはガラリと変わり――>
「……良いわ? 何も分かっていない貴方に
ちゃんと真実を教えてあげるから良く聞きなさい?
その優待券に私が施したのは魔王モナーク様に誓って“キス”だけ。
勿論……私達“淫魔”の身体からは
それなりに高純度な媚薬効果が漏れ出ている事は認めるけれど
その優待券に付けたキス位でそんなに効果が出るなんて有り得ないわ?
ましてや貴方に渡すと決めた時に
そんな卑怯な事をしようとは思ってなかったもの。
それこそ、魔導力が全く無いとかなら兎も角
貴方は魔王モナーク様が認める程の……」
「……えっ? ちょ、ちょっと待って下さい。
あのですね……マリアは、魔導適正が全く以て無くてですね……」
「あら……それなら仕方無いわね♪
……で、その娘とは“どう”だったの? 」
「ど、どうって一体……」
「あら? ……女の口からそれを言わせたいなんて
意外と貴方……変態さんなのね♪ 」
「い゛っ?! いやその……って、本題から逸れてますからッ!!
てかそもそも、例え僅かでも媚薬効果のある物を渡すなんて
万が一にも間違いが起こりそうな事をするのは、金輪際……」
<――と、注意喚起のつもりで少し強めに意見した俺に対し
かなりの不快感を顕にしたロベルタさんは――>
………
……
…
「全く……何処までも失礼な男ねッ!
私に此処まで言わせるんだから確りと聞きなさい?
私は貴方と“シたかった” ……その理由、貴方も何と無くは分かってる筈よ? 」
「い゛ぃッ?! いや……確かにあの時
俺の事を“好き”って言ってはくれましたけど……」
「違うわよッ! ……鈍感ね。
……貴方がどう思って居たのかは知らないけど
今まで貴方みたいに私の心を抱いてくれる男を見た事が無かったから
私は“それ”を渡したの。
それに……さっきも言ったけれど、私は貴方の魔導適正を見た上で
無理やり力で引き寄せるなんて卑怯な事をしない様に
出来る限り力を抑える様に意識しながらキスしたのよ?
なのに、分かってくれなかったなんて……酷いわ? 」
「そ、それは本当に申し訳有りませんでした……」
<――と、思わず謝ってしまった俺を見るなり
それまで不機嫌だったロベルタさんは嘘の様に笑みを浮かべ――>
「あら、そんなに素直に謝ってくれるなんて……
……やっぱりいい男ね、主人公さんは。
でも……本心では今回の一件で私の事嫌ってたりしない?
そうだったら本当に悲しくなっちゃうんだけれど……」
「えっ? ……そんな事は有りませんよ? 」
「あら嬉しい♪ ……私はこれから先も
貴方の事ずっと好きだから、それだけでも覚えていてね?
でも……結果として本当に申し訳無い事しちゃったみたいだし
お詫びって言ったら変だけど……
……貴方に、この“精神支配無効”の指輪をあげるわね。
私達の身体から発せられる強力な媚薬効果ですら
完全に無効化する程の力を持っているから
不安なら常に付けておくと良いかも知れないけれど……って
よく考えたらマリアって娘が付けておくのが一番安全かも知れないわね」
「確かにそうですね……って
そんな見るからに高そうな物を貰っても良いんですか? 」
「あら? ……私から渡された物をそんなに素直に信頼していいの? 」
「あッ!? ……まさかこれにも何か悪い仕掛けを?! 」
「冗談のつもりだったのだけれど……これに“も”だなんて酷いわ?
それに、本当に何か仕掛けてたらこんな事わざわざ言わないもの。
全く、本当に純粋で……罪な男ね。
まぁ良いわ……貴方の愛に少しでも“お暇”が出来た時は
私にその“暇つぶし”をさせて頂戴? 」
「い゛ッ?! ……そ、そのッ!!
せ、誠実にお返事をしたいので……数日待って貰えませんか? 」
「フフッ♪ ……本当にいい男ね、主人公さんって♪
けど……まさか男から焦らされる事に成るなんて思わなかったわ?
まぁ悪い気はしないし……許してあげるっ♪ 」
「す、すみませんでした……あっ、でも!
もう“優待券”みたいに僅かでも効力の付いた物
わ、渡してきちゃ駄目ですからね!!
そっ、それだけはしっかりとお願いしておきますねッ! で……ではッ! 」
「ええ、分かったわ♪ ……また会いに来てね♪ 」
<――直後
ロベルタさんに別れを告げ逃げる様にヴェルツの自室へと帰還した俺
だが、同時に帰還早々頭を抱える羽目に成っていた。
と、言うのも――>
………
……
…
「何と言うか……マリアの様子を見る限り
あれは多分“効力が出ている間の記憶が消える”系の奴だろうし
そうなると、いきなり指輪なんか渡したら変な意味に取られるんじゃ……」
<――と、そんな悩みを抱えたままヴェルツの一階へと降り
少し遅めの朝食を取る事にした俺。
だったのだが――>
………
……
…
「結構時間が掛かったし、流石に一人での朝食に成るかな?
って……マリアッ?! おっ……おはようッ! 」
「えっ!? ……しゅ、主人公さんっ!?
……オ、オハヨウゴザイマス」
<――俺の顔を見るなり、耳まで真赤になり
明らかに“何かを覚えている”素振りを見せたマリア。
もしかして……あの平然とした態度は演技だったのだろうか?
無論、そんな事を訊ねられる訳も無く……そもそも
普通に話す事すら難易度の高そうな状況に
俺達は互いに極端な口数の少なさで、朝食の時間を過ごして居た――>
………
……
…
「き、今日もご飯が美味しい……ね、マリア」
「ひゃい?! ……え、ええ! 」
<――この有様である。
だが、この調子でずっとギクシャクした物が残るのはお互いに避けたかったし
だからこそ、敢えて“話をする”と決めた俺は――>
………
……
…
「……あ、あのさッ!
き、昨日の優待券の事なんだけどッ!!
実は早朝にロベルタさんの所に行って確りと文句を言って来たんだよ!
そっ、それでね! ……あの優待券には!
そ、その……あ、抗えない位に強い
凄まじい“媚薬”の効果が掛けられてたらしいんだッ! 」
<――大嘘である。
だが、指輪を渡す為必死に取り繕った俺の作戦は――>
「……そ、そうですよね~! 私が主人公さんに襲い掛かるとか
天地がひっくり返ってもありえませんし~?!
そもそも、主人公さんはメルちゃんみたいな
“褐色肌”の女の子が好みですもんねぇ~? 」
「い゛ッ!? いやそれは確かに否定は出来ないけど……でもッ!
け、結局の所は中身だと思ってるし!!
マリアだって凄く素敵な女性だしッ!!
も、もし日焼けしても絶対に似合うと思うし!? ……」
<――と言う謎のフォローを続けていたら
ミリアさんから――>
「何だい? ……痴話喧嘩かい? 」
<――とツッコまれた所為もあり
俺とマリアは互いに顔を真っ赤にして余所余所しくなり
直後、この如何ともし難い空気に耐えられなく成った俺達は
お互いに適当な理由を付け、この場から離れる事を選んだのだった――>
………
……
…
「そっ、そう言えば俺……ラウドさんに呼ばれてたんだった~!
そ、そう言う事だから! ま、また後でなマリアッ! 」
「わっ……私もガンダルフさんに呼ばれてた気がします!
じ、じゃあ……また後で! 」
………
……
…
「って……呼ばれるも何も“長期休暇”貰ってんだよなぁ俺。
はぁ~っ……って、指輪渡し忘れてんじゃんッ!!
だぁぁぁぁっもうッ!!! 」
<――と、デカイ独り言を言いつつ
一応“アリバイ作り”の為、ラウドさんの所へと向かった俺。
すると――>
………
……
…
「ん? 主人公殿……休まんでよいのかね? 」
「い、いえその……何と無く心配だったので様子を見に来ただけですから! 」
<――苦し紛れにそう答えた後に気がついた。
……これが異性に対してだったら
完全に“好意を伝えてる感じに成るのでは? ”と。
実際、ラウドさんも妙な表情に成っていて――>
「わ、わしを心配してくれるとは嬉しいぞぃ……とっ、所でじゃが!
いよいよ明日が本番開店じゃぞぃ! 」
「……そう言えば、若干早まったんでしたっけ?
けど、それにしても長かった様で一瞬でしたね……」
「うむ……主人公殿も勿論じゃが、皆が協力してくれたからじゃろうて
正直、感慨深い物があるが……そう言えば主人公殿。
……帰って来てからと言う物、忙しさが故に
久しく“何時もの面々”で行動しておらんじゃろう? 」
「そう言えばそうですね……少し寂しい感じはあります」
「そうじゃろうと思っておったんじゃよ!
……じゃからして、御主達に
旅館の“貸し切り”をプレゼントしようと思っておったんじゃよ! 」
「えっ?! ……良いんですか? 」
「勿論……と言うか、元々は主人公殿の発案した建物じゃし?
一般解放されてしまえば貸し切りも難しく成ってしまうじゃろう?
故に……じゃよ! 」
<――この後、ラウドさんの粋な計らいに依って
メルとマリーン、マグノリアとガルド……そして。
“マリア”を旅館に誘う事と成った俺は――>
………
……
…
「そ、それでその……どうかな? 」
「……も、勿論ご一緒します」
<――まだ少しギクシャクとした感じはあったが
どうにかマリアも来てくれる事と成った。
ともあれ……豪華な食事と、今のところは政令国家にしか無い
“ビン牛乳”と“薬浴”を精一杯皆で楽しめば少しはマリアとの関係性も……
……そして、護りたかったのが理由とは言え
置き手紙と共に日之本皇国に置き去りにした所為で
少しだけ離れてしまった様に感じる皆との距離も
再び近づく事が出来るんじゃ無いだろうか?
……などと、そんな事を考えつつ
皆と共に旅館へと向かった俺は――>
………
……
…
「……皆、今日は俺の誘いを受けてくれてありがとう。
この所忙し過ぎた所為もあって
皆と一緒に行動出来なかった事が凄く寂しくてさ……だけど
ラウドさんから直々に長期休暇も貰った事だし
これからは沢山皆と過ごせると思う。
……後、改めて言わせて欲しい。
皆を置いていった事……本当に間違ってた、本当に本当にごめんッ!!
それで……凄く勝手かもしれないけど
俺の中ではまだ皆との距離が上手く戻せてない気がして……だ、だから!
この長期休暇を使って、改めて皆との関係性を元通り……いや
それ以上により良くしたいって思ってて……と、兎に角ッ!
か、乾杯ッ!! 」
<――我ながら言ってて暗いし長いし、最低な乾杯の音頭だった。
だが、皆はそんな俺の下手な乾杯の音頭に文句も言わず
まるで“俺が暗いのなんて何時もの事”ってな感じで
俺の下手な乾杯の音頭に付き合ってくれた。
だが、その一方で……マリアだけはずっとモジモジして
何かを言い掛けては止めるを繰り返していた。
勿論……“例の一件”を考えたら下手にツッコミを入れる事は出来ないし
斯く言う俺もそんなマリアに狼狽えて居たのだが
この直後、マリアは意を決した様に立ち上がり――>
………
……
…
「わ、私は……主人公さんの事が……」
「い゛っ?! ……」
<――この導入で後ろに来る言葉って
普通に考えたら“好き”か“愛してる”位しか思いつかないのだがッ?!
ま、まさか……
マリアがそんな事を……
俺に言う筈が――>
………
……
…
「その……大切なんです。
何時も色々と思い悩んでて、大変なんだろうなって思いますし
正直、客観的に見て失敗とかもかなり多いですし
変な選択ばかりする人だな~って思う事もありますし
何考えてるんだろ? とか唯の変態だ! って思う事すら有るんですけど……」
「おい……其処までにしてくれマリア
完全に悪口の濃縮された“原液”ってレベルに成ってるぞ? 」
<――何と言うか“いつものマリア”っぽい話し方だったので
いつも通りの感じでツッコミを入れただけだったのだが――>
………
……
…
「……良いからッ!
ふざけないで最後まで聞いて下さい。
……主人公さん自身のマイナス思考もそうですけど
主人公さんの行動に依る失敗もマイナスも
全て、全部ひっくるめて付き合いたく成るんです。
だから、これからは決して私達を置いて戦いに挑んだりとか
そう言う馬鹿みたいな行動は謹んで下さい。
私や皆だけが生き残ったって、私も……勿論皆も絶対に喜ばないですし
大切で、大好きだからこそ殺意が湧くし情けなくなる位には悲しいので。
……分かりましたか? 主人公さん」
「マリア……ああ、肝に銘じるよ。
……今後一切そう言う選択はしない、皆にも改めて
もう一度謝らせてくれ……今回、皆の心を護れない行動を取った事
本当に……すまなかった」
<――直後
頭を下げた俺に対し全員明るく返事を返してくれた……これでやっと
心の底から、皆と仲直りが出来た気がする。
“改めて皆との関係性を築き直す事が出来そうだ! ”
と、安心しかけていたその時……まだ一つだけ
“大きな問題”が残っている事を思い出した……“指輪”だ。
とは言え……いきなり何の脈絡も無くマリアにこれを渡すと
皆からあらぬ誤解を受けそうだ……と、暫くは頭を悩ませて居たが
そんな最中……この旅館を建てる際
早い段階で絶対に作ると決めた“ある場所”の存在を思い出した俺は
直後――>
………
……
…
「……さてと! 皆と仲直りも出来た事だし
今夜は貸し切りだから、皆精一杯楽しんで欲しい!
って……そ、そうだッ!
……この旅館には遊戯部屋もあるし、皆で行ってみよう! 」
<――そう。
“ある場所”とは“遊戯部屋”の事である。
そもそも……もしマリアに対し何の理由も無く指輪を渡せば
女性陣だけでは無く、ともすればガルドからも不満の声が上がるかも知れない。
……ならばいっそ、ゲーム大会の様な物を開いた上で
マリアとの勝負でワザと敗北し
景品としてこれを渡せば不平不満も出ないと考えたのだ。
そしてこの直後、そんな俺の策略に対し
一番賛成してくれたのは、他でも無いマリアで――>
………
……
…
「ええ! 色々と“吹き飛ばしたい”事もありますし……望む所ですッ! 」
「お、おう! ……なら、一人ずつ俺とのゲーム勝負でもして
勝った人には俺からプレゼントでも出すかな?! 」
<――そう言った瞬間
マリアは疎か、全員の眼に凄まじい闘志の様な物が見えた。
えっと……これ、もし仮に全員に敗北したら
俺は一体何をプレゼントすれば良いんだろう?
“最悪の事態”に備え再び頭を悩ませる事と成った俺……だが
事態は突如として予想だにしていなかった方角へと向いた――>
………
……
…
「……主人公様、大変ですッ!
獣人族族長、リオス様がご帰還に成られたのですが……」
<――部屋に現れるなり
酷く慌てた様子でリオスの帰還を伝えたアイヴィーさん。
だが、彼女の割烹着には血の様な物が付着していて――>
………
……
…
「なっ?! ……詳しい話は後で聞きます!!!
兎に角、今はリオスの所へ案内を! 」
「ええ! ……此方へ! 」
===第百二五話・終===