第百二四話「娯楽施設……本番開店直前ッ! 」
<――忙しさの所為も有るのだろうが
この所の数日間で俺の株が下がりっぱなしである。
勿論、原因が俺に有るのも分かっている――
“ビン牛乳問題”
“号泣問題”
――などなど。
と言うか、ありと汎ゆる場所で晒してしまっている醜態を
何とかして取り返さないと色々と不味い気がしていた。
そして……そんな事に頭を悩ませていた反面
数日前、マリーンの優しさに感動した結果起きてしまった
“号泣問題”を思い出した俺は、枕に顔を埋め――>
………
……
…
「マジでもう……マジでもうッ!!
あ゛ーーーーーッ!! ……」
<――と成りつつ、朝から最悪なスタートを切って居たのだった。
……ともあれ。
今日の予定は本番開店直前の複合娯楽施設の最終調整だったのだが――>
「絶対に此処らで挽回するぞッ! ……オーッ! 」
<――そう強く意気込んだ後、何時もより多めの朝食を食べ
第二城地域に建てられた
複合娯楽施設の最終確認へと向かう事と成った俺は――>
………
……
…
「っと……町並みはもう完璧だな」
<――と、大臣らしく仕事をこなしていた一方で
下がってしまった自分自身の株を少しでも上げる為
何か方法は無いかと考えていた。
そして――
“格好良い姿を見せる事が一つの方法かも? ”
――と考え、少し前“ヲタ神の村”で披露した“空中浮遊”を用いて
上空から娯楽施設の全体像を確認してみる事にした。
だが、何だろう……心做しかあの時よりも安定感が良い。
モナークの言う“格”……所謂レベルが上がったからだろうか?
兎に角、そんな調子で引き続き上空を移動していると――>
………
……
…
「主人公様! ……丁度良い所にお越しに成られました
大変お手数をお掛け致しますが、至急ヴェルツ二号店へお越し下さい」
<――空を飛んでいる事に何の驚きも見せず
そう声を掛けて来たのは、アイヴィーさんだった。
何と言うか……ますます割烹着姿が板についている。
そして……飛んでいる事をスルーされた恥ずかしさもあり
早々に地上へと降りた俺は、アイヴィーさんに連れられ
ヴェルツ二号店へと向かう事となった――>
………
……
…
「……それで、俺が必要な用事とは? 」
「ええ……まずはご報告と確認事項が幾つか
それから、ミリア様からの預かり物が一つ御座いまして……これなのですが」
<――そう言って手渡された物は封筒だった。
直後、開けてみると……其処には
ある“券”が入っていて――>
………
……
…
「……何々?
“ビン牛乳全種類生涯無料券” ……って。
……え゛っ?! 」
「ふふッ♪ ……ミリア様の仰られた通り、お喜び頂けた様で幸いです」
「えっ? あっ、いやその……たっ、確かに嬉しいですけど
なんだか恥ずかしいって言うか……って!
それよりもアイヴィーさん、さっき
“報告と確認事項が”って仰ってませんでしたっけ? 」
「ええ、それなのですが……まず、たった今お渡しした
無料券の“ビン牛乳”についてのご報告を。
……今後の生産予定と照らし合わせ、半月毎に約一〇種類程度を
入れ替える形でのご提供となる事をお伝えしておきます。
それと、二つ目なのですが――
二号店と旅館の飲食メニューが同じでは面白みが無いから
旅館限定や二号店限定のメニューを明確に分け提供する。
――との事でしたが、モナーク様のご希望により
“一部のメニュー”を何れの店でもご提供させて頂きたく……」
「あの、もしやとは思いますけど……カレーですか? 」
「その通りで御座いますが……宜しいでしょうか? 」
「ええ、その程度なら勿論! ……しかし
モナークの奴、半端無く気に入ったんですねカレーの事……」
「……ええ、大層お気に入りに成られたご様子でした。
それから最後のご報告と申しますか、その……」
<――と、今の今まで流れる様に報告と確認をこなしていたアイヴィーさん。
だが……妙に口籠り始め
挙句の果てには頬を赤く染め困った様な表情を浮かべて居る。
ん? まさか……俺への“告白タイム”か?!
って……そんな訳無いよな。
いや、待てよ? それなら……トイレに行きたいのか?!
違う、断じて違う……多分。
……だが、このままモジモジとし続けるアイヴィーさんを見ていても
“萌える”以外の結果が見えないし、思い切って俺から訊ねてみた所――>
………
……
…
「あ、あの……大変申し上げにくいのですが……実は
一部の……い、いえ“ある店舗”のみ、本番開店日を待たず
既に営業を開始しておりまして……」
「えっ? そのお店とは一体……」
「それがその……ロベルタ率いる“淫魔館”が……」
「あ~……彼処の事でしたか。
成程、それで照れ……あっ、いや……と、兎に角ッ!
彼処は食事処と同じで“仕方無い”のでは? 」
「食事処と同じく仕方無い? ……ハッ
まさか主人公様も既に入り浸って……」
「なッ!? ……断じて違いますッッ!!
お、恐らくですよ?! ……恐らくですけど
彼女達や一部例外的な魔族達の為の営業でしょうし
俺達人間側の都合で“飯を食うな”……って言う訳にも行きませんし!
それで食事処と同じく仕方無いって言ったんですッッ!
って言うか……その口振りだと、既に
“入り浸る程に”通っている人間が居るって事ですか? 」
「ええ……それも皮肉な事に、私達魔族と共に暮らす事へ
反対の立場を取って居た方々が相当数見られます。
……此の上更に不愉快な事に、皆コソコソと周囲を気にしながら鼻の下を伸ばし
下品な表情を浮かべ入店したかと思うと
帰り際には満足気に腑抜けた顔を浮かべ……全くッ!
あの者達の都合の良さには反吐が! ……いえ、失礼を
これでは只の私怨ですね……申し訳御座いませんでした」
<――そう言って深々と頭を下げたアイヴィーさん。
だが、どう考えてもそりゃあ不愉快だろうな――>
「成程……下半身は“親魔族”って事ですか。
確かに、都合が良過ぎて反吐が出そうですし
同じ人族としてお恥ずかしい限りです。
アイヴィーさんが感じられた不快感のお詫びと言っては何ですが……
……代わりに俺が頭を下げておきます」
「……い、いえ!
主人公様は何も悪く有りませんしその様に頭など下げられなくとも!
……寧ろ、私こそ要らぬ無駄話でお気を使わせてしまい
本当に申し訳御座いませんでしたッ! 」
「いやいや俺の方こそ! ……って
このままだとお互い“無限ループ”に陥りそうですし
此処は“痛み分け”って事で一つ! 」
「承知しました……お気遣い痛み入ります」
「いえいえ! ……っと、他に問題は無いですかね? 」
「ええ、これで全て終了で御座います。
ですが……最後にもう一度だけ謝罪を
要らぬ愚痴をお聞かせしてしまい申し訳御座いませんでした」
<――そう言うと再び深々と頭を下げたアイヴィーさん。
だが正直、アイヴィーさんが謝る類の問題じゃないと思うし
健気なアイヴィーさんの姿を見ていた俺の中で
“ある”悪い考えが噴出し始めていた所為もあり……
……俺は、尚も頭を下げ続けるアイヴィーさんに対し
俺の中の“悪い考え”を伝える事にした――>
………
……
…
「……あの、俺の悪い部分を見せてしまいますし
正直、幻滅されそうな理論なんですが
アイヴィーさんがこれ以上“居心地悪そう”なのは嫌なので
敢えて言わせて頂きたい事がありまして……」
「え、ええ……何なりと仰って下さい」
「有り難うございます、では……
……その、俺は元々反対派の人達の事を
俺の特異な力を怖がって居る人達だったり
理解出来ない物や現象の事を怖がっている人達だとばかり思っていたんです。
……でも、最近何と無くそれが“違う”って事に気がついたんですよ。
あの人達は……何とかして自分達の考え“だけ”を通したい
ある意味“過激派”とも言えるタイプの
存在なのかもしれないと思い始めているんです。
……だから、アイヴィーさんからすればそんな奴らが堂々と
ロベルタさんのお店に大挙して押し寄せて来るのは
正直虫酸が走るでしょうが……俺からすると
“利用出来る情報だな”と思っていたりしてまして……」
「利用……ですか? 」
「ええ“利用”です。
……奴らはこの上なく卑怯な決闘をモナークに申し込んだ。
けど、結果は情けない限りの惨敗……その上更に
モナークが掛けた情けのお陰で何とかこの国に居る事を許された立場です。
正直……それでもまだ、裏で何かしらの悪事を働こうとして居るのではと
ある程度警戒をしていたのも事実なのですが……
……アイヴィーさんからの情報で正直安心したんです。
一応俺も男ですし、未だにその……多感な気持ちを
少なからず持っていますから何と無く分かるのですが……
……男に取って、ああ言う類の場所に入り浸っている事実を
他者に知られるのは相当に恥なんです。
であれば、これ以上の魔族に対する批判など
絶対に口が裂けても出来ない筈だし……もしやってしまえば
自分達のマズい“情報”を全て、余す事無く
バラされるかもしれないと思わせる事が出来る。
……仮にそれを恥と思わない奴らだったとしても
そもそもが反対派の立場を取っていながら
魔族に対する血液供給に“ある意味で”協力をしている事実に依って
彼らの理論を完全に破綻させる事が出来る。
言ってみれば少し卑怯かもしれませんが……
……そう言う“利用”が出来るかなと思っています」
「……成程“ハニートラップ”ですか。
それも自ら掛かりに来るのですから利用も容易いと……主人公様。
失礼ながら私は、貴方様の事を“お優しいだけの殿方”だと見誤って居りました。
ですが……流石はモナーク様と契約を為された御方です
モナーク様と似た様なお考えをお持ちとは……御見逸れ致しましたッ! 」
<――そう言うと
凄まじい勢いで頭を下げたアイヴィーさん――>
「へっ? ……そ、そうなんですか? 」
「……ええ、私がモナーク様に対し
“何故反対派の住人を追い出さず、お残しに成られたのです?! ”
と訊ねた時など――
“敵を近場へ置く事は、何時如何なる時で在ろうとも
その全てを滅する事すら容易いと謂うでもあるのだ”
――と、仰られておりましたので」
「な、成程……に、似てる考えだなぁ~! 」
「ええ……流石は主人公様で御座いますッ! 」
<――そう“べた褒め”してくれるアイヴィーさんの姿を見ていると
とてもじゃないが真実など語れなかった。
……本当は、モナークがあの場で下したあの決断の事を
アイツの優しさだと勝手に思っていたのだから。
そもそも俺が“悪い考えだから”と前置きをしてまで話した
ある意味で卑怯とも言える搦手的な手段など遥かに超え
既に全ての“敵”を手中に収めていたモナーク。
駄目だ、考えれば考える程マイナス思考が俺の脳内で狂喜乱舞している。
……ともあれ、そんな“内心”を悟られない内に
一刻も早くこの場から立ち去りたいと思った俺は
早々にアイヴィーさんに別れを告げ
引き続き、施設内を探索する事にしたのだが――>
………
……
…
「はぁ~っ……自分の中からもっと甘さを
“抜かないと”だな……」
<――そんな独り言を言いながら
施設内を探索していると――>
「あら? ……“溜まっている”なら何時でもお越しになってね♪ 」
<――そう声を掛けて来たのは
淫魔族のロベルタさんだった――>
「い゛っ?! ……い、いやその“そう言う”意味では無くて!!
……って、アイヴィーさんから聞きましたけど
既に営業を開始してるそうですが……何も問題は有りませんか? 」
「ええ……お伝えするのが遅れてしまってごめんなさいね。
勿論、何も問題は無いけれど……あっ、そうそう。
私達のお店にも営業許可を出してくれた主人公さんに
渡すべき物があるのだけれど……受け取って貰えるかしら? 」
「この封筒は……ん? “事業計画書? ”」
「ええ……大多数の人間族からすれば淫魔館みたいなのは
“大手を振って自慢出来る商売じゃない”
って見られてると思うんだけれど、それって仕方無いじゃない?
……でも、せめて私達を受け入れてくれた貴方達にだけは
真っ当な“オシゴト”をしてるって事を少しでも分かって貰いたくて
主人公さんと大臣さん達で確認をして頂けたらって思ったのだけれど……
……頼んじゃっても良いかしら? 」
「それは勿論構いませんけど、その……一つだけ
言わせて頂いても宜しいでしょうか? 」
「なぁに? かしこまっちゃって……あっ、もしかして
他所よりも早く開店した事……やっぱり叱られちゃうのかしら? 」
「いえ、そうでは無くて……その、ロベルタさん
お店で働く皆さんにもこの話が“適切だと思ったら”お伝え下さい。
俺の元いた世……いや、故郷には
“職業に貴賎なし”って、言葉があるんです。
……俺にはロベルタさんや他の淫魔の皆さんが
どんな気持ちでこのお店を切り盛りしているのかなんて分かりません。
……でも、少なくとも俺は尊敬してますし
夢を売る素敵なお仕事なのだと理解しているつもりです。
だから“真っ当か”どうかなんて考えず
ロベルタさん達が苦しく無い働き方で……」
「もう……好きッ!! 」
「へっ?! ……」
<――瞬間、ロベルタさんは人目も憚らず俺に抱きついて来た。
凄く……凄くいい匂いがした。
って、そんな事を考えてる場合じゃないッッ!! ――>
「ロロロロベルタさんッ!? 」
「あっ、ごめんなさい……嫌だったかしら? 」
「いえ、その嫌とかでは無くて……とっ、兎に角!!
これからも楽しく営業を続けて下さいッ! ……と言う事で!
お、俺はそろそろ……」
<――と、心臓をバクバク言わせながらも
必死に平静を装い立ち去ろうとした俺の服の袖を掴むと――
“もう一つ渡したい物があるの……貴方だけに”
――そう言って、紙とペンを取り出すと何かを書き始めたロベルタさん。
俺が覗き見ようとすると――>
「……恥ずかしいから、後ろを向いててくれるかしら? 」
「しっ、失礼しましたッ! ――」
<――そうして暫くの後
俺に小さな封筒を手渡してくれた――>
「お家に帰ってから……一人の時に開けて下さいね? 」
「え、ええ! ……っと、それではまた今度ッ! 」
「ええ……待ってるわ♪ 」
<――直後
ロベルタさんから投げキッスをされた俺は
顔から火が出そうな程照れつつこの場から逃げる様に立ち去ったのだが
……正直、この調子では何かしらのヘマをしてしまいそうだし
乱れた精神を落ち着かせる為にも
一度、ヴェルツの自室へと戻る事にした――>
………
……
…
「……何だか違う意味で疲れた。
ってか、この封筒……気になるな」
<――本来、この国の大臣である俺が最も気にするべき封筒は
“事業計画書”の方なのだが、それよりも遥かに細く小さな封筒の方に
並々成らぬ興味が湧いてしまって居た俺。
“もしかして、ラブレターかな”
……とか
“好きって言われたよな? ”
……とか、様々な悶悶とした考えが俺の脳内を駆け巡っていた。
そして――>
「い、一応開けてみようッ! 」
<――誰に聞かせるでも無い“宣言”を結構な大声で発した後
恐る恐る細く小さな封筒を開き……そして俺は
“汎ゆる意味で”
中から出て来た“それ”に興奮した――>
………
……
…
「とっ……“特別優待券”だとッ?!
ね、念の為説明文を確認しなきゃ!! ……」
<――内容はこうだった。
“功労者である主人公さんに限り
たった一滴の血液で……私、ロベルタとの目眩く
魅惑の最上級な夜を体験出来る特別な優待券よ♪
使用回数も使用期限も無いから何時でも来てね♪
貴方だけのロベルタより……愛を込めて”
と……昼から身悶えしそうな程の“賄賂”を受け取った俺は
思わず、ヴェルツに響き渡る程の大声で叫んでしまった――>
………
……
…
「じ、直筆な上にキスマークが入ってるぅぅぅッッ!!!
てか……さっき書いてたのはこれかァァァァァッッッ!! 」
<――正直“童貞”な俺に取って
これ以上無い程に興奮するプレゼントだったし――>
「本当に……い、行こうかなッ?! 」
<――などと
結構本気で思い掛けていたその時――>
「主人公さん!? ……何かあったんですか!? 」
<――と、扉の向こうから
マリアの慌てた声が聞こえて来て――>
「い、いやッ?! ……別に何でも無いからッッ!! 」
「任せてください! 今助けますからっ! ……」
<――と、有無を言わさず
ミリアさんから預かってるらしい合鍵で部屋の扉を開けたマリア。
一方の俺は咄嗟に優待券を背中に隠した。
の、だが――>
………
……
…
「あの~……今、何を隠したんですか? 」
「な、何の事かなぁ~? ……って、マリア? 」
<――そう誤魔化した瞬間
マリアから凄まじい殺気を感じた俺は
咄嗟に隠した優待券を窓の外へと投げ捨て……
られなかった――>
「……優待券?
“貴方だけのロベルタより……愛を込めて”
主人公……さん? 」
「マ、マリア?! ……これには訳があって!!
……そ、そう!
俺が色々と魔族達を世話してるから
その感謝みたいな感じでプレゼントされたってだけで!
決して使おうとは思って無くてだな! ……」
「へぇ~? ……主人公さん。
一体……どう言う“お世話”をして貰うお積りだったんですか? 」
「そ、それは目眩く……って違うッ!!
……今のは完全に誘導尋問だぁぁぁっ! 」
「最低ッ! ……と、本来ならこれを破くべきなんでしょうけど
主人公さん専用って書かれてますし、もしかしたらこのロベルタさんって方が
主人公さんの事好きなのかもって思ったら……私がその気持ちを
勝手に無下にしちゃうのは駄目かなって思ってしまってたり。
……何だか難しいですね、これの扱い」
「マリアはやっぱり優しいな……分かった。
じゃあ、その“優待券”はマリアが持っててくれよ」
「へっ? でも、それだと……」
「良いんだ……正直、気持ちだけでも凄く嬉しい事だし
転生前に女性から此処まで“ド直球な”扱いを受けた事が無ったから
テンションが変な感じに成っちゃっただけだしさ!
そ、それに俺は……真剣な交際以外で
“そう言う”関係には成りたくないんだッ!! 」
<――正直言ってて物凄く変な感じだったが
思った事を全て口に出した俺の選択は間違っていなかった様で――>
「……分かりました。
主人公さんの気持ちを大切にしたいので
責任を持って……肌身放さず持っていますッ! 」
「へっ?! いや、肌身放さずは流石に……」
「良いんです! ……ではっ!! 」
「マ、マリアッ?! ……行っちゃった」
<――優待券を握り締め
恐ろしい勢いで部屋を立ち去ったマリア
だが、本当にこれで良かったのだろうか? ――>
………
……
…
「……ロベルタさんには悪いけど
少なくとももっとお互いを知らなきゃそう言う行為は……って
な何を考えてるんだ俺は?! ……とっ、兎に角ッッ!!!
昼ご飯でも食べて気持ちを落ち着かせてから
改めて本番開店前の最終調整しとくか……」
<――暫くの後、ヴェルツの一階で昼食を取り
再び娯楽施設の最終チェックへと向かった俺。
……夕方頃に全施設を回り終え、何処にも問題が無い事を確認した後
ロベルタさんから預かった事業計画書を手に
ラウドさんの居る執務室へと報告をしに行った――>
………
……
…
「……と、言う事ですので
本番開店日を少し早めても良い位には完成度が高く仕上がってました! 」
「うむ! ……しかし主人公殿、この所
流石に過労で倒れてしまわぬかと心配に成る程
色々と苦労を掛けてしまったのぉ……して、その代わりと言っては何じゃが
主人公殿に長期休暇を取って貰おうと思っておるんじゃよ。
と言うか、帰って来てからずっと無理難題ばかり押し付けておるし
そろそろ休んで貰わねば……わしが皆に怒られるんじゃよ」
「へっ? ……何故にラウドさんが怒られるんです? 」
「それはのぉ……主人公殿が皆の事を大切に思い
心配しているのと同じ様に……
……皆も心配していると言う事じゃよ」
<――そう言ったラウドさんの表情から
俺の為に皆がラウドさんに対し
直談判でもしてくれた様な雰囲気が何となくだが伺えた。
……改めてまた、皆にそれと無く御礼を言っておこう。
そんな事を思いつつ、俺は――>
「……分かりました。
ラウドさんが“そろそろ”って言うまではのんびり過ごす事にします!
って、流石にそれだと甘え過ぎですかね? 」
「いや、構わんぞぃ? 一ヶ月でも二ヶ月でも……一年でも構わんぞぃ! 」
「いや……それは流石に休み過ぎてません? 」
「まぁ半分は冗談じゃよ! ……さて、話は以上じゃ!
後はのんびり過ごすと良いぞぃ~! 」
「はい! ではお言葉に甘えて……って、外も暗く成って来ましたし
今日の所はヴェルツに帰って休みますね! ……では! 」
<――この後
夕食を取り早々に自室へと戻った俺は
この所の疲れを癒やす為、早めに寝る事にした。
……直ぐにベッドに入り、今日の出来事を考えつつ目を閉じたら
あっという間にウトウトとし始め……眠りに落ちかけて居たその時。
何やら部屋の鍵を開ける音が聞こえて来て――>
………
……
…
「ん? ……マリアか?
てか、こんな夜遅くに合鍵使って異性の部屋に入ってくるのは感心しな……」
<――と、諭す様に話す俺の言葉など完全に無視し
ベッドに居る俺に覆い被さると
そのまま身体を“密着”させて来たマリア――>
「ひゃぁッ!? ……い、いきなり何だよッ?! 」
<――そう慌てる俺に対し
マリアは――>
「ほら主人公さん……服脱いで……」
「はぁ?! ……ってちょッ!?
何いきなり凄い台詞吐いてんだよ?! 冗談は止め……」
「へぇ~? ……口では嫌がってても
身体は正直ですねぇ……此処とか……」
「ひゃぁん!? ……ってマリア?! お前ちょっと冗談が過ぎるぞ!?
そんな男女逆転した様な台詞吐いて何考えてるんだよ?! ……って
力……強ッ……?! 」
<――この世界に於いて、俺よりも遥かに力の強いマリア。
そんなマリアを必死に抑えつつ状況を把握しようとしていたその時
俺の視界に入った“ある”物……赤く
妖艶(妖艶)に発光する“それ”は――>
………
……
…
「……そ、それは“ロベルタさんからの優待券”ッ?!
まさか?! それがマリアをこんな風に?! ……って
マリアッ……力が……強過ぎる……ッ……! 」
「……えへへっ♪
力ずくでモノにされるのって……気持ちいいかも知れないですよ~?
そもそも主人公さん……転生前
私に愛の告白してくれませんでしたっけ~? 」
「い゛っ?! ……だから!!
おっさんみたいなテンション止めて一旦落ち着……って、ぬわぁッ?! 」
<――直後
俺の腕を押さえつけたマリアは、身動きが取れない俺の唇を――>
===第百二四話・終===