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第百二三話「色々と作ったり、色々と考えたり……大変ですが楽しいですっ! 」

<――何と言うべきか

驚くのも馬鹿らしい程の“謎”決着と成った露天風呂での一幕。


……とは言え、大きな騒ぎへと発展せず

何かしら過去に因縁を持つ両種族の争い事が割と平和に(まと)まった事は

本来なら飛び上がって喜ぶべき事態なのだと思う。


まぁ、そのお陰で更に気疲れが凄まじい事に成ったのだが……兎に角

この後、風呂上がりに皆でビン牛乳を飲もうと考えていた俺。


……だが。


マズったッ!!! ――>


………


……



「最悪だ……最悪だぁぁぁッ!!! 」


「ど、どうしたんじゃね主人公殿っ!? 」


<――頭を(かか)えて絶叫する俺を心配しそう(たず)ねてくれたラウドさん。


だが、理由を説明した所――>


「それが……風呂上がりのビン牛乳の“生産自体”を忘れてたんです。


……元々はミリアさんに頼もうと思ってたんですけど

この所の忙しさでつい後回しにしてたらそのまま忘れてて……」


<――さて。


この時の俺の気持ち、分かる人と分からない人で半々だろうか?

少なくとも俺は風呂上がりにビン牛乳を一気飲みする派である。


“腰に手を当てて一気飲みッ! ”


酒が飲めない、所謂(いわゆる)下戸(げこ)”の俺に取って

あれ程に爽快な行為は無いと思っている……だが

その“爽快感”が、ラウドさんには微塵(みじん)も伝わって居なかった様で――>


………


……



「何事かと思えば……主人公殿は時々大袈裟過ぎるぞぃ?

大体、飲み物なんぞ水でもジュースでも……」


「……な、何を言ってるんですか! 風呂上がりは絶対にビン牛乳ですよ!!


……って言うか(いく)らラウドさんでも、そんな暴論は怒りますよ?! 」


<――と、(はた)から見れば何とも馬鹿げた会話に見えるであろう口論を

暫くの間続けて居た所――>


………


……



「……二人共いい加減にしなッ!!


要するに主人公ちゃんは

“瓶に()めた牛乳”を風呂上がりに飲めたらそれで良いんだろう?

勿論……あたしが倒れた時に心配掛けちゃって

間に合わなくなっちゃったのは悪かったと思ってるよ?

だけど……“たかが牛乳位”でそんなに熱くなっちゃ駄目さね! 」


<――と、ミリアさんに(さと)された俺。


だったのだが――>


「あーッ! ミリアさんまで(ひど)いですよ!

さてはコップに(そそ)いだ牛乳と一緒だと思ってますねッ?! 」


「何だい……違うってのかい? 」


「全っっ然違いますよ!! ……大体、種類だけでも相当有るんですよ?


()ずはベースと成る牛乳のみのシンプルな物から

抹茶牛乳、チョコ牛乳、バナナ牛乳、いちご牛乳……そして!

大人から子供までかなりの人気を誇る……コーヒー牛乳ですッ!

ねっ?! 今思いつくだけでもこれだけの種類が……


……って、ミリアさん? 」


<――端的(たんてき)に説明すると……完全に引かれてた。


そして、過度な興奮状態の俺を(なだ)めるかの様に――>


「兎に角……あたしが出来る限りの種類は作ってあげるから

主人公ちゃんは少し落ち着きな」


「は……はい、すみませんでした」


<――若干、初動に問題を感じはしたが

これで一応……晴れてビン牛乳が生産される運びと成ったのだった。


けど、何か大きな物を失った気がする――>


………


……



「ふわぁぁぁっ……朝か。


さて、今日の予定は何だっけか……」


<――その場に居たほぼ全員から

ドン引きの眼差しを受けた“ビン牛乳”の一件……の、翌朝。


俺はヴェルツの自室で目覚めた。


……前日の騒動の所為もあり完全には疲れが取れていない状態ではあったが

一応俺もこの国の大臣である以上、昨晩(さくばん)露天風呂で急激に決まった“盟約”を元に

政令国家と魔族……そして、鬼人(オーガ)族との

今後の関係性に関する細かな話し合いの場を(もう)ける事。


そして……(いま)だこれらの問題に関する詳細を

何一つとして報告出来ていない日之本皇国に対し

出来るだけ早くこの事情を伝えておく為

ラウドさんに親書を書いて貰う必要があったりと

今日も朝から相当忙しい一日に成る事が確定していて――>


「ぼーっとしてても解決しないし……()ずは朝食だな」


<――と、何時もの様にヴェルツで朝食を取った後

執務室へと向かった俺……到着後、部屋の扉を開けると

其処(そこ)に居たのは各大臣達……だけでは無く

ゲストとして鬼人オーガ族族長、ヴォルテが(まね)かれていて――>


………


……



「全員揃った様じゃな……では()

鬼人(オーガ)族と我が国との友好関係についての議題じゃが

主人公殿が旅の途中、ヴォルテ殿と交わした約束事――


鬼人(オーガ)族の危機的状況

()しくは、単純な移住希望などを我が国で受け入れる”


――と言う取り決めについてじゃが、これについて一切の異議は無い。


じゃが、一つだけ“問題”があってのぉ……」


<――そう言うと、ヴォルテの顔色を(うかが)いつつ

何か言いたげな様子を見せたラウドさん。


暫くの後、意を決した様に口を開いたラウドさんは――>


………


……



「……過去の因縁があったとは言え、主人公殿が仲裁(ちゅうさい)をする迄

わし達の言葉が耳に届かぬ程にヴォルテ殿は興奮しておった。


無論、それ相応(そうおう)の過去が有ったのじゃろうし

其処(そこ)をとやかくは言わん……じゃが、正直な所

ヴォルテ殿しか“共通言語”を話せないと言うのは

(あら)ゆる意味でとても“危険”なのじゃよ。


……(ゆえ)に、意思の疎通(そつう)と言う点に()いて

最低限“イザコザ”が起きない程度の会話を互いに出来る様

何らかの手立てを用意せん限りは

友好関係を築く事すら難しいのではと思うておるんじゃが……」


<――ラウドさんの言う通り

確かにあの争いの後、国民から漏れ聞こえた声の中に――


“言葉の通じない異形(いぎょう)の赤鬼”


――と、鬼人(オーガ)族に対する恐怖から来る

一種の“拒絶反応”があったのも事実だったし

()()う俺も鬼人(オーガ)族のある特徴に問題を感じていた。


“興奮状態に(おちい)ると、普段は白い角が赤黒く染まる”


……正直、この現象を鬼人(オーガ)族に理解の無い者が見れば

一層恐怖心を(あお)要因(よういん)と成り得るだろうし

そう言う恐々とした見た目も含めれば

一刻も早く本来の彼らを正しく伝え、あらぬ誤解を

無くして行かなければ成らないと感じていたのだ。


そして……その為に様々な方法に頭を悩ませていたその時

下の階から妙に騒がしい声が聞こえる事に気がついた。


当然、警戒し耳を()ましたが……結果として

騒がしい声の主は“義務教育学校”の生徒達の声だと分かり――>


………


……



「……何だ、学校帰りの子供達か

皆勉強頑張ってるんだろうなぁ~……って。


……そうだッ!!! 」


<――突如として立ち上がりそう大声を上げた俺の所為で

執務室の皆が“ビクッ!! ”……と、成ってしまった。


無論直ぐに謝罪し、事無きを得たが……


……モナークから背筋が凍る程(にら)まれた。


ともあれ……俺はあるアイデアを実現する為

ヴォルテに対し、ある協力を願い出る事に――>


………


……



「ヴォルテ……折り入って“二つ”頼みがある

()ず一つ目は、鬼人(オーガ)族語の“翻訳本”に関する制作協力。


そして二つ目……出来れば、この城の一階にある

義務教育学校の“特別講師”として……時々で構わない。


子供達に対して鬼人(オーガ)族語やその歴史を教えて貰えないか?

……勿論、更に進んだ話をするならば鬼人(オーガ)族全体にも

共通言語を学んで欲しいとは思ってるけど

()ずは、受け入れる側である俺達が

歩み寄る事が出来るだけの知識が欲しい……どうかな? 」


「フム……全て承知しタ。


何と言ってモ……友の頼みであるからナ! 」


「おぉ! 助かるよ!! ……」


<――と、意外な程あっさりと全ての頼みを受け入れてくれたヴォルテ。


心做(こころな)しかラウドさんも安堵の表情を浮かべている様子だった。


そして……そんな穏やかな空気の中、話は次の議題へと移った――>


………


……



「では、次の議題じゃが……」


<――そう言うとラウドさんは

今回、政令国家が魔族を受け入れた件について

魔導通信の繋がらない一部の友好国や

友好的種族に対する正確な情報の伝達が遅れた事や

その所為で今回の様な“イザコザ”が起きてしまった事を

ヴォルテに対して深く謝罪し、同じく魔導通信の繋がらない場所として

新しい友好国と成った日之本皇国に対して

(いま)だ伝達の遅れがある事を大問題なのだと打ち明けた。


その一方で……そんなラウドさんの話を聞いていたら

もう一つのとある“大問題”を思い出した俺は――>


「……正直な所、あの国の長である天照様にもですが


どちらかと言うと、あの国に残ったディーン達に連絡しておかないと

そっちの方が後々に大事に成る恐れがありまして……」


<――と説明した。


そもそも……ディーン達が“魔族殲滅”を一つの目標としていた事を考えれば

連絡を(おこた)ってしまった場合の危険性は計り知れない。


……当然、ラウドさんに大統領として

日之本皇国に対する正式な親書を書いて貰う事も必要だが

ディーン達に対しては、間違い無く“俺からの”手紙じゃなければ

信用されない可能性があると感じていたのだ――>


………


……



「……と、言う訳ですのでラウドさんには大統領としての親書を。


……俺はその補佐と言った形で、ディーン達を含め

あの国でお世話になった方々にも手紙を送ろうかと思います。


まぁ、ディーン達以外に関しては若干職権乱用気味ですが……」


「ふむ、多少は構わんが……時に主人公殿

手紙をどうやって日之本皇国に届けるつもりじゃね? 」


「それは勿論、俺が超長距離転移で――」


<――そう返答をした瞬間、ラウドさんは

俺が“そうする事”を大統領権限を行使してまで禁じた。


そして、この異常とも思える対応に

慌てて理由を(たず)ねた俺に対し、ラウドさんは――>


「……主人公殿はこの所過労(かろう)気味じゃし

早急に休んで貰いたいとは思っておるんじゃが、残す所後少しと成った

娯楽施設の本番開店に向けた最終調整をして貰わねばならん。


それと……主人公殿がミリア殿に“懇願(こんがん)”した

“例の牛乳”の件が少々問題らしくてのぉ。


……ミリア殿から主人公殿に直接相談したいと連絡があったんじゃよ」


「こ、懇願(こんがん)って……って、ビン牛乳に問題?

何が()ったのか気にはなりますけど……それよりも

親書にしろ手紙にしろ早く届けないと大問題が起きかねませんし

やっぱり俺が届けるべきでは……」


<――と、(あせ)る俺を落ち着かせるかの様に

飛脚(ひきゃく)役”を買って出てくれた一人の男。


それは――>


………


……



「それ、僕なら多分……遅くても

三日あれば往復出来るんじゃないかな? 」


「で……でも、道中かなり危険が多いし……」


<――と、リオスが飛脚(ひきゃく)役を買って出てはくれたのだが

正直、後進復帰(ロールバック)前の記憶を考えれば

リオスに何かしらの伝達役を(たく)す事は避けたいと思ってしまった。


もし万が一、またリオスが……そんな絶望にも似た不安感を感じていた俺。


だったのだが――>


「それってもしかして……僕の脚力を信じてくれて無いって事? 」


<――そう途轍(とてつ)も無く悲しそうな眼差しで

リオスに(たず)ねられ――>


「へっ? ……そ、そんな訳無いだろ?! 」


「良かった! ……じゃあ僕が運んでも問題は無いよね? 」


「あ、ああ! そう……だよね……」


<――これ以上強く拒否する事も出来ず

漠然(ばくぜん)とした不安感を胸に残しつつも

この件をリオスに(たく)す事と成った俺に対し――>


「……えっとね、出来るだけ早く届ける為にも

今日の夕方までには手紙を書き終えててね! 」


<――と、期限を切ったリオス。


当然、俺はと言えば……会議終了後

手紙の為、急ぎヴェルツへと戻ったのだが――>


………


……



<――帰還後、直ぐに自室へと戻ろうとした俺に対し

ミリアさんが“ビン牛乳”についての話がしたいと言い出した。


だが……話を聞く限り、どうやら

“製造に関する遅れ”や“製造自体が難しい”などと言った様な話では無く……


……(むし)ろ俺の頼んだ種類の中で

(いく)つかの原材料がこの世界に無かった為

ミリアさんはその代わりにと、この世界特有の様々な食材を試し

驚く程に“豊富な”試作品を作ってくれていた様なのだが――>


………


……



「……どれも美味しいって好評でねぇ」


「へっ? ……良かったじゃないですか!

ってかそれなら何でそんなに落ち込んでるんです? 」


「いや、それがねぇ……今現在

試作品が五〇種類を超えたんだけど……


……全部にそれなりな人数のファンが出来ちまった事で

どれかを作らないって事がし(ずら)く成っちゃったんだよ……」


「げっ……ミリアさんの料理の腕が(あだ)になってません? それ」


「本来なら喜ぶべき事態なんだろうけどねぇ……ただ、何よりも()

主人公ちゃんに一つ謝っておかなきゃ駄目だと思ってる事があるんだ……」


「俺に謝る? ……何をですか? 」


「いや……“たかが牛乳”って言ったあたしの

考えが甘かったと今更ながら思ってる次第さね……」


<――そう言ったミリアさんの顔はげんなりしていた。


正直、何か解決法をと考えはしたが……投票制にするとしても

それぞれの味にファンが居る以上

選ばれなかった味のファンが残念がる姿をミリアさんも見たく無いのだろう。


……と言うか、だからこそこれ程迄に

“げんなり”しているのだろうと考えた俺は更に深く考え続けた。


そして……転生前のスーパーやコンビニの経営手法にまで

頭を(めぐ)らせる事と成った俺は、ある一つの解決策を思いついた。


その、解決策とは――>


………


……



「あの、ミリアさん……全部作りましょうッ!!! 」


「長い間考え込んでたから

余程(よほど)の良案が浮かんだのかと思ってたら……何だいっ?!


……それが出来たら苦労しないって言った筈さね! 」


「い、いえ……一度に全部では無くてですね!


何と言うか“期間限定メニュー”として、この時期はこれ!

みたいな感じで販売すれば不平不満も出づらくて良いかもと……」


「おぉ! 名案じゃないかい!

それなら全員の希望を叶えてあげられるねぇ……流石は主人公ちゃんだ! 」


<――と言うや否や

俺の頭を()でてくれたミリアさん――


“……こ、子供みたいで恥ずかしいですよ! ”


そう答えた俺に対し――>


「……あたしには子供みたいな物さね

だけど……顔に疲れが出る程無理しちゃ駄目だよ?

まぁ……たった今、主人公ちゃんに問題の解決を頼んだあたしが

言える義理じゃ無いんだけどねぇ……ごめんよ」


「いえいえ! 元々俺が頼んだ事ですし! ……って

もう少しのんびりして居たいのですが

ディーン達に手紙を書かないとなので、そろそろ……」


「あらそうかい……忙しいのに引き止めちゃってごめんよ

(クド)い様だけど、無理だけはするんじゃないよ? ……良いね?

ああ、それと……後で食事を持っていってあげるから

楽しみに待ってるんだよ? 」


「はい! 楽しみにしてますッ! ……では後程! 」


<――直後


自室へと戻った俺は

()ぐに書けるだろうと思っていたディーン達への手紙に

これ以上無い程頭を悩ませる事と成っていて――>


………


……



「親愛なる友よ……違う、何だか気色が悪い。


戦友よ! ……もっと違うな。


ディーンへ……簡素(かんそ)過ぎるかな?


……だぁぁぁぁもう!!!


ってか今まで人に手紙とか書いた事無いし、何をどう書けば正解なんだ?! 」


<――と、未経験が過ぎる(ゆえ)

始めの一文すら全く思いつかないと言う最悪の状況に(おちい)っていた俺。


だったのだが――>


………


……



「主人公? ……ねぇ、居る? 」


<――と、扉の向こうから聞こえて来たのはマリーンの声だった。


直ぐに扉を開けた俺に対し――>


「……あら?

もしかして主人公ったら手紙でも書こうとしてたの?

って……ま、まさかラブレターじゃ!? 」


「ち、違うって! ……日之本皇国に残ったディーン達や

お世話になった人達に対して今回の魔族受け入れに関する報告とか

色々しなきゃ駄目でさ……その為の手紙なんだけど

リオスから“夕方までには仕上げて”って言われてるから

出来る限り急がないと駄目なんだけどさ……俺、手紙とか書いた事無いから

一体どんな風に書けば良いのかすら解らなくて……」


<――と打ち明けた瞬間

マリーンは凄まじく得意げな表情を浮かべ――>


「ふーん? ……なら、私が手伝ってあげるわね!

私これでも元王女だし、そう言う事なら得意なの! 」


「まじか?! ……凄く助かるよ!! 」


「ふっふーん♪ ……で、()ずは誰に手紙を出すの? 」


「特に急ぐべき相手って意味も含め、ディーン達に対してなんだけど

今回の魔族受け入れとか……」


<――この後、マリーンに対し今回の魔族受け入れに関する説明を

一体どうするべきか悩んでいる事を打ち明けた。


すると、マリーンは高笑いし――>


「そんなの簡単よ! ()ずは……」


<――そう言うと、俺の伝えたい内容を簡潔(かんけつ)

つ、理解を()やすい様に調節し

凄まじい勢いで一枚の手紙を完成させたマリーン。


そして……呆気(あっけ)にとられていた俺に対し

“これで良い? ”と

完成したばかりの手紙を差し出してくれたのだが――>


………


……



「ん……何々?


“ディーン、お前と俺との間柄を考え

他人行儀に思える堅苦しい前置きなどは()えて書かないでおく。


今日、俺が手紙を送ったのは大切な仲間であるディーン達に

一刻も早く知って貰いたい事実を伝えたかったからだ。


俺は……帰還早々、魔族に亡国(ぼうこく)の危機を迎えた政令国家を守る為

魔族との熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げ……そして生き抜いた。


……その(すえ)に魔王と話し合い

互いに、持つ力の全てを掛けた破れぬ契約を結んだ。


その結果、ディーン達が殲滅(せんめつ)を望んでいる魔族の内

約半数を政令国家で受け入れる事と成った。


勿論、受け入れた者達に関しては二度と人間を襲わぬ様

一番の問題だった“食事”も、俺達人間と全く同じ物を食べて生活出来る様

愛しのマリーンのお母様、マリーナさんから方法を教わり

全魔族に対してその治療を(ほどこ)……”


……って。


ちょっと待て、マリーン」


「な、何よ? ……最高の手紙でしょ?! 」


「いや……“愛しのマリーン”は駄目だろ」


「何よ!? ……私の事嫌いなの?! 」


「す、好きとか嫌いとかの問題じゃなくて!! ……兎に角ッ!!


頼むから……此処(ここ)だけ消してくれ

真面目な内容が超絶(ちょうぜつ)“ブレる”からさ……」


「もう……分かったわよ」


<――暫くの後

“問題の部分”を削除し、再び俺に手紙を渡したマリーン――>


………


……



「どれどれ? ――


“……マリーナさんから教わった治療を全魔族に(ほどこ)した

これで金輪際(こんりんざい)、人間や各種族を襲ったりはしない事を断言する。


だが……(いく)ら言葉で説明された所で、ディーン達の心には

釈然(しゃくぜん)としない気持ちが(わず)かにでも残っているんじゃ無いだろうか?


……だから、その釈然(しゃくぜん)としない気持ちは

ディーン達が政令国家(こっち)に帰って来た時、第二城地域に新造された魔族居住区と

その居住区内に併設(へいせつ)された観光地を訪れた上で

再度判断をして欲しいと思っている。


そしてその時は、必ず俺に案内役をさせて欲しいとも思っている。


主人公より”


――なぁ、マリーン」


「な、何よ?! ……もう“無理やり”な文言は入れてないでしょ?! 」


「いや、()めようとしてるんじゃなくて……本当に有難う。


俺だけじゃこんなに素敵な手紙、絶対に書けなかったよ」


「そ、そうでしょ?! ……感謝しなさいよね! 」


「ああ、心の底から感謝してる……本当に有難う」


「も、もう分かったからっ!! ……次の手紙に掛かりましょ? 」


「ああ、後は……」


<――この後

アリーヤさん達に対する手紙を書き

テル君サナちゃんに対する手紙を書き

サーブロウ伯爵に対する手紙を書き

シゲシゲさんに対する“謝罪を含めた”手紙を

マリーンのお陰で凄まじい速度で仕上げる事が出来た。


言うまでも無いが……そのどれもがこれ以上無い程に素晴らしい手紙と成った。


そして……そんな素晴らしい手紙の中に

唯一(ゆいいつ)共通して入れて貰った俺の個人的な“願い”


それは――


“是非、政令国家に遊びに来て欲しい”


――と言う、手紙にはよくありそうな普通の文言だ。


だが、俺にとっては社交辞令でも何でも無い

まじりっ気の無い純粋な気持ちだった――


また皆に会いたい、皆と楽しく過ごした日々が懐かしい

かけがえの無い皆と、かけがえの無い楽しい時間を過ごしたい。


――そんな、心からの気持ちだった。


そして……そんな綺麗な気持ちだけを伝えたくて

()えて書かないと決めた事も沢山あった。


ゴブリンに関する過去が有るとは言え、アリーヤさん達の事を

友好国(メリカーノア)との兼ね合いで受け入れる事が出来ず

結果的には他国に任せるしか出来なかった俺自身の不甲斐無さ


出来ない約束にしたく無くて……でも、憧れてくれる事が嬉しくて

俺自身がまだまだ未熟者なのにも関わらず

安請(やすう)け合いとも取れる様な約束をしてしまったテル君から

師匠と呼ばれる実力には遠く及ばぬ現状の自分に感じる(あせ)りと不甲斐無さ。


人間不信を押してまで俺達に良くしてくれたサーブロウ伯爵に対する恩返しは

(いま)だ出来ているとは言い(がた)い不甲斐無さ。


政令国家への帰還早々、俺の所為では無いとは言え

結果的には約束を破ってしまったシゲシゲさんに対し

(ただ)謝る事しか出来ない不甲斐無さ。


……全ての不甲斐無さをそれぞれの手紙に書けば

読んだ相手が間違い無く暗い気分に成ってしまうだろう。


だが……俺が手紙を送る人達は(いず)(おと)らぬ優しい人達だから

きっと自分の気持ちを後に回し俺の事を気遣ってくれるだろう。


……いざ手紙と言う物に向き合った結果

そんな暗い事ばかりを考えてしまった俺。


そして……そんな不甲斐無さを隠してくれたマリーンに対し

心からの感謝を伝えたく成った俺は、マリーンに対し深々と頭を下げ――>


………


……



「マリーン、俺の不甲斐無さを隠してくれて……(まも)ってくれて有難う」


<――そう言った。


だが、マリーンは首を横に振り――>


「馬鹿ね……不甲斐無くなんて無いわよ。


……良い? 主人公。


手紙って言うのは、凄まじく遠くて過酷(かこく)な道を乗り越えて

やっとの想いで相手の所に届くの。


そして……その(ほとん)どが繊細で

壊れやすい硝子(ガラス)細工みたいな中身を持ってる。


だから、私は……貴方が()えて手紙に(しる)したく無いからって

“マイナス思考”と呼んで消そうとした、本来なら

“愛情”って呼ぶべき硝子(ガラス)細工を

割れちゃわない様にちゃんと“梱包(こんぽう)”しただけ。


大体……貴方の考えてる事なんて、ず~っと一緒に旅をしてた私達も

貴方が手紙を(おく)りたい人達も、何と無く理解してる事位

良い加減ちゃんと理解しておきなさいよね?


……さてと。


出来上がった手紙はリオスさんに渡すのよね?

外も夕暮れ時だし早くしないと……って、どうしたの主人公?


……え゛っ?! 」


………


……



「あ゛り゛がどぉ゛マ゛リ゛ーン゛ッ! ……うぅっ……」


<――彼女マリーンの優しさに感動し、つい号泣してしまい

恥も外聞(がいぶん)も無く嗚咽(おえつ)混じりに御礼を言い続けていた俺。


そして……この直後、夕飯を持って現れたミリアさんと

同じく手紙を受け取りに来たリオスに、この様子を思いっきり見られ

大恥をかいたのだった――>


===第百二三話・終===

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