第百二二話「順調に進むと楽しいです?! ……後編」
<――転生前、テレビでやってた“早朝ドッキリ”を
腹を抱えて笑っていた俺だが
実際自分がやられると全く以て笑えないって事に気がついた。
と言うか――
“この状況がドッキリで有ってくれ! ”
――そう、強く願う程には
見るからに一触即発な状況で――>
………
……
…
「待て待て待てッ!!! ……お互いに待ってくれッッ!! 」
<――直後
一か八か、身を挺して“両軍”の間に割って入った俺。
だがそんな俺に対し、鬼人族族長ヴォルテクスさんは――>
「生きて居たカ、安心したゾ……だが、何故魔王を……魔族共を庇ウ? 」
「そ、それは……仲間に成ったからです! 兎に角、矛を収め……」
「魔族が仲間だとッ?! ……堕ちたカ!? 主人公ッッ!! 」
<――言うや否や
俺に対しても警戒心を顕にしたヴォルテクスさん。
“……マズい、このままだと話すら聞いて貰えなくなりそうだ”
そう感じた俺は、全ての装備を急いで外しながら――>
………
……
…
「お……落ち着いて話を聞いて下さいッ!!!
……先ず、俺が今もヴォルテさんの味方だって確りと理解して貰う為
攻撃に使用出来そうな装備は全部外しますから! ……だから!
俺達には敵対する気が無いんだって事を先ずは理解して下さいッ!! 」
<――突拍子も無い行動に見えなくも無いが
気が動転し過ぎてる俺に出来た行動はこれが精一杯だった。
だが、これが功を奏した――>
………
……
…
「其処までされれば仕方有るまイ……一度話を聞こウ。
だが、納得出来ぬ内容成らバ……主人公、貴様毎……魔王を滅すルッ! 」
<――そう言われ“分かりました”と
伝えようとした俺よりも遥かに早く――>
「フッ……そう下手に出る事など無かろう主人公。
そもそも貴様は我と“破れぬ契約”を結んだ身……つまり
貴様が其奴に謙るその行動こそ我の顔に泥を塗る行為である……」
<――と、事をややこしくするモナークの発言のお陰で
ヴォルテクスさんは再び武器を構え直し、それに呼応するかの様に
モナークも凄まじい闘気を発し始めてしまった。
……正直、この場にいるだけで息苦しさを感じる程の
馬鹿げた殺気を発し続ける両者に対してもだが
今にも全面戦争が始まりかねないこの状況自体に
睡眠不足な俺は全くと言って良い程“耐えられず”――>
………
……
…
「い、いや……だから……
待てって……言ってんだろうがぁぁぁぁぁッッ!!
……この糞脳筋大馬鹿野郎共がぁぁぁッッ!! 」
<――早朝で頭が全く回らない上に
極度の緊張感で倒れそうだった俺は、つい……ブチギレてしまった。
そして……こんな早朝に
雄大な自然を有する第二城の領地に響き渡った俺の怒声は
“鬼人族の長”と“魔族の長”を
“斜め上な方向に”怒らせてしまった様で――>
………
……
…
「主人公……永き世を過ごす我にすら理解出来ぬ
侮蔑言葉を放った気骨は認めよう……だが
我の戦に水を差し、無事で居られる保証など有りはしないぞ……」
<――凄まじい殺気を込めながら俺を威圧したモナーク。
そして――>
「ふむ……“脳筋”は理解できぬガ
“糞”と“大馬鹿野郎”はしっかりと理解しタ。
主人公……斯様な啖呵を切っタ以上
相応の理由を話せなければ、魔王との戦いの前に
御主を滅する事になるゾ! 」
<――同じく凄まじい殺気で俺を威圧したヴォルテクスさん。
だが……こんな状況にも関わらず
何故か、ビビるどころか余計にブチギレてしまっていた俺は――>
「……良いからてめぇら全員黙れ。
モナーク……お前は俺の仲間に成る事を選んでくれたんじゃないのか?
にも関わらず、その俺の願いを全く以て無視した挙げ句
“戦馬鹿発症”とか勘弁してくれよ。
次にヴォルテさん……アンタは
別れ際のあの時、俺に何らかの恩を感じてくれてた筈だよな?
大体……遊びに来たのか移住しに来たのかは知らないが
“他人の家に上がって直ぐその家の人間と大喧嘩”って
“どの種族に於いても”……かなり失礼な行動じゃないのか?
……と言うか
話を聞いて未だ納得出来ないなら俺もこれ以上何も言えないが
二人共、勝手に熱くなった結果
俺の安眠を妨害した上にもしまだ暴れたいってんなら――
――安眠妨害の恨みがどれだけ大きいか、今此処で試してみるか? 」
<――正直、後で考えれば俺らしくも無い発言のオンパレードだったし
何故此処までブチギレたのかも全く思い出せないのだが……
……兎に角“斜め上に”殺気立った俺の様子に引いたのか
何とか矛を収めてくれた二人。
そして――>
………
……
…
「……仕方あるまい、先ずは貴殿の話を聞こウ」
「助かります……でもその前に確認を。
“遊び”“移住希望”“逃げて来た”……どれです? 」
「フム……一つ目ダ」
「……三つ目じゃなくて本当に良かったです。
次に、例の住処は変わらず平和ですか? 」
「ウム……何一つ変わらず暮らしていル」
「良かった……なら次は俺、と言うか政令国家を代表して
ヴォルテさんに一つ謝罪させて頂きたい事が有りまして……」
「ン? “暴言”について成らば状況が状況ダ……気にするナ」
「あ、いえ……有り難いですがそうでは無く
今回の争い事の“原因”について、謝罪をさせて頂きたいのです」
「ン? ……魔族共を仲間に引き入れタと言う件についてカ? 」
「……と言うよりも“連絡の遅れ”が最大の原因かと思います。
政令国家から鬼人族の集落に魔導通信が入らない事はご存知かと思いますが
もう少し早く事情の伝わる手紙などを早急にお送り出来ていれば
この様な騒ぎには成っていなかったかと……」
「フム……此方こそ聞く耳を持たず浮足立ってしまった事
申し訳無く思っていル……済まなかっタ。
とは言え……魔族を仲間に引き入れるなど
それもこれ程の数をと成れば……魔族共の食事はどうしていル? 」
「……それにつきましても、詳しくご説明させて頂きたいので
一度我が国の執務室へご案内させて下さい。
あと……モナーク、お前も来てくれ。
……過去に何があったかは知らないが
ヴォルテさんを含め鬼人族の皆さんは既に俺達の大切な友人だから
どんな理由があるにしろ争わないで欲しい。
と言うか“破れぬ契約”の事も有るんだし……頼めるよな? 」
「フッ……我の用いた“破れぬ契約”が
これ程不愉快な結果を生む事と成ろうとはな……良かろう」
<――直後
二人を執務室へと案内し――>
………
……
…
「ヴォルテクス殿……わしは政令国家の大統領
つまりは国の長をやっておるラウドと申しますじゃ」
「フム……此方こそ宜しく頼むラウド殿
だが、我の事を今後はヴォルテと呼んで貰いたイ。
それと、我は敬語が苦手なのダ
出来る限り気兼ね無く話せると助かるのだガ……」
<――この後
先程までの一触即発な空気は何処へやら
各種族長の大臣達と一頻り談笑したヴォルテクスさん。
もとい……ヴォルテ。
だが……改めて“魔族達を受け入れた件”へと話が移った途端
その顔からは笑顔が消え去り――>
………
……
…
「魔族共との共生……一体どの様な方法を取るのダ? 」
<――そう訊ねられた俺は
マリーナさんの“援護”も受けつつ
“血液混成法”の説明と、紆余曲折あった全てを説明した。
まぁ、当然といえば当然なのだが……それでも尚
訝しんだ様な表情を浮かべていたヴォルテ。
……その疑念を少しでも晴らす為、彼らを
まだ正式開店前の複合娯楽施設へ連れて行く事を提案した俺……だが
一番の目玉だった筈の薬浴に関する問題が未解決な事もあり
曲がりなりにも遊びに来てくれた筈の彼らに
完全には楽しんで貰えない事に少しだけ残念な気持ちがあった。
とは言え……色々な施設を案内し
既に人間を含めた数多くの種族達に取って無害な存在と成った
政令国家に属する魔族達の自活する姿を見せ、少しでも安心して貰う為
そして……少しでも楽しく過ごして貰う為
もう一つの目玉である旅館の食事を
彼らに振る舞うべく、旅館へと向かった俺達――>
………
……
…
「……色々と面白い物を見せて貰っタ。
無論、釈然としない部分はあるが
少なくとも、政令国家に属す事を決めた者共……
……魔王を含めた魔族共は
我ら鬼人族に取っても“無害”と成ったのだろウ? 」
「……そ、そう言う事!
後はお互いの“過去”に関する
ある種の“憎悪”みたいな物を少しずつ薄れさせていけたら
本当の意味で家族みたいに成れるんじゃないかなって思ってる」
「フム……永きに渡る魔族共との敵対関係も
何れは露と消える事と成るのだろうナ。
貴様の言う様に……“少しずつ”受け入れて行くとしよウ」
<――日本酒の入ったお猪口を片手にそう言うと
一気に飲み干し、俺とモナークの目を
確りと見据えたヴォルテ。
彼は勿論だが……モナークの過去や、俺の知らない遠い昔の一つの争い事が
本人達に取っても意外な形で終わりを迎えた今日と言う日。
無論――
“肩を組んで酒を飲み交わす”
――なんて事が今直ぐに起きる程仲良くなった訳じゃないし
何だったらまだお互いに何処か心の奥底では
“隙あらば殺る”位の雰囲気は醸し出してた様にも見えた。
とは言え……“安眠妨害”された俺の気苦労も
少しは役に立った様で内心ホッとしていたのもまた事実だ。
そして……そんな気の抜けた俺の口から
ついポロリと溢れ落ちた、ほんの小さな“愚痴”――>
………
……
…
「はぁ~っ……これで薬浴の“臭み消し”が叶ってたら
もっと楽しんで貰えたんだろうけどなぁ~……」
<――そんな事を言いつつジュースを一気飲みした俺だったのだが
近くに座っていたヴォルテは興味津々な表情を浮かべ――>
「ン? ……薬浴とはなんダ? 」
「ああ、えっと……ガルドから教わったんだけど
オーク族に伝わる癒やしの入浴法でね……
……唯、匂いに少しだけ“癖”があって
何と言うか“万人受けしない”独特な匂いだから
少しでもそれを減らせたらなぁって悩んでるんだけど
中々簡単には行かなくてね……」
<――そう答えた瞬間
信じられない程得意げな表情を浮かべたヴォルテ。
そして、この直後――>
………
……
…
「成程……匂いを消せば完成なのだナ? 」
「ああ、けど香水はちょっと“問題”があって……」
「フム……我ら鬼人族の名を最大の功労者としテ
その薬浴を用いる場所へ刻むと言うならバ、解決策を教えよウ」
「えっ?! ……そんな事で良いならぜひ教えてくれ!! 」
「フム! ……では一先ずその薬浴を見せるのダ! 」
<――と
ひょんな事から俺達は露天風呂へと向かう事に。
そしてガルド協力の元、改めて薬浴を用意すると――>
………
……
…
「ウッ……確かにこれは強烈な匂いダ
だが、この程度の匂いを消し去る事など容易い! ……暫し待テ! 」
<――言うや否や懐に手を入れると
何やら妙な見た目の道具を取り出したヴォルテ……そして
その道具を湯に浸け混ぜると
濁った茶色だった湯の色が次第に白濁し始め……
……完全な濁り湯へと変化した瞬間
周囲に漂って居た匂いさえも
綺麗サッパリ消え去ってしまったのだった――>
………
……
…
「ウム、これで良いだろウ……さて、主人公
此れを渡して置く故、湯の匂いを消し去る際に使うと良イ」
<――そう言って今取り出した道具を譲ってくれたヴォルテ。
だが、そもそも……
……この妙な道具は一体どう言う原理でこんな効果を出した?
と言うか、何でこの状況に
こんなにぴったりな道具をヴォルテは持っていた?
不思議に思った俺がその件を訊ねた所――>
………
……
…
「……我ら鬼人族は森に暮らす民ダ。
故に、一週や二週程度風呂に入らぬ事は日常茶飯事だガ
狩りをするには問題と成る事……貴殿程の者ならば分かるだろウ? 」
「あ、ああ! ……すげぇ問題だよね! 」
<――正直、あまり分かっては居なかったのだが
そう返事を返した俺――>
「……何故、我らの身体から一切の“獣臭さ”が立たぬと思ウ?
ましてや我らはこの国に到着するまでの間、常に徒歩であったのだゾ? 」
「と言う事は……もしかしてこの道具は
鬼人族が厳しい自然で生き抜く為に編み出した
“強力な匂い消し”みたいな事なのか?
だとしたら……そんな大切な物を貰っても良いのか? 」
「何を言うか……我も貴殿の“家族”であろウ? 」
「ヴォルテ、お前……有難う! 」
<――突然の“家族宣言”に感動し大喜びした俺に対し
ヴォルテは――>
「……だガ、親しき仲にも礼儀ありと言うだろウ。
約束は守って貰ウ……我ら種族の名を刻むのダ!
魔族だけに“良い格好”をさせては置けぬからナ!! 」
「あ~……そっちが“主軸”だったのね」
<――そんなこんなで。
“そこそこ大きな悩みの種が”恐ろしいスピードで解決した後
俺は念の為、ガルドに対し必要な薬効が残っているかを試して貰った。
結果――>
「ふむ……この湯には体臭を消す効果まで追加付与された様だ」
<――と言われたのだが
何というか、この“謎の棒”……すっげぇ能力。
ともあれ……薬浴問題も完全に解決し、再び大広間へと戻った後
心の底からヴォルテの手助けに感謝していた俺は――>
………
……
…
「……ゆくゆくは薬浴を輸出向けにして外貨を稼げたら
もっと国が豊かに成るんじゃないかなって思っててさ~! 」
<――と、上機嫌で将来的な展望を語っていた。
だが、モナークは俺の意見に真っ向から反対し――>
「否……この国唯一の物とするべきであろう」
「何でだよ? ……今以上に外貨獲得出来たら
より一層民達の暮らしが豊かに成るし、この旅館が魔族居住区にある以上
魔族達に対する恐怖心みたいなのも薄れて行って
結果的に友好関係が築けるかも……とは思わないのか? 」
<――そう訊ねた俺
だが、モナークは更に続けた――>
「フッ……外貨を得る方法は売るだけに非ず。
……仮にも我ら魔族を引き入れたこの国の存在は
他国からすればそれ相応の“脅威”と言えるであろう?
故に……我らが
“この国で暮らす様を見せつける事”こそが示威的行動と成る。
……延いては、他国からの侵略行為を未然に防ぐ“礎”とも成り得る。
そして、其れこそが何にも勝る外貨の獲得手段と成るのだ」
「な……成程、でも
“恐怖に依る統治”みたいで俺は好みじゃないな……」
「フッ……貴様のその“甘さ”だけでは国家の繁栄など叶わぬと知れ。
……光と影の均衡を取れぬ者には
国家の運営は疎か……何一つとして成し遂げられぬと心得えよ」
<――正直、何も言い返せない自分が嫌だったが
それは言い返す能力の問題じゃ無く……モナークが語った事への
有る種の“正しさ”みたいな物を内心強く感じていたからだと思う。
……綺麗事だけで世界は回らない。
確かに、魔族を受け入れた事の報告も含め
友好国へ連絡を入れた時だって
アルバートさんが何時もより少しだけ余裕無さげで
モナークに対し妙に下手に出て居た事も、恐らくはモナークの言う
“光と影の均衡”を取ってたって事なんだろうと思う。
そうしてみれば……俺はまだまだ、考えが甘いのだろう。
正直……運だけでこの世界を生きている様な今のままの俺では
近い将来、また大きな壁にぶち当たってしまうかも知れない。
……とは言え、そんなマイナス思考をこの場で“披露”しては
折角、遊びに来てくれた鬼人族達に申し訳が無いと思い――>
「と……兎に角ッ!
この国には他国に輸出する程に優秀な
“ゲーム”って物が有るんだけど! ……」
<――と、ゲームに話題を変えた俺に対し
興味を示したのはヴォルテクスさん。
では無く――>
………
……
…
「貴様……今何と謂った? 」
「へっ? 俺は唯ゲームの説明をしようと……って、モナーク? 」
<――瞬間
モナークから発せられた妙な雰囲気……直後
その妙な雰囲気の原因は、モナークの発した一言で明らかとなった――>
………
……
…
「……予てより訊ねるべき時を窺っては居たが
主人公……貴様はゲームとやらの発案者であろう? 」
「そ、そうだけど……」
「であれば……我ですら知らぬ、更成るゲームを有している筈
隠し立てせず、素直に差し出すが良い……」
「へっ? ……えっと、それってつまり
“ゲームが欲しい”って事で……良いのか? 」
「貴様……我に二度同じ台詞を吐かせるつもりか」
「いや、そんな威圧感満載で言わなくても欲しいなら全種類あげるって! 」
「フッ……ならば話を続ける事を許可しよう」
「お、おう……」
<――何と言うか“すっげぇ馬鹿な会話”だと思った。
仮にも魔王だった男が途轍も無く恐ろしい雰囲気を醸し出し
欲した物が“ゲーム”……身構えた俺がすげぇ馬鹿みたいだった。
兎に角、直ぐに最上級仕様のゲームを全種類ガンダルフに頼み
モナークとヴォルテに手配する事と成った俺なのだが
内心――
“色んな事が汎ゆる意味でスムーズに行かないな”
――などと思って居た。
ともあれ――>
………
……
…
「さてと……まさかモナークが其処までのゲーム好きとは思わなかったから
正直ちょっとびっくりしたけど……兎に角!
今後“第二回大会”とかも有るだろうし
ゲーム好きなら参加してみるのも良いかもしれないな! 」
<――とゲーム大会を話に出した俺。
だったのだが――>
「主人公殿……忙し過ぎて忘れておったが
第一回ゲーム大会すらあれから延期しっぱなしでのぉ。
……そろそろ頃合いじゃし、各種族と魔族との交流も兼ね
改めてゲーム大会を開き直すのはどうじゃろうか? 」
<――と、ラウドさんに言われ
“おぉ! それは最高の案ですね!
って成ると……モナークは当然出るよね? ”
――と、訊ねたら
“フッ……答える迄も無い”
――と、返事が帰って来た。
流石に若干ムカついた俺だったが、そんな俺の直ぐ近くで
オルガとクレインの“俺を褒める声”が聞こえて来て――>
………
……
…
「しかし毎度の事ながら、主人公の有言実行は凄まじいなクレイン」
「ああ……主人公君は恐ろしい男だ
それに加え、最近は更に強さに磨きが掛かっている様だぞ? 」
<――正直、暫く気付かないフリをして
俺を褒め称える二人の言葉を一言一句逃さず聞き続けたかったのだが
興味が上回ってしまった俺は、それと無く二人に訊ねる事にした――>
………
……
…
「あ、あのさ……二人共、何故いきなり俺の事をべた褒めしてるんだ? 」
「ん? ……聞こえていたか。
何と言うか、少し前の話ではあるのだが……
昔ヴェルツで君が――
“たかがゲームでも魔族と仲良く出来るかも”
――と言う様な話をしていた事を思い出してね。
私達はそれが“現実と成った”事に驚いて居たのだよ」
<――そう、クレインに説明された。
そう言えば昔、そんな話をしていた様な気がする。
正直、言われるまで忘れていた程度の“戯言”だったのかもしれないが
褒められて悪い気はしないし少し照れつつも喜んでいた俺のすぐ近くで
モナークは――>
「フッ……貴様の甘さは筋金入りであったと謂う訳か」
「わ、悪かったなぁ?! ……で、でもさ。
……実際争わなく成った位には仲良く出来てるし
寧ろ俺ったら“預言者”みたいな感じだし!?
す、少し位……“凄い”って褒めてくれても良いだろ? 」
「フッ……物は謂い様だな」
<――返事の内容に少し腹立たしさを感じはしたが
モナークも言う程拒絶しなかった所を見れば
少しは砕けた関係性が築けているのだろうか?
……正直、未だにモナークの全てを理解した訳じゃないし
分からない事の方が多くて大変なのだが、ともあれ――>
………
……
…
「……さてとッ!
此処で話してるのも楽しいけど……日も落ちて来たし
今日は大変な一日だったし、魔族と鬼人族……延いては
政令国家に属する全ての種族との友好を兼ねて
ついさっき完成したばかりの露天風呂にでも入って
今日起きた全ての“ゴタゴタ”を湯に流さないか?
と言うかまぁ……俺が入ってみたいだけなんだけどね! 」
<――と、皆を誘った俺。
意外な事に、モナークもヴォルテも割と乗り気だった様で
皆で露天風呂へと直行する運びと成ったのだが――>
………
……
…
「……流石に男女は別れて入る事に成ったけど
一緒に仲良く入れるって楽しいな! あと……湯の質が凄く良いッ! 」
<――と、少しばかりテンションの上がった俺に対し
ヴォルテはしみじみと――>
「……主人公、我は貴殿の度量の広さに感化された様ダ。
魔王……いや。
“モナーク”を信じるに足る者と感じる程にはナ。
……今日一日を通し、我が見たモナークの立ち居振る舞いは
我が知る過去の悪しき“其れ”では無かった様に思ウ。
モナークよ……我は今後、貴様との友好関係を築ければと願っていル」
<――そう言って
モナークに対し手を差し出したヴォルテ。
まるで、早朝の出来事が嘘の様なこの光景に
目を疑って居た俺の目の前で、モナークは更に俺を驚かせた――>
「フッ……良かろう。
だが……互いの奥底に封じられた
“過去への憎悪”は決して消えぬ“炎”として
生涯静かに燃え続けるであろう事もまた隠せぬ事実であろう。
故に、その決着は……」
<――直後
凄まじい闘気を発したモナークは、ヴォルテに対し
手を差し出しながら――>
………
……
…
「“ゲーム”で付ける事とするが……良いな? 」
「ウム……受け入れよウ! 」
===第百二二話・終===