第百二一話「順調に進むと楽しいです?! ……前編」
<――エリシアさんのお陰で“薬浴問題”も無事解決し
後は娯楽施設の完成を待つばかりと成った頃――>
………
……
…
「当初問題と成っていた木材と竹材等の建材不足分ですが
全量バルン村からの提供分で補う事が出来ましたので
後は完成を待つだけといった形ですね。
さて……続いての議題ですが
魔族達を各娯楽施設の従業員として起用する件について……」
<――完成を間近に控え
魔族達の自活問題も同時に解決する為、その一翼を担う案として
娯楽施設の管理運営を出来る限り魔族達に任せる事を提案した俺。
……大きな反対意見も出ず、寧ろ唯の娯楽施設と言うだけでは無く
行く行くは国の新たな観光名所と成ってくれる事を期待する声が多く上がった。
それと……娯楽施設の完成に関しては
ラウドさん含め、皆“妙に”期待していた様子で――>
………
……
…
「うむ、ではこの件も可決じゃ。
……さて、施設が完成した暁には一般開放の前に
先ずは大統領であるわしと各種族の長でもある大臣の皆
並びに、協力者や娯楽施設の立案者である主人公殿も含め
一度遊びに……い、いや!
し“視察”に行くのも良いかも知れんのぉ! 」
「ラウドさん……今思いっきり本音が出てませんでした? 」
「き、気の所為じゃよっ!? 」
「怪しいなぁ~……とは言え。
確かに、一般のお客さんが来るって言っても
国内だけじゃ無く、いずれは他国からも訪れる事になるでしょうし
我が国自慢の名所として行く為にも、まずは俺達自身で不備などが無いか
ある程度は確認しておく必要があるかも知れませんね。
……あと、この所の忙しさに対する
ご褒美の代わりって考えたらバチは当たらないですよね! 」
「……そ、そうじゃろう! そうじゃろう!
しかし……主人公殿、御主も悪よのぉ~」
<――何と言うか
“ミイラ取りがミイラになった”感じはしたが
確認自体は重要な事だと思ってたのは確かだし……いや。
……本音を言えば、日本的な物が完成しつつある事に
俺自身かなりテンションが上がって居たと思う。
ともあれ……娯楽施設の完成後
魔族達に殆ど全ての運営を任せる以上
何れにせよ急ぎマニュアルの様な物を作る必要は有った。
そして……この後の話し合いの結果
その“マニュアル作成”に於ける全権が大臣達の満場一致に依っ
俺に委ねられた……つまり“丸投げ”だ。
正直、この所の仕事量が完全に
“ブラック企業のそれ”って感じがして辛かったが
平和で安定した豊かな国にしていく為のもう一踏ん張りだ。
うん……頑張るしかない!
そう自分に言い聞かせ、ヴェルツの自室へと戻った俺は――>
………
……
…
「えっと、次は……ああ、制服だな。
う~ん……一応旅館だし、着物やら割烹着やらを正装にするとして
魔族達の体型に合わせある程度形を調節して貰う必要もあるし
後で制作担当のエルフ族に頼んでおくか。
よし、後は……」
<――従業員としての心得やら何やらも勿論だが
制服に至るまで、本当に何から何まで全てを俺が決める事となっていて――>
………
……
…
「主人公さん、お疲れ様ですっ! 」
「おぉメル! ……ってそのカゴは何だい? 」
「えっと……お夜食が必要かなと思いましてっ!
ひ、日之本皇国で褒めて頂けたので、その……改めて作ってみましたっ! 」
「いや~お世辞抜きで本当に美味しかったからね!
……ってか、丁度お腹も減ってたしかなり助かるよ!
けど……あの時は翌日
尋常じゃない位皆に“からかわれた”のが大変だったね……」
「そ、それは確かに……って、冷めない内にどうぞっ!! 」
「あぁごめん、頂きますッ! ……うん、やっぱり美味いッ!
メルは本当に料理が上手だなぁ……と言うか
その所為もあってかこの所ミリアさんの代わりやってるし
もしかしたら近い将来“ヴェルツの若女将”とかやってたりするんじゃない? 」
「へっ?! そ、そんなに上手では……」
「いやいや! 尋常じゃない位上手だと思うよ?
って、食べ物で思い出しちゃったんだけど……アリーヤさん達元気かな? 」
「元気だと思いますけど……でも
何で食べ物でアリーヤさん達を思い出したんですか? 」
「それが……シゲシゲさんの旅館で
ご飯時に“大騒ぎ”に成っちゃった事を思い出してさ。
政令国家でも旅館を作る以上
“納豆”に限らず、日本的な食事を提供する場合
あの時みたいな騒ぎに成ったら大変だなって思っててね。
……だから、一度魔族達にも
“アレルギー検査”をしておこうかなって思ったりしててさ」
「アレルギー……って何ですか? 」
「あー……簡単に言うと、特定の何かを
身体が毒だと判断して受け付けなくなる症状なんだけど
アリーヤさん達ゴブリン族が納豆で苦しんだのも
多分それに関係するのかなって思っててね。
……と言うか、アレルギー反応は酷いと死んじゃう事もあるから
そんな悲しい事が起きない様に、前以て聞き込みと
“パッチテスト”をしておかないとね」
「そうなんですか……ってあの、パッチテストも分からないです」
「ああごめん! ……アレルギーが出るかも知れない物を
身体の何処かに貼り付け、暫く放置してみて
皮膚に異常が出ないかどうかを確かめるテストの事で
本来ならその後更に舌先で舐めてみて痺れたりしないかとか
いろんなテストが有るんだけど……ってまぁ
俺が知ってる知識も完全って訳じゃないから、探り探りなんだけど
でも、出来る限りはやっていこうと思ってて……」
<――正直、転生前の世界ならば
こう言う素人に判断の難しい事は大体病院がやってくれていた事だから
俺達一般人は何も気にせず、安心して暮らせていたのだが……
……此方の世界だとそうもいかないって事がとてももどかしい
医療従事者は勿論、専門職の人達って……やっぱ凄いと思った。
と言うか……俺などでは無く、もっと頭の良い人が転生していれば
この世界の住人達はもっと幸せだったんじゃないだろうかとまで考えてしまう。
……だが、マイナス思考に陥っている暇も無い。
魔族が何かしらの“アレルギー”を持って居る可能性を少しでも考えれば
いい加減な事は絶対に出来ない。
明日辺り確りと確かめておかなければ――>
「あ、あのっ……私達も精一杯協力しますから
何か必要な時は何でも言ってくださいっ! 」
「ああ、有難う……って結構夜も遅いみたいだし
今日はそろそろ終わりにして残りは明日にしようかな……」
「本当ですね……っと、私は下で後片付け済ませて来ますね♪
……あっ、おやすみなさいっ! 」
「うん、おやすみっ! ……夜食有難う、美味しかったよ~」
「は、はいっ! ……良かったですっ♪ 」
<――暫くの後
大方の仕事を終えた俺は
ベッドに直行し、そのまま翌朝を迎えた――>
………
……
…
「んっ……もう朝か……
えっと? 今日の予定は――
一:各施設別マニュアル本生産に関する依頼
二:各施設に割り振る魔族達の細かな選定
三:魔族達のアレルギーに関する調査と対策
――って、やる事多いなッ?!
とは言え、最後のに関しては命に関わる問題だし
急がないと……よし、朝飯食ってからが正念場だッ! 」
<――この後、朝食を済ませた俺は
“やることリスト”を片手に黙々と仕事をこなした。
そして……いよいよ
最後の項目に取り掛かる事と成ったのだが――>
………
……
…
「ほう……貴様に我らの弱点を全て曝け出せと申すか」
「ちょ?! ……言い方に悪意有り過ぎだよモナーク。
まぁ確かに悪く言えばそうなるかも知れないが、あくまでも
魔族全体に対する悪影響を未然に防ぎたくて頼んでるんだけなんだから
そんな事言わずにちゃんと協力してくれよ?
と言うか……お前が配下の魔族達を大切に思ってるなら
このお願いの意味だって分かってる筈だろ? 」
「フッ……良かろう」
<――ともあれ。
モナークから直々に魔族の“弱点”を聞き出す事に成ったのだが
様々聞き進める内に、その殆どが――
“聖なる物に対する耐性が著しく低い”
――と言う結論に辿り着いた。
要するに“銀”とか“聖水”みたいな……
……主に吸血鬼が嫌がりそうな物を苦手としている位で
食料から摂取する物に対する耐性が
極端に低いと言う事は無い筈との事だった。
兎に角、これで魔族達のアレルギー問題も解決と考えて良いだろう。
……後は施設の完成を待つのみ。
正直、凄く楽しみだッ! ――>
「協力ありがとなモナーク! これで安全に施設の運営が……」
「この情報が外に漏れた時……それ即ち貴様の命日と成るであろう」
「ちょッ!? ……」
………
……
…
<――そんなこんなで“複合娯楽施設”の完成当日。
俺は……ラウドさんを筆頭に、魔族を含む各種族長達と共に
複合娯楽施設の“視察”をしていた――>
「ほぉ~ 素晴らしい出来の良さじゃのぉ~」
<――笑みを溢しながらそう言ったラウドさん。
見渡す限りの日本的な建物の数々……その殆どが
江戸時代の町並みみたいに成った事と
魔族達の和服姿が割と様になっていた事も功を奏したみたいだ。
勿論ラウドさんだけじゃ無く、訪れた皆が興奮した様子で
目を輝かせ、楽しそうにしている姿を見れば一目瞭然だ。
本当に、良かった――>
………
……
…
「これで……何とか、平和な国としての再始動が叶ったのかな」
<――と
つい口から溢れた俺の本音に――>
「フッ……やはり貴様は考えが甘い様だ」
<――不敵な笑みを浮かべ
そう言ったモナーク――>
「ど、どう言う意味だよ? 」
<――モナークの不審な様子に少し警戒し
そう訊ねた俺に対し、モナークは立ち止まると――>
「本来、我ら魔族が他の種族と手を組む……ましてや
共に暮すなど到底有り得ぬ話であった……だが、貴様はそれを成し遂げた。
主人公……貴様は、人間にして置くには惜しい逸材と謂えよう」
「えっありがと……って、何だよいきなり?!
褒めてくれるのは嬉しいけど……ならそもそも
何で最初に“甘い”って貶したりしたんだよ? 」
「主人公……貴様の持つその力と知識の異質さ故に
貴様は争いを呼び寄せる“撒き餌”と成り得るであろう。
……剰え“複合娯楽施設”を作り上げ
我らを“家族”と迎え入れる為、貴様が生み出した全ての仕組みは
何れこの世界の“仕組み”をも変えうる強大な存在と成り得る。
どうやら貴様はそれに気付いていない様子だったのでな」
「い、一応有り難い忠告って事で警戒はしておくけど……」
<――と返事をしたら、少し不機嫌そうに外方を向いたモナーク。
何だ? どう返事を返したら正解だったんだ?
……と、少しモヤモヤしつつも
引き続き娯楽施設を見て回っていると――>
………
……
…
「ん? ……何だ? あんなの設計図に有ったっけ? 」
<――直後
俺達は、地図にも設計図にも
何処にも記載の無い……謎の建物の前へと到着した。
……眼前に聳え立つ建物は、周囲の物とは全く以て意匠が違う上
何やら怪しい雰囲気を纏っていて――>
「な、なあモナーク……この建物は一体何だと思う? 」
<――そう、恐る恐る訊ねた俺に対し
モナークの口から出た答えは――>
………
……
…
「フッ……我ら魔族の中に
“淫魔”と呼ばれる者が居る事は知っているだろう。
だが……奴らの殆どが“血液混成法”の
永続的変化が齎されなかった者達である事。
故に……定期的な血液の供給が必要と成った事は
貴様も知り、解決に頭を悩ませていた筈だ……」
「ああ、それはそうだけど……」
「……無論、血液の定期的な供給を約束した人間族が
既に必要充分居る事は我も理解している……だが」
<――そう言いつつ目の前の建物に向かって指を鳴らしたモナーク。
直後……建物の扉が開かれ、その奥から
一人の“妖艶な女性”が現れた。
彼女は現れるなりモナークに対し深く一礼し――>
………
……
…
「淫魔族のロベルタよ……宜しく、主人公さん」
<――と、俺に握手を求めて来たロベルタと名乗る淫魔族の女性。
少し緊張しつつも、恐る恐る手を差し出した俺だったが――>
「……怖がらなくて良いのよ? 安心して。
モナーク様に怒られる様な事は絶対にしないから」
「い、いえその……はい」
「あら? ……凄まじい魔導力の割にとても可愛い反応するのね?
ってあら? 貴方、童――」
「わ゛ーッ!! ……その先は説明しなくて大丈夫ですから! 」
「あら……別に恥じる事じゃないと思うのだけれど? 」
「い、いやその……」
「ロベルタ……戯れは止め、本題を申せ」
「承知致しましたモナーク様……さて、端的にお話しするわね
主人公さん、私達淫魔の生態を考えれば
たとえ貴方達人間族が“そうでは無い”と宣言した所で
無料で施しを受けるなんて以ての外なの。
……だから、後ろに建っているこの建物で血を貰う対価として
貴方達人間族の男達が絶対に経験した事の無い
と~ってもエッチで、とぉ~っても気持ち……」
<――と、余りにも
“艶めかしく、悩ましく”説明してくれたロベルタさんの説明は
この後“地上波”なら流せないレベルに成ったので
代わりに……此処から先は何となくそうした方が良いと言う判断の下
“やんわりとした言葉遣いで”俺が説明をする事にするが……要するに。
ロベルタさんの後ろに建っている建物では
すっげぇ“大人なぱふぱふ”を経験させて貰う代金の代わりとして
規定量の血液を渡すと言う取引が行われる……“そういう”お店らしい。
何と言うか、多くは語れないし語るべきじゃ無い気がして来た――>
………
……
…
「ま、まぁその……生きる為の最善策って事ですし
互いに安全策が取られてる限り、問題視もしませんのでご安心を! 」
<――俺は何も悪く無い筈なのだが、後ろで何故か
明らかに“俺に対して”ブチギレ寸前な雰囲気を醸し出す女性陣に恐怖を感じ
少しでも早めに切り上げようとした俺の気持ちを
心の底から誰かに察して欲しかった瞬間だった。
ともあれ……ロベルタさんに別れを告げ
この後も引き続き娯楽施設の視察を続けた俺達。
そして――>
………
……
…
「いよいよ最後と成りました……
……此方が複合娯楽施設の目玉として建てられた旅館ですッ!! 」
<――何と言うか“最も作りたかった場所”って理由の他に
さっきの“お店”での妙な雰囲気をふっ飛ばす為
妙に煽り過ぎてしまった俺なのだが、逆にこれが功を奏したのか
皆、目を丸くして旅館の外観を見渡していた。
そして……興奮覚めやらぬ中、皆続々と入館するや否や
館内を隅々まで“視察”して居たその時――>
………
……
…
「キャァァァァァッ!!! ……」
<――と、旅館の奥から悲鳴が聞こえた。
突然の事に慌てつつも、悲鳴の出処を目指し走った俺達。
そして、辿り着いたその場所では――>
………
……
…
「ううっ……ぐっっ! ……」
<――今にも息絶えそうな程に弱りきった一人の女性魔族が
露天風呂の横で苦しみ悶えていた。
……直ぐに治癒魔導を掛け、何があったかを訊ねた俺。
すると――>
「薬浴に香水を入れる為、その瓶を手にした瞬間……」
<――と話す女性魔族の傍らには割れた香水の瓶が転がっていた。
一方、それを目にした瞬間
凄まじい殺気を発したモナークは――>
………
……
…
「……この瓶には水晶が使われている様だ。
だが……何故に“破魔の術”が付与されているッ?! 」
「は、破魔の術? ……そ、それってもしかして!? 」
「主人公……貴様は真に何も知らぬのだな? 」
「ああ、破魔の術って言葉自体を始めて聞いた位だから……」
「では……我らを良く思わぬ者の犯行か、或いは……」
<――と、モナークが其処まで言い掛けた瞬間
エリシアさんが凄まじい勢いで頭を下げた……まさか?!
エリシアさんが何かを仕込んだッ?!
……と、一瞬はそう思った俺だったのだが
真相は全く違って居て――>
………
……
…
「……本当にごめん
その香水瓶に破魔の効果が付与されてるのは間違い無いみたい。
でも、まさか付与されてる術まで“複製”されてるとは
私も全く知らなくて……」
「ほう……我の目を見よエリシアとやら」
「考えを読みたいならそうしてくれて良いけど……
……師匠に誓って嘘はついてないから、謝る事しか出来ないよ。
でも……本当にごめんね」
「良かろう……だが、二度は無いと心得よ」
<――エリシアさんとモナーク。
凄まじい雰囲気の中、どうにか事なきを得た様だが……同時に
目玉として用意した筈の薬浴が
とんでもない結果を生み出してしまった事に俺は頭を抱えていた。
だが、そんな時――>
………
……
…
「取り敢えず……私はもう大丈夫ですから
皆様、御夕飯でもお召し上がりに成られては……」
<――と、この如何ともし難い雰囲気を払拭する為か
病み上がりで辛い筈の女性魔族は俺達に気を遣ってくれた。
……そもそも、アレルギーだ何だと色々聞いておきながら
こんな簡単なことにすら気付けなかった俺だって原因の一つの筈なのに。
正直、心の底から申し訳なかった――>
「本当に……申し訳有りませんでした」
<――そう深々と頭を下げる事しか出来なかったが
この女性魔族はそんな俺に対し――>
「本当にもう大丈夫ですから……それよりも
折角の貸し切りですから、是非日頃の疲れをお癒やしに成って下さい」
<――そう言うと精一杯微笑んでくれた。
嗚呼、ちゃんとこの礼に報いなければ。
そう強く、心に誓った瞬間だった――>
………
……
…
「凄い……完璧に日本食だ」
<――暫くの後、大広間へ移動した俺達。
目の前に用意されたお膳には、まさに
“懐石料理”と呼ぶべき程に完成度の高い料理が並んでいた。
俺を含め、皆がその豪華さに驚いて居ると――>
………
……
…
「……お喜び頂けた様で安心致しました。
私も少しは料理の腕が上達している様ですね」
<――そう言いつつ俺達の元へ現れたのはアイヴィーさんだった。
って言うか……これ作ったのアイヴィーさんなの!?
驚いた俺が目を真ん丸にしていると、アイヴィーさんはクスッと笑い――>
「フフッ♪ ……其処まで驚いて頂けると頑張った甲斐があります。
……ですが、ミリア様程の御方ですら
とても苦労しながら試行錯誤していらっしゃいましたので
“日本食”とは途轍も無く高次元な料理である事を理解したと共に
私自身、更に精進しなければならない事を理解致しました」
<――と、真剣な眼差しで語るアイヴィーさんだったが
板前姿が“板に付いてる”時点で、恐らくそう遠くない未来には
日本食も習得しているんだろうな~と心の中で思っていた――>
………
……
…
「アイヴィーさんなら必ず出来ます!
頑張ってください! ……応援してますッ! 」
「ハッ! ……ご期待を裏切らぬ様精進致しますッ! 」
《――彼が心の中で考えた“そう遠くない未来”
それは……本当に“そう遠くない未来”であった。
複合娯楽施設が一般開放されて暫くの後
ミリアはヴェルツ二号店の経営や味の管理を全てアイヴィーに任せ
自らは改めて本店の経営に専念する事と成ったのだから。
その一方で……メルも、主人公の予想通り
ヴェルツ本店の若女将と成るのだが……
……それが何時の事に成るかは、また別のお話である。
ともあれ……一通り“懐石料理”を楽しんだ一行であったが
“先の騒ぎ”の所為もあり
皆、露天風呂には入らず“視察”はこれを以てお開きと成った。
一方、ヴェルツ本店の自室へと帰還した主人公は
今日の騒ぎを思い返し――》
………
……
…
「……折角ガルドとエリシアさんが必死に用意してくれた薬浴が
あんな形で使えなくなるなんて……正直
モナークはあの状況の所為かあの香水の匂いにまで嫌悪感を持ってたし
どう転んでも悪い記憶を思い起こさせる原因にしか成らないだろうな。
もうあの手は使えない……そう成ると、何か
俺が代わりの手立てを考えなきゃだけど……」
《――と深く思い悩み
どうにか解決策を生み出そうと必死な様子の主人公であったが
溜まりに溜まった疲れも相当な物だった様で……
……この後、解決策を生み出せぬまま
机に突っ伏し、深い眠りへと落ちてしまったのだった――》
「……何か……皆が……幸せに……成る為の……」
………
……
…
《――そして
翌朝……熟睡する事すら叶わなかった主人公を
さらなる事件が襲う事と成った――》
………
……
…
「兎に角……早く来るんじゃ!! 」
<――早朝、ラウドさんからの緊急連絡で飛び起きた俺。
何事かと訊ねた瞬間
ただ一言――
“主人公殿しか止められん! ……急ぐんじゃ! ”
――詳しい理由を訊ねることさえ出来ず
慌てて第二城地域へ転移する事と成った俺が目の当たりにした
その“光景”とは――>
………
……
…
「我ら鬼人族の誇りに掛け……
……貴様達魔族を滅すル!! 」
「フッ……懐かしい敵が現れた物よ。
だが、我を滅そうなどと……決して叶わぬ自惚れと知れ……」
<――俺の眼前に広がった光景
それは――
配下の魔族を多数引き連れ、臨戦態勢を取って居るモナークと
そのモナークを打ち倒さんと怒りに燃える――>
………
……
…
「ヴォルテ……さん?! 」
<――鬼人族族長
ヴォルテクスさんの姿だった――>
===第百二一話・終===