第百二〇話「少しずつ、解決していけば楽勝ですか? 」
《――突如としてその場に倒れ、意識を失ったミリア。
これに慌てたアイヴィーは彼女を担ぎ上げると
急ぎ、主人公の居る執務室へと転移し――》
………
……
…
「次の議題は……ってミ、ミリアさん?!
アイヴィーさん! ……一体何があったんですか?! 」
「……詳しい話は後で致します!
先ずは治癒魔導をお願い致しますッ! 」
「え、ええ! ……完全回復ッッ!! ――」
………
……
…
「んっ……主人公ちゃん? こ、此処は……」
「ミリアさん!! 良かった……何処も異常は無いですか!? 」
「ああ、大丈夫さね……」
<――と、俺がミリアさんの体調を気遣って居たその時
アイヴィーさんは凄まじい勢いで土下座し――>
………
……
…
「……この様な事態を引き起こしてしまった原因は全て
度重なる私の失敗に依る物と心得ておりますッ!!
私は、どう責任を取れば……ッ……」
<――額を床に擦り付けるような姿のまま
思い詰めた様にそう言ったアイヴィーさん。
だが、ミリアさんはそんな彼女に対し――>
「……何を言ってるんだいアイヴィーちゃん。
単純にあたしの自己管理不足が原因さね」
「で、ですがッ! ……」
<――弱き者を庇い、誰に対しても優しく接する
いつも通りの素敵なミリアさんの姿を見ていた俺は……
……ミリアさんの“この気持ち”を大切にしたいと思った。
だが、その一方で
“この状況を許す事が出来ない”
と思ってしまうだけの理由も有って――>
………
……
…
「……ミリアさんがそう言うならアイヴィーさんの事は責めません。
ですが正直……ミリアさんの多忙さは目に余る物があります。
総数約一万五千程居る魔族達の胃袋を満たすにしては
二号店に割かれる人員が余りにも少な過ぎる。
そもそも……そちらで猛省しているアイヴィーさんが
一体どういった“負担”を増やしたのかは知りませんが
何れにせよこの様子では今の五倍……ともすれば
十倍は人員を増やす必要があるのではと考えている次第です。
それと、本当の原因は……モナーク、お前にこそあると俺は思ってる。
ミリアさんの作る料理を気に入ってくれた事は俺も嬉しかった……けど
言うまでもなく“大仕事に成る”事は予想出来た筈だし
お前がそれ相応の人員を割いて無かった事が何よりの問題だし
そう考えれば反省すべきはアイヴィーさんよりもお前だ。
……何か反論は有るか? 」
<――正直、モナークに対し
こんなにも口を荒らして話す事自体が稀だったし
幾らミリアさんの為とは言え
そう出来てしまった自分に内心驚いてすら居た俺だったのだが
そんな事よりも、更に驚いたのは――>
………
……
…
「いや……我の思慮不足である
頭を下げる程度では不足かも知れぬが、ミリアよ……申し訳無かった」
<――相当ブチギレていた筈の俺だが
意外な程、素直に謝ったモナークにびっくりして
ほんの一瞬挙動不審に成ってしまった。
だが、この直後……“大問題”が発生した。
自らの失態の所為で
長であるモナークにまで頭を下げさせてしまったと考えたアイヴィーさんが
より一層反省の色を“強めて”しまい――>
………
……
…
「……こ、この失態は
死を持って償わせて頂きますッ!! ――」
「え゛っ?! どこからそんな物を……って待ってッ!!
うぬぬぬぬぬッ……ち、力強ッ?!
……ってか、お願いだから待って下さいってばッ!!! 」
<――瞬間
凄まじい勢いで何処からか取り出した小型のナイフを
自らの喉に突き立てたアイヴィーさん。
慌てて彼女の腕を引っ張ったが……びくともせず
自分の非力さに若干ショックを受けつつも
必死に説得し……何とか事無きを得た。
……ともあれ。
荒れに荒れたこの場の空気を鎮める様に、ラウドさんは――>
………
……
…
「……何れにせよ、ミリア殿が大事に至らず良かった。
とは言え主人公殿の言う様に人手が足りておらんのも事実じゃて。
じゃが、それもこれも……急激に増え過ぎた者達を飢えさせぬ様
食料の増産にのみ気を取られ
料理の作り手にまで気が回せなかったわしにも問題があったと思う。
故に……この問題を最優先事項と捉え
早急に解決する事を約束させて貰いたい。
してミリア殿……今日の所は少し休憩してはどうかね? 」
「そう言われてもねぇ……“作り手”が居なけりゃ皆が飢えちまうよ? 」
「うむ……じゃが、それについては心配せずとも大丈夫じゃ!
主人公殿が例の“公然の秘密”を使い魔族達の食事を生み出せば
大量の料理が……」
「ちょ!? どんだけあれを使わせる気ですか?! ……とは言った物の
確かにミリアさんには少し休んで貰いたいですし……頑張ってみます」
<――この後
ミリアさんに休息を取って貰う為
魔族達の食事を大量に生み出す事と成った俺。
だが、一皿ずつ生み出していては効率が悪過ぎると考えた俺は――
“寸胴鍋で作られたカレー”
――を大量に生み出し続けた。
更に、転生前かなりの高頻度で使っていた
“パックご飯”をこれまた超大量に生み出し続け、魔族達にこれを提供した。
の、だが――>
………
……
…
「あ、あの……主人公さんとやら」
「何でしょう? ……あっ、おかわりでしたら
食べ終わった後にもう一度並んで頂ければ……」
「い、いやそうでは無く……その、こりゃあどう見ても排泄……」
<――瞬間
俺は全力で魔族の口を塞いだ。
まさかカレーにまつわる“超絶ベタな冗談”を
魔族の口から“本気の顔で”聞かされる事に成るとは思っても見なかったが
コイツの他にも割と真剣な表情を浮かべる魔族達が多々居る所を見れば
本人達に取っては冗談では無く……本気で“そう”なのだろう。
……とは言え、冗談みたいな状況なのだが
何れにしろ、一度確りと説明しておかなければと考えた俺は
魔導拡声を使い――>
………
……
…
「え~……魔族の皆様。
本日の料理はカレーと呼ばれており
数多くの香辛料と具材を贅沢に使用した俺の故郷の国民食です……が。
見た目に起因する“格言”が一つございます――
“カレー食ってる時に、うんこの話すんじゃねぇ! ”
――魔族の皆様におかれましては
間違っても――
“逆に言わない様”
――確りと心に刻み、芳醇な香辛料の香りとコク
そして豊かな風味をお楽しみ下さい」
<――正直
自分で言ってて逆効果にも思える説明だったが
少なくとも変な誤解は解けた様だった。
……が、未だに怪訝な表情を浮かべている魔族達に
少しでも安心して貰える様
先ずは俺自身が食べる所を見せる必要がありそうだ。
“正直、久しぶりのカレーだし嬉しい毒見役だな”
……なんて事を考えつつ、カレーを口に運んだ俺。
瞬間――>
………
……
…
「う……う……美味ぇぇぇぇぇッッ!!!! 」
<――此処の所の忙しさもあってか
食欲をそそる香りと懐かしい味に“毒味”どころか
思わず掻き込む様に頬張ってしまった俺。
……そして、そんな俺の様子に
始めは怪訝な顔を浮かべていた魔族達も、我先にと頬張り――>
………
……
…
「う、美味いッ!! ……見た目は少し問題だが、これは美味い! 」
「ああ! 見た目は最悪だが美味いな! 」
<――漏れ聞こえる声には正直“イラッ”っとした部分もあったが
それでも、皆満足そうにおかわりまでしてくれた。
まぁ……俺自身、この“本”がなければ料理なんて作れはしないのだが
この一件のお陰で、ミリアさんの“料理を届けたい”って気持ちが
ほんの少しだけ理解出来たのは確かだ。
……そして、そんな清々しい気分の中
遅れて現れたモナークにもカレーを差し出した所――>
………
……
…
「貴様……我に排泄物を差し出すとは良い度胸だ」
「はぁ~っ……折角気分が良かったのにお前って奴は。
……良いから、見た目で判断せずに食べてくれ。
少なくとも……お前の配下達は皆喜んで完食したんだよ? 」
<――そう告げた瞬間
モナークから凄まじい殺気が放たれた。
えっ? ……超怖いんですが?!
と、思っていると――>
「貴様……我の配下に斯様な仕打ちを……」
<――と、尚も誤解し更に激昂してしまったモナーク。
……怖過ぎるッ!!
だがそんな時、何処からともなくアイヴィーさんが現れ――>
「モナーク様……見た目は兎も角、その料理は大変に美味で御座います。
私の命に掛け、断じてご想像の“物”とは……」
<――と“凄まじく真面目な表情”を浮かべ
“凄まじく馬鹿な会話”をする二人を見ていたら思わず笑いそうに成ったが
此処で笑ったら色んな意味で不味い気がしたから必死に堪えた。
……うん、俺偉いッ!
ともあれ――>
………
……
…
「アイヴィー……御主が斯様に称えるならば、その言葉を信じるとしよう。
主人公……我に差し出すが良い」
「あ、ああ……熱いから気をつけて食べるんだぞ? 」
「フッ……要らぬ世話よ」
<――そう言うと
配下の魔族達が固唾を呑んで見守る中、カレーを一口頬張ったモナーク。
そして――>
………
……
…
「主人公……これが貴様の“故郷”の味か」
「ああ、そうだけど……どうかな? ……美味しいか? 」
<――そう訊ねた俺に対し
モナークから返ってきた答えは“意外過ぎる物”で――>
………
……
…
「……複雑に絡み合う風味とまろやかな舌触りに加え
数多の具材の中でもこの……“白い粒の集合体”が醸し出す食感こそが
全ての均衡を保っていると言えよう。
故に……この食事をヴェルツ二号店の正式な献立に加える事を許可する。
主人公……出来るな? 」
「えっ?! そ、それは勿論大丈夫だろうけど……」
<――要するに、モナークはカレーの事を
“すっげぇ気に入った”らしい。
正直……“料理漫画顔負け”って位に絶賛してみせたモナークに
若干可愛さを感じはしたものの……同時に
気疲れが凄い一日と成ってしまった事は言うまでも無いだろう。
ともあれ、そんな“珍騒動”があった日から数日後――>
………
……
…
「よし、これで俺が関わらなくてもカレーは作れる様になったな! 」
<――ヴェルツ二号店で“固形のカレールウ”を大量生産し
大幅に増員された従業員の全員が
“ルウ”を正しく使える様に“説明書”も用意し
ミリアさんの負担を少しでも減らす努力をしていた俺。
そして、そんな時――>
「主人公様……貴方様も料理がお得意なのですか? 」
<――と、アイヴィーさんに質問され
完全な誤解だと伝える為――>
「えっ? ……いえいえッ!!
道具は買ったけど三日坊主ですぐに辞めちゃいましたから、全然ですよ? 」
「そう……ですか。
たった三日でこの様に複雑な料理を習得されるとは
流石はモナーク様と肩を並べるお方で御座いますね……」
「い゛ッ?! いやいやッ! てか……そう思って貰ってる方が
少しは俺の威厳も保てるんですかね? ……」
<――何だかより大きな誤解を生んだ気がしないでもないが
取り敢えず……何とか“珍騒動”を解決する事が出来た。
ともあれ……この日から更に数週間が経ち
魔族達の凄まじい連携力に依って何とか完成した魔族居住区。
だが……同時進行で建てられていた“複合娯楽施設”も
見る見る内に形に成りつつあった頃
俺は、ある問題に直面していた――>
………
……
…
「う~ん……困ったな」
「ん? ……どうした主人公」
「おぉガルド! って、ガルドに残念なお知らせが一つ有るんだけど……」
<――魔族居住区の完成
そして、俺の原案に限り無く忠実に
建築が進んでいた“複合娯楽施設”が約八割程完成していた頃……
……施設の目玉である“旅館”へ
さらなる目玉として用意するつもりだった“温泉”なのだが――
“どう頑張っても政令国家には湧かない”
――と言う事実が判明していたのである。
だが、既に旅館にはとんでも無く豪勢で
雰囲気バッチリな石造りの浴場が完成している上
俺自身、魔導拡声を使い
この事を政令国家全域に宣伝しまくった事もあり
全種族の“割とな数の”国民が温泉の完成を待ち望んでしまっていたし
正直今から“無理でした! ”とは、口が裂けても言えない。
……かと言ってシゲシゲさんの旅館から温泉を貰い
政令国家まで運ぶと言うのは余りにも非現実的過ぎる。
一体俺はどうすれば、この大問題を解決出来るのだろうか?
ともあれ、そんなままならぬ状況をガルドに伝えた所――>
………
……
…
「と言う事なんだけど、どうしようかなって思ってて……」
「ふむ、確かに由々しき事態ではある様だが……主人公よ。
御主の言う温泉とは、シゲシゲ殿の旅館にあった物の様な
“癒やしの力”を持つ物の事を言うのであろう? 」
「う、うん……そうだけど……」
「……無論、同じ物を作り出すのは困難であると理解はして居る。
だが、あの様な効能を実現するだけならば
“温泉”など湧かずとも、実現する事は可能であるぞ? 」
「えっ? それって一体どう言う……」
「うむ、順を追って説明しよう……まず、吾輩の種族が
魔導を苦手としている事は御主ならば知っているだろう。
だが、それ故に薬草学に長けた物もそれなりに多く
“薬浴”と言う方法を取る事が……」
<――其処まで説明された瞬間
俺は、凄まじく便利な“ある物”を思い出した。
それは――>
………
……
…
「成程! ……入浴剤を作れば良いんだな! 」
「ん? ……何か思いついた様だな」
「ああ! ガルドのお陰で凄く良い物が浮かんだんだよ!
最高のアイデアだ! ……本当に助かった! 」
「うむ、吾輩と御主は生涯の友で在るのだ……気にせずとも良い」
「ああ! ……これからも宜しくッ! 」
「……うむッ! 」
<――直後
俺とガルドは固い握手を交わした。
そして……やっと本来の目的通りの使用方法として
例の本を使う事と成った俺……だったのだが
よく考えれば“温泉”って名称のままだと不味いかも知れない。
……ガルドの案を元に“薬浴風呂”と改める事にしておこう。
あと、少なくとも……
……“バス○○○”って名前にするのだけは止めておくか。
などと考えつつ、入浴剤の仕組みに頭を悩ませていた時――>
………
……
…
「さて、入浴剤の成分なんかちゃんと見た事無いし
黄金の塊も何の位必要なのかが分からないし……」
「ん? ……主人公よ。
……普通に薬草を使えば良いのでは無いか? 」
「い、いやその……他国への輸出も考えた時に
薬草だと運搬に難儀しそうだから、粉末で溶けるタイプか
固形で出来てて炭酸が出たりする方が良いかなって思ってたんだけど……」
「よく分からぬが……薬浴は主に天日で乾燥させた薬草を用いる。
……故に輸送も容易いのだぞ? 」
「そ、そうなの?! じゃあ……」
<――そんなこんなで
オーク族に伝わる薬浴法を教えて貰う事と成った俺。
だが、ガルドの用意してくれた薬浴用の薬草は
そのまま使用するとかなり“匂いがキツい”事が判明し――>
………
……
…
「この薬草の効力を潰さない程度に
何かしらの香りを付けたりって出来ないかな? ……」
「香りか……薬浴は主に傷や疲労を癒やす為の物であるからな
人間族よりも余程鼻が利く吾輩達の種族も皆我慢して入っていた程だ。
……同時に、これを改善する為の知識は
残念ながら吾輩にも無いのだ……」
<――と、申し訳無さそうに言ったガルド
だが――>
「薬草学って難しそうだもんね……って!! 薬草関連の話なら
エリシアさんに聞けば何か解決策を出してくれるかも! 」
<――直後
エリシアさんに連絡し、ガルドの持つ薬浴法のデメリットを伝え
その為の改善策を訊ねた俺達。
すると……直ぐ様此方に飛んで来てくれたエリシアさんは
到着後、早速――>
………
……
…
「うっ……これは本当に酷いね。
う~ん……ただ花を入れたら香りが良くなるって訳でも無いし
物にも依るけど薬草の効果を半減させたり
下手すると毒にしちゃったりする組み合わせもあるから
あまり“いじれる”余地が無いんじゃないかなぁ……」
<――と、薬浴の様子を眺めながら
悩んでいたのだが――>
「あっ!! ……良い事思いついた~っ♪ 」
「な、何を思いついたんです?! 」
「最高に便利な物が一個だけ有るじゃん! ほらほらぁ~……えいッ! 」
<――瞬間
俺の懐に手を入れ弄ったエリシアさん――>
「ひゃぅッんッ!? ……ななななッ!?
……何するんですかエリシアさんッ?! 」
「フッフッフ……可愛い反応するねぇ主人公っち~♪
簡単に思いついたからちょっとイタズラ気味にしてみたけどぉ~
……要するに、匂いが問題なら主人公っちの“本”で
香水みたいなのを生み出したら良いんじゃないかな~ってね♪ 」
「成程! ……って、またしても
“公然の秘密”を使う羽目に成ってる様な……」
「良いから良いから~やってみるのだぁ~♪ 」
<――そんなこんなで香水を生み出す事に成った俺。
だが、様々な種類の香水を生み出すには
それ相応の知識か、対価となる大量の黄金が必要だ。
……にも関わらず、俺が頭を抱える羽目に成らなかった理由。
それは……エリシアさんが秘蔵“香水コレクション”を
持って来てくれたからだった――>
………
……
…
「ふぃ~これだけの数となると持ってくるのも大変だねぇ~っ!
そもそも一個一個が超高級品だから割れたりしたら大変だしぃ~?
けど……他ならない主人公っちの頼みだから仕方無いよねぇ~♪ 」
「そ、そんなに大切な物をこんなに沢山持って来て下さるなんて……
……と言うか、試しに何種類か作るにしても
結構な量の香水を使っちゃいそうなんですけど……」
<――と、申し訳無さを感じそう言い掛けた瞬間
エリシアさんはとても不敵な笑みを浮かべ――>
………
……
…
「うん……だから、主人公っちには私の個人用にぃ~
……この香水を大量生産して欲しいのだよぉ~♪ 」
<――そう言って、エリシアさんが懐から
大事そうに取り出した小瓶には、宝石で装飾が施されていて――>
「ん? 勿論ですけど……って、もしかしてッ?! 」
「フッフッフ……薬浴用に持って来たどの香水よりも
これ一本の方が高いのだ~! ……えっへん♪ 」
「それが目的だったんですね……ま、まぁ
エリシアさんが喜んでくれるなら千本でも一万本でも作りますけど……」
「そ、そう? 何だか照れるなぁ……って!
良いから早く試しにそっちの安い奴を作ってみるのだ~ッ! 」
「や、安い奴って……」
<――何はともあれ、香水の大量生産を開始した俺。
直後、続々と生み出されていく香水を手当たりしだいに使い
薬浴特有の嫌な匂いを隠す作業が始まった。
当然、匂いの検査は“鼻が利く”ガルドが担当する事となり……
……一つ嗅いでは首を横に振り
また一つ嗅いでは首を横に振り――
――そうこうする間に、たった一つだけ
薬浴特有の嫌な匂いを完全に中和した上に
今まで嗅いだ事が無い程に香しい香りを放つ
“最強の組み合わせ”を発見したガルド。
その、香りとは――>
………
……
…
「吾輩とエリシア殿……双方の意見が一致した香りは、これである」
<――そう言ってガルドが高らかに掲げた小瓶は
エリシアさんが最も大切そうに懐から取り出した
あの“本命”だった――>
………
……
…
「えっ!? ……でっ、でもそれだと
エリシアさんの秘蔵品と同じ香りが薬浴に成っちゃうんじゃ……」
「主人公よ……それは違う」
<――と、俺の発した言葉を即座に否定したガルド。
理由を詳しく聞いてみると――>
「本来ならば耐えられぬ程の悪臭を放っていた薬浴だが……
……薬浴が持つ香りと混ざった事で
香水単体よりも更に良い香りを放ち始めたのだ。
まさに……奇跡とでも呼ぶべき組み合わせと言えるだろう」
「そ、そうなのか……って、エリシアさんッ?! 」
<――ガルドが自信を持ってそう説明した瞬間
俺の真横で、エリシアさんが膝から崩れ落ちた。
とは言え、何処か調子が悪くなった訳では無く――>
………
……
…
「……うん。
“悪巧み”って成就しないね……」
「えっ? ……あっ。
……そ、そんな事気にしないで下さいエリシアさん!
他に何かエリシアさんが“秘蔵の香水”を手に入れた時に
また改めて大量に作ってプレゼントしますから! 」
「それは無理だよ主人公っち……」
「えっ? ……何故に? 」
「その香水……世界一高額な奴だから」
「え゛っ?! ……」
<――この後、俺とガルドは
エリシアさんを慰めるのに凄まじく苦労する事に成るのだった――>
===第百二〇話・終===