第百十九話「大変の後は楽勝に出来ますか? 」
<――信じられない程簡単に解決した“血液混成法”問題。
地獄のレベル上げをやりきった俺の立場は
全くと言って良い程に無かった様な気がするが……とは言え
エリシアさんとミリアさんの手助けが無ければ最悪の結果が訪れていただろう。
……正直、どうすればお返しが出来るのかすら分からないが
兎に角、俺は二人に御礼を言う事にした――>
………
……
…
「本当に……本当にありがとうございましたッ!!
でも……どうやってお二人にお返しすれば良いんでしょうか?
ミリアさんは今回の事で大赤字ですよね? 今後……」
<――訊ねるまでも無く当然だとは思ったが
人間一人が一週間に食べる食事の量を考えた時
それが数千人規模で一気に押し寄せた上、その全てにタダで食事を提供した場合
どれだけの大赤字に成るかなんて考えなくても分かるレベルだ。
だから――>
………
……
…
「俺が……俺が責任を持って赤字分を補填しますッ! 」
<――そう伝えた。
だが、ミリアさんは――>
「……何言ってるんだい!
主人公ちゃんはオセロの権利を譲ってくれただろう?
あれの利益がどれだけ凄まじい物かまだ分かって無いのかい? 」
「あ、あれは別問題ですよ! 」
「……いいや。
あれは元々あたしが受け取る筈じゃ無かったお金さね。
……良いかい? 良く聞きな主人公ちゃん
今回の件は嘘偽り無く、全く以て何も痛く無い事さね。
それに、主人公ちゃんが一人で苦労する様なんて
あたしだけじゃなく……誰一人としてもう二度と見たくないんだよ?
……それを考えたら、この数倍掛かったとしても安いもんさね」
「で、でも……」
<――と、更に言葉を発しかけた俺を
ミリアさんは優しく抱き締めてくれて――>
「……あたしが良いって言ってるんだから
主人公ちゃんはもう気に病まなくて良いんだ。
そんな事より、これから先の判断こそ
“主人公ちゃんにしか出来ない”事なんだよ?
今回の事はもう良いから、主人公ちゃんは其処を必死に頑張りな……良いね? 」
「は、はいっ!! ……」
<――と、少し照れながら返事をした俺に優しく微笑んでくれたミリアさん。
一方、そんな様子を間近で見ていたエリシアさんは――>
「えっとぉ~……私に関しては
寧ろプラスだったから気にしないで良いよぉ~? 」
「えっ? ……そ、それは何故に? 」
「えっとねぇ~……“増額ハンター達”が
少しでも元を取ってやろうとしたのか
凄い勢いで沢山の依頼を超スピードで片付けてくれた上に~
不人気な依頼すら全部終わっちゃったから~別に御礼とか要らないしぃ~?
……寧ろ得しちゃった位だから大丈夫ぅ~♪
あっ! でもぉ~抱き締めて欲しいならぁ~
素直に言ってくれたら~……抱き締めてあげるよぉ~? 」
「なっ!? いっ、いやその嬉しいですけど……ってそうじゃなくて! 」
「フッフッフ……~やっぱり主人公っちはいじり甲斐があるねぇ~♪
てか~主人公っちがやるべきなのは私達への御礼よりも
魔族達の居住区についての良案を出す事だよぉ~? 」
「そ、それは勿論……全力で頑張りますッ!
って……治療を終えた魔族達は今、一体何処に? 」
「ん? 何処も何も……まだ同じ所で待機中だよ? 」
「マジですか……それは流石に彼らに対する申し訳無さが凄いですし
急いで雨風をしのげる様な物を作らないとですね……」
「そだねぇ~……んまぁ、それも含めて後で執務室に集まろうぜぃ~」
「はい! ……では後ほど! 」
<――全ての問題を俺が寝ている間に解決してくれた二人。
俺がずっと頭を抱えていた難問を
いとも簡単に解決してしまった二人にはどれ程感謝をしてもし足りないし
恩人二人から“託されたバトン”は、俺が責任を持って
“争いの無い国”と言う“ゴール”へと運ぶべきだと思った。
……そうする為の良案を出すのが、今俺が必死になるべき仕事だッ!
この瞬間、そう奮起し
勇み足で執務室へと転移した俺。
だったのだが――>
………
……
…
「おぉ主人公殿……丁度良い所に来たわい! 」
「丁度良いとは一体……って、なんですか? それ」
<――転移早々俺の目に映った物、それは
第二城地域の地図上に置かれた“魔族居住区完成予想図模型”だった。
うん、えっと……俺の仕事は?
“託されたバトン”は? ――>
………
……
…
「あ、あの……もしかしてもう全部決まってたりします? 」
「うむ、モナーク殿が全ての設計を担当してくれたんじゃよ! 」
「えっ?! ……ってそりゃそうですよね。
仮にも魔族が暮らす場所ですし
魔族以外が考える設計よりも理に適ってますよね。
はぁ~っ……」
<――正直
“俺が居なくても全然大丈夫! ”
ってな感じで物事が進んでいるのはとても良い事なのだが
変に力が入っていた分、素直に喜べない俺も居て……一方
そんな雰囲気を誤解したのか、モナークは俺に対し――>
「貴様……我の設計が不服とでも申すつもりか」
「い、いや……そんな事は思ってないよ?! 」
「ならば何故貴様は溜息をついた? ……考えを正直に申せ」
「い゛ッ?! いや、そのえっと……分かったよ。
言うけど……怒るなよ? 」
「内容に依るが……申せ」
「うっ……い、一応言うけどッ!
……俺が皆と旅に出ていた時、旅の一つの目標が
俺の……政令国家じゃ無く
“前の故郷”を模した様々な物をこの国で再現させる為に
“必要な情報や技術を学ぶ”……って事にあったんだけどさ。
……てか、此処から先は気を使わずありのままを話すけど
頼むから怒らないでくれよ? 」
<――モナークに念を押した後
俺は、執務室に居る全員に対し
俺達が旅の最中訪れた国々で得た知識を最大限に活用した
“複合娯楽施設”をこの国の中に作りたいのだと説明した。
その上でこの“施設”が、未だ完全とは言い難い魔族種に対する
“悪感情の払拭に使えるかも知れない”と、伝えた上で
その為のアイデアも説明し――>
………
……
…
「……兎に角。
反対派だけじゃなく、賛成派の人達ですら
魔族に対しては有る種の恐れみたいな物は極僅かにでも有るみたいだし
……正直に言えば、そう言う感情は少なからず俺にだってある。
だからこそ、その悪感情をそのままにせず
少しずつでも緩和していかないと駄目だと思っているんだ
勿論……その為に国民一人一人の感情を抑制する様な事をするつもりはないし
そんな事は絶対にしてはいけないと思ってる。
唯、モナークに賛同し此処に残ってくれた魔族達が
既に俺達に取って危ない存在じゃ無い事を理解して貰う為には
有る種の“宣伝”を兼ねた生活圏にしたら
一挙両得に成るんじゃないかと思ってて……」
<――と、俺が其処まで言い掛けた所で
モナークは全てを察し――>
「ふむ……我らの住まう場所に貴様の謂う
“複合娯楽施設”を併設すると謂う訳か……面白い」
「そうそう! ……どうかな? もし嫌なら……」
「構わぬ……但し“食事処”の策定は我に一任せよ」
「えっ? 俺は別に構わないけど……」
「フッ……ならば異存は無い」
<――直後
満場一致で解決した魔族の居住区問題。
先ずは簡易的な“仮設住宅”を用意する運びと成ったのだが
約一万五千も居る魔族達全員を収容出来る程の規模となれば
相当な材料とお金が必要と成るらしく、ラウドさんから――
“その為の材料と予算の捻出方法が問題なんじゃよ”
――と言われた。
だから――>
………
……
…
「……で、結局俺が仮設住宅を作る羽目になるんだな? 」
「貴様……我が配下の者共に“野晒し”を強いた挙げ句
仮設の住居すら作らぬと謂うつもりでは無かろうな? 」
「い、いや……断じてそう言う事じゃなくて!!
この“本”が完全に“公然の秘密化”してるのが
元の持ち主に凄く申し訳無くてね……」
「フッ……“律儀”と言えば聞こえは良いが、良い加減諦める事だ。
さて、今回の対価としては……この程度が妥当であろう」
「うわぁ……またでっかい金塊を。
一体何個持って……ってまぁいいけどさ! 」
<――と、半ばヤケに成りつつも“プレハブ住宅”を出現させた俺。
だが、どうやらこれを最低でも五〇〇〇棟は出さなきゃ駄目らしい。
……うん。
どう考えても“地獄のスケジュール”だ――>
………
……
…
「ハァハァ……後、何棟だっけ? 」
「四〇〇〇棟程か……後は任せたぞ」
「お、おい置き去りかよッ?! せめて横で話し相手に……って。
……だぁぁぁもうッ!! 」
<――半分を超えた辺りから無心で作り続けていたと思う。
そして、悟りの境地に至り掛けた時――>
………
……
…
「……あっ。
仮設ならもっと簡単に作れる“物”でも良かったんじゃ……」
<――泣きたい気持ちを必死に堪えつつ
尚もプレハブ住宅を生み出し続けた俺――>
………
……
…
「お、終わったッ……」
<――魔導力を消費しない事が唯一の救いとは言え
“注射器”と言い“仮設住宅”と言い
単純作業が苦手な俺に取っては
“地獄”みたいな生産が続いた事に少し切なくなった。
まぁ……なにはともあれ、完成をモナークに伝えた瞬間
待ってましたとばかりに約一万五千程居る全魔族達が
一斉に俺の目の前に転移して来た事は正直、すっげぇビビったが――>
………
……
…
「し、心臓が止まるかと思った……」
「主人公……ご苦労だったな」
「え゛ッ!? ……労を労ってくれた事より
珍しく名前で呼んでくれた事の方が驚いたけど……ありがとな」
「黙れ下等生物め……」
「なっ!? ……モナークお前、ちょっと短気過ぎるぞ?! 」
「フッ……とは言え、手間を掛けた
これで少しは配下の者共にも顔向けが出来ると謂う物よ……」
「なっ……まぁ、喜んでくれたならそれで良いけどさッ!
それとその……今後はもっと堅牢な建物に変わるから
その時に改めて……俺だけじゃなく
協力してくれる人達にも御礼を言って貰えたらそれで良いよ」
「フッ……良かろう」
<――この時、少しだけモナークと仲良く成れた気がした。
だが、何だか照れくさく成ってしまった俺は
理由をつけ、直ぐにこの場を離れてしまった。
……でも、もしかしたら
モナークとも友達に成れる日が来るのだろうか? ――>
………
……
…
<――ともあれ。
そんなこんなで翌朝……ヴェルツの二階で気持ち良く寝ていた俺。
……を叩き起こす
ラウドさんからの連絡――>
「主人公殿、そろそろ大臣として復職して貰いたいんじゃが……」
「それは勿論ですけど……でも既に
俺の代わりを努めてる人達が居ませんでしたっけ? 」
「うむ、それについては安心して良いぞぃ!
皆、副大臣として引き続き頑張って貰う事に成るからのぉ! 」
<――この後、ラウドさんから説明された仕事内容は
魔族受け入れに関する各種法律の改定や
必要に応じた新たな法整備などだったのだが……
……何だかんだでその他にも大小様々な仕事を任されてしまった。
何と言うか……平和で争いの無い国を作る為とは言え
落ち着けるまではまだ暫く掛かりそうだ。
ともあれ、突然の復職依頼から数時間後――>
………
……
…
「え~では復職一発目の大仕事ですが……ゴホンッ!
……魔族居住区、及び“複合娯楽施設”の建設計画に当たり
労働力の圧倒的な不足が問題とされていましたが
この度“魔族種担当大臣”に就任したモナークから
“配下の者達にも作業を手伝わせる”との連絡が
先程、俺宛に魔導通信で届きました……ですので
労働力の確保、並びに建設期間の大幅短縮が可能となった事を
合わせてご報告させて頂きます。
唯、もう一つ大きな問題がございまして……」
「……食料の問題じゃったな? 」
「ええ……ラウドさんの仰った通り
今後改善予定であり且つ一時的とは言え……現状では
我が国の食料生産量を遥かに超えており、この問題の解決も急務かと思われます。
まぁ、一応手立てが無い訳では無いのですが……」
「ふむ……“公然の秘密”が手段じゃな? 」
「え、ええ……仰る通りです」
<――ラウドさんにそう言われて思った。
“最早隠してる俺が馬鹿みたいだ”
……兎に角、俺は米や大豆などの他にも
日本食に必要な考えうる限りの農作物を例の本で生み出し
魔族達協力の下、農業や畜産などを担当させる事が最も手っ取り早く
且つ、一挙両得な解決方法では無いかと意見を出した。
結果は言うまでも無く満場一致で可決と成った……だが。
良く考えたら、またしても俺は“単純作業地獄”に陥ったんじゃ――>
………
……
…
《――この後
予想通り“単純作業地獄”に陥る羽目となった主人公。
その一方、元魔王であるモナークは
食事処の策定を進めていて――》
………
……
…
「……我の要求は以上だ」
「そうかい……引き受けるよ」
「うむ……では、頼んだぞ」
《――そう言うと、ヴェルツを後にしたモナーク。
彼が話していた相手は“ミリア”であった――》
………
……
…
「まさか……魔族にまであたしの料理が受け入れられるとは
これは忙しくなりそうさねぇ……」
《――この日から数日後
魔族居住区内へ最初に建設された建物は“ヴェルツ二号店”であった。
そして、建設完了から更に数日後――》
………
……
…
「しかし……まさかモナーク直々に
ミリアさんを“引き抜き”に来るとは驚きましたよ。
って言うか……そうなると“本店”の経営はどうするんですか? 」
「勿論、今まで通りあたしが切り盛りするよ? 」
「えっ? でも、第二城と此処ってかなり離れてますよね? 」
「それがねぇ……あたしを転移させてくれる“娘”が居るから
問題無いみたいなんだよ? 」
「そうですか……でも、唯でさえ忙しいミリアさんが
更に忙しくなったら休む暇が……」
「……何言ってるんだい主人公ちゃん。
あたしの料理を美味しいって食べてくれるお客さんがいるなら
それがどれ程遠くても、届けてあげたいじゃないかい!
とは言え……確かにあたしだけじゃ
店を同時に二つも切り盛りなんて簡単には出来っこ無いだろう?
だから……二号店にはあたしの“弟子”が用意されるのさ! 」
「で、弟子ぃッ?! それは一体……」
<――と、ミリアさんに訊ねた
瞬間――>
「主人公様、お初にお目に掛かります――
――私がその“弟子”でございます」
「あ、貴女は? ……」
「申し遅れました、名をアイヴィーと申します……以後お見知りおきを」
<――厨房の奥から現れるや否や、そう丁寧に自己紹介し
深々と頭を下げた魔族の女性は青い肌と透き通る様な瞳をしていて……
……何と
“割烹着姿”だった――>
「えっと、あの……ヨロシクオネガイシマス」
<――色んな意味で緊張し過ぎて片言に成った俺の様子を
困った様な表情で見つめるアイヴィーさんだったが――>
「……まだ修行中の身ですから至らぬ所も多々有るかと思いますが
必ずやミリア様の味を学び、行く行くは
人族は勿論、各種族の皆様との架け橋と成れればと願っております。
その為にも是非、ご指導ご鞭撻の程……宜しくお願い申し上げます」
<――そう言って更に深々と頭を下げたアイヴィーさん。
だが、何だろうこの――
“外国の方が日本文化を学びに来たら日本人以上に日本文化の知識があり
日本人よりも日本人って感じが溢れてて逆に圧倒されてしまう日本人”
――みたいな感覚は。
取り敢えず、色々と慌てた俺は――>
「こ、此方こそ末永く宜しく……じゃなくて!
えっと……が、頑張ってくださいっ!! 」
「お気遣い……痛み入ります」
<――この日、俺は思った。
格だけじゃ無く、対応力って名の“格”も育てなければと――>
………
……
…
「……主人公様、私は一度二号店へ戻りますので
何かご用命など御座いましたら何なりとお申し付け下さい。
……では」
「は、はい! ご丁寧にどうも……」
<――と、恐縮しっぱなしな俺とミリアさんに一礼すると
無詠唱で転移したアイヴィーさん。
……どうやら魔導師的な腕も優秀な様だ。
正直、色々と整理がつかない――>
………
……
…
「……それにしても、凄く物腰穏やかで丁寧な方でしたね」
「そうだねぇ……だがあの娘は元々モナちゃんの“護衛”だかを務めてる位だし
腕っぷしは相当凄まじいんじゃないかい? 」
「え゛っ?! ……アイヴィーさんって無敵超人か何かですか?! 」
「そうかも知れないねぇ……けど、あの娘は面白い娘でねぇ
あたしの作った物を一口食べた瞬間、目を真ん丸にしたかと思ったら
“弟子にして下さい” ……って、頭を下げたんだよ?
……あんな娘は初めてさね! 」
<――そう話すミリアさんの顔はとても楽しそうだった。
だが、ほんの少しだけ母親を取られた子供の様な気持ちになってしまった。
と言うか……正直、折角帰って来たと言うのに
多忙過ぎて全くのんびり出来ない事にも寂しさを感じて居たし
たまにはヴェルツでのんびりと過ごして居たかったのだが
そうも出来ない程この後も忙しくて――>
「そうですか……でも、無理だけはしないでくださいね?
もしキツい様なら人員を回す様、上に掛け合いますから
絶対にすぐに教えて下さいね! 」
「ありがとねぇ……けど、主人公ちゃんも無理しない様にするんだよ? 」
「はい! ……ではまた後で! 」
<――そう言ってヴェルツを後にした俺だったが、この日を境に
ミリアさんと話せる時間は目に見えて減って行き――>
………
……
…
「……ご馳走様でしたミリアさん! 」
「あ、ああ! ……食器は其処に置いといておくれ! 」
「あ、はい……」
<――この日、ミリアさんは挨拶もそこそこに
アイヴィーさんに連れられ二号店へと転移して行った――>
「……はぁ~っ」
「あ、あの……主人公さん」
「ん? ……何だい? メル」
「えっとその……今は忙しくて余りお話出来ないかも知れないですけど
もう少ししたら落ち着いてのんびり出来る様に成ると思いますし……」
「あ、いやその……気を遣わせてゴメン
メルだって忙しいのに……っと! 俺もちょっと手伝ってみようか! 」
「い、いえいえ! ……主人公さんは“居住区関連”で忙しいんですから
せめてヴェルツに居る時位はのんびりしてて下さいっ! 」
<――と、俺に気を遣ってくれた“割烹着姿の”メル。
何でも……ミリアさんの居ない時間帯に“臨時店長”として
本店を任されているそうなのだが
“一週間タダ”の後から、マリアとマリーンも
“臨時店員”として働き始めて居るらしく――>
「……主人公さん凄く暗い顔してますけど
こんな美女達に囲まれて何が不満なんですか?
あっ……もしかして実は熟女好きとかですか? 」
「ちょ!? マリアお前なぁ……俺にとってミリアさんは
母親みたいな物だって言ったろ?! 」
「え~……それはそれでマザコンレベルがカンストしててちょっと引きます」
「お前なぁ……って、今何時だっけ? 」
「十二時過ぎてますけど? 」
「やっべ!! ……執務室行ってくる! 」
「お気をつけて~」
《――この日から数週間
各種法整備や様々な行事の日程調整に追われ……より一層
彼の希望する“のんびり”とはかけ離れた生活を送る事と成った主人公。
一方……ミリアは新しく出来たヴェルツ二号店で
弟子と成ったアイヴィーに対し、料理の“いろは”を教えていた――》
………
……
…
「さて、まずはじゃがいもの皮をこの道具で剥いてご覧」
「はいッ! ……って、きゃぁッ?! 」
《――ミリアに促されじゃがいもを手にした瞬間
力加減を誤ったアイヴィーは
あろう事かじゃがいもを握り潰してしまった。
そして、周囲に散らばったじゃがいもの“残骸”に慌て――》
「も……申し訳有りませんッ!! 」
「い、いや大丈夫さね……しかし
アイヴィーちゃんは凄い腕力だねぇ……」
「魔王様……いえ、モナーク様の警護一筋でしたので。
それよりも、本当に申し訳……」
「……責めてるんじゃないから気にしないで良いさね
さて、力が強いならこの作業の方が得意かもしれないね……」
《――そう言ってミリアの手渡したボウルの中には
小麦の生地が入って居て――》
「それを捏ねてみてご覧……そっとだよ? 」
「は、はいッ! よいしょ……って、これなら出来ますッ! 」
《――と、喜んだのも束の間。
今度はボウルを支える手に力が入り過ぎたのか
ボウルを握り潰してしまい――》
「わ、私とした事がッ! ……も、申し訳……」
「わ……わざとじゃないんだから
落ち込まずにゆっくり覚えて行けば良いさね。
ああそうだ! ……力が強いアイヴィーちゃんの為に
道具自体をガンダルフの所に頼んで専用で作って貰おうかねぇ?
……って、どうしたんだい? 」
「ミリア様……貴女は何故私達魔族に対し
これ程迄に理解を示して下さるのです?
ましてや、これ程迷惑を掛け続けている私の様な者にまで……」
「なぁに……失敗は誰にでも有る事さね。
さっきも言ったけど……わざとやってるんじゃ無く
必死に頑張ってる娘を何で怒る様な事が有るんだい?
それに“魔族に理解を示す”って言ったが……当たり前さね」
「当たり……前? 」
「ああ、当たり前さね! ……主人公ちゃんが“魔族を受け入れる! ”
って言った事も理由の内ではあるが
アイヴィーちゃん達の長である“モナちゃん”直々に頼まれたって事は
少なくともあたしの料理を気に入ってくれたって事さね。
……だからこそ
魔族居住区内に、それも一番にこんな立派な店を建てたんだろう?
その時点で、魔族であるアイヴィーちゃん達と
あたし達人間とは分かり合える筈だと思っただけさね。
……理由はこれで全部だけど、不満かい? 」
「いえ……心から理解致しました。
ミリア様……これから先も多々ご迷惑をお掛けしてしまうかも知れませんが
是非とも厳しく仕込んで頂ければと思っています。
どうかこれからも私共々、魔族との友好関係を……
……どうか宜しくお願い致します」
《――そう言って深々と頭を下げたアイヴィー
そして、そんな様を見ていたミリアは優しく微笑んだ。
だが――》
「……さて、アイヴィーちゃん専用の道具もそうだけど
そろそろ昼食時だから、頑張って仕込みを……ッ!! 」
《――と、カウンターに手を掛けた瞬間
意識を失い、その場に倒れ込んだミリア――》
………
……
…
「なっ?! ……ミリア様ッ!? 」
===第百十九話・終===