第百十八話「特訓に楽勝の文字は無いッ!! ……後編」
<――本来の予定ならば“服の焦げ臭くなる狩り場”で
ギリギリまで特訓を続けていた筈の俺だったのだが、連日の疲れの所為か
俺の記憶から“化け物”と戦った記憶がすっぽりと抜け落ちてしまったらしい。
……理由はどうあれ、記憶喪失に成るなんてどう考えても危ないし
今後の予定を考えれば……大事を取り、今日を最後の特訓日とする他無さそうだ。
正直、心許無いが……何れにせよ
現在のレベルを確認してみなければ――>
………
……
…
「……で、どうやればレベルの確認が出来るんだ? 」
「自らの数値ならば“能力値確認”と唱え
他者の物であれば“性能値確認”と唱えるが良い……
……無論、無詠唱でも構わぬが
何れにせよ、貴様の格に応じた物以外を見る事は叶わぬ」
「ふむふむ……んじゃ早速、能力値確認ッ! ……って。
えっと、あの……モナーク?
……これって間違いとかじゃないよね?
俺の現在のレベル“二四〇”って表示されたんだけど?! 」
「……不服か? 」
「い、いや……俺だって仮にもハンターだし
今まで少なからず魔物も倒してきたし、旅で色々と苦労もして来た。
……で、その結果が一二〇レベルだったんだろ?
なのに……たった一週間で“倍増”とか逆に怖いんだが?!
一体どんな無茶させたたらそんな上がり方するんだよ?
てか、もしかしてレベル上げに付き合う回数減らしたくて――
“生き死にの確率が半々”
――みたいな無理ゲーやらせたんじゃ無いだろうな?! 」
「フッ……貴様の成長速度が些か常軌を逸して居る事は認めてやろう。
とは言え、貴様の礼節は未だ下等生物の様だがな……」
「なっ?! また下等生物って呼んだなお前ッ!! ……」
「黙れ下等生物が……貴様は差し詰め我が貴様を
無策で死地に追いやったとでも考えているのであろう? 」
「ち、違うってのかよ?! ……」
「フッ……愚かな」
<――そう、溜息にも似た一言を吐き捨てた後
モナークは――
俺が一人であの魔物を倒せるとは思っていなかった事や
俺が限界まで戦い、いよいよ無理な状況に成った時
“例の道具”で呼び出されたモナークが変わりに倒す事で
経験値を最大限分け与える予定だった事を話してくれた。
――うん、最悪だ。
反論出来ない位“ちゃんとした作戦”だった。
だが、俺は苦し紛れに尚もモナークを責め――>
「で、でも! せめて予め説明でもしてくれてたらッ! ……」
「……貴様は手を抜くであろう? 」
「はい……ぐうの音も出ません」
<――速攻で論破された。
正直、ちょっとだけ泣きたい。
ともあれ――>
………
……
…
「何れにせよ……二五〇を超えれば斯様に容易くは育たぬ」
「そっか……まぁ兎に角
今後は地道にレベルも上げなきゃ駄目って事か……すげぇ大変そうだけど」
「我が配下の為、命掛けで挑む事だ……」
「ちょ?! 物騒な言い方するなよ!? 」
<――とは言ったものの、現状の協力者の少なさで
もし俺が怠けたらと考えるだけで恐ろしくなったのも事実だった。
モナークに言われなくても、全力で……多少無理をしてでも
やり切らねば――>
「ま、まぁその……取り敢えずさ!
今日は夜も遅いし、俺の体力的にも限界だから
翌日か翌々日位に採血して貰って、どの位の魔族達を治療出来るか
一度マリーナさんに確かめてみようと思ってる所だ」
<――と言う俺の発言に素っ気無く返事をすると
何処かへと転移したモナーク……一方、一人残された俺は
“筋肉千切れ”……もとい“筋肉痛”を堪えつつ
ヴェルツの一階で遅めの夕食を取る事にしたのだが――>
………
……
…
「……大丈夫かい?
此処の所毎日そんな様子だから心配だよ……」
「ご心配お掛けしてしまって申し訳有りませんミリアさん……でも
俺が頑張らなきゃ多数の命が失われてしまいますから……け、けど!
ミリアさんの作る食事を食べてたら
こんな疲れなんて直ぐに吹っ飛びますから! 」
「……そう言ってくれるのは嬉しいんだがねぇ。
まぁ……無理し過ぎちゃ駄目だよ?
兎に角、今日は確りと休んで置く事さね。
“果報は寝て待て”って言うだろう? 」
「それもそうですね……出来る限り休みます! 」
<――暫くの後
自室へと戻った俺は直ぐに眠りに落ちたのだった――>
………
……
…
「……全く、あの子は何時も大変な思いばかりしてるねぇ。
あたしに僅かでも魔導力が有れば
少しでも助けに成ってやれるんだろうけど……
……あたし達みたいに魔導力の無い一般人にも
何か協力出来る様な事は無い物なのかねぇ……」
《――主人公の去った後、食器を片付けつつ
ミリアは一人そんな事を言っていた――》
………
……
…
「ふわぁぁっ……イテテ
まだ筋肉痛は残ってるみたいだけどやる事は山積みだ。
先ずは……」
<――翌朝
直近の問題である魔族達に対する治療の進捗状況を訊ねる為
マリーナさんに魔導通信を繋げた俺――>
「あの……そちらの現在の状況ってどんな感じですか? 」
「それが……正直、余り芳しく有りません」
「……具体的にはどの様な状況ですか? 」
<――そう訊ねた俺に対し
マリーナさんから帰って来た答えは――>
………
……
…
「ある程度治療を終えましたが、それでも……
……試算よりも血液が足りない様なのです」
<――予想はしていたが、聞きたくない答えだった。
だが、予想していたからこそ地獄の特訓を続けられたんだ。
後は……格の上がった俺の血液がどれ程役に立つか
それを調べて貰うだけだ――>
「……どの程度足りないかは敢えて聞きません。
何れにしろ俺も一度そちらに向かいますから
今の俺の血液でどの位の魔族に治療を施せるかを調べて……」
「……いえ、主人公さんはつい最近
モナークさんの為に採血をしてしまいましたから
魔族達の“タイムリミット”ギリギリまで……何よりも
主人公さんの安全の為に、暫くは採血を控えるべきかと思われます」
「えっ!? で、でも……いえ、分かりました。
失礼します……」
<――通信を終えた後
絶望し、頭を抱えていた俺
だがそんな時、部屋の扉を叩く音が聞こえた――>
………
……
…
「……誰だ? 」
「メルですけど、朝食のお誘いに……」
「あ、あぁごめん! ……すぐ行くから先に行ってて! 」
<――正直、食事が喉を通りそうに無い。
とは言え、そんな姿を皆に見せたら要らぬ心配ばかり掛けてしまう
……嘘でも明るく振る舞うか?
いや、そんな事をすれば
“これからは頼る”って約束を破ってしまう事に成るだろう。
とは言え、話した所で何の解決にも成らない……俺は
纏まらない考えのまま一階へと降り皆と顔を合わせた。
そして、朝食時――>
………
……
…
「ふぃ~っ! 何時もより食べちゃいましたよ~!
……って、主人公さん全然食べてないじゃないですか?!
ヴェルツの……それもミリアさんお手製の朝食ですよ?!
もし口に合わないとしたら……味覚まで“焦げ”ちゃったんじゃ?! 」
<――と、マリアに突っ込まれ慌てて周りを見回したら
俺以外は皆食べ終わっていて――>
「い、いや考え事してただけだから……って言うか
皆もう食べ終わってるの? 早いな?!
……っと皆を待たせても悪いし、自由行動って事で! 」
「も~……まぁ、それなら私は久しぶりに
ガンダルフさんの所に行ってきますね~ではでは! 」
「おう! 迷惑かけるなよ~? ……ってもう居ない。
……相変わらず足速いな」
<――この後
一人残って朝食を食べつつ必死に解決策を考えていた俺は――>
「……足りないとは言え、強制的に採血すれば後で遺恨が残る。
なら、協力してくれる人達を友好国の中から探すか?
いや……何のお礼もせずに血液だけを貰うなんて事は不可能だし
国内ですら説得に難航している問題を、幾ら友好国とは言え
“はいそうですか”と受け入れてくれる筈も無いか……」
<――ひたすらに解決策を模索していた俺。
すると――>
「……あたしが強い魔導師だったら
主人公ちゃんの悩みを解決してあげられるのにねぇ……ごめんよ」
「なっ?! ……ミリアさんが気に病む事じゃないですって!
寧ろご心配をお掛けしちゃって申し訳有りません……でも
何としてもこの問題は解決させますから! ……って?!
朝食がこのままだと冷えちゃいますよね! い、急いで食べますから! 」
<――そう返事を返した俺の顔を暫く見つめ
少し困った様な表情を浮かべつつ――>
「頑張り過ぎるんじゃ無いよ? ……」
<――そう言って、俺の肩をポンポンと叩き
厨房へと消えていったミリアさん。
嗚呼……俺は、帰って来てからずっとミリアさんに心配ばかり掛けて居る
その事に気付いた瞬間、心苦しさを感じた。
何とかして解決し
一日でも早く平和な日常を取り戻さなければ――>
………
……
…
「……ミリアさん、今日も美味しい朝食をありがとうございました!
ご馳走様でしたッ! ……」
<――厨房に向かってそう挨拶し、ヴェルツを後にした。
それと同時に……俺の頭の中には一つの手段が浮かんでいた。
まぁ、手段と言うよりは“唯の無茶”だが――>
………
……
…
「まぁ……ギリギリまでレベルを上げてみるしか無いか」
<――疲労感やら筋肉痛を気にしてる余裕は全く無い。
そもそも、無理を承知でモナークと“契約”をした以上
少なくともこの一件を解決するまで俺に休息を取る権利など無い――>
「よし……頑張るか! 」
《――彼が一人そう考え“それ”を実行に移す事を決めていた頃
ヴェルツではある話し合いが行われていた――》
………
……
…
「しかし……何か主人公ちゃんの助けに成る様な手段って
何処かに無いものかねぇ? エリシア」
「……それについては私も考えてるけどぉ~
曲がりなりにも魔導師……もとい、ハンターやってる奴らって
割と“頑固人間”が多いからねぇ~?
……ちょっとやそっとの事じゃ
考えを変える事は無いんじゃないかなぁって思うよ? 」
「そうかい……何処まで行っても食事処でしか無いあたしの店じゃ
主人公ちゃんの疲れを僅かに癒やす位しか協力は出来ないものなのかねぇ……」
「……そんなに卑下しなくても、ミリアの作る食事は天下一品だよ?
食べられなく成ったら辛いだろうな~って思うし
もしもっと安く食べられたら毎日でも~……って!! 」
《――直後、ミリアとエリシアは顔を見合わし
何かを思いついた表情を浮かべると、慌ただしく動き始めた。
……一方
主人公は――》
………
……
…
「一応此処に来てみたけど……嘘みたいに魔物が出てこないぞ? 」
<――俺は
モナークにすら秘密で“例の狩場”を訪れていた……だが。
待てど暮らせど“叫べど”……魔物は一体も現れなかった。
単純に疲れただけだ……クソッ!
と言うか、モナークが何時も割ってた“あれ”に
撒き餌みたいな効果が有った事に今更ながら気付き――>
「仕方ない……戻るか」
<――と、自室に戻っては来たものの不甲斐無さだけが増え
何も結果が出せなかった事に正直とてもイライラしていた。
だが、そんな時ラウドさんから急ぎの用事だと呼び出され――>
………
……
…
「それで……“用事”とは? 」
「うむ……疲れている時で申し訳ないんじゃが
念の為、予備の注射器を作って貰いたくてのぉ……」
「勿論すぐにでも作りますけど……でも
まだ協力者が圧倒的に足りないんじゃ……」
「それはそうかも知れんが、いざ必要になった時に
“足りません”……では困るじゃろうて」
「それもそうですね……分かりました」
<――直後
例の倉庫的な部屋で再び注射器を作り始める事となった俺。
だが、何故か製作してる間ずっと
ラウドさんが監視の様に横へ居る事に違和感を感じた俺は――>
「えっと……一人でも出来ますよ? 」
「い、いや……それは分かっておるんじゃが
出来れば今日中に作って貰いたくてのぉ! き……気が急いておるんじゃよ! 」
「……えっと、これって“採血用”ですよね? 」
<――ほんの僅かだがラウドさんから妙な物を感じた俺は
恐る恐るそう訊ねた。
すると――>
「うむ……それ“は”勿論じゃよ! 」
「それ“は”? あの……俺に何か隠してません? 」
「い、いや?! ……何も隠しては居らんぞぃ?! 」
「怪しいな……自白の魔導掛けますよ? 」
「か、仮にも国の長たる大統領にそんな事をしてはな……ならんぞぃ?! 」
「ええ、確かに……でも、何もなければ何も答えないと思うのですが?
……兎に角、これは間違い無く
今回の問題に対処する為に作らせてるって事で……間違いないですね? 」
「当たり前じゃろう!! ……全く。
主人公殿は旅立ちの日からじゃが、どうもわしの事を
徹底的に疑って掛かる“きらい”がある様じゃのぉ……わしは悲しいぞぃ? 」
<――そう言うと、潤んだ瞳で俺を見つめて来たラウドさん。
うん……超絶気持ちが悪いし
明らかに何かを隠してるって事だけはハッキリと分かった。
とは言え、最後の質問に対する答えに一切の嘘偽りは無いとも感じて居た。
まぁ……何れにしろ規定数を少し超える位は作っておかないと
いざと言う時に困るのは確かだ。
そんなこんなで、この後も必死に製作し続けた俺。
そして――>
………
……
…
「ふぅ……一応、余る位には作りましたから
後は反対した魔導師達が少しでも賛成側に変わって貰える様に
ラウドさん以下、大臣の皆さんにも何らかの働き掛けをお願いしておきます」
「うむ、勿論じゃ! ……と言うか
その件に関して“は”安心するが良いぞぃ? 」
「その件に関して“は”? ……さっきもですけど
凄く奥歯に物が挟まった様な物言いをしてますよね? 」
「むっ……またも疑って掛かったのぉ?!
……悪い様にはせんから黙ってのんびりしておるんじゃよ!! 」
「この忙しい時に“のんびり? ”……と、言う事は
何らかの手立てを手に入れたんですよね?
なら……何で俺に教えてくれないんです? 」
<――そう
訊ねた瞬間――>
「むぅ……捕縛の魔導、蜘蛛之糸ッ!! 」
「なっ!? ラウドさん、何を?! ……」
「全く!! ……これで少しは休めるじゃろう!
しかし……少し不愉快じゃよ! 」
「は、離して下さい!! グッ! 動けば動くほど絡まって……ッ! 」
「なっ?! ……危ないからじっとしておくんじゃ! 」
「理由を話してくれなきゃ動き続けますよ! ……うぐッ?! 」
「いかんッ!! ……ガーベラ殿っ!!! 」
<――直後
何処からともなく現れたガーベラさんは
“例の睡眠の魔導”で、俺を深い眠りへと落とした――>
「一体……何……を……」
<――薄れゆく意識の中で、唯一分かった事。
それは……二人が俺の事を
とても心配そうに見つめて居たって事だけだ――>
………
……
…
「……ッ?! 」
<――どれ程の時間が経ったのだろうか?
俺はヴェルツの自室で目覚めた。
慌てて窓の外を見たら朝である事だけは分かったが
一体どれ程眠らされて居たのかが分からず――>
「あの時……二人から悪意は感じなかった。
寧ろ、優しさみたいな物を強く感じはした……だが
俺を無理やり休ませようとしただけにしては少々手荒だった。
一体、どんな考えがあってこんな暴挙に出た? ……何れにせよ
一度確認する必要はあるな」
<――と魔導通信を入れようとした瞬間
俺の胃がとんでもない空腹を訴えた。
……そりゃそうだ、倉庫で注射器を作った後
捕縛され眠らされ……少なく見積もって翌朝でも
胃が空な事に不思議は無い――>
「あ~……取り敢えず朝食を食べてからだな」
<――と少しばかり呑気な考えの元
階段を降りていたら……一階が妙に騒がしい事に気がついた。
とは言え、問題が起きてる様な雰囲気でも無い。
だが“何か”が起きてる事は確かで……
……直後、急いで一階へと降りた俺は
とんでもない光景を目の当たりにした――>
………
……
…
「こ、これは……一体……」
<――驚いた。
どう言う訳かは知らないが、朝食を求めるお客の山で
店の外まで長蛇の列が出来ていたのだ――>
「あ、あの……ミリアさんっ! この騒ぎは一体……」
「はいよ!! 注文ならメルちゃんかマリアちゃんに!!
……って、おはよう主人公ちゃん!
ごめんねぇ騒がしくて……起こしちゃったかい? 」
「い、いえそうでは無くて……ってそんな事より、この騒ぎは一体何事です? 」
「これは……主人公ちゃんがずっと大変そうだったから
何かあたしにも協力出来る事が無いかって
エリシアと話してたんだが……急に思いついたんだよ」
「思いついた? ……何をです? 」
「それがねぇ……って、あぁっ! 卵が!!
……く、詳しい事は後で説明するから
主人公ちゃんには悪いけど、朝食は部屋で食べて貰えるかい?
出来るだけ早く誰かに持って行って貰うから……待ってておくれ!
っと……三番、六番、九番テーブルの料理完成したよ!!
早く持って行きな!! ……」
<――直後
仕方無く部屋に戻った俺……そして待つ事暫く。
……部屋の扉をノックする音が聞こえたかと思うと
マリーンが朝食を持って来てくれて――>
………
……
…
「おまたせっ! ……って、体の調子はどう? 」
「ん? 割と良いけど……ってかマリーンまでヴェルツの手伝いしてるの? 」
「そうよ? ……って言うか貴方も見たでしょ? あのお客の数!! 」
「そうそう、それだよ! ……一体何であんな事になってるんだ? 」
「あ~……それについてだけど
二人の内のどっちかから直接聞いた方が良いと思うわ?
私がバラシちゃうと駄目だと思うし……って!
此処で油売ってたら皆が困っちゃうから……もう行くわね! 」
「あッ!? ちょっと! ……って、行っちゃった。
まぁ……取り敢えず食べるか」
<――どうにも俺だけに知らされていない
“事情”がある様だったが……何れにせよ
朝食を終えた俺は、未だ騒がしい下の階に降りる事も出来ず
マリーンの言い残した言葉を思い出していた――>
………
……
…
「二人の内のどっちかから……ってマリーンは言ってたけど
ラウドさんとガーベラさんの事か?
……いや、あの二人とヴェルツの状況が繋がらないよな」
<――などと考えていた俺だったが
治療の進捗状況が気になったので
一先ずはマリーナさんに連絡を入れてみる事にした――>
「……あれからどうですか? 」
<――そう訊ねた俺に対しマリーナさんから返された答えは
俺が予想だにしない物だった――>
………
……
…
「ええ、お陰様で治療は全て滞り無く終わりましたが
今度は居住地区の計画を急ぐ必要があり……」
「えっ? ……俺の聞き間違いじゃ無いですよね?
今“治療は全て終わった”って……」
「ええ、間違っておりませんわ? ……注射器は少し余りましたが
今後、私の様な“一分の例外的な者”が現れた時に再び……」
「い、いや……そうじゃなくて!
一体どうやって協力者が集まったんですか?! 」
「あ、あら?! ……まだご存知無かったのですね!
……では、私の口からはお伝えできません! ではっ!! ……」
「えっ、ちょッ?! ……切られた」
<――やはり皆して何かを隠してるみたいだった。
だが、治療が全て終わったとは一体どう言う事だ?
……勿論喜ぶべき情報だが、一体何処からそんな人数の協力者を集めた?
まさかラウドさんと大臣達が無理やり採血を……いや
そんな筈は無いと思うけど……やっぱり埒が開かない。
俺は全てを確かめる為、直接ラウドさんの居る執務室へと飛んだ――>
………
……
…
「……おぉ、主人公殿! 顔から疲れが取れておるのぉ!
じゃが……“それ以外の感情が”透けて見えるぞぃ?
どうにも“怒って”おるのぉ……」
「……良くご存知で。
それで……俺に話しておくべき事が有ったりしません? 」
「そ、その様に威圧せずとも話すわぃ!
じゃが……わしでは無く、エリシア殿かミリア殿から
直接聞くのが筋じゃと思うがのぉ? 」
「……何だか全く俺にも分かりませんけど
凄く仲間外れにされてるって事だけは確りと理解してるつもりです。
筋違いでも何でも良いですから……答えて下さい」
「ううむ……仕方ないのぉ」
<――直後
重い口を開いたラウドさんは。俺に対しある真実を語り始めた――>
………
……
…
「……発端は一昨日の事じゃよ。
先ずは主人公殿に大量生産を頼んだ注射器が大いに役立った。
……じゃが、そう出来たのも
先程話に出たミリア殿とエリシア殿の力添えが有ってこそなんじゃよ。
二人の“妙案”のお陰で、あれだけの魔族に対し
僅か一日で全ての治療を終える事が出来たんじゃよ? 」
「……朝食を求める客でヴェルツが超満員だったのも
それに関係してるんですね? 」
「うむ、それと言うのも――
――ミリア殿は協力者に対しヴェルツでの食事を“一週間無料にする”と約束し
エリシア殿は、ギルドの依頼達成報酬を
同じく“一週間倍増させる”と約束したんじゃよ! 」
「確かに凄く嬉しいサービスですけど……それだけの事で
僅か一日で集まったんですか? 」
「うむ! ……寧ろ足り過ぎた程じゃぞい?
……じゃから、マリーナ殿の様な“一分の例外的な魔族達”に対し
再度の治療が必要と成った時、優先し力を貸して貰える様
約束を取り付け、その者達にも同等の条件を与えたんじゃよ! 」
「えっと、一応訊ねますけど俺の血液は……」
「うむ! ……一滴もいらんじゃろうな! 」
「ちょっとぉ?! ……俺の地獄の一週間は?! 」
「うむ! ……くたびれ儲けかも知れんのぉ! 」
「ちょ?! まじか……マジかァァァァァァッ!!! 」
<――こうして
地獄を見た俺のレベル上げは
唯の“くたびれ儲け”と成ってしまったのであった。
だが同時に、仲間って……家族って良いなと強く思えた出来事とも成った。
と言うか――>
………
……
…
「――そう思わないと、やってられるかぁぁぁッ!!! 」
===第百十八話・終===