第百十七話「特訓に楽勝の文字は無いッ!! ……前編」
<――魔族達との共存の為、必死に頭を下げた俺。
だが、結果は散々だった……政令国家の抱える全魔導師の内
僅か二割の協力者しか得られなかった。
だが……大勢の命が掛かっている以上
簡単に諦めるなんて選択肢は絶対に無い。
様々な考えに頭を悩ませた末……自惚れにも思えたのだが
“異質”な量の魔導力を有する俺ならば、たとえ少量であっても
“異質”な数の魔族達に治療を施せるのではとの考えに至ったのだった。
……勿論、少しでも魔導師達の協力者を増やす為
ラウドさん達も必死に方法を考えてくれては居るらしいが
万が一に備える必要を考えた結果……俺は
モナーク協力の下“レベル上げ大作戦”に勤しむ事を選んだのだった。
だが――>
………
……
…
「……で、修行って言ったって何をすれば良いんだ? 」
「無論……我と戦う訳では無い」
「えっ? ……でも、戦ったりした経験でレベルって上がるんだろ? 」
「フッ……今の貴様が我と戦うなど」
「い、今鼻で笑ったなッ?! ……わ、分かったぞ?
実は俺と戦うのが……怖いんだろ!? 」
「……嘲笑わせるな下等生物
貴様如きの“格”で我に挑むなど、無謀だと謂った迄。
故に、貴様が戦う相手は――」
<――そう話しつつ
モナークが一度指を鳴らした瞬間――>
………
……
…
「また俺の事を下等生物って! ……って、何だッ?!
此処は……一体?! 」
<――俺とモナークは灼熱の空間へと転移していた。
遠くで火山が噴火している……だけでは無く
赤黒く蠢く溶岩が俺達の立っている場所の直ぐ近くを流れている。
“暑い”とか……そんな可愛い次元では無い。
その一方、この異質な状況の中モナークは――>
「……この場所には
貴様の格を遥かに超越した魔物共が数多く生息している
本来、貴様如きの“格”では五分と持たぬ程のな。
……故に、貴様が唯一得意としている
“氷系魔導”を最大限に活用せねば……貴様など
直ぐに息絶える事と成るであろう……」
「えっ? ……ちょっとぉ?!
幾ら修行とは言え何でそんな無茶を……」
「無茶だと? ……貴様が僅かでも楽をすれば
我が配下の者共は皆死に絶える事と成る。
……にも関わらず、貴様は我に対しあれ程強く“任せろ”と謂った。
今更……“間違い”であったとは謂わせぬぞ? 」
「なっ!? ……わ、分かったよ!!
でっ、でも……危なくなったら流石にちょっとは助けてくれよ?! 」
「フッ……何を謂うかと思えば、我が居ては“効率が落ちる”であろう。
先ずは貴様一人で……“一時間程”耐えてみせよ」
「いやいや、流石に冗談だ……って、居ないッ?! 」
<――慌てる俺を置き去りにすると
去り際に何かを砕いてこの場から消えたモナーク……そして。
この直後、俺の鼓膜を震わせた強烈な鳴き声――>
………
……
…
「ん? 溶岩で出来た皮膚の……サイ? 」
<――“そう”形容するしか無い見た目をしている魔物が
俺目掛けて凄まじい速度で突進して来ている……ヤバイ。
直後、慌てて“氷刃”を放った俺だったが
嘘だろ? ……何一つとして効いてないッ!? ――>
………
……
…
「あっ、減衰装備……ってぬぉわッ?!
……ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!!
エリシアさんがやってたみたいに“連続転移”しなきゃ死ぬッ!!
いやぁぁぁぁッッッ!! ……」
<――必死に転移を繰り返し
減衰装備を全て外し……そして
改めて、ありったけの力を込め氷刃を放ち――>
………
……
…
「……なっ……なっ……何とか倒したぁぁぁッッ!!!
けっ、けど……死ぬかと思った。
……とは言え、対処法も分かったし
この位の敵なら何とか成るのか? 」
<――と、安心したのも束の間だった。
この後、この“溶岩サイ”が可愛く見える程の魔物達が
まるで“セール会場”かと言わんばかりの勢いで
俺だけを目掛け空と陸の両方から大集結し始めた。
……うん。
モナークはきっと“俺の事を殺すつもりで”此処に放置したんだな――>
………
……
…
「……ぬわぁぁッ!?
こ、こんな数相手に普通の氷刃じゃ埒が明かないッ!!
氷刃――
――終之陣太刀ッ!!
って……この技、発生までが長過ぎるッ!!
てか服が燃えてるぅッ!? ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!! 」
………
……
…
<――俺は、幾度と無く死に掛け慌てまくった。
と言うか、慌て過ぎて後先を考えずに魔導を乱発した結果
早々に“ガス欠”に成り掛けた所為で
後半は殆ど転移魔導で逃げまくってただけだった。
正直……今生きているのは純粋に運が良かっただけだと思う。
あぁ、そうそう……よく疲れた時に
“肩で息をする”と言うが、そもそも――
“息出来てるかどうかすら分からない位”
――疲れる事があるのを初めて知った。
ともあれ……暫くの後
“死に掛け”な俺の元へ
グラスワインを片手に現れたモナークは――>
………
……
…
「フッ……予想よりは持ち堪えた様だな」
<――開口一番そう言った。
正直“すっげぇぶん殴りたい”と思ったので――>
「モナーク……お前……絶対……殴る……」
「フッ……斯様な満身創痍で在りながら
未だ憎まれ口を叩く程の余力を残していたとは大した者よ。
……我に掴まるが良い」
「先ずは……謝……れや……」
「……置いて帰っても構わんぞ? 下等生物」
「クソッ……」
<――もう一度言うが、すっげぇぶん殴りたいとは思った。
思ったけど……置いていかれたら
本当に死ぬ気がしたから取り敢えずモナークの服の裾を掴んだ。
嗚呼、情けない――>
………
……
…
<――ともあれ
この直後、無詠唱で転移をしたモナークは
今にも倒れそうな俺を“執務室”に送り届けてくれたが
そもそもが体力的に限界な俺としてはヴェルツに帰って休みたかった。
だが、俺には転移する為の体力も魔導力
もう殆ど残ってはおらず――>
「エリシア……さん……俺の……部屋に……」
「ん~……主人公っちぃ~?
そんなに鼻息荒くしてぇ~ど~したのぉ?
ひょっとして~政令国家一美人なマジシャンのエリシアさんに
ムラムラしちゃったのかなぁ~?
でも~……女の子を自分の部屋に誘うなら~
もうちょっと雰囲気作らないと……駄目だぞぉ~? 」
「ツッコミ……ハァハァ……元気……ハァハァ……死ぬ……」
「あらら……ごめんごめん冗談だよっ!
今のは流石に私が空気読めて無かったね~……取り敢えず掴まって~! 」
<――直後
エリシアさんのお陰で何とか部屋へと戻る事が出来た俺。
が、体中が痛い……奇跡的に攻撃は避けきったが
これは筋肉痛と言うより、筋肉が千切れてるんじゃ無いだろうか?
大袈裟じゃなく、本当にそんなレベルの痛さが全身を襲っている。
……一方、そんな俺に対し
メルは治癒魔導を掛けながら――>
「主人公さん、服が“焦げ臭い”ですけど一体何が有ったんですか?
って、今は話すのも辛いですよね……ごめんなさいっ! 」
「いや、少しは楽になったから大丈夫だよ……」
<――この後、メルに対し
洗いざらい修行の内容を話して居た俺の頭には“ある疑問”が浮かんでいた。
……俺自身、今までこの世界に生きていて
メルや皆のレベルを確認出来た事など無かったし
そもそもで言えば……自分を含め、誰のレベルも確認出来た事など無かった。
にも関わらず、一体どうしてモナークは俺のレベルを確認出来た?
いや……彼奴は俺だけじゃなく他の人達のレベルも言い当てた。
もし彼奴だけの“特殊技能”なら
俺の知識不足を責めた“あの言動”自体が理に合わない……そして
こんな疑問に答えられるのはモナーク以外にマリアだけと考えた俺は
直ぐにマリアにこの件を訊ねてみた。
だが――>
「なぁマリア、この世界に“レベル”が有るのって知ってた? 」
「……そんな筈無いですよ
だって主人公さんはそんな設定してないですし……って
もしかしてまた“進化”してたとかですか?! 」
<――正直
“一番聞きたく無い答え”が帰って来た瞬間だった。
だが、話を続ける中でマリアが出した理論に
合点が行く物が一つ有った、それは――
“管理者が他の異世界から次々と人々を移動させている過程で
この世界に他世界の持つ仕組みが組み込まれた可能性が有り
その所為で何らかの変化が起きているのでは”
――と言う物だ。
勿論、仮にそうだとしても不思議は無いが
少なくとも現時点ではモナーク以外……仲間の誰一人として
ステータスの確認方法を知る者は居なかった。
兎に角……今後、彼奴にそれとなく
レベルの確認方法を訊ねてみるべきかも知れない。
今現在の俺のレベルが、一体どの位まで成長しているのか等も含めて――>
「……まぁ、何れにせよ今日はもう休もうか。
皆も自由時間って事で……痛テテ……」
………
……
…
<――翌朝。
目覚めたばかりの俺の眼前にはモナークが居て――>
「フッ……漸く起きたか」
「うわぁぁぁぁッ?!! ……って、何だよ朝からぁッ!!! 」
<――割と本気で
“心臓が口から出そう”だった――>
「騒がしい下等生物め……今日も貴様の格を上げる為
我が自ら貴様を迎えに来てやったのだ……手早く支度せよ」
「分かったけど……流石に朝食位は食べさせてくれないかな? 」
「フッ……良かろう」
「よ、良かった……それすら駄目って言われるかと思ってた。
って! ……モナーク、良く考えたらお前
既に血液混成法を終えたんだよな? 」
「……それがどうした? 」
「い、いや……それなら試しに下で、俺達と”同じ食事”を試してみるのも
良いんじゃないかなって思って……どうかな? 」
「成程……良かろう」
「良かった……モナークにも意外と素直な所があるんだな」
「……黙れ、下等生物」
「ちょっとぉ?! 折角褒めたのにお前って奴は!! ……」
<――何はともあれ
モナークも含め、皆で一緒に朝食を摂る事に成り――>
………
……
…
「あら“モナちゃん”も朝食かい?
……って、そう言えばアンタも
あたし達と同じ食事が出来る様に成ったんだったねぇ!
よし……ならあたしが腕によりを掛けて作ってあげるから
楽しみに待ってるんだよっ! 」
<――と、上機嫌で厨房へと消えていったミリアさん。
だが、仮にも魔族の王だったモナークにまで“ちゃん”付けするなど
ミリアさんにしか出来ない芸当だと思った。
……と同時に
眉間にこれ以上無い程の深いシワを寄せたモナークの姿も確認していた俺。
正直、これ以上の“ゴタゴタ”が起きても面倒なので
モナークの機嫌を取るついでにレベルの確認方法を訊ねる事にした――>
………
……
…
「な、なぁモナーク! ……所で質問なんだけどさ
お前の言う“格”……つまり、レベルの確認方法って
一体どうやれば……」
「……自らの物であれば貴様程度であっても既に確認が可能な筈だ
だが、他者の物と謂う意味ならば現時点の貴様の“格”では不可能であろう」
「えっ? そうだったのか……じ、じゃあ
自らのステータス確認方法は後で教えて貰うとして
他者のを確認する為には一体どの程度のレベルが必要なんだ? 」
「現時点で一六〇程度の貴様では未だ足りぬ。
……二〇〇を超えれば
貴様の謂う“レベル”の確認だけならば可能だが
詳しいステータスや固有魔導、職業や得手不得手な武器や技など
その者の全てを知る為には更に格を上げねば成らぬ」
「そっか……じゃあモナークのレベル位に成れば
全部確認出来るって事だな! 」
「……黙れ下等生物」
「え゛っ?! ……何故にいきなりキレたし!? 」
<――あくまで俺の予想だが、恐らくモナークですら
未だ全てのステータスを確認する事は無理なのだろう。
けど……これで何となく分かった。
ムスタファやハイダルさんがライドウの事を“歪”だと評価出来た理由が
レベルの高さに依存する解析能力だったって事を。
そして……俺もちゃんとレベルを上げてもっと強くなり
無敵とは言わないまでも、出来る限り隙の無い存在で居なければ。
そんな事を考えつつ、朝食を食べ終えたのだった――>
………
……
…
「さて……我に掴まるが良い」
「ああ……ってモナーク」
「……何だ? 」
「ミリアさんの作った朝食……どうだった? 」
「悪くは無い……飽きは来ぬ味であったと謂えよう」
「その答えでも充分ミリアさんは喜んでくれそうだ。
……よし、何時でも来いッ! 」
「フッ……征くぞ――」
<――この時、モナークから
ほんの僅かだが優しさみたいな物を感じた。
同時に、俺が時間を戻していた時に見た姿……
……此奴がミリアさんの亡骸を不思議な程優しく置いた事。
そして……此奴と“契約”した時俺に流れ込んで来た
ある“別れの記憶”……この時
俺の中で微かな何かが繋がり掛けていた。
……つい数日前まで魔王であったモナークが
幾ら配下の為とは言え、これ程まで協力的な態度を取っている事もだが
モナークが時折見せる、妙に人間的な感情の動きや優しさ。
……俺はまだ、此奴の事を
ごく一部しか理解出来て居ないのかも知れない。
多分“ステータス”では確認出来ない何か重要な事を……
……そんな事を考えて居た俺の心を知ってか知らずか
例に依って俺を“服が焦げ臭く成る狩場”へと飛ばしたモナーク。
そして、去り際に――>
………
……
…
「今日は二時間……耐えてみせよ」
「えっ? ちょ……待ッ……待てやァァァァァァァッ!!! 」
<――前言撤回だ
彼奴は絶対――>
「――優しくなんか無いッ!!! って。
いやぁぁぁぁぁッッ!! ……」
………
……
…
<――何と言うか、本当でぶん殴りたいと思った。
……だが、そんな気持ちを全て魔物に“ぶつけて”戦ったお陰だろうか?
何とか地獄の二時間を耐え切る事が出来た俺。
けど、今日は流石に死にそうだ――>
………
……
…
「はぁ……はぁっ……お前……っ……絶対……ぶん殴る……」
「フッ……斯様に飽きもせず同じ台詞を吐くとは。
今日こそ貴様を置き去りに……」
「ま、待て!! ……悪かった」
<――本当に殴れる様に成るまでは
まだまだ掛かりそうな事だけは分かった。
ともあれ、この後もほぼ毎日地獄のトレーニングを続け――>
………
……
…
「今日が最終日で有る、故に……」
「……何だ?
採血の都合もあるから――
“特別に三〇分で許してやろう……下等生物め”
――ってか? 」
「不愉快な……ならば一日耐えてみせよ」
「な゛っ?! ……それは流石に死ぬって!!
だ、第一食事は?! ……寝る暇は!?
てか、ツッコむの数日遅いかも知れないけど!
毎日空に成るまで戦ってる割に
何故か翌日フルパワーで戦えるのは何でなんだよ?! 」
「フッ……格が上がれば“補充”されると言うだけの話。
しかし、一日程度も不可能と謂うか……」
「当たり前だろ?! ……ってか流石にもうちょっと手加減してくれって
軽口言ったのも謝るから……それに、死んだら元も子もないだろ?
……頼むよ」
「フッ……では、一〇分耐えよ」
「えっ? 俺の聞き間違えじゃ……」
「……真に耐えられぬ時、これを砕け。
ではな――」
「えっ? ちょ……」
<――そう言って俺に謎のアイテムを渡した後
何時もの様に何かを砕かず
遠くに見える活火山に向けて何かを投げつけるとそのまま去った。
そして……この直後
俺は――
“一〇分耐えよ”
――と言ったモナークの
“真意”を知る事と成るのだった――>
………
……
…
<――凄まじい衝撃と轟音
遥か遠くに見える活火山からは大量の赤黒い煙が立ち昇り
激しく噴火し始めたのだが……可怪しい。
噴火口から溢れる溶岩が全て空中に留まり続け……そして
一箇所に集まったかと思うと“巨大な人型”を形成した。
嗚呼……勘が鈍い俺でも分かる。
コイツは倒せる様な相手じゃないッ!!! ――>
………
……
…
「一撃位なら試しに……いや
“あれ”の逆鱗に触れたら無事じゃ済まない。
と言うか、今日のは流石に無理っぽいし
一〇分と言わず、早速“これ”を砕いてみ……」
<――と、モナークから貰った謎のアイテムを取り出し
早速砕こうとした俺だったのだが……不味い。
これを出した途端、巨大な溶岩の化け物が俺を“ガン見”した。
……まさかとは思うが
モナークはこう成る事を分かっててこれを渡したんじゃ――>
「モナーク……生きて帰ったら……絶対に……殴るッ!!! 」
<――そう固く誓った俺だったが、その直後から記憶が無い。
その上、俺の眼前にはモナークが立っている
一体、どう言う事だ? ――>
………
……
…
「大した物だな……」
<――モナークは開口一番そう言ったが
俺には何の事やらさっぱり分からなかった。
だが、戸惑う俺に対しモナークは“とある物”を差し出し――>
「これを持つ権利は貴様に有る……受け取るが良い」
「ああ、ありがと……って、何これ? 」
「“奴”の核だが……覚えて居らぬのか? 」
「いや、実は……活火山の火口から巨大な溶岩の化け物が現れた直後
“お前を殴る”って誓ってからの記憶が無くて……」
「フッ……一度だけならば貴様の拳を受けてやろう」
「エ゛ッ?! ……な、何故に?! 」
「……貴様の謂う“巨大な溶岩の化け物”は
貴様の放った攻撃に依って討伐された筈。
……何故貴様に記憶が無いのかは我にも解らぬがな」
「嘘ぉ? ……あの化け物を?
そんなバカな話が……う~ん、全く思い出せない。
確か、絶対に殴るって誓って……って。
……あっ!!! 」
「何を思い出した? ……申せ」
「あのさ……お前が“緊急時に割る様に”って渡してくれた奴
取り出した瞬間にあの化け物に“ガン見”されたんだけど
まさかそうなるのを分かってて渡したんじゃ……」
「愚かな……貴様に渡した物は我を此処へと転移させる為の道具だ」
「えっ? ……じゃあそれに呼ばれて此処に来たの? 」
「否……我は時間通りに此処へ来た。
……貴様が割った形跡などありはしない」
「えっ? ……」
<――そう言われ、懐を探してみたら
渡された“道具”は確かに其処にあった。
一体何が起きていたのかさっぱり分からないが、少なくとも
俺の身体が信じられない程疲れている事だけは分かった――>
「とっ、兎に角……政令国家に帰ろうか!
何故か異常な程に疲れてるし、妙に魔導力が少ない気がするし……あっ!
これ、返しておくよ……」
「フッ……よもやそれを使わぬとはな。
まあ良い、我に掴ま……ッ?! 」
《――失われた記憶、その事に疑問を持ちつつも
帰還の途に就かんとしていた魔王に疾走った衝撃――》
―――
――
―
「何だよこのアイテムッ!? ……って、あんなの無理ィッ!
し、死ぬぅッッ!! ……」
《――取り出した道具を慌てて懐に仕舞い
恐怖のあまり咄嗟に魔導之大剣を握り締めてしまった主人公
だが、大剣が刀身を現す事は無く――》
「な……んだ? ……ッ?! ……うわぁぁッ!?
あぁぁぁッ……ッ……」
………
……
…
《――直後
主人公の手に在った“魔導之大剣”は
蠢き、漆黒の妖気を放ち……有無を言わさず彼を飲み込んだ。
そして……彼の躰に纏わりつくと
劈く様な啼き声を放ち、三ツ脚の鴉の姿と成り――
“導かねば……成らぬ……”
――そう発した直後
漆黒の羽を広げ、力強く地面を蹴りあげ天高く飛翔し
自らへと向けられた猛攻を物ともせず、巨大な魔物を一撃の元に打ち倒した。
そして――
“導かねば……成らぬ……”
――再びそう発し、地上へと舞い降りるや否や
再び妖気となり、主人公の躰を開放したのだった――》
………
……
…
「……貴様に触れた瞬間、何やら“妙な物”を感じたが
貴様が腰に提げて居るその水晶は……一体何だ? 」
「ん? これは“魔導之大剣”って武器だけど……これがどうかしたか? 」
「……まぁ良い、我に掴まるが良い」
「お、おう……」
<――モナークの質問と妙な態度の所為で変な空気に成りつつも
政令国家へと帰還する為モナークの腕を掴んだ俺。
だが、そんな事よりも一体何で記憶が無いんだろう? ――>
===第百十七話・終===