第百十五話「魔族を受け入れるって楽勝ですか? 」
<――反対派の屈強な男達VS魔族の子供と言う半ばイジメにも見える決闘と
その意外かつ、呆気無い幕引きの結果
正式に魔王とその配下達を受け入れる事と成った政令国家。
その翌朝、俺達は久しぶりにヴェルツの自室で目を覚ました――>
………
……
…
「ふぁ~っ……久しぶりに良く休めた~っ!
やっぱり、ヴェルツが一番だな! 」
<――と
“旅行から帰って来た時に家族の誰かが必ず言うセリフ”
的な事を言いつつも、充実した朝を迎えていた俺。
だが――>
「でも、そうのんびりもしてられないんだよな……」
<――決闘の結果を受け、今度は
大量の魔族達を受け入れる為の話し合いや各種法律の新たな制定など
大忙しの一日と成る事が確定していた。
……そして、それらを出来る限り早く解決しなければ
最悪の場合、未だ待機中の魔族達が“餓死”してしまう恐れすらある。
そうさせない為には一刻も早く彼らに“血液混成法”を施さないと
本当に手遅れになってしまいかねなくて――>
「……てか、此処で考え続けてても纏まらないし
取り敢えず朝食でも摂りながら考えるか……」
………
……
…
「……おはよう主人公ちゃん!
ウチでの食事が久し振りだから喜んで欲しくて
“少し”作り過ぎちゃったけど、その分……うんと食べておくれよっ! 」
「はい! ……って、本当に凄まじい量じゃないですか……」
<――俺達の目の前に並んでいた朝食の量は
朝食と言うには余りにも大量過ぎた。
まるで、宴会と見紛うばかりの
その凄まじい“山”に慄いていた俺達だったが――>
「頂きますっ! って、う……美味過ぎるっ!!
これは、断じて久しぶりに食べるからってだけじゃない。
ミリアさん……また腕を上げましたね?! 」
「生意気な事を言うじゃないかい! ……でも
主人公ちゃん達が帰って来た時、直ぐに帰国のお祝いが出来る様に
毎日色んな創作料理を作ってたからねぇ……
……それで腕が上がったのかも知れないね! 」
<――と、少しばかり照れた様な表情を浮かべつつ
嬉しそうに語ったミリアさん――>
「凄く嬉しいです……って言うか
今日からまたミリアさんの料理が食べられるんですね……
……正直、それだけでも帰って来られて良かったです! 」
「そうまで言って貰えたらあたしも嬉しいが……
……食べすぎて太らない様にするんだよ?
主人公ちゃんは太りやすい体質をしてる様に思うからねぇ」
「うっ、痛い所を……」
「“コロコロ”した主人公ちゃんもあたしにとっては可愛いけど
程々にしておきなって事さね。
……って、そう言えば今日は皆
魔族関連の決め事で忙しいんじゃなかったのかい? 」
「あ、はい……色々と決め事が多いのと
急がないと魔族達が餓死しかねないので
余りのんびりもしていられなくて……」
<――などと話していたら
ラウドさんから魔導通信が入ったのだが、その声は妙に慌てて居て――
“命に関わる問題じゃ! ……急ぐのじゃよ! ”
――開口一番そう言い放った。
“まさか”と思い、慌てて執務室へと飛んだのだが――>
………
……
…
「命に関わる問題って……魔族に餓死者が出てしまった訳じゃ?! 」
「落ち着くんじゃよ主人公殿!!
その……幸いな事にそうでは無いんじゃが
あれ以降も“頑な”なジョルジュ殿が問題でのぉ……」
「……もしかして、彼奴の怪我の具合ですか? 」
「うむ……ある程度は直しておくべきじゃと思うのじゃが
あの調子で頑なじゃからのぉ……」
「俺が頼んでも“贖罪”の一点張りでしたもんね……でも
いざと成れば魔導病院の治療で完治出来るんですよね? 」
「……それがつい先頃、魔導医が本人の意思を無視して
治療を施そうとした事を問題視してのぉ……
……引き止める者達を無視し
一人で自宅に帰り、そのまま閉じ籠っておるんじゃよ……」
「なっ?! ……って、ジョルジュの自宅は何処に? 」
「それについてじゃが……
……現在ジョルジュ殿が住んでおる場所を聞いて驚くで無いぞぃ? 」
「そんな前置きする位ですし……“変な所”にでも住んでるんですか? 」
「うむ、と言うのも……主人公殿が長らく幽閉されておった
“あの場所”なんじゃよ」
「えっ?! ……と言う事は
“大統領城の地下”って事ですか?!
一体何がどうなって彼処がジョルジュの自宅に? 」
「それがのぉ……本人は贖罪に成ると思ったのじゃろうが
主人公殿を幽閉していたあの場所……つまりは
“牢に入る”と言って聞かんかったのじゃよ……」
「そ、そうですか……でも彼処は牢って感じじゃなくて
寧ろ、高級な宿って感じの造りですよね? 」
「それはそうじゃが……本人は贖罪のつもりの様じゃよ?
なにせ、毎回“手錠をする様”要求する位じゃし」
「う~ん……どうしたものか」
<――と、悩んでいた俺に対し
予想外の答えを出してくれたのは、マリーナさんだった――>
………
……
…
「……仮にも魔王から受けた攻撃です。
治療を施す為には、魔王……貴方の協力が必要かと思います」
<――と、同席していた魔王に対し協力を求めたマリーナさん。
一方、訝しげな表情を浮かべる魔王に対し、更に――>
「魔王……貴方には
主人公さんを窮地に追い詰める“演技”をお願いしたいのです」
「何? ……詳しく話せ」
「ええ、方法はこうです……」
<――この後
マリーナさんの話してくれた方法は――
俺が魔王と共に地下のジョルジュの所まで行った後
俺が魔王の裏切りに依って危機を迎えた様を演じ
ジョルジュが俺を助ける為に魔王に何らかの攻撃をする様仕向ける。
――対する魔王は、ジョルジュから攻撃を受けた後
それがどれ程低次元な攻撃であれ、やられたフリをしたまま待機し
そんな魔王を俺が捕まえる。
そして――
“君のお陰で助かった、貸し借りどころか借りになってしまったから
借りを返す為にも君の怪我を直させてくれ”
――と言う流れに持って行く予定らしいのだが
……正直“三文芝居”が過ぎないだろうか?
此処まで低次元だと流石にジョルジュも見抜くだろうし
いっそ強制的に俺が治癒魔導を掛けるだけで
簡単に解決しそうな話だと思っていた。
第一、魔王がこんな茶番に付き合ってくれる訳が――>
「フッ……良かろう」
「えっ? 」
<――斯くして
俺達はジョルジュの居る地下牢へと向かい
マリーナさん製作総指揮の“三文芝居”を演じる事と成ったのだった。
とは言え――
“見抜かれる前提で隙を見て俺が治療すれば良いか”
――程度に考えつつ
長い階段を下っていた、その時――>
………
……
…
「主人公……貴様の様に矮小な者と
我が対等に契約をする事など……最初から偽りであった。
貴様は、我と我の配下を懐柔したつもりで居た様だが
貴様を完膚無きまでに絶望させる為
今の今まで“演技”をしていたに過ぎぬ……我は魔王。
一度でも我に歯向かいし者を、我は許さぬ――」
<――ジョルジュの待つ場所まではまだかなり遠いのに
早々に俺の胸ぐらを掴んで持ち上げた魔王に対し――
“ノリノリだな魔王! ”
――とか思っていた俺。
だが……俺は間違っていた。
魔王の瞳から伝わる凄まじい程の殺気……これは!?
演技じゃ……無いッ?!
まさか……今の今まで
仲間に成ったフリを“演じて”いたって事か?!
だとしたら……俺は一体
“何を”政令国家に招き入れたッ!? ――>
………
……
…
「や……めて……くれッ……俺は……お前を信じて……契約まで……」
「フッ、契約か……愚かな。
其れすらも演技であったと告げた所で……貴様は理解出来ぬのだろうな」
「何……でッ……クソッ!
せめて……み……皆だけでも……助けて……くれ……」
「フッ、飲めぬ相談だ――」
<――魔王はそう言うと、俺の首を強く締めた。
……駄目だ
意識が……
遠のい……て――>
………
……
…
「……い!! ……おい!! ……主人公!!! 」
<――瞬間
頬に走る痛みで目が覚めた。
どうやら俺をビンタしたのはジョルジュの様だが……って!?
魔王が裏切った事を早く皆に伝えなければ!! ――>
………
……
…
「お、お前こそ無事かッ?! ……いや、違う!!
ジョルジュ、今から言う話を良く聞いてくれ! ……魔王が!
魔王が俺達を裏切って! ……」
「ん? ……魔王ならば私が倒したぞ?
ほら其処に倒れているだろう! ……どうだ? 凄いだろう!?
私は……たった一撃で魔王を討伐したのだぞ?!
私も中々にやるであろう??
まして病み上がりもしていないこの体でだ! ……しかし
私がこれ程強いとは……もしかすれば貴様などより余程に強いのでは無いか?
ふむ……そうだ!
これを機会にハンター試験でも受けてみるとしよう! 」
<――そう自慢気に語るジョルジュ。
彼の指し示した場所へ目を向けた俺は……目を疑った。
ありえない……魔王が見るも無残な姿で倒れている。
演技には見えない……と言う事はまさか
ジョルジュは本当に凄まじい力を持って……ん、待てよ?
何かが可怪しい……
あんな“グロい”感じに成ってるって事は……多分死んでるよな?
けど、その割には思い切り“呼吸してる”様に見える。
てか、胸部が“上がったり下がったり”してるって事は……
えっと……うん。
“魔王……演技始めるの早くね? ”
そう判断した俺は――>
………
……
…
「ジョ……ジョルジュ。
君のお陰でこの国は救われた……もう君には俺に対する借りなんて無いし
寧ろ君に俺が借りを作ってしまったよ。
だから、借りを返す為……せめて、その怪我を直させてくれないか? 」
「ん? ……構わんぞ主人公っ!
光栄だろう~? ……私の怪我を治せるなんて、光栄だろう~? 」
「あ、ああ、とっ……とても光栄だよ!!
じゃあ早速……治癒の魔導、完全回復ッ! 」
「……ほぉ~?
流石は魔導師の端くれだな主人公! 怪我を治す能力“だけ”は高い様だ!
さて……そろそろ私はこの狭い空間からも出るとしようか! 」
「あ、ああ! た、助かったよジョルジュ……」
<――この後も調子に乗り続けたジョルジュ。
辟易としていた俺を横目に
彼は凄まじく上機嫌でこの場所を後にした……だが、そんな事よりも
俺には一つ許せない事があった。
それは言うまでも無く、魔王に対してだ――>
………
……
…
「……おい、いい加減その“三文芝居”を止めろよ魔王」
「険のある物言いだな……どうした? 」
「“どうした? ” ……だって?
……ふざけんなッッ!!!
俺は本当にお前が裏切ったのかと思って! ……」
「フッ……何を言うかと思えば、愚かな。
貴様の覚悟が足らぬ故、覚悟を決められる様手助けをしただけの事。
直ぐに見破られる程度の“三文芝居”を打つつもりで有ったのは……
……貴様であろう? 」
「なっ?! ……だからって気絶する程首絞めたら危ないだろ!?
気絶って一種の仮死状態で、戻ってこれない事だってあるんだぞ?! 」
「フッ……何を言うかと思えば
我は貴様を魔導で眠らせ……いや、もう良い。
貴様が斯様に理解の及ばぬ者とは……だが、契約の都合もある
不愉快極まりないが、斯様に甘い貴様に
我が一つ手を差し伸べるべきであろう……」
<――そう言いながら距離を詰めて来た魔王。
警戒した俺に対し、魔王は――>
………
……
…
「……貴様の甘さは全てを失う元凶と成りうる。
故に……我が直々に
貴様の格上げを手助けし貴様の弱さを取り去る。
そうせねば、貴様などと契約を結んだ我の立場すら危うく……」
「ん? ……待ってくれ。
今、間違い無く“レベル上げ”って言ったよな?
何でそんなゲームみたいなシステ……」
「何? 貴様は何処までも……良いか?
……見た所、貴様の特異な体質が元凶と思われるが
貴様は魔導量と魔導力だけが異様に発達して居る。
だが本来……魔導消費効率、魔導変換効率、魔導打撃成功率など
魔導系だけでもこれだけ発達させるべき
“能力値”が疎か……」
「え? ……い、いやそのちょっと待った! 」
<――魔王は一体何を言ってる?
レベル上げって言葉が魔王から出て来たのも驚きだが
そもそも俺は“魔導力がカンストしてる”筈じゃ無かったのか?
……と言うか絶対にこの世界を作った時に
“魔導力はカンスト”って指定した筈だし、それなら
“レベルもカンスト”してなきゃおかしい筈だよな?
と、考えが纏まらない中俺は――>
………
……
…
「なぁ魔王……一つ聞くけど
レベルを上げたら……俺はどうなるんだ? 」
「斯様に初歩的な事から説明せねばならんとは……面倒な。
これ迄に貴様が魔物や魔族から得られたであろう
経験値のお陰であろうが、貴様の現在の格は……」
「待った!! い、今……“経験値”って言ったか?! 」
「聞くつもりが無いのならば……」
「わ、分かった! 黙って聞くから全部教えてくれ!! ……」
<――この後、俺は魔王から
“この世界にレベリングが存在する事”
“カンストレベルが五〇〇だと言う事”
“俺の現在のレベルが一二〇だと言う事”
“魔王のレベルが三五〇だと言う事”
……を、聞かされた上
“制限を取っ払った”ムスタファさんのレベルは
四〇〇程あった事を聞かされた。
何と言うか……色々整理が付かないが、どうやら俺は
“負ける確率の方が圧倒的に高い戦い”を魔王に挑んでたらしい事が判明した。
……勿論、レベルだけが絶対的な強弱を決める訳では無いらしいが
流石に俺と魔王のレベル差では
“生きてるのが奇跡”ってレベルだったらしいのと
そもそも、俺のステータスバランスは余りにも悪過ぎるらしい。
何でも――
“魔導消費効率”が低い為に技を放つ度に無駄に消費してる上
“魔導変換効率”が低いから、技を発動させる時に必ず有る
タイムラグみたいな物が悪い意味でレベルに見合って無い遅さで
おまけに“魔導打撃成功率”が低い所為で、俺の放つ攻撃は
例え直撃でも弱い攻撃に成る確率が高いらしい。
――この後もいろいろと言われたが
正直ショック過ぎて全部は覚えきれなかった。
だが、少しだけ光も見えた……と言うのも
魔王曰く――>
「……レベルを上げれば
貴様の異質さにもそれなりに均衡が取れるであろう。
……魔導“強打”攻撃力の数値だけを見れば
我すらも凌駕しているのだからな……」
<――との事らしい。
しかし、何故俺は今の今まで
この“仕様”に気が付かなかったんだろう? ――>
「……まぁ、経験値を沢山積まなきゃ駄目って事と
幸運に次ぐ幸運のお陰で何とか生きてるって事だけは痛い程理解したよ。
ただ正直……不甲斐無さが限界突破したけどね」
「……我が手を差し伸べると謂った以上
貴様の不甲斐無さなど直ぐに露と消えるだろう。
だが、それには“相応の条件”が存在する事を理解せよ……」
「な、何だよ……」
「……我を含め、配下の者共を早急に受け入れる体制を整えよ。
貴様の記憶を視れば、貴様の政治能力の高さは
我が唯一認めるに値する貴様の才であると言える。
良いな? ……我が配下の為、存分に発揮せよ」
「ああ、分かった……ちょっとだけ自信が湧いたし頑張るよ。
お互いに協力していこうな! 」
「フッ……良かろう」
<――正直モヤモヤする部分も有ったが……兎に角。
この後、俺達は執務室へと戻り
魔族達の受け入れ体制についての話し合いを始めた――>
………
……
…
「……以上の条件を纏めると、かなり開けた場所が必要ですし
第二城周辺の領地が広大である事も加味すれば
本国との間に魔族の居住地を作るのが一番効率が良いのではと思いますが
現状の国民感情的に魔族を怖がる声も無視出来ない数ありますので
娯楽施設や宿泊施設、更には観光施設などを併設し
一種の特区としてしまうのも一つの手かと思います」
<――と、魔王を含めた大臣達に説明をした俺に対し
ラウドさんは――>
「……そうは言っても
肝心の娯楽施設に関するアイデアが無いじゃろう? 」
「いえいえ、それに関してはご安心を!
……旅で得た知識や絵本の情報もありますし
本来なら実現が難しい物でも
いざと成れば俺の懐に“最終手段”がありますから! 」
<――と、懐の
“本”を叩きながら答えた俺に対し――>
「“袖の下”って事ですね! 」
<――と、明るくボケてくれたマリア
だが――>
「違うわ! ……って言うか
マリアには後で聞きたい事があるから時間作っとけよ!
……絶対だからな! 」
「なっ……ま、まさか私の身体を……」
「そうそうそう……ってちっがーーう!!
ってか頼むからそう言う“おふざけ”は後にしてくれ。
って……兎に角!
娯楽施設などの案は色々と使えそうな物が既にあるので
先ずは早急に決めておきたいと言うか……早急に
“例の治療”を施すべき件についてのお話をさせて頂ければと思います」
<――この“話題”に成った途端この場にいる大臣達の顔は曇った。
そうなった理由は、マリーナさん曰く――
少なく見積もっても約一万五千体程居る魔族全員に“処置”をする場合
現在協力の確約が取れている民の数が圧倒的に足りていない。
――との事だった。
その上、たとえ足りていたとしても
マリーナさん以外は正確な施術方法を知らず
仮にその技術を教えて貰ったとしても、慣れない事をやる以上
絶対に時間が掛かってしまう。
そして……もし少しでも処置が遅れれば
その遅れはそのまま魔族達の“餓死”に繋がる。
……一体どうすればこの問題を解決出来るのか?
その為の法整備を新たに決める? ……そんなの反対されればどうなる?
協力者に報奨金を払う? ……その莫大な金は一体何処から出す?
色々と悩みに悩んだ結果……俺にも答えは出せなかった。
そして……そんなマイナス思考に陥った俺を
更に追い詰める様な事実を、マリーナさんは付け加えた――>
………
……
…
「……例え僅かでも血液を身体から抜くなんて
人間にとってはそもそもが恐ろしい行為の筈ですから
魔族達の受け入れに賛成してくれた民達ですら血液を抜き取る事は
“受け入れがたい”と思ってしまうのではないでしょうか?
その上、魔導適性の高い人間の血液で無ければ何の意味もありませんから
国内でも僅かな数しか見られない人々から協力を得る必要があるのです。
もっとも不幸中の幸いとして、私の民……つまり水の都出身者は
皆魔導適性の高い者ばかりですし、皆協力を惜しまない筈ですが……」
「そ、そうですか……でも、早くこの問題を解決しないと
魔族達が皆餓死してしまうし……まかり間違って
人間を襲おうと考える魔族が現れても大変ですし……って魔王
一つ気になってたんだが質問しても良いか? 」
「……申せ」
「お前は腹が減ってる素振りを微塵も見せないけど
魔族に依って……若しくは強さに依って
空腹になるまでに差があったりするのか? 」
「フッ……仮に有ると仮定した所で、爪の先程度の差でしか無い」
「成程……“武士は食わねど高楊枝”って事か。
……嫌な事聞いてごめんな。
てか、嫌な事ついでに申し訳ないんだけどもう一つだけ聞かせてくれ。
配下の魔族達の“タイムリミット”は……後、どの位だ? 」
「……持って二週だろう」
「そっか……それを超えたら餓死、若しくは人間を襲うって事か? 」
「……そうなれば我の力は貴様に全て宿り、我は力を失うであろう
だが、その為に民草の命を生贄に捧げる程
貴様が“長けて”居る様には見えぬ……何れにせよ
急ぐ他に手など有りはしない……不愉快な話だ」
「……分かった、何としても解決させる。
正直、かなり無責任な約束しちゃってるけど
絶対に誰一人として死なせたりはしない……」
<――正直
実現不可能と思える約束をしている事は俺自身が一番理解していた。
マリーナさんの試算では――
“政令国家に住む全ての魔導師が
全員協力してくれた場合この問題は直ぐに解決する”
――との事だったが、不可能だ。
だが、それでもやらなきゃ成らない
出来る限り多くの民に協力して貰わなければ……
……その為の案を必死に考えて居た中
マリーナさんが不思議な事を口にした――>
………
……
…
「何れにしろ……血液を頂く為には、協力者の方に
“それなりの怪我”をさせてしまいますから、それを怖がる方も多いかと」
「えっ? ……いや“怪我”って言っても
注射器である程度の量を抜くだけでは? ……と言うかそもそも
“注射器に溜まっていく血が見えるのがグロく感じて嫌”
なら分かりますけど、あれは怪我って程の……」
「お待ち下さい……注射器とは何です? 」
「……えっ? 」
===第百十五話・終===