第百十四話「予想外の味方が出来たら楽勝ですか? 」
<――驚き過ぎて俺の顔は凄い事に成ってたと思う。
一体何故、何処をどう間違えたら――
“ジョルジュが全面的に俺の味方をする”
――なんて事に成るのだろう?
正直、意味不明過ぎて余計に頭が回らなくなった俺を他所に
議論は白熱していて――>
………
……
…
「なっ!? ……あの様に酷たらしいお姿に成ってまで
何故魔族の肩を持つのですっ?! 」
「全く困った物だが……その質問に答える為には
まだ病み“上がり”もしていない
私の健康を著しく害する程の長話に成ってしまう。
だが……これが私の“贖罪”と成るのなら順を追って話すとしよう。
……少し前の話には成るが
私が“大罪人”としてこの国の監獄で過ごしていたある日の事だ。
監獄が故に正確な時間は分からなかったが
就寝時間となり、私も寝る準備を始めていた時
鉄格子を隔てた廊下にまるで煙の様に一人の“暗殺者”が現れたのだ……」
―――
――
―
「……お前がジョルジュで相違無いな? 」
「無礼な物言いだな……貴様は一体何者だ? 」
「ふっ、態度だけは貴族の様だ……まぁ良い、質問に答えてやろう。
俺は……“お前の命を刈り取る者”だよ。
勿論、お前に恨みなど無いが……此方の雇い主曰く――
“我が身可愛さに、我が国との関係を洗いざらい話されても面倒”
――との事だ。
理解出来たなら大人しく……」
「ふっ……ははははっ!!!
貴様も、貴様の雇い主も……底抜けに頭が悪いらしいな!! 」
「何だと? 何を言って……」
「……決して誇れる様な話では無いが、一つ教えてやろう。
私がそれ程に“長けて”いたならば
この様な場所に幽閉される事など無い。
雇い主には無駄骨だっと伝えるが良い“刈り取る者”よ」
「ふっ……何を言い出すかと思えば
“私は馬鹿だから何も分かりません、だからどうか助けて下さい”
……とでも言うつもりか?
全く……暗殺対象に笑わされたのはこれが初めてだよ。
……愉快な仕事にしてくれた礼と言っては変だが
特別に、痛みすら感じる事無く殺してやる。
ああ、そうだ……怖ければ目を瞑っていて構わんぞ? 」
「……いや。
最早私には死など恐ろしくも無いのだ“刈り取る者”よ
父も、地位も名誉も……何もかもを失った私には死すら褒美に思えてしまう。
故に、貴様に頼みがあるとするのならば――
――どうか“しくじっては”くれるな」
「ほう……死に際を飾れる程度の能が有ったとはな。
その潔さに免じて痛み無く済ませてやろう――」
「――させんッ!!! 」
「何ッ!? ――」
《――瞬間
暗殺者は壁に叩きつけられ――》
「捕縛の魔導……蜘蛛之糸ッ!!! 」
………
……
…
「ウグッ?! ……な、何故だ?!
……何故私の存在に気付いたッ?! 」
「大人しくするんだ……暴れれば余計に絡まる
もし、尚も暴れ続ければ貴様の命を奪う事に成りかねない。
理解ったなら……大人しくして貰おう」
《――そう暗殺者に警告しつつ
何処からとも無く現れたのは、カイエルであった――》
「グッ! ……質問に答えろ!! 」
「……暗殺に失敗した挙げ句
捕縛されている事実を認められないとでも言いたげな顔をしているが……
……まぁ良いだろう。
昔……ミネルバ様と言う偉大な魔導師が
貴様の様な“卑怯者”の手に掛かり、その命を失った。
二度とあの様な悲劇を繰り返さぬ為……そして
ミネルバ様の死を決して無駄にさせぬ為に
我が国の魔導隊が管轄する施設の警備、防衛に関する能力を
私の権限が許す限り最優先に向上させた。
要するに……貴様は罠に嵌ったのだよ。
さて、今度は君の番だ……
……素直に雇い主の情報を吐いて貰おう、暗殺者君」
「……チッ!
情報が古くて困るのは何時も現場の俺達か……まぁ、手遅れな上に
不満を言えば解決する物でも無いんだろうが……グッッ!!! 」
《――そう不満を吐露した直後
口腔内に隠していた毒物を噛み砕いた暗殺者。
直後、暗殺者は絶命し――》
………
……
…
「……敵とは言え不憫な事だ。
魔導通信……ラウド様――
――予想通り暗殺者が侵入を。
ええ、ですが残念ながら情報は引き出せず……」
「ふむ……一度そちらに向かおうかの」
《――直後
現場へと現れたラウド大統領に対し
状況説明と今後の警備体制についての説明をしていたカイエル。
だが――》
………
……
…
「おい……おい貴様らッ!! 」
《――鉄格子を激しく叩きながら、そう声を荒げたジョルジュ。
彼は、二人に対し――》
「何故だ……何故、私を救ったッ?!
私は……貴様らが崇拝する“あの男”に取って
最も邪魔な存在である筈ッ!! 」
《――息を荒げ
目を血走らせつつそう言い放ったジョルジュに対し
ラウド大統領は――》
「……御主の言う“あの男”と言うのが
“主人公殿の事である”と仮定して答えれば――
“崇拝”はしておらんぞぃ?
――じゃが、信頼はしておる。
それと……主人公殿に対する“行い”については既に本人が許した筈じゃろう?
わし達にその事をとやかく言える権利は無い。
それから、御主は今“何故救った”と言ったが……当然じゃろう? 」
「当然だと? ……どう言う事だッ?! 」
「……主人公殿に対する如何なる行いも
本人が許した以上わし達からは何も言えん……じゃが
国家の安寧を揺るがした罪は別じゃ。
その罪……御主には此処で確りと反省して貰わねばならん。
罪を償わず、簡単に“逃げおおせる”と思っておったのならば
それは甘い考えじゃと言っておるのじゃよ」
「成程……だが、私が今回の“革命”に成功していたならば
貴様らを罪人と祭り上げ、すぐにでも斬首の刑に……」
「ふむ……考え方は自由じゃが、結局の所
御主が他国の手引きでこの国の長と成れておったとしても
手引した国が不要と判断した瞬間……遅かれ早かれ
御主は憂き目に遭うじゃろうて。
と言うか……御主自身が
たった今“そうされかけた”ばかりじゃろう? 」
「なっ! そ、それはっ!! ……」
「……そう驚く事も無いじゃろう?
それに……御主自身、そう成るやも知れん事に
薄々勘付いていた様に思うんじゃが……どうじゃね? 」
「……答えを聞かずとも分かっているのなら
それは質問では無く“嘲笑”では無いのか? ラウド大統領殿。
……とは言え。
私は結局の所……あの“オーク族の長”に言われた様に
全てに於いて“甘い”のかもしれんな。
……情けない限りだ」
「そうかもしれん……しかし、御主に
罪を償いたい気持ちが少しでも芽生えたのならば
御主が底抜けの悪では無い証拠と言えるぞぃ?
……現に御主は今、自らの間違いを悔いたじゃろう?
まぁ……わしがそうとは言わんし、寧ろそうあろうと必死な位じゃが
上に立つ者やその立場を目指す者に取って
一番必要な考え方を、一つ教えて置くとするかのぉ……」
「何? ……一体どうすればいい? 」
「うむ、それはのぉ――
“間違いは素直に認め……意固地に成らず、他の意見を聞き入れ
自らに反対する者にすら誠意を持って接し、良し悪しの全てから学ぶ”
――これが御主に出来て居たのならば
御主がこの国の長……それも、立派な長と成っておったやもしれんぞぃ? 」
「……本当にそう成り得ただろうか?
いや……時にラウド大統領。
既に遅いのかも知れんが、私は……罪を償う方法を知りたい」
―
――
―――
「……あの日以来、私は自らの犯した罪に向き合う事を始めた。
それまで私が目を逸らし続けていた一つ一つの罪に向き合い続けた結果
私が出来る罪滅ぼしは“全てを話す事”だけだと理解したのだよ」
「全てとは……なんです? 」
「私は……この国の実権を握り
私の意のままになる国を作ろうと画策した。
そして……私の意に沿わぬ者を全て断罪し
私だけの理想郷を作ろうとまで画策していたのだ。
……そんな我欲に塗れた私が
この国に少なからず不満を持つ
“持たざる者”達を先導し野望が為の駒とした事。
……此処まで聞けば分かるであろう?
私は、真に“罪人”であったのだ。
しかし……だからこそ、貴様ら反対派の民達に問いたい事がある」
「なっ、何を聞きたいと仰るのです? ……」
「私は……其処に居る主人公をこの国から追い出す為
魔導師“ユーグ”を代理人として決闘をした事は覚えているだろう?
……結果は皆の記憶にある通り私の敗北だった。
だが、勝者である筈の主人公が
何故私の希望した通り国を離れたのか――
――当時の私は、彼の判断に歓喜し
大局に物を見る事が出来ていなかったのだよ。
まぁ、認めるのも癪では有るのだが……それが
私に無く……彼が“有り余る程”に持っている
私に最も足らぬ“長としての素養”だと思うのだ」
「な……何故旅に出る事を選んだのが
“長としての素養”なのです?! 」
「彼は、国民の分断を避ける為……将来を見据え
民達の幸せを願い……敢えて苦しい道を選んだのだよ。
それを考えれば……私は断言する。
今回も、彼の考えに賛成しておけば
この国はこれからも平和と豊かさを享受し続けられるのだと! 」
<――何だろう。
べた褒めに次ぐべた褒め過ぎて怖いし、物凄く背中がゾワゾワする。
と言うか正直、眼前のジョルジュが
“ジョルジュと同じ顔をした別人なのでは無いだろうか? ”
……って位に、俺の事を褒めちぎる姿を見つめ続けていた事で
俺の顔は相当に“ギョッ”としていたと思う。
この後……そんな俺に対し、何か言いたそうな表情を浮かべつつ
ゆっくりと近づいて来たジョルジュ……だが
何を言われても返事する声が裏返りそうだった。
……ってヤバイ、ジョルジュが俺の目をじっと見つめてる。
何か、色んな意味で怖いッ! ――>
………
……
…
「……主人公よ。
貴様の事は、顔を見れば否定したく成ってしまう
だが、私は仮にも貴族の生まれを持つ身……そして
貴族と言うのは、誇りと言う名の“体裁”の生き物でな。
如何なる理由であれ……“借りを作る”事を極端に嫌うのだよ」
「そ、そうなのか……」
「ああ……そうしてみれば私は貴様に対し、些か“借り”を作り過ぎた
だがこれで……少しは借りを返せたであろう? 」
<――そう言いつつ握手を求めて来たジョルジュ。
同時に、俺の頬を涙が伝った……そっか。
“仲直り”ってこう言う事か。
俺は……涙を拭い、ジョルジュと固い握手を交わした――>
………
……
…
「ジョルジュ……俺もお前の事は大嫌いだったし
何一つ理解も出来なかったしぶん殴りたかったし
もう一回言うけど……本気で嫌いだった。
……けど。
お前が持つ、親父さんに対する“想い”は
始めから今までずっと俺にも痛い程理解出来てたんだ。
……あの一件を事故だとか何だとかって言葉で飾ったとしても
誰も帰っては来ないし、この上無責任かもしれないけど言わせてくれ。
ジョルジュ……間違い無くお前の親父さんは
今のお前の事を誇りに思ってると思うし
お前は間違い無く親父さんを超える程の立派な貴族に成ったと思う。
……俺達はこれから先もお互いに“嫌い同士”なのかも知れないけど
この国の平和を保ちたいって気持ちなら、今は一緒の筈だ。
今後も色々とぶつかる事だってあるかも知れないが
それでも……よろしくな」
「ああ……私も色々とすまなかった」
<――こうしてジョルジュと俺は突如として“仲直り”したのだが
ジョルジュの怪我の具合が余り宜しく無い様に思えたので
俺の治癒魔導で治そうとしたら、何故か“拒否”されて――>
「……魔王から受けたこの傷は
私の贖罪であり……私の勲章なのだよ。
……奪ってくれるな」
<――そう言って俺に照れた様な笑顔を見せたジョルジュ。
……後に聞いた話だが
ジョルジュの怪我は魔導病院で完治出来る筈なのに
意識を取り戻した途端、一切の治療を拒否したらしい。
その時もジョルジュは傷を擦りながら――
“これは主人公に対する贖罪だ”
――と、言ったらしい。
だが……正直そんなに重く考えないで欲しかった
俺だって事情が事情とは言え彼の父親を奪ってしまったのだから。
兎に角……今後、ジョルジュとは出来る限り仲良くしたいと思った。
無論、慈悲や施しや哀れみの類では無く……
……もっとジョルジュに“笑顔で居て欲しい”と思えたから。
だが、そんな事を考えていた俺のすぐ近くで
一部の反対派の民達がジョルジュに罵声雑言を浴びせ始めた――>
………
……
…
「……私達を扇動し、釈放の協力までさせた上
魔族を引き入れんとする者の肩を持つと?! ……ふざけないで頂きたいっ!!
貴方は……我が身可愛さに我々民を裏切ったのかッ?! 」
<――ご覧の通り、散々な言われ様だ。
……だが、この頃になると反対派の数も相当に減っている様には見えた。
本来、反対派の総代であった筈のジョルジュが反対派を降りた事
民達に真摯に向き合い、全てを話し謝罪をした事
そして……ジョルジュ自身も一部の反対派から浴びせられる罵声雑言に
反論すらせず、じっと耐えていた事も味方し
反対派は急激にその求心力を失い始めて居たのだ。
だが、そんな時――>
………
……
…
「民達よ……其処まで言うのであれば
貴様らも過去、主人公とその者がやった様に……
……“決闘”で決着をつけるが良い」
<――突如としてそう言い放ったのはガルドだった。
と言うか“決闘”って言ったって……一体、誰と誰が戦うんだ?
などと考えていると、ガルドは続けて――>
「……貴様らだけの意見を聞き入れるのは筋違いと言う物。
そもそも、貴様らの意見だけを聞き入れた場合
ただ黙って追い出される事となる魔族達が
どれ程不条理な扱いを受ける事となるのか。
……少しは考えるべきであろう」
「なっ! わ、我々が魔族共の為に其処まで考えを回す義理などありませんッ!!
それにもし仮に決闘をするとしても、人間の我々が魔族と戦えば
此方が負ける事など火を見るよりも明らかでしょうッ!!
そもそも……第二城の遠方に待機している魔族共が
何万体居るとお思いなのですかッ?! 」
「……貴様らの不満は理解している。
だからこそルールを設ける事も考えている」
「な、何故我々が一方的にそちらの決めたルールで戦わねば成らないのですっ?!
どうしてもと仰るのでしたら
此方にルールの決定権を寄越しなさいッ!!! 」
<――凄まじい暴論だとも思えるし、ある意味では理解出来なくも無いが
若干彼らが“輩”に見えなくも無いなと思っていた。
……とは言え後で“無効だ何だ”と言われても面倒だし
余程酷い事を言わない限り、基本的には
反対派が決めたルールで決闘を行うのも得策とは思っていた。
だが――>
………
……
…
「一つ……此方には魔導師がおりませんので
お互いに物理的な攻撃のみに限定する事。
二つ……魔族とは圧倒的な物量の差がありますので
代表者同士の勝負として行なう事。
三つ……負けた側には、政令国家から永久に立ち去って頂く事。
そして、四つ……此方側は十人、対する魔族はお一人で
且つ此方側だけが武器を持ち魔族側は
一番幼い者を代表者として選び……
……武器は持たず、素手での戦いをする事ッ!!
良いですねッ!? 」
<――うん、間違い無い。
此奴等は全員“輩”だ。
と言うか、幾ら頭が回らない状態の俺でも
彼らの出した“到底飲む事の出来ない条件”は
全力で突き返すべきだと思っていた。
だが――>
………
……
…
「良かろう……我が配下の中で
最も幼き者を戦わせれば良いのだな? 」
<――そう言うと、遥か遠くで待機している魔族達の所へと転移し
一人の“小さな”魔族を連れて来た魔王。
そして――>
「良いな? ……奴らを決して殺めては成らん」
「ハイッ……魔王様ッ! 」
<――そう言って魔王に対し敬礼して見せたのは
人間で言えば六~八歳程度に見える幼い魔族だった。
これに対する反対派の民達も人選を開始したのだが……結果として
彼らは“筋骨隆隆”とした者達ばかりを選んだ。
てか、相手が幾ら魔族とは言っても
こんな見るからに幼気な子供を
本気で完膚無きまでに叩き潰すつもりなのだろうか?
……正直見ていて反吐が出る。
実際、鬼か悪魔にでも見える程の
最低な手段で勝とうとしている反対派を見ていると
そう、思わざるを得なかった――>
………
……
…
「では……両者、準備は良いか? 」
<――ラウドさんの問い掛けに
余裕の表情で頷いた“マッチョマン達”……一方
幼い魔族はとても緊張した様子で
冷や汗を拭いながら、大きな声で――>
「ひ……ひゃいっ!!! 」
<――と、返事をした。
そしてこの瞬間――
“危なくなったら俺が止めに入る”
――俺は
そう、心に決めた――>
「では……金貨が地面に落ちたら決闘開始じゃ!
それぇぃッ!! ――」
………
……
…
「っしゃぁぁぁ!!! ……行くぞオラァァァ!!! 」
<――金貨が地面に落ちるや否や
“マッチョマン達”は一斉に“幼い魔族”目掛け全力で突撃を開始した。
……だが、その威圧感に怯えたのか
子魔族は突然その場にしゃがみ込んでしまった。
……不味いッ!
幾ら何でもあの状況で袋叩きにされたらあの子が死んでしまう!
慌てて防衛魔導を展開しようとした俺。
だが――>
………
……
…
「キャアアアアアアアアアアアアッ!!! 」
<――瞬間
“マッチョマン達”は……全員、泡を吹いて倒れた。
……この子から発せられた“超音波の様な声”が
彼らの鼓膜を吹き飛ばしたのだ――>
………
……
…
「勝負ありっ!! ……勝者、魔族陣営ッ! 」
<――と、ラウドさんは判定を言い渡した様だが
俺を含めたこの場に居る全員が耳を抑えていた為、聞こえて居なかった。
……だが暫くの後、再度判定を言い渡したラウドさんに対し
反対派の代表者達はまたしても文句を言い始めた。
“今のは魔導技では無いのか!! ” ……とイチャモンを付けたのだ。
だが……そんな“輩”達に対し
魔王は――>
………
……
…
「フッ……今のは悲鳴だ、愚か者共が
……この者は、貴様ら脆弱な者共に対し
手すら使わずこの様に完膚無きまでに勝利した……
……よもや“認めぬ”と謂うつもりでは無かろうな? 」
<――と、凄まじい威圧感を発しながらそう訊ねた魔王。
だが、この流れは不味い。
……幾ら勝ったとは言え、最終的に
“恐怖で捻じ伏せた”とも捉える事が出来そうな
そんな状況に成ってしまったのだから。
それに――
“悲鳴一つでこの状態なら
魔族が反旗を翻したら……”
――と、考える者が居ても不思議は無いし
そう考える者達が増えれば後々の問題に成りかねない。
そもそも、反対派が未だ全国民の三割程度居る事も
俺の中では無視出来ない部分だったし
このままでは、折角魔族との敵対関係に終止符が打てたと言うのに
後の争いに発展しかねないとも思えた。
“全国民の三割が追放され、その代わりに大量の魔族を受け入れますが
魔族達は悲鳴だけで人間の鼓膜を破る程の力を持っています
それでも決闘で決まったのだから文句はありませんよね? ”
……うん、喜ぶ人間の方が可怪しい。
何れにしろ、このままでは――
“魔族は怖い”
――って事だけが民達の記憶に刻まれそうだし
仮に反対派の民達を全員追い出したとしたら
“この国は少数派を乱暴に投げ捨てる国って事に成るんじゃないだろうか? ”
……とか、色々と纏まらない考えが暴走し始めた事で
俺の頭の中はいよいよ収拾がつかなく成り始めていた。
だが、そんな時――>
………
……
…
「勝者である我ら魔族種の長である我は
去りゆく貴様らに要求する……」
<――魔王は一言
そう言った――>
「こ、これ以上……一体何を奪おうと言うのですッ!? 」
<――正直、魔王の語気が不穏過ぎた所為もあり
反対派の民達は皆怯えた様子でそう訊ねた。
無論、俺も魔王の発する不穏な空気に
魔王は一体何を要求するつもりなのだろう?
まさかッ?! ――
“立ち去るのならば、この国の民では無くなったと謂う事
故に……貴様らを我らの食事とする”
――とでも言い出すんじゃ?!
などと、警戒していたのだが――>
………
……
…
「フッ……貴様ら脆弱な者共から一体何を奪うと謂うのか。
我が貴様らへ求める答えは一つである、貴様らは……」
………
……
…
「……これからもこの国に生き続け、この国に骨を埋めよ
敗北者足る貴様らに拒絶する権利など有りはしない。
……良いな? 」
<――何と言うか
一瞬でも疑った俺が馬鹿に思えたし
不覚にも魔王の事を“超かっけぇ”と思ってしまった。
だが、反対派の中で一際騒がしかった一人の男は
そんな魔王に対し更に――>
「……わ、分かりましたよッ?!
私達に慈悲を掛ける様を見せつけ
民達を味方に付けようと画策し!! ……」
<――と、正直俺が殴りに行きそうな程の
トンデモ理論を展開し始めた。
だが――>
「フッ……矮小な者には矮小な考えしか出来ぬ様だ。
だが、尚も我を侮辱すると謂うのならば……
……容赦はせぬぞ? 」
<――そう言って魔王が発した殺気を感じた瞬間
“超怖ぇ”……と、思った。
けど、この一言を最後に反対派の民達は大人しくなったし――>
「……はいはいは~いっ!
色々と解決したみたいだし、この件はこれで解決って事でよろしくぅ! 」
<――エリシアさんが
テンション高めに場の空気を和ませてくれた事もあり
一応の解決を見せたこの問題。
だが、やはりある程度の遺恨は残ってしまって――>
===第百十四話・終===