第百十一話「一つ苦しみを解決したら楽勝ですか? 」
《――極度の疲労と安心感に依って
意識を失うかの様に深い眠りへと落ちた主人公。
そして、翌日――》
………
……
…
「主人公さん!!! ……主人公さんってば!!! 」
「う~ん……むにゃむにゃ……後八時間程寝させて……」
「なっ!? ……過去の私をイジる様な発言してないで
早く起きてくださいってば!! 」
《――と、必死に主人公を揺り起こそうとしていたのは
マリアであった――》
「う~ん……だぁぁぁもうっ!!
……分かったよ!!
起きれば良いんだろっ!! ……起きれば!!! 」
<――昨日の今日だからか、疲れも睡眠欲も消えて無くて
半ギレ状態で勢い良く起き上がったのが“不味かった”――>
「……きゃあっ?! 」
「ふがっ?! ……」
<――突如として視界と呼吸を奪われた直後、鈍痛が俺の頬に走った。
どうやら俺は、勢い余って
マリアの“素敵お胸”に顔面を“ダイブ”させてしまったらしい。
その上、マリアが珍しく甲冑を着ていなかった事も幸い……いや、災いし
しっかりとマリアの素敵お胸の感触を“堪能”してしまったのだった――>
………
……
…
「……起きて早々、変態さ加減に余念が無いですね主人公さん?
って言うかまだ私……怒ってるんですからね? 」
「いっ?! いやその……色々と謝らないと駄目なのは分かるけど
せめて朝食でも食べて、頭が回る状態にしてからでも良いかな?
その、本当に申し訳ないと思ってるからこそ
中途半端な考えで謝っても駄目な気がするって言うか……ねっ?! 」
「そうですか、分かりました……感想を述べたら許してあげます」
「い゛っ?! かかかッ……感想ってまさかッ?! 」
「……聞かなくても分かってますよね? 」
「い゛っ?! いや、その……
何と言うか……
……素敵な感触でしたッ!
朝からとっても……幸せを感じましたッ! 」
「冗談のつもりだったんですけど、本気で答えられると凄く……
……取り敢えず、もう一回ビンタしてもいいですかね? 」
「まっ、待て待て待ってくれッ!! ……一発目で充分反省してるし!!
今の俺は病み上がりみたいなもんだからさ! ……ねっ?! 」
「仕方ありませんからこの件は一応保留にしておきますけど……取り敢えず。
……早く準備してくださいね? 」
「あ、ああ分かったよ……」
<――何だか此処まで怒ってるマリアを始めて見た気がする。
……けど、此処まで怒ってる理由が
“顔面ダイブ”についてじゃ無い事は明白だ。
とは言え、寝起きの俺には……いや、どう話せば許して貰えるかなんて
どんな調子だったとしても分かる筈が無い。
……そもそも
心配を掛けたから怒っているのか、置いていったから怒っているのか
若しくはそのどちらをもなのか……何れにしても
ごめんと言う他に俺が発する事の出来る言葉は無く――>
「昨日の事も……ごめん」
「……それについても後にしましょう」
「ああ、分かった……」
<――結局どうする事も出来ず気まずさを感じ始めていた俺。
だが、そんな俺の気持ちを察してかマリアは気を使って立ち去ってくれた。
けど、その行動が余計に辛かった――>
………
……
…
「取り敢えず顔でも洗うか……」
<――暫くの後、身支度を済ませた俺の所にリーアが来た。
朝食の用意が出来たらしい……けど
正直皆に顔を合わせるのが億劫だった。
とは言え、このままこの部屋に居続ける訳にも行かず
重い足取りで皆の待つ部屋へ向かう事と成った俺――>
………
……
…
「やはり……疲れが取り切れていない様ですね」
<――顔を合わせるなり、天照様にそう心配された事もだが
この部屋に漂う居心地の悪さが辛かった俺は
空元気でも何でも良いから、少しでも明るく振る舞おうと決意した。
だから――>
「ええ、でもかなりマシに成りましたし……その
こっ……今度こそ! “豪華客船”の中で
しっかり休ませて頂きますのでご心配には及びませんッ!
それに俺も一応は男の子ですから、この程度へっちゃらですよッ!! 」
<――と、精一杯気を遣った。
つもり、だったのだが――>
「……秘密裏に用意していたのですが、そういえば二度目なのでしたね」
「えっ? ……あッ!! そ、その……申し訳有りません……」
<――あの豪華客船は俺達を喜ばせる為、天照様が
サプライズ的に用意してくれていた物だって事をすっかり忘れていた。
ああ、最悪だ――>
「いえ、ゆっくりとお休みに成れる様な造りと成って……あっ
それもご存知で……」
「い、いえ! その……外観しか知らないので
な、内装はとても楽しみですッ!! た、楽しみだなぁ~! アハハ……」
「……未だお疲れのご様子なのにも関わらず
要らぬ気を使わせてしまいましたね、配慮が足りず……」
「い、いえ! そ、その……」
<――ある日突然、人との距離感が
こんなにも分からなく成る事ってあるのだろうか?
それに、何時もなら何らかのフォローをしてくれる筈の皆が
最低限の反応しかしてくれなかった事も辛かった。
俺は相当、皆を怒らせてしまった様だ――>
「あまりお気に為さらず……お食事をどうぞ」
「ハ、ハイッ!! ……」
<――暫くの後、朝食を食べ終わった俺達は
旅立ちの為、豪華客船が停泊している港へと向かったのだが
其処には……“戻す前”と同じく見送りに来てくれた沢山の人達が居た。
……だが、戻す前の記憶が邪魔をして俺の顔は相当引き攣っていたと思う。
船に乗り込む直前にライラさんが現れ
“ブランガ”って名前の獣人からリオスの死を告げられたあの記憶。
急いで転移した先で見た凄惨な政令国家の姿……
……疲れが取り切れていない所為もあり
何時にも増して俺の思考はマイナスに偏っていた。
だが、そんな時――>
………
……
…
「ド……ドラゴンだ! ……全隊! 迎撃準備ッ!!! 」
<――と、聞き覚えのあるセリフが聞こえた。
慌ててその方角を見た俺の視線の先には――>
………
……
…
「怖がらないで! ……攻撃の意思は無い!!
……仲間に会いたいだけ! 」
<――慌ててドラゴンの背に目を向けた俺。
だが……人影は一つしか見えない。
ほんの少しだけ、安心した――>
「ライラさん! ……間違い無くお一人ですよね?!
って……俺の大切な仲間ですから、攻撃はしないで下さいッ! 」
<――戻す前と違い
見送りに来てくれた人達への挨拶を済ませるよりも先に
大きく進化したドラゴンの背に“一人で”乗って飛んで来たライラさん。
そして、俺達の近くへと降り立つと――>
………
……
…
「久しぶり主人公……皆。
この子の驚天動地期……無事に終わったよ。
それで……ディーン様達は何処に……居るの? 」
「あっ、それはですね……って先ずは。
ライラさん、ドラゴン……くん? さん?
と、兎に角ッ! ……無事に終わった様で何よりです!
本当におめでとうございます! 」
「うん、ありがと……それと……この子はメスだよ?
あと……この子に新しい二つ名がついたから……皆も呼んであげてね」
「メ、メスだったんですね! ……だ、だからか~ッ! 可愛いなぁ~! 」
<――取って付けた様な褒め言葉だったからか
若干ドラゴンが不機嫌そうな表情を浮かべた気がした。
……やばい。
今日の俺はその種族に関係無く
話した相手の機嫌を完全に逆撫でし続けてる気がする――>
「と、兎に角! ……二つ名って一体どんなお名前なんですか? 」
「暁光……だよ」
「おぉ! ……凄く格好良い名前ですね! 」
「うん、私もこの子も気に入ってる……それよりも
ディーン様は……皆は……何処に居るの? 」
「あっ……それについてなんですけど
彼らはこの国に残って、この国の軍を育てる役目についてまして……」
「……何で? 」
「えっ? 何でって聞かれましても……」
「ディーン様は……主人公と一緒に旅を続けるって
主人公の歩む道を共に行くって言ってた筈だよ?
……何故一緒に居ないの? 」
<――そう問い詰める様な口振りで不信感を顕にしたライラさん。
正直、ディーン達がこの決断をするまでの顛末を話すのには
かなり勇気が必要な気がしたし……そもそも
何か話す毎に“逆撫でしまくってる”
今日の俺が話せる類の内容では無いとも思えたが
“思い切って全て話そう”……そう決め、口を開き掛けたその時――>
………
……
…
「……元を正せば我が国の至らぬ分野を成長させる為
そしてその御助力を頂く為……此方から
“卑劣な取引”を持ち掛けたのが発端ではありました。
……ですが、この国の長である私天照が断言します。
彼らの行動を制限するつもりなど一切有りません……彼らが今後
私達の国に愛想を尽かしたならば、それがもし今日と言う日であったとしても
私達は決して引き止めたりは致しません。
今はただ……御三方のご厚意に
お頼りしているだけに過ぎないと言う事を、ご理解頂ければ幸いです」
<――と、俺の代わりに説明してくれた天照様。
するとライラさんは――>
「うん……嘘は言ってないみたい。
暁光も怒らないし……分かった。
ディーン様が協力してるなら……私も此処に残る。
……良いかな? 」
「ええ、勿論歓迎致します」
<――と、この国に残る事を
驚くほどあっさりと決断してしまったのだった――>
「じゃあ……ライラさんとも暫くお別れですか?
……寂しいな」
「大丈夫、此処から政令国家までなら暁光が急いだら直ぐ……だから」
「そ、それは……頼もしいですね! 」
<――ある意味、転移魔導よりも凄まじい暁光の能力にかなり驚きつつ
ライラさんと別れの挨拶を済ませた俺は、時間を戻す前と同じく
テル君に“金貨の半分”を渡し――>
「おいら……絶対に主人公兄ちゃんみたいな立派な人間に成るよ! 」
<――戻す前と同じくそう言われた。
だが……俺は自分自身の事を
彼が憧れる“立派な人間”などでは無いと感じていた。
……少なくとも、彼の前でそうあろうと
“演じる”事しか出来ない程度の存在なのだと。
そう感じていた、だから――>
「……君の模範と成れる様、もっと気を引き締める事を約束するよ」
「兄ちゃんは今のままで十分おいらのお手本だよ! 」
「ああ……ありがとう」
………
……
…
<――その後
サナちゃんから“お守りの石”を受け取り――>
「主人公さん達が無事に故郷に帰った後、また
サナ達の所にも帰ってきてくれる様に毎日祈ったから、だから……」
<――そう言われた時、俺は“汎ゆる意味で”
サナちゃんのお守りが効果を発揮したのだと感じた――>
「サナちゃん……君がくれたこのお守りには
本当に……何よりも凄い力が宿ってると断言する。
君の持つ優しさと言う力が俺を……皆を助けてくれたんだ。
君のお陰で皆の元へ……この世界へ、帰ってこられたんだと思ってる。
……本当に有難う」
「へっ? それは一体どう言う……」
「あっ?! ……い、いやその……」
<――事情を知らないサナちゃんからすれば
かなり意味不明な発言だったと今更ながら思った。
そして、この意味不明発言を必死に取り繕った後
俺は――
ギュンターさんの“職権乱用発言”を聞き
アリーヤさんに“化け物級に長生きする様”頼んだ。
――しかし、戻す前と変わらない別れの挨拶を掛けられた筈なのに
戻す前よりも寂しくなったし、自分自身に対し
不甲斐無さの様な物も感じていた所為もあってか
皆の前で思い切り号泣してしまった俺。
だが、そんな不甲斐無い俺の姿を笑うでも無く――>
………
……
…
「……主人公兄ぃみたいに強い人でも泣く時が有るんだな。
なら、おいらも泣いて……良いよな……ッ! ……」
<――そう言って共に泣いてくれたテル君の優しさにつられ
更に泣いてしまった俺。
……必ずまた此処へ戻ってくるし
彼が魔導師と成る時には必ず俺が師匠になる。
そして……彼の師匠として恥ずかしく無い様、精一杯強くあらねば。
……改めてそう決意した俺は、テル君と固い握手を交わした。
そして……
いよいよ、出発の時――>
………
……
…
「皆さん……俺達は一度政令国家に帰りますが、また落ち着いてから
必ず此方にも帰って来ます。
その時には必ず、政令国家のお土産を持って来ます。
そして……テル君。
その時に君がまだ魔導師に成る夢を持っていたなら
頼りないかも知れないけど、俺は必ず君の師匠に成ると約束する。
その為に……君が憧れを抱いてくれる俺で居られる様
これから先、努力を続けると約束するよ。
……次にサナちゃん、このお守りは贈り物じゃ無く
借り物として、預かる事にさせて欲しい。
そして今後、此処に帰って来た時
サナちゃんに借りたこのお守りのお礼として
俺から、サナちゃんに何かを贈らせて欲しい。
……っと、これ以上話してたらまた酷く号泣してしまいそうだ。
また逢う日までお互いに……元気で。
っと、俺達はそろそろ行きますね! 」
<――この時
二人からの返事も聞かず、少し急ぎ足で船へと乗り込んだ
俺の気持ちを分かってくれるだろうか。
大切な人が沢山出来るにつれて、幸せが大きく成って行くと共に
寂しさも責任も不安もどんどんと大きくなって行くのだと
改めて気付かせてくれた後進復帰使用後の世界。
繊細で、いとも簡単に壊れるその宝物を護り続ける為。
俺は……もっと強くなる。
……そんな思いを胸に、タラップを駆け上がったのだ。
そして……乗船後、急いでデッキへと向かった俺達は
日之本皇国が見えなくなるまで力の限り手を振り続けた――>
………
……
…
「何だか……色々あったけど、いざ去るって成ると酷く寂しいや」
<――と、皆に話しかけたつもりだったのだが返事が無い。
それもその筈……振り返るとリーア以外には誰も居なかった。
どうやら皆船内に戻ったらしいが……何だろう。
凄く“ハブられている”気がする……と言うか、間違いなくハブられている。
直後、急ぎ皆を追い掛けた俺は――>
………
……
…
「……ちょっと待ってくれよ皆ッ!
俺の勝手な判断が皆を傷つけた事は謝る……けど!
そんなに除け者にしなくてもいいだろ?! ……ってか
気に入らない事があるなら、そんな陰湿な事せずに
確り面と向かって文句でも何でも言ってくれたら良いだろ?! 」
<――そう言った。
すると、皆一斉に俺の方へと振り返り――
“気に入らない事があるなら? ……しか、無いわよ? ”
と、マリーンに言われ
“そうですね、あと朝も言いましたけどまだ私……怒ってるんですよ? ”
と、マリアに言われ
“吾輩を生涯の友と認めてくれた、あの誓いを考えれば……
……より不愉快であると言うべきか”
何時も徹底的に味方で居てくれるガルドにまでそう言われた挙げ句――>
「……主人公さんの事は大切ですし、大好きです。
だからこそ、まだ気持ちの整理が付かないんです。
だから今は……ごめんなさい」
<――泣きそうな表情のメルにそう言われてしまった。
この時俺は、リーアを除いた全員から“総スカン”を食らった訳なのだが
このままでは何一つとして収まりが付かないし
こんな関係性のままは嫌だった。
だから、俺は――>
………
……
…
「……分かってる。
俺の選択が皆の心を深く傷つけた事は理解してるよ……けど
俺の話す言葉に何一つとして耳を傾けてくれないなら
どうやって俺は失敗を挽回すれば良いんだ?
なぁ皆……頼むよ、一〇分でも良いから俺に時間をくれないか?
……殴って気が済むなら殴ってくれ
罵声を浴びせればスッキリするなら幾らでも聞く。
俺が何でこんな選択をしたのかって事も……
……皆が天照様から何処まで聞いたのかも分からないけど
全部説明するからさ……頼む」
<――そう言って皆に頭を下げた俺。
永遠とも思える程の静寂が続いた後
ガルドが助け舟を出してくれた――>
………
……
…
「主人公よ……本当に一〇分で足りるのか? 」
「えっ? いや、出来るならもっと時間は欲しいけど……」
「ふむ……ならば、一人一〇分で良いな? 」
「あ、あぁそれなら……って、ガルド……感謝するよ」
<――この後、ガルドの助け舟に依って
皆と話し合う機会を得られた俺は、先ず皆に対し
何が起きたか……何を見てしまったかを克明に説明した。
時間を戻す前、政令国家が壊滅していた事。
後進復帰を使う決断をした時、皆が必死で俺を止めた事。
……それを振り払い、強引に時間を戻した結果
転生前の世界を模した世界に飛ばされ、長い長い苦しみを味わった事。
……皆に嘘をついて一人で転移した際、皆の心を傷つけただけに留まらず
危うくリーアの命を奪っていた可能性があった事。
……結果として、皆が俺の部屋で書き置きと本を見つけていなかったら
俺は恐らく魔王に殺されていたであろう事。
そんな……様々な“紆余曲折(うよきょくせつ”を
全て隠す事無く皆に打ち明けた時には、一人一〇分どころでは無く
窓の外は夕暮れ時と成っていて――>
………
……
…
「……最低ね、許せる要素が何一つないじゃない」
「ああ、本当に最低な判断だった……ごめん」
<――マリーンに責められ、謝る事しか出来なかった俺だが
そんな俺に対し、マリーンは続けて――>
………
……
…
「でも……私とメルちゃんのお母さんを救ってくれたって事でしょ?
なら……貴方の選択がどれ程不満でも、許す他に選択肢が無いじゃない」
<――そう言って俺を許してくれたマリーンを皮切りに
ガルドは――>
「主人公……御主は、吾輩がゴードンに託した者共を守り抜いた。
つまりは、我が種族に取って英雄たる者とも言えよう。
従って、吾輩も……御主を許す他無かろう」
<――そう言って俺の背中をポンポンと二度叩いた。
そして、マリアは――>
「まぁ……ガンダルフさんは大切なお友達であり
私の装備専属の腕の良い鍛冶屋さんですし?
……守って貰った以上、感謝するしか無いですよね~」
<――窓の外を眺めつつそう言った。
そして――>
「……と言う事はお母さんの事
二回も救って下さったんですね……その……ごめんなさいっ!! 」
「メ、メルっ?! ……」
<――メルに至っては
許すどころか俺に対し頭まで下げ……直後
慌てて頭を上げる様に頼んだ俺に対しきっぱりと
“私たちも悪いんですっ! ”と言ったかと思うと――>
………
……
…
「あ、あの……皆さんっ!
わっ……私達も主人公さんに“全て”を話すべきだと思うんです」
「す、全てを話すって……どう言う事だい? 」
<――そう訊ねた俺に対し
メルは――>
「そ、その……実は
私達が主人公さんのお部屋をお訪ねした時……」
―――
――
―
《――本来であれば
皆、寝静まっているであろう夜更けの事。
後進復帰を使用していなかった時間軸では
舞踏会を終えた主人公は自室のベッドで泥の様に眠っていた。
一方……そんな彼の部屋には、舞踏会中に彼が放った言葉に依って
乙女心を“ときめかせてしまった”女性陣がこっそりと“侵入”していたのだが
泥の様に眠る疲れ切った彼の様子に女性陣は皆“添い寝”をするに留め
彼が起きるよりも前に各自の部屋へと戻って居た。
……だが、彼が後進復帰を使用し
一人で政令国家を救う為に奮闘していた時間軸では――
――戻す前と同じく
一番に彼の部屋へと現れたメルに依って
彼の不在と書き置きが発見され……当然、慌てた彼女は
皆の部屋を回り、一人一人に事情を説明し……そして
彼と同じく姿の見えないマグノリアを怪しんだ後――》
………
……
…
「ベン……前にやってくれたみたいに
マギーさんと連絡を取って欲しいの……お願い」
《――真剣な表情でそう頼んだメル。
その後、直ぐにマグノリアへと連絡を入れたベン
一方……同時刻
既にヴェルツの一階で主人公を待っていたマグノリアは――》
===第百十一話・終===