第百十話「事後処理は楽勝ですか? 」
<――エリシアさんが言う様に
ライドウが裏技之書をニ冊持っていると仮定した場合、その内の一つが
異質な装備を作り出す事の出来る代物である事はまず間違い無いだろう。
……だが、問題は研究所から盗まれたもう一冊の方だ。
この本の持つ力が一体どんな能力であるのか……俺達は
真相を知る唯一の存在であるマリーナさんにその事を訊ねた。
そして……その答えに“ある意味”納得し
同時に“絶望感”をも味わう事と成ったのだった――>
………
……
…
「彼が持ち去ったと思われる本の能力は――
“空間を切り取り、他の空間へと移動出来る”
――と言う物であった筈でしたが
実現は恐らく不可能と……」
<――そう説明していたマリーナさん
だが、魔王はそれを遮り――>
「奴が“我らの為”と用意したあの森は跡形も無く消え去って居た。
少なくとも……奴に取って“不可能”では無かったと謂う事よ」
<――魔王の言う通り、俺達は
あの異質な“空間”を確かにこの目で見たし
あれがもし“転移し間違えただけ”ならどれ程気が楽だったか。
何処に居るか分からないだけでは無く、何処から現れるかすら分からない上
もし見つけてもまた直ぐ何処かへと雲隠れされてしまうのであれば
奴への対処は相当に難しいだろうし、政令国家単体で
この問題を解決出来る訳など無い事は火を見るよりも明らかだった。
……これから先、俺達は一体どうすれば良い?
と言うか、俺とマリアが必死で設計した筈のこの世界は
何故俺に覚えの無い物ばかりを勝手に生み出しているのだろうか。
大体、裏技之書がどれもこれも黄道十二宮
所謂“十二星座”に由来した名前ってのも気になるし
俺とマリーナさんと天照様で三冊、ライドウが持ってると言う二冊を足して
合計五冊の本が存在してるって事を考えた時
もし本当に黄道十二宮に由来してるのなら
少なくともこんな本が“後七冊は有る”と言う事に成る。
……そして恐らく、その全てが文字通り
意味不明な程の“裏技的能力を持ってる”って事だ。
正直伝えるべきかは迷ったが、この事を皆に伝えた俺。
すると――>
「ふむ……何れにせよ今出来る事は
友好国に対し奴の情報を共有しておく事だけじゃよ。
歯痒いじゃろうが……皆、そう言う事で良いじゃろうか? 」
<――そう決を採ったラウドさん自身も
かなり“歯痒い”表情を浮かべていた気がしたが……確かに
今出来る事はこれしか無さそうだ。
ともあれ……この後、俺達は全ての友好国に対し
情報の共有をする事となったのだが――>
………
……
…
「……分かった、その男の事は警戒しておくとしよう。
だがそれよりも主人公君、もしかしてだが、君の横に居るのは……」
<――メリカーノア大公国のアルバートさんに連絡を入れていた俺
だが……まぁ、ある意味当然の反応ではあるのだが
アルバートさんは“危険人物”の情報よりも
俺の横に居る“魔王”の存在が気になって居た様で――>
「え、ええ! ……紆余曲折有って
魔王と……彼に従う魔族達との協定を結ぶ事が出来まして!
お……驚かせちゃいましたよね? 」
「ああ、流石に驚いたよ……けれど君は本当に凄まじいね。
そして、魔王……と、お呼びして良いのかは分からないが
我が国は政令国家との強い友好関係に結ばれています。
今後、我が国へと訪れる際は是非
国賓待遇で迎えさせて頂きたいと思って居ります」
「フッ……考えておくとしよう」
<――この後、魔王と一言二言話していたアルバートさん。
だが、終始威圧感満載な魔王の態度に内心かなりヒヤヒヤしたのは内緒だ。
ともあれ……暫くの後、政令国家からでは魔導通信の繋がらない
一部の国と地域を除いた全ての友好国に対し
魔王を含めた約半数の魔族との平和協定を結んだ事
……そして、危険人物であるライドウの情報を共有し終えた俺達は
次に、魔王を含めた魔族達の
受け入れ体制について話し合う事と成ったのだが……
……疲れが限界に近づいていた俺を心配してか
ミリアさんは俺を休ませる様、皆に意見してくれた。
正直とても愛情を感じたし、寝てないテンションの所為もあって
俺はまたしてもミリアさんに抱きつきそうに成っていた。
だが、それと同時にある重要な事を思い出した俺――>
………
……
…
「って……あッッ!!!
あの……ミリアさんが言う様に
ヴェルツで確りと睡眠を取りたいのは山々なんですけど
“そう出来ない事情”を思い出しちゃいまして……」
「何だい? 余程の事じゃないなら明日に回せば……」
「それが、そう言う訳にも行かなくてですね……」
<――俺は、ミリアさんを含めた皆に対し
日之本皇国へ置いて来た皆に対して
心配を掛けてしまう様な置き手紙をしてしまっている事。
一刻も早く“それ”を回収し、何事も無かったかの様に
“偽装工作”として向こうで寝ておくべきなのだと説明した。
だが――>
………
……
…
「気持ちは分かるが……その“様子”じゃ、さっきエリシアの言ってた
“超長距離転移”って奴は無理じゃないのかい? 」
<――確かにミリアさんの言う通りだった。
ただでさえ疲労困憊な上“精神世界”で約半年に渡り
魔王との話し合いを続けた俺の健康状態はお世辞にも良いとは言えない。
……とは言え、日之本皇国と政令国家は相当離れているし
魔導通信も繋がらない以上、帰らないと間違い無く“騒ぎ”になる。
……一体どうすれば良いのだろうか?
そう、悩んでいると――>
………
……
…
「主人公様……もし途中までで宜しければ、私がお送りしましょうか? 」
「えっ?! ……ムスタファさん、日之本皇国に飛べるんですか?! 」
「いえ……残念ながら流石に直通とは行きませんが
あの国は我が国と魔導通信が繋がる程度の距離にあるのですよ!
……ですので、まず私の母国へ飛んでからあれば
政令国家から直通で“超長距離転移”と成ってしまうよりも
少しは主人公様へのご負担が減るのではと思ったのですが……」
「それは……充分過ぎる程助かります! 」
「それは良かった! ……それにしても嬉しい!
またしても主人公様のお役に立てるとは! ……そうと決まれば!
……早速飛びましょう! 」
<――こうして
“意外な繋がり”を持ったムスタファさんに驚きつつも
政令国家の皆に対し、帰りは船での帰還と成る事や……それに伴い
数日程度連絡が取れなく成るであろう事を伝えた後
一度、ムスタファさんの母国であるアラブリア王国へと向かう事と成った俺。
だったのだが――>
………
……
…
「す、凄い……信じられない位豪華な佇まいですね……」
<――到着早々。
俺の想像を遥かに超えた“お金持ちっぷり”を
まじまじと見せつけてくれたアラブリア王国。
正直レベルが違い過ぎて嫌味に感じる事すら無い位の異常な豪華絢爛さだし
そりゃあ“オセロ”とか幾らでも買えるよねってレベルだ。
あと……兵達の練度も素人目に見て分かる程に凄まじい物を感じた。
と言うよりも、攻撃すら受けてない状態で目で見て分かる位に
分厚く展開された防衛魔導なんて始めて見た。
あ、いや……ハイダルさんの展開した防衛魔導もこんな感じだったっけ?
まぁその何だろう……何れにしろ
色々と“桁が違う”――>
「……お褒めに預かり光栄です主人公様!
しかし……本日はご予定がありますから無理ですが
今後、魔族との協定など様々な事が落ち着いた頃でしたら
流石に主人公様も休暇をお取りに成れるでしょうし
その時は精一杯お饗しさせて頂きたいと思っています! 」
「光栄です! ……あっ、でもその時は“ミリアさんも一緒に”でしたよね! 」
「ええ、前にそんな話をしましたね……懐かしいっ!
……っと。
これ以上話し込んでいては主人公様を疲れさせてしまいますし
一先ず此処からであれば通常の転移として無事に帰還出来る筈です。
ですが……念の為ッ!
“これ”をどうぞ! 」
<――そう言ってムスタファさんが差し出したのは自らの“手”だった。
……握れって事だろうか?
首を傾げつつも手を握った瞬間……ムスタファさんから俺に対し
割とびっくりする位の魔導力が流れ込んで来た。
どうやら“魔導移譲”と言う名のプレゼントだった様だ――>
「……正直、本当に助かります。
感謝してもしきれない程に……なのでその、ムスタファさん。
俺から一つだけお願いがあるんですが……」
「お願いですか? ……何なりとどうぞ! 」
「重ね重ね有難うございます。
ではその……“様付け”止めてくださいませんか? 」
<――そう伝えた瞬間
とても驚いた表情を浮かべたムスタファさん。
直後“何故か”と問われたので――>
「えっと……これ程に助けて貰ってたら
それはもう恩返しどころじゃ無くて、寧ろ此方が恩を感じるレベルですし
それとその……国の長であるムスタファさんに対して
凄く無礼な考えなのかも知れないんですけど……俺
ムスタファさんに対してその……とっ、友達みたいな感覚を持ってまして!
ほ、ほらそのッ! ……と、友達同士なら互いの名前を
呼び捨てにしたりとかするのが良いのかな~なんて思ってたりしてて!
って……ムスタファさんッ?! 」
<――俺が全てを言い終える前に
……ムスタファさんは号泣していた。
慌てた俺は必死に謝った……だが
ムスタファさんはそんな俺を制止すると――>
「本当に私を……友と認めて下さるのですか? 」
「えっ? いやその……ムスタファさんが嫌じゃないなら……」
「嫌だなんてそんな! ……爺や!
……これ程嬉しい事があって良いのだろうか?! 」
「ええ、私めも嬉しく感じておりますっ!!
主人公様、私めからもお礼を!! ……」
「えっ!? い、いや寧ろ此方こそ光栄って言うか何て言うか……」
<――この後
こんな平和な会話のラリーが“割とな時間”続いた。
……ともあれ。
この日を境にムスタファさん……もとい
“ムスタファ”とは、お互いに呼び捨てで気さくに話せる関係と成った。
そして――>
………
……
…
「皆と合流してからまた連絡するよ! ……本当に有難うな! 」
「ええ主人公さ……いや、主人公。
無理無く無事に到着する事を祈ってるよ! ……あっ!
何か問題があったら何時でも連絡して欲しい。
必ず……すぐに飛んで行くと約束する」
「ああ、ありがとう……んじゃまた数日後!
……転移の魔導
日之本皇国の岸へ! ――」
………
……
…
「――っと、割と危なげなく到着出来た。
これもムスタファが魔導力分けてくれたお陰かな? 」
「ええ♪ ……とても良い友達が出来ましたワネ♪ 」
「ああ、心強い友達だよ! ……」
<――などとリーアと話した後
こっそり部屋へと転移した俺達――>
………
……
…
「……よし、リーアはこっそり自室に帰っててくれ
俺は本と書き置きを処理してこのまま此処で寝るだけだから……って。
どっちも……無いッ?!
ま……まさか、何者かに盗まれて……いやいやいや!
……有り得ないだろッ?!
そ、そうだ! ……リーアが持って来たって事は無いよなッ?! 」
<――慌てた俺は振り返りつつそう言った。
だが――>
………
……
…
「主人公さん? ……マギーさんと二人で何してたんですか?
何処に行って……いえ。
……“帰って”たんですか? 」
「い゛っ?! ……メ、メルッ?! 皆までッ?!
どうして此処に皆が……」
<――其処には“本”と“書き置き”を抱え
見た事無い位にブチギレてる様子のメルと……同じく
見た事無い位にブチギレてる皆が立っていた――>
「い、いやこれはその……何と言うかその……」
<――と、狼狽えて居た俺にゆっくりと近づいてくるメル。
明らかに“ヤバい”雰囲気を纏ったまま更に近づいてくるメルに
思わず後ずさりした俺。
そして、この直後――>
………
……
…
<――パンッ!!
静かな部屋に乾いた音が響いた……メルが俺の頬をビンタしたのだ。
だが、その直後メルは崩れ落ちる様に泣き始め――>
………
……
…
「い……痛いよメル」
<――どうして良いか分からず
そう返す事しか出来なかった俺に対し、メルは――>
………
……
…
「……どうして置いて行ったんですか?
どうして私達を頼ってくれないんですか?
何で全部一人で解決しようと……背負おうとするんですか?
何故私達も一緒に戦わせてくれなかったんですか?
私達は主人公さんの仲間じゃ……無いんですか? 」
<――大粒の涙を流しながらそう俺の事を問い詰めたメル。
俺は一瞬、メルが巻き戻す前の事を覚えているのではと“誤解”した。
だが、その“誤解”は
部屋に訪れた一人の女性に依って直ぐに解ける事となった――>
………
……
…
「……主人公さん。
愛情が故に皆さんを置いて行った事は理解していますし
皆さんの生命を守りたいと言う考えの元
この様な選択をしてしまったのだとも理解しています。
……ですが、皆さんの“心”を守れる程の力は無い選択だった様ですよ? 」
<――そう言いながら皆の後ろから現れたのは
天照様だった――>
「な、何故天照様まで……」
<――正直、疲労と異質な状況の所為で全く理解が追いつかない。
だが、そんな俺に対し天照様は続けて――>
「非常にお疲れの様子ですが“視た”所……何とか間に合った様ですね」
<――そう言った。
だが……“間に合った”って一体どう言う事だ?
そう思った俺の考えすら“視た”のか、天照様は――>
「それにしても……ムスタファさんがお知り合いで本当に良かった」
「あの……俺の記憶や考えを好き勝手に覗き視るのは構いませんが
俺にはいまいち状況が理解出来てないんです。
先ずは説明をお願いできますか? 」
<――疲れから来る苛立ちも手伝ってか
半ばキレ気味でそう訊ねてしまった俺だったが
天照様は怒る事も無く、この質問に答えてくれた――>
………
……
…
「……何処から説明するべきかは分かりませんが
先ずは……主人公さん、私は貴方が
“後進復帰”を使用した事を理解しています。
無論、戻す前にどれ程悲惨な事があったのかも
貴方の記憶を介し……全て理解しているのです。
そして……どの様に母国をお救いになったかも
たった今、全て理解しました。
そして現在……酷くお疲れの様子で有るにも関わらず
私が全ての疑問に答えなければ、貴方は眠る事すら拒む程に
ある種の不信感を抱いている事も理解しています」
「お……仰られる通りです」
「……では、早くお答えしなければいけませんね。
先ず、何故皆様がこの様にお怒りなのかについてですが……主人公さん。
貴方が舞踏会で皆さんと踊った際、女性陣一人一人に対し
貴方が日頃より感じていた想いをお伝えした事……
……覚えていらっしゃいますね? 」
「ええ、その事なら勿論……」
「では……些か失礼な言動となってしまいますがお許し下さい。
舞踏会での貴方の言動は皆様の心を“ときめかせてしまった”様ですが
鈍感な貴方はそれに気がついていなかった様です」
「そ、そうだったんですか?! ……って
よく考えたらこの反応自体が“鈍感”って事の証明ですよね。
……皆ごめん」
「いえ……結果的にはそのお陰で全てが良い方向へと向かったのですよ?
何故ならば……貴方が舞踏会を終え自室へと戻った後
皆こっそりと貴方の部屋へ夜這……」
<――と、天照様が其処まで話し掛けた瞬間
メルを筆頭に皆慌てて天照様を制止した。
何故だろう――>
「あの、最後の辺りがよく聞こえな……」
<――と訊ね掛けた俺に対し、魔王顔負けの威圧感を発した女性陣。
怖すぎてそれ以上は聞けませんでした。
はい――>
………
……
…
「……兎に角、貴方の部屋に訪れた皆さんが
書き置きと本を見つけた事で騒ぎが起き、私が此処へ現れた時には
既に貴方の姿は無かったのです。
私は直ぐに貴方が残したこの書き置きから
断片的に感じ取る事の出来る貴方の心を読み取りました。
……そして
強大な力が貴方の大切な人々を襲う光景を読み取ったのです。
ですが同時に……私では貴方の事を救えぬ事も理解してしまった。
それでも、そんな中……ある一筋の光が見えたのです。
……幸運にも貴方の知り合いであり
私の古い知り合いでもあった一人の男性の存在に気がついたのです。
私は……急ぎ彼に連絡を入れました」
「まさか……」
「ご想像通り……ムスタファさんの事です」
<――そう聞かされた瞬間、俺の努力は無意味だったと知った。
何故かって? ……考えて欲しい。
俺があのまま幾ら頑張った所で
皆が俺の事を心配してこの部屋に来なかったら
天照様が俺の書き置きから俺の精神状態を透視する事は無かったし
当然、ムスタファさんが来る事も無かった。
……俺はあのまま魔王に殺されてただろうし
そうなったら政令国家を護る事など出来なかっただろう。
……結局どれだけ努力した所で
俺一人の力では皆を護る事なんて夢のまた夢だって事に気がついた。
俺の……俺の存在意義って一体何なんだろう。
だが、そんな暗い考えに支配された俺の様子を
天照様は見逃さなかった様で――>
「完全に貴方の考え通りです……微塵も間違っていませんよ」
<――と、励ますどころか俺の精神を叩き折る様な発言をした天照様。
だが、その上で彼女は続けた――>
………
……
…
「……だからこそ共に協力し、困難を乗り越えていくのです。
主人公さん……貴方がした今回の判断は
一時的に皆さんを困難から遠ざけただけに過ぎないのです。
貴方は守りたい一心で皆さんを遠ざけたのかも知れませんが
誰にも頼らず一人で変えられる程、世界は甘く出来ては居ないのですよ? 」
<――ぐうの音も出ない言葉だった。
確かに、皆を護るって考えだけに囚われ
皆の気持ちをまるで理解していなかった。
……俺が皆の事を大切に思う気持ちと同じ位
皆も俺の事を大切に思ってくれていると言う事実から目を背けたまま
もし何処かで人知れず死んで居たなら、これ程不義理な話は無い。
逆の立場で考えてみれば直ぐに分かった話だった
残された側には酷く悍ましい苦しみが残る事を。
天照様が言った“心を護れない選択”って事を痛い程理解した。
だから俺は皆に対し、心の底から――>
………
……
…
「申し訳……有りませんでしたッッッ!!! 」
<――力の限りに
“土下座”した――>
「主人公さんっ?! ……って、額から血が!? 」
<――メルに言われて気付いたが、勢い良く
“床に叩きつける様に”土下座した俺の額は簡単に割れていた。
確かに凄く痛い、だが――>
「い、いや……こんな痛みよりも皆の心の方が……」
「何言ってるんですか! す、すぐに直しますからっ!! ……」
<――直後
メルが治癒魔導を掛けてくれた……やっぱり温かい。
そして、メルの治癒魔導もそうだが
さっきまでブチギレてた筈の皆が、俺を心配し寄り添っていた事
……皆の優しさが何よりも温かく感じられた。
それと同時に……何だか……意識が……遠のいて――>
………
……
…
「主人公さん? ……主人公さんっ?! 」
《――極度の疲労と、ある種の安心感が重なったのか
主人公は意識を失う様に深い眠りについたのだった。
一方……そんな主人公の様子に暫くは慌てていた仲間達だったが
眠りに落ちただけであると理解した瞬間、皆安堵の表情を浮かべた。
そしてこの直後、眠りについた彼を抱えたグランガルドは
彼をベッドに運ぶと、優しくその身体に毛布を掛け――》
「吾輩も皆も……御主と
“互いに互いを頼れる関係性で有りたい”……そう願っている」
《――そう言った後、部屋の明かりを落とし
皆を引き連れ静かに部屋を後にしたのだった。
ともあれ……満身創痍な主人公が深い眠りにつき
騒動に一つの幕が下りた、その一方で――》
………
……
…
「……予定外の戦力の所為で計画に僅かながらの狂いが生じたが
……私は諦めない。
必ずやこの世界を、私の才能を解さぬ者共を……必ず捻り潰してやる。
魔族共の協力を失った事は僅かに痛手ではある……だが
……悪鬼共を生み出せただけでも計画通りだ。
姉弟子……主人公と言う名のあの男。
そして、私を“歪”と罵ったあの忌忌しい者共も……
苦しめて苦しめて苦しめて……そして殺してやる。
精々……今と言う時間を楽しむが良いさ」
《――仄暗いその場所で
ライドウは一人“増え続ける悪鬼を眺めながら”そう呟いた――》
===第百十話・終===