第一〇九話「手を取り合えば楽勝ですか? ……後編」
<――エリシアさんが話してくれた“昔話”
……この国がまだ王国と呼ばれていた時に起きたその出来事は
エリシアさんの心に決して消える事の無い深い傷をつけた。
……ライドウに関する情報を全て話し終えると、エリシアさんは涙を拭い
大きく深呼吸し――>
………
……
…
「……師匠が死んだあの日、私は直ぐに思い出したんだ」
「何を……あっ、いやその……
思い出したくない話とかならこれ以上は無理に……」
「良いの良いの! と言うか……どうせ全部思い出しちゃってるし?
悲しいついでって言うと変かもだけど……
……何で私が本来の私とは違う
“可愛い喋り方”をずっと続けてるのかって事も含めて
ちゃんと説明しておこうかなって思っただけだから気にしないで」
「そ、その……心して聞きますッ! 」
「主人公っちは本当に優しいね……ありがと。
……あの日、師匠の亡骸を抱えて大泣きしてた時
私はある事を思い出したの、それは……ヴィオレッタの居たあの集落に
“無作為之板”って道具があった事――
“あの板だけが師匠を生き返らせる事が出来る”
――その事に気がついた瞬間、私は
後先考えず、当時の私からすれば相当にリスクの大きい
“超長距離転移”を師匠を抱えた状態でやったの。
まぁ……誇張無く
文字通り死にそうには成っちゃったけど何とか成功はした。
……それで、集落の魔族達も直ぐに状況を察したのか
直ぐにあの板を持って来てくれたから、使い方を聞いて
教えられた通りに必死に念を込めた……でも、駄目だった。
……師匠が生き返る事は無かったし、寧ろ
板の力で重要な記憶を断片的に消されちゃった上に
目覚めた時には何故か王国の近くで倒れてたから
色んな事が理解出来なくて気が狂いそうだった。
……その上何故か魔導師として妙に力がついてた事も理解出来なかったし
力の制御方法もいまいち分からなくて沢山失敗もしたの。
……まぁ“スライムの草原が抉れた事件”の犯人である
主人公っち程では無いけどね~? 」
「ちょ?! い、いえ……その節は本当に申し訳……」
「ごめんごめん! ……暗い話が続いてるから
少しでも明るくしようとしただけだし、気にしないで!
……兎に角、そんな何一つ分からない私の懐には
薬草の情報が山の様に書き込まれた一冊の本があった。
それで……その本を開いた瞬間、何故かは分からないけど
ヴィオレッタとの楽しかった時間を強く思い出す事が出来たの。
……でも同時に彼女が既に死んでるって事を何と無く感じた。
けど、その時は何故彼女が死んだのかすら思い出せなくて
こんなに大切な人にもう会えないんだって……思いたくなくてね。
……だからせめて、記憶の片隅に微かに残ってた
彼女の話し方と同じ話し方をしていたら
彼女が一緒にいてくれてる様な気がして、それで……ごめん。
こんな暗い話、するべきじゃなかったよね……って言うか
そもそもライドウの捜索に役立つ話でも無かったし……
……やっぱり、今の話聞かなかった事に……出来る訳ないか。
皆……本当に……ごめんね……」
「い、いや……その……」
<――本当に聞かなかった事に出来たならどれだけ良かったのだろう。
俺はなんて酷い事を頼んだのだろう。
“全部話してくれ”だなんて、どれだけ距離感の狂った
無責任な事を頼んでしまったのだろう。
俺は……エリシアさんに対して何一つ優しい言葉を掛けられずに居た。
だがそんな時、ミリアさんは静かに立ち上がり――>
………
……
…
「……馬鹿だねぇエリシア」
「いきなり何よミリア、こう言う時は普通慰めの言葉とかを……」
「……ヴィオレッタちゃんならずっとアンタと一緒にいるよ」
「!? ……ど、何処に居るのよ?!
まさかミリア……霊が見えるの?! 」
「いいや? ……見えてたら占い師にでも成ってるさ」
「じ、じゃあ何で……」
「……アンタがその娘の事をそれ程大切に思って
その娘との記憶をずっと大切にし続けてるって事は
ヴィオレッタちゃんって娘はさぞかし優しくていい子なんだろう? 」
「……そんなの当たり前でしょ?! 」
「そうだろうと思ったよ……なら“死んだ位で”アンタの元を離れる様な
そんな薄情者じゃない事位理解してあげな。
アンタが悲しい時には一緒に泣いてるだろうし
アンタが嬉しい時には一緒に喜んでる筈だよ?
今アンタが悲しんでるって事はヴィオレッタちゃんも……分かるね? 」
「うん……ありがと、ミリア」
「お礼なんて良いさ……それよりも、理解したんなら
辛い記憶ばかり思い出さずに、その娘との楽しい時間を思い出してあげな!
……それが一番、ヴィオレッタちゃんも喜ぶ筈さね」
「うん、そうするよ……ごめんね皆。
ヴィオレッタにも……ごめん」
<――そう言って深々と頭を下げたエリシアさん。
見方に依れば、ミリアさんの言葉は無責任な妄想なのかもしれない。
でも、俺はそんな“無責任な妄想”の方を信じたいと思った
そして何よりも……そう思えるだけの経験を俺はしていたのだ。
……ムスタファさんの発動した“精神世界”へ閉じ込められる前
魔王との戦いの最中、俺に話し掛けて来たネイトと言う名のあの子供の事。
……幾度と無く夢に現れては
政令国家の危機を伝えようとしていたミネルバさんの事。
そして……エリシアさんの師匠である
ヴィンセントさんのお墓に手を合わせていた時
俺に話し掛けて来た“優しい声の主”の事を。
無論、会った事など無い筈だが……あれは間違いなく
ヴィンセントさんの声だと確信出来る何かが俺の中で芽生えていた。
もしあの時の様にもう一度話せたなら、エリシアさんに伝えたい事や
逆にエリシアさんから伝えたい事が無いか
その橋渡しが俺に出来ないかとか……そんな事を考えていた。
すると――>
………
……
…
「そう言えば……主人公
例の墓前でヴィンセントさんと話して無かったかしラ? 」
<――そうタイミング良く
リーアに言われ――>
「えっ? 確かに話したけど……って、聞こえてたの?! 」
<――そう答えた瞬間
明らかに不機嫌な顔をしたエリシアさんは――>
「主人公っち、マグノリア……二人共、冗談のつもりなら止めてね」
「えっ? ……いや、冗談では無くてですね!
俺……エリシアさんとの約束を果たす為に
例の“敵意の無い魔族達の村”でヴィオレッタさんと
ヴィンセントさんのお墓に手を合わせていたんですけど、その時……」
<――俺はあの時起きた全てをエリシアさんに話した。
だが、全然信じてくれず
悪質な冗談か何かを言っていると思われていた様で――>
「慰めるつもりで気を使ってくれたんだろうけど……黙ってて! 」
<――伝え方が悪かったのか、結果的に
エリシアさんを逆に傷つけてしまった事で
激しい自己嫌悪に陥っていた俺。
だったのだが――>
………
……
…
“また僕の所為で問題が起きてるんだね……申し訳ない主人公君。
でも、君がそのまま嘘つき扱いされているのは僕も悲しい……だから
君に一つお願いがあるんだ。
エリシアに対してこう言ってみて欲しい――”
<――声の主はそう言うと“ある言葉”を伝えてくれた。
……直後
一か八か、思い切ってその言葉をエリシアさんへと伝えると――>
………
……
…
「主人公っち……今、何て言った? 」
「い、いやその――
“エリシア、確かに君は実年齢より幼く見えるかも知れない
だが、その心はとても高潔だと僕は知っている。
名は体を表すとは良く言った物だね”
――と、言いました」
「何で……何でその言葉を主人公っちが……」
<――そう言い掛けたエリシアさんを遮る様に
リーアはある話を始めた――>
「……エリシアさん
アナタは私達の口伝にとても詳しかった筈――
“特別にして特異な生まれの者
生死の境を彷徨いし時、精霊の加護が宿る”
――ワタシはてっきり、この口伝に
“続き”がある事もご存知なのかと思っていたのだけれど
その様子を見る限り……知らなかったのネ? 」
「疑ってごめん、だから……勿体振らずに教えて」
「ええ勿論、この口伝の続きはこうですワ? ――
“……精霊の加護宿りし後
失われし者の声に耳を傾ける事叶えば……厄災を祓い
生と死の狭間を歩き……生者と死者を
そして、世界をも救う事叶うだろう”
――ですワ? 」
「その……私にも分かる様に説明して貰えるかな? 」
「ええ、要するに……死者との会話が出来る力なのですワ? 」
「簡単には成ったけど今度は端折り過ぎてない?
最後の“世界をも救う”って所も詳しく説明してよ」
「そうですわネ……簡単に言えば
死者の魂と会話出来た時、その魂が持っている知識や力を……ともすれば
世界から失われてしまった知識すら得られるのですから
文字通り“世界をも救う事叶うだろう” って事に成るのですワ♪ 」
「成程……その力を主人公っちが持ってるって事で合ってる? 」
「ええ! ……その通りですワ♪ 」
<――そうリーアが返事をした
瞬間――>
「なら二人と話をさせて! ……お願いっ!!! 」
<――凄まじい勢いで振り返るや否や俺に頭を下げたエリシアさん。
だったのだが――>
「いっ!? いやその……自由に話せるって訳でも無くて……」
「でも……たった今師匠の言葉を伝えてくれたじゃん!!
私にやり方は分かんないけど
何か力を込めるとか頑張ってみたら出来るかもしれないでしょ?!
……お願い、一言でも良いから話したいの。
だから……」
「が、頑張ってはみますけど……」
<――そう言って意識を集中しようした瞬間
これまた凄まじい勢いでリーアに制止された俺。
そして……突然の事に驚く俺を余所に
リーアは――>
………
……
…
「エリシアさん、気持ちはお察ししますワ?
だけれど……この力は特異な力。
……力を得たばかりの者が無理をすれば
良からぬ結果を招く事も有り得るのですワ? 」
「そうだったんだ……ごめん、主人公っち……」
「い、いえいえ! ……俺がもっとこの力を操れる様になったら
幾らでも話せる様に頑張りますから! 」
「うん……ありがと」
<――聞く限り
直ぐに役には立てそうに無い力では有る様だが
少なくとも、エリシアさんの心の希望には成れた気がした。
“早く自由に力を発揮出来る様に成りたい! ”
……そう思っていた俺のすぐ近くで
魔王が何か言いたげな表情を浮かべていた気がした。
だが……その事を訊ねようと思い話し掛けようとした瞬間
魔王が明らかに話を逸らし――>
………
……
…
「ヴィンセント……久々に聞いた名だが、あの者は剛気であった。
貴様も見習うが良い……主人公よ」
「えっ? ……それは勿論だけど
さっき何か言いたげだったのってもしかして……」
<――と、諦めず
再び訊ねようとした俺に対し魔王は――>
「貴様の妙な勘の鋭さは称賛に値するが
我は未だ完全に貴様を信用した訳では無い……
……我の“腹を探る”事に執心する暇があるのならば
我を裏切り雲隠れした奴を見つけ出す事こそ先決では無いのか? 」
「そ、それもそうだね……ごめん」
<――俺が聞きたかった質問の内容を何となく理解していたのだろう。
俺の見た魔王の記憶の欠片……ある“別れ”の記憶。
凄まじい気迫を込め俺を威圧した位には
魔王に取って触れられたく無い記憶だったのだろうが……
……正直、すっげぇ怖かった。
ともあれ……この後、ライドウに関する情報を纏める為
引き続き話し合う事と成ったのだが……話を続ける中で
マリーナさんが話してくれた情報に、俺達は更に驚かされる事と成った――>
………
……
…
「……彼と私が例の研究所に在籍していた時
あの研究所は二冊の“ある特殊な本”を有しており
それらを元に様々な研究をしていたのです。
そして、その二冊ともが……恐らく、先程エリシアさんのお話の中に
幾度と無く出てきた“本”と同じ力の流れを組む本である。
……そう断言して良い程の力を有していた様に思います。
ですが……ある“騒ぎ”が起きた日
彼は研究所から忽然と姿を消し……同時に
その内の一冊も消え去ったのです」
「えっと……“その本”って相当重要な物ですよね?
だとするなら、研究所は大騒ぎに成って……
……あっと言う間にライドウは捕まる筈では? 」
「ええ……本来なら主人公さんの仰られる通りでしょう。
……ですが、彼が持ち去ったと思われる“本”の内容を実現する為には
規格外の魔導力が必要だった事もあり
実現出来た者は今まで誰一人として居らず
……万が一実現させる事が出来るとするならば、もう一冊の本で
“生み出した方々”の力を使わなければ“不可能である”と思われていた事
そして、その本の持つ力自体があまり重要視されていなかった事
……その上、先程もご説明した
ある“騒ぎ”の解決が最優先事項と成った為に
彼の捜索が後回しと成ってしまったのではと思います」
<――マリーナさんの話を聞いていて思い出した。
ディーン達があの研究所から逃げた日の話。
……恐らくだが
マリーナさんの言う“騒ぎ”の原因がそれだと踏んだ俺は――>
「……もしかしてとは思いますけど“ある騒ぎ”って
ディーン達が脱出した日の事ですか? 」
<――そう訊ねた。
だが……この直後
マリーナさんから予想外の返答が返って来た――>
………
……
…
「いいえ……あの時の騒ぎは当時、第三研究室で研究中であったと言う
“ある個体”が脱走した件でしたから……ただ、それとは別に
当時“四番”と呼ばれていた少女を救う為……そして
彼女がこれ以上酷い経験をせずに済む様……
……彼女の改造を命じられていた研究員の手助けとして
私の持つこの“本”の力を研究員にも秘密で使った事は認めます」
<――そう言いながら
机の上にある“本”を置いたマリーナさん。
……間違いない、これは“裏技之書”だ。
表紙には“天秤宮之書”と書かれているが
そんな事より――>
「あ、あの……それが例の本だとしたら
実はマリーナさんが研究所から持ち出したって事じゃ……」
「いえ、これは私が元々持っていた物……ですが
この本の力をあの研究所で幾度か使用した事は認めます」
「そう……ですか、ではその本の能力とは? 」
「この本の持つ力……それは
“あらゆる事象の均衡を取る”事なのです。
……過去、娘や主人公さん達に対し
“決して美しくない方法”とお話した技術の名称は
“血液混成法”……この技術もこの本の力を元にしているのですが
私があの研究所に欲していた技術は、私自身が“不完全な状態”で
血液混成法を適用した魔族個体で有ったからです。
それ故……当時の私は、その“不完全さ”を解決する為の技術を
あの研究所が有しているのでは無いかと考え
不完全さを解決する為に研究員と成りました。
でも……結果はこの通り
私は只あの研究機関に利用されていただけでした。
ですが……その事に気付くまでの間にどれ程の
犠牲者を生み出してしまったのか……考えただけでも悍ましい。
……もしも時を戻せるならば、あの時の私を全力で止める事でしょう」
<――そうして、全てを話し終えたマリーナさんは
とても居心地が悪そうだった――>
………
……
…
「……この事実を話す事には相当な勇気が必要だったと思います。
全て話して下さった事……感謝します」
「いえ……これでも遅過ぎたと感じている程です」
「仮にそうだとしても……感謝しています」
<――そうお礼を言った俺のすぐ近くで
エリシアさんはある疑問を持っていた様で――>
「まぁ……人生いろいろ有るんだろうし
話してくれた事に感謝は同意だけど……一個だけ聞いていいかな? 」
「はい……知りうる限りの事ならお答えします」
「……んじゃ聞くけど。
ライドウは元々、私と同じ攻撃術師だったんだけど……
……明らかに“トライスター化”してたよね?
彼奴と研究機関で一緒だった時は“どっち”だったの? 」
「……私が研究機関に在籍していた時
あの方は既にトライスターであったと記憶しています」
「……そっか、一体どんな手を使ったかまでは知らないの? 」
「ええ……お役に立てず申し訳有りません」
<――と、申し訳無さそうに頭を下げたマリーナさんだったが
突如として、張り詰めた執務室に響き渡る程の声を挙げ
この静寂を打ち破った一人の男が居た――>
………
……
…
「……分かったぞ!!
だから彼はあんなに“歪”な装備をしているんだね! 」
<――そう叫んだのはムスタファさんだった。
てか“歪な装備”ってどう言う事だ?
気になったので訊ねてみると――>
「恐らくですが……彼の持っている本は
何か特殊な武器や装備を作り出す力を有していて、その力を悪用し
半ば強引に自らをトライスターに
“作り変えた”のではと睨んでいるのです。
何故なら、本来……トライスターの装備からは
必ず僅かにでも感じられる筈の純粋な“強烈さ”が
あの装備からは一切感じられなかった。
……ですから、本来なら有り得ない
言わば“歪な”方法で力を手に入れたのだろう。
そう……思っていたのです! 」
「な、成程……」
<――ムスタファさんの考察に感心しつつ、俺はある事を考えていた。
特殊な武器や装備を作り出す能力……仮にそれが事実だとしたならば
王国の兵達が“武器の力に飲まれ暴走した”ってのも説明がつくし
前にマリアが遭遇したと言っていた
“魔族を喰う武器”を扱ってたと言う子供の話にも関連がある可能性。
そして更に言えば、俺の持つ“魔導之大剣”……
……これも中々にイカれた武器である事。
もし本当にそうだったら嫌だが……これも
奴が作った武器だったりするのだろうか?
色々と考え過ぎてかなり不気味に思えて来た。
だがそんな時、魔王は突如として俺に対し――>
………
……
…
「フッ……貴様の懐にもそれと同じ流れを組む物があると見える」
「な……何故それを?! 」
<――驚きのあまりそうは言ったが、瞬時に理解した。
魔王も俺の記憶の断片を見てるって事は
受け取った時の記憶すら見ていたのだろう、と――>
「こ、これは……シゲシゲさんから“平和的な利用の為”
って約束で譲り受けた物だから、断じて危ない事には使わないぞ?!
もしライドウって男を見つけるとか倒すとかに役立つなら兎も角だけど!
……とは言ったものの、もしかしたらこの使い方でも
約束を破るって事に成ったり……」
「フッ……皆に“全て話せ”と命じておきながら
貴様はその本についての一切を話さぬとはな」
<――ぐうの音も出ない程の正論を叩きつけられた。
勿論話すべきでは有るのだが……
……誰にも話さないと約束しておきながら
早速その約束を反故にするのは如何な物なのだろうか。
でも、魔王がバラしたんだから俺は悪くないよな?
……うん! 絶対に悪くないッ!
と、自分に言い聞かせてみたものの
凄まじい罪悪感を感じずには居られなかった。
だが話すしか無い状況だし……嗚呼
色々と胃が痛い――>
………
……
…
「その……さ。
“記憶にある物なら作れる”……って説明で勘弁して貰えないかな?
俺もこの本に関してはまだ何一つ試せてないし、そもそも俺は
俺の知識に残る“故郷”の物を生み出す為に使いたかっただけだし
何れにしても詳しい事は全く分かってないから
これ以上の説明は難しいんだ、それと……」
<――と、説明していたら
かなり不機嫌そうな表情を浮かべたガンダルフ。
てっきり、この本の存在を秘密にしていた事を不愉快に思ったのかと思い
慌てて謝った俺、だが――>
………
……
…
「……違うわいっ!!
御主が念じるだけでどの様な物でも造れてしまうのであれば
わしの技術が要らぬと言われた様で些か不愉快だっただけじゃ! 」
「えっ? ……そんな訳無いでしょ?! 」
<――と、フォローしつつ
若干だけどガンダルフの事を“可愛い”と思ってしまった
あと……俺と“同意見”っぽい皆も
この会話を微笑ましい様子で見ていた。
ともあれ、そんな平和な時間が暫く続いた後――>
………
……
…
「……兎に角、そう言う事ならば
政令国家には現在、主人公殿とマリーナ殿の二冊が有り
あの者は一冊を持っていると言う事で良いのじゃな? 」
<――と、確認を取ったラウドさん。
だが――>
「違う……彼奴は私と師匠を裏切る前から一冊持ってたし
その所為で王国は大打撃を受けたんだ。
……師匠の技を受けて死んだ筈の彼奴が
マリーナの居た研究所から一冊奪って行ったってのが本当なら
彼奴は今、少なくとも……ニ冊持ってるって事になる筈」
<――エリシアさんは
拳を握りながら静かにそう言った――>
===第一〇九話・終===