第一〇七話「手を取り合えば楽勝ですか? ……前編」
<――俺の要求を飲む代わりに魔王から提案されたある“呪い”
“魂之割譲”を受け入れた俺は
精神世界の中で、魔王からその呪いの“効果”を聞かされていた――>
………
……
…
「諦めの悪い貴様が斯くも足掻き謳い続ける――
“我ら魔族と人間共が共に手を取り合い生きる”
――などと謂う馬鹿げた微温い理想論を受け入れる事など
貴様がどれほど懇願しようとも決して有り得ぬ事……だが
貴様はその微温い考えとは裏腹に
考えを曲げる柔軟さを毛程も持ち合わせて居らぬ。
……故に、我は貴様に要求する」
「……何が望みだ? 」
「貴様はその“格”に見合わぬ常軌を逸した魔導力を有している。
とは言え、経験不足が故に我を打ち倒す事……叶わなかったがな」
「冷静な分析ありがとな……ただ、さっきも言ったけど
……疲労困憊な上に寝てないんだから仕方ないだろ? 」
「フッ……貴様の些末な自尊心など知らぬが
貴様の存在が無ければ、政令国家を滅亡させるも容易と謂う事。
故に……この国の“急所”とも呼べる貴様の力を
我が管理下に置く事こそが唯一の答えと謂えよう」
「そ……それって“俺の自由を奪う”って事か? 」
「ある意味ではな……だがそうでは無い
我は貴様を筆頭に、人間族の様な下等生物を信用するつもりなど毛頭無い。
故に……この呪いを受け入れる事を以てのみ
貴様を“爪の先”程には信用してやろうと謂っているのだ……」
<――そうして説明されたのが
“魂之割譲”って呪いだった。
魔王の説明を聞く限り、転生前の世界で言う
核保有国同士の所謂――
“相互破壊確証”
――って奴に似てる呪いだと分かった。
だが、約束を破ったら“即死級の攻撃が降ってくる”って訳では無いらしく
相手が取り決めを破った場合
問答無用でその者の持つ力を全て奪うって事らしい。
正直怖過ぎるが……それでも、解決策はこれより他に無いと感じた俺は
暫く考えた後、これを承諾した。
だが……にも関わらず、魔王に怪訝な顔をされた。
“言い分が通ったのに何故だろう? ”
……そう考えていた俺だったが
どうやら、この空間ではその呪いを“発動させる”事すらも
攻撃とみなされてしまう様で――>
………
……
…
「全く……不愉快な」
<――かなり不機嫌な様子の魔王はただ一言そう言った。
だが、ならどうやってこの空間から脱出するのだろう?
そう悩んでいた、その時――>
………
……
…
「……ムスタファと名乗ったあの男。
奴は我らに対し“話し合いで解決”と宣った。
成ればもしや――」
<――そう言うと凄まじく嫌そうに手を差し出した魔王。
……ん?
何処からどう見ても握手を求めて来ている様に見えるのだが――>
………
……
…
「そっか!! ……話し合いが円満に終わったら握手するよな!! 」
「物は試しと言うだけの事……握るが良い」
<――もの凄く嫌そうにそう言われた事に少しだけ傷つきつつも
急いで魔王の手を握った瞬間、この場所から脱出する事が出来た俺達。
だが――>
………
……
…
「魔王、早速取り決めを実行……」
<――脱出直後そう話し掛けた俺。
だが、魔王は俺に背を向け――>
「成程……取り決めを実行せぬ限りそれ以外の行動を取れぬ様
脱出後も何かしらの術が掛かっているか……
……抜かりの無い技の様だな、ムスタファとやら」
「当たり前さ……精神世界での取り決めは“絶対”だ。
私の手を離れた後もその効力は続くし……尚も抗う様なら
貴方程の存在であっても瞬時に命を失う程の
凄まじい“力”が動いていると理解して欲しい……
……たった今も相当に苦しかった筈さ」
「フッ……元より抗うつもりなど無い
狡猾な技を有する物だと感心していたに過ぎぬわ。
さて、小僧……指を出すが良い」
「えっと……危うく俺は騙し討ちでも食らう所だったのか? 」
「黙れ……我に二度同じ台詞を吐かせるな」
「なっ?! ……お、脅したって駄目だからな?!
お前が今、何をしようとしていたのか説明するまで……」
「フッ……我に斯様な口を聞き、無事で居られる幸運を噛み締めるが良い。
だが、貴様如きの邪推する姑息な企てなど
我の命に掛けしておらぬと宣言してやろう。
それとも……まだ不服か? “小僧”」
「わ、分かったよ! ……じ、じゃあ
家に忘れ物でも取りに帰ろうとしたって事にしておくよ! 」
「ほう……中々に良い勘をしている」
「……えっ? 」
<――ともあれ。
魔王に指を出せと言われたので、その通りに指を差し出した
瞬間――>
………
……
…
「えっと、その……映画の再現か何かかな? 」
「映画とは何だ? ……“道化”は忘れ今は指先に意識を集中せよ」
「あ、あぁ……」
<――俺は、魔王に言われるがままに
“某宇宙人との友好の証”みたいな“ポーズ”を取らされていた。
……何だか色々と不味い様な気がするんだが
どうもコレが“魂之割譲”に必要な儀式らしい。
兎にも角にも……呪いと言うにはえらく平和な姿だと感じていた俺だったのだが
暫くすると、そうも言ってられない状況に変わり始めた。
……突如として俺の頭の中に
魔王が今まで経験して来たであろう記憶の断片が次々と入って来始めた。
恐ろしい記憶が殆どだけど、これは……オセロ?!
正直……唐突なオセロの登場に少し驚いていた俺だったが
同時に、とても重要な事に気がついてしまった。
魔王から記憶の断片が飛んで来てるって事は
俺の経験の断片も、魔王に“見られてる”って事じゃ――>
………
……
…
「フッ……女子の乳房に触れた程度で“反応”するとは
随分と初心な事だな……」
「やっぱり見られてたァァァァッ!!! ……」
<――不幸中の幸いだが、メルが傍に居なくて良かった。
とは言え……その代わりと言わんばかりに
エリシアさんの笑い声が辺り一帯に響き渡った。
ともあれ……なんやかんやで儀式は終わったし
今の所何処にも異変は無い。
……まぁ、ある意味“精神的に堪える”物はあったが。
けど、そんな事よりも……魔王から流れ込んできた記憶の断片には
色々と考えさせられる部分があった。
戦いの記憶……殺戮の記憶、そして――
“別れの記憶”
――とは言え、今記憶について詳しく訊ねる事は
“お互い”に地雷な行動と感じるし、少なくとも
もう少し仲良くなってからかな?
……などと若干モヤモヤして居た俺の直ぐ横で
配下の魔族達に向け一際大きな声を挙げた魔王――>
………
……
…
「我が配下の者共よ……今この時を以て、政令国家――
――並びに、政令国家に属する全ての国々と
其処に生ける全ての者共に対する如何なる攻撃をも禁ずる。
これを飲めぬ者は速やかに隊列より離れ――
――我の指し示す場所へ立つが良い」
<――魔王がそう言い放った瞬間、明らかに魔族達に緊張が走った。
だが、暫くの後――>
………
……
…
「フッ……成程」
<――俺の横でそう一言だけ発した魔王。
だが、俺なら心が折れていただろう……魔王の決定を不服と感じた魔族達は
“少なからず”なんて生易しい数じゃ無かった。
何せ“全体の約半数”が魔王の指し示した場所へと移動したのだから――>
………
……
…
「不愉快な……だが、我に異を唱えた者共に対してでは無い」
<――そう言うと魔王は俺の顔を見た。
“何かしら文句を言われるのだろうか? ”
そう考えていた俺に対し――>
………
……
…
「小僧……貴様に一つ要求がある」
「な……何だ? 」
「……奴らがあの場所へと移動した瞬間
奴らは我と貴様に対する“敵対者”と成る事を選んだ。
故に……我は奴らを“処分”せねばならん
だが、この件に対し如何なる不服も唱えぬと我に誓え。
……良いな? 」
<――と、凄まじい気迫を放ちながらそう言った魔王。
と言うか、一見すればかなり横暴とも思える要求だったが
俺は……条件を一つだけ付け加え
全面的に魔王の要求を飲む事にした――>
………
……
…
「なら、さっきお前が宣言した――
“政令国家に属する全ての国々と
其処に生ける全ての者共に対する如何なる攻撃をも禁ずる”
――って項目を破らない“処分”なら
どんな残酷な行為でも、今回に限って目を瞑ると約束する。
けどやっぱり……魔族の王ってのもキツい立場なんだな」
「フッ……要らぬ世話よ」
<――言うや否や
魔王は“敵対者”と成った魔族達の方を向き――>
………
……
…
「たった今……貴様らは我の決定に異を唱えた。
成れば――」
<――そう発するや否や
天高く振り上げた手に力を込めた魔王……その直後
魔王の掌には何やら禍々しい力が集まり始めた。
と同時に、周囲から魔物達の鳴き声が聞こえ始めた……相当に不気味だ。
だが……そんな事を考えていた俺の直ぐ近くで
魔王は禍々しい力を尚も“凝縮”させ続けていた。
……正直、幾ら“目を瞑る”と約束したとは言え
流石に少しばかり恐ろしさを感じ始めていたその時
魔王は“裏切り者”とも取れる魔族達にその掌を差し向け
禍々しい力を放った――>
………
……
…
「これで……貴様らと我を繋ぐ糸は潰えた。
何処へでも向かうが良い、我が城も貴様らにくれてやろう。
だが……貴様らは今この時を以て我の敵対者と成った
故に……軽々しく我の前へ現れる事など無き様、肝に銘じよ」
<――俺は、勘違いしていた。
魔王の行動は、俺のちっぽけな予想など遥かに超越していた。
魔王は……彼らを繋ぎ止める“力”を完全に放棄し
彼らを全面的に開放したのだ。
そして……この“決して簡単では無い”決断を間近で見ていた俺は
魔王に対し何か優しい言葉を掛けるべきかと頭を悩ませていた。
すると――>
………
……
…
「小僧……貴様からすればこの処分、大層不服であろう。
だが、奴らからすれば約束を違えたのは我である……故に
去りゆく奴らの背に……追撃など考えるで無いぞ」
<――モヤモヤとした考えが顔に出ていたのかは知らないが
魔王は少し勘違いした様子で、そう念を押して来た――>
「分かってる……そんな事はしないし、誰にもさせないって約束するよ」
<――そう約束した瞬間、俺の目をじっと見つめた魔王。
だが、正直……魔王に信頼して貰えたかどうかなんて事より
何一つとして優しい言葉を掛けられない事に少し不甲斐無さを感じていた。
最初から今までずっと、自分が不甲斐無い。
そんな事を考えていたその時――>
………
……
…
「本当に話し合いで解決してしまうとは……流石は主人公様だ!
……爺や! 主人公様は私が話した通りの素敵な御仁だったでしょ!? 」
「ええ、凄まじい胆力をお持ちの御方で御座いますね……」
<――魔王との話し合いに一つの決着がついた時
ムスタファさんは俺の知ってるいつもの“ほんわか”とした雰囲気に戻り
ちょっと照れくさくなる程に俺の事を褒め称えてくれて居た。
その一方、魔王はある人物を探して居た様で――>
「時に、貴様らに訊ねるが……ライドウは何処に居る? 」
<――魔王がそう訊ねた瞬間
エリシアさんは拳を握り締めながら――>
「彼奴なら逃げたよ?
魔族……特に魔王に“付き合ってられない”って捨て台詞吐いてね。
と言うか、何時も彼奴はそうだった
一番嫌なタイミングで一番嫌な選択をする奴だったんだよ……」
「成程……同族を裏切る程の“逸材”である奴に取って
我を裏切る程度造作も無いと謂うか……不愉快な」
「それについては同意見だけど……一つ質問してもいいかな魔王さん? 」
「申してみよ……人間族の娘」
「人間族の娘って……それじゃ長いから、今後私の事はエリシアって呼んで?
てか……私も相当に“不愉快”だから素直に答えて欲しいんだけど
彼奴が逃げた先に心当たりとか無いの? 」
「無いとは謂わぬ……だが。
我ら魔族繁栄の為と宣い、奴が差し出したあの森……
……我ら魔族に取って尽きる事の無い
食料足り得る“悪鬼共”を無尽蔵に生み出す“あの森”へ
咄嗟とは言え逃げ込む程に愚かであれば
彼奴は早々に御主との勝負に敗れていたと思うがな」
「なぁ~んか……ムカつく返しだけどその通りかもね。
けど、そんな場所があるなら一度確認しておかないと駄目だし
何れにせよその場所へ案内してくれるかな? 」
「良かろう……だが、貴様ら人間族があの場所を訪れ
無事で居られる保証など無いぞ? 」
「……なら魔王が私達の事を全力で守ってよ。
てか……放置するのも不味そうな場所なら
人間族としては確認しておかないと駄目なの分かってる?
……良いから早く案内してよ」
<――ずっと横で見ていて薄々感じては居たが
エリシアさんが再び尋常じゃない位ブチ切れてる。
……魔王に対してこんなに横柄な態度で命令出来るのは
後にも先にも“この状態”のエリシアさん位だろう。
そしてその一方……魔王はかなり不満そうな表情を浮かべつつも
転移魔導の準備を始め――>
………
……
…
「我の手を取れ、エリシアとやら」
<――と“不満顔”のままそう言った。
そして、そんな魔王の手を……これまた無愛想な態度で掴んだエリシアさん。
うん、何だかこのまま二人だけにすると
“喧嘩”って呼ぶのも生温い展開に成りかねない気がする。
そう考えた俺は慌てて同行を希望した、すると――>
「……ならば私と爺やも同行しましょう! 」
<――と、更にムスタファさんと爺やさんも同行する事に成ったのだが
この瞬間、余計に魔王が不機嫌に成った気がしたのは気の所為だろうか?
ともあれ……魔王の手に掴まった俺達は
魔王の説明した“悪鬼とやらが湧く森”へと転移した。
“筈”だった――>
………
……
…
「何だと……」
<――そう一言発した魔王、俺も同意見だ。
魔王の説明から察するに、かなり禍々しい森を想像していたのだが――>
「ねぇ魔王……此処の何処が森なの? 」
<――エリシアさんは酷く警戒した様子でそう訊ねた。
……当然だ。
俺達の眼前に広がった光景、それが――
――見渡す限り砂だらけで
雑草一本すら生えていない砂漠の様な光景だったからだ――>
「解せぬ……我は確かにあの森へと転移した筈」
<――魔王がそう言った瞬間、思い出した。
俺が“例の問題”で牢に入れられ釈放された後
政令国家の皆にお礼を言って回っていたあの時
転移先である“旧オーク族の居住区”が“もぬけの殻”で
マリアにすっげぇバカにされた事を……そして
転移場所が正しくても、その場所に棲む動植物が移動していれば
“こう”成るであろう事を――>
………
……
…
「……もしかしてだけど
その悪鬼とか言う奴らが生まれる森って移動出来る様な作りなのか?
って聞いてて思ったんだが、森がまるごと移動って……可能なのか? 」
<――魔王に対しそう質問した俺だったが
魔王の代わりにある意味明確な答えを出したのは
リーアだった――>
「……森が移動など出来る筈がありませんワ?
だけれど……此処はそもそもが“オカシイ”のですワ? 」
「えっと……詳しく説明してくれるかい? 」
「ええ……本来ならばこの様な砂漠地帯であっても
ごく僅かな草花が生えていたり、虫や動物が存在していたり
地下深くに水脈が有ったりと……それなりに生命力らしき何かがあるのですワ?
ですが、此処にはそれらしき力がまるで“無い”
言う成れば“無”の空間と呼ぶべき程に何も“無い”のですワ? 」
「一応聞くけど……それは本来有り得ないって事だよな? 」
「ええ……少なくとも、其処に居る魔族の王が転移を間違えたり
嘘をついたりしている訳では無い様ですワ? 」
<――魔王を横目に少し険のある言い方でそう答えたリーア。
一方の魔王はと言うと、眉間にシワを寄せ何かを考えている様子だったが
そんな事よりも俺は、エリシアさんの“様子”が心配だった――>
………
……
…
「……エリシアさん、色々思う所があるのも理解します。
でも……今は取り敢えず政令国家に帰りませんか?
そ何て言うかそ、その“手”も早く直したいですし……」
<――俺が感じ取る事の出来ていた
エリシアさんの怒りなど本当に極僅かなのだと思った。
きっとその何千倍もエリシアさんは我慢していたのだろう。
エリシアさんがずっと握り締めていた手からは血が滴って居たし
その傷を痛いとも思わない程、心が苦しめられているのだと分かったから――>
………
……
…
「……気を使わせてごめんね主人公っち
取り敢えずこんな場所に居ても仕方ないし……戻ろっか」
「はい! では帰りは俺が――」
<――そう言った瞬間
ムスタファさんは俺を遮り――>
「主人公様も疲れてる様に見えますし、此処は私が! 」
<――うん、何だか気を使わせてしまったみたいだ。
ともあれ……俺達は一度政令国家へと帰還し
魔王やムスタファさんらと共に大統領執務室へと集まり
話し合いをする事と成った。
の、だが――>
………
……
…
「取り敢えず一番に聞きたいのは……何で彼奴が生きてるの?
魔王が何らかの術を使って生き返らせたとか?
まぁ、だとしたら……相当悪手だったって思うけど? 」
<――相変わらずエリシアさんの魔王に対する“当たり”が強い
けど、そんな事など意に介さない様子の魔王は
エリシアさんに対し――>
「エリシアとやら……どれ程我に噛み付いた所で知らぬ事は答えられぬ。
だが……我が奴を拾い上げた時には既に、同族である人間に対する
“憎悪”の様な物を持ち合わせていた事だけは確かだ」
「……そっか。
んじゃもう一つ聞くけど……何処で彼奴を拾ったの?
そもそも彼奴は、政令国家がまだ王国って名乗ってた時
この国の領土内で私の師匠が命を掛けて倒した筈だよ? 」
「……そちらの詳しい事情など知らぬが
我が奴を拾い上げたのは……アール池の畔であった筈」
<――魔王がそう言った瞬間
何故かマリーナさんが妙な反応をした様に見え――>
「えっと……マリーナさん
何か知ってるのならどんな情報でも構いませんから……」
<――思い切ってそう訊ねた俺に対し
マリーナさんは心苦しそうな表情を浮かべた後、ある昔話を始めた――>
………
……
…
「……私はその昔、アール池にほど近い
とある国の研究機関と深い繋がりが有りました。
その“とある国”が抱える研究機関には――
“確かに倒した筈の兵が翌日何事もなかったかの様に戦っていた”
“顔が同じ兵士が何人も居た”
――等と言う、他のどの国にも見られない奇妙な噂が立っていたのです。
そして、当時の私はその研究機関の持つ謎の技術に依って
私の抱える“ある問題”を解決出来るのでは無いかと考えたのです。
ですが……技術提供を受ける為には
私自身も持てる技術を提供する必要があり、その為
私はあの研究機関に少しの期間在籍していたのですが……」
<――其処まで聞いた瞬間、俺は全てを察した。
マリーナさんは……ディーン達を改造した
あの“ロミエル法王国”の研究機関に在籍していたのだと――>
………
……
…
「成程……正直マリーナさんが“あの国”の研究機関で知りたかったと言う
技術の正体もお聞きしたい所ですが……そんな事よりも。
……アール池と聞いた瞬間、何故それ程までに
“ギョッ”とした表情をしたのか……俺はそれを聞きたいんです。
もしマリーナさんの過去に何らかの大きな過ちがあったとしても
今それを責めたい訳じゃない……お願いします。
……知りうる限りの情報を全て話して下さい」
<――マリーナさんに対しそう告げ、頭を下げた俺
何故か彼女の過去に今回の問題に関する解決の糸口が有る様に思えたから。
……そして、この考えは当たっていた。
マリーナさんの口から出た情報、それは――>
===第一〇七話・終===