第一〇四話「守り切るのは楽勝ですか? 」
<――バルン村の村人達から煽られ……いや。
“祈りを捧げられた”俺だったが
取り敢えず今はそんな事を気にしている暇なんて無い。
俺は、恥ずかしいとか若干イラついたとか……そんな事よりも
彼らを安全な場所で保護する事が先決だと考え、避難所へと向かわせた。
……のは良いのだが、村人の避難誘導中
ずーっと俺の後ろでクスクス笑ってた大臣達に
後で信じられない程イジられそうな気がするのだけはすっげぇ嫌だった。
嫌だが……そんな彼らを失う事の方が何倍も嫌だった。
……絶対にもう二度と誰一人として失ったりしない
そう強く心に決め、避難誘導を行っていた俺の脳裏にある疑問が浮かんだ。
“バルン村が無人の場合、魔族共がバルン村を襲う事も無い”
で、あれば戻す前の時間よりも遥かに早く襲来するかも知れないのか?
と言うか、もし仮にそうなってしまった場合
転移してくる場所自体が変わる可能性があるのだろうか?
仮にそうなってしまった場合、一体どう対処すればいいのだろうか。
……どれだけ悩んだ所で全く考えが纏まらなかったし
色々と不甲斐無いのだが、今俺に出来る事は
俺が見たのと同じ場所に魔族共が転移してくるのを祈る事。
そして一気に……欠片も残さない程
奴らを全力で叩き潰す事――>
………
……
…
「魔導隊の皆さんはもう少し間隔を狭めて下さい! 後は確か……」
<――恐らく、後一時間足らずで第二城前に魔族共が来る。
俺は……その規模と配置を必死に思い出しつつ
迎撃体制に一部の隙も出ない様、出来る限り完璧な配置を生み出す為
必死で策を練っていた……だが。
唯でさえ疲労困憊の状態に“戻された”挙げ句
兵の配置とか正直かなりキツい……と言うか
転生前に遊んでいたゲームの中でも
“戦略シミュレーション系”は特に苦手過ぎて
基本的に“投げてた”ジャンルだった事を思い出した。
それこそ、オセロみたいに挟めば裏返る
そんな単純なパワーバランスならこれ程苦労はしないのだろうか?
いや……違う。
全て俺の判断に掛かってる上に
リセットも、リスタートも、コンテニューも存在しない。
皆の命を俺の判断が左右し……間違えれば誰かが死ぬ。
もう戻す事も出来ない。
俺は、必死に最適解を探していた――>
………
……
…
「……物理職の皆さんは良いと言うまで前に出ず、後方支援をお願いします!
良いと言うまで絶対に敵に接近しない様……」
《――尚も必死に陣頭指揮を取り続けて居た主人公。
一方で、第二城の兵舎裏へと静かに隠れた魔導兵が一人
彼は周囲を警戒しつつ、秘密裏に何処かへと連絡を取り始めて居た――》
………
……
…
「……夜分遅くに大変申し訳ありません。
ですが、緊急事態と言うべき状況をお伝えするべく……」
「待った……余程の事態でなければ流石に怒るよ? 」
「い、いえッ! それがその……
……アルバート様が監視対象にと仰られた主人公と言う男が
突如として政令国家本国から大量の兵士と大臣を引き連れ
我々の管理している第二城前へ現れたかと思うと――
“間も無く魔族軍が此処に攻めてくる”
――そう話し、我々を含めた全兵員を
防衛戦の準備に借り出しておりまして、一度ご報告をと……」
「……ほう?
もしも彼が帰ってきたら必ず“直ぐに”
連絡を寄越す様にって言った筈だったよね? 」
「い、いえ……突如として帰国した様でして……」
「ほう、こんな深夜にかね? ……彼の様子はどの様な具合かな? 」
「……体調が優れないのか、時折立ちくらみの様な症状が見られますが
必死に陣頭指揮をとっております……ただ
……兵の配置に関し、理解出来ない言動を発しているのです」
「理解出来ないだって? ……どう言う事かな? 」
「それが……まるで“未来予知”でも出来るかの様に
魔族だけではなく物理攻撃が意味を為さない化け物までも現れるのだと話し
その上、それらが必ず指定の場所へ現れると説明しており……」
「ん? ……“必ず指定の場所に現れる”だと?
まさかとは思うが……彼は“あの技”を使用したのかな? 」
「あの技……でございますか? それは一体どの様な……」
「いや、此方の話だ……君が知る必要は無い。
……取り敢えず、君達は政令国家が不利な状況に陥った場合
直ちに協力を止め、全隊帰国する事。
……仮に有利であろうとも防衛協力は最低限度で構わない」
「そ、その様な事本当に……宜しいので? 」
「ん? ……君達は“誰に”仕えているんだったかな? 」
「……し、失礼致しましたッ!! 」
「理解したなら許そう……さて、余り話し込んでも怪しまれるだろう。
“予知夢の防衛”に戻りたまえ」
「……ハッ! 」
《――通信終了後、何事も無かったかの様に
自らの隊へと戻って行ったメリカーノア出身の魔導兵。
一方、漸く兵の配置を終えた主人公は
彼の考える完璧な布陣の先頭に立ち
魔王軍の現れる予定地点を、瞬きすら忘れ注視し続けていた――》
………
……
…
<――現在の正確な時間が分からないが
予定通りなら三〇分もすれば一斉に転移してくる筈。
……けど、バルン村がもぬけの殻である事に敵方のトライスターが
何かしらの違和感を感じて警戒し
もし場所を変えて転移でもされてしまったら……くそッ!!
またマイナス思考が頭の中をグルグルと……
……常日頃から皆に俺の“悪い癖”だって指摘され続けてるし
直さなきゃとは思ってるが、不安な物は不安だ……頼む。
……神様が居るなら頼むから、魔族共を
“後進復帰前”と全く同じ場所に出現させてくれッッ!! ――>
………
……
…
<――そう、必死で願い続けた俺の祈りが通じたのか
予定通りの場所へと転移して来た大量の魔族共。
俺は――
其の場所を目掛け、一心不乱に
――力の限りに
攻撃を放ち続けた――>
………
……
…
《――主人公の攻撃を皮切りに
政令国家に属する全ての者達は皆自らの全力を以て
過剰とも言える攻撃を放ち続けた――
――地は抉れ、遥か上空まで舞い上がった土煙
消し炭すら残らぬ程の過剰な攻撃を受け続けた
“予定地点”
政令国家陣営は魔族軍に反撃の一手すら与えず
彼らを完膚無きまでに叩き潰した。
かに、見えた――》
………
……
…
「何故……待ち構えられて居た? 」
《――怒りに満ちた表情を浮かべつつ、そう訊ねた魔王
怒りの矛先はライドウへと向けられていた様だが――》
「……私にも理解不能で御座います。
それよりも……配下の方々を完全には守りきれず、誠に申し訳ございません」
《――そう言いつつ
深々と頭を下げたライドウ――》
「……貴様の手腕は認めている。
だが……悪鬼共は全滅か」
《――遥か遠く
未だ土煙の収まらぬ“予定地点”へと眼を向けそう言った魔王
……だが、間違い無く全軍“予定地点”へと現れて居た筈の彼らが
無事で居られた理由は一体何であったのか――》
………
……
…
「ええ……ですが、あの森でならば悪鬼など幾らでも生成されます。
……魔王様を含め、魔族の方々が多数生き残られた事こそが
恐れながら……不幸中の幸いかと存じます」
「何故奴らが待ち構えて居たかについて貴様も本心から知らぬか。
ならば一先ず……良くやったと褒めておこう」
「有難き幸せで御座います」
《――そう言うと魔王に対し深々と頭を下げたライドウ。
彼は……咄嗟に固有魔導を発動し
悪鬼共を一種の“的”として敢えて“予定地点”へと放置
……その後
可能な限りの魔族を自らの防衛魔導の内側に“閉じ込め”
防衛魔導内の全てに転移魔導を適用し“予定地点”を脱出していたのだ――》
………
……
…
《――その一方
土煙の収まった予定地点に明らかな違和感を感じていた主人公
彼は違和感を拭う為か、周囲を見渡し
そして、絶望していた――》
………
……
…
「……おい、主人公ッ!
次の戦略はどうする?! ……おいッ!! 」
《――呆然と立ち尽くす彼に対しそう言い放ったオルガ。
だが――》
「わ、分からない……ここで殆ど倒す予定だったんだ!!
誰一人失わずに戦う為には何としても……
……このタイミングで全員倒さなきゃ駄目だったんだよ!!!
なのに……なのにッ! ……」
<――俺には
この先の戦いに一切の“覚え”が無い。
俺は……敵の実力を見誤り“見えない未来”を作ってしまった。
……完全に未知の領域である以上、このまま普通に戦えば
護りたい人達が少なからず犠牲に成ってしまう。
……そんな不安感に押し潰され、考えがぐちゃぐちゃに成った俺は
オルガの質問に答える事も出来ず
言い訳みたいな口振りでこの後も嘆き続けていた……
だが――>
「ほう……歯を食いしばれ主人公ッ」
「なっ?! ――」
<――瞬間、オルガは腕を振り上げ
俺にビンタを……“しなかった”――>
………
……
…
「やはり……疲れているのだな主人公よ」
<――そう言いながら、振り上げた手を俺の背中に置くと
ポンポンと……まるで慰める様に叩いてくれた。
……ただ、オルガの力が強すぎて
思わず咳き込んでしまったのだが。
ともあれ……そんな俺の事を
申し訳無さと微笑ましさの混ざった様な目で暫く見つめた後
真剣な表情を浮かべたオルガは――>
「……主人公よ、御主は何か勘違いしている様だが
私も皆も何もせずただ敗北するつもりなど無いぞ?
それに……後ろを見てみろ主人公」
<――そう言われ振り返った俺に対し
オルガは続けた――>
………
……
…
「第二城も、本国も……そして、御主が纏めた
政令国家と言う巨大な“家”に暮らす全ての種族を守る。
ただそれだけを考えて居たならば
見えぬ恐怖に怯える暇など……一瞬たりともありはしないだろう? 」
<――ギルドの受付嬢さんが
オルガを好きな理由が俺にも痛い程理解出来た瞬間だった。
オルガは見た目もだが、心がイケメンでどんな大国よりもデカイ。
そして……不安感からか
思わずオルガに抱きつきそうに成って居た気持ちをぐっと堪えた俺に対し
ラウドさんまでもが――>
………
……
…
「うむ、オルガ殿の言う通りじゃよ主人公殿。
それに、魔族共は此方に動きを読まれて居たんじゃよ?
……出鼻を挫かれた上、現れる場所まで予想されていたと言う恐怖に
今も尚大層怯えて居る事じゃろうて!
……見てみるのじゃよ! あれほど遠くに逃げた奴らを! 」
「オルガ、ラウドさんまで……そうだ、そうですよね!!
……って言うか皆さんを救うって言っておきながら
励まされてばっかりですね俺……もっともっと確りしなきゃですね! 」
<――と、少し空元気にも見える返事をした
俺の事を案じてくれたのだろう。
エリシアさんまでもが俺を励ます為――>
「……ん~?
と言うか“寝てない”から変な事ばかり考えちゃうんじゃな~い?
主人公っちは寝ててもいいよ?
……私達、主人公っちが思ってるよりは強いしぃ? 」
「エリシアさんは一体何を?! た……確かに強いかもしれませんけど!
この状況で俺だけ寝るとかそんな! ……」
「……あれぇ? 今日は珍しく“お馬鹿モード”だねぇ主人公っち??
冗談も理解出来ない程一杯一杯じゃ、敵の術中にハマっちゃうよぉ?
もっと肩の力を抜いてぇ~……ほらほらっ!
リラックスリラックスぅ~! 」
「な、何だ……冗談でしたか!
けど……確かに俺、緊張し過ぎてるかもしれませんね……」
「うん……気がつけば宜しいっ!
と言うか~……スライムの草原を吹っ飛ばした時みたいに
深く考えず、規格外な“主人公っちパワー”をお見舞いしてやればいいのっ!
さぁてとぉ~? ……そ~ろそろ
“お相手さん”も痺れを切らして進軍しそうな感じだよぉ~? 」
「は……はいっ!!!
……リラックスしろ、リラックスだ俺。
スライムの草原を吹き飛ばした時みたいに……純粋な心を持って
何も考えずに……全魔導力を集中させる事だけをイメージするんだ……」
「……ちょ~っと気になる“文言”はあるけど
どっちにしても主人公っちが復活したっぽいしぃ~
……全軍ッ!
主人公っちの“規格外火力”に続けぇぇぇぇっ!!! ――」
《――直後
一斉攻撃を開始した政令国家陣営……とは言え
全軍を率いた魔族軍の防衛力はとても強固であり
主人公の規格外な攻撃を以てしても
その全てを崩壊させる事は容易では無く……
……更には防衛戦と言う事もあり
遠距離からの攻撃を主体とした戦いを強いられて居た政令国家陣営。
一方……主人公の規格外な魔導攻撃力を始めとする
政令国家陣営からの猛攻撃や出現地点への予測攻撃などに依り
少なからず魔族側にも動揺の色が見られ
魔王軍の統率力には僅かな歪が生じていた。
……その所為もあり
互いに近づく事を避けた遠距離での打ち合いが続く事暫く
両軍共に疲れの色が見え始めていた頃――》
………
……
…
「フッ……埒が明かぬな」
「ええ、特に先頭に立つあの男……異質な魔導力を有している様です」
「その様だ……このままでは
我が配下を無駄に疲弊させてしまうのみ……我が出よう」
「では……私もお供致します」
「なれば……我が配下に命ず
一切の攻撃を止めよッ!!! ――」
《――直後発せられた魔王の一声は
直ぐ様配下の魔族達を従わせ一斉に攻撃を停止……
……させるに留まらず。
政令国家側からの攻撃すら止めてしまう程の異様な“圧”を持っていた。
そして――》
………
……
…
「人間共の先頭に立つ者よ……我と闘うが良い」
《――主人公を指差し、そう告げた魔王
対する主人公は――》
「なら……一つ頼みがある」
「……その目を見れば貴様の願いなど容易く判る。
万が一にも貴様が我を打ち倒す事……叶ったならば
もう二度と攻め入らぬと約束してやろう」
「分かった……一対一だな? 」
「フッ……愚問だが答えてやろう
互いに、配下の者共が手出しをすれば敗北と捉えよ」
「分かった……交渉成立だ」
<――魔王の申し出を受け、一騎打ちを選択した俺。
だったのだが――>
「ねぇ……聞くまでもないんだけどさ
魔王の隣に居るのって……ライドウだよね? 」
<――エリシアさんは俺の隣でそう言った。
静かで……冷たくて……俺が聞いた事の無いエリシアさんの声だった。
……鈍い俺でも充分判る。
明らかに“ブチギレてる”――>
………
……
…
「おやぁ? ……お久しぶりでございますねぇ姉弟子様? 」
<――煽る様な態度でそう返した眼帯の男
もとい……“ライドウ”
見ただけで判る……絶対に強い
そもそも、時間を戻す前に見たコイツの固有魔導は
相当に常軌を逸してた……それは
“二つ持ってる事”も、その“何れの能力も”って意味だ。
俺は、今にもブチギレて飛び掛かりそうなエリシアさんに近づき
奴の持ってる固有魔導の能力を静かに囁いた。
だが――>
………
……
…
「……ありがと主人公っち。
もしこの戦いの後で生きてたら、どんなエッチな要求でも
何でも言う事聞いてあげるからさ、凄く期待して待っててね――」
「エッチな要求でもってそんな……ってエリシアさんッ?! 」
<――声色自体
明らかに何時ものエリシアさんじゃない時点で気が付くべきだった。
エリシアさんは俺が動揺する様な冗談を言ったかと思うと
次の瞬間には俺の隣から消えていた……そして、慌てる俺を余所に
互いに凄まじい勢いで連続転移を繰り返し
激しい戦闘を繰り広げて居たエリシアさんと……ライドウ。
けど……“見た”戦いじゃない分、一層不安だ。
大体、そんな“死亡フラグ”みたいなセリフ吐いて戦わないでくれ
頼むから……また“あんな姿”を見せないでくれ
てか……何でそんな簡単に命投げ出す様な戦いに挑むんだよ?!
俺じゃ不甲斐ないのかもしれないけど……頼むから護らせてくれよ!!
頼むから……誰も死なないでくれッ!!!
そんな……急激に溢れ出した不安に押し潰されそうに成っていた俺。
だが、そんな心境を知ってか知らずか――>
………
……
…
「……我を差し置く余裕があるとは、余程自信が有ると捉えて良いのだな? 」
「い、いや……あれは此方の戦いとは別問題
つまり、ルール違反じゃないって事で良いのかを確認したくて
それで……」
<――これから殺し合いしなきゃ成らない相手に対して
何で俺は“言い訳”みたいな質問をしているのだろう。
つくづく情けない限りだ……だが、そんな“ごちゃついた”心境を
いとも簡単に吹っ飛ばす様な戦いが
この直後、始まってしまった――>
「無論だ……さて、油断はしてくれるなよ? 人間。
征くぞ――」
………
……
…
<――不安とか絶望とかエリシアさんに対する心配とか
……そんな事を考えている暇が無い位
魔王の攻撃は一つ一つが桁違いだった。
俺が満身創痍だからってだけじゃない……
……万全な状態でもこの攻撃はヤバい。
防ぐだけでも精一杯の猛攻を受け続け
俺の心はあっと言う間に恐怖に支配された――
“俺が負けたら皆が死ぬ……でも引き分けだったらどうなる? ”
“もしこの勝負に勝てたとしても
魔王の配下が引かずに戦おうとしたら? ”
“……と言うかそもそも勝てる気がしないッッ!!
大体、攻撃すら放つ余裕が無いのにどうやって勝つんだよ?! ”
――そんな雑念だらけの中にあって
辛うじて攻撃を防ぎ続けていた俺だったが
同時に魔導力が著しく減少し続けている事に気がついた。
不味い、このままだと魔導欠乏症で死ぬ……だが打つ手が無い。
不味い、意識が朦朧とし始めてる……もう駄目なのか?
こんなに呆気なく……負けるのか?
立っている事すら危うくなり始めてる……だけど
このまま緩やかに敗北し、再び皆を失うのだけは嫌だ。
けど、限界が……近いッ……
……尚も続く魔王の猛攻を前に
俺は絶望感に打ちひしがれていた………だがそんな時。
メアリさんが叫んだ――>
………
……
…
「……主人公さんっ!
旅立ちの日にお渡しした“あれ”を使うのですっ!! 」
<――そう言われ一瞬理解が遅れた俺
だが、確りと思い出した……“煙玉”の事だ!
しかし……思い出しはしたが、懐に手を入れる隙が無いし
待ってくれと言って待って貰える程甘くも無い。
だが、いよいよ魔導力がヤバい……クソッ!!
一か八かッ!!
“肉を切らせて骨を断つッ!!! ”――>
………
……
…
<――と、俺が決死の覚悟で懐に手を入れた瞬間
何故か魔王は攻撃を止めた。
一瞬不思議に思いつつも……俺は
メアリさんから貰った“煙玉”を地面に落とした。
瞬間――>
………
……
…
「成程……それがあの女が叫んだ“切り札”の正体か」
<――余裕の表情でそう言った魔王
その一方で“煙玉”の効果は凄まじかった。
……何故こんな物をメアリさんが持っていたのかは知らないが
俺の異常な魔導力が明らかに全回復した感じがする。
一体これは何だったんだ? ……色々と理解不能だが
そんな事よりも魔王が余裕な事の方が怖く成った俺は――>
………
……
…
「あ、あのさ……魔王さん、恐縮ながら確認したい事が……」
「フッ……その程度の“助力”を
“問題と捉えたか”……我に確認するつもりではなかろうな? 」
「いっ?! ……その通り過ぎて怖い」
「フッ……貴様は愉快な男の様だ。
だが、戦場に道化は不要ッ!!! ――」
<――か、辛うじて防いだ。
けど、俺の身体は防衛魔導毎吹っ飛ばされて……
……脳震盪を起こしたのだろうか?
立てない……宙に浮いた感じがするが……いや……何だッ?!
本当に宙に浮いてるッ!? ――>
………
……
…
「なっ?! ……何だッ?! ……」
<――俺の身体は防衛魔導ごと
魔王の召喚した大きな“手”に鷲掴みにされていた。
考えなくても判る、もし防衛魔導が途切れたら
俺は、死ぬ――>
………
……
…
「……貴様の有する“力”だけならば
万が一にも我を滅する事叶うやもしれん……だが。
貴様には圧倒的に……“不足”している」
「俺の不足? ……実力か? 実践経験か? それとも……運か? 」
「否……欲望、欲求、渇望。
“我を滅する”と言う気概が感じられぬ……実に不愉快な事よ」
<――こんな危機的状況なのに、そう言われて思った。
当たり前だ……元々そんな性格してなかったから
元の世界ではいじめられっ子だったし、不登校に成ったんだ。
……殴られたら身体が痛いし、悪口言われたら心が痛いんだ。
そんな当たり前が理解出来ない奴らに会いたくなくて
ずっと逃げ続けてたんだ……そんな欲望なんて最初から無い。
大体……戦わずに済むなら魔族とだって戦いたくないし
仲良く出来るなら誰とも戦ったりなんかしない。
だが……こんな緊急事態にそんな事を考えていた俺の表情を読み取ったのか
魔王は“手”を解除すると俺を降ろし――>
………
……
…
「成程……貴様は反吐が出る程に微温い考えを持っている様だ。
全く腸の煮えくり返る……我の期待を裏切り
我の機嫌を損ねた報い。
受けて貰おうッ!!! ――」
<――そう言い放った瞬間
俺……では無く、エリシアさんに向けて強力な攻撃を放った魔王
俺は……エリシアさんを護る為。
全てを投げ捨て、身を挺した――>
===第一〇四話・終===