第一〇三話「一人で背負うのは楽勝ですか? 」
<――皆を日之本皇国に残し一人で政令国家に戻る事を選んだ俺
しかし、時間を戻した事が原因なのだろうか……体が重い。
……だが、よく考えたら原因は他にある気がする。
舞踏会後の“散々体力を使い果たした”状態に戻されて居る上に
睡眠を取らずの海超え“超長距離転移”
まぁ……恐らくコレが一番の原因だろう。
けど、転生前の世界を模したあの空間で
散々自堕落な生活を送っていた俺である。
全身に贅肉が付き放題で
運動らしい運動も全くして無くて……年齢だってこの肉体の倍程だった。
それに比べればこっちの世界では体が若い事も有って
多少の無理は効くし、少々体が重い位なら問題だとは感じないぜッ!!
……いや。
本当はちょっと感じてるし、今にも倒れそうなのを必死に誤魔化す為に
無理やり空元気を演じているだけなのだが……
……まぁ、そんなこんなで
急ぎ政令国家への転移魔導を発動し掛けていた俺。
だったのだが――>
………
……
…
「……置いてけぼりにしようとするなんて酷いですわネ? 」
「だ、誰だッ?! ……ってリーア?! 一体どうやってついて来たッ?!
……ってか何で俺が転移したのが分かった?! 」
「……あら、忘れてたノ?
今のワタシはアナタと離れすぎたら死んじゃうのよ?
だから……アナタが転移魔導を使う時、万が一にも離れ過ぎない様に
ある一定の距離を離れそうに成ったら特殊効果
“一心同体”が自動で発動する様に成って居るのヨ? 」
「成程、そう言う事だったのか……と言うかまず謝らせてくれ。
誰も失いたく無いって事ばかり考え過ぎて
危うくリーアの大切な命を奪い掛けてしまった事
何を言って許されるとは思ってない……でも、本当に申し訳……」
<――と頭を下げ掛けた俺の唇に指を当てたリーア
彼女は真剣な表情で俺を見つめ――>
「……それ以上は言わないでもイイワ?
悪意のある行動だなんて思ってないし
……結果的にワタシは無事だから大丈夫ですワ?
それに……満身創痍なアナタが休息も取らず
此処へ転移した理由なんて何となく分かるもの。
……ホームシックが限界だったのよネ♪ 」
「そうそう! って……ちっがーーーう!! 」
「フフッ♪ ……冗談で少しは肩の荷が降りたかしラ?
……兎に角、詳しい事はワタシにも分からないけど
アナタの顔を見ていれば……“緊急事態”って事だけは分かるワ?
……何が遭ったのか教えてネ? 」
「……ああ、とんでもない事が起きる
“ある種族”が原因で政令国家が崩壊の危機を迎えてしまうんだ。
俺は、政令国家を……政令国家に住む皆を護りたいんだッ! 」
「そう……敵が魔族って事だけは理解したワ
でも……皆は連れてこなくてよかったノ? 」
「ああ……誰一人失いたくないからね
本来ならリーアも日之本皇国で待ってて貰うつもりだったんだが……
……色々至らなくてごめんな」
「さっきも言ったけれど、ワタシとアナタは“一心同体”で繋がっているのよ?
妙な気遣いは必要ないワ? ……それより早く政令国家に行きましょう? 」
「ああ、気を使わせてすまない……掴まってくれ。
転移魔導、政令国家東門前へ! ――」
………
……
…
<――転移後、直ぐに辺りを見回した俺達。
……何処にも異常は無い。
ほっと胸を撫で下ろした俺だったが
それと同時に門の警備をしている衛兵さんがこちらに気づいた様で――>
「あ、貴方は……主人公様ッ?! 」
「ええ、お久しぶりです! 」
「お久しぶりでございますッ! ……ついにご帰還なされたのですね!
ん? ……旅に同行されて居た方々はどちらへ? 」
「皆はまだ日之本皇国と言う国に居ますが……そんな事よりも
俺は政令国家に迫る危機を伝える為に帰って来たんです。
ですが……詳しい内容を説明する時間すら惜しい
政令国家を救う為、一刻も早く情報を伝えなければ成りません。
正直もう少しお話していたかったですが……
……此処を通っても良いですか? 」
「ええ、それは構いませんが……」
「感謝します……ではまた後ほど! 」
<――衛兵さんに会釈した後
真っ先に大統領執務室……では無く“ヴェルツ”を目指し走った俺とリーア。
……到着後、リーアに一階で待つ様頼み階段を駆け上がった俺は
真っ先に――>
………
……
…
「ミリアさん!! ……ミリアさん!! ……ミリアさんッッ!! ……」
<――ヴェルツの二階
ミリアさんの部屋の扉を力の限り叩きながら必死に呼び続けた。
直後、部屋の中で騒がしい音がしたかと思うと
扉が開かれ――>
………
……
…
「何だいっ!? こんな夜中に大声で……って……主人公ちゃんっ?!
……一体どうしたんだい?!
皆は?! 一体何が有ったんだいっ?! って……主人公ちゃんっ?! 」
………
……
…
「良かった……無事で良かった……ミリアさんッ!! 」
<――やっと会えた。
ミリアさんの元気な姿を見た瞬間、感極まった俺は
つい……ミリアさんに抱きついてしまった。
正直……涙と鼻水でグシャグシャに成った俺の姿は
相当恥ずかしい感じになってるのだろうが……そんな事を考えるよりも
生きてもう一度ミリアさんに会えた嬉しさが上回っていた――>
………
……
…
「……何が有ったのかは知らないが、よく帰って来たね。
おかえり……主人公ちゃん」
「たっ……ただいま! お母……い、いえその……ミリアさん」
「……良いんだよ、甘えて良いんだ」
<――ミリアさんはそう言うと、俺の事を優しく抱き締めてくれた。
優しくて温かい癒やしの力を感じた……幸せを感じた。
ミリアさんを……皆を……
……絶対にこの場所を失いたくない。
絶対に……失ったりしないッ!!
そう強く心に誓った俺はゆっくりと顔を上げた。
瞬間――>
………
……
…
「……主人公っち~ぃ? どういう状況なのかなぁ~?
私、若干だけど引いてるぞぉ~? 」
「えっ?! ……いっ、いや……そのっ!!
こっ、この状況には訳がっ!! ……」
<――最悪だ。
エリシアさんに“ガッツリ”見られてた。
……大抵の事を笑って流すエリシアさんが
若干怪訝な表情を浮かべていたのが地味にショックだ。
だが、そんな事を気にしている暇は無いッ! ――>
………
……
…
「そ、その……恥ずかしい所を見られた件については
後でエリシアさんの気が済むまでイジって頂くとして。
俺は……ある緊急事態を伝えに帰って来たんです。
数時間後……政令国家全土に魔王軍が攻めてきます」
<――そう説明した瞬間
エリシアさんは――>
「冗談言ってる顔じゃないし……泣いてた理由が何と無く分かったよ。
……何回目? 」
「何回目? ……戻したのがって事ですか? 」
「やっぱりかぁ~……トライスター専用技を使ったんだね?
確か“後進復帰”だっけ?
主人公っちは本当に無茶ばかりするねぇ~……兎に角。
此処からは一切気を使わずに話して、私はどうなった? ……死んだ?
もしそうなら……どうやって死んだ?
覚えてる限りの事を全部教えて! 」
<――エリシアさんは鬼気迫る表情でそう問い掛けて来た。
俺は正直に……エリシアさんを殺めた
“眼帯姿のトライスター”に関して事細かに説明した。
瞬間、エリシアさんから殺気の様な物が溢れ出したのが俺にも分かった。
恐らくは“因縁の相手”なのだろう――>
………
……
…
「……アイツが何故生きてるのかも問題だけど
それよりもアイツが魔族側に付いてる事がかなり厄介。
……兎に角、一度全員を集めて対策会議を開かなきゃ!
って……時間的な猶予はどの位あるの? 」
「短く見積もって三時間程です」
「分かった……その時間で出来る限りの対策を取るよ!
先ずは、伝達の魔導……魔導拡声ッ!!! ――
“政令国家全土に住む人達全員……寝てる場合じゃないよ!!
今直ぐ自分と家族を叩き起こして、指定の避難場所へ避難する準備をして!
兵員は皆、民の避難誘導を迅速に確実にこなす事!!
私を含めた大臣達は全員大統領執務室へ集合っ!!
これは遊びでも演習でも無いから……死ぬ気で動けぇぇぇぇっ!!
――良し、これで大丈夫」
<――エリシアさんの的確な魔導拡声が政令国家全土に轟いた直後
街は騒がしくなり始め――>
………
……
…
「さて、主人公っち……ミリアはどうする?
避難所で大丈夫? 執務室に連れて行った方が良いレベル? 」
「……避難所で大丈夫とは思いますが念の為執務室へお願いします
正直説明するのが恥ずかしいんですが、俺に取ってはそのッ……
は、母みたいな物なのでッッ! 」
「……まっ、さっきの“感じ”だとそう言うとは思ってたけどねぇ~??
兎に角、ミリアも含めて執務室へ転移するよ! 」
「あっ! ……ちょっと待って下さい! 下にリーアを待たせてまして……」
「えっ?! ……って、契約してたもんね
マギーちゃんも一緒に連れて行くよ! 」
「はい! ……」
<――直後
エリシアさんの転移魔導に依って執務室へと転移した俺達――>
………
……
…
「……エリシア殿、先程の魔導拡声はどう言う事じゃね?!
ん?!! ……主人公殿ッ?! 」
「……お久しぶりですラウドさん
でも、久しぶりの再会を喜んで居る暇すら惜しいんです。
兎に角……全員集まったら直ぐに対策会議を開いて下さい」
「う、うむ……それは構わんが、一体何が有ったのじゃね? 」
<――ラウドさんにそう訊ねられた瞬間、エリシアさんは静かに
俺が後進復帰を使用したと説明してくれた。
そして……そう聞かされた瞬間
ラウドさんは――>
「成程……この様な時間に血相を変えた主人公殿の帰還
余程の事態とは思ったが……政令国家に危機が迫っておるのじゃな? 」
「はい、この国は一度……滅亡しました」
「何と言う事じゃ……しかし、皮肉な事じゃのぉ主人公殿」
「皮肉? ……どう言う事です? 」
「……わしと昔話した事を覚えておるじゃろうか?
主人公殿がトライスターと成ったばかりの時、主人公殿はわしに対し
この国で恐ろしい戦いが起きようとも協力はせぬと言った。
そして……わしもそれに同意し
その様な事が起きたならば“逃げてくれて構わん”と肯定した事
……覚えてるじゃろうか? 」
「ええ、覚えています。確かに皮肉ですよね……でも
……大切に成ってしまったんです。
この国の事が……この国に住む全ての人達の事が」
「ふむ……わしらは幸運じゃ。
じゃが、もう一つ皮肉な事があるんじゃよ」
「……もう一つ? 」
「うむ……トライスター専用技“後進復帰”は
その性質上、使用者の記憶以外に証拠が残らぬじゃろう?
故に“歴史書”に
“偉大な魔導師”として記載されるべき行いをしたにも関わらず
主人公殿の記憶にしか残らぬ事が余りにも不憫じゃと思ったのじゃよ」
「なんだ、そんな事ですか……そんなのどうでも良いですよ!
俺に取っては政令国家に住む全ての人達が無事って事が
どんな名声より大きな勲章で……」
<――等と話していたら、大臣達が続々と集まり始めた。
オルガとガーベラさん
クレインとミアさん
ガンダルフにゴードンさん……リオス、マリーナさん……ん?
何故かメアリさんまで大臣になってるんだが?!
……聞けば、どうやら
俺の居ない間だけ臨時で教育大臣を担当して貰っているらしい。
申し訳なさが半分、嬉しさが半分って感じだが……
唯、何よりも皆元気な顔をしている事が一番嬉しい。
……そして、この上更に嬉しい事が起きた。
皆俺に気がつくと再会を喜び、抱き締めてくれたり涙を流してくれたりと
心の底から喜んでくれたのだ……俺も言葉では言い表せない程嬉しい。
嬉し過ぎて俺も思わず泣きそうに成ったが……まだだ。
泣くのは全員を護りきり魔族を全て殲滅してからでも遅くはない。
……決意を胸に全員が集まるのを待っていた俺だったが
この瞬間、突如として執務室に“嫌な声”が響き渡った――>
………
……
…
「……詳細も分からぬまま
あの様に狭い避難所に押し込められるなど断じて承服しかねる!!!
居るのでしょう?! ラウド大統領ッ!! 」
<――直後
執務室の扉が開かれた瞬間、現れたのは……ジョルジュだった。
何故コイツが我が物顔でこの部屋に来た?
……そんな事を考えていた俺の疑問を感じ取ったのか
俺に気がついた様子のジョルジュは――>
「ん?! 何故貴様が此処にッ?! ……一体何時帰って来たッ?! 」
「いや……別に追放された訳じゃ無いし、帰って来たって良いだろ?
取り敢えず、久しぶりだなジョルジュ。
元気にしてたか? ……“ビールで溺れて”無いか? 」
「ぐっ……嫌味な態度をッ!!!
ええぃっ!! ……そんな事よりもラウド大統領ッ!!
……先程の緊急警報は一体何が理由なのか!
国民達にも理解出来る様、しっかりと説明責任を……」
「おい、待てよジョルジュ……何でお前が大臣面してるんだ? 」
「ん? ……大臣面だと?
流石の私でも“まだ”大臣ではないが……貴様を嫌悪する民達の為
国民の半分の代表者としてこの度選出されたのだよ!
故に、私の発言は国民の総意で……」
「待て……国民の“半分”なら総意じゃないだろ?
と言うか兎に角……何でも良いからお前も避難しててくれよ」
「……なッ!?
何故その様な事をお前に指図されなければいけない! 私は……」
「……良いから黙って聞いてくれ。
相変わらず俺の事を“嫌悪”してるのは理解した。
けど……それでも避難しててくれ
お前だって……魔族に喰われたくは無いだろ? 」
「何だと? ……どう言う事だ!!! 」
<――と、ジョルジュが憤慨し始めた頃
第ニ城地域の大臣も含めた全ての大臣が執務室へと到着した。
直後……俺は、騒がしいジョルジュの口を魔導で封じ
皆にこれから起きる事の説明を始めた――>
「……これから話す話は全部真実です。
生き残る為に、誰一人掠り傷すら負わない様に
一言一句逃さず聞いて下さい――」
………
……
…
<――説明を終えた時
集まった大臣達は皆重苦しい表情を浮かべていた。
だがそんな中、オルガが口を開いた――>
「……私達は全員一度死に
御主の使用した“後進復帰”に依って生き返ったのだな? 」
「……ああ、嫌な話だろうとは思うけど事実だ」
「では、もう一つ確かめさせて貰うが
私達の敗れる様も、敵の動きも全て見たと言うのだろう? 」
「ああ……嫌と言う程間近でな」
「……ならば、魔族共の戦術は疎か
魔族共が現れる地点を正確に知る事が出来ると言う事にも成るのでは無いか?
……仮にそうであるならば、予めその地点を囲み
現れた瞬間に一斉に攻撃を叩き込めば
良くすれば敵を全滅に追い込む事も可能だろう? 」
「そうだ……確かにその通りだ!!
単純な事なのに何で気が付かなかったんだ俺は……」
「いや、主人公……顔を見る限り、御主は相当に疲れている。
その上、崩壊して行く政令国家を見続けたのだろう?
その御主に“冷静に成れ”と言う方が酷と言う物。
そもそも私達の知るべき情報は限り無く完璧に伝わったのだから
少し休んでおくと良い……仮眠をとっても良いのだぞ? 」
「ありがとうなオルガ……でも、皆を完璧に救ってからなら
一週間でも二週間でも寝るからさ、今は起きて……って……うわっ?! 」
<――“強情を張っている”と思われたのだろうか?
オルガは俺を抱き抱えると
ガーベラさんに椅子を並べる様指示を出した。
……どうやら椅子で簡易的なベッドを作ったらしい。
そして其処に俺を寝かせたオルガ……本当に皆、優しい。
皆も俺の事を心配そうに見てくれてるし
ガーベラさんなんて俺に睡眠の魔導まで掛けようとして……
って駄目だッ!! ――>
………
……
…
「待ったッ!!! ……優しさは後にしてくれ!!
……皆に再会出来て嬉しいし
皆が俺の体調にまで気を回してくれてる事も凄く嬉しい。
けど、俺がもし此処で寝てた所為で誰かが怪我でもしたら
俺はオルガもガーベラさんも……二人を許せなくなる。
……先に謝っておくけど
皆を救う為に戦えば俺だって少なからず危ない目に遭うとは思う。
そう成る事を何と無くでも考えたからこそ
敢えて旅に同行した仲間達も日之本皇国に置いて来たんだ。
多分、俺はそれなりにきつい戦いを経験するだろうし
もしかしたら死ぬかもしれない……正直どうなるかなんて分からない。
……それでも、俺に取っては皆が傷つくよりも数千倍マシなんだ。
完全に俺の我儘だとは分かってる
だけど……頼むから俺に護らせてくれ!!
俺は、政令国家に属する全ての国や地域を完全に護りたいんだ……
……って!! 」
<――皆を必死に説得していて思い出した。
時間を戻していたあの時、魔族の大群を眺めつつ考えていた事を。
……魔王や“眼帯の魔導師”にどれ程の力があろうとも
あれだけ大量の魔族を一斉に転移させる場合
“超長距離転移”を行う事は不可能だと言う事。
リーアの願いである“森に巣食う魔族討伐”の為
政令国家とその友好国にお願いした大捜索の“結果”を考えれば
近隣諸国の森に魔族達が居たとは考えにくい事。
と言う事はかなり遠方から現れた筈だし……仮にそうなった場合
一度何処かの村や国などに転移しない事には
第ニ城へは決してたどり着けない筈だと考えて居たのだ。
そして……時間を戻していた時に見た光景。
リオスを庇いガンダルフが絶命したあの時
リオスは俺に救援を求める為、走った筈で――>
………
……
…
「……リオス、時間を戻す前君は何故かヴェルツに駆け込んだんだ。
脇腹に酷い怪我を負っていたのにも関わらず
政令国家の危機を伝える為に必死に走り
ブランガと言う名前の獣人族の男に俺に全てを伝える様に託し……
……そして命を落としたと彼から聞いた。
あの時君は何故ヴェルツに行ったのか
今の君には分からないかも知れないが……」
<――リオスにそう訊ねていると
ミリアさんが思い出したかの様に、俺に“隠し通路”の事を教えてくれた。
……聞けば其処はバルン村に繋がっているらしいが
バルン村にも魔導師は沢山居た筈だ。
……リオスがもし隠し通路で息絶えたのなら
ブランガと名乗ったあの獣人族には決して託せない筈。
それに……治癒魔導に対した時間は掛からないのに
リオスは何故バルン村で何故治療を受けすらしなかった?
……いや、リオスに治療を施せる人間が一人も居なかった?
って事はまさかッ?!
俺は慌ててバルン村に連絡を入れた――>
………
……
…
「……ジンさん、そっちに何か被害は!? 」
「お、お久しぶりです主人公様! ……って被害ですか?
皆、主人公様のお陰で幸せに暮らしておりますし
夜も遅いですから、皆寝静まっておりますし……」
「無事で良かった……ですが、今すぐ村人達を叩き起こし
一刻も早く政令国家本国へ転移する様準備をして下さい!
恐らく後一時間もしない内、そちらに魔族の大群が……」
「なっ!!? ……承知致しました! 」
<――直後
慌ただしく皆を叩き起こすジンさんの姿が見えた。
……少し胃が痛い
頼む、何かが起きない内に早く政令国家本国に全員転移してくれ!!
そう願っていた時、突如としてジンさんの背後に転移した一人の女性――>
………
……
…
「なっ?! ……エリシアさんッ?! 」
「お~っ! ……何だか不思議な感覚だねぇ主人公っちぃ~!
主人公っちが何だかとっても心配そうだったから
私も避難を手伝う事にしたよ~っ!
私が手伝えば一瞬だから~……安心しろ~ぃ! 」
「はいっ!!! ……流石エリシアさんだ
ってか俺、さっきから皆に護られてばっかりだな……」
<――少し自分の事を不甲斐無く感じつつも
引き続きバルン村の様子を魔導通信越しに見ていた俺。
すると、ジンさんに起こされた村長さんは事情を説明された瞬間
慌てて魔導通信越しの俺に対し、拝み手をしながら――>
………
……
…
「一度成らず二度までも……やはり
主人公様はこのバルン村の守り神様ですじゃ。
っとぉ! ……忘れるところじゃったァァァァァっ!!! 」
「なっ?! ど、どうされたんですか村長さんッ?! 」
<――俺の心配を他所に
とても老人とは思えない速度で後ろを向いた村長さん。
その直後……一際目立つ場所に祀られていた“モノ”を
大切そうに抱えたかと思うと
執務室の皆にも見える様高らかに掲げ――>
「……我がバルン村の守り神様とも呼ぶべき主人公様が残された
この“聖遺物”とも呼べる程の“法衣”は
我が生命に変えても守り抜く覚悟でございますじゃ!! 」
「げっ!? ……そっ、それは……もしかして……」
<――最悪だ。
村長さんがたった今高らかに掲げ
命に変えても護ると宣言した“モノ”は……
……“俺達がまたバルン村に訪れる”と約束した際
皆に言われて苦し紛れにワザと置き忘れた“お尻丸出し服”だった。
そして……この上更に最悪な事に
破れてるお尻の部分を敢えて目立つ様にこっちに見せた村長さん。
破れている位置的に何となく気がついたっぽい数人の大臣が
口元を抑え、クスクスと笑っているのが振り向かずとも聞こえた。
何これ、すっげぇ恥ずかしいんですけどぉッ?! ――>
………
……
…
「あ、あの……村長さん、取り敢えず早くこっちに飛んで来て下さいッ!
あともう“それ”返して下さいッ!! ……すっげぇ恥ずかしいんで!! 」
「……なっ、何をおっしゃいますか主人公様っ!!
わしを含め、村人達は皆この“聖遺物”を心の拠り所に
辛い時も悲しい時も事ある毎に必死に祈りを捧げているのです!
それに……これをお返ししてしまえば
主人公様から二度とバルン村へと訪れぬと言われたも同義ッ!
断じてこの“聖遺物”をお返しする訳には参りませんッ!! 」
<――うわぁ。
……村長さん完全に手放す気が無くなってるし
執務室は此方で
“後ろで笑ってる声”がより一層酷くなったし……うん。
もう、色々と諦めよう――>
………
……
…
「……わ、分かりましたから落ち着いて下さい!
状況が落ち着いたら何回でも村に遊びに行きますから!
兎に角! 一刻も早くこっちに避難するのと……
……その服をこれ以上見せびらかさない様にして下さい! 」
<――俺がそう言い切った瞬間、村長さんは喜んでくれたし
村長さんの後ろにいる村人達もすげぇ喜んでくれた。
……少なくとも俺の精神は大ダメージを負ったが、状況は落ち着いた。
そして……少し後
バルン村に住む全ての人々が全員無事で此方に到着した。
……全員、俺との再会を喜んでくれた事も嬉しかったし
服装、肌ツヤ……何処からどう見ても
生活水準が上がっている様に見えた事も心の底から嬉しかった。
……けど、何だろう。
幾ら“祈りを捧げる”ったって……
“それ”は無いんじゃないだろうか――>
………
……
…
「村人達よ! ……生き神様たる主人公様と
主人公様のお遺しに成られた“聖遺物”に対し
心からの祈りを捧げるのじゃ!!
せーのっ!! ――
“神の使いはケツを出すッ!! ”
――神の使いはケツを出すッ!! 」
………
……
…
<――大事な事なのでもう一度言う。
幾ら祈りを捧げるったって
“それ”は無いんじゃないだろうか――>
===第一〇三話・終===