第一〇二話「一筋の光が見えたら楽勝ですか? 」
《――魔導之大剣を強く握り締め
祈る様に……力の限りに振り下ろした主人公――
――振り下ろされた魔導之大剣は
その軌道上を遮る全てを斬り裂いた
だが――》
………
……
…
「えっと……天井から本棚に掛けてぶった切っただけで
このまま何も起きないとか無いよな? ……いや。
あの洞窟を出る時だって何枚も扉を切り裂いた
何か起きるまで振り回し続ければ
こんな嫌な世界からも脱出出来るかもって……だぁーもうッ!!
成る様にしか成らねぇッって考えろ俺ッ!! ――」
《――言うや否や
魔導之大剣を横に構えた主人公。
二撃目を放つ為、刀身に精神を集中させていた……だが同時に
壁の奥から眩い光が差し込み始め――》
「な、何だッ?! ――」
………
……
…
《《……急……第七……壁に亀裂……管理者は……対応……修復……》》
「亀裂の向こうから何か聞こえる……管理者だと?
一体どう言う……いや、考えても分からない事は後回しだ。
今俺にある選択肢は、此処をぶち破るって事だけ。
……俺は
俺は……
……皆の所に帰るんだぁぁぁぁぁっ!!! 」
《――直後
あらん限りの斬撃を放った主人公。
その乱れ撃つかの様な斬撃を受け続けた壁は崩壊し始め
隙間から差し込む光は次第に強く成り始めていた。
そして――》
………
……
…
《――斬撃に耐えきれなく成った壁は完全に崩壊
その直後、壁の向こうに現れたのは
直視する事が苦痛な程の光を放つ世界であった……だが
影すら落ちぬその場所を真っ直ぐな眼差しで見つめ続けた主人公は
唯一度、大きく深呼吸をした後――》
………
……
…
「足場があるのかさえ謎だが……行くしか無い。
おりゃあぁぁぁぁぁッッ!!! ――」
<――半ばヤケだった。
俺は決死の覚悟で光の中へと足を踏み入れ
そして、足元さえ見えない光の中を必死に歩き続けた。
だが、部屋とか出口とか……そう呼べる場所が見えてこない。
正直……このまま進む事が正しいのかすら分からない。
暗い場所が怖いのは何と無く分かると思うが
過剰な程の光も相当に怖い物なのだとこの時知った。
怖い……途轍も無く、怖い……けど
皆の所に戻れる可能性がほんの少しでもあるなら……なんだってやってやる。
俺は歩く事を止め、全力で走り始めた――>
………
……
…
《《――緊急警報! 緊急警報!
第七防壁崩壊! 警告! ……原因と思われる存在の侵入を確認!
管理者は直ちに問題への対処を行って下さい! 緊急警報! ――》》
………
……
…
「ほう……また君の所為で僕が動かなきゃ駄目に成った訳だ」
「お、お前は……上級管理者ッ!! 」
<――切り裂いた壁を超え
必死に進んだその先には……“上級管理者”が居た。
やっぱりコイツか……俺の事を監視してあざ笑ってやがったんだ!
そう、思っていたのだが――>
………
……
…
「……さて。
君が一体どんな力を使ってこの防壁を壊し、此処まで来られたのか。
この僕が全く理解出来ないなんてこの上無く不愉快だし
そもそも……何故人間の君が此処に来られたのかも理解不能だよ?
それと、君のその手に持ってる物は一体……何だい? 」
<――と言う話し振りを聞く限り
とぼけてる訳じゃ無さそうな雰囲気だが……取り敢えず
上級管理者が途轍も無く“不機嫌”な事だけは理解出来た――>
………
……
…
「手に持ってる物って……見て分からないなら説明しても分からないだろ?
てか、久しぶりの再会でも相変わらず嫌な話し方のままだな?
上級管理者……いや“名無し”さんよ」
「……“嫌な話し方”はお互い様の様だと思うけどね?
さて、君の手にある物を正確に“認識”出来ない事は癪だけど
そんな事より、そもそも……一体何しに此処に来たんだい?
……まさかわざわざ僕に会いに来た訳じゃないよね? 」
「何って……理由はお前が一番知ってるだろ!
何で俺を転生前の世界に似せた場所に閉じ込めた!?
皆と引き裂いてまで……」
<――そう責めたてる俺の話を遮り
何かを確認し始めた上級管理者――>
「兎に角……今君の“ログ”を確認するから大人しく待っててくれるかい? 」
<――そう言うと、不機嫌そうな表情のまま
良く分からない記号の並んだ制御盤を操作し始めた。
……直後、俺の目の前へと空間投影された地球の様な惑星。
更に制御盤を操作し続け、ある大陸を拡大表示した上級管理者だったが……
……驚いた。
俺や皆の姿が、まるで其処に居るかの様に映し出されてる――>
………
……
…
「成程……こうやって俺達の事を見てたんだな」
「ああそうだよ? ……さてと、ふむふむ……成程……って、あれれ?
ねぇ君……何故君は死んでないんだい? 」
<――映像を確認しつつ唐突にそう訊ねて来た上級管理者。
……だが、質問の意味が全く分からない。
そんな空気を察したのか、上級管理者は俺に対し――>
「……映像ログを見る限りでは
君がトライスター専用技“後進復帰”を使用した事は分かった。
けど、詳細ログを見た限り君は……君が本来持っている筈の“生命時間”を
著しく超過して時間を戻している事が分かった。
驚くなかれ……“マイナス百六十年”だよ?
正直人間とは思えない超過具合なんだけど
一体どんな抜け道を使ったのか……ちゃんと教えて貰えるかな? 」
「確かにその数値は俺も見た……けど、俺にそれを聞かれても
皆を助ける為に必死に成ったとしか説明出来……」
「……詭弁だね。
君は“ある特別な書物”の内容を読まずに実現した程の逸材だ
そんな君がこんな騒ぎを起こしたなら疑わない方が不自然……ん?
……少し待ってくれるかな? 」
<――そう言うと再び制御盤を操作し始めた上級管理者。
俺の情報が事細かに画面に映し出されたのだが、若干……いや。
……途轍も無く嫌な気分だ。
そして、俺の情報を確認して居る途中で
突然として高らかに笑い始めたかと思うと、振り向くなり俺に対し――>
………
……
…
「……ごめんごめん!
君が何かしでかした訳じゃ無いみたいだね! 疑って申し訳ない!
どうやら……“ヴィシュヌ君”が悪さしてたみたいだ。
一度彼に確認を入れてみるとしよう……
……って、君も久しぶりに話したいでしょ?
結果的に彼は……君の“命の恩人”の様だし? 」
「そ、それは一体どう言う……」
<――直後
俺の異世界の何処かに住んでいるらしい
ヴィシュヌさんとの映像通信を繋げた上級管理者。
……だが
大画面に映るヴィシュヌさんは少し怯えている様子だった――>
………
……
…
「き、貴様は?! ……何故連絡をして来た?!
ん? ……隣にいるのは……主人公君の様に見えるが
少し歳を取って居るし……体型も太い、見た目も少しブ……いや
“特徴的”な顔立ちだが……」
「えっと、お久しぶりです……主人公です」
<――と、返事をしつつ思った。
今、完全に“ブサイク”って言い掛けたよなこの人。
……てか当然だよヴィシュヌさん、そもそもが
元の世界の見た目に戻ってるんだから太いしおっさんだし
ブサ男ですよ~だ!! ……と言いたい気持ちはぐっと堪えておいた。
……ともあれ、久しぶりの再会にも関わらず
少し不機嫌にさせられた俺を横目に
上級管理者は――>
「さて……“再会の喜び”は後でして貰うとして。
今日君に連絡をした理由についてだけれど……少し質問があるんだ
分かっているとは思うが……主人公君の“生命”に関する質問がね」
<――上級管理者がそう言った瞬間、ヴィシュヌさんの表情が凍った。
直後、彼は直ぐに上級管理者の言わんとする事を察したのか
俺の生命力に関するある真実を話し始めた――>
………
……
…
「……主人公君の生命時間が
“多過ぎる”事についての質問だと仮定して答えるが……
……私が管理者をしていた頃、主人公君は生命力を失い
一時的に死亡状態と成った。
その状態の主人公君を私が助けた事は覚えていると思うが……その際
あまりにも早期に生命の危機へと陥った主人公君を見ていた私は
製作者を失った世界の崩壊に依って
“マリアンヌまでも失ってしまうのでは”……と恐怖を感じた。
そもそも……どの道、主人公君を助ける行為自体が
ある種のグレーゾーン的決断である事に変わりがないのであれば
主人公君が今後生命の危機に陥ったとしても
直ちには問題と成らぬ様、生命力の移譲を行った際
五人分の生命時間を全て移譲したのだ。
……後は説明せずとも分かる筈」
「成程ね~……と言う事は、主人公君に何も起きなければ
合計で二百年を超えて生きる事が出来る程の生命時間を持っていたって訳だ。
まぁ……それならこの“結果”にも納得だけど
嫌な“置き土産”ばかり用意してくれたキミが本当に不愉快だ」
<――と言う二人の会話を聞く限り
つまりはヴィシュヌさんが俺の為……と言うか
主に“マリアンヌ”さんの為に、ゲームで言う所の
“ベリーイージー”みたいな状態にしてくれてたのだと知り
居ても立っても居られず、つい口を挟んでしまった――>
………
……
…
「つまり……俺の命は“猫の命”的な事か? 」
「いいや? ……ヴィシュヌ君の話を聞く限り
流石に“九つ”もは無いみたいだけどね? 」
「そ……そう言う問題じゃなくてだな!
てかそもそも……この世界が理不尽難易度なのが悪いだろ!
ヴィシュヌさんは気を遣ってくれただけで! ……」
「……主人公君。
キミは転生前、ゲームで失敗する度に
“クソゲー”だ“クソゲー”だと度々文句を言っていた様だが――
“ゲーム”にしろ、この“世界”にしろ
――まずは、キミ自身の腕を磨いてはどうかと僕は思うんだけどね? 」
「ぐっ……そ、そんなの個人個人の能力だしほっとけよ! 」
「まぁどうでも良いけど……真剣な会話に割って入った挙げ句
話を逸らすとは感心しないね? ……
……僕は今、この状況に猛烈に不愉快なんだよ?
と言うか……権限や権力を持つ相手からは
たとえ僅かでも嫌われない方が身の為だと思うけどね? 」
「そうやって毎回脅して従わせて……楽しいのかよ!! 」
「ああ、とても……特に“嫌いな相手”に対してはね。
……兎に角、ヴィシュヌ君のやった事だから
それに関してはこれ以上、主人公君を責めたりはしないが。
それよりも、何故君がこの空間に“攻め入って”来たのか
僕は未だ……その理由を聞いてないんだけどね? 」
「……理由ならさっきも言っただろ!!
何で俺を……転生前の世界に似せた場所に閉じ込めた?!! 」
「あ~……そう言えばさっきもそんな事を言ってたっけ?
けど、僕だって君のログを全て見ている訳じゃないし
幾つもの異世界を掛け持ち管理している僕が
常に君に掛かり切りに成ってると思ってるのは思い上がりだ。
……その証拠に、僕は君が何故此処に来たかも理解していないし
此処に来る事が出来た意味も全く以て理解不能さ」
「ふざけんな! ……俺は確かにさっきまであの亀裂の向こうで
何ヶ月も元の世界に似せた世界に閉じ込められてた。
……俺の作った世界で出会った全てを妄想だと医者に言われて
苦しくて死のうとして、包丁を探したら“これ”が出て来たから
それで……紛い物の世界だと気がついただけだ!
もし家にロープでもあればそのまま俺は……」
「……待った
もう少しログをしっかり確認させて貰うよ? 」
<――そう言うと再び制御盤を操作し
俺が“後進復帰”を使用した時の映像を映し出すと
良く分からない記号だらけの画面を事細かに確認し始めた上級管理者。
そして、俺が技を解除した瞬間で映像を停止したかと思うと――>
………
……
…
「……成程、完全に“ERROR”を吐いてる。
通常のシステムからすれば限界を超えた戻し方だし
恐らく……負荷が掛かり過ぎたのが原因の様だね」
「……良く分からないが
それで何で俺は元の世界に似せた世界に閉じ込められたんだ? 」
「面倒だけど……仕方無いから分かり易く説明してあげよう。
先ず……一時的にではあるけれど
君の作った異世界には重篤なERRORが発生した。
原因はさっき説明した通り、君の技の使い方が“常軌を逸していた”事。
それで……崩壊を防ぐ為、世界の再起動を行っていた様だけど
君の世界は君自身が鍵の役割を持っているから、君ごと再起動を行えば
再起動は必ず失敗し、世界の崩壊を招いてしまう。
だから……システムが君の脳の記憶領域にあるデータを借用し
一種の避難室を作り出した。
それがたまたま、君の忌み嫌う世界を模した場所だったって事。
……幾ら君の事を嫌いとは言え、僕が意地悪をした訳じゃ無いから
これ以上僕を悪者扱いしないで欲しいかな?
ハッキリ言ってもの凄く“不愉快”だから……さ? 」
「そうだったのか……それは本当にすまなかった」
「素直で宜しい……ただ、僕にも理解出来ない事が二つ程有ってね。
まず一つ目……何故その空間から此処へたどり着いたのかまでは
ログの残らない空間なのも手伝って僕にも解析不能な事。
そして二つ目……君が持っているその謎の“物質”だけど
何故此処の防壁を崩壊させる程の能力を持っているのかって事よりも
僕が形状すら判定不可能な事の方が不愉快。
正直……我慢してるだけで相当イライラしてるから
君がその謎の物質について説明しないつもりなら……
……君の世界を今すぐ消去しても良いんだよ? 」
「なっ?! ……説明するからそれだけは止めてくれ!!
お、俺の異世界でのログとやらを見れば分かる筈だが
とある洞窟で手に入れた“魔導之大剣”って名前の特殊な武器だよ。
……何故かは俺も分からないが食器棚の奥に入れてあった包丁箱の中に
包丁の代わりに仕舞われてあったんだよ!
誓って嘘はついてないから、ログって奴を確認してくれ! 」
「分かった……確認するから待ってて」
<――言うや否や洞窟の“ログ”を確認し始めた上級管理者
だが……確認し終えた瞬間
上級管理者の不機嫌さには拍車が掛り――>
………
……
…
「……違う、断じて違う」
「何が違うんだ? 俺は確かに其処でこれを手に入れて……」
「……僕は今、君が手に入れたと言う装備のデータを全て確認した。
だが……異常な燃費の悪さと桁違いの破壊力は
あの世界だけで適用される仕様だったし
此処の防壁を切り裂く程の能力が付与されるなんて有り得ない。
……そもそも、ログで見た形状を現在進行系で僕に認識出来ないなんて
その物質は断じて……君の言う
“魔導之大剣”なんかじゃ無い……」
<――毎度ヘラヘラとした態度で全てを見下して話す上級管理者が
見た事の無い程に憤慨している……と言うか
コイツの言う様に、俺の手にある“これ”が魔導之大剣じゃ無いとするならば
一体俺は“何”を持ってこの場にいるんだ? ――>
………
……
…
「な、なぁ……なら、これはどうすればいいんだ? 」
「一度僕に渡し……いや。
触れて何か遭っても困る……一度此処に置いて貰おうか」
<――そう言って指し示した場所には“解析機”の様な物が設置されていた。
恐る恐る其処へと“これ”を置いた俺。
すると――>
「……まさかとは思ったけど、解析不能だと出たね。
相当不愉快だけど君に教えてあげよう、僕からは……こう見えている」
<――そう言うと制御盤へ何かを入力し始めた上級管理者
暫くの後、大画面に映し出されたのは――
“Null”
――と言う四文字の英単語だった。
俺の記憶が確かなら、パソコン用語で言う所の
“存在しない”って意味を持つ言葉だった様な気がする。
だが、そうなってくると……この世界はパソコンの内部って事か?
俺は……パソコンの中で生きてるのか?
と言うか、上級管理者やヴィシュヌさんが
少し前に、俺の生きる世界の事を
“作り物”とか“借りの存在”って呼んでた事を思い出した。
けど、駄目だ……思い出しはしたが
考えが纏まらない上に真実を知るのが怖く成り始めた。
……恐怖と不安に苛まれていた俺だったが
そんな俺の横で突如として何かを思い出した様に笑い始めた上級管理者。
直後、急に真面目な顔に戻ったかと思うと――>
「もう一度だけ、良くログを見てみるよ」
<――そう発した後
再び洞窟のログを確認し始め――>
………
……
…
「成程……やっぱりか」
「何か分かったのか? ……結局なんだったんだ? 」
「ん? ハッキリ言うけど、僕は君の事が大嫌いだ。
だから、絶対に教えない……さて、早く帰ってくれるかな?
僕は今相当にムカついてるんだ……」
「な、何だかわからないが……“これ”はどうすればいい? 」
「知らないよ……持って帰ったら? 」
「そうして良いならそうするけど……と言うか質問を何個かしても良いか? 」
「……内容に依るけど、後二〇〇秒以内なら答えてあげよう」
「なら……俺の世界に他の異世界から人が飛んで来てるのは何でだ?
本来ならルール上駄目な筈だろ? 」
「ああ、それね……容量超過世界の住人を送ってるだけさ。
主には、君の世界や君の行動の所為で起きた“超過者達”と
一部“とある事情”でそうせざるを得ない者達を送ってる。
でも――
“ルール違反だろ、勝手な事をするな! ”
――なんて言うつもりなら止めて貰いたいね。
君のルール無視と迷惑な行動は幾度と無く見逃してあげたんだ
その君から文句を言われる筋合いは一切無い」
「分かった……何と無く理由が分かっただけでも良しとしておくよ。
……最後にもう一つだけ質問していいか? 」
「時間的にも最後だし……許してあげよう」
「……俺を含め、何で異世界に転生させて貰えてるんだ?
選定基準も分からないし、お前達の目的もさっぱり分からない。
もし……お前達の“遊び”に付き合ってるだけなのなら
ハッキリとそう言ってくれた方が幾らか諦めも……」
「……残念だけどその質問には絶対に答えられないし
君と異世界とのリンクも完了したみたいだからさっさと戻ってくれるかな?
あっ、そうそう……一応、餞別として教えて置くけど
“後進復帰”は君の残り寿命的にもう使わない方が良いよ?
そもそも今の助言を最後として……僕は
今後一切“君を助けるつもり”は無いから。
では、さようなら……二度と会いたくないランキング第一位君」
「そっ、そんなランキング……っておいッ!!
戻るって言ったってこの“見た目”のままで――」
《――直後
眩い光に包まれこの“空間”から消えた主人公。
そして……彼の去った後。
静寂の訪れたこの“空間”では――》
………
……
…
「それにしても……“父”の残した“悪戯卵”が本当に不愉快だ。
さっきも恐らくは……」
《――そう言い放った上級管理者の眼前には
謎の“暗号文字”が表示されていた――》
………
……
…
「――おい上級管理者ッ!! ……って、此処は……空中ッ?!
ちょ!? ……すげぇ勢いで落下してるッ?!
死ぬ死ぬ死ぬッ!!! ちょっと……
マジかぁぁぁぁッッ?! ……」
<――拝啓
クソ上級管理者様。
“紐無しバンジージャンプ”を絶賛体験中の俺が
肝を冷やしまくってる現在……如何お過ごしでしょうか?
俺は“決死の覚悟”をしていたつもりですが
コレは流石に“すっげぇ怖え”です。
さて……そんな事を考えていたら
とても見覚えのある建物の真上に落下しました。
……でも、不思議と痛みは無く
屋根をすり抜けて、着物姿のナイスなイケメンの身体に
無事“着地”する事が出来ました。
何と其処は……異世界での俺の身体だったのです。
無事に大切な皆の待つ異世界へと戻る事が出来たのは
偏に“クソ上級管理者様”のお陰かと存じます。
追伸……クソ上級管理者様。
戻り方がこう言う“形式”なのでしたら
ちゃんと教えとけやボケがァァァァァァッ!!! ――>
………
……
…
《――主人公が心の中で上級管理者に対し“妙な手紙”を書いていた頃。
“後進復帰”に依って時間の戻された異世界では
“棒立ち”と成って居た彼に対し
必死に呼び掛け続ける者の声が響いていた――》
………
……
…
「……さんっ!! ……主人公さんってば!! 」
「んがっ?! ……マ、マリアッ?! 」
「……“舞踏会後”で疲れてるのは分かりますけど~
流石に立って寝るのは止めてくださいよ~? 」
「あ、ああ……悪かった」
<――どうやら俺は
舞踏会を終え、宿に戻った後の時間に戻されたらしい。
マリア、メル、マリーン、リーア、ガルド……皆居る!
間違い無く戻る事が出来たッ!
……とは言え、困った。
確かこのタイミングで皆に長々と挨拶した後
おやすみを言ったんだっけか? ……戻れて嬉しい反面
正直……何を言ったか思い出せない。
取り敢えずあまり語らず、おやすみとだけ言う事にしてみた――>
………
……
…
「と……取り敢えず!
このまま立って寝たら皆に迷惑掛かるし部屋に戻って寝る事にするよ!
……おやすみ! 」
「本当ですよ全く~……でも。
舞踏会での主人公さん……その、珍しく格好良かったですよ!
そ、それじゃ私も寝ますね! おやすみなさいっ! ……」
<――言うや否や
ガンダルフも真っ青なスピードで自室へと走り去ったマリア。
だが、何だか顔が赤かった様な……
流石のマリアも疲れてたのだろうか? ――>
「珍しくでもありがと……って居なく成るの早ッ?! 」
<――直後
そう驚く俺に対し――>
「あ、あのっ! ……珍しくじゃなくて……とっても格好良かったですっ!
ま、また……その……あんな風に主人公さんと踊れたら
嬉しいなって……その……わ、私も早く寝ますねっ!
……お、おやすみなさいっ!!! 」
<――と、メルちゃんも顔を真赤にしながら
凄まじいスピードで走り去って行った。
そっか……そう言えば俺、舞踏会で
何故か素直な気持ちに成って女性陣一人一人に感謝を伝えたんだっけ。
と、そんな事を考えていた俺に対し
マリーンまでもが――>
「……兎に角、たまに見せる主人公の男らしさみたいなのって
結構……かっ……格好良いと思うし?!
兎に角、また一緒に踊ってよね?! ……じゃあ、おやすみッ!!! 」
<――この有様である。
そしてこの後、リーアも俺に対し――>
「……本当に素敵だったワ♪
森の事……解決した後も
ずっと一緒に居たい位アナタの虜に成っちゃったもの♪
でも、とても疲れてる様に見えるワ?
だから……今日は確りと休んでネ? 」
「ああ、ありがとう……リーアも良く休んでくれ」
「ええ、おやすみなさいネ♪ 」
「ああ、おやすみ! ……さて、ガルドもよく休んでくれよ?
ガルドだって沢山踊ってたし……流石に疲れたろ? 」
「吾輩は然程疲れてはおらん……だが、忠告通りよく休んでおくとしよう。
……主人公よ、御主もよく休むのだぞ? 」
「ああ、心配ありがとう! んじゃおやすみッ! ……」
<――こうして全員に寝る前の挨拶を済ませた俺は
自室へと戻り、部屋の扉を閉め――>
………
……
…
<――天照さんから預かった大切な本を机の上に置き。
そして――
“……この本を見つけたのが
マリア、メル、マリーン、リーア、ガルドの誰かだったら
出来る限り早く、確実に天照さんに返してくれ。
……そして、俺の代わりに
直接お返し出来ず申し訳ありませんでした……と、伝えて欲しい。
追伸、この書き置きが永久の別れの言葉に成らない様
絶対に生きて帰る、絶対に全員を護るって約束する。
だから……皆は此処で安心して待ってて欲しい”
――そう書いたメモを
本の横に置いたのだった――>
………
……
…
「……俺はもう、誰も失わない。
俺は……全員を助ける。
俺は……たとえクソゲーでも
絶対にこの世界を投げたりはしないッ!
皆、必ず戻ってくるから……待っててくれ。
転移魔導、対岸へ――」
===第一〇二話・終===