第一〇一話「楽勝……」
<――時間を戻す事が出来ると言うトライスター専用技
“後進復帰”を発動した俺
……無事時間を戻す事に成功し
その上、皆が無事な時間まで戻す事が出来た。
だが、最後に赤いデジタルクロックのカウントを見た時
“マイナス百六十年”って書いてあった事が少し気がかりだ。
……とは言え、皆を助けられたんだから
些細な欠点位なら受け入れるつもりだ。
そう思いつつ、俺は“後進復帰”を解除した。
だが――>
………
……
…
<――体が重い。
“横になっている”と言う感覚だけは判るが
これが後進復帰の弊害なのだろうか?
と、そんな事を考えていた時――>
「さん……主人公さん……今日も駄目ね……数値は全て正常なのに……」
<――何やら俺を呼ぶ声が聞こえた、だが聞き覚えの無い声だった。
と言うか……“数値は正常”って何の事だ?
……取り敢えず、状況を確認する為
ゆっくりと目を開けてみる事にした――>
………
……
…
「本当に早く意識を……って主人公さん!?
い、今ドクターを呼んできますのでッ! ……」
<――どうやら、俺の名前を呼び続けていた女性は看護師の様だった。
だがそんな事よりも……何処からどう見ても此処は病院だ。
それも、転生前の世界にあった様な類の……そして
周辺を見回してより一層唖然とした。
俺は“結構な”マシンの中に入れられてる
それこそSF作品でよく見る“医療ポッド”みたいな感じの奴だ。
状況を確認する為に目を開けた筈なのだが……状況が全く分からない。
……暫く悩んでいた俺だったが、慌てて立ち去った看護師らしき女性が
医者らしき男性を引き連れ帰って来たので
思い切って訊ねてみる事にした――>
「あ、あの……此処は一体……」
<――そう訊ねた俺に対し
医者らしき男性から発せられた返答は
俺を激しく苦しめる事と成った――>
………
……
…
「ここは病院ですが、それよりも……主人公さん
貴方は約三年の間、昏睡状態でした……その為、検査が必要です。
……初めに記憶と認知機能の確認をさせて頂きたい
先ず……トラックに撥ねられた事は覚えておられますか? 」
「……は?
い、いやまぁ……それは勿論覚えてますけど……」
「ふむ……では次に、ご自身の名前やご両親の名前。
年齢、性別、ご自宅の住所などを……」
<――そう質問された瞬間、とても嫌な流れを感じた。
明らかに魔導では無い動力で動いているであろう医療機器が並ぶ周囲を見回し
一応、確認の為“ある質問”を投げ掛けた――>
………
……
…
「あの……エルフ族やオーク族などの多種族の皆さんは何処に居ますか?
あと、政令国家へはどう行けば帰れますか? ……」
「エルフ族やオーク族……政令国家?
成程……主人公さん、落ち着いて聞いてください。
……昏睡状態が長く続いた患者様の脳内では
長く続く夢の様な物を見続けている事が多く
昏睡から覚めた後、それをまるで現実の様に感じてしまう事があり……」
<――嫌な予感が的中してしまった様に感じた。
マリア達や政令国家、皆と過ごした全てが俺の夢や妄想だと?
心の底から断じて認められないと思った。
……けど、この医者が言う様に
転生なんて現象の方が余程非常識なのも理解出来る。
……何れにしろ、俺の精神は酷い不安感に押し潰されそうに成っていた。
にも関わらず、そんな俺に対しこの医者は――>
「まぁ……カウンセリングを受ければ
徐々に日常生活に戻る事が可能ですから、あまりお気に為さらず……」
<――そう言った。
気がつくと俺はこの医者に掴み掛かって居た――>
………
……
…
「お、落ち着いてください!! ……君!! ……早く鎮静剤を!! ……」
「ふざけんなッ!!! あの世界が俺の妄想だとでも……い……う……」
《――極度の興奮状態にあった主人公は
投与された鎮静剤の効果により意識を失った。
そして、翌日――》
………
……
…
<――昨日の事があったからか
俺の寝てる“医療ポッド”はしっかりとロックされている様だ。
目の前の透過ディスプレイに
デカデカと“ロック中”って書かれてる位だし――>
「……俺はあの世界の時間を戻した筈だ。
皆を助ける為に必死に成って戻したんだッ!!!
なのに何で……
……何でこんなクソみたいな世界で目覚めなきゃならねぇんだよッッ!!! 」
<――悔しさなのか、寂しさなのか
何が理由かすら判らなかったが、急に涙が溢れてきた。
だがそんな時、病室の扉をノックする音が聞こえた――>
………
……
…
「主人公さん……警察の方が
お話を伺いたいとの事でお越しになられているのですが……」
<――そう言って警官を引き連れ現れた看護師
警官は現れるなり、俺に対し――>
「病み上がり早々の訪問申し訳ありません、本日は事故の詳しい状況と……」
<――と、口だけの気遣いを終えると
嫌と言う程細かく事故当時の状況を訊ねてきた。
けど、詳しく何かを聞き出そうとされた所で――
“轢かれて凄く痛かった”
――って位しか覚えてないっての。
得られる情報は然程無いと判断したのか、警官は余談の様に
事故の細かな状況やら内容やらを話し始めたんだが
そんな事を聞かされてもどう答えて良いか分からない。
……そんな話の最中“犯人は逮捕しましたのでご安心を”と言われたが
良かったとも、悪かったとも思えないし……と言うか
俺が今まで異世界で経験した事の全てが
昏睡中の夢だったと言われた事の方が何千倍もキツい。
人生“投げてた”元の世界にいきなり引き戻されたからってだけじゃ無く
皆と“もう会えない”って事実の方が何千倍も俺を苦しめていたのだ。
……当然だが
そんな事を考えていたら警官の話は何も入ってこなくて――>
………
……
…
「……以上が事故の全容です」
「そう……ですか、ご説明どうも」
<――暫くの時間が経ち、警官と看護師から
立て続けに手続きだ何だと良く分からない書類へのサインを山の様にさせられた。
そして、全ての書類に記入し終えた俺に対し――>
「では……簡単な検査を受けた後、ご帰宅頂けます」
<――と言って来た看護師
どうやら“カウンセリング”の話は無かった事に成ったらしい。
まぁ……医者に掴みかかる様な患者は厄介だもんな
と言うか、俺はこの後家に帰る準備をしないと駄目なのか?
……何だか現実感が無い。
“ポッド”の横には事故当時、俺の持っていた財布とスマホ
家の鍵が置かれてはいたが……服が無い。
その事を訊ねてみると手術の時に切ったから捨てたらしい。
最悪だ……一応あれでも“お気に入り”だったのに。
ただ……流石に患者衣で帰る訳にも行かないので
病院の売店で売ってるらしい服のセットを買って帰る事にした。
けど、ファッションに興味もセンスも無い俺ですら分かる。
高い上にクソダサい――>
………
……
…
<――取り敢えず病室に戻り“高くてクソダサい服”に着替えた後
忘れ物のチェックをしていた俺。
……全くと行って良い程気持ちの整理は付いていないが
退院しろと言われた以上、病院を出るしか無い。
しかし……気持ちの整理がついていない上
病み上がりだと言うのに、ビックリする程に腹が減りだした。
けど……流石に
さっきの売店で売られてた“高くて不味そうな飯”を買うのも癪だし
ヴェルツの美味しい食事が恋しく成って来て……クソッ!!!
……俺は財布の中を確認し
コンビニで弁当を買って帰る事にした――>
………
……
…
<――病院を出ると見覚えのある景色が広がっていた。
うん……間違いなく元の世界だ。
再び強い嫌悪感に襲われた俺……
……妙に突き刺さして来る日光に苛立ちつつ
家の近所のコンビニに寄って帰る事にした――>
………
……
…
「……ありゃりゃした~」
<――定型文の挨拶に慣れ過ぎて、語彙がぶっ壊れてる
陽キャっぽい店員の挨拶を背中に受けつつコンビニを後にした俺。
……良く考えたらコンビニからの帰宅途中に轢かれたんだよな?
普通にコンビニに行けた辺り心的外傷には成ってない様だ。
なんて事を考えつつ暫く歩いてると自宅が見えてきた。
……心做しか近隣の家よりも寂れてる様に見えたが
あまり気にせず玄関の鍵を差し込み、回した瞬間……少し重たさを感じた。
三年だもんな……家の中もホコリだらけだ。
と言うか……ただでさえ普段から掃除して無かった上に
三年も留守にしてたらこう成るか――>
………
……
…
「……あの世界が夢だったとか、今更言われてどうすれば良い。
辛い事も沢山あったけど……あんなに沢山の大切な人達が居た世界が
全部……全て俺の妄想だったのか?
駄目だ、全く頭が纏まらない……取り敢えず飯でも食うか。
あっ、温めて貰えば良かったな……」
<――そう独り言を言いつつ
電子レンジに弁当を入れてスイッチを押した。
だが――>
「ん? 壊れてるのか? ……いや、違う。
……支払いもだけど、三年も使わなきゃ止められるよな」
<――この後確かめてみたら、電気も水道もガスも全部止まってた。
面倒だが、直ぐに復旧して貰う為スマホを手に取ったら
スマホの電池も切れてやがった――>
「あぁもうッ!!! ……」
<――直後
思わず買ったばかりのコンビニ弁当を投げてしまった。
汚い部屋が余計に汚れたし
明らかに掃除が大変な感じになったが……もう良い。
……ファミレスに行ってコンセント使わせて貰おう。
そう思った俺は近所のファミレスへと向かった――>
………
……
…
「いらっしゃいませ~ お一人様ですね? お席は……」
<――ファミレスに入店後、少なくとも
“語彙がぶっ壊れてない店員さん”に案内され席へとついた俺は
ランチセットとコンセントの使用許可を“注文”し
スマホを充電しつつ、各種請求書に記載された連絡先の確認をしていた。
……暫くしてランチセットが運ばれて来たのだが、一口食べた瞬間思った。
ファミレスとは言え、ある意味久しぶりに食べる故郷の味だな……と。
まぁ……何故か一ミリも美味しいと感じなかったが。
兎に角……食事後、まずは電力会社に復旧の連絡を入れようとした俺。
だが――>
………
……
…
「電話もかよ……クソッ!
……クソッ!! ……クソがぁぁぁぁっッ!!! 」
<――ファミレスの店内に響き渡った俺の怒声。
他の客達がざわつき始めたと同時に
恐る恐る近づいてきた店員さんから声のトーンを落とす様、注意され――>
「申し訳……ありませんでした」
<――早々に支払いを済ませ、逃げる様にファミレスを後にした俺。
そして、何一つ復旧されていない自宅へと帰った――>
………
……
…
「……何から手を付けていいかすら分からない。
少なくとも今日はもう……無理だ」
《――そう呟き、ベッドへと倒れ込み
枕に顔を埋め声を枯らし泣き続けた主人公。
そして……この日から数日後。
……重い腰を上げ、全ての手続きを済ませた彼は
まるで燃え尽きたかの様に、転生前よりも
更に自堕落な生活を送り始める事となる――》
………
……
…
《――数ヶ月後
其処には……カーテンの閉め切られた薄暗い部屋の中
放置された大量のインスタント食品や飲み残したペットボトルの数々……
……足の踏み場も無い程のゴミの山の中で不機嫌そうな表情を浮かべつつ
モニターに向かい、悪態をつく主人公の姿があった――》
………
……
…
《《……GAMEOVER!!! 》》
「チッ! ……こんなの絶対クリア出来る訳ねぇし!!
こんなクソゲー俺でも作らないわ!!! ……」
《――そう言い放った瞬間
突如として堰を切った様に涙を流し始めた主人公。
彼は……頻りに仲間達の名前を呼び続け、その度に胸を抑え
張り裂けそうな程の苦しみに耐え続けていた――》
………
……
…
「あの出会いが……あの世界が……全部
……全部俺の妄想だったってのかよ?!!
だとして……何で管理者はあんなに性格悪かったんだよ!
何であんなに大切な人達を失い続けなきゃ駄目だったんだよ?!!
……夢だったならせめて最後までずっと
楽しい夢を見せてくれてたら良かったんじゃねぇのかよッ?!!
……何で……何でッ!!!
……百歩譲ってあの世界が夢だったとしても
何でこの世界で生かされ続けなきゃ駄目なんだよ?!!
何で生き続けなきゃ駄目なんだよ?!!
病院も病院だ! ……何で俺みたいな奴の為に
見た事も無い“医療ポッド”まで使って
俺みたいなクズの事を救ったんだよ?! 」
<――俺はずっと喚き続けた。
何故あの世界が妄想だったんだ! ……と。
そうして散々喚き散らした後……
俺はある“おかしな点”に気がついた――>
………
……
…
「待てよ? ……よく考えたら
俺は何故、SF作品に出てくる様な“医療ポッド”を普通に受け入れてた?
この世界に、いや少なくとも“この時代に”あんな高性能な物は無い筈だ。
……ニュースですら聞いた事無いし、あれに近い物で
見た事があるとすれば……酸素カプセルか
“日サロ”に置いてある日焼けマシン位の筈だよな?
と言う事は……仮にこの場所がもし、元の世界を模した何かだったとしたら!
限定管理者権限ッ!!! ――」
………
……
…
「――何も起きる訳無いよな……馬鹿みたいだ俺。
いや……そもそもあの時、固有魔導は剥奪されたんだったよな。
……かと言って普通の技を試そうにも装備が無いし
仮にこの世界が作り物であったとしても
装備がなければこの世界で生活し続けるしか無いし……」
<――と、俺は一向に纏まらない考えを全て口にしていた。
……皆の居たあの世界が妄想だと医者に言われ
それを認めたくないあまりに
更に妄想してるだけかもしれないと半分は思ってた。
けどそれでも、やっぱりあの“医療ポッド”はおかしい。
だが、どれだけ考えた所で解決する事は無く……
……この日から更に数日が経ち、自堕落な生活に嫌気が差し始めた俺は
思い立ち、部屋の……いや。
家全体の大掃除を始めた――>
………
……
…
<――約三年分。
留守中の汚れと、此処数ヶ月の自堕落さが追加され
知らぬ間に悍ましいレベルの“魔城”を築き上げてしまっていた俺。
……うず高く積み上がった大量のゴミを数日間かけて処理し
それに依り連日続いた筋肉痛に苦しみつつも
それでも少しずつ片付け続け……
……それと共に謎の達成感だけを積み重ねていった俺。
そう言えば――
“自分が一番落ち着く所を最後に片付けるのが一番モチベーションが続く”
――とかって話を何処かで聞いたのを思い出し
その通りの順番で片付けてみたが、確かにモチベーションは続いた気がする。
そうそう、それと実は……俺は謎の達成感の正体を知っていた。
最後に残ったこの部屋を片付けたら……俺はもう
この世界から“消えよう”と考えていたんだ――>
………
……
…
「そもそも……皆に会えない云々以前にこの世界には元々未練が無い。
父さんにも母さんにも顔向け出来そうに無い俺の“惨状”
この世界に……こんな人生に、一欠片として未練なんてある訳が無い」
<――片付けも残す所後少しと成った。
それと同時に、自室に隠してあった
“秘蔵コレクション”の処分を思い出した俺――>
………
……
…
「流石にこの引き出しの中身は処分しておかないと……
……“色んな意味”で恥になるな。
少し勿体無い気がするけど、思い切って処分しておくか……」
<――と、誰にも聞かれたく無い独り言を発しつつ
ベッドの下に備え付けられている大きな引き出しを開けた俺。
其処にぎっしりと詰め込まれた“コレクション”の数々を
一つずつ処分し続け、最後の引き出しに手を掛けた俺は――>
「……これでこの引き出しに俺の装備が入ってて
“トンデモ展開で元の世界に帰る事が!! ”
……って事が出来たらどれ程救われるんだろうな。
まぁ、開けなくても覚えてるよ……ここは俺の
“最上級コレクション専用”の引き出しだからな。
中身も全部覚えてる……てか、どうせ此処を処分したら俺は死ぬんだし
最後に最上級コレクションの“お世話”にでもなっておくか」
《――質の悪い冗談であったのか
本当に“そう”するつもりであったのか。
……何れにしろ、彼は
“最上級コレクション専用”の引き出しをゆっくりと開き
コレクションの山を漁り始めた――》
………
……
…
「この子だ! ……いや、この子も捨てがたいな。
……もう少し吟味するか」
《――そう言うと、片付けた筈の部屋の床に
引き出しの中身を全て取り出し丁寧に並べ始めた主人公。
全て並べ終わると、再び慎重に吟味し始めた。
だが――》
………
……
…
「あれ? ……何で俺また泣いてるんだ?
……どうしたんだよ、俺は……ッ!!
最後に気持ち良く成るんじゃ無かったのかよ!
……くそッ!!!
コレの何が最上級コレクションなんだよッッ!!! 」
<――ずっと、ずっと……俺の妄想だったのかもしれない。
だけど……俺は、間違い無くマリアやメル
マリーンやリーアって言う最高の女性達と嫌と言う程共に過ごした。
こんな自堕落な中身を持つ俺の事を
心の底から大切に扱ってくれた……そんな聖母の様な女性達と。
……腐った俺の心を抱き締めてくれて
心の底から大切にし続けてくれた女性達だ。
勿論……ガルドだってそうだった
確固たる地位を投げ捨ててまで俺の味方で居続けてくれた。
ディーン隊の皆だって、俺と共に歩んでくれた。
……エリシアさんもラウドさんも、オルガもガーベラさんも
クレインもミアさんもガンダルフもリオスも……皆ずっと
俺の味方で居続けてくれた。
そして……ミリアさん。
あの人は間違い無く……俺に取っての第二の母だった。
……あの世界が妄想で、もう二度と皆には会えないってんなら
俺がこの世界で生きていく意味なんて何処にも無い。
俺は……折角片付けた筈の部屋に
エロコレクションをぶち撒けたまま泣きながら死ぬ準備を始めていた――>
………
……
…
「てか……こんな事に成るなら片付けなんてしなくて良かったな。
けど、首を吊ろうにも紐らしき物が無い……困ったな
他に使える道具は……そうだ。
キッチンに行けば包丁があった筈だよな? ……」
<――痛いのは何よりも嫌いな筈の俺だったが
どうやらこの世界に生き続ける辛さが遥かに上回ってたらしい。
……あまり迷う事無くキッチンへと向かい
包丁を探して流し台の扉やら引き出しを漁って居た……だが
探し続けても包丁が見当たらない。
と言うか、直ぐに面倒臭くなって辞めたとは言え
一時期何故か料理にハマって
結構高級な“マイ包丁”を買った筈だったよな? ――>
………
……
…
「えっと……確かこの食器棚の奥に仕舞った様な……」
<――そうブツブツと独り言を言いつつ
食器棚の奥に収納してある筈の包丁の箱を探していたら……見つけた。
仰仰しい箱に筆文字で
“別注・御料理包丁”と書かれている箱を。
……直後
この箱を開けた俺
すると――>
………
……
…
「何だこれ? ……こんな物入れた覚えが……」
<――箱から出て来た物は
“別注・御料理包丁”……では無く。
“硝子か何かで出来た円柱状の棒きれ”一本だけだった
だが、こんな物を買った覚えもなければ
家にこんな物……いや待て。
……見覚えしか無いッ!!!
間違い無く“これ”はッ!! ――>
………
……
…
「――“魔導之大剣”
……これがこんな所にあるって事は
此処は間違いなく俺の作った異世界だ。
……おい、管理者!!! ……クソ管理者!!! ……居るんだろ?!
どっかで俺の事を見て悪趣味に笑い転げてるんだろ?!
クソ野郎!!! ……早く出てこいッッ!!! ……」
<――俺は、力の限りに怒鳴り散らした。
けど……近隣住民に通報され警察が来ただけで
管理者が出てくる事はなかった。
……結構長めに警察から厳重注意を受けた後
改めて自室へと戻り、魔導之大剣を手に一人悩んでいたのだが――>
………
……
…
「……どう考えても魔導之大剣がある事自体がおかしい。
管理者が出てこなかった事は謎だが……」
<――さっきまでは死のうとしていた俺だが
一筋の光が見えた事で、今度は必死に戻る手立てを考えていた。
だが……数時間程考えて尚
全く以て答えの出ない状況に苛立ち初めた俺は、つい――>
「くそっ!! ……ってぬわぁぁっ!? 」
<――苛立ちがピークに達し
つい……魔導之大剣を強く握りしめてしまったその瞬間
喜ぶべきか、慌てるべきか……その行動に依って魔導之大剣は起動。
慌てて手を離した俺だったが、同時にある事を思い出した――
“君がたとえ悪であれ、善であれ最早私には預かり知らない所だが
その“魔導之大剣”には世界を変える程の能力が秘められている。
魔導保有量が化け物としか思えぬ者にのみ扱える大変癖のある代物だが
ここまで辿り着いた君ならば必ず使いこなせる事だろう”
――あの洞窟で魔導之大剣と共に宝箱の中に入れられていた手紙に
そう書かれていた事を思い出した。
“世界を変える程の能力が秘められている”
……間違い無く、確かにそう書いてあった筈。
それに、俺にはこれ以外の手立てがもう無い……暫く考えた後
俺は――>
………
……
…
「あの世界に帰りたい……
皆の元に帰りたいんだ……
何としても帰るぞ……
世界を変える力……掛け値無しの大マジに信じるよ。
だから魔導之大剣、俺に――」
………
……
…
「――皆の所へ帰る力をッ!!
寄越せぇぇぇぇぇッ!!!!! ――」
《――言うや否や
魔導之大剣を強く握りしめた主人公
瞬間――
――魔導之大剣は眩い光を放ち
天を切り裂く程の巨大な刀身を顕にした。
そして……この直後
彼は、祈る様に……そして力の限りに
魔導之大剣を振り下ろした――》
===第一〇一話・終===