第一〇〇話「壊れたら……直すのは楽勝ですか? 」
《――長らく続く地下通路を懸命に走り続けていたリオス
だが……彼が脇腹に負ったその傷は
彼の体力を奪い続けていた――》
………
……
…
「ッ!! ……何時もより……遠く……感じるッ! ……」
《――本来
政令国家に籍を置く獣人族の中でも
トップクラスの脚力と走破力を有しているリオス
……普段の彼であれば、夜通し走り続けようとも息すら上がる事は無い。
だが……走る度に鋭い痛みが襲い
血の滲み出る傷口を押さえつつと成れば
その苦しみは想像を絶する物と成り……
彼の身体は如実に悲鳴を上げ始めていた――》
………
……
…
「……あと少し……あと少し走れば……バルン村に辿り……着け……る……」
《――朦朧とする意識の中
遠くに見える微かな光を頼りに
歩みを止める事無く必死に歩を進めていたリオス。
……数分後、漸くバルン村の出口へとたどり着いた。
彼は――》
………
……
…
「嘘……何で……」
《――彼の目に映った光景
それは“燃え盛るバルン村”の姿であった。
……周囲に転がる多数の亡骸は
村人や戦士らの他、駐在していた魔導兵……そしてその付近には
“魔族の死骸”も見られた。
……だが、これ程の惨状にありながら
何故政令国家への救援要請が為されていなかったのか
或いは、そうする暇さえ与えられる事が無かっただろうか……
……何れにせよ、この場所に彼の傷を癒せる者は一人として居ない。
直後……悪化の一途を辿る傷口を強く押さえ、歯を食いしばると
バルン村を後にしたリオス――》
………
……
…
「ぐっ……急がないと……駄目……なのに……ぐわぁっ!! 」
《――バルン村を立ち去り、数十分ほど歩いた頃だろうか。
朦朧とする意識を辛うじて保ちつつ
彼は必死に歩を進めていた……だが、突如として襲いかかった激痛に
思わず体勢を崩した彼は、立つことすらままならぬ状況の中……
……それでも懸命に、這う様に進み続けた。
だが……彼の身体は既に限界を超えていた。
意識は遠のき、視界も狭まり……次第に
呼吸すらも儘ならなく成り始めていたリオスは
自らの“死期”が近い事を悟り――》
………
……
…
「せめ……て……最後に……託……さ……な……きゃ……」
《――直後
大きく息を吸い込むと……仰向けに成り、空を見上げた。
そして――》
………
……
…
「ウォーーーンッッ!!! ……ウォーーーンッッ!!! ……」
《――最後の力を振り絞り
獣人族にのみ伝わる特殊な連絡手段
“遠吠え”を用い、周囲に生息する他の獣人族へ託そうとしていたリオス。
朦朧とした意識の中……周囲からの返事など聞こえずとも
必死に……唯、懸命に……
彼は、祈る様に吠え続けた――》
………
……
…
「頼む……誰か……この声に……気づいて……ッ! ……」
《――尚も懸命に吠え続けていたリオス
だが……次第に彼の声は弱くなり
遂には遠吠えを発する力すらも失い……徐々に呼吸も浅くなり始めて居た。
そして彼は……
……自らの無力さに
一筋の涙を流した――》
………
……
…
「情け……無いな……親友の……最期の願いすら……
叶えられない……なんて……僕ッ……こんなにも……
無力……だった……のかな……」
《――今際の際、静かに無念を口にしたリオス
……視界は遠のき、最期の時を迎えようとしていた
その時――》
………
……
…
「ワオーーーーーーンッ!!! ……何処だッ?!
俺を呼んだ奴は……何処だァァァァッッ?!!! 」
《――直後
何処からともなく現れた一人の獣人は
道に倒れたリオスを発見すると、直ぐ様彼の元へと駆け寄り――》
………
……
…
「……おい兄弟ッ! ……何が遭った?!
いや、そんな事は後だッ!
直ぐに治療して貰える場所へ連れて行ってやるからなッ!!
気張るんだぜッ!! 良いなッ!? ……」
《――慌てた様子でリオスを抱えそう言った獣人族の男
だが、リオスは――》
「ぼく……の……事は……良い……から……っ!
それよりも……頼みたい……事が……ある……ッ! ……」
「なっ……いや、分かったッ!
何でも言ってみろッ! ……獣人族の絆は絶対だ!
俺の命に代えてでも叶えてやるッ!!! 」
「ありが……と……う……
ぼくの……大切な家族の居る……場所……っ!!
政令国家……が……魔族の大群に……襲われた……
このままだと……皆死んじゃう……だから……
日之……本皇国って言う……国に居る筈の……主人公って名前の……
人間族の男の子に……助けを頼んで……」
「分かった!! 必ず伝える! ……それでその主人公って奴の特徴は?! 」
「彼には……獣人族の……スカーフを……渡し……た……
持ってる……人間が……主人公……リオスからの……伝言だって
……言えば……絶対に……」
「分かった兄弟! ……他に伝える事はッ?!
……おい、兄弟!?
兄弟ッッ!!!!! ……」
………
……
…
《――リオスは既に息絶えていた。
最期の力を振り絞り、彼が必死に託した最期の“願い”――》
………
……
…
「お……おめえの願いは俺が必ず叶えてやる!!!
このブランガが……必ず、命に変えても叶えてやるッ!!
……成仏するんだぜ、兄弟ッ!!! 」
《――この日
リオスは……その短か過ぎる生涯を終えた。
ブランガは彼の亡骸をそっと道の脇に避けると
手を合わせ……彼との約束を胸に、日之本皇国を目指し全速力で走り始めた――》
………
……
…
《――同時刻
竜族の集落ではライラの“快気祝い”が行われており――》
「……皆……ありがとう……」
「照れくさそうにしてるねぇライラちゃん!
けど、君はもう既にこの集落の一員と言うか……家族みたいな存在だし!
気兼ねなく楽しんでよ! 」
《――大層上機嫌な様子でライラに対しそう言ったドラガ。
だが――》
「う、うん……」
《――この瞬間
妙に暗い雰囲気を醸し出しつつそう返事を返したライラ。
そんな彼女の態度に何かを察したドラガは
それまでのお気楽な態度を止め、ライラに対し“ある質問”をした――》
………
……
…
「皆の所に……帰りたいんだね? 」
「駄目……かな? 」
「……いいや? そのつもりでは居たんだよ?
唯、いざお別れって成るとちょっと寂しいのと
病み上がりだし、もうちょっと居ても良いのにな~って心配してるだけさ」
「ドラガ、有難う……皆も、沢山の善なる龍達も……有難う。
皆のお陰で“ドラゴン”も……私も……救われた。
これからも一緒に居られるのは……皆のお陰……心から感謝してる。
本当に……有難う……御座いました……」
《――そう言い終えると、集落の皆に対し深く頭を下げたライラ。
初めこそ竜族達から疎ましい存在だと思われていた彼女……だが
いざ別れを告げられると寂しく感じる者達の方が多かった様で……
……ドラガの言う通り
この集落に於いて、彼女の存在は
既に“家族”の様な物と成っていた――》
「……集落に帰って来たくなったら何時でも帰ってくればいい。
本来なら竜系種族以外を受け入れる事は無いが
ライラの友達やら家族ならどんな種族でも受け入れるよ。
だから……また必ず、偶にでも良いから帰ってこいよ?
ライラはもう既に俺達の家族だからな! 」
《――そう“ドラッケン”が言うと皆続々と同意し
……そして、一人ずつライラの元に歩み寄ると
彼女を抱き締め、一言ずつ別れの言葉を告げて行き……
……集落の善なる龍達さえも彼女に近づき
皆寂しそうな別れの声を上げ……それに呼応する様に
ライラの隣で彼らに対する別れの鳴き声をあげたライラの
“ドラゴン”
……一方、そんなライラの“ドラゴン”の姿を暫く見つめた後
ドラガは――》
………
……
…
「……ライラちゃん、君の“ドラゴン”は立派に成長した。
一度“闇に堕ちた”にも関わらず
君との“絆”と言う光、で輝かしい姿へと変貌を遂げた。
それでその……勿論、君が呼ぶ“ドラゴン”と言う名前を変える必要は無いけど
せめて僕から、その“ドラゴン”に対しての称賛代わりに……
……“二つ名”の様な物をつけてあげても良いかい? 」
「うん、良いよ……ドラゴンも嬉しいと思うから」
「良かった……もし断られてたら
数週間悩んだ時間が無駄になる所だったからね!
さて、ライラちゃんのドラゴンに相応しい二つ名は――
“暁光”だ!
――どうかな?
気に入ってくれてたら嬉しいんだけど……」
《――そう訊ねたドラガに対し
ライラも……そして“ドラゴン”も、とても満足げに返事を返し
その事を喜び、嬉しそうに微笑んでいたライラに対し
ドラガは続けて語った――》
………
……
…
「……その子は君との絆を力に、悪と言う“闇夜”から抜け出した。
あの時の姿を……暁光と呼ぶ他に適切な言葉が見当たらなかったんだ。
僕の“蒼き黄昏”と同じで、名実一体の良い名前だと思う。
……箔の付いたその姿に相応しく、誇らしい名前と思って欲しい」
「うん……本当に何から何まで有難う……ドラガ……皆……
またいつか必ず集落に帰ってくるから……
その時はまた仲良く……してね」
「……ああ、何時までも君の事を待ってるよ。
さてと……一応は病み上がりなんだから無理せずにね! 」
「うん! ……皆……またね!! ……」
《――皆に別れを告げ
暁光の背に乗ると竜族の集落を後にしたライラ
彼女は、集落の皆が見えなくなるまで必死に手を振っていた――》
………
……
…
「ディーン様の指輪は……此方って反応してる。
と言う事は……皆、まだ“日之本皇国”って所に居る筈。
ディーン様、主人公様……皆……早く会いたいな……」
《――逸る気持ちを抑えきれない様子のライラ
一方で……驚天動地期を終えた暁光
その体躯は二回り程大きくなり、勇ましい顔つきに成長し……
……その上“飛翔力”は桁違いに増して居た。
これまで、十数分程度が活動限界であった事など嘘の様に
十時間以上飛び続ける事すらも可能な程の強靭な肉体を手に入れて居た。
この瞬間……“明け方の空の光”に照らされ、緋色に輝いた“暁光”
その凄まじい力をその背で感じつつ、地上へと視線を移したライラ。
……彼女は、目まぐるしく変わる景色の速さに暁光を誇らしく感じたのか
優しく撫でながら褒めて見せ、暁光もまた嬉しげに甘えた声で鳴いた。
その、瞬間――》
………
……
…
「暁光……彼処に降りて! ……」
《――突如としてライラの目に飛び込んできた光景
それは……“港で立ち往生している一人の獣人の姿”であった。
一方……指示通り
獣人の直ぐ近くへと急降下した暁光
だったのだが――》
………
……
…
「ぬわぁぁぁっ?! ……ひいぃっっ?! ドドド……龍ッ?! 」
《――突然の事に仰け反る様に倒れ
腰を抜かしつつも必死に後退りしていた獣人族の男。
そんな彼に対し、ライラは――》
「……驚かせて……ゴメンね……困ってる様に見えたから。
えっと……何処かに行きたいなら……」
《――と、話し掛けたライラ。
だが、彼の目はライラ……では無く、暁光の方を向いており
耳を傾ける余裕すら無い程に暁光を恐れ
尚も後退りしていて――》
………
……
…
「ひぃぃっ!! ……お、俺を喰っても美味しくなんか無ぇぜ?!
だっ、第一っ!! 俺には兄弟との約束があるんだ!!
こんな所で喰われて……たっ……たまるかッ!!! 」
《――暁光を恐れ腰を抜かしていたのは“ブランガ”であった。
一方……そんな彼の様子を困惑した様子で見つめつつ
更に近づき、彼の肩を確りと掴むと――》
「……聞いてッ!
兄弟との約束……は、分からないけど
……何処かに行きたい……でしょ?
もし、日之本皇国までで良いなら……」
《――ブランガに対しそう語り掛けたライラ
直後“日之本皇国”と聞こえた瞬間、正気に戻った様子のブランガは――》
「……そ、其処へ行きたいんだッ!
兄弟の最期の願いを叶える為にどうしても其処に行かなきゃ成らねぇ!
何でも……主人公って名前の人間に政令国家が危機だと伝えてくれって
リオスって名前の兄弟から頼まれたんだよッ!
……頼むッ! 獣人の絆は絶対なんだ!!!
だが……俺には払える物がねぇし……お、お代の代わりと言っちゃあ何だが
後でその龍に……く、喰われても構わねぇ!!
だから頼む!! 俺を……日之本皇国って国へ連れて行ってくれッッ!!! 」
《――先程まで恐れ慄き、腰を抜かしていたブランガであったが
“獣人族の絆”の為か、ライラに対し
頭を地面に擦り付ける様にしてそう頼み込んだ。
一方、ライラは――》
「政令国家が……危機?! 詳しい話は後でいいから……乗ってッ! 」
「あ、ああ!! ……」
………
……
…
《――こうして
彼が命を賭してまで託した情報は
数億分の一とも言える出会いの確率に依って
凄まじい速度で海を渡り、主人公の元へと伝えられたのだった――》
―
――
―――
「生き返ってくれよ……なぁ! 母さんッ!! ……」
《――尚もミリアの亡骸を抱き抱え
崩壊したヴェルツの前で哭いていた主人公。
だが――
“このままこの場所に居続ける程危険な事は無い”
――そう考えたグランガルドは
ライラに対し、ある提案をした――》
………
……
…
「……主人公の悲しみは計り知れず、すぐに癒やす事など到底不可能だ。
だが……何時までもこの様な場所に居続けるのは危険だ
其処でだが……ライラ殿。
すまないが、政令国家全域を空から偵察しては貰えないだろうか?
……吾輩達も苦戦したとは言え、これだけの惨状を引き起こしたにしては
例え増援を数に入れても、吾輩達を取り囲んだ魔族の数は圧倒的に少ない。
まだ魔族共が何処かへと潜んでいるとも考えられる……だが
それを調べる為とは言え、この様な状態の主人公を
此処に放置して置く訳にも行かぬ、危険の伴う頼みだとは思うが……」
「……大丈夫。
任せて……暁光、飛翔――」
《――直後
状況把握の為、空からの偵察任務を開始したライラは……暫くの後
戦いの痕跡こそ見られたが魔族自体が居る様子は無い事を確認しつつも
念の為、引き続き偵察を続けていた彼女は
彼女に気付き逃亡を計ろうとしていた一人の魔族を発見した――》
………
……
…
「……逃さないッ!
暁光、殺さない様に……無力化するよ! 」
《――彼女の指示に応える様に咆哮を挙げた直後
魔族に向け急降下し、殺す事無く……その四肢を砕くに留めた暁光
直後……この魔族を捕縛すると、直ぐに暁光の背に乗せ
グランガルド達の待つヴェルツ前へと連れ帰った――》
………
……
…
「こいつしか居なかった……何処かに逃げようとしてた……」
「うむ……先ずはご苦労だったライラ殿。
しかし……他に魔族の姿が見られず
剰え此処を立ち去り、何処かへ向かおうとしていただと?
これは情報を聞き出す必要が有る様だ……」
《――そう言うと
この魔族に近寄り――》
「……貴様、何処に行くつもりであったッ!!! 」
《――そう凄みをきかせたグランガルド
だが、魔王への忠誠心を盾に一切の返事を拒んだ。
すると――》
「あ……あの……グランガルドさんっ!
主人公さんに自白の魔導を掛けて頂いたら
何か情報が得られるんじゃないかと思いますっ! ……」
《――直後
メルの案を実行する為、主人公の元へと魔族を運んだグランガルド。
だが――》
………
……
…
「さあ主人公……此奴に自白の魔導を掛け
隠れている魔族共の居場所を……」
《――彼が其処まで言い掛けた瞬間
それを遮る様に、力無く――》
「……もう、いい」
………
……
…
「何? ……何を言っている主人公ッ!
奴らの本拠地を暴き、奴らを根絶やしに!! ……」
「……した所で、誰も帰ってこない。
俺の大切な人達は……もうガルド達しか居ないんだよ!!
……これ以上戦っても、皆を少しずつ失っていくだけだ!!!
俺はもう……嫌だッッッ!! 」
《――言うや否や
眼前の魔族目掛け氷刃を放ち、これを絶命させた主人公
だが……当然と言うべきか
この行動に憤慨したマリアは――》
………
……
…
「……何やってるんですか主人公さん!!!
仇討ち位する気概は無いんですか?!
唯一の情報源だったのに!! ……」
「……だから、そうした所で誰も帰ってこないんだよ
何回も同じ説明をさせないでくれマリア。
俺はもう……嫌なんだよ。
政令国家がこんな事になるのが分かってたら旅になんか出なかった
俺がずっと政令国家に居たなら、そうしたら皆を護れていたかも知れない。
メルやマリーンのお母さんだって……ラウドさんもエリシアさんも
オルガもガーベラさんもクレインもミアさんもガンダルフも!!!
リオスやミリアさんみたいな……
……優しい人達を失う事だって無かったんだよ!!!!!
皆を助けられるって言うなら……どんな手を使ってでも
俺はどうなっても良いから全員一人残らず助けたいし絶対にそうするさ!
俺にもし時間を戻せる力でも有れば、直ぐにだって使って皆を助け――」
<――俺は、其処までを言い掛けて思い出した。
数あるトライスター専用技の中で
メルから使用する事をキツく禁止された項目が有った事を。
その中に――
“後進復帰”
――と言う名の技があった事を。
その技が“時間を戻す事の出来る技”って事も……確りと
“思い出した”――>
………
……
…
《――彼の頭に浮かんだトライスター専用技
“後進復帰”とは
術者の希望するだけの時間を戻す事の出来る技であった……だが
この技には重大な欠点が存在していた。
その、欠点とは――
術者の生命の時間と“不等価交換”する事でのみ発動が可能と言う事。
――その比率などは魔導書に記載されておらず
どれ程の生命を削られ、どれ程時間を戻せるのかすら
詳しい事は一切不明である事。
……だが、それでも
この技を使用する事を決めた主人公は――》
………
……
…
「……皆を助けられる技を思い出したよ。
時間を戻せるらしいからさ……魔族が攻めてくる前の時間まで戻して
その状態で迎え撃てば皆を助けられる筈だ。
……良かった。
これで皆を……」
<――仲間達にそう説明していた俺
……だが、遮る様にメルが猛反対し始めた。
嗚呼……メルは勘と記憶力が良いし凄く優しい
だからこそ……必死に俺を止めようとしてくれてる姿が辛かった。
けどゴメンなメル……俺は……我儘の権化みたいな男なんだ。
直後……只事じゃないメルの姿を見て
他の仲間達も俺を止めようと必死に動き始めた……けど。
重ね重ね、皆……ゴメンよ。
……俺は、皆を睡眠の魔導で眠らせると
大きく深呼吸し――>
………
……
…
「――後進復帰ッッ!!! 」
………
……
…
<――そう唱えた。
瞬間――
世界の色が青っぽく成ったと共に
俺の前に青い“デジタルクロック”が表示された。
――“現在の時刻”っぽいが
詳しい説明が一切無いのが不親切だ……どうやって時間を戻すんだ?
と……暫く悩んで居たら周りの風景がゆっくりと逆再生され始めた。
……どうやら勝手に戻るみたいだ。
と感心していたら俺の身体が宙に浮き上がった。
……成程、付近一帯の状態を上から見られるのは便利だな。
けど、嫌な光景も沢山目の当たりにする事に成った――>
………
……
…
「……ラウドさん!!
……ミリアさん!!
オルガ……エリシアさん?!
待てよ? ……あの男は人間だ、しかも魔導師……トライスターだと?
エリシアさんがとんでも無く怒ってるって事は因縁の相手なんだろうが……
クソっ!! ……もっと早く戻せないのか?!
って……あの化け物の大群は何だ!?
触れただけで防具も武器も腐って……魔族にはあんな化け物が居たのか!? 」
<――ゆっくりと
だが着実に世界の時間を戻す事に成功していた俺
けど……政令国家を襲った悍ましい光景の全てを
目の当たりにし続けても居て――>
………
……
…
「……頼むからもっと早く戻ってくれッ!!
皆が苦しむ様子をこんなに見続けなきゃ成らないなんて苦し過ぎるッ!!
もっと早く……頼む……ッ……」
………
……
…
<――目の前で繰り広げられる惨状は苦しく
思わず目を背けたく成る程だったが……
……そんな時、突如としてもう一つの“デジタルクロック”が表示された。
今度は赤い文字盤で……表示が変だ。
マイナス三年? ……更に数字が増えてる。
……色的にも少し不安を感じたが、まだ皆を助けられてない。
幸いな事に周りの風景は戻り続けてる……
……大丈夫だ、皆を助けられるまで戻し続ける。
何としても皆を助けるんだ――>
………
……
…
《――強い決意を胸に、時間を戻し続ける事を選んだ主人公。
だが……彼の見た“赤いデジタルクロック”は彼の“生命時間”であった。
……既に“マイナス表示”となった中、尚も戻し続ける事が
果たして正しい事であるのか……否か。
暫くの後……彼が“後進復帰”を停止した時
生命時間のカウントは“マイナス百六十年”と表示されていた――》
===第一〇〇話・第三章・終===
本日の連載分で、一つの大台である一〇〇話を迎える事が出来ました。
これも偏に読者の皆様の応援のお陰であり
心より感謝しております。
……これから先もより一層精進し
皆様に楽しんで頂ける作品作りを続けていく所存ですので
今後ともお付き合いの程、宜しくお願い致します。
藤次郎