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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私が地元に帰りたくない理由(無自覚イケメンの独白)

作者: こゆき


このページを見て下さって

ありがとうございます( ; ᴗ ; )

そこら辺にいるハイスペイケメンリーマンにこんな過去があったら、という妄想から誕生しました。

短いお話ですが読んでくださると嬉しいです。



私はごく平凡な35歳会社員の男である。


地元の友達から結婚式の便りがくる歳だ。

基本、仕事が忙しいと出席を断るような友達甲斐のない奴であるが。

勿論電話で祝い位は伝えてはいる。


行きたくない理由もある。


地元から離れたくて 堪らなくて 取り敢えず

東京のそこそこの大学を目指し、

入学 そして卒業し頑張って就職活動をして

やっと入ったこの会社はブラックでは無いが

ギリギリグレーというような待遇である。


毎日キツいが皆がこれを我慢している。

自分だけが苦しいのではないと言い聞かせる、

そんな毎日だ。


ふとした瞬間、自分がなんのために今生きているのかが分からなくなる。

ただ自分の求めるまま突き進んできたはずだったのに気付いたらこの手の中には何も無かった。


私は空虚だった。



私にも幸せだった時期があった。


高校2年の時、同級生と秘密裏に付き合っていた。


私達はマイノリティであるからわざわざそれを皆に公言しなくても良いだろう という彼の提案で、本当は近しい友達には言いたかったのだが止しておいた。

けれどそれによってこの事は2人だけの秘密だと、甘美なものと捉えて 私は寧ろ喜んでいた様に思う。

太陽みたいに暖かく心地よい彼と過ごす毎日の中で、空き教室で二人きりで過ごす昼休み、

こっそり手を繋いだ帰り道、

二人分の小遣いを持って隣町のホテルまで行ったことも全部、楽しくてかけがえのない時間だった。


何時でも、彼といると時間が瞬く間に過ぎていった。怖いくらいに幸せだった。



もっと、噛み締めていたかった。


若い頃は今ある幸せを素直に受け入れ、その時が永遠に続くなんて無邪気に信じていたし今日のように明日も明後日も彼との日常がずっと続くと思っていた。


終わりは呆気なかった。

吸った空気から体の芯が冷えていってそのまま凍ってしまうような酷く寒い冬だった。

冬休みが始まり、進学校の私達はそろそろ受験勉強を始めだした。

彼の邪魔にならないように連絡を取るのを控えめにした。

きっと確かにある彼との未来を考えたら、

受験期に会えなくなることなど耐えられないことは無かった。

だから気づかなかったのだ、彼から連絡がなくても。


今でも深く後悔している。

あの時連絡をしっかりとっておけば彼の家族が私からの電話に気づいて、

もしかしたら最期の時に居られたんじゃないか、と。


冬休み明け学校に来た私は彼の席が空いているのを見て、きっと休み明け怠くて今日学校に来たくなかったんだな なんて呑気に考えていた。


その報せがあってからのことは何故かとても鮮明に覚えている。


体育館で始業式のあとの先生のお知らせ、深刻そうな顔をした学年主任は確かに私のよく知っている馴染み深い彼の名前を呼んで、

「本当に残念です」

と静かに泣いていた。

最後に

「このような事が再び起こらないように」

と注意喚起をして体育館から出た。


そこからは何も考えられなかった。

誰かに励まされたような気がする。

私が彼と一番仲が良かった友達だからと。

そんなんじゃないとただの友達じゃないと、

私の心は叫び出しそうだった。

その日なんとか家に帰ってきた私は、何日かは暫く家に引きこもっていた。

ご飯は味がしなかった。


暫くして先生や友達からメッセージというものを貰った。

小さい紙に1人ずつ書いていた。

高校生になってもこんな事をするのか、と妙に冷めた心地でそれを眺めたことを覚えている。

なんだか急に彼の面影を探したくなった。

陽だまりのような暖かい匂いを嗅ぎたくなった。

面影だけでも探したいと思った。


次の日から学校に行くようになった。

彼がいるかもということを少し期待をして、

そしてそれを裏切られる、そんな日々を過ごした。

普段通りの日常に戻った振りをして笑うなんて出来なかった。

周りから見てもそんな私は見ていられなかったのだと思う。

近しいと思っていた友達から

「親友が亡くなって辛いとは思うが、お前も受験生だし勉強に打ち込めば将来の為になるし、今の状態も少しはマシになるんじゃないか」

と言われた。

彼を忘れろと言うのか、初め私は怒った。

私は誰の言うことも聞かないと思った。

けれど進学のために勉学は必要で、

このまま何も手をつけずにはいられないということに気づいた。

そこからはただ我武者羅に勉強した。

今まで死んでいた私のどこかが急速に使われている感覚があった。

そしてそのうち、彼の面影を感じる事が怖くなった。大切な人を無くした苦しさから逃げたいと思った。

そして私は取り敢えず思い出が沢山色付く地元から出ようと思ったのだ。


都会と言えば東京、

という安直な考えから東京の大学に進学することに決めた。

いくら私が彼に惚けていて勉強に手がつかなかったからと言って伊達に進学校に通っていた訳では無い。

そこそこのところに滑り込むことができた。

目標に向かって勉強していた受験期間によって私は少し冷静になれたと思う。

自己中心的な考え方を改められたと思うし、まともに友達付き合いが出来るようになっていたと思う。

お別れの時だと思った。

合格発表の後、彼の家に線香をあげに行った。

そこには彼のお母さんがいた。

「遅くなって申し訳ありません お悔やみ申し上げます」

口から自然とお悔やみの言葉が出た。

彼のお母さんはゆっくりと、優しそうな笑みを浮かべて応えた。

「いいのよ、あの子と仲良くしてくれてありがとう」

泣きそうになってしまった。

「……いいえ…。」

もう彼はどこにもいないのだと漸く理解出来た気がした。彼のことをやっと思い出に出来ると思った。


卒業式の日、皆が泣いて思い出話を語り

別れを惜しむ中、私の高校生活の思い出の大部分は彼で出来ていたことに気づいた。

そして毎日の生活する風景すべてが、彼の色に染まっていて ふとした瞬間に思い出さないなんて不可能に近いと悟った。

これから生きていくためにここに全部置いて置こうと決めた。19歳の春だった。



最後まで読んでくださりありがとうございます!

暗いお話でごめんなさい >_<

お葬式っていわゆるイニシエーション(通過儀礼)だと思います。

大切な誰かが確かに生きていて、そして亡くなってしまったことを周囲の人が理解し納得し受け入れるために必要な儀式だと考えています。

主人公は受け入れるまでに時間がかかってしまったけど、彼の親に(そして亡くなってしまった彼に)挨拶をすることでイニシエーションを終え、前に進むことが出来たんじゃないかなと思います。

その辺にいる格好良いがなぜかずっと独身な男の人にこんな過去があったらという妄想からきました(言い訳) 主人公にはいつかその過去ごと抱き締めてくれる彼氏が出来ると思います…。

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