穴埋め式ボーイズラブ
【GETUP!GETLIVE!漫才・コント大賞】に応募できなかった漫才のネタです。
ボケ「今『性』が危ない――保存版 乳首浣腸白書」
ツッコミ「ごきげんよう!」
ボケ「きみにねちねち話すときに肩に手をまわして耳元に顔を近づけるじゃないですか」
ツッコミ「はい、今の体勢ですね」
ボケ「それでちらっと客席を見た時の、あの雌どもの顔……!」
ツッコミ「笑っていらっしゃる」
ボケ「あの人たちがなにを面白がっているかわかりますか? 顔の近さですよ」
ツッコミ「大したネタでなくても笑いが取れてなによりですね」
ボケ「どうしてそんなに落ち着いていられるんですかね? これは忌々しき問題ですよ! 僕たちは現在進行形で性的搾取に遭っているんですからね」
ツッコミ「性的搾取?」
ボケ「この話の流れにおいて僕たちが男である必要は一切ないにもかかわらず、客は僕たちを男として見ているんですよ」
ツッコミ「まあ、見たところ二人とも男です」
ボケ「心は女の子かもしれないですよ!」
ツッコミ「いきなり乳首浣腸白書なんて言う女の子はイヤですね」
ボケ「それに僕たちの心なんてどうだっていいですよ。なぜなら彼女たちもどうだっていいですからね。本質はそこじゃあ、ありません」
ツッコミ「じゃあ、どこじゃあ」
ボケ「ボーイズラブです」
ツッコミ「ぼーいずらびゅ」
ボケ「BLです。僕たちは今、ボーイズラブの渦中にいるんですよ」
ツッコミ「乳首浣腸白書にごきげんようと言っただけなのに?」
ボケ「顔が近いから、顔が近いから仲良しに見えてボーイズラブになるんです。今や僕たちがなにを言おうと、どんなネタをしようと関係ありませんよ。長方形と長方形のあいだにバッテンがあって、あとはそこに名前を入れるだけ。穴埋め式ボーイズラブです」
ツッコミ「なら今からでも顔を遠ざければよいのでは?」
ボケ「今さら遅いですよ。僕たちはもうどうしようもなくカップリングされていて、距離が離れれば何かあったのかなと妄想させるし、いつもどおりやればいつもどおり仲良しだとなりますから。キャー、かわいいー」
ツッコミ「しばらく顔を近づけないスタイルでやっていって、客を慣れさせたらいかがですか?」
ボケ「すると『せっかくウリをもっているのにきちんとアピールしないなんてもったいない』と説教されますから。わかります? ボーイズラブ妄想で自慰をするために、ボーイズラブ的な関係性をもつコンビを支持した上で、ボーイズラブ妄想を満たせるような関係性を提供することが人気の秘訣であるのにその最善策をとらないのはなぜだろうと言うんですよ。わかります?」
ツッコミ「うーん、話が長いのでよくわかりませんでした」
ボケ「僕たちは純粋にネタをしたいのにエッチな目で見られているんですよ!」
ツッコミ「しかし、コンビの仲がいいのは私も好きですね。仲がよければ一緒にやる漫才も楽しいでしょうから、雰囲気もよくなって、ギスギスしているより面白く見えるものでは?」
ボケ「なら仲のいい女コンビも同様に評価しないといけないのにイケないのでそうはならないんですよ」
ツッコミ「私は仲のいい女コンビも好きです。あいだに入りたくなります」
ボケ「女とコンビの個性をはく奪してただのトリオにする悪質な行為ですよ」
ツッコミ「エンターテイナーとして客を喜ばせることができるならなんだっていいのでは?」
ボケ「きみはまだこの問題の重要性に気づいていないようですね! いいですか、人気であることが正義であるとされ、しかもその人気になるための条件が客によって規定されるということは、いかに客の欲望を満たせるかが正義となり正当な評価となるんです。このままいくと、小学校からの幼馴染だったが喧嘩別れをして大人になってから再会したとか、生き別れの兄弟であるとか、そういう心をゆさぶる人間関係でないと面白いって言ってもらえなくなりますよ!」
ツッコミ「幼馴染は小学校に上がる前からの関係じゃないと」
ボケ「そっちの定義はどうでもいいですよ」
ツッコミ「逆をいえば、ぼーいずらびゅ風であればどんなネタでも笑ってもらえることになりますね」
ボケ「しかしコンビの仲がいいのかどうかも客に決定権がありますからね。客は能が低いから、目に見える態度、耳で聞こえる言葉しか理解できません。有能な不細工が無能なイケメンの相方をちょっと強くいじったらいじめ、カワイソウ、笑えない。すーぐ不仲にするんですから。すーぐなかよしにするんですから」
ツッコミ「あなたのことなんて好きではないですからねっ!」
ボケ「ボーイズラブなんて、全部ていですよ、てい。どんなに舞台上で男同士イチャイチャしているように見えても狙っているのは女ファンの体ですよ」
ツッコミ「客の体か!」
ボケ「客体化!」
ツッコミ「ごきげんよう!」