表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

第8話

 交易都市マーブルで馬車を手に入れた俺たちは、その日の夕食時ウィルのカレーに感動したミーアが木製のスプーンを折り、代わりの金属製スプーンも曲げてしまうという事件が起きた。さてどうした物かと悩んでいたらミーア本人が自分の体で食器をつくろうと言い出した。加工しにくい物の代表格であった竜の素材も俺のもつ万能ナイフの前では為すすべなく綺麗に加工され、世界にただ一つであろう竜の爪からつくられた箸一善とナイフとフォークとスプーンが1セット誕生するという事があったが、それ以外は問題なく旅は進み、今はローレンス侯爵領内を、今日中にはその領都に着くだろうというところに来ている。道中馬車を曳いてきたのは来たのはシロとジョージの二頭だ。案の定気性の荒いクロは馬車馬になることを拒んだので、クロに跨った俺が先導し、その後ろをウィルが御者を務める馬車がついていくという隊列で移動してきた。

 のんびりと街道を歩いているとミーアから念話が飛んできた。どうやらこの先の林の中で戦闘が行われているらしい。クロですら気付かなかった微かな血の匂いを嗅ぎつけたようだ。


『どんな状況かはまだ分からないけど、マリアお姉ちゃんは助かる命があるなら助けたいだって』

『わかった取り敢えず現場には向かおう。どうするかは状況次第だとマリアに伝えてくれ』


そこから馬車をとばして2分ほどの場所で旅の馬車とそれを襲う賊との戦闘が行われていた。


「みんな、目の前に助けられる命があるのに助けなかったら目覚めが悪い。まずは襲われている馬車に接近しようと思う。ウィルはクロに離されないように馬車をとばしてくれ、マリアは怪我人の治療で終わり次第戦闘に参加してくれ」

「ミーアは?」

「……そうだな、ミーアは手加減の練習だ。治療中無防備になるマリアに攻撃してきた敵を殺さずに無力化するんだ」

「わかった」

「よし、いくぞ!」


俺はそう一声出してクロを走らせる。他人の先頭に介入するのはタブーだ。相手が人であれ魔物であれ襲われている方が助けを求めるまで手を出さないのが暗黙の了解というやつだ。だから本音を言えば襲われている方が自力で危機を脱するのが望ましいが、そんな気配は微塵も感じられないし正義があるのはどう見ても襲われている方だったので援護することにした。

 クロに跨り賊の包囲を打ち破って馬車の進路を確保し、一人で仲間を鼓舞するリーダーらしき男の元へ駆けていった。


「お前、他人の戦闘に介入するのはタブーだって知っているか?」

「知っているさ。だからって傍観していても日が暮れてしまう。それに正義があんたたちに有るのが明白だったから勝手に介入させてもらった」

「そうか、正直言って助かった。こっちは仲間の半数が初撃の矢を食らってしまって。どうやらそれに塗られていた遅効性の麻痺毒が今になって効き始めてきたみたいらしくてな。闘える人が増えるのはありがたい」


通りで賊は2倍以上の人数差があるのに一気に攻めはせず、毒が回るのを待っていたという事か。


「マリア、話は聞いたな。解毒を優先してくれ」

「もうやっています。症状も軽い物でしたので、解毒薬も持っている分だけで足りそうです」


さすがマリア、負傷した人たちの症状を見ただけで治療法を導き出している。


「お仲間はすぐに回復するみたいだ。馬車の護りは他に任せて賊を蹴散らすぞ。あんたが一番の手練れで戦線を維持していたんだろ」

「あの包囲を単騎で突破してきたお前には及ばないさ。でもその意見には賛成だ。俺は右から、お前は左から攻めてくれ。出来れば生け捕りで頼む」

「わかった。もちろんそのつもりだ」


その男は仲間に指示を出し、右側の敵に攻撃を仕掛けた。俺もそれと同時に左の敵を攻めた。この賊共、賊のわりには統率されて連携も様になっているのだが、剣術が拙すぎる。護衛の男たちと比べても殺気が足りない。もし初撃の毒矢攻撃に失敗していたら総崩れのレベルだ。ミーアもしっかりグローブ両手にマリアを狙う敵を殺さずに無力化していた。マリアと賊の身長差から繰り出されるパンチはちょうど賊の下腹部辺りにあたり、パンチを食らった賊はその場で悶絶していた。マリアの治療によって毒が抜けた負傷者たちが戦線に復帰し、賊の包囲網は次第に崩壊していった。

 仲間と共に賊の拘束を終えたリーダーらしき男が俺たちのところにやってきた。


「俺はカイン、ここのリーダーをしている。君たちの救援のお陰で賊を捕らえる事ができた」

「俺はアスラン、冒険者だ。討ち漏らしが何人か逃げ出したようだが追わなくて良いのか?」

「それは俺たちの仕事じゃない。騎士団に引き渡した後、彼らに頼もうと思う」


リーダーの男はカインと言うらしい。この男髪はダークブロンドの短髪で街を歩けば男女問わず全員が二度見するほど整っている容姿なのだが、とっつきにくいオーラは無く話しやすい良い青年だった。


「カイン。その方たちが窮地を救ってくれたのですね」


そう言いながら馬車から降りてきたのは、馬車の外装からは想像できない衣装に身を包み、プラチナブロンドのウェーブがかったロングヘアーを風になびかせる超絶美女だった。


「皆様はじめまして。私はシャルロット、ローランド王国の第一王女ですわ」

「おいシャル、本名明かしたらここまでのお忍び旅の意味ないだろうが」

「狙われていたのは私なのでしょう。カインは命の恩人に名と姿を偽れというのですか?そのような不義理な真似、私にはできません」


どうやら王女様はお忍びで王国中部の村を視察し終えた帰りに賊に襲われた様だ。俺の異常さを知っているマリアは王女の登場に驚きはしたがすぐに理解し、そもそも王女の意味を知らないミーアは何の感想も抱かず、4人の中で一番の常識人であるウィルだけがその事実に驚愕していた。


「皆様、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「俺はアスランだ」

「私はマリアです」

「ぼ、僕はウィル。じゃなくてウィリアムと言います。ご尊顔を拝見でき光栄です」

「ミーアは、ミーアだよ」


自己紹介を聞いただけでウィルの動揺ぶりが分かるだろう。そして名前を聞き終えたシャルロット王女は何かに名前をメモしていた。


「王都に戻ったら必ずお礼をします。カインも覚えておいて」

「はっ。領都につき次第王都に向け早馬を出します」

「失礼ですがシャルロット王女様、俺たちにそこまでの事をする必要はないと思うのだが」

「皆様は私の恩人です。私の事はどうぞシャルとお呼びください。恩人に礼をせぬのは王家の恥、しっかりと形のあるお礼をいたします」

「諦めてくれ。シャルが一度やるって決めたら誰にも止められない。このまま一緒に王都までついて来てもらい城で褒美を渡すのはシャルの中で決定事項だ」

「それでこそ我らがシャル姫様」

「お護りし甲斐がある」


どうにかならないかカインに目をやったがどうにもならないみたいだ。他の護衛達もシャル姫に賛同しているようだった。どうやら俺たちは本当に王女から直々に褒美が与えられるようだ。だが何が与えられるのだろうが、王女を救っただけで爵位や領地を与えられても困るのだが。

 ウィルの動揺も収まり、賊の数を確認し終え最終的に捕まえたのが27人だと判明したころ、街道の領都の方から騎兵と歩兵の混成部隊がやってきた。俺たちの一団を視認した兵士たちの移動速度は上昇し中でも先頭を率いる隊長の馬が一番速かった。


「若!ご無事で何より。若が賊に襲われたと聞き、じいは生きた心地がしませんでしたぞ」

「じい、私兵を率いて来てくれたのは嬉しいが、俺より先に無事を喜ぶ相手がいるだろうが」

「これは失敬。シャルロット王女殿下、ご無事で何よりです。儂とは何度かお会いしたことがあるのだが覚えているかね」

「もちろんですわガランド卿。幼少頃からのジルバ=ローレンス侯爵に仕えその才能を見出し稀代の天才騎士に育て上げ、今も仕えているという話はとても印象的でしたから」


というとなんだ、この老騎士がローレンス侯爵に仕えカインの事を若と呼ぶということはそういう事なのか。


「多分その想像であっている。俺はローレンス侯爵の長男で跡取り、今はシャルの護衛隊長をしているってわけさ」

「奥様が屋敷でお待ちです。賊の移送はじいが引き受けますので若たちは屋敷にお戻りください」


じいにその場を引き継いだカインとシャル姫と残りの護衛に俺たち4人を加えた13人はカインの母が待つ領都にある領主の屋敷に向かった。


面白いと思ったらブックマークお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ