第7話
交易都市マーブル、この街には俺たちが通ってきた帝国からの街道、これから向かう王都への街道、魔道具開発の最先端フリード魔導国からの街道、そして新たに整備された獣人族の国家百獣王国からの街道の四本の主要な街道が交わり、自然と交易が盛んに行われ今では王国北部最大の街として栄えている。
「まずは宿をとってあとはそれからだな」
「そうですね、ミーアちゃんの服とか色々買いたいですから」
「ミーアの服、買うの?」
ミーアには人前では極力念話は控えるように言ってある。これはこの街に来るまでに発見した事で、ミーアの発言は三人に聞こえているのにそれ以外ひとの発言はミーア以外には聞こえなかったのだ。だからミーアが一人だけ念話で俺たちと会話しているところを見られたら、ミーアの返事を聞かずに勝手に話を進めているように思われるかもしれないから人前での念話は控えるように言ってあるのだ。それに喋ることで舌の使い方にも慣れてくるはずだ。
さすがは北部最大の街だ。馬を預けられる宿はすぐに見つかった。運よく隣に並んだ二人部屋があったのでその部屋を借りた。そこに野営用の大きい物だけ置いて、すぐに外に出た。
「マリア、ミーアの服選びと冒険者登録を任せてもいいか?」
この街に入るときにだがどのギルドにも所属していないミーアだけ、通常の額の税金を払うことになったのだ。今後も旅をしていくなら冒険者になって税金を割り引いてもらったり、免除してもらったりする方が得だと思う。
「一人でも大丈夫ですが、冒険者登録に年齢制限とか無いんですか?」
「規則上問題はない。もし何か言われたら知り合いに孫娘の面倒を頼まれたとか何とか言って誤魔化せば大丈夫だろう」
「わかりました」
宿の前で服選びに向かった二人とわかれた俺とウィルは職人街を目指した。
さすがは交易都市マーブル、種族を問わずその道の職人たちがしのぎを削っていた。そんな職人街に何の用かと言えば馬車を購入する為である。ミーアが当面は旅に同行することになり、ここまではマリアと二人でシロに乗ってきたが移動速度が低下したのだ、それにマジックバックのおかげで荷馬車が必要ないとしても、行商人としてのポーズをとるためにも馬車は一台必要だろうと話していたのだ。そうこうしているうちに目当ての工房に辿り着いた。
「頼もう!」
「何だー!」
工房の扉が開けっ放しだったからと言って勝手に入るわけにもいかなかったので、大声で呼ぶと中から野太い返事が返ってきた。
「今ある二頭立ての幌馬車で一番いい奴を売ってほしい」
「そうか、すぐに行くから待っていな」
待っていろと言う事なので工房の前に並べられている馬車たちを眺めていると、中からこれぞ職人といった男がすぐに出てきた。
「待たせたな、二頭立ての幌馬車と言うならお勧めは断トツでこの一台だ。帆の部分は100%スパイダーシルク製だから従来の革製より断然軽い。おまけに防刃、防水性も良いから雨でも濡れんし、ちょっとの衝撃で破れることもない。車体にはエルダートレントの素材を使い特殊コーティングを施してあるから、軽くて丈夫で耐火性も高いという優れものだ」
おまけに荷台部分も広く、何も乗せなければ野営時にテントとしても使える。具体的にはミーアとマリアが横になってもまだ余裕があるくらいのスペースだ。
「ならそれを頂こう。ウィルもこれで良いよね」
「アスランのお金で買うのだから僕に選ぶ権利はないよ」
「兄ちゃんたち気に入ってくれたのは嬉しいが、材料費や工賃その他諸経費を合わせて1000万バリスだぞ。そんな大金用意できるのか?」
「大丈夫だ、問題ない。明日また馬を連れてくるからその時に支払おう」
望み以上の性能の馬車を得ることができた俺たち二人は軽い足取りで職人街を後にした。
一方その頃マリアと一緒に服選びに行ったミーアだが、店員とマリアの着せ替え人形になっていた。なぜならアスランがミーアの服の為にマリアに渡していた予算が、名家の令嬢が服を買うとき以上の額だったから店員がたくさん買わせようとしているからである。マリアも一人で修行の旅に出るようなワイルドな面があってもやはり女の子と言うべきかミーアの着せ替えを楽しんで見ていた。それにミーアも可愛いと煽てられ満更でもない様子だった。それでも実用重視の旅用の服と街中での普段着、それからパジャマを選び終え、それ以外は買おうとしないあたり流石マリアである。それでもミーアにせがまれてお揃いで色違いのパジャマだけは自腹で購入していた。十分着せ替えを楽しんだミーアは新しい服に着替えて、二人はギルドに向かった。
さすが交易都市の冒険者ギルドと言うべきか各国の商人とその護衛としてやってきている冒険者が沢山いて、張り出されている依頼も護衛依頼が大半を占めていた。
「すいません。この子の冒険者登録をしたいのですが」
「その子何歳ですか?規則上年齢制限はないのですが、若いと他の冒険者や依頼主とトラブルになるかもしれないのでお勧めはしていませんが」
対応してくれた併設されている酒場の方を見ながらそう答え、ミーアの登録を出来ればしたくないようだった。
『ミーア十五歳もう立派な大人だよ』
「歳はまだ15ですがかつて世話になった恩人のお孫さんでして、一人前になるまでは私たちのパーティーで面倒を見ますのでどうにかならないですか?」
「そうですか。常にCランクの冒険者の方と共に行動するというのであれば滅多にトラブルが起きることはないと思いますので大丈夫でしょう。今登録用紙を持ってきますので少し待っていてください」
そう言って受付嬢は席を外した。
『ねぇマリアお姉ちゃん、ミーアもう子供じゃないよ』
『でもミーアちゃん可愛いから、変な男たちに攫われるかもしれないよ』
『もし攫われても、ミーア強い子だから一人で逃げられるよ』
『そうかもしれないね。だけどまだ人の姿の時の力の制御に慣れていない今のミーアちゃんじゃ相手に怪我をさせてしまうかもしれないでしょ。怪我するだけならまだ治せるから良いよ、でももし殺してしまう事になったら手遅れだからね。だからそんな事を起こさない為にも力の制御が完璧にしようね』
『はーい』
受付嬢が戻って来るまで二人は念話で会話しながら待っていた。今回みたいにミーアと一対一で他人に聞かれては拙い話をするときに念話が最適なのだ。本来なら子供の方を守るために保護者がつくのだが、ミーアの場合ミーアにちょっかいを出した相手の命を守るためにアスランとマリアという保護者が要るのだ。
「お待たせしました。こちらに必用事項を記入してください」
それをマリアが受け取って代筆した。ミーアいわく、ドラゴンの里にも人間の文字が伝わっているのだが、まだミーアの書く字は拙いのでマリアが代筆をしているのだ。
『ミーアちゃんの特技って何があるの?』
『ブレスと飛行だよ。天空竜の名に恥じない飛行ができるようになったのはつい最近だけど、ブレスは元々里の同世代でトップの実力だったよ』
『そんなこと書いたら竜種だってばれるよ』
『うーん。なら格闘戦はどうかな、ミーアが本気で殴ったらその人死ぬかもしれないほど強いんでしょ』
他の項目はすぐに埋まったがミーアの特技がそこに書ける代物では無かったので、無難に格闘戦にしておいた。ミーアの徒手空拳が強いのは間違いないから。
「この内容で冒険者登録とついでにパーティー登録をしておきますのであなたのギルドカードもお預かりしますね」
ほどなくして登録は終わり二人はギルドをあとにした。その後余った予算でミーアのグローブを購入し、雑貨屋などを見て回りながら宿に戻った。
俺とウィルがあのあともう一仕事を終えて宿についた頃、ちょうどマリアとミーアも戻ってきた。
「なぁアスラン、いったいいくら服代として預けていたんだ。素人目に見てもミーアちゃんが来ている服、生地と仕立が街娘の服のそれとは大違いだぞ」
「そうなのか?50万ほどあれば足りると思ったが渡しすぎだったか」
足りなかったら面倒だし、今の所持金的に50万なんて大した額ではない。
「明日1000万バリスの馬車を買うアスランにとって50万バリスは端金かもしれないが、普通50万バリスの服を買うのは貴族様ぐらいだぞ。……マリアちゃんも渡されて違和感なかったの?」
「余ればお返しすれば良いと思っていましたので。ですが着飾ったミーアちゃんを見ていると良い物を買ってあげたくなってしまいました。見てください。ぼろきれ一枚だった時よりか断然かわいいでしょう?アスラン君もそう思いますよね」
「あぁそうだな。50万以内で抑えているなら文句はない」
予算内でしっかり可愛くなっているのだ。マリアがしっかり管理して購入しているのだから、俺が言えることは何もない。
・
「それは僕もそう思うけど」
「ミーアお腹すいた」
「……そうだな。さっさと飯にして明日からの移動に備えるか」
高級宿の夕食なので安宿と比べておいしいことに変わりないが、大自然の中で食べるウィルの手料理には敵わないらしく、完食はしたがミーアがお替わりをすることは無かった。
夕食後、部屋に戻った俺たち男部屋はじゃんけんで入浴順番を決め、上がったものから順に寝ていたが、マリアとミーアの女部屋は二人仲良く入浴し、お揃いのパジャマに着替えて就寝時間までパジャマトークを楽しんだらしい。
面白いと思ったらブックマークお願いします。